ジャーナリスト斎藤貴男氏が、メディアを斬る:貧すれば鈍する前に、『毎日新聞』に見習うべきこと (3/3)
ジャーナリズムの理想とは
先日、毎日新聞社は2010年4月1日に共同通信に加盟すると発表した。共同通信というのは日本国内はもとより、世界中に取材拠点がある。地方や海外に記者を配置できない新聞社に記事を配信し、地方紙はそれを掲載している。毎日新聞は全国紙なので、これまで共同通信から記事の配信を受けてこなかった。しかし朝日新聞や読売新聞などと違って、毎日新聞の経営は苦しく、なかなか維持・運営ができなくなってきている。
そこで毎日新聞は国内拠点を縮小し、地方の記事は共同通信に任せるというのだ。このニュースを受け、「毎日新聞の経営は危ない」「支局がなくなれば、大規模なリストラが行われるのでは?」といった論説が目立っている。しかし毎日新聞社はこうも言っている。「地方の拠点は縮小するが、すべてをリストラするわけではない。そして拠点縮小により、余った記者を調査報道に振り向ける」と。
調査報道というのは記者クラブなどで、いわば“あてがいぶち(一方的な)の情報”を得て流す、といったものではない。記者が問題意識を持って、政治や企業の暗部を自らの手で報道する――これが調査報道だ。
これまでの新聞社は、この調査報道が弱かった。なぜなら調査報道ばかりを追いかけていると、記者クラブでの発表モノ記事が書けなくなってしまう。またお金もかかるし、記者の能力にもかかわってくるから。しかし“災い転じて福となす”といったところだろうか。経営が苦しい毎日新聞は記者を再配置することで、調査報道に注力するというのだ。「調査報道ができるのであれば、これまでにもできたはず」といったことも言えなくはないが、毎日新聞の決断はこれからのジャーナリズムのあるべき姿を示唆しているのではないだろうか。
「記者クラブは閉鎖的だから止めてしまえ」といった報道もあるが、それほどこの問題は単純ではない。しかし発表モノの記事が多いことは確か。記者会見の席に各新聞社が記者を出して、同じような記事を書く――。こんなことは本当にムダだと思う。なので基本的に記者会見は通信社だけに任せてしまうのはどうだろうか。共同通信と時事通信を合わせ、新しく“発表通信社と”いう会社を作る。そして記者会見は、その発表通信社に任せてみてはどうだろうか。
そして新聞記者は、調査報道だけを行えばいいのだ。こういう姿がジャーナリズムにとって、理想なのではないだろうか。記者といえども、生活はしていかなければならない。原稿を書いてカネにならなければ「どうにもならない」ということも事実。“貧すれば鈍する”前に、毎日新聞のように何らかの手を打つ必要があるのではないだろうか。
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