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[18853] 数の子って言うな!
Name: アラスカ◆0e5b3aa7 ID:f6242140
Date: 2010/07/22 21:12
「――ドクター、次の行動の指示を」

「・・・・・・ウーノか」


毒々しい紫の髪をした青年がゆっくりと目を開く。


「No.2の培養は順調。No.3の作成に取りかかるべきです」


青年に進言するのは薄い紫色の髪をした女性。


「・・・・・・わかったよ。やればいいんだろう、やれば」

「ドクターの素晴らしい頭脳があれば、最高評議会を出し抜き、ドクターの夢を実現することも可能です」

「ありがとう。お世辞でも嬉しいよ」


女性は思考する。
自分は世辞などではなく、純然たる事実を述べただけだと。

青年は思考する。
そんな夢を実現するよりも微睡みの中で夢を見ていたかったのにと。


――最近はどうも働き過ぎた。
戦闘機人について革命的な技術革新を起こしたのはつい最近のこと。

最高評議会からは大した指令も来ず、この広くて暗いアジトに一人というのが悲しくて、自作機人No.1、ウーノを作成したのが発端だ。
・・・・・・戦闘機人としてつくった覚えはない、一緒に過ごしてくれる美人のおねいさんが欲しかっただけなのに、先天固有技能なんてものが発現してしまうし、ウーノは何を勘違いしたのか自分の体を戦闘用に作り替え(尤も制作者は戦闘など考慮していないので付け焼き刃にすぎないが)、生みの親の生みの親である最高評議会をぶっ潰そうと言い出した。

しかも理想のおねいさんの記憶を複写する為に考えていたプロジェクトFの用途を変更し、勝手に制作者である私の遺伝子を自分の体に埋め込んでしまった・・・・・・これは私が責任を取らねばならないのだろうか?
私も彼女に私自身の因子(制作時点なので、これはノーカウントだろう)を埋め込んだが、それは私に似た性格のおねいさんなら気兼ねしなくていい、という発想が元だ。


「No.3は肉体増強レベルを大幅に引き上げ、“ナンバーズ”の実戦部隊のリーダーとするのが得策です」

「ああ、じゃあそんな感じで」

「はい」


ナンバーズ。
プルシリーズでなければ時の番人でもなく、ましてや宝くじでもない。

No.1が、No.2以降の“戦闘機人”の作成を推奨。
1を表すウーノを自称し、自分たちをナンバーズと名乗ることを決めた。

・・・・・・ウーノやドゥーエはまだいい。
だが5番の娘などどうだろう。
名付け方の法則に従えば、チンク。
・・・・・・チン●。
学校に行かせてみろ、絶対にイジメられる。

次に8番、オットー。
オットットー・・・・・・これもどうかと思う。

問題なのはウーノが何番まで私につくらせるつもりなのか。
3番をリーダーに、というぐらいなのだから余裕で5番まではつくらせそうだ。
すまない、まだ見ぬ我が子よ。私にはウーノを止めることはできないだろう。


「私たちナンバーズはドクターの夢のために」


彼女の勘違いはマッハ。
ウーノの頭の中での私は世界征服を企む悪の科学者みたくなっている。


「――ところでウーノ」

「なにか?」

「そのスーツはどうにかならないのかい?」


ウーノの身を包むのはなんだかエロいスーツ。


「私たち戦闘機人は魔導師のように防護服を展開できないため、こうして常に防護服を着用しておかなければなりません」

「戦闘能力の低い君がそれを纏ったところで大した効果は期待できない。頼むから以前渡した服を着てくれ。私のサポートならアレの方がいい――主に私が」


仕事している横にそんな格好で居られたら集中などできやしない。


「・・・・・・ドクターの命令であればそのように」

「助かるよ」


男子の無限の欲望に勝つのはいくつになっても大変なのだ。


「それじゃあ、着替えたら仕事を始めようか」

「はい――ですがその前に」


白衣に袖を通す私の髪をウーノがどこからか取り出した櫛で梳いた。


「寝癖ができています。ドクターの髪には癖がありますから」


二、三度梳いて寝癖を直すと、着替えのためにそそくさと踵を返し出て行ったウーノ。




「・・・・・・これはこれでありかもしれないな」


献身的な女性は私の好みだ。











あとがき
勘違い系・・・なのかな?
ナンバーズがドクターのために奮闘するおはなしです。



[18853] 第1回
Name: アラスカ◆0e5b3aa7 ID:f6242140
Date: 2010/05/16 08:57
No.2、ドゥーエが稼動を開始したのは新暦0052年の春のことである。
偽りの仮面という先天固有技能(ウーノ曰わく諜報・暗殺に最適らしい)を発現した彼女を一言で表すなら――――


「ドクターの開発したピアッシングネイル、実に素晴らしい私向きの武装です」


――なんかエロい金髪のねーちゃん。この一言に限るだろう。

ピアッシングネイル(元はピンセットを改造したものなんだが気に入っているようだ)を眺める姿は妖艶。

そしてあのエロいボディスーツが実によく似合っている・・・・・・くっ、治まれ私の無限の欲望!
ドゥーエは私(とウーノ)の作品、つまりは我が子だ。
そんな目で見ているなんてドゥーエに知られてみろ、白い目で見られるのは必至ッ。

洗濯物はドクターと別にしてねとか、ドクターの入ったお風呂になんか入りたくな~い、とか言われるに決まっている。
・・・・・・だが、他に彼女に合った服などないし、このボディスーツで我慢してもらうとしよう。


「ドクター?」


そして問題の5番、チンク。
男の子がチン●と言われるのと女の子がチン●と言われるの、どっちが嫌なんだろうか。
いやどちらにしてもそんな名前をつけるなんて最低!→それはウーノが→うるちゃいうるちゃいうるちゃい! となるだろう。


「ドクター・・・・・・?」



ああ、父親というのは娘に嫌われる運命にあるのか・・・・・・母親のいない彼女たちは愛に飢え、非行に走り、管理局のお世話に・・・・・・まさかウチの子に限って!


「――ドクター、もう次の目的に向かって思考しておられるのですね」

「・・・・・・教育だけはしっかりしておかなければな」


私、無限の欲望の娘というだけで世間の目は冷たい。せめてどこに出しても恥ずかしくないように教育しよう。


「! はいっ、(ドクターの)夢のために全力を尽くします!」

「――ああ、真っ直ぐに育ってくれよ」


将来的には私のようないつ切り捨てられるともしれない仕事ではなく、公務員、管理局に就職してもらいたいものだ。
いや、教会というのもいいな。見た目とは裏腹に信仰と慈悲の心に溢れた女性になれるだろう。
教会と言ったら、


「やはり聖王教会か・・・・・・」


この十数年後(つまり大学あたりまでの教育を積ませた後)、ドゥーエが本当に聖王教会に勤めることになるとは今の私は知る由もなかった。





◇◆◇◆





「プロジェクトFの論文データがない、だと・・・・・・?」


ドゥーエがナンバーズに加わってからしばらくしてからのこと。
ウーノが自分と同じように、勝手に私の遺伝子をドゥーエに埋め込むという大事件も過去のこととなったある日。

少々肉体増強に手間取っている(“戦闘”機人をつくるのは初めてなのだ)が、No.3の制作も順調に進み、私はなんとなく再びプロジェクトFの研究に取りかかろうと思い、端末を起動した。
だが、データがない。


「ま、まさか一昨日の扇風機の実験でブレーカーを落とした時に消えてしまったのか――!?」


そ、それとも有線で繋いでいたらそのケーブルにドゥーエが引っかかって抜いてしまった時か・・・・・・!?


「――ドクター? どうかなさいましたか?」

「ウーノっ」


そうだ、メインコンピューターと繋がっているウーノならデータがどうなったかもわかるはず!






「プロジェクトFのデータはプレシア・テスタロッサという魔導師に流しました」

「な、なぜそんなことを・・・・・・」

「プロジェクトFが完成すれば、保険がより強固なものとなります。しかしドクターは多忙の身ですから、ドクター以外に完成させることのできそうなプレシア・テスタロッサに」


多忙だと思うなら少しは休ませてほしい。


「私以外にプロジェクトFに興味を持つものがいたのかい?」


アルハザード時代ならいざ知らず、今の時代にクローンを造って記憶を転写するなどという発想をするものはそうはいないと思っていたが。


「プレシア・テスタロッサは事故で娘を失っています。その娘を生き返らせるためならなんでもするはずですから」


娘を・・・・・・。


「――ウーノ、プレシア・テスタロッサと通信できるかい? プロジェクトの基盤を作った私となら彼女も話してくれると思うんだが」

「可能ですが、何のために?」

「プレシアの娘を生き返らせるのに協力したいんだよ」

(このドクターの表情は・・・・・・何か考えが?)


くっくっくっ、ここで私がプレシアの娘を助けるために協力すれば・・・・・・

ウーノ:ドクターは悪の科学者→ドクターは良い科学者

ドゥーエ:ドクターと洗濯物別→ドクター、背中流してあげる


となる!
完璧じゃないか。

娘(ナンバーズ)が生まれた時から変わらずに揺らめいていた私の願い。

娘の誤解を解きたい&娘に慕われたい。
叶えてみせようじゃないか。



――プレシアとの対話で私がアルハザードの技術で造られた存在だと教えてしまうのは、もう少し後のことだ。










あとがき
一言。
私はチンクのことが大好きです。
というかナンバーズ全員大好きです。
後、接続詞が所々変なのは仕様です。



[18853] 第2回
Name: アラスカ◆0e5b3aa7 ID:f6242140
Date: 2010/05/18 20:47
やあ、ごきげんよう。
私は開発コード 無限の欲望。
最近の趣味はジョギング。戦闘機人の宣伝マン、ジェイル・スカリエッティ。

ドゥーエが生まれてから少し間を置いて新暦0055年。No.3、トーレが稼動を開始した。

ウーノをおねいさん。
ドゥーエをねーちゃんと評した場合、トーレは――――


「ドクター、私やこれから製造される姉妹たちの訓練のための戦闘シムのスペースの確保は必須。その設置許可をいただきたい」


――お尻に目がいくおっかない姉御、と言ったところだろうか。


「戦闘なんてまた物騒なことを・・・・・・」


私の因子が含まれているはずだがウーノといいトーレといい、どうも私の性格が反映されているとは思えない。


「ウーノやドゥーエとは違い、私は直接敵と対峙することが多くなりますから」

敵って誰さ。
一度決めたことに突っ走るあたり、やはり私に似ているのかもしれないな・・・・・・。


「まあいいさ。運動するスペースは必要だからね」


私も科学者とはいえデスクワークばかりでは体によくない。
この体に衰えなんてものがあるのかは分からないが。


(運動・・・・・・私の訓練は児戯に過ぎないということか。確かに自分のISに振り回されている今の私ではその程度、だが必ずモノにしてみせる)

「――ところでトーレ」


用件を終えたらすぐに帰ろうとするのはこの子たちの悪い癖だ。
もう少しスキンシップを取るべき、そうするべき。


「此処での生活にはもう慣れたかい? ウーノもドゥーエも、今は自分のことで手一杯であまり話せていないだろう」

「――問題ありません。No.1 ウーノもNo.2 ドゥーエも、志を同じくする仲間であり姉妹ですので」


ふむ・・・・・・ところでトーレのように背の高く、武人のような性格の娘に敬語で話されると少々気後れしてしまうな。
向き合っていると、我が娘ながらまるでおやじ狩りをされているような感覚に陥る――わかるかね? 全次元世界のおやじ諸君――なのに敬語。
違和感バリバリである。
ついでに言えば父親としての威厳を守るために大仰な手振りに尊大な態度で振る舞っている私にも違和感バリバリである。
正直、研究の時以外は真面目になんてなりたくない。

最高評議会のワケの分からない話などより時折プレシアが話す親馬鹿トークを延々と聞いていたいし、最高評議会の脳味噌などよりも娘たちの成長を眼に焼き付けたい。
最高評議会の嗄れた声よりも可愛い娘たちの声を聞きたいし、くだらない数字の羅列と顔を突き合わせているぐらいなら培養槽に顔をぺったりとくっつけて製造途中の娘と顔を合わせていた方がいいに決まっている。


「姉妹仲が良好なのは結構。私ももう少し顔を出せればいいんだが」


ウーノ曰わく、戦力の充実は急務。
ナンバーズの完成を急ぐと共に、古代ベルカの遺産“ゆりかご”の防衛機構の一つである機械兵器の研究に追われる今日この頃である。
プレシアの持つ時の庭園のようなものが私も欲しくて研究していたのだが、これまたウーノは勘違いしてしまったようで“プランⅠ−A”としてゆりかごの復活に向かって動いている。

ああでも、管理外世界にあるという父の日に娘からゆりかごプレゼント、なんてされてみたいものだ。


「ウーノもドゥーエも――無論私も、ドクターの夢のために動いています。お気になさらず」

「そうかい?」


勘違いが元とはいえ、このように尽くされるのは父親冥利に尽きるというものだ。
よし、おとーさんも頑張っちゃうぞ。





◇◆◇◆





作業記録 新暦0055年 10月3日


我らが創造主 Dr.ジェイル・スカリエッティは和食と呼ばれるものを好む。
私、No.1 ウーノは諸説ある和の発祥地のうちの一つ『地球』の料理への挑戦を決意。
ドクターに満足していただける食事の提供をここに誓う。

また疲れを和らげるマッサージをNo.3 トーレに実行。それなりの評価を得られたのでこれも明日、ドクターの肉体洗浄後に実行予定。
すべてはドクターのため、最高評議会の排除と自由な世界を奪い取るために。

明日も頑張ります。
ウーノ










「ふふふ、君の娘にも負けないこの愛らしさ。やはり彼女たちは私の最高傑作だよ」

『ふん、そんな業務的な記録になんの意味があるのかしら。見なさい、このアリシアのたどたどしい字で書かれた日記を!』


ジェイル・スカリエッティ、今夜もプレシアが根を詰めすぎないようガス抜きをしています。

しかしプレシア、お酒もほどほどにした方がいい――――そう言っても、モニター越しではプレシアを止めることは叶わないのだった。


ああ、いつかプレシアが再び娘と笑い合える日が来ればいい。
ついでに私も未だ感情の乏しいナンバーズたちと笑い合える(悪役的高笑いにあらず)日が来ればいいのだが・・・・・・。









あとがき
敬語のトーレに違和感。
次回は問題の5番が登場。もしかしたら4番もセットかもしれません。



[18853] 第3回
Name: アラスカ◆0e5b3aa7 ID:f6242140
Date: 2010/05/18 20:49
この物語は私たち十二姉妹(予定)の平凡な日常――――ではなく、


「・・・・・・ウーノ、クローン培養に使う遺伝子は本当に彼女のでなければならなかったのかい?」

「はい。拠点破壊に特化したスキルを発現させるには、彼女が最も適切でしょう」

「・・・・・・そうか」


培養槽に浮かぶのは銀髪の、5番目の姉妹。
4番の娘はもう少し調整に時間が掛かるため、最初に5番、そう問題の5番を稼動させることになった(とはいえもう数年先のことだが)のだ。

さて、ウーノを初めとしたナンバーズ、彼女たちの培養方法は大きく分けて2つ。
複数の遺伝子を掛け合わせた純粋培養、ドゥーエとトーレはこの方法だ。
そしてウーノや5番のこの娘のように、ある一人の人間の遺伝子を利用したクローン培養。

ウーノには私的理想のおねいさんイメージに近い人物の遺伝子を選んで使ったのに対し、5番の娘に使われている遺伝子はウーノが選んだもの・・・・・・単刀直入に言おう、その遺伝子の持ち主は――――少女なのだ。

歴史上の人物というわけではないが、優れた魔導師の遺伝子。
その魔導師、敢えて言うならば魔法少女には一つの欠点(美点ともとれるが)があった。
それが少女であること。
年齢が、ではない。
見た目が少女なのだ。

要するにロリババアを地で行った魔導師。
――言いたいことがわかっただろうか?

