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[20549] 【習作】リリカルなのは・オリキャラ介入・題名未定
Name: madoka◆324c5c3d ID:c6ab109b
Date: 2010/07/26 03:33
習作の名の通り
一人称を使わない練習作です
とりあえずは目指せ無印終了。


10/07/23 一話投稿
10/07/26 二話登校、一話修正(主に口調、用語など)



[20549] 第1話
Name: madoka◆5b5f0563 ID:c6ab109b
Date: 2010/07/26 05:30
 “魔法”によって隔離された結界の中
 二人の少女が対峙する。
 白衣の少女と黒衣の少女。
 互いの手には黒い杖と紅い杖。
 
 何かの左様によって巨大化した猫に、白衣の少女が一瞬気を取られる。
 その隙を逃さず黒衣の少女が魔法を放つ。
 
 雷撃を伴った魔力弾が白衣の少女に着弾。
 とっさに展開した防御魔法も虚しく、気を失い吹き飛ばされる白衣の少女。

 二人の対峙を固唾を飲み込み、見守っていた、一匹のフェレットが声をあげ駆ける。
 墜落し地面に叩きつけれるそうな少女を助けるために。


 それを尻目に、黒衣の少女は巨大な猫に視線を向ける。
 少女の杖が変形し、四枚の光の羽を広げる、その形状は槍にも似ている。

 先端に集まった雷撃を放つ魔力球を少女が杖を振り上げ地面に叩きつける。
 一直線に地割れを作りながらが猫へと殺到した魔力球が着弾する、電撃に囚われた猫が悲鳴をあげ、その体から青い宝石が現れる、宝石の表面に数字の刻印が浮かび上がる。
 黒衣の少女が封印の言の葉を紡ぐと、天空から幾条もの雷光が降り注ぎ、青い宝石を捉える。
 雷光が消え去った後、のこされたのは小さな子猫と、青い宝石。
 この青い宝石が、この子猫を巨大化させていたのだろう。
 そして少女達の目的はこの青い宝石の収集。
 黒衣の少女が、宝石に歩み寄る。
 その様子を見ていることしか出来なかったフェレットが、ぴくりと反応する。

「動物虐待は関心しないねェ、お嬢ちゃん」

 青い宝石の至近に唐突に出現した、一人の男がそう言い。
 宝石を掴む。

「…」

 黒衣の少女の杖が変形し、斧のような形状になる、無言で突きつける。

「ロストロギアはこどものおもちゃじゃないからね、悪いがこれは回収させてもらうよ」
「管理局の人間」
「おお大正解、賢いねお嬢ちゃん。時空管理局“巡察官”エイレンザードだ。管理外世界への無断渡航、魔法行使、ついでに公務執行妨害もつけちゃおうか?」

 男が身に纏うのはバリアジャケットと呼ばれる、魔法の鎧ではなく、ただの衣服。
 デバイスと呼ばれる魔法行使のための道具も持っていないように見える。
 おそらく四十台前半らしき、無精ひげの中年男性。
 しかし…黒衣の少女は冷静にその男の実力を測る。

「黙ってそれを渡してください…あなた程度の実力で何ができるのですか?」
「手加減できずに殺しちゃうぞ!ってか?ちょっと過激だねェ」

 魔力保有量は精々Cランク程度だろう、自身とはコップ一杯の水とプールいや湖くらいの差がある。
 この男は明らかに雑魚だった。
 問答無用といわんばかりに少女は魔法を放つ。
 フォトンランサー、高速で放たれる魔力の槍、雷撃を伴ったソレの威力は、自分に匹敵する魔力保有量を持つ、白衣の少女すら一撃で吹き飛ばす威力。
 非殺傷設定と呼ばれる、肉体ではなく魔力にダメージを与える設定にはなっているが、それでもバリアジャケットすら纏っていないこの男には致命的なものだ。
 彼我の距離が近かったこともあり、黒衣の少女の放った魔力弾は、即座に男のいる空間に着弾、雷撃を撒き散らす。

「いない!?」
「高速魔法弾でも誘導性が皆無じゃ、ちょっともらえないなぁ」

 少女の真後ろから声、ごく軽装のバリアジャケットを纏った男がそこにいた。

「ブリッツアクション」

 自分と同じタイプ…高速移動を得意とするタイプの魔導士。
 そう判断した少女は、自身の持つ高速移動魔法を発動。
 男の背後に回りこみ、斧の刃のように展開された魔力刃を叩きつけようとし…果たせなかった。

