きょうのコラム「時鐘」 2010年8月3日

 白昼の「怪談」である。運転士は電車に飛び込む人影を見た。衝撃を感じ車体も破損した。が、点検しても人はいなかった

こんな「怪談」もあった。111歳の高齢者が約30年も前に亡くなっていた。かと思えば、113歳の東京都最高齢者の「所在が確認できない」という。長寿社会の陰に広がる怪談は、年金という現実と結びつくから厄介である

育児放棄されて幼子2人が死んでいた。マンション一室がゴミ屋敷状態になっていて、近隣には泣き声が聞こえていた。若い母親が責められて当然だが、離婚したとはいえ、父親の姿が皆目見えない。性倫理が崩壊した世代の怖い話だ

幽霊の出そうな丑(うし)三つ時に、中高校生がコンビニの灯りの中にしゃがんでいる。家があり、親もいるだろうに奇っ怪な話だ。現代の怪談はどこでも、だれでも見える所で起きている。だが、その怖さを見ていない

昔の怪談は「命の物語」だった。一歩誤れば、だれの人生にも起こり得ると思わせる教訓だった。だから、こわごわながら見たのである。今は、ひとごとだと思って見るからすぐに忘れる。怖い時代だ。