年齢、見た目共に少女であったならば問題はない。
機人と言えど成長はする、つまり未来がある。

だがロリババアの遺伝子を使った5番には――――未来はない。
永遠のロリータボディが約束されているのだ。
ナンバーズNo.5、チンクには。
・・・・・・ロリなのにチン●。
ロリにチン●!


「――この罪悪感の中にある甘美なる感覚は・・・・・・」


――それはそれでありじゃね?


まさか、私の無限の欲望はロリチン●を肯定するというのか!?


「くッ、くくくっ! 刷り込まれたものなのかもしれないが、これも私の欲望。いいだろう、証明してあげようじゃないか!」


――父性は欲望を超越することができるということを!


「この私が!」

「はい、ドクター」


こんなことの繰り返しがウーノの勘違いを酷くしていったことなど、この頃の私は知らなかった。



――――この物語は私、無限の欲望 ジェイル・スカリエッティとその娘たちの一大叙情詩である(嘘)。





◇◆◇◆





新暦0060年 冬


「――ドクター」

「ドゥーエ、どうかしたのかい?」

「お茶をご用意しました。少し休憩なさってください。ドクターの身体は私たちほど丈夫ではないのですから」


私はドゥーエに気づき、『5年ほど前から研究を初めたゆりかご防衛兵器を基につい最近やっと完成した試作機』を拭く手を休める。


「ああ、そういえばここ51時間ぐらい休憩をとっていなかったな・・・・・・ふふ、科学者という人種は自分の限界など頭になくてね。君たちがいなければ私は死んでしまっていたかもしれない」

「御自愛ください」


尤も、こんな風に研究に勤しむことは君たちがいなければ滅多にないのだろうけど。


「いつもの場所に用意してあります――今はチンクも居ますし、いい気分転換になるでしょう」

「ああ、ありがとう」


むしろ気が滅入ってしまいそうな気もするが(私限定で)。










「お疲れ様です、ドクター」


ガタンと音を立ててチンクが椅子から立ち上がり、私に一礼する。
・・・・・・ちっちゃいなあ。


「――チ、チンクは今まで何をしていたんだい?」

「トーレと訓練です。私のIS、ランブルデトネイターは未熟な私には過ぎた力ですから、一刻も早く使いこなせるようにと」


座り直したチンクが淡々と答える。
そういえばまた物騒な能力が出たんだったね・・・・・・トーレももう自分の能力を使いこなしているし、ウーノの言う戦力の充実は確実に進んでいる。
さて、ウーノは私に何を見せてくれるのかな――。


「――君は今のところ唯一、私の因子を埋め込んでいない。そんな君から見て、今の生活はどうだい?」

「・・・・・・? 質問の意味がよくわかりません」

「うーん・・・・・・家出したい、とか、反逆したいー、とか・・・・・・洗濯物は別に、とか」


最後はぼそりと聞こえないように呟いた。


(洗濯物・・・・・・?)


が、戦闘機人であるチンクの耳には届いていた。


「ドクターの因子を持っていない私にはドクターの真意を完全に理解することはできませんが、ウーノたち上の姉妹を見ていれば創造主であるドクターに反逆する気など――」


起こりません、とチンクは言った。


「ウーノたちは私によく尽くしてくれている」


ズレてはいる。ズレてはいるが――それでも娘に尽くされて悪い気はしない。


「あの姉たちが目指す、ドクターの夢を私も見てみたい」


・・・・・・名前に負けず、真っ直ぐに育ってくれているっ。
私の夢なんて三大欲求とちょっぴりの好奇心が満たせる生活ぐらいだというのに・・・・・・まあ、それすらも難しいのが私の立場であり、今の世界なのだが。


(・・・・・・私には分からない、ドクターの目指す夢が。ウーノたちの語るドクターのように、本当にただ欲望に従っているだけなのか・・・・・・戦闘機人である私が考えても意味のないことなのだがな)

「――――ドクター、ウーノとトーレを連れて来ました」

「ん、ご苦労様、ドゥーエ」


ちっちゃい姉御、チンクの言葉に感動していた私に、戻ってきたドゥーエが声をかける。
お茶ぐらいみんなで飲みたいので呼んできてもらっていたのだ。


「ドクター、お茶は私が・・・・・・」

「気にしなくていい。茶にはこだわりがあってね、まだウーノやドゥーエには負けていないさ」

「・・・・・・ドクター、何故何も訊かずに私の紅茶に砂糖を?」

「え゛・・・・・・すまない、つい」


流れるような動作でチンクのカップに砂糖を入れている私がいた。


「う、ウーノたちはストレートでいいね」

「はい・・・・・・」

「お任せします」


仕事を取られてしょんぼり(´・ω・`)しているウーノと一家の主のごとく構えているトーレのカップに紅茶を注ぐ。


「はい、ドゥーエ」

(お砂糖・・・・・・)



外の時間はあまり注意していなかったが、今日は全員揃ってのアフタヌーンティーとなった。















――同じ頃、プレシアは私の代わりにプロジェクトFを完成させ、アリシアのクローンを生み出した。
・・・・・・それから少し後のことだ、プレシアとの連絡が途絶えたのは。




「――嫌な予感がする・・・・・・」


私は科学者らしからぬことを呟いた――――科学者、ね。











あとがき
下ネタばかりでごめんなさい。チンクのスカさんに対する好感度が原作(アニメ)よりも多少上がりました。
スカさんのナンバーズに対する好感度は振り切れてます。



[18853] 第4回
Name: アラスカ◆0e5b3aa7 ID:f6242140
Date: 2010/05/19 20:31
新暦0065年 春
後にPT事件、またはジュエルシード事件と呼ばれることになる、ロストロギアを廻り争う二人の少女と、その背後にある壊れた母親の物語――――を語る前に、その少し前の話をしよう。


新暦0064年 秋


「プレシア・テスタロッサ・・・・・・ふぅん、ドクターの捨てたプロジェクトを完成させるだけの頭はあるのね、このオバサン」


口の悪いメガネが一人。


「クアットロ、情報処理の仕事の手伝いだと言って私を引っ張って来たんだろう。それが何故ドクターの端末の中身を覗いているんだ」


しっかり者のロリが一人。


「でもでもチンクちゃんも気になるでしょう? 私たちの主が何を考えているのか。最近は待機ばかりだものねぇ」

「それは・・・・・・」


メガネ――No.4 クアットロは自分の行動を正当化するために、下の姉妹たちも気にしていることを口にした。
とはいっても、No.1からNo.4までの姉妹はジェイル・スカリエッティが何を考えているのか(見当違いではあるが)理解している。

先日、ナンバーズのオリジナルとも言える――言うなればタイプゼロ――戦闘機人の姉妹が管理局に保護された。
今、情報担当のウーノとクアットロはそのタイプゼロの情報を集めている。言うまでもなく、これからつくられる姉妹たちにそのデータを反映させるためにである。
ドクターはそれを反映させる姉妹たちの素体の培養に追われている。つまり稼働年数も短い下の姉妹たちには単純にやることがないのだ。
そんな事情を知らないNo.5以下の姉妹たちは思考する。ドクターは何を考えているのかと。


「チンクちゃんのドクターに対する忠誠心を強くすれば他の妹たちにもそれは伝染していく・・・・・・人間味なんて邪魔としか思えない、けどあるものは仕方ないのよねぇ――なら、せいぜい利用するだけ利用させてもらいましょ」


ドクターの因子を埋め込まれていない姉妹たちは裏切ることはしないだろうが、クアットロたちのようにドクターに心からの忠誠を誓っているわけではない。

長女ウーノや次女ドゥーエ、三女トーレ、四女クアットロとは違うのだ。


「ドクターの、私たちの夢を阻害する可能性は潰しておかないといけないわ。たとえ妹でも」


No.4 クアットロ。ナンバーズの中で最も“夢”への執着が強い者。
そして同時に、ドクターからの影響(本来在るべき姿からの逸脱)が最も強い者である。


「そうすればドクターも喜んでくれる・・・・・・うふふ、ごめんなさいねチンクちゃん。これもドクターのためなのよ・・・・・・」

「クアットロ。さっきから全て声に出しているからな」


そんなクアットロ。ドクターは彼女をこう評した――――


「それと此処のCPUは全てウーノと繋がっているから、覗いたことはすぐにわかるよ」

「ド、ドクター、いらっしゃったんですか」


――妹たちに対して素直に慣れないメガ姉。
尤もそれは彼の勘違いであり、クアットロは姉妹たちをドクターの夢のための道具程度にしか思っていない(自分も含めて、だ)・・・・・・今の時点では。


「みんなに話しておきたいことがあってね、君たちを探していたんだ」

「・・・・・・もしかして新たな任務ですか?」


クアットロの言葉にドクターは頷く。


「先日管理局に保護された“タイプゼロ”について話がまとまった」

「タイプゼロ――私たちのオリジナルに当たる戦闘機人ですね」


稼働年数はチンクたちより短いが、製作が開始されたのはドクターが機人の研究を始めてすぐの頃、戦闘機人の技術革新が起きるよりも以前。
それを考えると、タイプゼロの製作者は完成こそ後に回った(ドクターのように最高評議会に設備と資金を与えられたわけではないのだ、当然だろう)がドクターよりも早く戦闘機人の理論を完成させていたとも言える、だからこそドクターやナンバーズはその二人の戦闘機人をタイプゼロと呼称した。


「制作者は最高評議会によって処分され、姉妹は管理局・・・・・・とはいえ私の最高傑作である君たちナンバーズがいるんだ。最高評議会には彼女たちに手を出さないように約束させたよ」


大仰に手を広げ、ドクターは自らが製作したナンバーズに絶対の自信を表した・・・・・・彼なりのナンバーズに対する最大限のほめ言葉である。
見るものによってはその芝居がかった動作に胡散臭さしか感じないだろうが。


「流石、ドクター。私たちがいるんです、他人が製作した戦闘機人なんて必要ないですものね」


ドクターがタイプゼロに手回しをしなかったのは自分の娘たちが完成していないのに他人の娘に手を出す気はないからという、それだけの理由だ。


「彼女たちは管理局に預けておくさ――今日の議題はそこではなく、私の盟友プレシア・テスタロッサとその娘についてだ――――場所を移そう、みんな集まっている」





◇◆◇◆





「プレシアの動向についてはウーノが一晩で調べてくれた」


No.1 ウーノ、流石できる女は違う。その優秀さには私も鼻高々だ・・・・・・他人に褒められることがないのが悔しいが。
お宅のウーノちゃん立派ね~とか言われてみたいよ、私も。


「科学者である以上、研究に夢中になって他が疎かになることは珍しくない。彼女の場合は娘の命がかかっていたんだからね」


だからプレシアのことはそこまで心配してはいなかった。事実私も最近までは研究に夢中だったのだから・・・・・・だが、ウーノの報告を聞いて目が覚めた。
ウーノが今のタイミングで私に報告したのは私の研究の邪魔をしないためなのだろうが、できればもっと早くに教えてほしかったよ。


「彼女の生み出した娘のクローンは、彼女にとって失敗作だったようだ」


――プロジェクトFは死人を蘇らせる技術ではない。
私が基礎理論を構築した時点では、生きた人間の記憶を保存、転写して再生することを目的としたもの・・・・・・プロジェクトFではプレシアの望みを叶えることはできなかった。





「チンク、セイン、頼みたいことがあるんだが、いいかい?」

「私たち姉妹にドクターの命令を断る理由はありません」

「チンク姉だけじゃなくあたしも?」


――確かめなければならない。


「あまり他人の家庭に首を突っ込むべきではないのだがね」


もしも彼女が道を外れたのなら、ナンバーズの親としてプレシアには言わねばならぬことがある。


「プレシアがドクターの意図から外れて動いている以上、万が一にも私たちの情報が漏れることにもなりかねないわ」


・・・・・・ウーノ、私には別に何の意図もないのだが。
って、チンクたちも神妙に頷かないでくれ。












あとがき
説明とシリアスが多くなってしまいました。
ドゥーエとクアットロは若干ドジっ娘仕様。
喋っていませんが、ディエチも完成しています。



[18853] 第5回
Name: アラスカ◆0e5b3aa7 ID:f6242140
Date: 2010/05/20 07:10
新暦0064年 秋

あれからほんの少し時が流れたが、今はまだ準備期間だ。
プレシアと話をしたいが次元空間を移動する庭園を補足するのは困難極まりない――彼女が娘 アリシアを生き返らせることを諦めるはずはない。プロジェクトFが失敗した今、プレシアが頼るのは・・・・・・おとぎ話として語られているアルハザード。
彼女は私を知り、アルハザードの存在を知ってしまった――躊躇はしないだろう。
虚数空間に消えたというアルハザード、行くことが不可能ではないだろう。
可能性が高いとは言えないが。
だがどんな方法であれ、アルハザードに行くためには虚数空間を開く必要があり、そのためには膨大な魔力が必要だ。

大魔導師とはいえ、そんな膨大な魔力を個人で運用することなどできない。
であれば頼るものは膨大な魔力を秘めた、何らかのロストロギア。

ロストロギアが絡めば話は簡単。
まさか自分で発掘などできるはずもなく、盗むしかない。
ならロストロギアを輸送する次元航行船やロストロギアを管理する研究機関に注意を払っておけばいいだけだ。


プレシアが行動に出るまで私は出来る限りの準備を進める。
万が一にも娘たちにもしものことがないように――――


「お邪魔するよ」


――というわけで、特殊なISを持つセイン用の装備を開発した私はセインを探してナンバーズの訓練スペースに足を運んだ。


「っ、ドクター?」

「やあ、お疲れ様、ディエチ」


其処に居たのはNo.10 ディエチ。タイプゼロ――今はギンガとスバルという名前の少女たち――のデータを反映するために完成が遅れているNo.9や適性遺伝子の見つかっていないNo.7とNo.8よりも早くに完成した、現在の末っ子である。


「どうして此処に?」


その体に不釣り合いな巨砲を携え、額に浮かぶ汗を拭うこともせずにディエチが私に向き直る。


「セインを探していてね」


持ってきたタオルとドリンク(市販品。娘に変なモノを飲ませるわけないじゃないか)を手渡す。


するとディエチは目をパチクリ。


「これは・・・・・・?」

「うん? 身体に機械が含まれているとはいえ、君たちは人間だ。のどは渇くし、汗をかいたままでは気持ち悪いだろう?」


そりゃあ普通の人間よりものどの渇きは我慢できるし、痛覚を遮断できるように汗の感覚をなくすことも勿論可能ではあるが。

今はのどの渇きを我慢する時ではないし、洗浄施設がある此処でわざわざ感覚を遮断する必要もない。


「・・・・・・ありがとう、ございます」


ディエチは何やら微妙な顔をしながら私からタオルと飲料水を受け取った。


(どうしてドクターがわざわざ・・・・・・?)