「高速移動型のサガだねェ、つい後に回り込んじゃうのはさ」

 男の手が、少女の手を掴んでいた。こうなると成人男性と今だ十代にもならない少女では膂力が違う。

「今の最善手は距離を取って射撃だったね、お嬢ちゃん」

 そんなことを言いながら男が魔法を使う、ブレイクインパルス、目標の固有振動数を割り出し、適合する振動エネルギーを送り込み目標を破砕する魔法。

「(演算が早い!)」

 通常ならば素手なり、デバイスで目標に触れたまま、数瞬、固有振動数を割り出すタイムラグがあるはずなのに、それが殆ど無い。
 最小限の魔力で、かなりのダメージを与える、えげつない魔法である。
 物体の破壊に用いるこの魔法は、大抵非殺傷設定ではないことが多い。案の定男の魔法もそうだ。
 これが魔力量が多いの魔導士が大量の魔力を込めていれば、少女の腕は粉砕されていただろう。
 しかしいかんせん男は魔力量が少ない。
 込められた魔力量は少女がとっさに展開した防御魔法とバリアジャケットを粉砕したものの、そこで終わりだった。

「おや?」
「くっ!」

 魔力刃が射出され、男を襲う。
 男は体制を崩しながらもそれを回避するが、その隙を突いて少女が脱出する。
 死神の鎌のように変形し、魔力刃を形成した少女が男をなぎ払う。
 ひょいひょいと男はそれを回避する。
 少女も十分に戦闘訓練はつんでいるのだろうが、男の体術は残念ながら、その比ではない。生まれてから僅か十年少々の少女と、少なくとも三十年は人間をやり、戦闘訓練を積んだ男の経験値の差は絶望的なものだった。
 まして少女は先刻の封印魔法でかなりの魔力を消耗している。
 
 「(狙いは持久戦か!)」
 
 そう判断し、少女は撤退を決断する、高速移動魔法にありったけの魔力を込め離脱を図る。
 男は追ってこなかった、ロストロギア…ジュエルシードを確保している以上、無理する必要が無いからだろう。

「…次は負けない」








「やれやれあの歳であんなに戦えるたぁ、末恐ろしいお嬢さんだな」

 バリアジャケットを解除し、頭を掻きながら男…エイレンザードは大きく息を吐いた。
 余裕綽綽な態度はブラフであり、いかに自身が戦巧者であっても、あれだけ魔力量に差があると、一瞬の油断が命取りだ。

「あの…時空管理局の方ですよね?」
「うんイタチが喋ってるね」
「フェレットです」
「ペット用に品種改良されたイタチだよね?まぁいいや、確かにおじさんは時空管理局“巡察官”エイレンザード・カタンだよ、お前さんは?」
「ユーノ・スクライアといいます、通報を受けてここに?随分早かったですね。あと他に局員の方は?」
「は?何いってんだいお前さんは、俺は巡察官の仕事でこの世界に来て、どうも魔法絡みの事件くさいのが起きてるみたいだから、この街にやってきて、そしたら結界が張られてるから飛び込んできたんだよ?」
「その巡察官って聞き覚えの無い役職なんですけど」
「あー、そうだろうなぁ、管理局の黎明期にはブイブイ言わせてたんだけど、今はもう黴の生えたような仕事だからねェ」

 ユーノと名乗ったフェレットの言葉に、エイレンザードは落ち込んだ様子でそう漏らした。

「まぁ詳しい話は後回し、とりあえずそっちのお嬢ちゃんの治療しようか」
「治癒魔法が使えるんですか?」
「巡察官はスタンドアローンだからねぇ、オールマイティじゃ無いと仕事にならね無いんだよねぇ」

 そう言ってエイレンザードは、白衣の少女に回復魔法をかけるのだった…



[20549] 第2話
Name: madoka◆5b5f0563 ID:c6ab109b
Date: 2010/07/26 05:30
「ロストロギア…ジュエルシードかぁ、まぁだいたい事情は理解したよ」

 意識を取り戻した少女…高町なのはと、フェレット…ユーノ・スクライアから、「事情聴取」したエイレンザードは、心底「めんどくせぇ」と言う顔をする。
 話を聞くかたわら、なのはへの治癒魔法も継続中である。

