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[18389] 【習作】朝起きたらレギオス世界にいた男の話 (オリ主 現実→レギオス)
Name: 青星◆996184ac ID:f63f4812
Date: 2010/08/01 10:48
これは筆者がノリと勢いで執筆した鋼殻のレギオスの二次創作SSです。

タイトルにも【習作】とは入れてありますが、正直なところSSを書くというのはこれが初めてです。


なので至らぬ点が多々あるとは思いますが、少なくとも自分が書いていて楽しいと

思える物を投稿したいと思いますのでよろしくお願いします。


誤字や文法の間違いなどがあれば、筆者の力の及ぶ限りは直していきたい思ういますので、指摘して頂けるとありがたいです。


8/1
タイトル変えてみました。

ご指摘頂いた誤字を修正。あまりに多すぎて青くなりました(汗
次からは気をつけていきます。有難うございました。




[18389] 1話
Name: 青星◆996184ac ID:f63f4812
Date: 2010/08/01 01:57
ふと目が覚める、頭が重い、体がだるい。

おかしい、昨日はそんなに飲まなかったはずなんだが…?

重い体を気力で無理やり起こす。

「……あぁ?」

体を起して目に入ったのは見たことのない部屋。

…ヤバイ、酔って全然知らない人の家に入り込んだんじゃないか?

いいや、確かに昨日は自分の部屋で寝たはずなんだが…

そんな風に混乱しているとドアがガチャリと開き、4歳か5歳か、という位の年齢の

女の子が部屋に入ってきた。

女の子と目が合う、すると女の子はびっくりとした様子で慌てて駆け寄ってくる。

「兄さん!目が覚めたのね、大丈夫!?」

兄さんって誰だよ。と思ったのだが口にする前に女の子はすごい勢いで部屋から飛び出し大声で部屋の外に向かって叫ぶ。

「父さん、兄さんが起きたよ!」

父さん?待て、なにがどうなってる…

訳が分からない、ふと視線を自分の手に落としてみる。

手のひらが見える、いやそれは当然なのだが何故こんなに小さい?ありえん、まるで幼い子供の様な…

「ラウル、良かった…具合はどうだ?」

自分の様子に気を取られていると、いつの間にか知らない男性がすぐ傍に来ていた。

すぐ後ろにはさっきの女の子もいた。

「熱が下がらず意識を失くした時はどうなるものかと思ったが…」

男性が安心した様に顔を綻ばせる。

まるで親が子にするように俺の頭を撫でる。だが、この人とは初対面だし、大体俺はもう23歳…

「あの…誰、でしょうか…?」

起きぬけで酷く掠れた声だったが確かに二人には聞こえたようだ。

凄く驚いた様子で女の子が問いかけてくる。

「なにいってるの?父さんでしょ」

女の子はひどく心配した様子で俺を見る。

の子にこんな顔をさせたくはないが分からんもんは分からん。

「デルク父さんだよ、それに私はリーリン!」

デルクにリーリン?なんだその外人みたいな…というかアニメかラノベのキャラみたいな名前…

いや待てラノベ?とふと男性の顔をみる。心配し困惑した様子のその顔は何処かで見たような…?

「デルク……、サイハー、デン?」

「そうだよデルク・サイハーデン!私たちの父さんでしょ?」

頭に浮かんだのは『鋼殻のレギオス』というライトノルベのタイトル。

ありえんだろう、と頭で否定するが、現状を見るとこれは…

「兄さん、どうしちゃったの?」

「医者を呼んだ方が良さそうだな…」

異世界トリップってヤツですか…?、なんてこったい。



[18389] 2話
Name: 青星◆996184ac ID:f63f4812
Date: 2010/08/01 02:26
ラウル・クーヴルール

デルク・サイハーデンの経営する孤児院で育てらている孤児で、誕生日は不明、歳は大体5歳ぐらい。

それが、『今の』俺らしい。

あれから暫くして、やって来た医者の先生によって今の俺の状態は、『高熱の後遺症による記憶障害』という事で落ち着いてしまった。

そんなに簡単に記憶なんて無くなる物じゃないと思うんだが…

しかし、なんでもこの体は剄脈持ちだったらしく、原作でチラっと出ていた『剄脈の拡張』というやつになっていたらしい。

先生の話だと、武芸者の中でも稀にしかないソレなのだが、幼い子供がなったとなると前例はほぼ皆無だとかで、

原因が何かと言えば、それだと仮定するしかない、といった感じだった。

まあ、普通は5、6歳の子供の中身が丸ごといい歳した男に入れ替わってるなんて思う訳ないよなぁ…

だがしかし、これからどうしたもんか…



それではお大事に、と医者の先生が帰ると、部屋には俺とリーリンとデルクが残される。

さっきは混乱してて気付かなかったけど、この小さな女の子ってリーリンなんだよなぁ、と今更ながら考える。

鋼殻のレギオス、荒廃した大地に、人間が唯一生きることができる移動する都市が無数に行き交う世界が舞台の作品。

本編はそんな世界の中の、学園都市を舞台とした『学園ファンタジー』で、リーリンは物語のヒロイン。

原作は全て読んだファンとしては喜ぶべきとこなんだろうが…ううむと考える。

この作品、学園ファンタジーなんて銘打ってはいるが、その背景は結構ハードなSFものだ。

ぶっちゃけ、何が言いたいかと言うと………死亡フラグが透けて見える。

幸か不幸か、この身は武芸者としての資質を持っている。

汚染獣なんて物がいる、この世界で生きるとなると戦いというものからは逃げられない訳である。

原作に極力関わらず一般武芸者A、として生きるのも有りかとも考えたが、

最悪な事に、此処は世界一安全な都市(笑)と名高いグレンダンだ。

最強の武芸者である12人の天剣授受者、そしてその頂点に立つ女王。

自ら汚染獣に挑みかかるかのように危険地帯を放浪し、それこそ年中戦い続けている狂った都市とも言われるグレンダンは彼女達の存在により今日まで戦い抜いてきたと言える。

そんな都市だから武芸者の人死になんかしょっちゅうだろう、一般兵士Aなんぞあっという間にやられてしまいそうだ。

頭を抱えたくなる様な事を考えていると、どうやら変な顔をしていたらしい、リーリンが心配そうに覗き込んでくる。

「兄さん、大丈夫?まだ横になっていた方がいいよ…」

こんな子に、不安げな顔をさせるのは正直気がひけるなぁ…

兄さん、なんて呼ばれる位だから普通の兄弟位には親しいんだろうな、と適当な当たりをつけ、

リーリンの頭をグリグリ撫でてやる。

「大丈夫、ちょっと考え事してただけさ」

そういってニッと笑顔を作ると今度はリーリンだけでなく父デルクにまで、ぎょっとした顔でに見られた。

ちょぉぉい!なにやらかしたんだ、俺ェ!!

