「せっかくだからフランベしますよ」。燃え上がる炎、振りかざしたするめいかから、
新人漫画家の才気と意気込みを感じ取ってください。
去年の秋「月刊コミックバース」で連載が始まった「するめいか」は、予想以上の面白さだった。僕にとってそれまでのルーツは、ゲーム実況プレイヤー。「中二の頃作った黒歴史RPGを実況プレイするぜ 」という動画が大好きなのだ。昔つくったゲームを大人になった視点で実況するという卓越したアイデア、圧倒的なしゃべりのパワー。だが「するめいか」を読んだ印象も似ていた。表現方法は違うけれど、実況動画と共通するるなにかがあるのかもしれない。インタビューを引き受けてもらったよと言ったら、B-TEAM出身の大井正太郎(たろちん)、加藤レイズナも「漫画家」ルーツに会いたいと駆けつけ、田島太陽も顔を出し、漫画編集者志望の僕は、さらに「バーズ」編集担当の分銅さんにも同席をお願いする。満員御礼のルーツ家。さあ、ルーツの秘密にどこまで迫れるか。
PROFILE
ルーツ
1988年生まれ、北海道出身。大学への進学を機に上京。08年2月、ニコニコ動画に投稿した「中二の頃作った黒歴史RPGを実況プレイするぜ」でゲーム実況プレイヤーとして注目される。09年4月よりwebマガジン幻冬舎「実況野郎B-TEAM」で漫画「するめいか」を連載。同年7月よりアニメ版を自主制作。11月、「コミックバーズ」でデビュー。「するめいか」は現在も連載中。初単行本となる『するめいか』1巻が幻冬舎コミックスより発売。アニメ版の3期も自主制作で展開中。日ハム、村上春樹の大ファン。
ブログ http://soituhasugeeya.blog47.fc2.com/
ツイッター http://twitter.com/JT_roots
梶本竜太(かじもと・りょうた)
1985年生まれ。北九州出身、漫画編集者志望。漫画に情熱を注いでおり、商業同人問わず幅広い知識を持っている。日経キャリワカ(現ビズカレッジ)の「僕らの仕事の現場から」でインタビューライターを経験。webマガジン「footra」で連載「マンガが一番 ゲームが二番」を担当。
ブログ http://blog.livedoor.jp/ryotamx0721/
ツイッター http://twitter.com/ryotamx
「するめいか」
「コミックバーズ」で連載中。舞台は東京都江東区亀戸。アホ毛が特徴のサチ、眼帯をした毒舌の八千穂、頭に矢が刺さった「なのじゃ」言葉の楓たちの奇行に、ツッコミ役のミッちょんが振り回されるギャグ漫画。投稿した動画のおかげで銀河を統一したり、「ほたるいか」に乗っ取られそうになったり、ジュースを買いにアメリカまで行ったり……。エキセントリックな女子高生たちの日常が展開される。ルーツ曰く「京アニからもナックからもディズ二ーからも話が来ないから、自分でアニメ化する事にした」アニメ版もニコニコ動画で公開中。DVD版はコメンタリー付きで一期が二枚、二期が三枚「とらのあな」で発売中。描き下ろしも入った『するめいか』1巻は8月24日に発売。
影響を受けた漫画、好きな漫画をテーブルの上に集めることからインタビューは始まる。
まあ縞パンというのは確かに萌えかも。
©ROOTS,GENTOSHA COMICS 2010
──ここが作家の乙一さんも足を踏み入れたというルーツ家ですか。
加藤 何か音楽でもかけるか(ニコニコ動画を開き、レスリングシリーズ動画を選ぶ)
分銅 担当編集の分銅です。今日はよろしくお願いします。
太陽 たろちんは間に合わずか。
ルーツ インタビュー始めましょうよ。
──まず「するめいか」のタイトルですが、由来はありますか?
ルーツ これは僕がするめ大好きだから。好きな食べ物をタイトルにしようって考えて、「するめいか」。
──作品を描く前に考えたんですか?
ルーツ 後ですね、でも他に候補もなくてすぐ決まりました。
分銅 いわゆる流行りの四文字系ですよね。
ルーツ 四文字系ですよ。
分銅 五文字ですけど(笑)。まあ「するめいか、噛めば噛むほどに面白い」みたいな(笑)。そんな感じで付けたのかなって漠然と思ってました。
──では登場人物は?
