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「空間を理解するAR」が到来する?――見えてきたARの課題と次の姿

8月3日12時18分配信 +D Mobile

「空間を理解するAR」が到来する?――見えてきたARの課題と次の姿
zFTを使ったAndroidアプリ「Space InvadAR」。地球が描かれたポスターにカメラをかざすと、ゲームタイトルに続いて地球が立体的に浮かび上がり、ARシューティングゲームが始まる
 ITを駆使して現実環境に情報を重ね合わせるAR(拡張現実)は、2009年ごろからスマートフォン向けサービスが複数登場したことをきっかけに注目を集めている。

 日本ではベンチャー企業の頓智ドットが開発したアプリ「セカイカメラ」がブームを牽引。KDDIがauケータイ向けに「セカイカメラZOOM(実空間透視ケータイ)」を発表し、NTTドコモも冬モデルのPRIMEシリーズ全機種でAR機能に対応することを明かすなど、今後もさまざまな進展が予想される分野だ。

 一方で、モバイルARの技術やサービスはまだまだ成熟しておらず、利用者を継続的に得るには乗り越えるべき課題がある。7月28日にAR Commons、内田洋行、アスキー・メディアワークス アスキー総合研究所が主催した「AR Commons Summer Bash 2010」では、こうしたARの問題点や、ARの表現をより高度にする技術の進化が語られた。

●空間を認識する次の技術 そして「見える」から「分かる」へ

 「ARで重要なのは、コンピューター自体が風景を理解していること」――そう話すのは、Zenitumのアルバート・キムCEOだ。Zenitumは韓国でモバイルゲームやARサービスを展開する企業であり、画像認識によるモバイルARを研究している。

 現在、モバイルARはGPSや6軸センサーなどを使った“位置情報型AR”が主流だが、位置の精度に限界があり、ビルや看板といった対象物とARコンテンツをピッタリとマッチさせるのは難しい。特定の画像マーカー上にARコンテンツを出現させる“マーカー型AR”も存在するが、ありとあらゆる物体にマーカーを貼り付けるわけにはいかない。

 こうした中で注目されているのがマーカーを用いない画像認識型AR技術であり、Zenitumも同分野に注力している。その成果の1つが、zFT(Zenitum Feature Tracker)と呼ばれるARエンジンだ。zFTでは、AR表現を付加したい対象物のテクスチャーをあらかじめ登録しておくことで、ポスターやイラストなど街中に普通にある対象物をトリガーにしたARが可能になる。対象物が半分程度隠れているような状態でも、認識できるという点もポイントだ。

 また、さらに一歩進んだ技術として、3次元空間の認識技術であるPTAMをベースにしたD-Track(Depth Tracking Engine)というARエンジンも手掛けている。こちらの特徴は「あらかじめ対象物を登録することなく空間を把握する」という点。不特定多数の環境で、ARキャラクターを卓上で歩かせたり、壁にぶつからないようにしたりと、リアルなAR表現ができるようになる。

 こうした画像認識、空間認識の技術と位置情報を組み合わせれば、モバイルARの表現力はさらに高まるとキム氏はみている。また、画像から対象を認識することで、対象物のコンテキストに合ったコンテンツを提供できるとも考えているようだ。例えば目の前にあるトルストイの絵にカメラをかざせば、トルストイの絵そのものをカメラが認識し、トルストイの生きた時代や作品に関する情報を利用者に与える――そんなサービスが、同氏の見すえるARの将来だという。

 ARというと、キャラクターなどが飛び出す視覚的なインパクトが注目されがちだが、「ARで重要なのは“見えること”ではなく“理解できる”ことだ」とキム氏は指摘する。目に見えるものが隠し持っている価値ある情報を利用者が理解できることが、ARのあるべき姿であり、位置情報型ARはまだこうした価値を提供できていないと同氏は考えている。

 こうしたキム氏の問題提起を踏まえた上で、筆者が注目しているのが、KDDI研究所のAR研究だ。同社はauケータイ向けの位置情報型ARサービスとしてセカイカメラZOOMを提供しているが、先般の「ワイヤレスジャパン2010」では、位置情報と画像認識とを組み合わせた新しいサービス像を披露していた。

 詳しくは別記事に譲るが、その仕組みは、まずGPSで現在地を割り出し、その場に関連するARコンテンツをメタデータとしてダウンロードする。そして看板などの矩形オブジェクトにカメラをかざした瞬間、色などの特徴から対応するARコンテンツを判別し、表示するというものだ。デモを体験すると、アーティストの看板にカメラをかざせば音楽が流れ、洋服の看板にかざせばECサイトにリンクするといった、“かざせば分かる”という快感があった。同社の研究が実れば、モバイルARの体験性がより豊かになると筆者は感じている。

●「ARゲーム」は花開くか

 今後のARは技術の進化はもちろん、サービスのアイデアやビジネスモデルもより洗練されたものが求められている。パネルディスカッション「ソーシャル・ウェブ、ソーシャル・ゲーム、ロケーション・メディア、そして拡張現実」では、モバイルサービスのトレンドとなっている“ゲーム要素を持ったソーシャルサービス”の強みが語られ、ARへの応用が提案された。

 「ソーシャルサービスには卵が先かニワトリが先かの問題がある」――そう指摘するのは、ソーシャルアプリを手掛けるgumiの代表取締役、国光宏尚だ。ソーシャルサービスは、ユーザーが増え、友達が利用している割合が高くなることで面白みが増してくるが、サービスイン当初は当然ながら利用者は少なく、面白みも少ないというジレンマがある。そこで、サービスにゲーム性を持たせて「とりあえず1人でも楽しい」状況を作り出すことが効果的だというのだ。