「兄さんが、そんなふうにに笑うの、初めてみた…」

リーリンがポツリと呟いた。初っ端から躓く俺。

いや、どうせ記憶喪失って設定になっちまったんだからそのままのキャラで通せばいいじゃんかよ。

と半ばヤケクソでデルクに話しかける。

「俺って、そんなに無愛想だったんですか?」

「そうだな…余り喋らない、静かな子だな」

さらに言えば、そんな敬語も使ったことはない、とデルク。

そりゃあ、養父とはいえこの歳で、親に敬語で話す子供もいないよな…と今更後悔する。

後で聞いた話によると前の俺は、普段は殆ど喋らず、表情も乏しく、孤児院の兄弟の中でも結構浮いた存在だったらしい。

そんな時だった、部屋の中にグキュルル、と場違いな音がする。

リーリンがクスクスと笑い、デルクが表情を緩める。赤面しそうになる俺、い、今は5歳だから恥ずかしくないッ

「朝ごはんの残り、兄さんの分ちゃんと残してあるから、持ってくるね」

パタパタと音をたてリーリンが部屋から出て行く。

二人きりになり、部屋が静かになったので、何となく気まずくなり、デルクへ話しかけてみる。

「…今日は、レイフォンはどうしてるんですか?」

『鋼殻のレギオス』の主人公であるレイフォン。ここで養父が「誰だ、それは?」なんて言ってくれればここは俺が知ってる本に良く似てるだけの世界って事になるかもしれないのだが…

「ん、先程皆で外に遊びに行かせた。病み上がりの人間がいるから、な」

うん、まぁ…解っちゃいたんだけどね?……違ってくれたら良かったんだけど、やっぱここはレギオスの世界で後十数年で世界の危機ってやつが来る場所なのである。

うおお、マジかよ、ってことはその時になったら俺もドゥリンダナやらその分裂体やらと戦うハメになるんだろうか?

最高にヘヴィだ……いや、その前に普通の汚染獣との戦闘で戦死、何てことも考えられるじゃないか?…結局なるようにしかならないんだろうなぁ。

前途多難過ぎる未来に想いを馳せる俺。まだ何もしない内から挫けそうだ…。









意識を取り戻した息子が記憶を失っていたと聞いた時、私は…正直ほっとした。

ラウルは戦災児だ。両親は共に武芸者で汚染獣との大規模な戦闘で数年前に戦死している。

勇敢に戦い、そして死んだ者達の子だ、本来ならば親戚に引き取られるのが筋だろう。

しかし、ラウルの親戚達は皆、彼を引き取ることを拒んだ。

クーヴルール夫妻の間に生まれた子は両親と同じ剄脈を持つ武芸者として生まれた。

しかし問題はその剄脈から生み出される頚の量があまりに少なく、基本となる剄技の使用すら困難だという事だった。

この世界で、戦えない武芸者に居場所などない。引き取り手のいないラウルが最後に行き着いたのが自分の孤児院だ。

記憶を失う以前のラウルは、一切の感情を失ってしまったかのような子供だった。

無理もないことだ思う、この子は血の繋がった者達、そしてこの世界に見放されたのだ。

だから、記憶を失くしてしまったことは、ある意味では救いだったのかもしれない。

不幸中の幸いか、事の原因だった剄脈の拡張により平均的な剄脈として機能を得る事ができたのは医者から聞いた。

これからラウルは武芸者としての人生を歩むことができる。ならば、忌わしい過去など忘れ去ってしまった方が良いだろうと思う。

なんて勝手で傲慢な考えだ。私はこの様な事を考える自分を恥じた。

ならばこそ思う、私はこの子を強くしようと。それが剣を振るうしか能の無い自分が子の親としてできる、唯一の事なのだから。













あとがき

はじめまして青星と名乗る者です。

レギオス原作は結構前から読んでたのですが、このSSを書く直前になってレジェンドやら聖戦を読み始めたので設定など結構いい加減な部分があるかもしれません。

この2話の時点で結構ご都合展開な感じですが…あんまり原作無視しているようなら教えて頂けると大変有り難いです。



[18389] 3話
Name: 青星◆996184ac ID:29f37951
Date: 2010/08/01 10:17
俺の第二の人生が始まってからあっという間に時間は流れた。

あれから5年が過ぎ、その間に色々と大変な事があったわけなんだが、始めの方の想い出は、特に思い出したくない。

なにせ武芸の稽古を始めて、いきなり寝ている時でも剄息を止めるなだの、模擬刀の素振り千本だのとても5歳の子供にやらせる内容じゃあない。

遣り過ぎだよ、養父さん………まったく疑問に思わず、言う事全部聞いてた俺も俺だが。

流石に毎日ゲロ吐くまでやらされるのはおかしいって気付くだろう、と過去の自分に言いたい。

御蔭でかなり強くはなってきたとは思う。他にも俺の初陣やら超ヤバイ食糧危機やらがあったんだけど……

まぁ、これについて今考えるのはよそう。

うん、いい加減現実逃避は止めるか、今意識を向けるべきなのは、そんな昔の話じゃなくてだ。

「GYAAAAAAA!!!」

コイツだよ。



「レストレーション」

小さく呟くと手に持った小さな棒が一振りの刀へと変わる。鋼鉄錬金鋼製のそれの重さは、もうすっかり手に馴染んだものだ。

刃物なんて包丁くらいしか縁のなかった自分が、と感慨に耽る暇もない。

剄を流し、活剄により身体能力を水増する。体に力が漲るその感触を確かめもせず向かってきた幼生体を一瞬で斬り裂く。

「状況は?」

(やや苦戦しています。防衛ラインが崩される事はないでしょうが、数が数です、幾らかの討ち洩らしはあるでしょう)

近くにあった念威端子へと問いかけ、返ってくる無機質な声。まったく嫌になる。

場所は都市の外縁部、エアフィルターのすぐ手前で今ここにいるのは俺一人。見えるは無数の汚染獣。どうしてこうなった。

……状況を整理しよう。グレンダンでは汚染獣との戦いは割とありふれた日常だが、今日のやつは何時もよりやっかいだった。

結構成長した雄性体と複数の雌性体、そして万を越える幼生体。老生体こそ出ていないものの、この数がやっかいだ。

全方位から襲われる事になったグレンダンは武芸者を広域へ配備することが必要になった、だから一つの場所での配備の人数が減った。

ここまではいい。問題は、だ……問題は、なんで俺が一人でここを守らされてるかって事だよ!!