「セインなら今は――」

「んー、やっぱり潜れても外が見えないのはつらへぶっ!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

笑顔のまま私は停止。
ディエチは目をまん丸にして驚いている。


ゆっくり、ゆっくりと視線を声の聞こえた下へと向けていく。


「・・・・・・ご愁傷様」


私の足は水色の髪をした少女の後頭部を踏みつけ、水色の少女は顔面が床にこんにちは。
む、娘を足蹴(?)に!
こ、これはDVなのかっ、虐待なのかっ?


「大丈夫かいっ、セイン?」

「あ、あう・・・・・・ド、ドクター?」


私が足をどけると、セインは鼻を押さえながら涙目で私を見上げた。


「――あはは、失敗失敗。せっかく発現した激レア能力なのにまだ使いこなせなくって・・・・・・」


そう言って笑うセインの鼻は赤かった――――くっ、眩しい! 日陰者の私には他の娘にはないセインの笑顔が眩しいっ!


「って、ドクター?」

「あ、ああ、すまない。本当に大丈夫かい?」

「だいじょぶ、だいじょぶ。ドクターのつくってくれたこの機体は、これぐらいじゃ歪みもしないって」

「何を言うんだ。君たちの肌は乙女の肌と変わらない。もう少し気にしたまえ」
(・・・・・・うん? あたし、ドクターに肌のことで心配されてる? なんだか変な感じ・・・・・・でも、なんかおもしろいかも)


この私が娘の肌を妥協するとでも思っているのかい? 肌だけではなく髪も爪も人間と変わらない――というより、機械を身体に埋め込んでいるだけなのだから当然だ――洗浄施設にはそれぞれの髪にあったシャンプーとリンスを用意しているし、ちょこっと弄れば普通の人間のように生理だって来る・・・・・・はずなのだが、ウーノが他の姉妹たちに埋め込んだ私の遺伝子のせいで生理が来なかったら、と考えると恐ろしくてやっていない。


「損傷はないし大丈夫そうだな・・・・・・」


ぼけーっと突っ立っていた私の足元にセインがISディープダイバーで現れたため、彼女は私の下敷きになった。つまり踏みつけたのではなかったので大したことはなかったようだ。


「ドクター、セインに用があったんじゃ・・・・・・?」

「ん、そうだったね」

「あたしにドクターが用事? ま、まさかクア姉の指示で出来の悪いあたしの頭を改造しに・・・・・・!?」


出来の悪いなどとはとんでもない。
私の因子を埋め込んだいたなら、セインのように明るく良い子が生まれることはなかっただろうに。


「君に新しくもう1つの眼を作った。それさえあればISを最大限に活用できるだろう」

「3つ眼?」


指で丸を作って額に当てるセイン。
流石に顔に3つの眼がある娘を可愛がることは・・・・・・いや、できるか。


「じゃあそれを使ってチンク姉をサポートすればいいんだね?」

「ああ。よろしく頼んだよ、セイン」

「よし、任しといて、ドクター!」


――娘を親の事情に付き合わせるというのはいい気分はしないがやむを得ない。まったく、まだ私は何一つ彼女たちに親らしいことをやっていないだけでなく、彼女たちに肉親と認識されてすらいない。


(失敗ばっかのあたしを重要な任務に就かせることをクア姉は反対したと思う・・・・・・でも、ドクターが私に頼んでくれたんだ。これからできる妹たちのためにも、おねーちゃんらしくしっかりしないと)








「――燃えてるね、セイン」

「ん、そうなのかい?」

「うん、すっごく」


ううむ、子の気持ちを理解できないとは・・・・・・この調子ではこれから生まれてくる娘たちも親と認めてくれなそうだ。精進せねば。









あとがき
アニメでセイン空気wwとか言わないであげてください。
スカさんの因子が埋め込まれていない娘たちの方がスカさんの本質(?)を肌で理解しています、ウーノやクアットロ的ドクター像の刷り込みにより、完全に理解するにはまだまだ至りませんが。



[18853] 第6回
Name: アラスカ◆0e5b3aa7 ID:f6242140
Date: 2010/05/21 06:47
「――すまないね、私の我が儘に付き合わせてしまって。この件が片づいたら、研究を再開するよ」

「お気になさらないでください。私たちはドクターの望みのままに」

「私たちではなくチンクとセインに任せられたのは少々残念ですが」


忙しい君たちに頼むわけにはいかないさ。だからといってチンクたちを使っていい理由もありはしないのだが。


「ドゥーエにはできるだけクアットロについていてもらいたいんだ。君たちはどこか似ている、だからクアットロについては頼んだよ」

「姉妹なんですもの、似ていて当然ですわ――お任せください、クアットロは私がしっかりと教育しておきます」


私も研究が終われば、娘たちと一緒に居られる時間も増える・・・・・・それまでは姉たちに任せるしかない。


「――トーレもすまないね。訓練相手であるチンクに仕事を頼んでしまって」

「いえ。どんな形であれ、チンクたちに実戦経験を積ませられる機会ですので」

特にセインには戦闘経験はありませんから、とトーレ。

・・・・・・戦闘か、そうならないのが一番いいんだが。

セインだけではない、他の娘たちにも戦いなどしてほしくはない・・・・・・だが私が違法研究を続けている以上、時空管理局や研究データを狙う輩との戦闘もある。

娘たちが生まれ、大所帯になり、活動が活発になってきたが故にそういう者たちに見つかる可能性も高くなってしまった。
セインとディエチが生まれてからはまだ戦闘はない、このままの調子でいきたいものだ。


「さて、それじゃあ話はここまでだ。この件に片が付くまでは自由に過ごしてくれて構わないよ」

「それじゃあ私はさっそくクアットロのところへ」

「では私は食事の準備を」


そう言ってラボ内の調理スペースへと向かうウーノは何となく嬉しそう。
私だけでなく、セインが美味しそうに料理を食べてくれるのが効いているようだ。
料理を楽しいと思える女性は魅力的だ、うん。


「私は訓練に戻ります」

「――トーレ、ちょっといいかい?」


ウーノとドゥーエを見送った私は最後に出て行こうとしたトーレを呼び止めた。


「なにか――?」

「今、チンクたちは洗浄施設にいる」

「? はい、それがどうかしましたか?」


ううむ、やはりこれだけではわからないか。


「君は訓練の時以外ではあまりセインやディエチと関わりがないだろう? 親睦を深めてきたらどうかと思ってね」


唯一チンクとはそれ以外の時間も一緒にいることもあるようだが、それも長い時間とはいえない。
そこが気になっていた。
姉妹仲がいいことに越したことはない。
――クアットロにはドゥーエが教えてくれるだろう。クアットロは少々、難しい娘だ。私を慕い、夢のため(勘違いとはいえ)に頑張ってくれるのは嬉しいがね。


「・・・・・・チンクとは違い、セインもディエチも難しい子ですので」

「私からすればみんな難しい娘だよ。頭に脳が詰まっているだけで、機械とは全く違う。生命としての輝きをもっている」


つくりだされた存在である私が新たに生命をつくりだし、育てる・・・・・・機械やデータとばかり向き合ってきたせいか、わからないことだらけだ。


「君たちは姉妹で家族なんだ。仲良くしてくれれば、生みの親としては嬉しい」

「・・・・・・了承しました」


トーレのそういう不器用なところは私に似ているなかもしれないな。





◇◆◇◆





(・・・・・・む)


No.3 トーレは悩んでいた。一糸まとわぬ姿で、しかも男らしく仁王立ちで。


創造主であるDr.ジェイル・スカリエッティの言葉を聞き、彼女は考えた。
自分は戦うこと以外に何も、姉として妹たちに教えていないのだと。
長女であるウーノのようにナンバーズの頂点にいるわけでもなく、ドゥーエのように教育についているわけでもなければ、チンクのように妹と普段から一緒に過ごしているわけでもない。


(ドクターに諭されるまで気づかなかったとは・・・・・・私の目は節穴かっ!)


姉には妹たちを導く義務がある。
それが今の世界に背く道であったとしても。


――などと言ったところで、トーレが全裸で仁王立ちしているという事実は隠しようがなく、詰まるところ彼女は一体どうやって妹たちと仲良くなればわからない、不器用な姉であるというだけなのだ。


「――――トーレ?」

「チンクか」


そんな彼女に声をかけたのは銀髪の少女、No.5 チンク。
見た目とは裏腹にナンバーズの中で現在最も姉らしい人物である。


「どうかしたのか? 何故入り口で仁王立ちしているんだ?」

「いや・・・・・・どうしたらいいのか悩んでいてな」


悩むなら脱ぐ前に悩むべきだった。トーレ、痛恨のミス。

だがこの状況を打破できるチンクが声をかけてくれたのは僥倖だった。









「ふぁ~~~~やっぱり温水洗浄は至福だなぁ」

「そうだね」


気持ちよさそうに間の抜けた声を出すセインと言葉は短いものの、気持ちよさ気に目を細めるディエチ。
戦闘機人であってもやはりお風呂は気持ちがいい。


「早くチンク姉も来ないかな?」

「すぐに来るって言ってたから、もうすぐじゃないかな」


セインのチンクを待ちわびる言葉。
それは姉妹仲良く湯に浸かりたいという気持ちもあるが、


(チンク姉のあたし以上に絶壁な胸が待ち遠しい・・・・・・)


No.6 セイン、性格的にも身体的にも中々姉扱いされないことが小さな悩みであった。

そんな彼女の願いは届いたのか、湯煙の向こう側に人影が見えた。



「待たせたな」

「チンク姉、もう少しでのぼせちゃうところだった、よ・・・・・・?」


湯煙の中から現れたのはチンクだけではなく、もう一人。


「・・・・・・」


ぺたぺた。


「・・・・・・」

「ん、あっ・・・・・・」


むにゅむにゅ。


「・・・・・・」

「セイン・・・・・・?」


ぺちぺち。


「・・・・・・」

「ん?」


もにゅもにゅ。


「――はんっ、羨ましくなんてないし!」

「お前が何をやりたいのか私には分からんのだが・・・・・・」


本当に困ったというような表情を見せるのはトーレ。

音で分かるとは思うが上からセイン、ディエチ、チンク、トーレの順である。何の音とは言わないが。


「うぅっ、チンク姉だけが頼りだよ!」

「どこを見て言っているっ?」


無遠慮なセインの視線から隠すようにチンクは両手で自分の体を抱きしめた。






「トーレと一緒に入るの初めてだね」

「そうだな・・・・・・たまには悪くない」


トーレはディエチの隣でセインとチンクの会話を眺めていた。


「セインはいつもみんな誘おうとするけど、トーレやクアットロたちは忙しいから誘えずに終わっちゃうんだ」

「・・・・・・そうか」

(確かに訓練中にセインを見かけることはあったが、そうだとは気づけなかったな・・・・・・)


妹の気持ちにも気づけないとは、確かに私は関わらなすぎたようだ――とトーレは反省する。


「――トーレ姉の胸なんて高速機動の邪魔になるだけでしょっ? 少しでいいから分けてよぅ・・・・・・」

「ボディスーツのおかげで不便はない。そしてデリケートな胸部をそんな気安く触るな」

「あう゛っ!?」


チンクから標的をトーレに変えたセインだったが、おっかない姉御の拳骨を受けて湯の中に沈んでいくのだった。








あとがき
前回に引き続きセイン活躍。ドクターの因子を使っているトーレに対してもセインは相性がいいようです。
次回から無印スタート・・・・・・とはいえあまり長くはありませんが。



[18853] 第7回
Name: アラスカ◆0e5b3aa7 ID:f6242140
Date: 2010/05/22 10:35
新暦0065年 春
後にジュエルシード事件またはPT事件と呼ばれることになる物語が幕を開けてから少し経った頃、月で言えば5月の初め。



「彼女がアリシア・・・・・・いや、フェイトと言うべきなのかな」


巨大なモニターに映し出されるのは第97管理外世界『地球』その極東に位置する島国、日本――にある街、海鳴市――プレシア・テスタロッサが撃墜した次元航行船、それに積まれていたロストロギア ジュエルシードの落ちた場所である――で起きた二人の少女の戦闘。


――この少女はプレシアの求めていた愛娘、アリシアではない。生みの親であるプレシアがそう断じたのであれば、彼女はアリシア・テスタロッサではなく、アリシアのクローン・・・・・・プレシアが便宜上付けた名はフェイト。
プロジェクトFの名を冠する金色の少女。


名前は自分自身を世界に位置付けるために親が与えるものではあるが、個人的な意見としては名前などあればなんでもいい。
私の名が最高評議会に名付けられたものであるように(何を思って名付けたのかは知らないが)、娘たちの名前が番号であるように。


私は“ドクター”であり、ナンバーズは私の“娘”である。
だから、プレシアが彼女をフェイトと名付けたのならば、その名で呼ぶべきだろう。
たとえどんな名であろうとフェイトはプレシアの生み出した作品であり、アリシアの血肉を分けた人間であることに違いはない。


「・・・・・・時空管理局も動いている。彼らと接触するのは得策ではないな」


今回任に就くチンクとセインを含め、娘たちの存在は管理局に知れてはいない。
私の我が儘で、娘たちまで管理局に追われる存在になどしてたまるものか。

となればやはり鍵はフェイト。フェイトが時の庭園に転移するのを待つか、或いはプレシアがフェイトへ接触するのを待つしかない。


「しかしこの様子ではね・・・・・・」


管理局の介入から数日。
フェイトとジュエルシードを廻って争っていた少女(民間協力者。平均魔力発揮値が127万という才女)は管理局に協力するため管理局の艦に乗艦。
対するフェイトは使い魔と共に現地に潜伏しながらジュエルシードの探索を続けているようだ・・・・・・この状況ではフェイトは時の庭園に戻ることはないだろう。転移の際に管理局に補足されるとも限らないのだから。



「――やはり、チンクとセインを現地に送るしかないか」


できるなら時の庭園に直接送り込み、すぐ帰って来るようにしたかったんだが・・・・・・。





◇◆◇◆





「今回の任務の目的はプレシアとの接触。チンクとセインにはフェイト・テスタロッサを探索、発見後はフェイト、管理局双方に見つからないように監視を続けてほしい――必ずプレシアに辿り着くはずだからね」


「はい」

「了解っ」


大丈夫、彼女たちにとっては難しい任務じゃない。
だが、この不安はなんだ・・・・・・?
ただ単純に娘を外の世界に送ることに対するものなのか?


