きょうの社説 2010年7月31日

◎全国学力テスト 「全員」の利点生かしたい
 全員参加から抽出方式に変わった全国学力テストの結果は、石川、富山県ともに平均正 答率が全国平均を上回り、全体では上位層となった。全国的には上位、下位層の固定化がみられたが、抽出率を3割にしたことで順位については誤差を含み、国がおおまかな傾向をつかむという性格が鮮明になっている。

 今回は抽出校以外にも問題用紙の配布を認めたため、石川県では全員参加、富山県でも ほとんどの学校が参加した。文科省が公表したデータは抽出校だけだが、「全員参加」のメリットを引き出すためにも、できれば抽出、自主参加校を合わせた全体データを構築し、現場の指導に生かしたい。文科省は「全員参加」県の取り組みを尊重し、全員方式に戻すことをためらわないでほしい。

 全国学力テストは、政権交代後の事業仕分けで予算が大幅に削減され、都道府県別の比 較が可能な最低限のサンプル調査に変わった。文科省は今回のテストで、幼稚園出身者の方がそうでない子より正答率が高いなど、さまざまな視点で分析を試みているが、過去3回のテストと比べれば、現場レベルで活用できるデータは格段に減った。

 全国学力テストの在り方を検討する文科省の専門家会議は今月、2012年度以降に小 6、中3で対象教科を増やす方向性を打ち出し、当面は抽出と自主参加を併用させる方針である。だが、今回は実際の参加率が希望校を含めて7割に達しており、方針転換は支持されているとは言い難い。教科増の前に、抽出方式を改める検討が先ではないか。

 採点、集計業務について、抽出校は文科省、自主参加校は学校や委託業者が行うという 状況はいびつな姿であり、県教委が市町村からデータを得て比較しようにも、採点の誤差が許容範囲におさまるのか精度の面で課題もある。

 県教委は過去のテストで市町村別、学校別のデータを蓄積してきたが、それが生かされ ないとすれば残念なことである。データ活用の段階であらためて浮かび上がった抽出方式の問題点や現場の負担増を、文科省は見直し論議に反映させてもらいたい。

◎臨時国開会 建設的国家にできるのか
 参院選後初の臨時国会が始まった。開会にあたり、菅直人首相が「国民が期待している のは与野党の建設的な議論」と述べたのは、その通りであろう。衆参両院で与野党の力が逆転し、政策決定が困難な国会を、建設的な議論と合意形成の場にしていく意思があるのかどうか。そのきっかけをつかむ努力がなされるかどうかが今国会で試されている、と与野党は認識してほしい。

 国会を機能させる第一義的な責任は政権与党にあり、菅首相は予算委員会で、首相とし ての資質、政権担当能力を厳しく問われることを覚悟しなければならない。

 本来ならば、首相に選出された先の通常国会で予算委の論戦を行い、参院選に臨むのが 筋であっただろう。選挙優先でそれを避けた結果、首相として初の予算委が一段と厳しい試練の場になったのは皮肉なことである。

 ねじれ国会は、平成に入って半ば常態化している。そのため連立や閣外協力、政策協調 のほか政治の手練手管を使って国会を動かす工夫がなされてきたわけであるが、衆参両院の対立で国家の意思決定ができない状況を切り抜けるために、国会運営の新しい仕組みやルールを作ろうという努力はあまりなされずにきた。

 例えば、衆参の決定が異なった場合に開かれる両院協議会の改革は進まず、制度として まったく役に立っていない。ねじれ国会は、積年の課題である国会改革を進める好機でもあるはずだ。

 国会を立法府として機能させる責任は野党にもある。思い出されるのは、菅政権と同様 の状態にあった小渕政権の「金融国会」(1998年)で、当時の民主党代表の菅氏は金融問題を「政局にしない」と明言し、金融再生法成立を優先したことである。倒閣の手を緩めた菅氏の甘さを指摘する向きもあったが、政局より国家国民に必要な政策を優先させた菅氏の判断は間違いではなかった。

 今の自民党内にも、何でも反対の「大人げない対応」は取れないという声がある。そう した声が良識的な行動になって表れるかどうかを国民は注視している。