 例えば、海外発の位置情報を使ったソーシャルサービス「foursquare」も、場所を訪れた回数に応じてバッジがもらえるといったゲーム性を取り入れてヒット。コーヒーショップなどリアル店舗とのタイアップ事例も生まれ、こうしたバッジの仕掛けは位置情報サービスのトレンドとなっている。

 そして日本で“位置ゲー”を知らしめたコロプラこと「コロニーな生活☆プラス」も、移動することでゲームが進展するという特徴を生かし、観光地などとのコラボレーションを盛んに展開。従来はナビゲーション用途が主だった日本の位置情報サービスに、新たな動きをもたらした。日本の位置情報サービスの世界は「“コロプラ前”と“コロプラ後”で状況が異なる」と、位置情報サービス向け広告事業を手掛けるシリウステクノロジーズの関治之氏はその影響を振り返る。

 国光氏は、位置情報をベースにした現状のモバイルARは「やっていることは位置情報サービスと同じ」と話す。しかし、ARサービス上でゲームを提供すれば、AR表現の面白さやインパクトが生きるとも語った。

 ソーシャルARを銘打って登場したセカイカメラも、現在はアプリ内でARゲームのコーナーを立ち上げ、多数のプロバイダーが参画するゲームプラットフォームの構築を目指している。セカイカメラがARゲームを起爆剤にソーシャルサービスプラットフォームとしての影響力を持ち、ARサービスを成長軌道に乗せられれば、日本のAR市場にさらに多くのプレイヤーやコンテンツ提供者が現れるだろう。

●「何かが見える」だけでは飽きられてしまう

 一方、このパネルディスカッションでは、魅力的なコンテンツをそろえる重要性も語られた。バンダイナムコ未来研究所の山田大輔氏は、「ARのイメージをコンテンツでやわらかくすべき」と主張する。ARの認知度はまだまだ低く、ユーザーは難しい印象を受けやすいと同氏は指摘し、ユーザーになじみのあるようなコンテンツやキャラクターと組み合わせる必要性を説いた。

 しかし山田氏は同時に「単に何かが見えるだけでは、ARの市場全体がスポイルされてしまう。我々コンテンツプロバイダーも注意しなければいけない」とも語る。コンテンツパワーに加えて、AR表現を陳腐化させない企画の工夫が必要だというわけだ。

 雑誌やテレビ、音楽のプロモーションで採用例が生まれ、ARの認知が徐々に広がっている一方、サービス提供者にはARをブームで終わらせないための施策が求められている――これが2010年のAR業界といえる。これからのARには「ワオ体験(びっくり体験)で終わらないサービスが必要だ」と、別のセッションで登壇したクウジットの末吉隆彦社長も語る。

 クウジットは、マーカー型ARの原型とも呼べる「CyberCode」(サイバーコード)の技術や、無線LANを使った位置測位技術「PlaceEngine」といった、ソニーコンピュータサイエンス研究所の研究からスピンオフしたベンチャー企業。現在同社は、CyberCodeを使ったiPhone向けARアプリ「GnG(GET and GO)」で、販促ソリューションの構築に挑んでいる。その利用事例の中でも、雑誌「GQ JAPAN」で展開されたウォッカ「グレイグース」のキャンペーンは、ARをキーにした面白い演出がなされている。

 キャンペーンではまず、雑誌に掲載されたCyberCodeにカメラをかざすと、グースがCyberCodeからポップアップする演出とともにプロモーション映像が流れる。さらに、端末の位置情報を取得してグレイグースが飲める近くのバーへと利用者を案内する。バーに行き、店内にあるCyberCodeに再びカメラをかざすと、グースがCyberCodeの中に描かれたグレイグースのボトルに戻っていき、“グースのピン”に変身。その画面を店員に見せると、リアルなピンがもらえるという仕組みだ。プロモーションの入り口と出口にCyberCodeを配置し、その間をストーリー性のあるAR表現でつなぐことで、ARの利便性と表現力を生かした体験を提供している。

 同社は今後、店舗の販促ツールを手掛けるタナックスとも協業しながら、GnGソリューションによる店舗誘導や購買喚起を企業に訴求していく考え。タナックスの担当者によれば、現状では対応端末がiPhoneしかないことや、店頭でカメラを向けることに対する抵抗感などを企業が懸念する一方、AR表現は好感が得られているという。

 モバイルAR元年とも言える2009年が過ぎ、現状のAR表現に対する目新しさやインパクトは徐々に薄れている。一方、セカイカメラZOOMのように、非マーカー型の画像認識ARが、CPU性能の突出していない“普通のケータイ”でも動くようになってきた。これに限らず、アプリ「junaio」などのマーカー型ARと位置情報型ARの双方をサポートするアプリも出ており、モバイルARは位置情報型から複数のAR技術の併用へと動き出している。サービスイン当初からARペットなどの将来像を描き、新たにARゲームに進出したセカイカメラも、こうした方向に向うはずだ。

 画像認識を取り入れば、“かざして情報を得る”ARの体験性は大きく向上する。しかし、かざしたあとに現れるコンテンツを、どう用意するかは、各社の工夫が問われる部分だ。既存のEC事業者やブランド力のあるコンテンツホルダーとの提携、あるいはソーシャルを活用して不特定多数の対象物とデータベースを“草の根”でひも付けるなど、やり方は多様にあるだろう。こうした新しいARサービス像の提案が、今後のモバイルARに問われている。【山田祐介,プロモバ】

最終更新:8月3日12時18分

+D Mobile

 

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