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電子書籍で動き出した日本勢、アップル・グーグル競争に埋没も

8月2日16時44分配信 ロイター

 [東京 2日 ロイター] 米アップル<AAPL.O>の「iPad」(アイパッド)や米アマゾン・ドット・コム<AMZN.O>の「キンドル」に対抗し、日本企業の電子書籍事業をめぐる合従連衡が加速してきた。
 米国勢が電子書籍の調達・配信から端末まで「垂直統合型」のビジネスを展開するのに対し、日本勢は、出版社・印刷会社・端末メーカーが共存する「水平分業型」のビジネス構築を目指し、結束を強化している。これに加えて米グーグル<GOOG.O>の市場参入が台風の目になりそうだが、日本の電子書籍の分野でもアップル・グーグルとの競争の構図が出来上がることで、国内勢が埋没する可能性が出てきている。
 <主戦場は配信基盤にシフト>
 ソニー<6758.T>が電子書籍端末「リーダー」を年内に国内で発売することを表明したのに続き、7月20日にシャープ<6753.T>もタブレット型の電子書籍端末を年内に売り出す計画を発表した。このほか東芝<6502.T>は2画面にタッチパネルを搭載し、左右見開きで電子書籍をみることができるウィンドウズ搭載の小型ノートパソコン「リブレットW100」を8月下旬に発売する予定。NEC<6701.T>はグーグルの基本ソフト(OS)アンドロイドを搭載した情報端末「ライフタッチ」を秋にも発売する方向で準備している。
 それぞれの電機メーカーにとっては、端末開発だけでなく電子書籍コンテンツの配信システムを構築することが課題だ。ソニーは、KDDI<9433.T>、凸版印刷<7911.T>、朝日新聞社と組んで電子書籍の配信会社を立ち上げる計画。シャープの大畠昌巳執行役員・情報通信事業統轄も「電子書籍を端末ビジネスと捉えているわけではない」として、配信サービスに乗り出す構えを見せている。東芝の深串方彦・執行役上席常務は、リブレットW100の商品発表会で「コンテンツプロバイダーとの連携を考えている」ことを明らかにしたほか、NECの西大和男・パーソナルソリューション事業開発本部長もライフタッチの事業展開について「パートナー企業と提携して、端末とプラットフォームを組み合わせたサービスを開発したい」と話す。
 国内メーカーが配信システムの構築を急ぐのは、米国勢のビジネスモデルを意識しているためだ。米アップルは音楽情報プレーヤー「iPod(アイポッド)」の音楽配信、多機能携帯「iPhone(アイフォーン)」の動画・ゲーム配信に続き、アイパッドで電子書籍の配信へと進出し、コンテンツ流通で着実に商圏を拡大している。アマゾンはキンドルを製造するメーカーではなく、そもそもは「電子書店」で流通が主体。配信サービスの「キンドルストア」では65万冊の電子書籍コンテンツをそろえている。
 さらに米国市場では、アマゾンやバーンズ・アンド・ノーブル<BKS.N>が電子書籍端末を相次いで値下げしており、端末の利幅が薄くなってきていることも、日本勢に配信システムの構築を急がせる要因だ。野村総研・藤浪啓上席コンサルタントは「電子書籍ビジネスで、(コンテンツ配信の)プラットフォームを抑えることが競争の主軸になっているのは間違いない」との見方を示している。
 <流通主導の基盤構築へ国内勢が結束>
 日本市場の電子書籍の配信基盤の構築に向けては、端末メーカーではなく、紙の書籍で出版社と強固な関係を築いている印刷会社が主導権を握る動きが目立ってきた。大日本印刷7912.T>は7月、グループの書店チェーンの丸善、ジュンク堂書店、文教堂グループホールディングス<9978>の3社と共同で10月に国内最大級の電子書店を開設すると発表。11年末までに100億円を投じ、今年10月の開始時点に10万冊、11年中には30万冊の電子書籍を取りそろえる計画で、アマゾンの65万冊に近づく考え。
 大日印が強調するのは、自ら取りそろえる電子書籍をパソコンや携帯電話、スマートフォン、読書専用端末などあらゆる端末へ配信する点だ。端末メーカーが電子書籍コンテンツを囲い込むのではなく、国内外のすべての端末への配信を想定するという。ソニーと配信会社を設立する凸版印刷<7911>も、ソニーやKDDIの端末だけでなく、様々なメーカーの端末に配信することを前提にしている。
 これはアップルやアマゾンなど電子書籍を自ら調達して自社端末へと配信する「垂直統合型」のビジネスに対抗するモデルといえる。日本市場では、出版・印刷・取次・書店の流通構造を維持する「水平分業型」のビジネス構築を目指すとしている。これに向けて大日印と凸版の「印刷2強」は7月27日、「電子出版制作・流通協議会」を設立。電通<4324>も幹事社に加わり、出版、印刷、ソフトウェア会社のほか、電機メーカーでは、パナソニック<6752>と東芝<6502>、通信会社としてNTTドコモ<9437>など89の企業や団体が参加した。
 協議会会長に就任した高波光一・大日印副社長は設立後の記者会見で「アップルやアマゾンが中心でやっていく形になると、日本文字の特殊性や組版、縦組み、横組みという文化が損なわれる可能性があると危惧している」とし、日本の電子書籍の流通構造の構築に主導的な役割を果たしていく意向を示した。
 <グーグル国内参入が台風の目>
 アップル・アマゾンに対抗して日本勢が印刷・流通主導で結束する一方で、注目されているのがグーグルだ。来年初めに電子書店の「グーグル・エディション」を日本で立ち上げて電子書籍販売を始める計画で、ここでも、配信する端末を限定しない方針を掲げている。
 グーグル・エディションは「試し読み」で書籍本文の20%まで無料で閲覧できる「グーグル・ブックス」の機能を拡充し、100%閲覧の権利を販売するサービス。今夏に米国で先行して事業を開始する計画で、日本では来年初めの始動を目指して国内出版社に電子書籍コンテンツの提供を呼びかけている。パソコンやスマートフォンなどウェブブラウザーを持つすべての端末で利用できるだけでなく「ブラウザーのない読書端末でも閉ざすことなく利用できるサービスにする方針」(グーグル日本法人・佐藤陽一マネージャー)で、国内外メーカーのあらゆる端末からコンテンツを購入できるようにする意向だ。
 インターネットメディア総合研究所・高木利弘客員研究員は「グーグルはすでに出版社との関係もあるのでコンテンツもすぐに増えていくだろう」と予測する。それと同時に、コンテンツの「開放」を表明するグーグルの参入は「垂直統合」のアップルに対抗する動きとみられることから「日本の電子書籍市場でもアップル対グーグルの構図ができつつある」として、国内で結束する日本勢が埋没する可能性を指摘している。
 日本市場においてもグーグル・エディションの存在が大きくなれば、日本の端末メーカーはグーグルの配信・課金のプラットフォームに頼らざるを得なくなる。すでにソニーは米国市場のリーダー端末でグーグルが集めた著作権切れの作品を提供しており、日本の電子書籍事業でもグーグルのコンテンツを利用するようになるとみる関係者は多い。
 また、グーグルとソニーは5月にグーグルOSのアンドロイドを採用した情報端末の開発で提携した。このことから高木氏は「ソニーがアンドロイドを採用した多機能の電子書籍端末の開発に動くかもしれない」と予測しており、電子書籍ビジネスでもグーグル陣営にソニーが加わるなど、グーグルが日本の端末メーカーを巻き込んで、さらに合従連衡を促す可能性を指摘している。
 (ロイター日本語ニュース 村井 令二)

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最終更新:8月2日16時45分

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