「音があまりにいいのでびっくりした」。横浜市に住む50代の男性Aさんは、今年4月からインターネットでラジオを聞き始めた。マンション暮らしでAMラジオの電波受信が難しくなってから、ほとんど聞く機会がなかったが、ネットによる同時配信が始まったというニュースを聞いて、早速試してみた。
パソコンで「ラジコ(radiko)」という専用サイトにアクセスし、在京7局から好きな局を選ぶだけ。懐かしいパーソナリティ(司会者)の声が流れると、「まだこの人が現役だったんだ」「プロ野球中継を聞きながら、ビールを飲むのは久しぶりだなあ」、とラジオを楽しむ生活にはまった。
5月にはアイフォーン対応のアプリ(ソフト)も登場し、外出先でも聞けるようになったため、ますます頻繁にラジオに親しむようになった。
最近では、Aさんのような人を「復活リスナー」と呼ぶ。学生時代に深夜放送などに親しんだラジオ世代が、インターネット経由でラジオに戻ってきているのだ。これまでラジオを聞いたことのなかった若い世代も、パソコンやアイフォーンなどを通じて、ラジオを“発見”しているという。
ラジコは、2010年3月15日にスタートした「IPサイマルラジオ」の実用化試験放送だ。サイマルは同時の意味。関東のTBSラジオ、文化放送、ニッポン放送、ラジオNIKKEI、Inter FM、TOKYO FM、J-WAVEの7局と、関西のABCラジオ、MBSラジオ、ラジオ大阪、FM COCOLO、FM802、FM OSAKAの6局が共同で設立したIPサイマルラジオ協議会が実施している。
「事前の予想をはるかに超える好評ぶり」と話すのは、電通ラジオ局スーパーバイザーで同協議会事務局の青木貴博氏だ。スタートした最初の週のアクセスは524万に達し、最近は週300万前後で安定している。1週間に延べ300万人がラジコでラジオを楽しんでいる計算になる。5月10日に配布を始めたアイフォーン用のアプリは、初日だけで10万ダウンロードを記録。現在までに56万件がダウンロードされている。アイフォーン利用者の4~5人に1人はラジコを使っている計算という。
4月に実施したアンケート調査では、十数年ぶりにラジオを聞いたという復活リスナーは33.4%に達した。都市部のビルやマンションなどラジオを聴取しにくい環境にいて、ラジオを聞きたくても聞けなかった人がいかに多かったかだ。また、ラジコを知って、生まれて初めてラジオを聞いた人も10%いた。(本誌につづく)
2010年7月31日