討ち洩らしとは言っているが、元の数が数だ。俺の所に来るのも10や20なんてもので済む訳が無いだろう。

(それは先程説明した通りです。都市部への被害を最小限に留める為には都市外での敵勢力の駆逐が必須。ならエアフィルター内の戦力が手薄になるのは仕方のない事でしょう)

なにせこの都市は貧乏ですからね、と念威操作者。都市へ侵入しようと次々と向かってくる幼生体を俺は斬る、斬る、斬る斬る斬る斬る―――

「だからってどうしてここは俺一人!?」

(それも説明しました。個人の適性、実力を考慮した結果です。貴方の所属部隊の隊長からも推薦をいただいています。『クーヴルールならば問題ない』と)

今のグレンダンでは、歴代最年少で天剣になったサヴァリスという前例があるため、実力ががあれば年齢は問わない、という場合は結構あるが、それにしてもこれは酷い。

ここに来るのは幼生体だけだろう、ならば何匹きても遅れをとるようなことはまずない、だが背後の都市部めがけて一斉にこれだけの数に来られては、全て抑えろというのも厳しい話である。

サイハーデン刀争術 焔切り

炎を纏った刃で纏めて数体の敵を斬り裂く、こうなってはもう温存などしていられる状況ではない。

更に一歩踏み込み、振りぬいた刀身をそのまま別の敵へと向ける。

サイハーデン刀争術 焔重ね・紅布

炎と化した衝剄を敵に叩き付ける、数体が纏めて吹き飛び、焼き払われるが、焼け石に水だ。俺一人じゃカバーできる範囲にも限界がある。

このままでは、都市部への侵入を許してしまうのも時間の問題だ。当然都市内にも武芸者はいる。

なので幼生体の数匹通したところで戦局に大きな変化など起らないだろうが、俺のしでかしたミスで都市部に被害など出ようものなら始末書の提出や報奨金の取り消しの可能性もある。

(加えて言えば、この配置は以前に貴方の言っていた、一人で少しでも多くの汚染獣を倒せる場所に就きたいという願いを考慮した物でもあります)

そういえば、そんなことを言った気がしないでもない……孤児院に入れるお金を少しでも増やそうとしての発言だったのだろうが、こうも裏目に出るとは。

それだけ実力を認められてるって事になるのかもしれないが、こうなっては有り難さもクソもない。

「そうは言っても、これ以上は俺一人じゃ支えきれませんよ?」

(その点は心配要りません、間もなく増援が来ます)

増援?端子の向こうに居る念威操作者にそう聞く前にそれはあらわれた。

俺と同じ鋼鉄錬金鋼の刀を片手に、溢れんばかりの剄をそのまま衝剄にして群がる幼生体たちをバッタバッタとなぎ倒しながら来るのは―――

「兄さん、大丈夫!?」

「レイフォンか!?」

フェイスヘルメットを被っていたので一瞬誰か分からなかったが、声を聞いてすぐ判別できた。

レイフォン=アルセイフ。若干9歳にして、既に並みの武芸者では敵わない程の実力をもつ、俺の弟。

レイフォンが配属していたのは、ここの隣の区域だったはずだ。

ここに来るまでにも結構な数の敵はいたはず、それを蹴散らしながら来たのか?流石というかなんというか……

(第二波、来ます)

端子から聞こえる抑揚のまったく感じられない声。ごちゃごちゃと考えてる暇はないらしい。

「蹴散らすぞ、レイフォン!」

「うん!」







あぁ、今日もなんとか生き残る事が出来た。

あれから結局、埒が明かないということで女王の命令により天剣が出撃。

パワーバランスが一気にグレンダン側へと傾き、数時間の間に敵勢力の駆逐に成功。これが今回の戦いの結末だ。

俺達の苦労は一体何だったのやら………グレンダン政府には文句の一つでも言ってやりたくなる。女王があの人では無駄だろうが。

「でも、やっぱり兄さんは凄いよ。一人であんな数の汚染獣を倒してたんだから」

孤児院への帰り道、レイフォンが興奮した様に言う。いや、それを言うなら単騎駆けして俺のとこまで来たお前の方が凄い。

「何言ってるんだよ、もう俺よりレイフォンの方が強いだろ」

「そうかなぁ?でも僕は、周りを気にしながら戦うのって苦手だから…」

照れたように顔を掻くレイフォン。

そんな事を話しながら歩いて、孤児院へと到着した。扉を開き、ただいまと声をかけると奥のほうからバタバタとやって来るのが聞こえる。

「お帰りなさい、レイフォン、ラウル兄さん!」

最初に迎えてくれたのはリーリンだ。この向日葵のような笑顔を見る度に帰ってこれて良かった、と心底思う。

ラウル=クーヴルール、現在10歳。今日も逞しく生きてます。









あとがき

主人公の実力がどの程度なのか考えるのにやたら苦戦しました。

現在、主人公10歳レイフォンが9歳(天剣になる2年前)

現在二人で孤児院の経営を助けるため、バッサバッサと幼生体なんかを狩ってる感じ?

