きのうの補足。グリーンスパンは『波乱の時代』でこう書いている:
2003年になると、景気の落ち込みとディスインフレが長期にわたって続いてきたため、FRBはさらに変わった危機を考慮せざるをえなくなった。物価が下落する現象、デフレーションである。つまり13年にわたって日本経済の沈滞をもたらしていたのと同様の悪循環に、アメリカ経済が陥る可能性だ。
アメリカはもはや金本位制を採用していない。不換紙幣のもとでのデフレは、考えられないことだった。デフレに陥りそうになったとしても、印刷機をまわしてデフレの悪循環を防ぐのに必要なだけの紙幣を供給すれば問題は解決すると私は考えてきた。
実は、経済の状況にもとづくなら、いっそうの利下げはおそらく不要だろうというのが[2003年6月のFOMCの]一致した見解だった。それでもリスクを比較検討した結果、利下げを実施することにしたのである。デフレという悪性の病にかかる可能性をなくしておきたかった。(上巻p.332~3)
つまりアメリカの住宅バブルのきっかけになった利下げの遠因は、日本のデフレだったのである。このときのFOMCの判断に、当時FRB理事になったばかりのバーナンキの積極的な緩和姿勢が影響したことは容易に想像される。
グリーンスパンもいうように、デフレは金本位制のもとで金の保有量が不足することによって起こる現象と考えられており、管理通貨制のもとではありえないはずだった。それが日本で起こったのは、自然利子率がマイナスになるという異常事態になったからだ。
「金利<自然利子率」となっている場合はインフレになるので、日銀が政策金利を上げればインフレは止めることができ、逆に「金利>自然利子率」の場合は金利を下げればデフレは止まる。しかし「自然利子率<0」になっている場合は、「名目金利>0」という制約があるため、「金利>0>自然利子率」という不均衡が是正できない。これがクルーグマンのいう「デフレの罠」である。
このようにデフレの原因は単純なので、一番すなおな解決策は、ケインズも提案したように、貨幣にスタンプを押すなどの方法でマイナス金利を実現することだが、これは実務的にも政治的にも困難だ。そこで人工的にインフレ予想を起こして実質金利をマイナスにするという話が出てくるのだが、これもクルーグマンはあきらめたようだ。
根本的な原因は、バーナンキもいうように、日本の潜在成長率が低いことだ。自然利子率は理論的には資本収益率と一致するので、日本企業の将来の収益への期待が大きくなり、潜在成長率が上がれば自然利子率はプラスになり、デフレの罠は脱却できる。この点で「日本経済は活気に乏しい[から自然利子率がマイナスになった]が、アメリカ経済は活気があるから大丈夫だ」というバーナンキの判断には根拠がある。
逆にいうと日本経済がデフレから抜け出せないのは、明日は今日よりよくなるという希望が失われ、企業が投資しないで貯蓄しているためだ。クルーグマンのいうように、財政政策や非伝統的金融政策でデフレが緩和できる可能性はあるが、それはしょせん一時的な「痛み止め」である。「インフレ目標でデフレを止めれば日本経済の問題が一挙に解決する」などというおめでたい話をかつぎまわる議員連盟が存在するようでは、日本経済に希望はない。
グリーンスパンもいうように、デフレは金本位制のもとで金の保有量が不足することによって起こる現象と考えられており、管理通貨制のもとではありえないはずだった。それが日本で起こったのは、自然利子率がマイナスになるという異常事態になったからだ。
「金利<自然利子率」となっている場合はインフレになるので、日銀が政策金利を上げればインフレは止めることができ、逆に「金利>自然利子率」の場合は金利を下げればデフレは止まる。しかし「自然利子率<0」になっている場合は、「名目金利>0」という制約があるため、「金利>0>自然利子率」という不均衡が是正できない。これがクルーグマンのいう「デフレの罠」である。
このようにデフレの原因は単純なので、一番すなおな解決策は、ケインズも提案したように、貨幣にスタンプを押すなどの方法でマイナス金利を実現することだが、これは実務的にも政治的にも困難だ。そこで人工的にインフレ予想を起こして実質金利をマイナスにするという話が出てくるのだが、これもクルーグマンはあきらめたようだ。
根本的な原因は、バーナンキもいうように、日本の潜在成長率が低いことだ。自然利子率は理論的には資本収益率と一致するので、日本企業の将来の収益への期待が大きくなり、潜在成長率が上がれば自然利子率はプラスになり、デフレの罠は脱却できる。この点で「日本経済は活気に乏しい[から自然利子率がマイナスになった]が、アメリカ経済は活気があるから大丈夫だ」というバーナンキの判断には根拠がある。
逆にいうと日本経済がデフレから抜け出せないのは、明日は今日よりよくなるという希望が失われ、企業が投資しないで貯蓄しているためだ。クルーグマンのいうように、財政政策や非伝統的金融政策でデフレが緩和できる可能性はあるが、それはしょせん一時的な「痛み止め」である。「インフレ目標でデフレを止めれば日本経済の問題が一挙に解決する」などというおめでたい話をかつぎまわる議員連盟が存在するようでは、日本経済に希望はない。
コメント一覧
日本のデフレの原因に関しては最早議論する必要もないほど明確だと思います。
自然利子率の低下は企業や個人が日本の将来の需要の縮小を予測して生産性を上げるための投資をしないからですね。
(需要が縮小するとわかっていて投資して生産性を上げても製品の価格が下がるだけで投資を回収する見込みが立たない。
投資にはギャンブル性があるが負けるとわかりきった賭を張る奴はいないという事ですね。
中国の成長をあてにして中国に投資するより、中国人を連れてきて(個人的には東南アジアから移民を受け入れた方が良いと考えます)。
国内の労働人口を増やして、日本国内に投資した方が賢明かと思いますが、これも実現性は限り無く日本の政策金利に近いですね。
現金課税ってそんなに無理でしょうか?
