<通商自由化交渉>日本出遅れ 交渉停滞の長期化懸念も
7月29日21時37分配信 毎日新聞
日本、中国、韓国の東アジア3カ国の通商自由化交渉が対照的な動きを見せている。中国と台湾は6月末に中台経済協力枠組み協定(ECFA)を調印し、韓国も欧州連合(EU)や米国との交渉を終えた。一方、日本は積極的な自由化を掲げつつも、実際には農業問題などが解決できずに交渉は行き詰まったまま。民主党政権は閉塞(へいそく)状況の打破を目指しているが、参院選での敗北の影響も指摘され、交渉停滞の長期化を懸念する声も出始めている。【立山清也】
◇中国→台湾と協定調印
◇韓国→EU、米と署名
中台ECFAでは、中国側が539品目、台湾側は267品目の関税を段階的に引き下げ、13年1月までに完全撤廃する。政治的に対立してきた中台だが、中国は将来の中台統一に向け経済で台湾をつなぎ留め、台湾は成長著しい中国市場への輸出拡大で経済成長を目指すとみられる。
中国は台湾以外にも、豪州やアイスランド、ノルウェーなどと急ピッチで交渉を進めている。相手側にとっても巨大な中国市場は魅力的で、中国との交渉入りを目指す国は少なくない。
自動車や液晶テレビ輸出で日本と競合する韓国も、EUとのFTAを仮署名し、米国とも署名済み。年内には豪州とも合意に達する見通しだ。同じような輸出形態と農業問題を抱えながら日本と対照的なのは、相手国への譲歩や一部農業の犠牲をいとわず工業品輸出を強化しようという李明博政権の強い姿勢があるためだ。
ライバル国の活発な動きに比べ、日本の交渉は停滞している。日本は11カ国・地域とEPAを締結済みだが、新興国が中心。対主要市場では、米国とは交渉のテーブルにも着けず、豪州との交渉も中断。ネックは農業問題で、締結すると米国からコメや牛・豚肉など、豪州から乳製品や小麦などが流入し、国内農業が打撃を受けかねないと関係者の反対が根強いためだ。
交渉の遅れは企業活動に影響を与える。例えば、EUの関税は自動車10%、液晶テレビ14%。韓国とEUのFTAが発効すれば、日本企業は、現代自動車やサムスンなどが躍進する韓国勢と、さらに関税ゼロというハンディを負って競争することが強いられる。
◇「理想」3カ国締結に影
中台ECFAが日中韓3カ国の自由化交渉に与える影響も指摘されている。
日本は、日韓で2国間協定をまとめたうえで、日中韓3カ国でのEPA締結を理想としている。「まずは日韓でがっちりとタッグを組み、大国の中国に交渉のネックとなる農業問題などでの譲歩を迫る必要がある」(経産省)ためだ。
しかし、韓国企業も台湾企業と石油化学製品などの対中輸出で競合しており、日本の関係者は、「中国での競争力を確保するために韓国が単独で対中FTAに走るのではないか」と懸念する。韓国が単独行動を取れば、日本の対中自由化交渉のシナリオは崩れかねない。
一方、参院選での与党敗北も交渉の行方に影を落とす。ある経産省幹部は「これから農業問題に取り組みEPA交渉を進めるはずだったが、与党敗北で政策は国内向けを優先せざるを得なくなるだろう」と明かす。
こうした日本の現状を危惧(きぐ)し、民間企業出身の丹羽宇一郎・新駐中国大使は「日中FTAを進めないと、日本は取り残される」と早期の交渉開始に意欲をみせる。従来、自由化推進を求めてきた経済界も危機感を募らせており、日本経団連は「経済統合の推進を、持続的成長を実現するための戦略の中核に位置づけるべきだ」と訴え、15年までに日韓、日中韓、米国などとの自由化交渉を妥結させるよう求めている。
◇FTA、EPA
自由貿易協定(FTA)は、2国間または複数国間で関税を撤廃し、貿易の活性化を目指す枠組み。これに投資や知的財産保護、人的交流などを加え、ヒト、モノ、カネの移動の自由化、円滑化で、より幅広い経済関係の強化を目指すのが経済連携協定(EPA)。日本はEPAの締結を推進している。中国は主権国家間でしかFTAを結ばないため、台湾との協定を経済協力枠組み協定(ECFA)としているが、実質的にはFTAに相当する。
◇日中韓のEPA、FTA締結・交渉状況
【日本】
<締結・署名>
シンガポール、メキシコ、マレーシア、フィリピン、チリ、タイ、ブルネイ、インドネシア、東南アジア諸国連合(ASEAN)、ベトナム、スイス
<交渉中>
韓国(中断中)、湾岸協力会議(GCC)、インド、豪州、ペルー
<研究・検討>
日中韓、モンゴル、欧州連合(EU)など
【中国】
<締結・署名>
チリ、ASEAN、香港・マカオ、台湾(調印)ほか4カ国
<交渉中>
豪州、GCC、南部アフリカ関税同盟(SACU)ほか3カ国
<研究・検討>
韓国、インド、日中韓、スイスなど
【韓国】
<締結・署名>
欧州自由貿易連合(EFTA)、ASEAN、米国、インド、EU(仮署名)ほか2カ国
<交渉中>
