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(2010年7月28日付)
■県と国の備え(下) 不完全なマニュアル
2000年、本県と北海道で国内92年ぶりとなる口蹄疫が発生したが、本県3農場、北海道1農場の感染で封じ込めに成功した。専門家は「うまくいきすぎて、口蹄疫の怖さが認識されなかった。教訓を生かし、発生に備えるべきだった」と、県と国の“その後の10年”を総括する。
今回、県は初期段階において、03年作成の「県口蹄疫防疫マニュアル」と07年作成の「高病原性鳥インフルエンザ防疫マニュアル」を参考に対応した。県の担当者は1例目発生の会見で「右も左も分からなかった前回とは違い、鳥フルの経験もある」と自信をのぞかせたが、その後、感染は拡大の一途をたどった。
畜産行政に精通し、前回の口蹄疫も経験した元県幹部は「県口蹄疫防疫マニュアルは実効性に欠ける」と指摘する。元幹部によると、マニュアルは国の防疫要領を参考にしたが、資材の調達方法や埋却地の確保策などに触れておらず、具体性に乏しいという。県は前回発生後に約300ページにわたる「口蹄疫防疫の記録」を編集したが、これに基づく改善点などは「マニュアルにほぼ反映されていない」とも語る。
元幹部は「今後は実践可能なマニュアルに作り替え、それに基づく演習を毎年するべきだ」と強く訴える。
■ ■
00年、705頭を殺処分した北海道は生乳生産量が全国の46%、肉用牛頭数が16%を占めるなど、全国一の酪農畜産王国。北海道は発生を受け、02年にコンピューターで発生地域周辺の農場やその所有者、飼育状況、制限区域などを瞬時に把握できる家畜防疫地図システムを整備した。迅速・的確な初動防疫につなげるためだ。
また、当時の道内の平均的な養豚農場(千頭)で口蹄疫が発生したことを想定し、殺処分から埋却まで2日間の防疫作業が可能な資材を6家畜保健衛生所にそれぞれ備蓄した。各家保では毎年、口蹄疫を含めた家畜伝染病の演習訓練を市町村やJA、獣医師を対象に実施している。北海道畜産振興課は「口蹄疫被害は、決して忘れられないものとして受け継がれている」と、教訓を胸に刻む。
■ ■
国際獣疫事務局(OIE)は00年6月、日本での発生を受け「東アジア地域における口蹄疫に関する緊急会議」を開き、各国の口蹄疫対策の徹底を要求。09年6月の「口蹄疫に関するOIE、FAO(国際連合食糧農業機関)国際会議」では、欧州や南米のような複数国による地域的連携が必要との最終勧告を採決した。しかし、東アジア地域でリーダーシップをとるべき日本は積極的に動かず、連携の動きは生まれなかった。
鹿児島大農学部の岡本嘉六教授(獣医衛生学)は「国の口蹄疫に対する取り組みは10年前の勧告からほとんど進んでいない。今回の被害総額の1割でも口蹄疫対策に回していれば」と悔やむ。