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明日へのカルテ:第1部・医師不足解消の道/2 「平日限定」で若手確保

 ◇都市暮らしのまま

 「医師募集への応募は少ない。生活の便や子供の教育などの問題がある」。県西総合病院(茨城県桜川市)の武藤高明院長は嘆く。

 桜川市と隣の筑西市で作る公立病院で、数年前は35人の医師がいたが、今は19人。10人いた内科医は5人に減り、2人いた常勤産婦人科医はゼロになった。公募に応じる医師は年に1、2人だ。

 理由の一つを武藤院長は「子供を(進学校の)中・高校に通わせるのが大変なため」と話す。へき地というわけではないが、東京まで約2時間かかり、教育機関が多い南隣のつくば市までの電車の便もいいとは言えない。「つくば以南は比較的医師が来るが、それより北は難しい」

 同病院の医師も数人がつくば市から通う。男性内科医(48)は「同僚の女性医師は子供が小さく、両親に世話に来てもらいやすいよう、つくばに住んでいる」と話す。桜川市内のある開業医は妻から「つくばより北はダメ」と言われ、つくばに住んでいるという。

 同様の悩みを抱える病院は各地にある。特に、茨城県は人口10万人あたりの医師数が162人で全国46位。敬遠される地域への医師派遣は容易ではないが、ユニークな取り組みも始まっている。

 県北端の山間部にある旧里美村(現常陸太田市)の大森医院(19床)。最寄り駅まで約30キロあり、車で45分かかる。独居の高齢者が多く、ちょっとした熱でも看病されないまま悪化しかねないため、01年に地域唯一の入院ベッドを設けた。路線バスのない集落へは巡回診療もする。

 大森英俊院長(56)も教育に苦労した。子供2人が水戸市の高校へ通ったころは駅まで送迎。帰りは別々のため毎日3往復し計4時間半かかった。「私は3代目。初代の祖父に幼いころからここで働くよう刷り込まれた。でも他人に同じ苦労は要求できない」

 だが、昨春から医師が増えた。筑波大と県の地域医療研修制度に基づき、筑波大がベテランの指導医と若手医師をセットで派遣し、県が人件費を補助している。2人は都市部に住んだまま派遣。若手は月~木曜に診療し、うち火~木曜は泊まって入院患者にも対応、金曜は大学院に行く。指導医が毎週1泊2日で手伝うため若手は安心して診療できる。

 若手で派遣中の高木博医師(31)は「温かみがあってとても気に入った」と話す。職員と知り合いの患者が多く、事情が分かりコミュニケーションがとりやすい。土日は日立市の自宅で完全に休める。派遣は3月まで半年の予定だったが、希望して半年延ばした。

 医学生も実習に訪れる。筑波大が地域医療に親しませようと、1週間ずつ送り込むからだ。こうした経験をした医学生は地域医療への関心が高まるとの調査結果もあり、将来の地域の医師確保への布石でもある。

 若手医師が入院患者に対応するため、大森院長は「夜の束縛から解放された」と喜ぶ。以前は1時間で戻れる範囲しか外出できなかった。「ずっと住んでと言わず、任期つきで招くのは一つの解決策だ」と話す。

毎日新聞 2010年8月3日 東京朝刊

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