インターネットで個人情報の追跡ビジネスが急成長=WSJ調査
8月3日8時8分配信 ウォール・ストリート・ジャーナル
テネシー州ナッシュビルに住むアシュレー・ヘイズ=ビーティさん(26)のコンピュータには小さなファイルが潜んでいた。そのファイルが収集した彼女の個人情報はごくわずかな金額で売りに出された。
ファイルには「4c812db292272995e5416a323e79bd37」というコードのみが記されていた。これでヘイズ=ビーティさんの住所、性別、年齢がわかるという。さらに、彼女のお気に入りの映画のタイトル、さらには彼女がインターネットでエンターテイメントニュースを閲覧することや、クイズに答えるのが好きなことも知ることができる。
ヘイズ=ビーティさんはコードが示す自分の情報について、「気味が悪いほど当たっている」と認めた。
ヘイズ=ビーティさんをモニターしていたのは、ニューヨークにあるマーケティング・テクノロジー会社、Lotame Solutionsだ。同社はウェブサイトでユーザーが書き込んだ内容(例えば映画に関するコメント、子育て、妊娠への関心など)を記録する「ビーコン」と呼ばれる高度なソフトウェアを使用している。Lotameは、収集した個人情報を匿名のままでプロファイル化し、顧客を捜している企業に販売している。ヘイズ=ビーティさんの情報は、卸売りされたり(ほかの映画愛好者の情報とまとめられ、1000人分で1ドル)、カスタマイズされたりする(26歳の南部に住む特定の映画ファンの情報として)。
本紙が独自に調査を行った結果、インターネットで最も急速に成長しているビジネスのひとつが、インターネット・ユーザーのスパイ事業であることが判明した。
本紙は、企業がインターネット上で使う「クッキー」や、そのほかの監視テクノロジーを評価・分析する包括的な調査を実施した。その結果、消費者の追跡は一般に認識されているよりもはるかに広範囲かつ徹底的に行われていることが明らかになった。具体的には、以下の点が確認された。
o 米国の上位50のウェブサイトが平均して64の追跡テクノロジーを、訪問者のコンピュータにインストールしている。ほとんどの場合、警告は行われていない。
o 追跡テクノロジーは、以前よりも高機能化し、深く入り込むようになっている。これまでモニター行為には、ユーザーが訪問したウェブサイトを記録する「クッキー」ファイルが使用されることがほとんどだった。本紙の調査によって、ウェブページ上でのユーザーの行動をリアルタイムでスキャンし、アクセス場所、所得、買い物の嗜好(しこう)、さらには健康状態までを即座に算定する新しいツールが使われていることが明らかになった。一部にはユーザーが削除を試みても後で密かに復活するツールもある。
o これらの個人情報のプロファイルは、常に更新され、1年半ほど前に誕生した、株式市場のような取引所で売買されている。
新しいテクノロジーの登場によって、インターネット経済は変化し続けている。これまで広告会社は、自動車の広告は自動車関連サイトに、というように特定のウェブページに広告を掲載することが多かった。今や広告会社は、インターネット全体でユーザーを追跡し、ユーザーの訪問先でカスタマイズされた広告メッセージを表示することにプレミアムを支払うようになった。
本紙は、インターネット・ユーザーと広告会社の間に100以上の仲介者の存在を確認した。それらは追跡会社、データブローカー、広告ネットワークなどで、急増する個人情報需要への対応を急いでいる。
ヘイズ=ビーティさんの映画鑑賞履歴のデータも、新しいデータ取引所のひとつであるブルーカイを通して広告会社に提供された。
ブルーカイの最高経営責任者(CEO)であるOmar Tawakol氏は、業界の動きに大きな転換が見られると指摘し、「広告会社は、ウェブページへのアクセスではなく、ユーザーへのアクセス権を購入したいと考えている」と述べた。
本紙は、米国人が閲覧するウェブページの約4割を占める、米国で最も人気のある50サイトを調査した(本紙のサイトWSJ.comも調査対象に含めた)。その後、それらのサイトがテストコンピュータにダウンロードしたトラッキング(追跡)・ファイルとプログラムを分析した。
その結果、上位50サイトから本紙のテストコンピュータにインストールされたトラッキング・ファイルの数は合計で3180となった。これらの3分の1近くは、お気に入りのサイトのパスワードを記録したり、人気のある項目を集計することを目的とした、害のないものだった。
だが、131社がインストールした、3分の2以上に相当する2224のファイルの多くが、消費者プロファイルのデータベースを作成するためにユーザーを追跡していた。このデータベースは販売される可能性もある。
本紙の調査で、そういったテクノロジーの配布が最も盛んに行われているのが、複合メディアのIAC/インタラクティブコープのオンライン辞書サイトDictionary.comであることが判明した。このサイトにアクセスすると、本紙のテストコンピュータには234のファイルやプログラムがダウンロードされ、そのうちの223は、ウェブユーザーを追跡する企業のものだった。
そういった企業が収集する情報は、ユーザーが個人名ではなく、コンピュータにわり振られる数字によって特定される、という意味では匿名だ。前述のLotame社の場合、ユーザーの個人名は認識しておらず、行動や属性だけを把握しており、コード番号によって特定しているという。追跡されたくないユーザーは、Lotameのシステムから自らのデータを削除することが可能だ。