今はレイフォンとそこまでの差は無いけど、そのうち剄量やら鋼糸やらでえらい差がでてくるみたいな

この時点があやふやでも、原作の時くらいまで成長してその時の実力がハッキリとしてればどうでもいいんじゃないかという気もしてきましたが…



[18389] 4話
Name: 青星◆996184ac ID:7fd1b92b
Date: 2010/08/01 11:51
青い空に白い雲。

ここはグレンダンの片隅にある商店街だ。

雑多な建物が立ち並び、平日でも大通りには人が絶え間なく行き交っている。

「リーリン、メモ見せて」

「あ、はい」

言われてポケットから小さなメモを取り出すリーリン。

今日はリーリンと町まで買い出しにきている。

何時もは大体これにレイフォンが一緒なのだが、今日は公式試合に出ていて留守なので二人だけだ。

リーリンの手にある、メモを覗き込む。うぅむ、まだ結構買い残しがあるな。

「こんなに買って、全部持ち切れるかな?」

メモに書かれた食料品の量は結構凄いことになっている。

大所帯な家なのでいつもの事ではあるのだが、

「俺がいるから大丈夫だよ」

しかし、早いとこ済ませないと夕飯の支度に間に合わなくなる。

少し急がなきゃな、隣に居るリーリンの手を掴む。

「ら、ラウル兄さん?」

「はぐれちゃ拙いからな。少し急ごうか」

なんかリーリンの顔が赤かかった気もするが、気のせいだろう。

時は金なり、特売は待ってはくれんのだ。さあ行こう。





商店街の大通り。隣を歩くリーリンを何故か上機嫌だ。

なにか良い事でもあったのかと聞いても笑顔で「教えない」と言われてしまった。

前の人生の時も思ったが、やはり女の子の考えている事を理解するのは難しい。

話は飛ぶが、前世といえばそう『鋼殻のレギオス』だ。

この数年間、訓練してゲロして訓練して…の繰り返しで忘れそうになってはいたが。俺はこの先の未来を大まかには知っている訳だ。

なのでレイフォンとリーリンがお互いにくっつくようにしようなんて考えて色々気をまわしてはみたんだが…

結果は惨敗。原作でも超ド級の鈍感なレイフォンだが、ここまでとは。

俺が稽古の自主練習をするときにも、リーリン達と遊んでろよ。と言っても一緒にすると聞かないし。

兄さん兄さんと後ろをついてくるのは微笑ましくて、つい甘くしてしまう俺もいけないのかもしれないが。

余談だが俺にベッタリくっついてくるレイフォンなんだが、最近それを見るリーリンの目が、その……結構怖い。

しかもそれが俺じゃなくてレイフォンに向けられている気がするんだよなぁ………

親としては不器用なデルクの代わりに色々と面倒を見てきたから兄である俺を独占されてやきもち焼いてたって事なんだろうが………

どうにもリーリンの方にも脈が無さそうなのはどうしたものか。こんなことで大丈夫なのだろうか?

「ラウル兄さん?」

ぼんやりとしていた俺を不思議に思ったらしくリーリンが見上げて来る。

なんでもない、と笑って誤魔化す。

「でも、ホントに良かったのかな?まだ結果もわからないのに」

実はこの普段を越える大量の食糧、俺のゴリ押しによって買ったものだ。

最近になって公式戦へ出場し始めたレイフォンだが、やはり強い。

今日もどうせ勝ってくるんだから、と買い出しのついでにお祝いでもしてやろうと思ったわけだ。

「もし負けて帰ってきたら皆もがっかりするんじゃ…?」

気の早い事この上ない、リーリンが心配するのも無理はない。

だが今朝見た感じでは調子も良さそうだったから、負けはしないだろう。なんたってレイフォンだし。

「今日はぜったい勝つって。俺が言うんだから間違いないよ」

ちょっと冗談めかして言うとリーリンがむぅっとむくれた。

「なんかズルい、そういうの」

「ズルい?」

「なんか二人だけ、お互いの事なんでもわかってるみたい」

院の中で養父以外では、俺とレイフォンの二人しか武芸者はいない。

なのでリーリンが疎外感を感じるのも仕方ないことかもしれないと思った。

「リーリンの事だって色々知ってると思うけどなぁ」

と誤魔化すようにリーリンの髪をクシャクシャにする。嫌がるかと思ったが嬉しそうにはにかむ。

なにこれ超可愛い。

「さぁ、早く帰らないと仕度に間に合わなくなっちゃうな」

レイフォンとリーリンをくっつけようとか以前に、俺が弟離れ妹離れ出来なくなるかもしれん。

そんなしょうもない事を考えながら孤児院へ帰った。





孤児院に戻り、玄関の扉を潜ると下の兄弟たちがワイワイと駆け寄ってくる。

「兄ちゃんおかえりー」

「レイにい勝ったよー」

「リーリンねえデートどうだったー?」

どうやら先にレイフォンが帰ってきてしまったらしい、しかしやっぱり勝ったか。

なんか妙なものも聞こえたが子供の言うことなので苦笑いでスルー。

顔を真っ赤にして否定しているリーリンに先に準備してると声を掛けて台所へ。

「さぁて、やるとしますか」

孤児院で生活をし始めてからは料理は皆で作るものだったので俺にも料理はできる。

前世で酒のつまみかカレーぐらいしか作らなかった時にくらべればだいぶ上達したと言えよう。

「手伝うよ、兄さん」

手際良く準備をしていると先に帰っていたレイフォンが顔を出した。

「休んでろよ、おまえの連勝祝いも兼ねてるんだから。」

「でも、悪いよ」

レイフォンはこういう事になると結構強情だ。

試合で疲れてるだろ、と居間へ押し戻そうとしているとリーリンが駆け足で入って来る。

「ご、ごめんなさい兄さん。すぐ手伝うから―――レイフォン?」

「あ、おかえりリーリン」

間が抜けたような声を出すレイフォンをみたリーリンの目が厳しくなる。

よくみるとレイフォンは埃やらで結構汚れている。

「お帰りじゃないでしょ、そんな格好で台所にはいって」

「で、でも……」

「でもじゃないの!すぐ仕度するから先にお風呂に入ってきなさい!」

リーリンに言われてしぶしぶと引き下がるレイフォン。

ほんとにとことんリーリンには弱い。

もう!と怒るリーリンを微笑ましく見ながら料理を再開する。

こんな日が毎日続けばいいんだが、史実通りいけばあと2年もしないうちにレイフォンは天剣となり闇試合へ参加することになる。

俺がいる事によって孤児院はレイフォン一人が稼ぎに出るよりずっと余裕がある。

少しずつではある他の孤児院へも寄付は出来ているのが現状だ。このままならレイフォンは闇試合へでなくても済むかもしれない。

その場合色々原作と食い違ってくるかもしれない。

だが最悪ツェルニには俺が行けばいい、老成体一期なら俺でも倒せる目途もなんとか立っている。

その後ならサリンバンもいる、ならばレイフォン不在でツェルニが壊滅することもないだろう。

「まぁ、結局なるようにしかならんわけだが」

もう何度目になるかわからないソレを呟いた。









修正作業の時に最後の辺りが消えてしまったようで、急いで直しました。

ホントすいません;;報告有難うございます。



[18389] 5話
Name: 青星◆996184ac ID:9d594930
Date: 2010/08/01 10:31
因果律という言葉がある。

大まかに言えば物事には起こるには必ず原因があるという事だ。

ラウル=クーヴルールという少年が孤児となったのも、『俺』という存在がラウル=クーヴルールの代わりにこの世界に現れたのにもきっと意味があったのではいかと、最近になって思えてきた。