「セインちゃん、いつもみたいなうっかりしちゃダメよ?」

「大丈夫だよっ。何たってドクターが直々にあたしを指名してくれたんだからね」

(・・・・・・やっぱり、人間味なんて邪魔なだけね。こんなだからいつも任務に失敗するのよ)


・・・・・・私が娘を信頼しなくてどうする。
大丈夫。私の娘はそれぞれ個性的だが、優秀であるということは共通だ――多少、親馬鹿が入ったかもしれない。


「チンク、セインのことを頼んだぞ」

「ああ。だがそんなに心配せずとも、セインはちゃんとやってくれるさ」

「だといいがな・・・・・・」


そら、チンクは妹を信頼しているじゃないか。
トーレ、大丈夫。セインはできる子なんだから。


「私もついて行きたいけど、私の武装は隠密にはあんまり向かないから・・・・・・頑張ってね」

「おねーちゃんに任せとけっ!」


むむむ、私としてはヘヴィバレル自体がディエチには向いていないと思うんだが・・・・・・女の子にあんな物騒なもの持ってほしくはないよ。





「――それでは行って参ります、ドクター」

「行ってきます、ドクター」

「ああ。気をつけて」


・・・・・・娘を嫁に出すというのは、こんな感じなのだろうかっ?











作業記録 新暦 0065年 5月2日

No.5とNo.6は任務のため、第97管理外世界『地球』へ。
ドクターは新たなナンバーズの製作、“ゆりかご”の機械兵器の研究を並行して継続。
No.2は――――




「クアットロに教えられることは全て教えた――とは言えないけど、足手まといにはならないはずよ」

「そう・・・・・・予定通り、No.5とNo.6が任務から帰還次第、あなたには聖王教会に潜入、聖王の遺伝子を入手してもらうわ」

「親父も所詮は人の子。地位や名声、金や女、必ず欲望を秘めているもの――すぐに盗って戻って来ることにするわね」


――潜入準備はほぼ完了し、後は時期を待つだけ。


「ドクターの、私たちの夢のためにも――――妹たちのためにも、ね」

「時間を掛けすぎると、妹たちも戦闘機人とはいえあなたの顔を忘れてしまうかもしれないわね」

「あらあら。ならなおのこと急がなくちゃ・・・・・・クアットロにも、妹たちを大事にするってことを教えなきゃいけないし」


優しげな表情でそう言う彼女はただの人間の姉のように見えてくる。


「――いけないいけない。偽りの仮面を持つ私としたことが、仮面を付け忘れていましたわ」


私の視線に気づき、ドゥーエはそう言って悪戯な笑みを浮かべたのだった。


「ドクターや姉妹たちの前で仮面をつけるのは失礼よ。気をつけなさい」


・・・・・・何故、私はこんなことを言っているのだろうか。


「うふふ、そうね」


ほら、ドゥーエが楽しげに笑ってしまった。
・・・・・・まったく、ドクターが私たちに優しくし過ぎるのがいけない。
だから御側にいる私まで、姉妹たちを愛しく思ってしまう。



――戦闘機人は思えない思考の異常さに、私は気づくことはなかった。
それが当然のように思えてしまっていたのだから。










あとがき
なのはとユーノがアースラに乗艦したあたりからスタート。
この人数でも動かすの大変なのに、ナンバーズ全員揃ったらどうなるんだろうか。



[18853] 第8回
Name: アラスカ◆0e5b3aa7 ID:f6242140
Date: 2010/05/23 17:19
「ドクター、チンク姉とセインからの定時連絡――――って、わっ・・・・・・」

「それは本当かいっ!?」


No.10、ディエチが姉からの定時連絡があったことを報告にスカリエッティのラボに入った際に見たのは、足の踏み場がないほどに散らばった何かの部品。


「って、おっとっと・・・・・・ああ、すまない。気を紛らわそうと試作機を弄っていたらこんなことになっていてね」


ドクターはそれに二、三度躓きながらも入り口、ディエチの側に歩み寄る。


(危ないなぁ・・・・・・)

「それで、どうだい? チンクとセインは」

「まだ任務開始から20時間。進展は――――」


ないよ、とクアットロやセイン、姉たちと話す時と同じ口調が飛び出しそうになっているのにディエチは気づいた。


「――ありません」

「そうか・・・・・・いや、そうだったね。まだ1日経っていないんだった」

(・・・・・・やっぱり、変な感覚)


ドクターと話しているとまるで姉妹たちと話している時のような、或いはそれ以上に何か、気安い空気が流れている気がすることがディエチには不思議だった。


「しかし少しやりすぎたようだ。ウーノがやってくる前に片付けなければな。忙しい彼女の仕事をこれ以上増やすわけにはいかない」


困ったようにスカリエッティは頬をかく。
――また。
確かにウーノを初めとして、ナンバーズは全員が“戦闘”機人だ。
だが戦闘以外の仕事、ウーノやクアットロは情報処理が主な仕事であるし、ウーノなどはスカリエッティの身の回りの世話をすることが最重要な仕事の一つである。
だというのに、そんなウーノの負担を減らすため、スカリエッティは既に散らばった部品を拾い集い始めていた。


「――おや、手伝ってくれるのかい?」

「これぐらいなら、私にもできます」


できるから、と勝手に動こうとする口を疎ましく思いながらも、ディエチは最早ガラクタにしか思えないソレを拾い集め始める。



(ジェイル・スカリエッティ。愛娘ディエチとの初めての共同作業ですっ!)

(・・・・・・何かまた変な感覚が)



親の心、子知らず。
或いは知らぬが仏。





◇◆◇◆





「――いけないわねぇ、ディエチちゃん。創造主であるドクターと私たちを一緒にしちゃ」

「分かってる・・・・・・分かってるけど」


妹たちの相談役であるチンクが居ない今、ディエチの相談相手はNo.4 クアットロしかいなかった。


(ドクターにはもう少し下の子たちに対して厳しくしてもらおうかしら? ドクターの作品をどう扱おうとドクターの自由だけど、これからの作戦に支障が出たら問題だし――)

「――そもそもディエチちゃんがドクターと話す機会なんてそんなにあったかしら?」


セインやディエチは特に決まった教育担当がいなかったが、チンクを初めとした姉たちが四苦八苦しながらも教育をした。
二人の教育は姉たちに一任され、ドクターはずっと研究。
会う機会など、最近までほとんどなかったはず。


「たまに会うとドクターが話しかけてくるから」

「・・・・・・なるほどね」


ドクターが何を考えているのか。彼の因子を持つクアットロにも彼の全てなど理解できていない――もしかしたら理解した気でいるだけで本当はまったく理解できていないのでは、という感覚に陥ることもある――――その通りである。


(ディエチちゃんがドクターのことを悪く思っていないのは間違いないし、ドクターを意識しているのならそれでいいわ。利用するだけですもの)

「クアットロはどうなの? ドクターと話してると変な感じしない・・・・・・?」


そう尋ねられたクアットロは一考する。
前述の通り、ドクターを理解できていないのではないかという感覚に陥るのはいつものこととして、変な感じ。


(そういえば、チンクちゃんとセインちゃんがいないし、遊ぶ相手が二人ともいないっていうのは変な感じね)


ディエチに言われてから初めて気づいた感覚。
そしてさらに思い出す。
チンクとセインを送り出す前も、送り出した後も心配そうな表情で何かをぶつぶつと呟いていたドクターを。

親の感情の変化に、子は敏感に反応する。
親が嬉しければ子も嬉しいし、逆に親が悲しんでいれば子も悲しくなる。

今のクアットロは気づいていないだけでまさしくそれと同じだった。

本人は絶対に認めないし、気づくこともないだろうが。


「クアットロ?」

「・・・・・・つまらないわね、なんだか」


今、クアットロが感じるのはただそれだけ。





◇◆◇◆





第97管理外世界『地球』 遠見市にあるとあるホテルの一室。


「・・・・・・なんだか寒気が」

「奇遇だな、姉もだ」


どうしたんだろう、と顔を見合わせ首を傾げる二人。


「――はっはーん、さてはドクターとクア姉あたりがあたしたちがいなくて寂しがってるんだっ」

「いや、それはない――――と思うぞ」


何故か自分たちを心配して狼狽えるドクターの姿が容易に想像できたが、そんなはずはないと一蹴する。


「慣れない環境なのだ。そういうこともあるだろう」

「ドクターやウー姉たちの所から離れるってのも初めてだしね」


なんだか新鮮だ、とセインは呟く。


「でもやっぱりドクターや姉妹みんなで一緒に居れた方がいいな」

「そうだな」


No.6 セイン。姉と違い、育った環境からは考えられないほど素直で明るく良い子であった。


「時空管理局が動いている以上、そう長くはないさ」

「犯罪者予備軍のあたしたちが言うのもなんだけどね」

「違いない」


いずれ戦うことになる組織が近くにいる。
だがそれを大して意識することなく、出張任務1日目は概ね平和だった。










あとがき
とりあえずこれで今居るナンバーズのことはそれぞれ書けました。
次回からチンク&セイン本格始動。
スカさんの影響を結構受けてる二人なので、あまりシリアスに偏らないでいけるかと。



[18853] 第9回
Name: アラスカ◆0e5b3aa7 ID:f6242140
Date: 2010/05/24 12:49
「ど どどど童貞ちゃうわ!」


そう、全てはドクターのその一言から始まった――――なんてことはなかった。
















「思っていたよりも早くフェイトを補足できてよかった」

『狼の使い魔の結界が厄介でしたが、戦闘機人システムに対応したものではなかったので対処は容易でした』


皮肉なものだ、君たちを戦闘機人としてつくったことが役に立つとは。


『予定通り、発見されぬように監視を続けます』

「ああ。よろしく頼むよ――――ところでセインはどうしてるんだい?」


モニターに映し出されるのはチンクだけで、セインは見当たらない。
できれば顔を見て、話したいんだが・・・・・・。


『セインは――――っと、今、終わったようです』


・・・・・・?


『――あ、ドクター。60時間ぶり~』

「元気そうだね――洗浄してたのかい?」


モニターに現れたセインの頬は上気し、水色の髪には水が滴っていた。
私の言葉にセインは恥ずかしそうに笑って、


『IS解除して上がったのが泥の上で・・・・・・』


ぐちゃぐちゃ、と溜め息を吐いた。


「ふふふ、君らしいな」

『・・・・・・うぅ。どうせあたしはまだ末っ子気分が抜けない駄目姉だよ』


そうは言ってないのだが・・・・・・何処に行ってもいつものセインと変わらないのが嬉しくなっただけだ。


「まだナンバーズが揃うには時間が掛かる。少しずつ、姉らしい君になっていけばいい。焦る必要はないさ」


ゆっくりと。
決して娘たちに大人にならざるを得ない状況に置きはしない。
ウーノやトーレも見た目こそ成熟した女性だが、ウーノは年齢でいえば14、トーレはまだ10なのだ。
まったくそんな彼女たちに私は何を求めていたのだろうか。
おねいさんが欲しいなどという理由でウーノを生み出して・・・・・・だが今はどうだ? 状況は一変した。出来たのは姉ではなく、娘。

だがそれでよかったと私は思う。
娘たちがいなければ私はきっと――――





『おっと、あんまりターゲットから目を離してもいけないや・・・・・・ドクター、ありがと』

「私は当たり前のことを言っただけだよ。根を詰めすぎないで、休む時はちゃんと休むように」

『うん――じゃあね、ドクター』


チンクにもよく言っておいてくれよ、とだけ伝えて私は通信を切った。







「・・・・・・ふ。今のはかなり父親らしかったはずだ」


思わず笑みが零れる。
今の私はまさに父親だった。
これなら腹を痛めて子供を産んだ母親であるプレシアとも対等に渡り合えるはず。
私の準備も整った・・・・・・未だに娘たちに父と呼んではもらえないがな!
ウーノたちに下の娘のことを頼んだの失敗だったかなあ・・・・・・全員、私のことはドクターだもんなあ・・・・・・はぁ。





◇◆◇◆





「ほとんど休息もとらずにジュエルシードの捜索とは・・・・・・これでは効率が悪くなるだけだ」


嘆かわしい。
彼女、フェイトが最後に食事を摂ったのは18時間前。
睡眠は10時間前に30分ほど。
戦闘機人である我々とて、効率良く動くためにエネルギーは必要だというのに。





「チンク姉、牛乳買ってきたよ~」

「ああ、ありがとう」

(あたしたちの身体的成長ってほとんど止まってるし、意味あるのかな・・・・・・? いやでも食べ過ぎたらあたしたちも太るし、身長ももしかしたら・・・・・・)


うむ、やはり栄養摂取は大事だ。
あまり長くこちらにはいられないのだから、出来るだけ今の内に飲んでおかなければ。


「――ところでセイン、ソレはなんだ?」

「えへへ、アイスクリーム。しかも三段っ」


・・・・・・ウーノに叱られそうだな、これは。
セインのことでクアットロが嘆くわけだ。
だがこれも個性、よいことなのだろう。


「ささ、チンク姉、一番上をパクッといっちゃって」

「あ、ああ・・・・・・」


初めて見るそれに少し戸惑いながらも少しだけ舐めてみた。
――甘い。それに、冷たい。


(せめてこのアイスぐらい胸に膨らみがあれば・・・・・・くぅっ、あたしも牛乳飲もうかなぁ・・・・・・)

「あっ、ほらチンク姉、アイスついてるよ」

「む・・・・・・」

(・・・・・・こんなチンク姉、ディエチやこれから稼働する子たちには見せられないかも)


姉としたことが・・・・・・いや、あまりセインを妹扱いし過ぎるのも可哀想か。
自分が姉らしくないのを気にしているようだしな。




「はむ・・・・・・それにしても頑張るね、あの子」

「今朝見つけたのでジュエルシードは漸く一つ。管理局の目を掻い潜りながらということを考えれば大したものだが・・・・・・」


まったく無茶をする・・・・・・ただの人間の少女でも、母親のためにならここまで頑張れるということか。


「・・・・・・ディエチには見せられないね。あの子、こういうのは嫌だと思うから」

「――お前も姉らしくなったな」

「そう?」


姉から見れば、お前もまだまだ可愛い妹のままだが。おそらくそれは永遠に変わらないよ、セイン。





「だが、まずは頬についたアイスを拭うことからだ」

「うっ、不覚・・・・・・」


それにやはりまだまだ一人前とは言えない。
この任務で少しでも成長できればよいが・・・・・・。








出張任務3日目。
ターゲットの補足に成功。
現地のモノに触れる。
アイスは甘くて冷たい。


相変わらず、平和な任務であった。









言い訳
今更ですが、原作ではドゥーエはセイン以下の妹と面識がなかったことに気づく。
この作品ではディエチまで面識がある、ということで御容赦ください。

あとがき
うちのチンクとセインの関係はこんな感じです。



[18853] 第10回
Name: アラスカ◆0e5b3aa7 ID:f6242140
Date: 2010/05/25 18:21
「――馬鹿者が・・・・・・」