「さてどうだい?なのは嬢ちゃん」
「はい、ちょっとだるいけど、どこも痛くないです」
「そうか、あんまり治癒魔法は得意じゃなくてな、フィジカルな奴は割りと得意なんだが、魔力ダメージの治癒は自然回復が一番だし、とりあえず今日明日は魔法使わないように」
「えぇっ!でもジュエルシードが発動したら…」
「そこはあの黒い嬢ちゃんに出張ってもらうさ、おじさんだと魔力が足りなくて封印できないからな、封印して魔力を消耗した所を横取りするかな」

 断言したエイザード、なのはとユーノがジト目でエイレンザードを見やる。

「ずるいの…」
「ずるくないよ?」
「せこいです…」
「せこくもない!これは作戦だよ!」

 エイレンザードはそう言いきり胸を張った。ダメな大人である。

「その、それでエイレンザードさんの言う『巡察官』って何なんです?聞き覚えないんですけど」

 ユーノが説明を求めると、エイレンザードがはりきって「説明しよう!」とタイム○カンシリーズのナレーターのマネをした。
 が、異世界人のユーノはもちろん、歳若い+女の子のなのはもつっこんではくれなかったので、すぐにしょげた。
 この男地球に馴染みすぎである。

「こほん…巡察官というのはだねェ」

 今から百五十年程前、戦乱相次ぐ次元世界に色々あって平定され、第一管理世界ミッドチルダに次元世界の平和を維持する機構が発足されることになった、今の管理局の前身となる組織だ。
 この組織において、管理外世界と無人世界を巡回し、治安維持に努める役職、それが巡察官である。
 まだまだ各管理世界の政情が不安定なため、大規模な人員が割けなかったため、巡察官は基本的に単独、よって今の管理局では執務官と同様かそれ以上の能力を要求されるエリートだったらしい。
 しかし時代の移り代わる。
 増え続ける次元世界。
 慢性的な人手不足→優秀な人物を単独で遊ばせて置けない。
 次元航行部隊の設立、「海」の独立→存在意義の危機。
 執務官級の能力を要求されるけど、権限はそれ以下、給料も安い→鞍替え多数。
 能力の低い者ばかり残る→\(^o^)/オワタ

 そんな訳で

「今の管理局で現役の巡察官やってるのは、物好きなおじさんを含めて三、四人じゃなぇかな?うち二人は左遷とか懲罰人事で“やらされてる”し」

 
 ちなみに管理外世界出身のイレギュラーな局員が、一線を退き、故郷に戻る時、予備役的に任命される場合もあり、こちらの“現役”ではない巡察官も何人かはいるらしい。
 で極一部の現役組、物好きなエイレンザードや左遷組は、次元航行部隊の巡回ルートから大きく外れた管理外世界や、各部隊の巡回の隙を埋めるように世界に赴くことが多いそうだ。

「おじさんは地球…特に日本が気に入っててね、ここを拠点に個人転送でいける範囲の世界を巡回して回ってるんだよ」
「へぇ…」
「しかし近くの無人世界で密猟団をしばいてる隙に、肝心のホームにロストロギアかぁ…おじさんの手には余っちゃうねェ」
「あのエイレンザードさんは強くないんですか?」

 自分を負かした、黒衣の魔法少女・・・もう一人のジュエルシードの探索者をおっぱらったはずのエイレンザードは弱いのか?となのはがおずおずと質問をする。
 弱いんですか?と聞かないのはやさしさか?

「うーん、おじさんは魔力量が少ないからねェ、なのは嬢ちゃんがプールならおじさんはお猪口一杯分くらいかなぁ」
「ふぇ、プールとお猪口ですか?」
「ちょっと大げさかな?その代わり魔力のコントロールとか運用効率はなのは嬢ちゃんのが学校の美術の授業だとしたら、おじさんは芸術家並だけどね」

 そう言ってエイレンザードがHAHAHAHA!と似非外人笑いする。

「…エイレンザードさん」
「うん?なんだい」
「私に魔法の・・・魔力のコントロール教えてもらえませんか?」

 なのは真剣な表情でそう言った。












 返答につまり「困ったねェ」と頭を掻いたエイレンザードは、ともかくなのはとユーノを友人たちの所へ戻るように言った。
 ユーノの封時結界維持もそろそろ限界だったし、エイレンザードは事態を報告し、増援を急がせるために、管理局へ向かうとのことで「夜には戻るので保留させて頂戴」と言った。
 なのはもしぶしぶそれを了承する。
 思いつめた様子のなのはにユーノが心配そう話しかける、しかしなのは表情は硬いままだ。
 見かねたエイレンザードは「友達と楽しくおしゃべりして、リラックスね、それだけ魔力の回復もはやくなっから」と言って二人を送り出した。