ルーツ サチは、ボケ役を作ろうと思ったときに自然と出来たんですよね。ミッちょんは……漫画世界の「普通の奴」なんですよ。金髪ツインテールって、現実には絶対いないけど、アニメとか漫画には絶対にいるキャラクターじゃないですか。なのでツッコミ役にしました。八千穂と楓の二人は、眼帯を付けてみようとか矢を刺してみようってのがフッと思いついて。
――2009年の4月、webマガジン幻冬舎で、今日も遊びに来ている加藤、たろちん、あとRevinという人気ゲーム実況者4人による連載「実況野郎B-TEAM」が始まる。四コママンガ「するめいか」は、その1コーナーだったわけですが、B-TEAMではなぜ「するめいか」を?
ルーツ やっぱり思い入れがあって、かつ1番やる気があったからですね。実はギリギリまで「魔王部下業界」ってのをやろうとしたんですけど、締切直前に「これは描いてて楽しくないな」と気付いた。魔物とか獣とか描いても、俺が楽しくねー、なんで、B-TEAM編集担当のアライさんに「……女の子が描きたいです」ってチャットで頼んで(笑)。
――じゃあ『魔王部下業界』の原稿は出来てたんですか?
ルーツ 2ページくらいもう出来てたんですよ。
――だが女の子を描きたかったと。
ルーツ それだけです。萌えキャラでギャグ漫画をやろうと言うのが一番のコンセプトですね。
分銅 萌え、意識してるの?
ルーツ してますよすごく!! パンチラ二回もしましたよ!
――それが萌え!?
ルーツ 僕は萌えセンスが無いから、頑張ってるのに空回りしてるんですよ! でもそれが結果オーライと言うか、……まあいい方向に行ってるんですよ多分! これからも頑張って、僕がメイド服着たりしていきますよ!
分銅 じゃあコミックスの表紙はそれでいきましょう。
ルーツ いや、やめましょう! じゃあやめましょう!
2010.7.9取材直前までの梶本竜太(@ryotamx)及び梶本あてのツイートより
ryotamx イマココ L:東京都江東区亀戸6丁目61-6
posted at 10:59:56
ryotamx雨が降らなければいいな
posted at 13:18:05
t_taiyo @ryotamx 今日はどうやってルーツさんのルーツを探ルーツもりですか?
posted at 13:52:34
t_taiyo oO(今日の俺調子イイ…!)
posted at 13:56:47
ryotamx バーズを買っていきます、遅れたらすみません
posted at 14:15:54
ryotamx 亀戸のTSUTAYAはバーズを一冊しか入荷していなかったらしい……
posted at 17:33:08
tarochinko これからリョタのルーツ取材を見に行く。一般層にルーツという作者本人の面白さが、実況層に漫画家としてのルーツの真摯さが伝わるようなインタビューになったらいいなと思う。
posted at 14:28:39
ryotamx ワンルームに8人!
posted at 15:00:00
ryotamx たろちんこない
posted at 15:00:51
t_taiyo 取材始まったです。お茶をガブガブ飲みながらインタビューするリョタ、おにぎりガツガツ食べながら話すルーツくん、DVDを焼いてる加藤くん、当たり前のように遅刻してきたたろちん。
posted at 15:41:33
「するめいか」二枚目DVD1(通称「アニメいか」)「とらのあな」で扱ってます。
ルーツ家に集合した「おまんま食い隊」。左から田島太陽、大井正太郎(たろちん)、加藤レイズナ。飲んでる時のたろちんは、こんな顔で「ダァーイジョブですよ、終電無くなってもルーツん家があるんですよ」とよく言う。
──「コミックバーズ」で連載が始まって、こうやって編集の分銅さんと漫画をつくることになった。大きな変化はなんでしたか?
ルーツ 僕は、漫画が完成すると、これが面白いか面白くないかって判断をする前に公開したくなっちゃうんですね。だけど分銅さんに指摘してもらって修正するようになった。直した方が面白くなると思うし、そういう連携が取れるのはありがたいなって思いますね。
──分銅さんはどうですか?
分銅 ルーツくんに会って「若いっていいなあ」というのが第一印象。こっちが想像しないような斜め上のボケをやるセンスが素晴らしいから、それを漫画の文法でより魅力的に見せるのがこちらの仕事だなと。一から十まで口を出さず、最低限のところだけを教えていきたいと思いました。しかし、最初と比べたら、凄くうまくなりましたよね。
ルーツ ありがとうございます!