業界側は、データは適切に利用されていると主張している。広告大手の英WPP傘下のインターネット広告「24/7リアル・メディア」のデビッド・ムーア会長は、追跡することでインターネット・ユーザーに適切な広告を提供できるようになると説明する。「広告のターゲットが適切であれば、それは単なる広告ではなく、重要な情報になる」と同会長はコメントした。
追跡自体はこれまでも行われてきた。だがその技術の高度化と普及は大きく進んでいる。MSN.comのような米国最大級のサイトでさえ、本紙が通知するまで、自らが訪問者のコンピュータに追跡ファイルをインストールしていることに気づかなかったほどだ。
トラッキング・ファイルは、ウェブサイトに組み込まれ、いくつかの方法でコンピュータにダウンドーロされる。企業が自社のトラッキング・ファイルを配布するためにサイトに料金を支払うこともめずらしくない。
追跡を実施する会社は、トラッキング・ファイルをウェブサイト上で無料配布ソフトウェアや、ほかのトラッキング・ファイルや広告に隠すこともある。その場合、ウェブサイトは自覚なしに訪問者のコンピュータにファイルをインストールしていることになる。
また本紙は、取り扱いに細心の注意が必要な、個人の健康や資産状況に関するデータを収集するトラッキング・ファイルも発見している。
Dictionary.comの幹部は、同サイトがユーザーに辞書や類語検索サービスを無料で提供する代わりに、ユーザーから個人情報を得ることは公平であり、問題はないと考えているようだ。「クッキーの数がいくつであろうと、ユーザーには一切影響しない。またわれわれは追跡していることも公開しており、法律上問題はない」と同社の広報担当はコメントした。
一部の業界筋は、あまりに多くの消費者データが売買されていることと、データの利用方法に関する法的制限がないことが問題だと指摘する。
最近まで、消費者を健康や資産状況に応じてターゲットとすることは、多くのインターネット広告会社からタブーとされてきた。だが今や、一部の企業は、ソーシャルネットワークを利用することで、新たな情報収集手段を模索している。その一つ、Media6Degrees社は、銀行向けに、社会的つながりに基づいて消費者を評価するためのデータを提供する。金銭面で信用できる人は同じように信用できる人とつきあい、できない人はできない人同士でつきあう、というのがMedia6Degreesのシステムの基本的な発想だ。同社のトム・フィリップスCEOは、今後このテクノロジーの応用が進み、大きく発展するだろうと語っている。
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ファイルには「4c812db292272995e5416a323e79bd37」というコードのみが記されていた。これでヘイズ=ビーティさんの住所、性別、年齢がわかるという。さらに、彼女のお気に入りの映画のタイトル、さらには彼女がインターネットでエンターテイメントニュースを閲覧することや、クイズに答えるのが好きなことも知ることができる。
ヘイズ=ビーティさんはコードが示す自分の情報について、「気味が悪いほど当たっている」と認めた。
ヘイズ=ビーティさんをモニターしていたのは、ニューヨークにあるマーケティング・テクノロジー会社、Lotame Solutionsだ。同社はウェブサイトでユーザーが書き込んだ内容(例えば映画に関するコメント、子育て、妊娠への関心など)を記録する「ビーコン」と呼ばれる高度なソフトウェアを使用している。Lotameは、収集した個人情報を匿名のままでプロファイル化し、顧客を捜している企業に販売している。ヘイズ=ビーティさんの情報は、卸売りされたり(ほかの映画愛好者の情報とまとめられ、1000人分で1ドル)、カスタマイズされたりする(26歳の南部に住む特定の映画ファンの情報として)。
本紙が独自に調査を行った結果、インターネットで最も急速に成長しているビジネスのひとつが、インターネット・ユーザーのスパイ事業であることが判明した。
本紙は、企業がインターネット上で使う「クッキー」や、そのほかの監視テクノロジーを評価・分析する包括的な調査を実施した。その結果、消費者の追跡は一般に認識されているよりもはるかに広範囲かつ徹底的に行われていることが明らかになった。具体的には、以下の点が確認された。
o 米国の上位50のウェブサイトが平均して64の追跡テクノロジーを、訪問者のコンピュータにインストールしている。ほとんどの場合、警告は行われていない。
o 追跡テクノロジーは、以前よりも高機能化し、深く入り込むようになっている。これまでモニター行為には、ユーザーが訪問したウェブサイトを記録する「クッキー」ファイルが使用されることがほとんどだった。本紙の調査によって、ウェブページ上でのユーザーの行動をリアルタイムでスキャンし、アクセス場所、所得、買い物の嗜好(しこう)、さらには健康状態までを即座に算定する新しいツールが使われていることが明らかになった。一部にはユーザーが削除を試みても後で密かに復活するツールもある。
o これらの個人情報のプロファイルは、常に更新され、1年半ほど前に誕生した、株式市場のような取引所で売買されている。