「あんな子供を頼らないとならんなんて、寒い時代だねぇ」

 と某宇宙要塞の司令官の真似をしたが、当然つっこむ人間もいなく、一人お寒い空気を感じつつ、エイレンザードは転送魔法を唱え始める。
 職業柄エイレンザードは転送魔法が得意である、自前で編み上げたオリジナル転送魔法は、平均的な個人転送の限界距離の二倍は跳べる。
 それでも幾つか「マーキング」してある世界を経由して、管理局の「本局」にたどり着く。

「あーさすがにシンドイな…」

 もはや魔力は空っぽ、夜までには戻らないとまずいので、誰か知り合いを見つけて回復魔法をかけてもらいたいが…哀しいかなエイレンザードは本局に知り合いが殆ど居ないのだ。
 巡察官は時代に取り残された役職ゆえか、職務内容とはうらはらに、エイレンザードの所属はミッドチルダの地上本部になっている。海と陸の仲の悪いのは、もはや伝統だ。
 仕方ないので、数少ない知り合いへの面会を申し出ることにした。
 お偉いさんだし「トップダウンで今回の地球の一件も処理してもらおう。」と思いつつ。


「はーい受付のお嬢さん、こちらの方に取り次いでちょーだいな」

 身分証と共に面会要望書を受付にエインザードは提出する。

「はいはい…はぁ?あんた馬鹿ですか?」
「まぁ気持ち解るけどさ、おじさんの名前出してもらえば、ちゃーんと会ってくれっからさ、手早くお願いね~」

 そういって、受付ロビーのソファに身を横たえ体を休める。地球よりも大気中魔力素が濃いので、魔力の回復が早い。
 一息付きつつ、げろまずいと評判の本局のコーヒーを啜っていると、五分程で受付から声がかかる。

「あの、エイレンザード巡察官…お会いになられるそうです」
「了解、ありがとね~あ部屋は知ってるから案内は要らないよ」

 そう言い、てれてれとエイレンザードは目的の部屋を向かう。
 その後姿を受付嬢は妙な生き物を見る目つきで見送った。
 本局ではその後
「聞いたことのない閑職の、所属が地上本部の男(冴えない中年)が、本局のお偉いさん(めちゃめちゃ偉いので名前は伏せられた)にあっさり面会許可が出た、すわ妖しい仲か!?」
という腐女子的な噂が巡ったが、それはまた別の話である。



[20549] 第2.5話
Name: madoka◆5b5f0563 ID:c6ab109b
Date: 2010/07/26 05:45
「時間食っちまったなぁ…まったく年寄りは話が長くていけないねェ」

 急いで戻っても現地は深夜、お子様は寝てるはずだった。
 面会したお偉いさん(なんか聞きつけて数名さらに知り合いがやってきた)に二時間も付き合わされた結果、魔力は回復したが夜には戻る、という約束は守れそうに無い。
 幸い、すでに次元航行艦が一隻地球に向かっているそうだし、あと十日もすれば地球につく。
 あと十日、ロストロギア「ジュエルシード」の暴走を防げばいいわけである。
 一応、発掘者であるスクライア一族の少年と、現地協力者以外にもシュエルシードを探している連中がいるようだが、すべて黙っておいた。
 報告内容はあくまで「管理外世界にてロストロギアを発見、自分の手にはあまるので、急げ」だ。
 この時点でのエイレンザードにとって最も重要な事項は、ジュエルシードの暴走による被害を最小限に収める事。
 そのためなら、謎の連中がジュエルシードを封印してくれるのは、手間が省けて好都合以外の何者でもない。
 あとなのはの存在も黙っていた。
 どうせ後でばれるだろうが。
 どれだけ才能に溢れていようとも、ミッドの常識で、義務教育中の子供をスカウトするのは、現地・・・地球の日本の常識を良く知るエイレンザードには許容できないことだった。

