自分の部屋からほとんど出ない、近所のコンビニに行くだけ、という人は23万人。趣味に関する用事の時だけ外出するという人も加えると約70万人に上る。内閣府の実態調査で明らかになった「ひきこもり」の推計数である。6カ月以上ひきこもりが続き、病気ではなく育児や家事をしているわけでもない人のことだ。 さらに「自分も部屋に閉じこもりたいと思うことがある」などの潜在群は推計155万人。少子化で先細りしている若年層がこれでは、この国の未来はどうなるのだろうか。
ひきこもりは15年以上前から問題が指摘されてきたが、専門家や非営利団体が孤軍奮闘してきたのが実情で、政府の対応は場当たり的で後手に回ったと言わざるを得ない。孤立した家族内で悲惨な事件が起きたり、根拠の薄い治療や教育で事態が悪化したりするケースも少なくない。かつては不登校の延長として位置づけられてきたが、今回の実態調査では仕事や就職に関することが原因でひきこもりになった人が44%に上り、年齢も30代が46%を占めた。また、男性が7割弱を占める。親の高齢化とともにひきこもりが長期化しているのも最近の特徴だ。
政府は「子ども・若者ビジョン」を策定し支援策を進めるが、理念を示し広報や啓発に努めるだけでは足りない。ひきこもりを「甘え」などと思っている人もいるだろうが、現実には切実で深刻な原因が指摘されている。虐待被害、貧困などによる不十分な養育、いじめ、体罰、非正規雇用の増大による不安定な就労などである。心理的虐待や性的虐待は長期間トラウマを残すことが知られている。発達障害の人がひきこもりの中に多いという調査結果もある。理解不足や偏見によって心理的なダメージを負っている人は多い。
誤解に基づく不名誉なレッテル張りや不適切な支援を排除するためにも、まずは詳細な原因調査や研究が必要だ。「家族に申し訳ないと思うことが多い」「他人がどう思っているかとても不安」「生きるのが苦しいと感じることがある」などの不安要素を抱えている一方で、関係機関に相談したいと「思わない」という人が7割近くもいる。ひきこもり対策は難しく、すぐに効果が出るものではないことを理解すべきだ。
3カ月間の合宿で生活・就労訓練を受ける「若者自立塾」はひきこもり支援に有効と言われた国の事業だったが、事業仕分けで「コストの割に効果が薄い」との理由で廃止された。落胆している支援者は多い。政権内のちぐはぐな政策決定が地道な活動の足を引っ張っているのである。長年の努力や経緯を無視して実のある成果は得られないだろう。
毎日新聞 2010年7月27日 2時32分