EU加盟前のオランダって10年に1度偽造防止のために必ず旧幣を新札に交換しないといけない制度がありました。で、新札の交換期限までに旧札を提出しなかった場合、何%かの手数料を取って新札と交換するとのこと。このときの手数料を現金を交換する際に必ず取ようにすれば、現金課税になるのでは。銀行口座を経由すると非課税とかにして、これに預貯金課税を複合させれば、動かない金は嫌でも回って行くのでは。遺産相続や贈与税の脱税対策にもなる。
そして、これらで困るのはお金持ちばかり。
共産党もいい加減、高額所得者への非難だけではなく、高額資産者への非難もして欲しいものです。
自然利子率がマイナスになるって、異常なことなんでしょうか?
今の日本のように、人口の減少、労働者の保身などにより、成長の循環が断たれることは容易に起こり得るように感じます。
むしろ、消費者が絶えず新しい商品への期待を持ち続け、企業がそれに合わせて投資と開発をし続ける、というモデルの方が現実に合っていないのではないでしょうか。
行政の経済政策の担当者、及び中銀は、自然利子率のマイナスは当然起きるものとして、経済運営を行って欲しいです。
>行政の経済政策の担当者、及び中銀は、自然利子率のマイナスは当然起きるものとして、経済運営を行って欲しいです。
自然利子率がマイナス状態は、異常だと思います。この現状をどう克服していくかが、今考えるべき事だと思います。この現状を当り前と見なし、現状維持をすれば、デフレ克服は不可能であるという認識が必要であると思います。
pacta氏
自然利子率がマイナスは異常でしょう。
まず、国がいずれ運営できなくなります。現在日経平均が解散価値寸前ですが、ここからさらに下がり続け、中国、韓国が成長すれば、日本はそのうち買収されて植民地状態になるかもしれません。
成長率の低さは中国や新興国の需要をうまく取り込めていない事も大きいようですね。また、それらの需要を取り込むという強い意思と戦略があれば投資も必然的に生まれるはずです。中韓政府、アップル、サムスン、信越化学、日本電産、任天堂、BNFなどを見ていると、組織がトップダウン型で、事業がシンプルである事が成長する為には重要におもえます。
デフレは是正した方がいいし、少なくとも財政政策はきくはずなので、できることはやったほうがいいが、リフレ派のおかしいのは、「デフレさえ止まれば、他の問題はすべて解決する」と妄想していること。
デフレによって実質賃金が上がっているのは企業収益にはよくないが、ピグー効果で消費は増えるはず。実質債務は増えるが、企業は貯蓄主体なので実質資産は増える。もちろんデフレはいいことではないが、その害は大したことない。マクロ経済学の教科書にも、deflationはほとんど出てこない。
>>6
「デフレさえ止まれば(円安で輸出企業の業績が回復して)他の問題はすべて解決する」では。
僕のリフレの対案として来年の予算案で国債40兆円くらい全部をレバレッジをかけて外貨買いまくるのはどうでしょう?