カナダ、メキシコ、日本(中断中)、GCC、豪州ほか2カ国
<研究・検討>
中国、南米南部共同市場(メルコスル)、日中韓、SACU、ロシアなど
【関連ニュース】
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◇中国→台湾と協定調印
◇韓国→EU、米と署名
中台ECFAでは、中国側が539品目、台湾側は267品目の関税を段階的に引き下げ、13年1月までに完全撤廃する。政治的に対立してきた中台だが、中国は将来の中台統一に向け経済で台湾をつなぎ留め、台湾は成長著しい中国市場への輸出拡大で経済成長を目指すとみられる。
中国は台湾以外にも、豪州やアイスランド、ノルウェーなどと急ピッチで交渉を進めている。相手側にとっても巨大な中国市場は魅力的で、中国との交渉入りを目指す国は少なくない。
自動車や液晶テレビ輸出で日本と競合する韓国も、EUとのFTAを仮署名し、米国とも署名済み。年内には豪州とも合意に達する見通しだ。同じような輸出形態と農業問題を抱えながら日本と対照的なのは、相手国への譲歩や一部農業の犠牲をいとわず工業品輸出を強化しようという李明博政権の強い姿勢があるためだ。
ライバル国の活発な動きに比べ、日本の交渉は停滞している。日本は11カ国・地域とEPAを締結済みだが、新興国が中心。対主要市場では、米国とは交渉のテーブルにも着けず、豪州との交渉も中断。ネックは農業問題で、締結すると米国からコメや牛・豚肉など、豪州から乳製品や小麦などが流入し、国内農業が打撃を受けかねないと関係者の反対が根強いためだ。
交渉の遅れは企業活動に影響を与える。例えば、EUの関税は自動車10%、液晶テレビ14%。韓国とEUのFTAが発効すれば、日本企業は、現代自動車やサムスンなどが躍進する韓国勢と、さらに関税ゼロというハンディを負って競争することが強いられる。
◇「理想」3カ国締結に影
中台ECFAが日中韓3カ国の自由化交渉に与える影響も指摘されている。
日本は、日韓で2国間協定をまとめたうえで、日中韓3カ国でのEPA締結を理想としている。「まずは日韓でがっちりとタッグを組み、大国の中国に交渉のネックとなる農業問題などでの譲歩を迫る必要がある」(経産省)ためだ。
しかし、韓国企業も台湾企業と石油化学製品などの対中輸出で競合しており、日本の関係者は、「中国での競争力を確保するために韓国が単独で対中FTAに走るのではないか」と懸念する。韓国が単独行動を取れば、日本の対中自由化交渉のシナリオは崩れかねない。
一方、参院選での与党敗北も交渉の行方に影を落とす。ある経産省幹部は「これから農業問題に取り組みEPA交渉を進めるはずだったが、与党敗北で政策は国内向けを優先せざるを得なくなるだろう」と明かす。
こうした日本の現状を危惧(きぐ)し、民間企業出身の丹羽宇一郎・新駐中国大使は「日中FTAを進めないと、日本は取り残される」と早期の交渉開始に意欲をみせる。従来、自由化推進を求めてきた経済界も危機感を募らせており、日本経団連は「経済統合の推進を、持続的成長を実現するための戦略の中核に位置づけるべきだ」と訴え、15年までに日韓、日中韓、米国などとの自由化交渉を妥結させるよう求めている。
◇FTA、EPA
自由貿易協定(FTA)は、2国間または複数国間で関税を撤廃し、貿易の活性化を目指す枠組み。これに投資や知的財産保護、人的交流などを加え、ヒト、モノ、カネの移動の自由化、円滑化で、より幅広い経済関係の強化を目指すのが経済連携協定(EPA)。日本はEPAの締結を推進している。中国は主権国家間でしかFTAを結ばないため、台湾との協定を経済協力枠組み協定(ECFA)としているが、実質的にはFTAに相当する。
◇日中韓のEPA、FTA締結・交渉状況
【日本】
<締結・署名>
シンガポール、メキシコ、マレーシア、フィリピン、チリ、タイ、ブルネイ、インドネシア、東南アジア諸国連合(ASEAN)、ベトナム、スイス
<交渉中>
韓国(中断中)、湾岸協力会議(GCC)、インド、豪州、ペルー
<研究・検討>
日中韓、モンゴル、欧州連合(EU)など
【中国】
<締結・署名>
チリ、ASEAN、香港・マカオ、台湾(調印)ほか4カ国
<交渉中>
豪州、GCC、南部アフリカ関税同盟(SACU)ほか3カ国
<研究・検討>
韓国、インド、日中韓、スイスなど
【韓国】
<締結・署名>
欧州自由貿易連合(EFTA)、ASEAN、米国、インド、EU(仮署名)ほか2カ国
<交渉中>
カナダ、メキシコ、日本(中断中)、GCC、豪州ほか2カ国
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最終更新:7月29日23時19分
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