──「バーズ」で連載が決まるまでの経緯を教えてください。
ルーツ B-TEAMの『するめいか』を自主的にアニメ化した、まあ「アニメいか」って呼んでますけど、7月に始めて、それを「月刊コミックバーズ」の編集長が観て気に入って声を掛けてくれたんですよ。でもその一方で、「B-TEAM」の特集で、読み切りの原稿を1本描いて、『大東京トイボックス』(幻冬舎コミックス)のうめさんと一緒に編集部に持ち込もうって企画も進めてたから、いろんな動きがいっぺんに連載に繋がってくれたって感じです。
分銅 ルーツって新人がいるぞって編集会議に掛けられてから、ひと月後にはもう第一回が掲載。ふつうだったら「新連載カラー!」とか鳴り物入りにするんですけど、そういう扱いにしないことが既にネタだよねって感じにしました。
ルーツ こっそり入りましたよ(笑)。
──でも、連載が決まったときはうれしかったでしょう?
ルーツ いや、当時はまだ連載は決定してなかったんです。とりあえず短期集中で3回は載せてやるから頑張れよ、みたいに言われて。なんでこれは何とか人気を出さないといけないとビクビクしてました。
──今は一安心?
ルーツ ……っていうか、分銅さん、「するめいか」、ちゃんと続くんですか? 僕は本当に連載してるんですか?
分銅 1巻の発売日に書店に行くと「ジャンジャジャーン、ドッキリでした」みたいな(笑)。
ルーツ 「並んでねえ!」(笑)。やめて下さいよ! もちろん2巻も出しますよ。65巻まで出しますよ。(玄関のドアがガチャっと開いて)
たろちん 俺だよー。
太陽 突然!
たろちん インタビューしてると思ってピンポン鳴らさなかったんだよ。
加藤 (作業をしながら部屋の隅を差し)たろちんは、お友達コーナーへどうぞ。
たろちん なんだそれ。
7話 ©ROOTS,GENTOSHA COMICS 2010
10話 ©ROOTS,GENTOSHA COMICS 2010
「『くりぃむしちゅー』は上田さんが好きなんですか?」「いや有田さんも好きです。どっちも好きですよ。『くりぃむしちゅー』ってコンビが好きです」
生涯二回目のインタビュー。緊張のあまり、僕はお茶をがぶ飲みしておりました。
──「コミックバーズ」では4コマではなく、8ページのストーリーマンガにしたのは何故ですか?
ルーツ じつは4コマ苦手なんです。4コマ目にオチが来なきゃいけないって考えると、どうしても勢いが止まっちゃう気がして。好きなところにオチを付けたいので、8ページで漫画を描く方が得意なんですね。「B-TEAM」の時は、毎月毎月そんなにたくさん描けるかなあという不安のほうが先だった。、4コマ形式なら、6本くらい描けばいいし、なんとかいけるだろうと思ったんですよ。
たろちん でも、途中で分量増やしてたよね。いっぺんに20本くらい描いてたことなかった?
ルーツ 頼まれもしないのに(笑)。自分で自分の首を絞めてました。
──そういえば「B-TEAM」の最初のほうの特集で、うめさんのところにアシスタント修行してましたね。
ルーツ ああー。あの特集のときは初めての経験だらけで緊張しましたね。
──あれから約1年、自分が漫画家になってみて、他の漫画家さんを見る目は変わりましたか?
ルーツ 前は、漫画家って超人だらけなんだろうと思ってました。住む世界が違うハリウッドスターみたいな感じで、自分と触れあうことのない存在って思ってたんですよね。けれど、うめさんをはじめめいろんな方と会って。そうするとやっぱり人間がやっているんだなって気付くんですよ。同じ人間なのに、僕が超人と思い込むくらいに1つの物事に打ち込んでいる。そこがすごいんだなーって。
──今アシスタントを頼まれたらどうでしょう、上達してますか?