正直、最初の頃は現実味がなかった。

フィクションの世界に入り込んで、自分が自分でない誰かになってしまうなどと。

我武者羅に強くなろうとする事で考えない様にしてきたが、間違いなく今の『ラウル』は異常なのだ。

記憶がないというのを言い訳にして今までズルズルときてしまったが、俺の在り方は酷く歪なのだと思う。

今の俺はラウルという少年を演じているだけなのだ。

レイフォンやリーリン。孤児院の兄弟達の良き兄貴分になろうと進んで世話を焼いてきた。

グレンダンに嘗てない食糧危機が来れば、院にお金を入れる為に誰よりも多くと汚染獣と戦った。

でもそれは、俺が本心で皆を助けようとやったことじゃない。

そうやって誰かに頼られて尊敬されることで満たされなければ、自分が誰かもわからなくなってしまいそうだったというだけだ。

結局のところ今の俺は『ラウル』という仮面を被った異邦人なのだろう。

長い前振りだったが、結局なにが言いたいのかと言うと、異常な存在はやはり異常な存在を引き寄せるということらしく。

「どうしてこうなった」

「いいから戦ってください!」

「全てはイグナシスの理想の元に」

また最高に面倒なフラグが立った、ということだ。










その日はどうにも寝付きの悪い夜だった。

やたらとムシムシするし、いつも使ってるはずの枕の高さがどうにも気に入らない。

隣で寝息を立てているレイフォンを恨めしく思いながらもなんとか寝ようとしてみたが一度こうなるとなかなか寝れない。

のそりとベッドから起きて、音を立てない様に部屋から抜け出す。

そのまま居間まで来て時計を見ると短い針が午前1時を差していた。

「……少し素振りでもしてみようか」

体を動かせば眠くもなるだろうし、なかなかの名案だろう。

しかし真夜中に道場を使えば寝ている誰かを起こしてしまうかもしれない。

それならどこかの広場にでも行ったほうがいいかもしれない。

こんな遅くに出掛けてはデルクや年上のルシャ姉さんにしかられるかもしれないが…

「バレなきゃ大丈夫だしな」

そうと決まれば即実行である。殺剄で気配を消し外へ出る。

外へでるともう人の気配はなく、建物からも灯りは消えていた。

外灯に照らされた道を音もなく駆ける。

ちょっとした冒険気分にワクワクする。随分昔に一人で夜、自販機に飲み物を買い出た時の事を思い出す。

「結構な間こっちで過ごしたけど、人間って案外変わらないもんだな…」

昔の事を思い出し少しブルーになりそうになる、なので余計な事を考えないように走る速度をあげた。






「…?」

住宅街から少し外れた広場についた俺はぐるりと周りを見渡す。

広い敷地にもうしわけ程度にあるブランコ、普段は近所の子供達の遊び場としてあるはずのそこが酷く不自然なものに感じた。

相変わらず蒸し暑い気温で生温い風が肌に触れる、だというのに何処か寒々しく、ピリピリとした空気をかんじる。

これじゃまるで、これから戦闘の起こる戦場みたいじゃないか。そう思った時だった。

(………人?)

誰もいないはずの広場に人影が見えた。

それもレイフォンやリーリンと同じくらいの背の高さで、影の形から女の子であることが解った。

もしかして家出か?通りがかった手前放っておくわけにもいかないだろうと近づく。

「なにしてるんだい?こんな時間に」

「えっ!?」

女の子は何かに気をとられていたようで、後ろから声をかけるとビクリと体を震わせこちらに振りむいた。

「一人で女の子が出歩くには危ない時間だと思うけど?」

「……何故、貴方は此処に入る事が出来るんですか?」

「は?」

「今、此処は危険です。とにかく離れて――」

「いや、なんの話をしてるんだ?」

要領を得ない会話に思わず聞き返してしまう。

だが、よく見ると女の子の身なりが良いのがわかった。黒い髪を束ね、幼い顔立ちもどこ気品が漂っている。

どこかのお嬢様なのか?と思ったところで、彼女の手に何かが握られている事に気づく。

「錬金鋼?」

紅色に輝く紅玉錬金鋼の小剣。ということは武芸者か?

しかし街中で復元状態にするとは穏やかではない。

「――ッ、来ます!」

「いや、なにが――って!?」

気がつくとさっきまでは俺と隣に居る女の子しかいなかった広場に無数の人影が現れている。

周囲に気を巡してみれば俺とこの子を囲むように少なくとも十人以上はいる。これだけの数にここまで近づかれて気がつかなかったってのか!?

人影が一つ、俺達のほうへと近づいてくる。平均的な成人男性程の背丈にすっぽりとフードを被り、顔には何かの獣を模っした仮面を付けている。

いや、ちょ、ま、こいつらってまさか狼面sy――

あまりの事態に混乱している俺に女の子が檄をとばす。

「訳がわからないとは思いますが、とにかくアレは敵です。死にたくなければ戦って!」

「ったく!」

レストレーション、とヤケクソになって錬金鋼を復元させると、それに呼応するかのように仮面の男達は襲いかかって来る。

一人が俺に斬りかかろうとしてくるが、相手の武器が届く前にそれ以上の速度の抜き打ちからの一閃で斜めに斬り上げる。

腰から肩にかけてバッサリと斬られた相手は溶けるように消えていく。

予想よりあっけない、と思ったところで消えた狼面衆の背後から別の相手が今度はまとめて飛びかかって来る。そういやこいつ等の武器は数だったっけ!?

「どうしてこうなった」

「いいから戦って下さい!」

「すべてはイグナシスの理想の元に」

誰が発したとも解らない声が狼面衆達から聞こえる。

出来心で抜け出したがために、最悪の夜になったよチクショウ!





「はぁッ!」

向こうは数があるので守勢にまわらない様に、とにかくなにもさせない内に撃破していく。

一人一人は大した事がないので慣れてしまえば簡単なもので、立ち回りさえ気をつければ問題なく倒せる。

旋剄で一気に相手との距離を詰め、焔切りでの横薙ぎの一閃。数に任せての連携は厄介ではあるが穴も多い。

これならば汚染獣相手の方がよっぽどキツイ。

ふと一緒に戦っている彼女の方を見ると、向こうも順調に敵を撃破している。

小剣の扱いの方はまだ拙いところが多いが、それに併用している化錬剄は彼女の頚量の豊富さもあってなかなかの威力だ。

うちのレイフォンは別格として、この歳にしては相当できるんじゃないか?

