池田信夫 blog

Part 2

リーマン・ショック・コンフィデンシャル(上) 追いつめられた金融エリートたち原稿料をもらって書評を書くときは、なるべくブログでは書かないようにしているのだが、きのう送った東京新聞の書評(来週の日曜に掲載予定)ではくわしく書けなかったので、あまり知られていない事実を紹介しておく:今から考えると、リーマンブラザーズに破産申請させた米財務省の判断が致命的な誤りだったことは明らかだが、他に方法があったのだろうか?

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2010年08月01日 11:59
経済

デフレはなぜ起こるのか

きのうの補足。グリーンスパンは『波乱の時代』でこう書いている:
2003年になると、景気の落ち込みとディスインフレが長期にわたって続いてきたため、FRBはさらに変わった危機を考慮せざるをえなくなった。物価が下落する現象、デフレーションである。つまり13年にわたって日本経済の沈滞をもたらしていたのと同様の悪循環に、アメリカ経済が陥る可能性だ。

アメリカはもはや金本位制を採用していない。不換紙幣のもとでのデフレは、考えられないことだった。デフレに陥りそうになったとしても、印刷機をまわしてデフレの悪循環を防ぐのに必要なだけの紙幣を供給すれば問題は解決すると私は考えてきた。

実は、経済の状況にもとづくなら、いっそうの利下げはおそらく不要だろうというのが[2003年6月のFOMCの]一致した見解だった。それでもリスクを比較検討した結果、利下げを実施することにしたのである。デフレという悪性の病にかかる可能性をなくしておきたかった。
(上巻p.332~3)
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2010年07月31日 22:58
経済

クルーグマン、日銀を語る

クルーグマンがブログ記事で日本の金融政策にコメントしているので、紹介しておこう:
日本が「デフレの罠」に入っているのは本当だが、日銀が「デフレターゲット」を設定しているなんてナンセンス。図のように日銀は量的緩和でマネタリーベースを極端に膨張させたが、デフレは止まらなかった。中央銀行が為替の増価を防ぐことができるというのも幻想で、スイスは今年、それを試みて失敗した。


日本から得られる教訓は、次の二つである:
  1. デフレの罠はリアルなもので、単にお札を印刷してもそこから脱却することはできない。

  2. デフレのとき、中央銀行は金融を引き締める理由をいろいろ見つけるが、それは彼らがデフレを好むからではない。
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2010年07月31日 09:15
IT

電波鎖国を求めるITゼネコン

総務省の700MHzワーキンググループが難航しているようだ。当初は「7月中に成案を得る」という予定だったのが、結論は8月に延期された。その最大の原因は、国際周波数に抵抗するITゼネコンと御用学者である。

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日経新聞によると、きょうの「電波利用料に関する調査会」で、総務省は周波数オークションを行なう方向を打ち出す。多くの経済学者が10年以上にわたって主張してきた政策が、日本でもやっと実施されるのはめでたい。政権交代の数少ないメリットだろう。

しかし携帯電話で「割り当て方式で獲得した既存業者と競売方式で参入する業者との間の不公平が表面化しかねない」という理由でオークションを実施しないのはナンセンスである。携帯電話のように収益性の高い事業こそもっともオークションに適しているのであり、世界各国で行なわれているオークションもほとんど携帯の帯域だ。日本でも700MHz帯のITSとFPUを廃止すれば、世界標準と同じ100MHzの帯域がとれる。

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人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか内閣府官房審議官に起用されることになった水野和夫氏の代表作(2007年)。小野理論や神野理論とはまったく違う、ウォーラーステインの歴史理論にもとづいて超長期のグローバルな視野から日本経済を見るものだ。

現代日本の直面する問題は、17世紀以来の「長い近代」が終わり、主権国家にもとづく近代世界システムが終焉を迎えていることにある。特に新興国が低賃金によって先進国の製造業を駆逐し、それによる過剰貯蓄をアメリカが吸収して集中的に運用するグローバル不均衡が、世界経済の不安定要因だ――という本書の指摘は、2008年の金融危機によって実証された。