ルーツ うーん。手が震えることはないだろうなあ。でもそのくらいですかね、1年で劇的に技術がレベルアップしてるわけでもないから。あーでもわからない、逆に震えるかも! こっちから質問できない葛藤とか「プロだから適当な指示でやっとけばうまくできるだろ〜?」みたいなプレッシャーを受け取っちゃって、聞くに聞けないみたいな感じになるかも(笑)。
──ルーツくんはアシスタントさんなしで、全て1人で作業してるんですよね。
ルーツ はい。人に指示するのが苦手で頼めません(笑)。やっぱり気を遣うのもあるし。その、ニコニコ動画のレスリングシリーズを見たり、歌ったり、ケツ叩いたりしながら作業をやってるんで。アシスタントさんがいたらそういうこと出来るのかなって思ったら気軽に出来ねえなって。
加藤 そんな理由(笑)。
ルーツ そんな理由だよ結構。ゲーム実況動画とか見てても、アシスタントさんは面白くないかも知れないじゃないですか。まあ、とりあえず今は1人で何とかなってるんでいいかなって。
左は「コミックバーズ」担当編集の分銅宏行さん。漫画編集者を目指して上京されたそう。インタビューの後、たくさん相談に乗ってもらいました。
「アニメいか」3期「手作りアニメするめいかさん」は7/30にスタート。
インタビューを聞きながら、加藤は「アニメいか」DVDのラベル印刷を手伝っていた。DVDを乗せる、エンターキーを押す、印刷されたら取り出し新しいDVDを乗せる……。ルーツの作業は夏コミ当日まで続くのだろう。
人気実況動画「しゃべる!DSお料理ナビ 実況プレイするぜ」でおなじみのDS。しっかりラップに保護されています。料理はいつでも準備オッケー♪
──『アニメいか』ですが、そもそも制作しようと思ったのは何故?
ルーツ 『アニメいか』で使ってる「Live2D」ってソフトを扱っている会社から、なにか1本動画をつくってくれないかって話があったんです。
──「Live2D」のオリジナルアニメを?
ルーツ ということでもなくて「これからアニメをつくりますよ〜」って実況しながら、「Live2D」の機能を紹介するような動画を作れないかって話で。
──ゲーム実況者としての腕に注目されたと。
ルーツ どうなんですかね。でも言われたままをやっても芸がないから、何か考えないと駄目だなって思った。あと、当時はゲーム実況でやってる「in those days!」とか「のべるげ!」の自作ゲームのほうが『するめいか』より人気があったんですよ。これは悔しい、何とかして連載中の『するめいか』を盛り上げたい。それでこのソフトを使うと『するめいか』のアニメを作れるんじゃないか? と。
──それがたいへんな反響を呼んで、二期目に突入した。
ルーツ 二期は「コミックバーズ」で連載が始まったときですね。まずは短期集中連載、3ヶ月だって言われたのがあったから、これは宣伝しないと続かないかもって思って作ったんですよ。
──自作ゲームはもうつくらないんですか?
ルーツ いや、それもやりたいです。「in those days!」の続編を作りたい、と思ってるんですけど時間がなくて。……あとやっぱり、今は「するめいか」だけをやりたいなって言う感じです。「in those days!」もやっちゃうと層が分かれちゃうというか……そういう感じがあんまり好きじゃない。
──「するめいか」のアニメ化とうたっているのに、漫画のネタをアニメで使っていないのはなぜですか?
ルーツ 漫画を読んだ人がアニメを見て「同じ話か」ってなっちゃうのはイヤだなと。漫画や小説が原作アニメって、いかに原作に忠実にやるかって言うのが主流というか当たり前なんですけど、それはどうなのかなと僕は思う。原作は原作で完結しているものとして、それとは別の話でもいいじゃないかと。あと、「アニメいか」ではキャラクターが、基本的に喋ることしか出来ないという制約がある。ものを持ったり出来ないんですね。漫画は、僕が描きさえすれば何でも出来る。なのでアニメは会話が多くなりますよね、自然と。
──漫画では実験して、アニメの方は台本で楽しませてと。
ルーツ そうですね。アニメは台本で頑張ってます。
「いつもスルメで描いてるの?」「つけペン代わりに」「左利きなの?」「いや、今一瞬だけ左利きになってる」
大遅刻のたろちんも来て、ルーツのワンルームには9人が集合。男たちは、分銅さんという最大の味方を得、「漫画にしかできないこと」を妥協することなく追求するルーツの熱い思いに聴き入る(加藤はDVDを黙々と制作)。後編はいよいよ「するめいか」が出来るまで、作品解析など、マンガ家ルーツの秘密に更に肉迫!
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