最期の一人を衝剄で打ち抜く、するとさっきまでの重苦しい空気が嘘のように辺りに静寂さが戻った。

「お疲れ様です」

汗を拭おうとすると女の子がハンカチを差し出してきてくれた。

汚すのは悪いとは思ったが断るのもなんなので有り難く借りておく。

「ん、有難う」

「しかし、意外でした。王家の方で私以外に彼らと戦っているのはもう一人だけかと思っていましたので」

……今、なんかトンデモナイ単語が聞こえてきた気がする。

「……王家?」

「ひょっとして、アルモニス家の縁の方でしょうか?ユーノトール家の男子はミンスだけでしたから」

一人で納得顔になっていく彼女だが、見当違いもいいところである。

凄まじく飛躍する話を慌てて否定する。

「とんでもない、俺は孤児だし」

「孤児?黒髪に黒目なのでてっきり…彼らと関わりがあるのは血筋の影響かと思ったのですけど」

不思議な事もあるんですね。と、どうでもいいことのように首を傾げる彼女。

それは俺が言いたいと喉まで出掛けた言葉を飲み込む。

「失礼ですが、お名前を伺っても?」

「あ、ああ。ラウル、ラウル=クーヴルールだ」

「ラウル……」

告げた俺の名前を噛み締めるように呟く。な、なんか視線がどことなく熱っぽい様な……?

「申し遅れました。私はクラリーベル=ロンスマイアです」

「な、なんだってー!?」

ロンスマイア、という事は彼女は天剣授受者ティグリス=ノイエラン=ロンスマイアの孫にして三王家が一つロンスマイア家の正式な跡取りだ。

な、なんてこったい 。昔なら原作ヒロインktkr!とか言って喜んだかもしれないがグレンダンに馴染んだ今となっては予想外のビックネームに青くなるしかない。

「どうして、クラリーベル様のような方がこんなところで―― 」

「クラリーベル様ではなくクララ、とお呼び下さい」

それから、そんな敬語もいりませんと笑顔で告げる彼女。

ひいぃ、高すぎる好感度が逆に怖い!とにかく話題を変えようとさっきの戦いの事を切りだす。

「そ、それでクララ?さっき相手の事は知ってるのか」

「狼面衆と名乗る彼らですね、と言っても私はそれ以上の事はなにも知らないんですけどね。恐らくは王家のゴタゴタに関係してるのでしょうけど、大した相手ではありません」

集団戦の練習には丁度いいですけどね。と、見た目に似合わず剛毅な事を言うクララ。

確かにあれだけの実力があれば先程の戦い程度は朝飯前だろう。

しかし、クラリーベルが狼面衆と戦いだしたのってこの頃だったのか?流石に十年以上前に読んだ本の内容はそこまで細かいところまで覚えてはいられない。

どうしたものか、と思案するが俺にクララはそんなことよりも、とズイと顔を近づけて来る。

「ラウルは刀を使っている様でしたが、どこかの流派で剣を学んでいるのですか?」

「養父がサイハーデン流刀争術の師範だから、そこでね」

「サイハーデン?確か、今のサリンバンの団長と同じ流派でしたか」

なるほど、道理で。と納得する彼女。

「素晴らしい腕前でした。同年代で貴方程の使い手は始めて見ましたから。次は是非手合わせをお願いしたいです」

「いや、はは……」

興味があるのを隠しきれない、といった様子で言われては苦笑いで返すしかない。

この頃から既に戦闘狂の一面はあったらしい。クララって一応はお姫様なんだよなぁ、これだからグレンダンは嫌だ。

そんなこんなでいると、いつの間にか空が白み始め、辺りも明るくなってきていた。

「って帰らないと!?」

「私も、そろそろ戻らないと不味いですね…」

ヤバイぞ、夜中に抜け出したなんて養父にしれたら地獄の特訓が再び帰って来る……!

急いで戻らなければ、と走りだそうとしたところで先程クララに借りたハンカチの事を思い出す・

「借りたハンカチ、洗って返すよ。…どうせまた近いうちに逢えそうだ」

「ふふ、そうですね。」

クスリと笑うクララ。今回だけならいいのだが、今後も狼面衆に関わらせられるのは間違いないだろう。勘でしかないが、こっちに来てからの俺の勘はやたらと当たる。

正直笑いごとではない、一体どうしてこうなった。

「それでは、また逢いましょう。ラウル」

「ああ、また」

それを最後に孤児院へ向かって全力疾走。

だったのだが……やはり居ない事がバレて大騒ぎになったらしい。

おかげで大目玉を喰らった上に訓練のメニュー倍乗せだよ。なんてこったい。







「ラウル=クーヴルール…」

帰路の途中、クラリーベルは小さく呟いた。

狼面衆と名乗る彼らと戦いは、始めの頃こそは修行になると、進んで彼らの気配を追ってはいたが。慣れてしまえば数ばかりで質の伴わない退屈な物だった。

今日の戦闘も彼らの目的が多少なりとも解れば儲けもの、という程度の気持ちで臨んだのだが、結果として予想外の成果を得る事ができた。

ラウルと名乗った少年は、クラリーベルにとって非常に興味深い存在だった。

ロンスマイア家の跡取りとして幼い頃から鍛えられてきたクラリーベルは同年代では敵はいないと自分でも思っていた。

しかし、彼が最初に放った抜き打ちを見た時は思わず震えがきた。

「あれは、良いものでした……」

一瞬彼の手がブレたかと思えば、次の瞬間に狼面衆は真っ二つになっていた。剄で視力を強化していなければ彼が何をしたのかすら分からなかっただろう。

鋼鉄錬金鋼の刀が舞う度に放たれる技の数々には剄だけではなく、それ以外のなにか強いものが込められている様にも感じられた。

あの年齢で、どれだけの修練を積めばあれだけの技が放てるようになるのだろうか。

剄量こそ自分が勝っていたがそれ以外の技術は全体的に彼の方が一回り以上は上だったように感じられた。

「きっと、また逢えますよね」

自分と変わらない歳なのにどこか、大人びた様子の彼の姿を思い出す。

別れ際の約束、どうも彼からは流されやすそうな印象を受けたが一度言った事を反故にするようなタイプには見えなかった。

ならばきっと期待は出来るだろう。

「楽しみです」

クラリーベルは誰にともなく笑みをこぼした。












あとがき

クラリーベル&狼面衆、フラグ乱立の回。

…実はこれ、初めはラウルは王家人間の隠し子やら駆け落ちした者の血をひいてるんじゃないのかみたいな話にして

後のリーリンフラグにしてやろう、なんて思って書いてたんですが…

何故かクラリーベルの話に、どうしてこうなった

後で補足修正するかもしれません(汗)