「(…必要ならリンカーコアの封印や機能制限もするべきですかねェ)」

 一回目の転移を追え、無人世界のセーフハウスで横になり、魔力の回復に専念しつつエイレンザードは考え込む。
 巡察官の仕事の一つに、管理外世界でのイレギュラー…魔力を持つ人物の保護がある。
 リンカーコアを持ち、自然と簡単な魔法を使えるために、場合によっては迫害、あるいは孤立してしまう…特に子供は時々いる。
 エイレンザードも長い仕事のなかで何人もそんな子供たちを見てきた。
 ある子供は管理局の保護を受け入れ、優秀な魔導士として管理局で働いている。
 だが中には自身の力を忌み、常人としての生活を望む子供もいる。
 そんな子供のために巡察官が代々受け継いできた、秘密の術式が有る。
 リンカーコアの封印魔法。
 封印とは言うが、実際はリンカーコアを破壊する魔法だった。
 始まりは有る天才的な巡察官が、管理局の誘拐じみたやり方に反発して作ったらしいが、多くの巡察官にその考えは受け入れられ、連綿と受け継がれてきた術式だ。
 しかし今やその術式を使えるのはエイレンザードだけだった。
 エイレンザードは管理外世界生活が長いため、管理世界…特にミッドの能力があれば子供のうちから働く風潮を良く思っていない。
 エゴなのかも知れない、そうなんども自問したこともある。
 だが子供というのはまだ親に守られ、遊び、学び、悩むべき存在だと、エイレンザードは思っていた。

「(ああ…だけどやっぱりこれはエゴなんですかねェ)」

 別れる直前のなのはの真剣な表情。
 黒衣の少女の感情の感じられない瞳。

「悩ましいですねェ…」

 ため息を吐き、二度目の転移魔法を発動させた。





「エイレンザードさん遅いね…」
「どこまで行ったかわからないけど…個人転送で管理局のある世界まで行って帰ってこれるだけで結構すごいんだよ?」
「そう…なの?」
「うん…ましてエイレンザードさんの魔力量を考えると、すごく特殊な術式を組んでるんだと思う」
「自分では弱いって言ってたけど…」
「確かにエイレンザードさんの魔力は少ないけど、展開のスピードや構成の緻密さ、最小限の魔力で効率的に魔法発動させる術式は、すごいよ。何歳かは聞かなかったけど、何年もかけて独自の魔法を構成してきたんだと思う」
「亀の甲より年の功…なの?」
『お褒めに預かり恐悦至極だねェ』

 唐突にエイレンザードの念話が飛び込んできた。

『いやー遅くなって悪かったねェ』
『こんばんはエイレンザードさん、おかえりなさい…?』
『はいただいま。ちなみに今なのは嬢ちゃんちの屋根の上ね、結界張ってあるから安心してちょーだい』
『あの…』
『昼間の件ね…まぁとりあえず返事はOK』
「ほんとうですか!」

 思わず声が出るほど喜ぶなのはに、ユーノが苦笑する。

『防御やバインドなんかの補助魔法はそのままユーノくんに習うといいと思うよ?あと一つ言っとくけど、おじさん人に魔法教えるの下手だから、覚悟しといてね』
『全然構いません、よろしくお願いします、エイレンザードさん』
『はいブブー、以後おじさんのことは先生と呼ぶように』

 そういってなのはの部屋にエイレンザードが転移してきた…なぜか三毛猫の姿で。

「にゃんこ先生と呼んでもいいよ?あ、ひらがなでお願い」
「ふぇぇぇぇぇぇ!」

 余りのことになのはが奇妙な叫びを上げる。

「いやー魔力足りなくてねぇ…」

 そうぼやく猫、そしてなのはは自分の膝の上のフェレットを見る。

「…せんせい、もしかしてゆーのくんも…」

 なにやら背景にゴゴゴゴゴゴ!という擬音が見えるが、気にせず、極めて陽気にエイレンザードは肯定した。

「そだよ?そのフェレットボーイも元は人間、小型動物の方が体力とか魔力の消耗が抑えられるからねェ」
「なのは…言ってなかったけ?」

 ダラダラと冷や汗を流している感じでユーノが言う。
 ちなみにフェレットは汗腺が無いので汗は流せません。

「きいてない…」
「Oh!さては一緒に風呂に入ったり、生着替えを目撃したのかい?ヘイユーやっちゃったね!」

 そういって猫(エイレンザード)の表情が意地悪そうに笑う。なのはの瞳から光が消え、がしりとユーノを掴む。

「ゆーのくん、せきにん…とってくれるよね?」
「見てない!断じて見てないよ!」
「本当かい?ボォォォイ、おじさんにだけホントのことを素直に話してごら~ん?」
「ねぇゆーのくん…」
「うわぁぁぁぁぁぁ」


