容疑者が警察車両で移送されてきた。マスコミのカメラを前になかなか降りない。数分後、屈強な捜査員に囲まれた容疑者の足取りはおぼつかない。異様な光景におかしさを感じた。
大牟田市で5月下旬に起きた旅館経営者殺人事件。容疑者は仙台市の病院で働く医師だった。医師は別人を名乗り約1カ月間、全国を転々としていた。殺人容疑も否認した。
「解離性遁(とん)走かもしれない」。ある精神科医が取材に答えた。強いストレスから逃れようと人格が変わって放浪を続ける精神障害の一つという。精神科医は「詐病で別人になりきるのは不可能」と加えた。
逮捕後も別人を名乗り続ける医師。精神鑑定をすることが決まった。自分を取り戻し真実が語られる日は来るだろうか。
〔福岡都市圏版〕
毎日新聞 2010年8月2日 地方版