[18389] 6話
Name: 青星◆996184ac ID:a2d2be4d
Date: 2010/08/01 12:14
「天剣の選抜試合?」

「うん、出て見ようと思うんだ」

昼過ぎの道場でレイフォンが相談があるというので話を聞くとそんな言葉が出てきた。

「先週の戦闘で出動回数も規定までいったし、もしかしたら良いとこまで行けるんじゃないかと思うんだ」

天剣の選抜と言えば政府の公認試合の中でも最も大きく、出場の条件も厳しい試合だ。

出場している武芸者もルッケンスやミッドノッドなど名門流派の師範代などグレンダンでも最高レベルの者達だ。

そんな試合に十歳の子供が出ようと言うのだ。普通なら考えられない事なんだが…問題はそこじゃない。

俺からしてみれば、遂に来るべき時が来てしまった、という感じだ。

俺の知る鋼殻のレギオスならば、その試合でレイフォンは刀を捨て、後に天剣の名を使い禁じられた闇試合へと身を投じて行く。

長年一緒に暮らしてきた弟がそんな事する訳がないと思う反面、自分が今ここに居る事で一体何が変えられたのかという思いもある。

それが表情に出ていたのか、レイフォンが不安げに問いかけて来る。

「やっぱり、駄目かな?」

「……いや、今のお前なら十分にやれるさ」

そう言うと途端に笑顔になるレイフォン、それに反して俺の内心は複雑だ。

俺は今、兄である自分を無条件で慕ってくれる弟を疑っているのだ。この世界に来た時から覚悟はしていたつもりだったが、いざその時になってみれば穏やかではいられない。

まだお前には早い、俺がそう言えばレイフォンは試合への出場は多分諦めるだろう。

だけど、この世界に来て武芸者として生きてきた俺には目標に向かって進むレイフォンを邪魔するなんて出来ない。

天剣授受者とは武芸者の頂点であり、栄光であり、希望なのだ。『原作』だなんて不確かな未来を理由に、それを邪魔していい訳がない。

「申請はまだなんだよな?その前に義父さんにも話しておかなきゃな」

「うん。でも、その前に兄さんに如何しても頼みたい事が有あって」

ん、なんだ?とレイフォンを見ると何やら緊張した面持ちで俺を真正面から見て来る。

「一度だけ…一度だけでいいから、僕と本気で戦ってほしいんだ」

「レイフォン……?」

レイフォンとは実戦を想定した組み稽古は何度もしてきた。回数でいえば師匠であるデルクよりも多いだろう。

しかしお互い全力の試合となると一度もした事がない。強さを求める事に執着が無いわけではなかったが、もともと生きる上での手段として武芸をしていた俺と、それを真似するように始めたレイフォンではそういう機会は生まれなかった。

それをこのタイミングで切り出してきたとなると、どうも嫌な予感が確信へと近づき始める。

「駄目、かな…?」

僅かに緊張し、手を固く握るレイフォン。

断ればいい、逃げてしまえばいい、俺がラウルになる前から持っている部分がそう囁く。だが…

「いいぞ、ただし模擬刀でだからな」

内心を顔に出さないよう、出来る限り何時も通りに応える。

そうするとほっとした様にレイフォンの表情も緩む。

逃げるな、ラウルとして生きてきた俺が言う。ここで逃げれば、お前は何者にもなれないと自身を責め立てる。

なるようにしかならない、少なくとも今はそう思う事にしようと気持ちを切り替えた。












模擬刀を正面に構え、向かいあう。

普段はどこかぼんやりとした印象を受けるレイフォンの青い瞳が、今は無機質な光を放つ。

「シッ!」

「はぁぁッ!」

同じ構え、同じタイミングで同時に前に出る。刀同士がぶつかり合い、衝突した剄が周囲へ吹き荒れる。

互いに全力の戦い、とはいっても使う得物の点でレイフォンには大きなハンデがある。

今使っているのは鋼鉄錬金鋼の使用を想定し設定した模擬剣だ。剄よりも刃物としての性能を重視したソレは剄技の使用に関しては俺でさえ些か不満が残る。

生まれ持った膨大な剄量を活かしきれず、剄技の出力に大きな制限のある今の状況はレイフォンの最大の長所を潰しているといえる。

レイフォンからの斬撃を払い、返し放った下段からの攻撃をレイフォンが受け止める。

レイフォンが後ろへ跳び距離を取る、すかさず衝剄で追撃をかける。

しかし、レイフォンが返し放った衝剄に飲み込まれ、俺へと返って来る、それを身をひねる事で避ける。

確かに出力に大きな制限はある、だが剄の密度では圧倒的にレイフォンが上である事が解る。

おまけに剄の総量が多い、ということはそれだけ身体能力を増幅させる内力系活剄の濃度が増すという事でもある。

今の俺はレイフォンの活剄に対抗するために、かなりのオーバーペースで自身に剄を流している。

最初の内は実力が拮抗していてもこのままではそう遠くない内に俺の剄が枯渇し、勝負はレイフォンの勝利で終わるだろう。

「―――くッ!?」

旋剄で距離を詰め、強引に打ち合いへ持ち込む。そのまま数合打ち合う。

経験と体格差によるリーチ。僅かではあるが、刀を扱う技術ではレイフォンより俺の方が上だ。

自画自賛にはなるが、センスはあるのだ。ラウル=クーヴルールには。だが……


外力系衝剄の変化、轟剣


剣戟と剣戟の合間。その一瞬に驚異的な速度で練り上げた剄が、剣閃と共に衝剄となり俺へと向かってくる。

反射的に刀でレイフォンの一撃を防ぐが、衝剄による衝撃までは防げず後ろへと大きく吹き飛ばされる。

「しまっ――!?」

「ああああッ!」


サイハーデン流刀争術、水鏡渡り


旋剄を越えた超移動によりレイフォンが間合いを詰める。

轟剣により僅かに体制を崩したために対応が一瞬遅れる。


サイハーデン流刀争術 焔切り


サイハーデンの剣の基本にして奥義ともいえる技がレイフォンから放たれる。

同じく焔切りでなんとか弾き返すが、僅かな遅れが威力に決定的な差となって現れている。

唯の剣撃ならば今の一撃を防ぐことで活路を見出す事も出来たかもしれないが、この技の真髄は二撃目にこそある。

「はぁぁぁ!!」

「つッ…!?おおおお!!」


サイハーデン流刀争術 焔重ね


押し負ける。そう確信したが一度焔切りを放った以上、レイフォンの焔重ねを追撃するには同じ技を使う以外にはなかった。

刀と刀が、剄と剄とがぶつかり合う―――――――――!