「本当、お馬鹿さんね」


私と共にモニターを見つめるのはトーレとクアットロ。

モニターに映し出される、荒れ狂う海と六本の竜巻。ジュエルシードを強制発動させた結界――それを見つめ、トーレは忌々しげに呟いた。


「君たちから見ても、そう見えるかい?」

「はい。あれではすぐに自滅するでしょう」


フェイトがジュエルシードを強制発動させ封印、使い魔は無防備なフェイトのサポート・・・・・・理には適っている、だが万全な体調ではないフェイトでは――――いや、ただの人間がロストロギアを御そうなどというのが土台無理な話なのだ。


「・・・・・・管理局が先か、プレシアが先か」


どちらが先に手を出す?
優秀な指揮官であれば、フェイトが自滅するのを待ってジュエルシードを確保するだろうが・・・・・・だがプレシアは?
まさかフェイトが封印してくれるなどとは思っていないだろう――必ず介入してくるはずだ。確実にジュエルシードを手に入れるために。


「チンク、セイン。ジュエルシードの暴走に巻き込まれないように注意してくれ」

『そんなミス、いくらあたしでもしないよ』

「それでも、やはり心配なんだ。こんな任務で君たちに怪我をさせるわけにはいかないからね」

『承知しています、ドクター』


さて、どう転ぶかな・・・・・・。






「――あれは」

「あらあら、お馬鹿さんがもう一人。もうすぐ自滅しそうなのに」


驚いたように言葉を漏らしたのはトーレ。
呆れたように呟いたのはクアットロ。


『民間協力者の少女・・・・・・と男の子?』

「間違いなく命令違反だろうな」


戸惑った表情のセイン。
トーレは少女の行動を冷静に切り捨てた。
・・・・・・やはりこういう状況での反応も、普通の子とは違うのだろうね。

トーレのように冷静な判断を下すでもなく、クアットロのように呆れるのでもなく、セインのように戸惑うのでもない。
あの少女と少年の行動に感銘すべきだ。


「――チンク、知っているかい?」

『・・・・・・?』


事の成り行きを見守っていたチンクに私は独り言のように話し掛ける。


「その世界では15歳までの教育が義務づけられているそうだ」

『それは・・・・・・管理世界にはない義務ですね』

「ああ――そうだね」


・・・・・・プレシア、君は理解していないだろうな。
君の行動が管理外世界の少女に杖を握らせていることに。
“大人に成らざるを得ない状況”に少女たちを置いていることに。


『ドクター・・・・・・?』

「――いや、なんでもない。すまなかったね、変な話をして」


いえ、とチンクは目を伏せた。


「――プレシアが仕掛けるならそろそろだろう。解析準備をしておいてくれ」


私の戯言に付き合わせている間に、竜巻はバインドによって一つに縛られ、二人の少女により封印が行われようとしている。

おそらくはジュエルシードを封印した直後、プレシアは攻撃を仕掛け、その隙にジュエルシードを回収させるはずだ。タイミングはそれしかない。



――――そして私の予想は概ね的中することになる。
外れたところと言えば、プレシアがフェイトにも雷を落としたことだろうか。









『解析完了っ。邪魔されなけりゃ簡単簡単!』

『よし――次元跳躍攻撃の発生源を特定しました。いつでも術者の下へ飛べます』

「管理局の船にも攻撃直撃~、システム復旧まで後10秒ほどですぅ」


愉しげにクアットロが報告してくれた。
――いよいよか。


「今ならプレシアも疲労しているはずだ。すぐに飛んでくれ」

『りょーかい!』


セインの言葉と共に、魔法陣とは違う陣がチンクとセインの足下に現れる――魔導師ではない彼女たちには転移魔法は使えない。
今回はこちらからの補助で示された座標へ転移させる。
消費するのは魔力ではなく、私のラボを循環する大量のエネルギー。
それ故に多用できるものではない、今回は特別だ――――プレシアの体力が戻っていたら、チンクたちをいきなり殺してもおかしくはないのだから。





◇◆◇◆





「うわぁ、なんかいかにもって感じ」

「以前は綺麗な場所だったとドクターから聞いたことがあったが・・・・・・」


その面影はなく、主の心を表すかのように庭園は暗かった。
それも当然か、次元空間に太陽はないのだから。


「プレシアってのと接触して、ドクターと話をさせればいいんだよね」

「ああ。直接転移したのだから、すぐ近くに――――!」


戦闘機人である私の耳が、電撃の音を捉えた。


「――――管理局、ではないわね」

「・・・・・・プレシア・テスタロッサだな?」


私の纏ったコート(任務前にドクターにいただいたものだ)がAMFを発生させ、魔力の電撃を防ぐ。


「ドクターの言ってた通り、ってか体力戻ってなくても攻撃してきたよ・・・・・・」

「ドクター・・・・・・誰のことか知らないけど、無駄な体力を使わせないでちょうだい」


プレシア・テスタロッサの顔色がいいとは言えない。次元跳躍攻撃のせいだけではない、病に罹っているのか・・・・・・?


「知らないはずはない。ドクターはあなたの同士であったはずだ」

「同士・・・・・・?」








『――――ご苦労だったね、チンク、セイン。後は私が話そう』


怪訝そうな表情のプレシアと、私たちとの間の空間にモニターが現れる。


『久しぶりだね、プレシア。私を覚えているかい?』

「ジェイル・スカリエッティ・・・・・・」


ドクターを見た瞬間、プレシアは憎々しげにドクターの名を呟いた。










あとがき
急展開。だらだらやっていても仕方ないのでこうなりました。
次回、スカさんの結構歪んだ考え方が明らかになるかと。ただの善い人、というわけではないんです。

チンクたちの転移については捏造設定。
アニメで戦闘機人の転移シーンがなかったので捏造しました。



[18853] 第11回
Name: アラスカ◆0e5b3aa7 ID:f6242140
Date: 2010/05/26 18:57
「5年ぶりになるのかな。君の顔を見るのは」

『そうね。私は二度と見たくもなかったわ』

「おそらくこれが最後になる、我慢してくれ」


――随分と顔色が悪くなった。
以前はもっとマシだったというのに・・・・・・やはり、プロジェクトFのせいだろう。


『――ソレはあなたの作品かしら?』

「ああ。君は会ったことがなかったね、チンクとセインだ」


会ったことがなかった、というより私が会わせようとしなかった。
娘を失ったプレシアには酷であり、憎悪の対象でしかないのだから。


『5番と6番、機械人形には似合いね』

「・・・・・・君の娘、フェイトと同じようにかい?」


――モニター越しにも理解できた。空気が変わったことに。


『娘? ふざけたことを言わないでちょうだい。あんな出来損ないの人形が、アリシアと同じなわけないじゃない』


そして同時に確信する。
やはりプレシアは道を違えたのだと。


「――彼女は君が生み出した作品で、君の娘だろう」

『――!』


ガンッ、とプレシアが杖で床を叩く。
すると床から十数体の兵隊――傀儡兵――が現れ、チンクとセインを取り囲んだ。


『――ふざけないで。私はあなたとは違う。生み出した作品に、しかも出来損ないに情なんてわかないわ』

「彼女は、私の描いたプロジェクトFとしては間違いなく成功作だよ」


だというのに、プレシアはフェイトを認めない――――それは、科学者として失格だ。
まあ私のように作品に愛情を注ぎすぎるのも、科学者としてはもう使い物にならないがね。
私には娘たちを使い捨てることなどできないのだから。


『あなたの描いたプロジェクトと私の描いたプロジェクトは違う――でも別にもういいわ。あなたのお陰で、私はアルハザードの存在に確信が持てた。今は人形のことなんかよりも、せっかくだからあなたに訊きたいことがあるの』

「・・・・・・アルハザードのことかい?」

『いいえ。あなたを生み出した存在――最高評議会について、あなたの口から聞きたいのよ――――小娘は置いて、大人の話をしましょう? ジェイル・スカリエッティ』

「――そうだね。もしかしたら君の気が変わるかもしれない」


チンクとセインに動かないように告げ、モニター越しとはいえ、これで実質プレシアと1対1――――望んでいた状況になったわけだ。あまり娘たちには見せたくないと思っていたんだ。





「彼らについて訊いてどうする?」

『私はアリシアとアルハザードに旅立つ。あの老害どもにアルハザードへ渡る術を持っていられたら困るのよ』

「彼らはアルハザードの技術を保存しているに過ぎない。長い時の流れ中で彼らも保存された技術も擦り切れている。彼らはアルハザードに渡ることはできない」

『そう。それを聞いて安心したわ』


最もアルハザードに近付いた彼らが其処へ渡る術を持たないなら、プレシアとて同じこと。
だが彼女には成功のビジョンが見えているのだろう。


『ならもう一つ。これは単純な興味からの質問なのだけど』

「なんだい?」

『あなたはいつまで人形遊びを続けるのかしら?』


・・・・・・人形遊びね。


『ねえジェイル・スカリエッティ、あんな人形を何体も。6番なんて人形の分際で無駄なものが多すぎる。あれならまだフェイトの方が役に立つわ』


ここだけプレシアは敢えて、傀儡兵に囲まれたセインたちに聞こえるような声で言った。


「そんなことはない。セインもチンクも、それぞれ素晴らしいものを持っている。人形にはない、人間の生命故のゆらぎだ」


対する私は静かに、プレシアに向けてだけ言葉を発する。


『人形が人間の真似をして、どうなるの? まさか、あなたも父親の真似事でもしているのかしら?』


プレシアの嘲笑。
本当の母である彼女から見れば、私のしていることなど所詮ままごと、というわけか。


「私も娘たちも今はまだ不器用だ。だけどいつか、本当の家族のように笑いあえれば良いと思う」


だから、こんなことはさっさと終わらせてチンクたちには戻って来させなければならない。


『――漸くわかったわ、私の苛立ちの理由が。気にくわないのよ、あなたみたいな存在がそんなことを口にするのが。家族だなんだと語るのが。無限の欲望なんていうコードを付けられた存在が綺麗事を吐かすのが!』









――――綺麗事? おかしなことを言う。



「プレシア・テスタロッサ。君は私が綺麗事を並べ立てる、そんな善人に見えるかい?」

『なんですって・・・・・・?』

「この私が善人? 犯罪者である私が? やめてくれ、不愉快だ」


そんな傑作なことがあってたまるものか。


「善人が人間の身体を弄くり回して機械を埋め込むのかい? 違うだろう?」


この私が善であってはならない。
欲望など、悪の最たるものだろうに。
だからこそ娘たちには私を反面教師にして、良い子のまま成長してもらいたい。

――ああいや、今は善悪だとかそんな話じゃなかった。
まったく、プレシアがあまりにも的外れなことを言うもので話がズレてしまったじゃないか。



「プレシア。私からも君にいくつか言いたいことがある」


そう。私はそのためにチンクたちに無理を言ったのだ。


「君が認めようと認めまいと、フェイトがテスタロッサの姓を持つ君の娘である事実は変わらない」


管理局はフェイトをプレシアの娘だと思っているだろうし。


「そして子供がしたことは親の責任だ。必ず君に返ってくるよ、フェイトが他人に迷惑を掛けた分だけ、傷つけた分だけね」


たとえばあの少年や民間協力者の少女。


「そして君がしたことは君だけの責任だ。フェイトにも、アリシアにも罪はない。君が背負いたまえ」




子供がしたことは親の責任だが――――親がしたことに、子供は何の責任もないのだから。

それだけ伝えておきたかった。少々勘違いしているようだったからね。

プレシアがアリシアのために選んだことだ、止める気はない。
ただ母親としての役目は果たしていきなよ、とだけ。

科学者としての道を違えても、母親としての道は間違えないでくれ。
でないと、アリシアに合わせる顔がないだろう?











あとがき
歪んだ倫理観とか考え方が明らかに。
多分今回が一番のシリアス回。後2、3回ぐらいで無印終了。ほのぼのに戻ります。StSはもっとほのぼのにしたいなあ。



[18853] 第12回
Name: アラスカ◆0e5b3aa7 ID:f6242140
Date: 2010/05/27 20:52
「あんな人形を何体も。6番なんて人形の分際で無駄なものが多すぎる。あれならまだフェイトの方が役に立つわ」







(クア姉と同じことを言うんだな、あの人も。まあ自覚はあるんだけど・・・・・・今回ばかりは失敗しないように頑張ったのになぁ)


セインは思考する。
ドクターが自分たちに動かないよう命令したのも、余計なことをしないようになのかもしれない、と。


(・・・・・・好き勝手言ってくれるな、彼女も)


チンクは思考する。
プレシア・テスタロッサは妹の個性を無駄呼ばわり。
ドクターの創造した私たちに、無駄な部分などあるはずもない。
セインの個性が無駄だというなら、コンシデレーション・コンソールを使って洗脳すればいいだけのこと。
それをしないのは必要がないからに他ならない。


我が身がこんな体型なのも、無駄ではない・・・・・・そう、無駄ではないのだ。


(・・・・・・ということは牛乳を飲んで成長したとしても、この体型に戻されるのではないか?)


この無駄のないボディが至高だというなら、つまりはそういうこと。


(いやしかし、成長する余地があるのならばそれは無駄などではないのでは?)