 暗転



[20549] 第3話
Name: madoka◆5b5f0563 ID:c6ab109b
Date: 2010/07/27 04:02
 ユーノの弾劾裁判の翌日。
 たっぷり寝坊したなのはは慌てて登校し。
 エイレンザードは、なのはに代わり街中を探索に出かけた。
 ユーノは…あえて語らないことにする。
 結局のその日はなんの成果もなく、日が暮れ、夜になった。

 
 夕飯、入浴を終え自室に戻ったなのはを、探索から帰ったエイレンザード(猫型)が待っていた。

「とりあえず当面は魔力を使わない修行からいきます」
「魔法の特訓なのにですか?」
「発祥の地の名を取ってミッド式って呼ばれてる、なのはや先生の使う魔法は、結構論理的ってかシスティマティック…とにかく良く解らない不思議な力じゃないのです」
「はぁ」

 ちなみになのはが生徒になった瞬間からエイレンザードは彼女を「なのは嬢ちゃん」から「なのは」と呼ぶようになった。
 一人称も「おじさん」から「先生」で口調も変わっている、中々芸の細かい男である。

「君の場合は持ち前の魔力量、そしてセンス、あとその優秀なインテリジェントデバイスのおかげで問題無く魔法が使えてるけどね、それは特別な場合。
 ミッド式の魔法ってのはパソコンのソフトみたいなプログラム。ヘルプファイルを読んで使いこなすことだって出来るけど、その魔法がどうやってプログラミングされているか理解できれば、それだけ魔法が上手く使えるってことになるの」
「ほえ…」
「まず君にはデバイスを没収の上、リミッターを設けて、簡単に魔法が使えなくします。その上で魔法構造の理解、並列思考…マルチタスクの特訓、魔法演算の練習を徹底的にします、一から基礎を覚えて――」
「先生ちょっと待って下さい!」

 べらべらとしゃべりだすエイレンザードをなのはの声が遮る。
 若干不機嫌そうにエイレンザードは「なんです?」と答える。

「あの…」

 表情からなのはの言わんとしていることは読み取ったエイレンザードは続けて言った。

「手っ取り早く魔力のコントロールが上手くなる方法を先生は教えられませんし、そもそもそんな物はありません。
 幾つか戦闘を有利に運ぶ魔法を教えたり、今君が使える魔法の改良ならわりかしすぐですけどね」
「それじゃぁ」

 なのはの言葉を切るようにエイレンザードは続けた。

「いいですか?君のまだ成長しきっていない、未成熟な体は、魔法の使用…特に君のような碌に制御も出来ていない、大魔力の垂れ流しで確実にダメージを受けてます」

 叱責するようなエイレンザードの声が告げた事実に、なのはは思わず沈黙してしまう。
 自覚症状はまったく無い。

「ドリブルやパスの練習をせずに、ルールや戦術を知らずに、まして基礎的な体力トレーニングもなしに、シュートだけ上手くなってもバスケは上手くなりません、ああ別にサッカーでもいいですけど、アンダスタン?」
「…はい」
「ぶっちゃけ先生が君に教えてあげられるのは、そういった知識や基礎のことだけというのも事実です、ですが、これらは確実に君の血肉となると先生は確信してます」
「了解です…」

 その後なのは必死の説得で、なんとかデバイス…レイジングハートの没収は取りやめとなった。
 がしかし、何気にデバイス技師の技術持ちのエイレンザードは、メンテという飴と、分解するぞ、という脅しによってレイジングハートを味方につける。
 授業中もマルチタスクの練習、基礎知識の反復学習、ついでにいずれ必要になりそうなミッド語の練習をレイジングハートの申しつけ、レイジングハート自体もマスターのためになるというエイレンザードの洗脳により、これを黙々と実行。
 なのはに裏切り者と罵られることとなる。
 
 リミッターもしっかりかけられ、なのはエイレンザードと同程度の魔力しか使えない状態を強制され、日中のスパルタと帰宅後のスパルタでへろへろ、ジュエルシードの探索どころではなかった。
 替わりにエイレンザードが日中は探索を行なってくれているが、結果は芳しくなく、週末の連休に突入することとなった。