「まったく……本当に強くなったな」

一応の決着がつき、俺とレイフォンは道場の床にに二人で座りこんでいた。

結果は引き分け…とはいえ実質俺の判定負けだ。

最後にお互いの焔重ねぶつけ合ったところで、レイフォンの剄にとうとう模擬刀が耐えきれなくなり錬金鋼が爆散、酷使し過ぎた俺の模擬刀も運命を共にした。

唯でさえ余裕の無い孤児院暮らしなのに、予定外の出費を出すハメになるとは……これが嫌で武器破壊の技である蝕壊も使えなかったってのに。

「これじゃ、後で大目玉喰らうだろうな……」

「あはは…」

完全に鉄屑と化した錬金鋼を持ち上げて思わず溜息をつく。

金に無頓着過ぎる養父はともかくとして、最近孤児院の財布を握る様になったリーリンが怖い。

乾いた笑いを浮かべるレイフォンの目も遠い。

後でバレたら二人とも大層なお叱りを受けることになるだろう、あの子もレイフォンとは別の意味で逞しくなったからなぁ…

「でも、やっぱり兄さんには勝てなかったよ」

「何言ってるんだ、殆ど俺の負けみたいなものだろ?」

最後の焔重ねが、実際の鋼鉄錬金鋼ならどういう結果になっていたかは解らないが、そもそもの地力で俺が完全に負けてたわけだし。

少し前までは、まだ俺のほうが強かったんだけどなぁ。

「ホントに大したヤツだよ、お前は」

ガシガシと乱暴にレイフォンの頭を撫でる。

されるがままになるレイフォンは笑っていたが、どこか申し訳なさそうな雰囲気も纏っていた。

「ありがとう兄さん、…これで選抜試合も頑張れるよ」

「…そっか」

恐らくレイフォンは刀を捨てる気なのだろう、『原作』通りに。

以前に起こった食糧危機は知識として知っていたが、実際に目の当たりにして見れば本当に酷い物だった。

俺達の院はまだよかったが、余所では孤児たちのなかにも少なくない餓死者が出たというのは聞いていた。

純粋なレイフォンが養父の技を捨ててでも同じ境遇の者達を救いたいという気持ちになるのも仕方がない事だろう。

天剣になるのはいい、闇試合に出るのは止めさせなければならないとは思う。

だが、果たしてそれが正しい事なのか俺にはわからない。

お世辞にも良いとは言えないグレンダンの経済状況では、食糧危機が去った今になっても孤児院への援助が満足に行われているとは言えない。

レイフォンが闇試合へ出れば救われるものがいるだろう、たしか原作でも天剣が闇試合に出ていた事が公になり孤児院への援助が見直されていたような記憶もある。

それを、本来いる筈のない俺の独断で無かった事にするのか?そんな事が許されるのか?

解らない、レイフォンと名も知らぬ大勢の孤児、どちらを選ぶことなどこの世界の人間じゃない俺が決めることなんかできやしない。









「ごめん、兄さん」

レイフォン=アルセイフは口の中で小さく呟いた。

レイフォンが武芸者としての修行を始めたのは剄脈を持って生まれた者としては当然の事であったが、それ以上に兄への憧れがあったからだ。

グレンダンを襲った食糧危機、このままでは生きる事もままならないと皆が途方に暮れていた時に、兄は自分が稼ぎに出ると告げた。

当時は師匠である養父を初め年上の兄弟達も、お前には早過ぎると揃って反対した。しかしこのままでは結局食べる事も出来ないと皆の反対を押し切って一人戦場へと向かっていったのだ。

兄が初めて戦場から帰ってきた時の事は今でも覚えている。リーリンが大泣きして、普段物静かな養父でさえ大きく胸を撫で下ろしていた。

その頃からずっと兄は皆の憧れでヒーローだった。レイフォンにとっても目指すべき場所で、誰よりも尊敬する大好きな兄さんだった。

兄の後を追うようにレイフォンが戦場へと身を投じるようになり、院の運営も安定してきた所で他の孤児院へも出来るだけ寄付しようと兄が提案した時は驚いたがレイフォンは二つ返事で了解した。

誇らしかった、兄が誰にとっても正義の味方であったことが、嬉しかったのだ、自分がそんな兄と共に誰かの為に剣を使える事が。

しかし、そんな時だった。

寄付をする為に兄と共にある孤児院へ訪れた時。

兄が院長と話をしている間、外で一人待っていると開けられた窓から、院の人らしき者の会話が聞こえてきた。

『今更、金なんか貰ったって死んだあいつが帰って来る訳じゃないだろうに』、と

その孤児院では食糧危機の時に幼い子供が亡くなっていたと後で知ったが、その時のレイフォンは冷や水を浴びせられたような心境だった。

兄のしている事を無駄だと言われたことが許せなかった、だが武芸者だというだけで他の人間よりも多くの食糧が配付されていた自分に彼らを非難する資格はないと思えた。

結局は全てお金がないのが悪いんだ、自分と同じ境遇の者たちが苦しい思いをしているのも、兄さんがあんなに必死になって戦っているのも、全部。

そんな風に考えていた頃だった、グレンダンの陰で行われている闇試合の存在を知ったのは。

多額の賞金が賭けられているそれに出場し、勝利できれば今とは比べ物にならない額の金を得ることができる。

しかし十歳の子供がそんな違法な試合に出場したいと詰め掛けたところで、門前払いを喰らうのは明らかだった。

だがもし、もし自分が天剣授受者になったならばどうだろう、そう考えた。

天剣の位がそんなに簡単に手に入る物とは考えてはいないが、以前に天剣の選抜試合を見た時を思い出すと自分でも十分にやれるのではと思えたし、自分の実力にも少なからず自信はあった。

もし天剣授受者になれたら、今よりもっと多くのお金を稼げる。闇試合だって天剣授受者が出たいと言えば、違法な事をしている手前断るなんて出来ないはずだ。

お金さえあれば、もう誰も悲しまなくて済む、兄さんの負担だってずっと減る、そうすれば自分と同じくらい兄さんの事が好きなリーリンだってもっと笑顔になる。

自分の考えている事が悪い事だというのは理解している、だけどそれでもやるしかない。たとえ自分を育ててくれた養父の剣を、兄の剣を捨てることになったとしても。レイフォンはそう思った。











あとがき

久々の投稿です。

しかし、暗っ!バトルの練習を兼ねて、と思って書いてたんですが最後の方とかあとから自分で見て若干引きました(汗

書いてて疑問に思ったことが、レイフォンが闇試合に参加したの何時だっけ?ということでした。

原作だと選抜試合の時には刀は捨ててたけど、闇試合は天剣の名前で脅して参加してたとか言ってた記憶が…?

その辺りが曖昧なのでもしかしたら結構独自設定になってるかも……

あとはラウルのスペックがなぁ、今でも十分な気もするけどレイフォンがいないところで色々活躍するなら廃貴族ぐらい憑けなきゃ駄目なのかなぁ、とかなんとか考えてます。


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