うん? と論点がズレていることに気づかないまま、チンクは唸る。
そんなところも父親譲り。






「――――話は終わったようだな」

「だね」


そして切り替えが早いところも。

チンクとセインは自分たちを囲む傀儡兵の異変に気づいた。











(――もういいわ。もう)


プレシア・テスタロッサの心は不思議と冷めていた。
ジェイル・スカリエッティに感じていた苛立ちもどこかへと消えている。
そして彼女は決断した、自然に、それが当然だと言わんばかりに。


(父親になりたいというのなら味わえばいい。愛する娘を失う衝撃を。そうすればきっと、あなたにも分かる。自分の言っていることが綺麗事だったと)


5年前の、プロジェクトFに希望を見いだしていたプレシアであったならそんな決断には至らなかっただろう。
このプレシアの決断が、彼女が壊れてしまったということを如実に表していた。


「ジェイル・スカリエッティ。其処で見ていなさい、自分の愛娘が壊れる瞬間を。そして理解するといい、親の気持ちをね」


それが、あなたが望んだことでしょう?
そう言って壊れた女は杖で床を叩いた。





『・・・・・・悲しいね。私の知っている君はもういない。君たちがアルハザードに辿り着き、本当の君に戻ることを祈っているよ』


狂気の科学者は呟いた。
私は君のようにはならない、絶対に娘たちを失うようなことはしない。





◇◆◇◆





「――IS発動、ランブルデトネイター」


まさか、本当に実戦になるとは。
トーレの心配(本人は認めないだろうな)が現実になったようだ。


傀儡兵の関節を狙い、固有武装 スローイングナイフ・スティンガーを放つ。


セインの能力は直接戦闘にはあまり向かない、私がサポートしなければ。


「チンク姉!」

「心配するな、姉に任せておけ」






「人形が姉妹ごっこ、親に似て幼稚ね」


プレシア・テスタロッサ・・・・・・親というのはドクターのことだろうか。


「ごっこではなく、私たちは姉妹だ。ナンバーズ全員がそう認識している」


――どうする? できるだけ私たちの痕跡を残すわけにはいかない。プレシアとの戦闘は避けるべきだ。

だが易々と転移させてくれるとは思えない・・・・・・やはりドクターからの指示を待つしかない。


「だから人形なのよ、あなたたちは」


迫る雷撃をAMFを発生させることで防ぐ。
今の彼女相手ならば時間は稼げる・・・・・・すまないセイン、持ちこたえてくれっ。





◇◆◇◆





「ちょっとマズいかな・・・・・・」


ISが戦闘向きではないとはいえセインも戦闘機人、傀儡兵の一機や二機に遅れを取ることはない。
だがチンクはプレシアと対峙し、十以上の傀儡兵がセインを狙っている。
対するセインには傀儡兵を破壊できるような力はない、トーレのような肉体増強は受けていないのだから。


(・・・・・・でもまあ、壊れたら壊れたで直せないこともないからいいか)


自分の能力の貴重さを考えれば、使い捨てられることもない。
何よりセインは――――


(チンク姉なら大丈夫そうだし・・・・・・生き残れって命令を受けたわけじゃないし)


――命令を受けていなかった。
機械であるが故に彼女には恐怖などない。
セインはただ淡々と事実を受け入れていた。


如何に明るい子であったとしても、その根幹には戦闘機人としての意識がある。


絶対にこの任務を失敗したくない、チンクの邪魔になりたくない、そんな思いが機械的に、振り下ろされる傀儡兵の剣を受け入れることを選択していた。


(これでクア姉も少しはあたしを見直してくれるよね)







「――馬鹿どもが・・・・・・!」




――クアットロであっても、こんな予定外の場所で妹に傷をつけることは許さないだろう。

ならば、実戦リーダーである彼女がそれを許すはずもない。


――否。そんなことを許す者など、ナンバーズには存在しない。











あとがき
この物語は数の子の成長を綴った物語(キリッ)。
トーレのフラグを立てておかなければ大変なことになっていました。
ナンバーズが普通の家族になるためには、色んな障害があるよーということでセインのキャラが・・・これを乗り越えて、ホントのお天気おねーさんになるはずです。



[18853] 第13回
Name: アラスカ◆0e5b3aa7 ID:f6242140
Date: 2010/05/28 21:46
「――君の指示かい? ウーノ」

「いえ。これはトーレとクアットロの判断です」


――そうか。あの二人が・・・・・・よかった。


「ディエチ、よく見ているといい。君の姉の姿を」

「・・・・・・はい」


プレシアと1対1で話したい、そうトーレとクアットロには伝えたが・・・・・・ふふ、私に似て行動的だ。
だがそれに比べて今の私は――


「――やはりまだまだままごと、か」


セインがどうして攻撃を避けようとしなかったのか・・・・・・戦闘機人とて、生きた人間だ。
確かに部品に代わりはある。だがその脳――心には代わりなどない。
いや、違う・・・・・・たとえ部品があり、修復できたとしても、私は娘が傷つく姿など見たくはない――戦場に送り込んだ者の言葉ではないな、まったく・・・・・・。
ウーノたちに任せきりだったのがやはりよくなかった。父親としての自覚がまだまだ足りないようだ。


「ドクター? どうかなさいましたか?」

「――いや、なんでもないよ。ただトーレも変わったと思ってね」


娘に情けない姿は見せられない。
話を逸らすために口にしたことだが、それは心からの言葉だった。


「セインのお陰です。あの子の性格はトーレやクアットロの精神的成長に繋がっていますから」


勿論、ディエチにもね。とドゥーエは言って、末妹の頭を優しく撫でた。


「・・・・・・うん」


ディエチはくすぐったそうな表情をしながらも、その手を受け入れる。
――セインの明るさには私も助けられている。そうだ、今度は私たちがセインを助けてあげなければならない。
心の中の闇を取り除かなければ。
セインの本当の笑顔のために。


「クアットロも、もう少し素直な子に育ってくれればいいんですが」

「そんなことはない。クアットロの素直になれないところも、大切な個性だよ」

(あの子は素直になれないというより、性格の問題な気もするけど・・・・・・でも、個性には違いないわね)


もっと時間を作ろう、話す時間を。





◇◆◇◆





「トーレ・・・・・・何故お前が此処に?」

「何の保険もかけずに妹たちだけで戦場に放り込む姉が何処にいる」


セインを片手で抱えながら、トーレはチンクの前に降り立つ。


「本来ならばお前たちだけでやらせるつもりだったが・・・・・・」


乱暴にセインを床に降ろし、傀儡兵たちを睨みつけた。


「まだまだお前たちには教育が足りなかったようだ」

「・・・・・・ごめん」

「セインは十分に――――ッ!?」


姉としてセインをフォローしようとしたチンクの頭に、トーレの拳が振り下ろされる。


「貴様もだ、馬鹿者が」

「っ・・・・・・?」


何故殴られたか分からないチンクが涙目になってトーレを見上げる。
トーレはチラリと一瞬チンクに視線を向けるが、すぐに眼前の敵へと視線を戻す。


「ドクターの命令を待っているようでは、こいつらと変わらん。ただの機械であれば頭に脳が詰まっている必要もない――そんなことも理解していなかったのか、貴様らは」

「・・・・・・」


先ほどの自らの思考を思い出し、チンクは俯く。


「――――本当にお馬鹿だったのねぇ、チンクちゃんは」


そんな彼女の耳に届いたのは、4番特有の人を馬鹿にしたような声。


「クア姉・・・・・・」

「セインちゃんも。失敗するだけならまだしも、壊れられたらドクターも私たちも困るのよ? まったく・・・・・・」


心底呆れた表情のクアットロがステルスを解き、姿を現した。
――この言葉はクアットロの本心からの言葉であり、妹に対する心配などはまったくなかった。
だが同時に感じていたのは、小さな胸の痛み。
馬鹿なことをしようとした妹への苛立ちだと、そう結論付けてクアットロは自らのISを発動する。
――クアットロが不要とする人間味、完全なる戦機としてのナンバーズ。
だがそのクアットロ自身にも人間であるドクターの因子によって、人間らしさが芽生えてきていた。


「所詮は図体だけの人形、私たちの足元にも及ばない木偶――踊ってなさい、その女と一緒にね」


クアットロたちの幻影が現れると同時に、本物のクアットロたちの姿がプレシアの視界から消えた。




「そんな幻影程度で逃げられるとでも思っているの? 見えないなら部屋全体を焼き払って――」


クスッと幻影のクアットロが笑う。


「逃げる? 嫌ねぇ、見逃してあげるって言ってるのよ? 下手に殺して管理局に私たちの存在を悟られるのも面倒だから」


プレシアにも似た狂気を孕む笑み。
クアットロが言葉を紡ぎ終わる頃にはもう勝負は決していた。


「――あなたにはドクターの代わりにプロジェクトFを完成させていただいた借りがある。私たちはもうあなたの行動に干渉はしない、ですから今回は退かせていただきます」

「ッ、人形風情が私を脅すの・・・・・・」


一人、IS シルバーカーテンを解いたトーレが己の固有武装、インパルスブレードをプレシアの首筋に突きつける。
――かつて、大魔導師と呼ばれた頃のプレシアであったならばどうとでもできていただろう。
だが今のプレシアには突きつけられた光刃をどうすることもできなかった。





「さ、帰るわよチンクちゃん、セインちゃん」


呆気にとられている二人を尻目に、クアットロは転移用のテンプレートを展開する。


「・・・・・・ああ」


稼動時間だけならば、クアットロよりも長いチンク。


(だというのに、この差はなんだ・・・・・・? 私は初期制作機である姉たちに及ばないのか?)


ドクターの因子の有無、それだけの差。
だが因子を持たぬチンクたち後期制作機には、人間としての心が根幹的な部分で未だ未熟であった。


(・・・・・・本当、お馬鹿ね)


「トーレ姉様、戻りましょう」

「ああ――――アリシアお嬢様と幸せにお暮らしください」


トーレはそれだけ言って、プレシアの首筋からインパルスブレードを外した。







――――クアットロたちが転移した後、漸くプレシアは俯いたままだった顔を上げた。


「・・・・・・人形に言われるまでもないわ、私とアリシアはアルハザードへ旅立つ。全ての柵から解き放たれるのよ」


――壊れた魔女は止まらない。


「私のお人形も、もういらないわね」


ジュエルシードは十全とはいえないまでも、彼女の強い願いを叶えるには十分な数だろう。
あんな反吐の出る家族ごっこを見せられた後で、人形と話すなんて考えたくもない。


「私は私の本当の家族と、アリシアと幸せになるの」










あとがき
ほとんど戦闘もなく、庭園から離脱。
戦ってほしくないんです、あんまり。
次回エピローグ的なものを書いて、無印終了。
とりあえず戦闘機人事件まではほのぼのが続きます。



[18853] 第14回
Name: アラスカ◆0e5b3aa7 ID:f6242140
Date: 2010/05/29 21:19
――あれから数日後、プレシア・テスタロッサは虚数空間――アルハザードへ娘と共に落ちたそうだ。
我々の介入がプレシアの口から管理局に漏れることもなかった、プレシアは私など意に介せず、結局私がプレシアと話したところで何が変わるわけでもない。

やはり彼女がフェイトを受け入れることはなく、フェイトは天涯孤独の身となった・・・・・・いや、違うな。
彼女にはあの少女がいるし、家族なんてものはつくればいい。
勿論、私のような方法ではなくね。


「とりあえずこれで、何の気兼ねもなく仕事ができるな」


結果がどうあれ、終わったことだ。
フェイトのことがまだ残ってはいるが、彼女の罪は全てプレシアが持っていってくれた。後は管理局とフェイト自身に任せるとしよう。


「とはいえ仕事といっても大したものはないが」


――まずはセインの様子を見に行くとしよう、チンクはもう大丈夫そうだったが、心配だ。
トーレはやっぱり私に似て不器用だね。












「――っと、ディエチ」

「ドクター」


セインを探して歩き回っていると、ディエチが通りがかった。
若干ほかほかしているような気がする、洗浄してきたのだろう・・・・・・私もいつかお呼ばれされたいなあ。


「セインを見なかったかい?」

「セインなら洗浄してると思い・・・・・・ます。チンク姉とトーレも一緒に」


ぎこちない口調で私の問いに答えるディエチ。
・・・・・・ディエチはどこかボーっとしているように見えるから不安で、見かけたら積極的話しかけるようにしていた(娘全員に言えることだが)から、もしかしたらウザいとか思われていたのだろうか・・・・・・。
それはそれとして、トーレと?
――なら私の出る幕はなさそうだ。


(・・・・・・やっぱり何だか話しにくいよ)





◇◆◇◆





ラボ内洗浄施設


「チンク姉、痒いところはございませんか~?」

「大丈夫だ。気持ちいいよ」

ちっちゃい姉御ことチンクの頭を洗うのは現在ナンバーズ1の問題児セイン。さらにそのセインの頭を洗っているのが――――


「い、痛い! トーレ姉痛いって!」

「む、悪いな。他人のだと力加減がよくわからん」


――おっきな姉御ことトーレである。


「これでどうだ」

「泡が目に!?」


賑やかな背後の姉妹にチンク(シャンプーハット着用)は口元を綻ばせる。


「っ、どさくさに紛れて胸部を触るな!」

「いや、本当に見えな――目に指が!?」


少々慌ただしすぎるような気もするが、これもセインあってのものだろう。


(トーレやクアットロたちよりも、セインたちの姉である自信はあったのだがな・・・・・・私もドゥーエのように、妹のちゃんとした教育係に付けるようになりたいものだ)


「馬鹿どもが・・・・・・!」

「待て、私もかっ? 私は何も――!?」


ども、というトーレの言葉が聞き捨てならず振り向いたチンクの目に、泡が飛んだ。


「わっ、ととっ!」


目を押さえるチンクの耳にセインの声が聞こえたと思ったら正面から衝撃。


「ふん」

「痛たたた・・・・・・酷いよトーレ姉、可愛い妹を床に叩きつけるなんて」


およよ、と泣き真似を始めるセイン。
それを聞いて黙っていない者が一人。


「床、だと・・・・・・? お前が叩きつけられたのは私の胸だ!」

「あうっ!?」


チンクの名誉のために言っておくが、流石に床並の硬さということはなく、セインの言葉はセインなりのジョークである。


「――――なんだか騒がしいけど、どうかしたのかしらぁ?」


と、ここでクアットロ登場。此処は洗浄施設なので当然メガネを外しているクアットロに当然のように泡が飛ぶ。


「きゃあ!?」

「この予想外に可愛らしい悲鳴は――クア姉!」

「ちょっとセインちゃんっ、どこを触って――!?」


さらに騒々しさを増した洗浄施設。
結局この騒ぎは、騒ぎを聞きつけやってきたウーノにお湯がぶちまけられ、湯を滴らせながら青筋を浮かべる彼女によって収拾がついたのだった。





◇◆◇◆





5日後 ミッドチルダ東部 アルトセイム地方


「――たまにはこうやって、作戦など関係なく外に出るのもいいものだね」


小高い丘に生えた樹に背中を預けながら、傍らのウーノに向けて呟く。


「はい」


私は割と変装して外に出てはいるが、娘たちは作戦以外ではほとんど外に出たことがない。
一仕事を終えた後だ、これぐらいのご褒美があってもいいだろう。
それに、


「ドゥーエとも中々会えなくなってしまうからね」

(週に一度は帰って来るという約束なのに、それでも不満なんでしょうか・・・・・・?)