景気刺激の為に、金利の引き下げという手段がつかえないのであれば、逆に企業の資本利益率を上げるというのはどうだろうか。日本には、企業の重荷になるような規制や制度が網の目のように張り巡らされている。JALが破綻したのも政治に翻弄されたことや、親方日の丸体質も原因だが、馬鹿高い着陸料や燃料税もその原因と無縁ではないだろう。運輸業の高速料金、トラックの毎年車検、ガソリン税、みんな高コストの原因だ。高速料金を無料にしなくともよいが、民主党政権は改めて引き下げを検討すべきだ。交通整理の警備員は警備服を着用しなければならない。その警備服は警察官僚が天下った団体を通じなければ買えない。その警備服は高級な背広が買えるほど高価だ。企業の重荷となるような規制や制度、そして公益法人を大胆に事業仕訳してもらいたい。
≫自然利子率の低下は企業や個人が日本の将来の需要の縮小を予測して生産性を上げるための投資をしないからですね
そんなアホな。
株でもそんな20~30年先を織り込むはずがないですよ。
企業が、日本の人件費の圧倒的な高騰(円高で拍車が掛かっている)で、日本で造る理由を見出しかねているのではないですか。極論を言えば、日本で造る必然性のあるものが少ない。日本でしか造れない商品が極めて少ないからでしょう。
ここ10年で日本独自の商品といえば、ハイブリッド車ぐらいナ者で、液晶関連でも、光発電、LEDでも、発祥は日本かも知れませんが、たちまち台湾・韓国に追いつかれ追い越されている訳で、技術が同等レベルなら人件費差で負け。
内需が盛り上がらないと、デフレ脱却議員連盟等が国民の将来不安を指摘するけど、過去では内需の大きな部分は企業の設備投資ですから、国内人件費の高さを消し去る(日本でしか出来ない製品orかなりの円安)ことが起こらない限り、海外移転のタイミングをみていることになるでしょう。
加えて、内部留保に税金を掛けろとか、内定取消しに企業名を公表するとか、法人税の減税反対、規制緩和反対とかを叫ぶ勢力が政権内に居たり、支援団体にいるのですから、危なくてこの国に資本投下できないですよ。
設備投資したりしても儲けられる案件がないのですから、資金需要などあろうはずがなく、自然利子率は銀行に預ける方の金利に近づきますから、デフレになるのは当然でしょう。
円はドル本位制かと思いましたよwデフレ脱却といいつつ、しっかりデフレ行動の罠。政策がデフレ行動になっている可能性はありますよ。
自然利子率がマイナスならば、国債の焼却もありえる?
紙幣を燃やすことは社会貢献だ。。。
というか、こゆ議員連盟の存在が許せないと。
>>8
日本の公共料金は高すぎ、電気料を例に
電気料金の国際比較、エネ庁のデータ(2001年)単位:ドル/kWh、日本を(100)
家庭用 産業用
日本 0.188 (100) 0.127(100)
アメリカ 0.085 ( 45) 0.05 ( 39)
イギリス 0.101 ( 54) 0.051( 40)
ドイツ 0.124 ( 66) 0.044( 35)
フランス 0.098 ( 52) 0.035( 28)
資料:IEA STATISTICS「ENERGY PRICES & TAXES, 4th Quarter 2003
(注)1.各国の、1年間の使用形態を限定しない平均単価を計算したもの。
産業用の中には、業務用(商業用)の料金を含むものと含まないものがある。日本の産業用料金の中には業務用の料金を含む。
2.アメリカについては課税前の価格。
(参考)レートの明示はないが約「120円/ドル」
2001年のデータなので環境税は含まれていない、太陽光や風力など再生可能エネルギーの普及も少なく比較には好都合
原発の多いフランスでも可なり安い、フランスの電力は国営
自動車や鉄は安く輸出している、原料はどちらも輸入、電気はどうしたことか高すぎ
▼公益企業には外部監査の他に広報にも何らかの規制が必要なのです。米国を参考にして頂きたい
次より
http://www002.upp.so-net.ne.jp/HATTORI-n/708.htm
「デフレによって実質賃金が上がっているのは企業収益にはよくないが、ピグー効果で消費は増えるはず。」
ということですが、それではなぜ長期にわたって消費の低迷が続いているのしょうか?ピグー効果が働くならデフレ突入後すぐに旺盛な需要が回復するのでは?
「実質債務は増えるが、企業は貯蓄主体なので実質資産は増える。」
この点に関しては、貯蓄ばっかりしてたらデフレギャップ増大することになりませんか?そしてデフレが続けば、確実に財政破綻するのではないでしょうか?
日本の経済成長率は低いですよね。
アメリカは欧米は移民政策をしていますけど、
日本は労働人口が減って、活力がなくなって
いるように思えます。
だとしたら、
移民をして、人口を増やして経済を活発に
するのがいいんですかね。
明日に希望を持てないのは、借金のせいもあると
思いますが、
やっぱり、経済が成長してないのも
大きいかもしれませんね。
わたしも企業の投資は設備投資を想定してコメントしてますよ。
その場合国内投資と比較検討対象になるのは当然中国のような新興国内への投資です。
新興国への投資は場合によっては一から工場を立ち上げるような大規模なものです。当然20~30年スパンかそれ以上の長期的視野での需要動向を睨んだものになります。
日本企業はその間に人民元や中国人の賃金の上昇を織り込んでいるはずです。というより当てにしているでしょう。
中国に投資する日本企業の目当ては安い賃金や通貨ではなく将来に渡って成長が期待できる中国の内需にあるからです。
事実わたしの所でも中国に生産をドンドン移管していますが、ほとんど中国国内向けです。
現在の自由貿易をよしとする風潮は世界経済を輸入で牽引してきたアメリカのイデオロギーを反映したものではないですか?