「ほう温泉旅行ですか、いいですね」

 高町家+αで連休を利用して郊外の温泉に旅行だと聞いたエイレンザードは毛づくろいしつつ、温泉の良さを語り始める。
 その間もマルチタスクで基礎知識を徹底的に叩き込まれている(詰め込みではなく、理解できるまで何度も何度も繰り返される)なのはは目が回ってきた。

「にゃー!先生、もう頭がパンクしそうなのですが~」

 まだまだ脳の情報処理能力が甘いな、と思いつつも、ここ数日のなのはの頑張りを考え、エイレンザードは、ここいらで息抜きが必要と判断した。

「そうですね、旅行中は何も考えずに遊ぶのを許可しましょう、レイジングハートもそのように」
「了解しました、先生」
「やったー!」

 これが飴と鞭という奴か…とユーノが驚愕しているが、どうやらなのははそこまで思考が回らないらしい。

「さてでは今日は少し応用編でいきましょうかね」
「にゃぁぁぁ!」

 あくまで休暇は週末からだった。








 そんなこんなで週末、ようやくエイレンザード&レイジングハートのほとんど洗脳に近い特訓から逃れたなのはは、家族&親友との旅行に明らかにはしゃいでいた。
 ユーノがただのフェレットでは無いこともすっかり忘れて、一緒に入浴を強要し、念話でユーノがエイレンザードに助けを求めると、すっかり身に付いた知識を生かして、念話を妨害する始末。

 後日冷静になって「ゆーのくん…」とまたやるのだが、それはまた別のお話。


 一方

「温泉行きたいねェ、お留守番は哀しいねェ…」

 朝から銭湯に浸かりながら、哀しく呟く男が一人、エイレンザードである。
 緊急時に備えてエイレンザードは、事件解決までの拠点として借りた安アパート(トイレ共同、フロ無し)に残っていた。
 フロが無いので銭湯である。
 けして温泉に行きたかった訳ではない、と自分に言い訳する。
 万が一に備え、なのはに設けたリミッターは外し、レイジングハートには自分のデバイス宛への連絡方法を教えておいたので大丈夫だろう。
 むしろジュエルシードが発動し、現場で黒衣の金髪娘に遭遇すれば、エイレンザードの方がピンチだ。

「(今日も成果は無し…結構な数が海中に落ちてるっぽいねェ)」

 銭湯を出て、臨海公園へと向かい、海を睨む。
 海中の探索はさすがに困難を極める、次元航行艦が来てから取り掛かるしかなさそうだ。

「三分の一くらい落ちてるとして、六から七個くらいかねェ…」

 結局その後日中の探索も空振りに終わった。
 途中なにやらユーノの念話が聞こえた気もしたが、すぐに途切れたので気にしないことにした。






 夜半、エイレンザードのデバイスにレイジングハートから通信が入った。

「ジュエルシードの反応アリ?なんと間の悪い…」


 最悪のタイミングだった。
 エイレンザードの方でもジュエルシードの発動を確認したのだ、なのは達とは別の物だ。
 こちらの状況に「無理をしないように」と伝言えお添え返信し臨海公園へと向かう。


 反応は海中からだった。



[20549] 第3.5話
Name: madoka◆5b5f0563 ID:c6ab109b
Date: 2010/07/31 03:20
「(ゴンズイですか…)」


 ナマズ目ゴンズイ科ゴンズイ属ゴンズイ。
 海釣りのおける外道として、そしてうっかり刺されちゃう有毒魚として有名な魚である。
 とは言えその毒性はかなりのもので、重傷ならば壊死、最悪死亡という場合もある。
 体長は大きいものでも20cm程。見た目はナマズというよりはドジョウに似ている。
 がしかしエイレンザードの眼前で泳ぐゴンズイは、漁船ほどのサイズがあった。

「(サメでなくて良かった、と思うべきですかねェ)」

 これがサメならリアル・ジ○―ズである。

「(とは言え、ジュエルシードの暴走体、油断は禁物ですね)」

 エイレンザードはバリアジャケットとは別に、全周囲を覆うフィールド系の魔法によって水圧を無効化し、なおかつ、惑星の80%が海という愉快な世界で覚えた、水中呼吸魔法を使用中。
 水中でもなんら変わらず行動はできる。
 とは言え相手は泳ぐことが生きることである魚類
 加えて、魔法の維持に魔力を消耗する。
 ここ数日こつこつと組んでいた、対ジュエルシード用の簡易封印魔法にも少なくない魔力を使う以上、魔力の無駄遣いはできそうにない。