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今週の週刊朝日(p.136)にこういう見出しがある、とツイッターで紹介したら大騒ぎになっているので、正確に引用しておこう。このインタビューで、税調の専門家委員長である神野直彦氏は、こうのべている:
記者「900兆円もの借金をどうやって返していくのか」
神野「実は、900兆円は返さなくていいんです。歴史的にも論理的にも、借金を返した国はないのです。[・・・]利払いだけをし、借り換えでしのぐしかない。他の国から借金した外国債ならば踏み倒せば国際紛争になるが、日本の場合は95%が内国債なので安心です。要は、夫が妻から借りているようなものです。デフォルトしたアルゼンチンとは違います」
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Mankiw's blogで紹介されたロバート・ソローの議会証言が話題を呼んでいる。内容はそう目新しくもないDSGE批判なのだが、
Especially when it comes to matters as important as macroeconomics, a mainstream economist like me insists that every proposition must pass the smell test: does this really make sense? I do not think that the currently popular DSGE models pass the smell test.
とDSGEを全面否定するのがちょっと驚きだ。その根拠は「合理的予想」が現実的かどうかということよりrepresentative agentという最適化理論の道具を実証モデルに使っている点にある、という批判も私は賛成だ。しかし問題はそれよりましな近似はあるのかということで、ソローのような「主流派経済学者」にも代案はないようだ。

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かなり前に「ALWAYS 三丁目の夕日」という映画を見たことがある。1958年の日本を舞台にしたものだが、東京タワーが高度成長のアイコンとして使われているのが印象的だった。映画の中では、CGで描かれた東京タワーは建設中なのだが、それを眺めながら誰もが「明日は今日より豊かになれる」という期待に胸をふくらませていたのだ。

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2010年07月24日 12:54
経済
テクニカル

デフレと生産性*

けさからツイッターで話題になっているが、バーナンキは議会の質疑でこう答えたようだ:
So he said "there is not a high probability that deflation will become a concern." Contrasting the U.S. to Japan, he said the latter has lower productivity growth, a contracting labor force and bank problems. He maintained the U.S. banking system, on the other hand, is "strengthening."
ここで彼は日本がデフレに陥った原因を、次の三つだとしている:
  • 低い生産性上昇率
  • 労働人口の縮小
  • 銀行の不良債権
ところが、これに対して飯田泰之氏
ドマクロでも,基本ミクロでも,現代的なモデルでも負の生産性ショック(生産性の定常水準の低下)はインフレ要因なんですがねぇ・・・
という。どっちが正しいのだろうか。

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2011年7月24日、アナログ放送の終了する予定の日まで、あと1年になった。総務省は「地デジ最終年総合対策」を発表したが、ちょっと待ってほしい。「地デジコールセンター」の1000人のオペレーターの給料は、どこから出るのか。「経済困窮世帯」に配布される270万台のチューナーの財源も税金だが、これは「周波数移行にともなう補償は行なわない」と定めた電波法に違反するのではないか。

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2010年07月23日 12:24

日銀化するFRB

バーナンキの議会証言は、追加緩和に慎重な姿勢を示した。もちろんクルーグマンは「バーナンキはわかってない」と毒づき、「財政赤字なんかにかまわず、政府はもっと激しく金を使え」と主張するが、他のエコノミストは「こんなもんだろう」と達観している。

ロゴフなどの主流派は「パニックになって財政出動するなんて愚かなこと。それより財政規律を取り戻せ」と説いている。これに対してケインジアンは「長期金利は2パーセント程度で、財政危機はフィクションだ」と反論するが、ファーガソンは歴史的にみて、現在の政府債務は戦時下と同じ規模で、その結末は債務不履行か大インフレしかないと説く。

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官邸主導―小泉純一郎の革命国家戦略局をめぐる騒動は、菅首相をはじめ内閣の誰も「官邸主導」の意味を理解していないというお粗末な実態を白日のもとにさらす結果になった。仙谷官房長官は、あわてて「予算編成の新司令塔」をつくると表明したが、シーリングが決まってから予算編成の組織をつくるとはあきれた話だ。