その役割を中国がアメリカにとって代わった場合、自由貿易自体無くなるかもしれませんよ。
中国の内需が充実に成長した場合、世界経済はむしろブロック化へ向かうと考えるべきでは?
成長する中国の内需にアクセスし続ける為に日本企業自体が中国経済の一部分を担おうとして中国に投資しているのではないですか?。
日本国内に儲かる投資案件がないから資金需要が発生せずに自然利子率が負になりデフレになるというのは全く賛成ですが何故儲かる投資案件がないのでしょうか?
それは労働人口の減少による日本市場の縮小を人々が予測してるからではないですか?
不動産を想定してみれば想像がつくと思いますが。
ここで池田先生に質問ですが、デフレの害はさほどでもないとお考えのようですが、確かに物価が下がって不幸になった人は知りませんが不動産価格が下がり続け資産デフレに陥った場合でも害は小さいのでしょうか?
harappa5さん、ghi555さん、コメントありがとうございます。
自然利子率マイナスが国家運営上まずいのは同感です。
ただ、高度成長期の後に当然訪れる現象であり、解決は容易では無いので、正面から向かい合う必要があるのではないか、ということです。
具体的には池田さんが日頃提案しているような、規制緩和、アニマルスピリット促進、生産性改善なんでしょう。
ただ、周りを見ても、絶え間ざる革新を目指す人は極めて少数です。
>新興国への投資は場合によっては一から工場を立ち上げるような大規模なものです。当然20~30年スパンかそれ以上の長期的視野での需要動向を睨んだものになります。
蛇足的な突っ込みで恐縮ですが、上海と東莞でいくつかの日系資本の工場立ち上げを間近から見た経験で言うと、短期(現在を含む)の需要に対応した投資でした。
>その役割を中国がアメリカにとって代わった場合、自由貿易自体無くなるかもしれませんよ。
中国にも多数の輸出依存企業があります。いまの中国にとって、欧米先進国の自由貿易度がより高まる事は国益にかなっています。中国が米国以上に保護貿易に走るという事は考え難いのではないでしょうか。
日本の場合は、失業によるペナルティが大きいので、企業も防衛のための貯金に精を出しているような気がします。潰れても個人の生活が維持できるようなら、もっと挑戦的な経営が出てくるのではないのでしょうか?
景気では雇用問題は解決出来ない
ロボット自動化インターネット通信販売電子書籍など人減らしの技術革新は目覚ましい、
人件費引き下げ競争にも拍車がかかっている、
自動改札を始めマーケット、銀行、飲み屋でさえも人減らしが目立つ
金融緩和による合理化投資も人減らし、今後はさらに人減らしは進むはず、
成長3%程度では人減らしが3%を上回ることは容易に想像が付く、
したがって景気では雇用は増えない、ラッダイト時代とは人減らしの規模が違う
人減らしが進めば消費も減り景気も悪くなり、さらに雇用は減る
現経済社会は行き詰まり、社会構造の大転換が必要と思うものです
≫何故儲かる投資案件がないのでしょうか?
皆が買いたがる新製品(サービスを含めて)を出さないからです。なぜ出さないか、新しいことにチャレンジする人を叩くような風潮があるからでしょう。
格差に関する批判が多いのですが、給与格差の無いプロ野球は面白くなると思います。エラーする内野手も、ファインプレーする外野手も同じ給与で、誰が励むのでしょうね。湯浅誠氏と城繁幸氏との対談で、城氏がプロスポーツの例を出したときに湯浅氏は、仕事とプロスポーツとは違うで切り捨てまししたが、何が異なるのかは証明すらしませんでした。ベンチャーの起業なんて、プロスポーツと同じですよ。ホリエモンが金持ちの時によってたかって叩いたように、金持ちが誕生するのが許せない人が多いのじゃないですか。
≫成長する中国の内需にアクセスし続ける為に日本企業自体が中国経済の一部分を担おうとして中国に投資しているのではないですか?。
ではなぜ、中国からベトナムやインドネシア等にキャノンやパナソニックは工場を移転するのでしょうか。間も無く中国の人件費も競争力を失うレベルまで高騰するのではないでしょうか。
また、基本的に中国は鎖国して自給自足できるほど、資源を豊富に持っている国ではないでしょう。いまや大豆だけでも世界貿易量の過半数を買い付けているのではなかったでしょうか。
だから、魅力的な新製品は全て外国産になりつつありますね。アニメでも、あめりかはCGで造れるようになり、3Dを採用しますが、日本は相変わらず手書きに毛の生えた程度のCGじゃないのでしょうか。