【 第2回 2009年度 「福岡まちこわし大賞」 発表 】
1.景観をこわすもの
我が国の醜い都市景観の三大要因は、調和の取れていない建物群、無秩序に出されている看板、蜘蛛の糸の様に張り巡らされた電線にあるのではないでしょうか?
景観に対する取り組みは、欧米と比べ大きな隔たりを感じます。
建物内部は個人の自由だが、外回りは公共空間であるという認識は日本では乏しい。
例えて言えば、部屋の中で裸でもいいが、その姿で外に出れば罪に問われる。
自分の土地・建物に何を建て、どんな看板を出そうが勝手という考え方は、変える時代ではないでしょうか。
時代は、景観は市民の権利であり、それを破壊するものはたとえ公共工事でも許されない時代にはいったのではないでしょうか。
2.「まちこわし対象」とは ?
私たちは、「まちこわし」とは、単に醜悪な建物だけでなく、もっと広義に解釈します。
又すでに完成したものだけでなく、工事中、計画中のものも含めて考えます。
○ 自然や緑を、破壊する行為
○ 歴史的史跡や建築物を、破壊する行為
○ 安全・安心を破壊する行為
○ 景観・眺望を破壊する行為
○ 地域のコミュニティーを破壊する行為
○ それらを許す法律や条例
3.選考委員
- 三上 禮次 (九州芸工大学名誉教授・都市政策)
- 宮下 和裕 (福岡県自治体問題研究所・事務局長)
- 簑原 信樹 (建築士・福岡建築環境問題研究会)
- 幸田 雅弘 (弁護士)
- 蔦川 正義 (佐賀大学名誉教授)
4.建物の部 まちこわし大賞選考結果
【 大 賞 】
表 彰 対 象 : 「九州大学の移転計画」 |
 
九州大学は、平成3年10月に新キャンパス移転構想を打ち上げ、六本松キャンパスと箱崎キャンパス、演習林などを売却して、福岡市西区元岡・桑原地区に新キャンパスを建設する「移転計画」を決めました。平成17年に275haの新キャンパスは開校し、すでに工学部や六本松地区の人員の移転が完了しています。
[選考理由]
@ 大学は、都市の学術文化の拠点であり、都市の顔です。ヨーロッパの街では大学キャンパスのたたずまいが、街の雰囲気を形成する重要な要素となっています。六本松キャンパスや箱崎キャンパスには伝統的建築物や豊かな樹木群があり、九州大学はその文化的な価値を今後も地域の発展のために活かしてゆく責任があるというべきです。しかし、九州大学移転計画では、地元地域の中核である六本松キャンパス跡地や箱崎キャンパス跡地は、新キャンパスへの移転費用を賄うための「売却用資産」として位置づけられているにすぎず、永年、学術文化地域として形成されてきた「まち」の文化や賑わいを今後どのように活かしていくのかについて責任ある提案や計画がまったく示されていません。いわば、九州大学が箱崎キャンパス周辺地域や六本松キャンパス周辺地域を見捨てたとも言えます。
A 新しくできる伊都キャンパス建設地はなだらかな丘陵地帯です。キャンパスの中心部から東側には3世紀から6世紀にわたる古墳や史跡が多数存在する場所で、九州大学も「糸島地域の悠久の歴史と自然との共生」を謳っていました。ところが、建設中に全長54mもの貴重な前方後円墳や多数の円墳、史跡が発見されたにも拘わらず、これを破壊してしまい、大学自らが「地域の歴史」を抹殺して開発を優先させたことは学問の府として恥ずべき行為です。大規模な造成を行ったために地下水への影響が懸念され、地域の農業への影響が心配されていることも、開発のあり方として疑問符がつきます。
B 伊都キャンパスは福岡の都心から公共交通を利用しても約50分もかかる場所にあり、1限目の授業に間に合うためには学生は早朝から家を出なければいけないとか、近くにバイト先がない等、大学生がキャンパスを中心にした学生生活をおくるにはきわめて不便です。建設当初であることを割り引いても、主人公である学生・教職員の生活や便利さは、後回しにされた計画にではないかと心配されます。
C 九州大学移転計画に対して、福岡市は用地取得事業を肩代わりするなど当初より積極的に関与し、移転対策室を中心に多大の税金を投入していますが、跡地利用計画や文化財保護などの問題について福岡市独自の役割を果たしているとは思えません。とりわけ跡地問題については、福岡市に残された、数少ない「広大な土地」を公共的な空間として整備することを早々にあきらめ、民間デベロッパーに投げ渡すなど、これを市民のために活かす取り組みは不十分といわざるを得ません。選考委員会では「福岡市は九州大学とともに大きな責任がある」という意見が強かったことを指摘しておきます。 |
【 特別賞 】
表 彰 対 象 : 「こども病院の人工島への移転計画」 |
  2、 選考理由
@ 福岡市の都市計画マスタープランでは、福岡市は「安全・安心」のまちを目指すと言っています。しかし市の中心部にある拠点病院を、わざわざ時間がかかる遠い人工島に移すというこの移転計画は「安全・安心」のまちづくりに逆行しています。この病院の患者は一刻を争う患者が大半で、移動時間は命の時間です。出産は「30分が母子の命を決める」とも言われ、まさに時間との闘いです。都市高速が渋滞した時、地震で橋が渡れない時、患者の命はどうなるのでしょうか?
A 福岡市は人工島を「最適地」と言っています。かつて九大移転先の候補に人工島の名も挙がりましたが、九大は地盤が軟弱で塩害もあり精密機器の設置には無理と判断しました。人体に直結している高度な医療機器を配置しているこども病院は本当に安全なのでしょうか。港湾施設の煌煌と光る照明・飛行航路下の騒音・コンテナから出てくる危険な生物等々、どれをとっても安静に療養する病院にはふさわしくない条件です。土地の条件から見ても人工島は 「最適」ではなく、「不適当」と言わざるをえません。
B 車でしか行けない人工島、それは交通弱者の移動の権利を奪うものです。このような拠点病院は、多様な公共交通で市内どこからでも短時間で行くことが出来る場所に配置すべきです。それが交通弱者を生まない交通政策です。この移転計画は、交通政策の面からも良くありません。
C まちづくりは市民の声を活かし、市民的合意を得ることが大切な条件です。だからこそ先進諸国は全て「市民参加」を実行しています。市はこども病院を利用している患者家族と、多くの医療従事者の声を活かしているでしょうか? どんな分野でも、ユーザーの声を聞かない経営は失敗しています。
福岡市はそのつけを市民に押しつけないようにして欲しいものです。市民参加の面でも、選考過程にも不安や疑問が多すぎます。
以上の点からここに、第二回まちこわし大賞、特別賞として推薦します。
。 |
5.看板の部 まちこわし大賞選考結果
【 大 賞 】
表 彰 対 象 : 「福岡遊技業協同組合」 |
 