そう、ドゥーエとも週に一度しか会えなくなってしまう。
それは、つい先日のことだ――――





◇◆◇◆





「ドクター。ドクターの夢の実現のため、聖王協会に潜入してきますわ」

「マジでか」

(マジ・・・・・・? どういう意味かしら)





◇◆◇◆





あの時は本当にいきなりでビックリした。

まったく、もっと早くドゥーエが教えてくれればよかったのだが・・・・・・寂しくなるが娘の巣立ちだ、父として見送ろう。


「この辺りはまだまだ自然が残っていていい所だ」


腰を上げて立ち上がり、小高い丘から大地を見下ろす。


「――ふぅ」


眼下に広がる豊かな自然は晴れやかな気分にしてくれる。

次いで私は今度は空を見上げた。


どこまでも広がる青い空。大きな鳥が翼をはためかせ、自由に飛び回っていた。



「――存外、この世界も捨てたものではないよ」


さて、感傷もこのあたりで終わりにしよう。
初めての娘たちとのお出かけだ、楽しまなければ。


振り向けば、いつの間にか全員が集まっていた。




「・・・・・・こんな綺麗な所もあるんだ」

「地球も綺麗だったけど、こっちのも中々・・・・・・世界は広いなぁ」

「よく見ておかなければな、これから“生まれて”くる妹たちに外の世界を伝えるために」


これから姉となる3人は目の前に広がる光景を目に焼き付け、



「ドクターはどうして急にこんな所に行くって言い出したんですか?」

「さあな。ドクターの考えてることは、時折私たちにも想像がつかん」

「あなたたちもまだまだ機械ね。たまには何にも考えずにボーっとするのもいいものよ」

「・・・・・・あなたにはこれから考えて動いてもらわないと困るのだけど」


姉である4人は各々、羽を伸ばしているようだ。
個性的に育ってくれているようで、私は嬉しいよ。


「ドクター!」


ブンブン、と音が聞こえてきそうな動作で私に手を振るのはセイン。
その笑顔は姉妹たちの中でも最も眩しく、彼女に似合っていた。


「――まあ、私にとっては世界など、娘たちの笑顔さえあればそれでいいものなのだがね」









あとがき
仲直り。トーレは風呂で始まり風呂で終わる。
ドゥーエ離脱・・・・・・ただし週一で帰還。
シリアスもここで終了。次回番外編を入れて、ほのぼのが始まります。



[18853] 第15回
Name: アラスカ◆0e5b3aa7 ID:f619fa38
Date: 2010/05/30 23:10
5月末。


プレシア・テスタロッサは虚数空間に消え、民間協力者であった高町なのはもアースラを降り、フェイト・テスタロッサだけが残った。






「――お疲れ様、クロノくん」

「砂糖とミルクは――」

「勿論入ってないよ。入れた方がよかった?」


やめてくれ、と心底嫌そうな表情をしながらクロノ・ハラオウンはエイミィ・リミエッタからコーヒーを受け取った。


「綺麗な形とは言えないけど事件は解決したのに、まだ何か気になるの? プレシアのことを調べてるなんて」

「いや――なのはに言ってしまったからな。フェイト・テスタロッサには絶対に無罪になってもらわないと困る。そのために何か使えそうなものはないか探しているだけだよ」


クロノ・ハラオウンはそう言うが、それだけではなく確かに彼には今回の事件について腑に落ちないところがあった。
例えばフェイト・テスタロッサを生み出したプロジェクトF。

だがそのプロジェクトFの基礎理論を組み立てたのは誰だ?
クローンをつくり、そのクローンに記憶を転写する。そんな発想ができる人間など、一体どれだけいる?
だというのにプロジェクトFに関係する情報はほとんどない。全てプレシアと共に虚数空間へと消えてしまった。


――裏に何かがある、それがクロノ・ハラオウンの見解である。



「さーて、じゃあ私もお仕事に戻ろうかな」

「なんだ、まだ終わっていなかったのか?」

「うん――――フェイトちゃんの無罪が決まるまでは終わりそうにないね」


エイミィの言葉にクロノは一緒ポカンとした表情を浮かべた後、小さく笑った。


「ならさっさと終わらせないとな、お互い」

「だね」


時空管理局。
裏に蠢く思惑を知らぬまま、局員たちは今日も働く。
自らの信じる正義のため、助けを待つ何処かの誰かのために――――。





◇◆◇◆





同日。


「私たち、これからどうなるのかな」

「――――まだしばらくは自由の身にはなれないけど裁判が終わったら、ううん、裁判が始まる前からだってフェイトがどうしたいか、それだけでどうにでもなるさ」


どうなるかではなく、どうするかだと、使い魔 アルフは言った。


「でもまあ、一番したいことはもう決まってるんだろ?」

「・・・・・・うん。あの子に会いたい、会って話したい」

「なら、フェイトがそうしたいってことを言葉で伝えないとね」


少しずつ、フェイト・テスタロッサは変わっていた。
アリシアのクローンとしてではなく、フェイト・テスタロッサとして、少しずつ。

それがアルフにとって堪らなく嬉しい。


「――ねえアルフ」

「なんだい?」

「アルフは今までずっと私のそばにいてくれたね」

「当たり前だよ、フェイトはあたしのご主人様なんだから」


アルフがいて、優しくしてくれる人たちがいる。
悲しさも苦しさも寂しさも、ずっと永遠には続かないから。
楽しいことやうれしいことが、探していけば必ず見つかるはずだから。
それを手伝ってくれる人たちがそばにいてくれる。

――フェイト・テスタロッサは前を見て、立ち上がろうとしていた。


「これからもよろしく、アルフ」





◇◆◇◆





6月2日


「なのは、朝だよっ」

「うぅん・・・・・・」

「今日は友達の所に出掛けるんでしょっ? 遅れちゃうよ」


寝返りをうつ少女 高町なのはに必死に声を掛けるのは、フェレットによく似た動物――に変身した人間の少年 ユーノ・スクライア。


「・・・・・・・・・・・・そ、そうだった!」


ユーノの言葉に暫し沈黙し、なのははガバッと体を起こした。
そしてそれを見計らったようなタイミングで携帯電話が鳴った。
ディスプレイには着信の二文字。


「もっ、もしもし!」

『あ、やっぱり・・・・・・なのは、あんた今起きたでしょ?』

「でもでも約束の時間には間に合うから!」


何もかも親友はお見通しのようで、電話越しに溜め息が聞こえた。


『ちゃんとおめかしして来なさいよ? 初めて送るビデオレターなんだから』

「うんっ」

『じゃあ急ぎなさい、ほらもう30分よ』

「わわっ!? じ、じゃあまた後でね、アリサちゃん!」


通話を一方的に終了させ、電話をベッドに放り投げながらなのはは準備を開始する。












「お母さん、お父さん、おはよう!」

「おはよう」

「おお、おはよう」









「お姉ちゃん、お兄ちゃん、おはよう!」

「なのは、おはよ」

「おはよう、なのは」






「――行ってきまーす!」


窓越しに見えたユーノに手を振って、なのはは走り出す。
今は少し遠くにいる友達に早くメッセージを伝えたくて。
私たちは待ってるよって伝えたくて。

言葉にしなくても伝わることかもしれない。
でも、気持ちを言葉にして伝えたいから。


それはすごく、素敵なことだと思うから――。









あとがき
漸く本家主人公たちが登場。次回からは、やっとスカさんたちでほのぼの。
気を取り直して頑張ります。



[18853] 第16回
Name: アラスカ◆0e5b3aa7 ID:f619fa38
Date: 2010/06/06 09:29
新暦0065年 冬


「最近は平和だなぁ・・・・・・」


夏頃は事後処理やら隠蔽やらで忙しかったが、今はそれも落ち着いている。
概ね平和と言えるだろう。

フェイトの裁判ももうすぐ終了、無罪はほぼ確定で心配事もなくなった。



「ええと、今月はと・・・・・・まだまだ節約するべきところはたくさんか。来年中には引っ越ししたいところだが・・・・・・」


先立つものがないとどうにもね。
まさか金のことで最高評議会に借りをつくりたくもないし、コツコツと貯めるしかない。


「いやしかし私も主夫が板についてきた」


最近の自分の思考を思い出し、苦笑い。
培養槽で生まれた時に揺らめいてた私の願いは一体どこにやったのか。
自由な世界、そんなものに憧れていた頃がひどく懐かしい。


「――願わくば、君たちが生まれてくる世界が君たちにやさしくあるように」


未だ培養槽に眠る娘たちを見つめ、呟いた。





◇◆◇◆





ラボ内 ダイニング


「――はむっ・・・・・・ん、やっぱウー姉のつくるご飯は美味しいなぁ」

「同感。やっぱりウーノのが一番だ」


いやまったく。
だが私としては他の娘のも食べてみたいものだ(他の姉妹のつくったものをウーノは食べさせてくれない。私の体調管理のためらしい)。

只今娘たちと食事中、ジェイル・スカリエッティです。


「戦闘機人としては喜んでいいのかわからないけど・・・・・・」


セインとディエチの言葉にウーノは謙遜、というより戸惑った表情を浮かべた。


「そんなことはない。魔導しかできない魔導師などいないように、戦闘だけの機人というのもいないさ。自信をもって良い、今日も美味しいよ、ウーノ」

「――ありがとうございます、ドクター」


ううん、ドゥーエは協会でしっかりご飯を食べて、休むようにしているだろうか?
4日前に見たときは大丈夫そうだったが・・・・・・心配だ。
ああ、心配といえば――


「チンク」

「? はい」

「ドゥーエに頼んで送ってもらっている牛乳、賞味期限がもうすぐだから気をつけた方がいい」

「ごほっ、ごほっ! ・・・・・・あ、ありがとうございます」


冷蔵庫の奥にまるで隠すように置かれていたから忘れているんじゃないかと心配だったんだ。
忘れていなかったのならよかった。


(お馬鹿なチンクちゃん)←クアットロ

(チンク姉、まだ続けてたんだ)←セイン

(そんなに自分の体型が気になるものなのか? わからん・・・・・・)←トーレ


うーん、味が染みていて美味しい。
それに全員揃っての朝食というのはやはりいい。


「どうぞ、ドクター」

「ありがとう、ウーノ」


私がちょうど取ろうと思ったおかずをウーノが取り分けてくれた。
・・・・・・できた娘だー。


「うん、美味しい」

「あ、ウー姉、あたしにもちょーだい」

「自分で取りなさい。私を使おうなんて偉くなったものね、セイン」

「じょ、冗談です」


ウーノの鋭い視線に射抜かれ、セインはおとなしく自分でおかずを確保していた。


「――クアットロ、まさか私の料理を残すなんて言わないわよね? まだピーマンが残ってるわよ」

「い、いえっ、そんなことあるわけないじゃないですかウーノ姉様っ――――うぅ」

(クアットロも形無しとは。流石はNo.1ということか)←トーレ

(好き嫌いしているようでは私が追い越してしまうぞ)←チンク


・・・・・・やっぱりいいなぁ、こういう生活。







――――遠く、聖王協会。


(・・・・・・ウーノのご飯が食べたい)



No.2 ドゥーエ。
良い意味でも悪い意味でもスカリエッティの因子の影響が最も出ている戦闘機人である。





◇◆◇◆





万年人員不足である時空管理局、それは“海”も“陸”も変わらない。
そんな管理局の陸側、悩める男が一人。
名はレジアス・ゲイズという。
最高評議会という強力なバックボーンを持つ彼が人員不足を解決するために出した答え、それは――――


「ジェイル・スカリエッティに戦闘機人造らせればよくね?」


――そんな口調でなかったことは間違いないだろうが、とかく彼はその考えに至った・・・・・・割と前に。










『――はい、ではそのように』

「・・・・・・ジェイル・スカリエッティはどうした。まだ奴は儂と話す気はないと言うのか」


もう何度目になるのか分からない、ナンバーズの長女、ウーノとの通信。
初接触から数年、レジアスの描いた戦闘機人計画はほぼ滞りなく進んでいた――肝心のスカリエッティを抜きにして。


『ドクターは現在、新たな妹たちの調整中で多忙の身ですので。それはあなたの夢へ近づいている証拠、どうか御容赦ください』

「ふん・・・・・・」


内心でレジアスは悪態つく。戦闘機人計画のことをなぜ戦闘機人と話さねばならないのか、と。


(兵器と兵器の話をして、何の意味があるというのだ)

(――ドクターは現在約48時間ぶりに睡眠をとられている。邪魔をするわけにはいかない)


タイミングの悪い男、それがジェイル・スカリエッティであった。








(今夜は・・・・・・ディエチの好物をつくる日ね。もう用意を始めないと夕食の時間に間に合わないかもしれない)

(今夜はオーリスと夕食の約束がある、ジェイル・スカリエッティがいないならば今日はもうこれで――)


どちらも真剣である。
愛する家族のことなのだから。


『では今回の報告はこれまでに』

「ああ。だが次こそはジェイル・スカリエッティに繋いでもらうぞ」


――どちらからともなく通信を切り、各々支度を始めた。

闇の書で大変な地球とは違い、管理世界の平和な日々はこうして過ぎていく。











あとがき
前回から少し間が空きました。
スカさん家はこんな感じで、それなりに平和にやっています。
原作ではまだ稼働は先の9番ですが、ここのスカさんの頑張りのおかげでもうすぐ稼働します、ツンデレ。



[18853] 第17回
Name: アラスカ◆0e5b3aa7 ID:f6242140
Date: 2010/06/08 22:32
ナンバーズ。
ジェイル・スカリエッティの作品群である戦闘機人たち。
現在No.1~6、10が稼働しており、稼働を開始した順番に関係なく数字の若い者を姉と認識している。

――そしてもうすぐ、当初の予定よりも数年早く新たな機人が稼働を開始する。

No.9。
タイプゼロに使われた遺伝子を基に製造された戦闘機人である。


補足すると“彼女”の遺伝子を使用するよう進言したのはNo.1 ウーノとNo.4 クアットロ。ジェイル・スカリエッティの製作した戦闘機人が他のそれを上回っていることを証明するために。








新暦0065年 冬


「ウーノのつくったおうどん食べたい」

「よろしい、ならばおうどんだ」


もうすぐ年の瀬という時期。一週間ぶりにラボに帰還を果たしたドゥーエ、そんな娘の頼みを無碍に出来ようか、否。

ということで夕食はうどんに決定。
朝から夕食の話というのもどうかと思うが。


「ご苦労様、ドゥーエ。どうだい、協会の仕事は?」

「あそこが聖なる協会だということを忘れてしまいそうです」


まったく男って生き物は・・・・・・と愚痴を零すドゥーエ。
ふん、この無限の欲望でさえ、もうある一線を越え、なんかエロい金髪のねーちゃん=ドゥーエ に他の娘と同様の愛しさしか抱かぬようになったというのに。
娘に邪な感情など持たないとも、持たないともさ。



「ああそうだ、ドゥーエ」

「はい?」

「もうすぐ新しい妹が稼働する。忙しいとは思うが、姉としてよろしく頼むよ」

「――ええ、それはもちろん」


ドクターの頼みと可愛い妹のためとあらば、そう言ってドゥーエは笑った。





◇◆◇◆





「というわけだからクアットロ、あなたも姉としてしっかりね」

「はぁ・・・・・・」


クアットロにしては珍しい、困ったような曖昧な表情でドゥーエの言葉に頷いた。


「・・・・・・でもドゥーエ姉様」

「なに?」

「私たち姉妹が親交を深めて、どうにかなるんですか? 連携ならデータリンクで十分でしょう?」


それは以前のチンクやセインと同じ、戦機故の疑問。


「ドクターは何故そんな命令を?」


そんな妹の疑問に困るのは今度はドゥーエ。
さて、なんと答えたらいいものか。

暫しの思考の後、ドゥーエは口を開く。


「クアットロ」

「?」

「これはドクターの指示なのよ?」


他者からすればだからなんだ、と言われそうな返答。しかしドゥーエは確信していた。
これでいいと。


「・・・・・・そう、ですね。ドクターの命令ですから。私たちはそれに従うだけでした」

(――今はまだこれでいい。一から十まで教わるようじゃダメだわ)


想いは違えどきっとNo.3 トーレも似たような返答をしていただろう。

ドクターの命令は絶対。
我々はそれに従っていればいい。無論、ただ命令を待っているようではいけないが。
そんなようなことを。


(それも仕方ない――私も、外に出て初めて違和感に気づいたのだから)