先日の記事では経済財政諮問会議を復活させたらどうかと書いたが、法案をよく読むと両者は決定的に違う。ニューズウィークにも書いたように、諮問会議が調査審議する機関でしかないのに対して、戦略局は予算の基本方針を企画・立案・総合調整する機関なのだ。財務省は、その成立を絶対に阻止したかっただろう。首相の判断は、財務省の意向だと考えるのが自然だ。

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2010年07月22日 01:58
IT

電波社会主義の断末魔

VHF帯の「マルチメディア放送」についての非公開のヒアリングが、きのう行なわれた。来年7月の営業開始予定から逆算すると、とっくに電監審の答申が出ているはずだが、業者の「懇談会」が終わってからも6月に「公開ヒアリング」が行なわれ、7月14日の電監審には諮問できず経緯を報告するだけという異例の結果になり、今度また非公開でヒアリングだ。いったい何があったのだろうか。

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Lords of Finance: 1929, The Great Depression, and the Bankers who Broke the World1930年代の大恐慌の原因については、いまだに論争が続いているが、いくつかの点は明らかになっている。第一は、その原因が「有効需要の不足」といったリアルな問題ではなく金融危機だったことであり、第二はそれがアメリカだけではなく世界の金融システムの問題だったことだ。本書は、この問題を4人の「金融王」の物語としておもしろく描いている(FTビジネスブック賞およびピュリッツァー賞を受賞)。

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iPhoneの登場により、10年続いたi-modeビジネスにも陰りが見えてきました。とはいえ、この新しいプラットフォームには、「世界のプレイヤー」と「個人のプレイヤー」が殺到し、既存のi-modeプレイヤーたちも参入に地団駄を踏んでいる状況です。そして彗星のように現れたiPad。PCでもケータイでもないデバイスが今後ぞくぞくと出現することを予感させます。

そこで、今回は、今までのモバイルの歴史をふりかえった上で、現在の潮流を再検証し、今後出現するデバイスやプラットフォームに踊らされず、自分自身ならでは事業を貫くためのヒントを持ち帰っていただきます。

当講演では、ゲストスピーカーに、この領域において豊富な知見とネットワークを持つ藤永真至氏と加賀谷友典氏を招き、ご参加者とのディスカッションをまじえて、どんな起業家が活躍しているのか、どんな事業を組み立てていくべきか探ってみたいと思います。

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朝日新聞によれば、国家戦略室を局に格上げする政治主導確立法案の成立のめどが立たなくなったため、菅首相は戦略局の設立を断念し、戦略室を「知恵袋」的な機能に縮小する意向だそうである。しかし法案が通らないといえば、子ども手当も農業所得補償も高速無料化もみんな通らないのだが、こうした法案を通す「官邸主導」の看板をおろして、国会を突破できるのだろうか。

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きのうの田原総一朗さんとの対談は、「メディアと政治」というテーマだった。実は私も事前に一つネタを仕込んでいたのだが、田原さんが同じ話を始めたので驚いた。それは、選挙前は朝日から産経まで消費税増税に賛成だったのに、なぜ選挙が終わったら一斉に「消費税が民主党の敗因だ」という話になるのか、ということだ。

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景気対策が行き詰まって財源が枯渇すると、中央銀行に圧力がかかるのはどこの国でもよくあることだが、日本でもまた始まった。みんなの党が、日銀法改正案を次の国会に出すという。「政策協定」はともかく、あきれるのは次の条文だ。
(1)政府は、中小企業者に対する金融の円滑化を図る必要があると認めるときは、日本銀行に対して、金融機関の有する中小企業者に対する事業資金の貸付けに係る債権の買取りを要請することができる。

(5)政府は、(2)の債権の買取りにより日本銀行に損失が生じたときは、当該損失の額として政令で定めるところにより計算した金額の範囲内において、当該損失の補てんを行うものとする。
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参院選の敗北で、財政再建に向けて動き出した民主党政権の動きは止まりそうだ。「増税の前にやるべきことがあるだろう」というお題目を唱えるみんなの党が躍進したこともあいまって、少なくとも次の総選挙までは消費税は封印されるのではないか。しかし今週の日経ビジネスでもシミュレーションしているように、世界最悪の財政状況で永遠に増税を先送りすることは不可能だ。

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