新しいテクノロジーの登場によって、インターネット経済は変化し続けている。これまで広告会社は、自動車の広告は自動車関連サイトに、というように特定のウェブページに広告を掲載することが多かった。今や広告会社は、インターネット全体でユーザーを追跡し、ユーザーの訪問先でカスタマイズされた広告メッセージを表示することにプレミアムを支払うようになった。
本紙は、インターネット・ユーザーと広告会社の間に100以上の仲介者の存在を確認した。それらは追跡会社、データブローカー、広告ネットワークなどで、急増する個人情報需要への対応を急いでいる。
ヘイズ=ビーティさんの映画鑑賞履歴のデータも、新しいデータ取引所のひとつであるブルーカイを通して広告会社に提供された。
ブルーカイの最高経営責任者(CEO)であるOmar Tawakol氏は、業界の動きに大きな転換が見られると指摘し、「広告会社は、ウェブページへのアクセスではなく、ユーザーへのアクセス権を購入したいと考えている」と述べた。
本紙は、米国人が閲覧するウェブページの約4割を占める、米国で最も人気のある50サイトを調査した(本紙のサイトWSJ.comも調査対象に含めた)。その後、それらのサイトがテストコンピュータにダウンロードしたトラッキング(追跡)・ファイルとプログラムを分析した。
その結果、上位50サイトから本紙のテストコンピュータにインストールされたトラッキング・ファイルの数は合計で3180となった。これらの3分の1近くは、お気に入りのサイトのパスワードを記録したり、人気のある項目を集計することを目的とした、害のないものだった。
だが、131社がインストールした、3分の2以上に相当する2224のファイルの多くが、消費者プロファイルのデータベースを作成するためにユーザーを追跡していた。このデータベースは販売される可能性もある。
本紙の調査で、そういったテクノロジーの配布が最も盛んに行われているのが、複合メディアのIAC/インタラクティブコープのオンライン辞書サイトDictionary.comであることが判明した。このサイトにアクセスすると、本紙のテストコンピュータには234のファイルやプログラムがダウンロードされ、そのうちの223は、ウェブユーザーを追跡する企業のものだった。
そういった企業が収集する情報は、ユーザーが個人名ではなく、コンピュータにわり振られる数字によって特定される、という意味では匿名だ。前述のLotame社の場合、ユーザーの個人名は認識しておらず、行動や属性だけを把握しており、コード番号によって特定しているという。追跡されたくないユーザーは、Lotameのシステムから自らのデータを削除することが可能だ。
業界側は、データは適切に利用されていると主張している。広告大手の英WPP傘下のインターネット広告「24/7リアル・メディア」のデビッド・ムーア会長は、追跡することでインターネット・ユーザーに適切な広告を提供できるようになると説明する。「広告のターゲットが適切であれば、それは単なる広告ではなく、重要な情報になる」と同会長はコメントした。
追跡自体はこれまでも行われてきた。だがその技術の高度化と普及は大きく進んでいる。MSN.comのような米国最大級のサイトでさえ、本紙が通知するまで、自らが訪問者のコンピュータに追跡ファイルをインストールしていることに気づかなかったほどだ。
トラッキング・ファイルは、ウェブサイトに組み込まれ、いくつかの方法でコンピュータにダウンドーロされる。企業が自社のトラッキング・ファイルを配布するためにサイトに料金を支払うこともめずらしくない。
追跡を実施する会社は、トラッキング・ファイルをウェブサイト上で無料配布ソフトウェアや、ほかのトラッキング・ファイルや広告に隠すこともある。その場合、ウェブサイトは自覚なしに訪問者のコンピュータにファイルをインストールしていることになる。
また本紙は、取り扱いに細心の注意が必要な、個人の健康や資産状況に関するデータを収集するトラッキング・ファイルも発見している。
Dictionary.comの幹部は、同サイトがユーザーに辞書や類語検索サービスを無料で提供する代わりに、ユーザーから個人情報を得ることは公平であり、問題はないと考えているようだ。「クッキーの数がいくつであろうと、ユーザーには一切影響しない。またわれわれは追跡していることも公開しており、法律上問題はない」と同社の広報担当はコメントした。
一部の業界筋は、あまりに多くの消費者データが売買されていることと、データの利用方法に関する法的制限がないことが問題だと指摘する。
最近まで、消費者を健康や資産状況に応じてターゲットとすることは、多くのインターネット広告会社からタブーとされてきた。だが今や、一部の企業は、ソーシャルネットワークを利用することで、新たな情報収集手段を模索している。その一つ、Media6Degrees社は、銀行向けに、社会的つながりに基づいて消費者を評価するためのデータを提供する。金銭面で信用できる人は同じように信用できる人とつきあい、できない人はできない人同士でつきあう、というのがMedia6Degreesのシステムの基本的な発想だ。同社のトム・フィリップスCEOは、今後このテクノロジーの応用が進み、大きく発展するだろうと語っている。
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最終更新:8月3日8時8分
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