選考理由
建物の内部空間は私的空間ですが、外部空間は公的空間という考え方は、先進国では
一般的です。そのため建物自体も周囲と調和しなければいけないし、外回りの庭なども日常的な手入れが要求されます。その結果 町や村の景観は、全体として落ち着き調和のとれた景観を維持し、その土地の個性や歴史や文化が醸成されています。
しかし我が国では、自分の土地・建物であれば好きなように建てても、看板を出してもいいという「建築自由」の考え方があります。これが日本の町や村の景観を壊す大きな要因になっています。看板が多いことを「賑わい」と勘違いしている部分もあります。
そこから「より大きく」「より派手に」「より奇抜に」行なう看板競争が出現します。
その結果 全国どこの町や村にも全国チェーンの看板が、幹線道路の両側に
ひしめく様に林立し、その土地固有の歴史・文化・個性がなくなっています。
その中でもあなた方、遊技業協同組合の店舗は、ひときわ異彩を放っています。
建物自体が巨大な広告塔として存在し、周囲を圧倒し調和を乱しています。
日本遊技協同組合の憲章には、「三つの心」が謳われています。「環境保全に努め、節度を保ち、社会との調和に心を配る。」とあります。私たちは町の環境や景観を保全する
ためにも、貴業界がこの三つの心を具体的に実践し、業界としてのイメージアップを
図って頂きたいと思います。それは美しいまちづくりに大きく貢献します。
業界のCHANGEを期待し、
ここに第二回 「まちこわし大賞」看板の部に推薦します。 |
【 特別賞 】
表 彰 対 象 : 「出会い系サイトの巨大看板(場所;渡辺通りと城南線の交差点南角)」 |
 
選考理由
看板はまちの表情です。上品で落ち着いた看板はまちの風景すら変えます。
看板のあり様が、「町の文化度のバロメーター」といわれる所以です。だからこそ 現代は、看板のあり様も問われる時代になりました。日本の商業広告は、大きさ・派手さ・奇抜さを競うあまり、まちの雰囲気や文化・歴史と調和せず、まちの個性と景観を破壊しているのが実情です。
看板の作成を、施主のモラルやセンスだけに任せられないのが実情です。
中でも福岡市の渡辺通りと城南線の交差点南角に設置されている出会い系サイトの大型看板は、都心の一流ホテルの目の前に設置されており、政令都市福岡の町の品格をも問われます。性風俗の乱れにもつながりかねず、特に青少年に対して悪影響を与えるのではないかと心配しています。私たちはこのような看板が黙認されている行政の在りようにも疑問を持ちます。同時に市民としては、恥ずかしさと哀しみを感じています。 福岡市は、繁華街の電話ボックスに横行した「ピンクチラシ」を一掃しようと努力し成果をあげてきました。しかしピンクチラシ数万枚に匹敵するほどの巨大な看板を見逃したのでは、ピンクチラシ一掃運動の目指した都市環境の保全は台無しになることを危惧します。 |