 巨大ゴンズイがこちらに気が付いた、あからさまな敵意を向けこちらに突撃してくる。
 本来のゴンズイとはかけ離れた大量の毒棘を逆立てて…
 エイレンザードは全力で後退を開始し、距離を一定に保つ、あれ相手に接近戦は無謀そうだ。
 距離を維持しつつ、魔力弾を一発生成、誘導弾でも高速弾でもない、とにかく威力だけを求めた魔力弾である。

「(エネルギー・ボルト)」

 それはまっすぐに突っ込んで来る巨大ゴンズイに狙い誤らず命中する…が
 シールドと呼ぶのもおこがましい、膨大な魔力に依る魔力障壁に阻まれる。

「(これは…なかなか面倒ですねェ…)」

 己の魔力不足を嘆きつつ、エイレンザードは再度魔力弾を生成するのだった…








 一方そのころ海鳴温泉近くの森林では、ジュエルシードの発動に駆けつけたなのはと、すでにジュエルシードを封印し終え、手中に納めた黒衣の少女が対峙していた。
 わずかな会話の後の決裂、襲い掛かってきた使い魔は、ユーノがとっさに強制転移、現在惹きつけていてくれる。

 説得は出来なかった、言葉だけでは彼女に届かない。
 レイジングハートをきゅっと握り締めなおし、なのはは決意する。
 彼女から持ちかけてきた、ジュエルシードを賭けた決闘。

「(負けない!)」

 前回は隙を疲れて一撃で落とされた。
 あれから数日、エイレンザードのスパルタ指導に耐えてきたが、新しい魔法など一つも教えてはくれなかった。
 ひたすら基礎、基礎、基礎。
 僅か数日ではあったが、それはなのはを強くしていた。
 加えてほとんど魔法を使っていなかったので、魔力も満タンである。

「レイジングハートお願い」

 承諾の声と共に生成される桜色の魔力弾

「アクセルシューター…アクセル!」

 三発の魔力弾が黒衣の少女に向かって放たれる。
 弾速はさほどでは無いと見た少女は、それを持ち前の機動力で避け、そのままなのはの後へ回り込もうとし…果たせなかった。

「誘導弾」

 とっさにデバイスが展開した防御魔法が直撃を防ぐが、威力が高い。
 少女は顔を歪めダメージに耐える。
 エイレンザードとユーノからの情報で少女が高機動、近接戦闘を得意とすることをなのは知っていた。
 なのはの飛行魔法はお世辞にも機動性が高いとは言えないし、砲撃魔法は高速で移動するモノに中てるのは難しい。
 ならばどうするか?
 答えは簡単である、近づかせなければ良い。
 これはエイレンザードが平行して授業してくれた、初歩の魔法戦闘のイロハだ。
 そのための魔法が「アクセルシューター」特訓の合間を縫って構築した、なのはの新たな魔法である。
 三つから四つへ数を増やし、四方から黒衣の少女を攻撃、安全距離を保つ。

「フォトンランサー」

 少女の放った高速弾がアクセルシューターを迎撃に来る。
 四発中三発が迎撃される、残った一発はなんとか回避。
 しかしめげる事は無い、迎撃のために一瞬少女の足が止まった。
 すかさず、なのははいつでも撃てる様にしておいた砲撃魔法のトリガーを引いた。

「ディバァイン…バスター!」

 少女が驚愕に目を見開く、すぐさまデバイスを振りかざし、こちらも砲撃魔法を放つ、早い。

「サンダースマッシャー」

 空中で二発の砲撃魔法がぶつかり合う。
 なのはは、押されぬようにとさらにディバインバスターに威力を込める。
 結果打ち勝ったのはなのは、しかし

「いない!」

 砲撃魔法の撃ち合いに固執せず、少女は動いていた。
 高速移動魔法でなのはの背後を取る。
 変形したデバイスが死神の鎌を振り上げる。

「でも、それも聞いていた通り!」

 真後ろに一発だけ待機させていたアクセルシューター
 完全に虚を突いた一撃が少女の眼前で炸裂した。


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