――――もしかしたら、No.2 ドゥーエが姉妹の中で最も大人なのかもしれない。
そう思わせるような姉らしい表情だった。


「さて、じゃあお勉強を再開しましょう。ドクターのために、そしてあなた自身のためにね」

「はい、ドゥーエ姉様」





◇◆◇◆





「――チンク姉、話しって?」

「ああ。実は新たな妹、No.9のことでな」


ドゥーエとクアットロが親交を深めているのと同時刻。
チンクはディエチを呼び出していた。


「No.9――ノーヴェは私の担当になるそうだ」

「そうなんだ・・・・・・でもチンク姉ならピッタリだと思うよ」


ディエチの心からの言葉。

それはディエチが姉と呼ぶのがチンクだけという点にも現れている。
姉妹の中で最も姉らしい人物、それは間違いなくチンクだろう。


「ありがとう。私も姉としてこれまで以上に努力する」


だが、とチンク続けた。


「先の任務で痛感した。私は姉としても戦闘機人としてもまだまだトーレたちには及ばないということを」


そんなことはない。
ディエチとてあの時、あの場面に居たならばドクターの指示を待っていた。あの傀儡兵の腕を避けようとはしなかった。
それが当然だと、そう思ってきたのだ。


「――だからディエチ。お前も年長者としてノーヴェと接してほしい。ナンバーと関係なく、お前が経験したこと、これから経験することをノーヴェに伝えてあげてほしい」

「え・・・・・・」


最も姉らしいのはチンク、そう思っていたからこそ、ディエチは驚いた。

目の前で妹に頭を下げるチンクに、その言葉の意味に。


「――――そこは素直にうんって頷くっ」

「わっ」


背後からポンと頭に手を乗せられ、半場無理やりに頷かせられる。


「チンク姉の頼みを無碍にはできないだろ? 妹としてはさ」


やはりと言うべきか、背後に立っていたのは問題児セイン。
ディエチは困ったように頬をかきながら、


「・・・・・・うん」


と頷いた。


「だってさ、チンク姉」

「・・・・・・恵まれているな、私は」


――たとえ世の中の人間が否と断じようとも、この瞬間のチンクは間違いなく幸せだった。


「セイン、ディエチ。よろしく頼む」

「よろしくするのは私たちじゃなくてノーヴェにね」

「おおっ、今ディエチが上手いこと言った!」










ドゥーエとクアットロ、チンクとディエチ、セイン。

それぞれウーノとトーレが呼びにいくまで食卓の席が埋まることはなかった。







「・・・・・・伸びたうどんも悪くない、悪くないんだ」











あとがき
勘違い中のウーノよりもドゥーエの方が大人っぽい。ドゥーエがドクターをどう思っているのかはまだ謎です。
次回、ノーヴェ稼働開始。



[18853] 第18回
Name: アラスカ◆0e5b3aa7 ID:f6242140
Date: 2010/06/13 15:14
No.9 ノーヴェが稼働したのは新暦0066年の春のことだ。








「タイプゼロについてのデータは少なく、また基となった遺伝子も秀でた能力を持った魔導師のものではありませんが、肉体的なスペックだけならばタイプゼロよりも上のはずです」

「ふむ・・・・・・」


ふむ・・・・・・などと考え込む動作をするものの、実際に考えているのはスペックのことなどではなく、新たな娘、ノーヴェの心のこと。


「ノーヴェの様子はどうだい?」

「問題ありません」


・・・・・・まあそれは分かっているんだけどね?
何と言えばウーノに伝わるのだろう、と苦笑い。


「――気になるのでしたらチンクか、直接本人と話してみては?」

「ああいや・・・・・・そういう問題ではないんだ」

「?」


そう。
私の懸念は話してどうなるものでもない。
不器用な人間に器用になれ、と言うようなものだ。

それに私があまり口を出すべきでもない――――ほら、言うだろう? 男は背中で語れと。
男はあまりベラベラと喋るものではないのだよ。


――などと思考する私の懸念とは結局何なのかと言うと、








「私ぐらいになれば全てツンデレに変換することも容易なんだが・・・・・・」


娘たちにそれができるのだろうか?
ノーヴェもいい娘なんだ、ただ不器用なだけで。
ふふ、そう考えるとどこかフェイトと重なるものがあるな。或いはプレシアとか。





◇◆◇◆





ジェイル・スカリエッティが父親的思考の渦にのまれている頃。
その娘たちは――


「――ぷはぁっ、いや結構なお手前で」

「・・・・・・何言ってるの? セイン」


洗浄後にドリンクを一杯。
気分は風呂上がりの牛乳である。
無論機械的に量産されたそれにお手前も何もあったものではないが。

ともかくセインは美味しそうにドリンクを飲み干した。
そんな彼女を見つめるのはディエチと赤毛の少女、ノーヴェ。
前者は呆れたように、後者は興味なさ気に。


「うん? ノーヴェも飲む?」


そんな視線を勘違いしたのか、自分の持つドリンクをノーヴェへと投げ渡すセイン。


「・・・・・・いらねーよ」


ノーヴェは危なげなくそれをキャッチし、すぐにセインへと投げ返す。

自分の頭の上を行き来するドリンクにディエチは嫌そうな表情を隠しきれなかった。


(洗浄したばかりなんだから、かけられたらたまらない)


セインならやりかねない、とディエチは安全地帯と言えるチンクの隣の席に移動する。



「恥ずかしがらなくていい、おねーちゃんが飲ませたげるからさ」

「さーわーるーなーッ!」






「どうだ? ノーヴェは」

「見ての通り。セインに遊ばれてる」


そうだな、とチンクはドクターと同じように苦笑い。


「教育係となってみて、クアットロを御しているドゥーエの凄さがわかったよ。ものを教えるというのは難しい」

「チンク姉も十分凄いと思うよ」


あのノーヴェに懐かれているのだから。
セインに噛みつく(物理的な意味に非ず)ノーヴェを見ていると、本当にそう思う。


「いや――まだまだだよ、私は」








「うーん、なんだかあたしも教育係してみたくなってきた。ノーヴェ、どう?」

「お断りだ!」





結局、ジェイル・スカリエッティの懸念は杞憂で終わる。
No.4を除き、ナンバーズ全員が姉妹愛に溢れた者たちであり、No.4でさえ少しずつ変容してきているのだ。

彼女たちの成長にジェイル・スカリエッティは気づかない。





◇◆◇◆





「ドクター、なにしてんの?」

「これかい? ふふふ、よく訊いてくれたね、ノーヴェ」


ノーヴェの視線の先、私の手元には赤い結晶体――レリックと呼ばれるロストロギア。

私はレリックをキュッキュッと丁寧に磨いている。


「・・・・・・詳しいことは知らないけど、それ、ドクターがそんな気安く触って大丈夫なのか」


言われてみると確かに魔導師の素養など大して持ち合わせていない私がこんな気軽に扱っていいものなのだろうか?
ウーノが何も言わないから気にしていなかった(ウーノが何も言わなかったのはドクターがそんなミスをするはずをないという信頼故である)。


だがまあ――


「問題ないさ。こうして愛を持って接すればね。ノーヴェたちも愛を持って接されて、悪い気はしないだろう?」


さり気なく レリック≒ノーヴェたち の式を入れる私は天才なのかもしれない。
この宝石のようなレリックを娘たちに喩える、ふふふ、私も上手くなったものだ。

(※ この世界にはロストロギアに喩えられて喜ぶ女性はいません)


「・・・・・・それで何に使うのさ、それ」

「魔導炉の代わりにでもと思ってね。少々手こずりはしたが、十分実用可能だ」


いやぁ、人数が増えたのもあるけど、残り4人の娘たちの完成を急いでいるからそのために十分なエネルギーが必要だったんだ。
ちょうどいいロストロギアがあってよかったよ。いやまったく。


「しかし新しい妹の教育はセインとトーレ、後は誰に任せようか・・・・・・」

「・・・・・・セインにやらせるの?」


嫌そうな表情を見せるノーヴェ(これは先の件でセインに教育係を任せるのが不安のためである)。
私はそこでピンときた。


セインにやらせるの?→セインがとられるの?→セインいっちゃやだ!


――うん。


「仲が良いみたいでよかったよかった。だけどセインも姉としての仕事があるんだ、わかってくれ」

「・・・・・・? よくわかんないんだけど」











あとがき
ノーヴェが比較的丸い子になった。もっとツンツンした感じになるかと思ったのに。
次回あたりなのは撃墜になります。
・・・予め言っておきます、シリアスはないよ!



[18853] 第19回
Name: アラスカ◆0e5b3aa7 ID:f6242140
Date: 2010/07/22 21:09
新暦0067年


「121、122、123、124、125、126・・・・・・やはり何度数えても1機足りない。ふむ・・・・・・?」


とりあえず娘たちに訊いてみるとしよう。









聞き込み調査一人目 No.9 ノーヴェ。


「知らない。チンク姉からドクターの研究物には触るなって言われてるし、興味もないから」

「そ、そうかい? ちょっとぐらい気になったりは――」

「しない」


だそうだ。




聞き込み調査二人目 No.6 セイン。


「知らないよ。ドクター、もしかしてあたしを疑ってたり?」

「いやいや、たまたまセインを見かけたから訊いただけだよ。セインだけじゃない、ナンバーズの誰も疑ってなんかないさ」

「ならいいけど――こういう時はウー姉に訊くのが一番じゃない?」

「それもそうだね・・・・・・ああ、そうするよ。ありがとう、セイン」




聞き込み調査三人目 No.1ウーノ。


「ああ、それでしたら一機、クアットロに預けてデータの収集させました――結果として破壊されてしまいましたが、貴重なデータが取れたかと・・・・・・申し訳ありません、ドクターに伝えるべきだったのでしょうが、お休み中だった為、私の判断で指示しました」

「ああいや、構わないよ。ウーノの判断なら間違いはない」


・・・・・・さらば名もなきゆりかごのロボットよ、君の犠牲は無駄にはしない。
まだ思い入れの少ないものだったからよしとしよう。これが娘たちだったら・・・・・・と考えるとぞっとする。


「それで、何のデータだい?」


家事技能のデータかな?
それとも耐水性? ああ、セインなんかはよく椅子代わりにして座ってるから耐久性のデータかもしれない。だとしたら実にありがたい。


「もちろん戦闘データですが・・・・・・? AMFについても良質なデータが大量に取れたかと」

「・・・・・・うん?」


戦闘データ? アレの?


「やはり対象が彼女――高町なのはだったというのも大きいです。クアットロはあまり評価していないようですが、もしも彼女が現場に復帰することがあれば、我々の障害になることは間違いないかと」


・・・・・・高町なのは? あの時の少女?


「・・・・・・」

「やはり劇的にドクターの勝利を演出するには、彼女やフェイト・テスタロッサの存在が不可欠。これで種は蒔けました。後は花開くのを待つばかりです」

「・・・・・・ああ、うん。そうかい」


そう、これはウーノとクアットロなりの親孝行なんだ。
他人様に迷惑をかけたことはいただけないが、これは娘たちの愛情なんだ・・・・・・とりあえず彼女の治療費としてお金を送ろう。
そして話す機会があれば親として私が謝ろう。勿論、ウーノとクアットロにも謝らせる。





◇◆◇◆





ミッドチルダにある病院の一室。
ベッドに横たわる少女と、それを見つめる金色の少女。


「なのは・・・・・・」


高町なのは。
若きエース――否、若すぎるエースは翼をもがれ、地に墜ちた。


「なのは・・・・・・早く起きなきゃ、みんな待ってるんだよ?」

「・・・・・・」


高町なのはは目覚めない。
薬が効いているだけ、ではない。
もしかしたらもう二度と目覚めないかもしれない、そんな不安さえ抱いてしまう彼女の寝顔。


「ほら、みんな心配してお見舞いに来てくれたんだよ・・・・・・? 他にも色んな人がお見舞いに、って色んな物を送ってくれたんだよ?」

「・・・・・・」


金色の少女は部屋の隅に積み重ねられた見舞い品の山に目をやる。
花や果物、ケーキなど、多種多様な見舞い品が大量に、だがそのどれもが手をつけられることなく放置されていた。


「だから早く、起きてね・・・・・・?」


金色の少女が高町なのはの手を握り、涙を流す。


・・・・・・誰にも手をつけられることなく放置された見舞い品の山の一番下に分厚い封筒が眠っている。

中身は治療費どころか老後も安心な額のお金と、手紙が一通。
内容はただ一文、申し訳ないとだけ。

差出人は当然――――ジェイル・スカリエッティ。

高町なのはが快復してから少し後、この手紙に気づいた少女たちの勘違いが深まるのはお約束だろう。


「なのは・・・・・・っ」





◇◆◇◆





ラボのとある一室。
椅子も机も何もないその部屋には人影が二つ。


一人はNo.2 ドゥーエ。


「ドゥーエ姉様、なんで私がこんな目に・・・・・・?」


もう一人は腹黒のNo.4 クアットロ。


「ふふふ、いいからとりあえず今日は1日正座してなさい?」

「は、はぁ・・・・・・」


乗馬用の物に似た鞭を持った笑顔のドゥーエの物言わぬ迫力に圧され、クアットロは曖昧に頷く。


(ドゥーエ姉様、やっぱり高町なのはを生かしたことを怒ってらっしゃるのかしら・・・・・・?)

(いつか気づいてくれればいいわ。でも、お仕置きはしないとね)


姉の想いはまだ届かず、クアットロはどこか納得のいかない表情で正座を続けた。


「――ドゥーエは居る、か、い・・・・・・?」


と、そこにタイミング悪く入って来たのは諸悪の根源とも言えるジェイル・スカリエッティ。


状況解説。
正座するクアットロ&それを見下ろすドゥーエ、鞭装備=爛れた姉妹の関係(?)


「・・・・・・あー、あー、あー、そうだ、チンクに用があったんだった。はっはっは、最近は物忘れが激しくて困る。これでは今日起きたことも忘れてしまいそうだ」


遠い目をしてそんなことをスカリエッティは呟き、華麗に回れ右をして去って行った。


「・・・・・・」←クアットロ

「・・・・・・」←ドゥーエ

「・・・・・・・・・・・・」←クアットロ

「・・・・・・・・・・・・うぅっ、ドクターに見られたっ」←ドゥーエ

「!?」←クアットロ




そんな、とある日の情景。










あとがき
放置してしまい申し訳ない、復活と同時にとらハ版に移動。
心機一転頑張ります。



[18853] 第20回
Name: アラスカ◆0e5b3aa7 ID:f6242140
Date: 2010/07/29 19:41
やあ、私はジェイル・スカリエッティ。子育てに燃える、十二児(予定)の父だ。

仕事が漸く一段落したと思ったら、今度は娘たちの不器用な親孝行に嬉しくなる反面高町なのは嬢には迷惑をかけてしまったと胸が痛くなった。
一応見舞金と治療費としていくらかお金と果物を送ったが、お見舞いを送るなんて初めての経験だからね、あれで足りたのだろうか?


まあ過ぎたことは仕方ないと割り切ろう。いや、高町なのはに会ったら親として、もうものっそい勢いで謝らせてもらうよ。
それまでは胸の内にしまっておこう。


――さて、今日のおはなしなんだが・・・・・・今、私には8人の娘がいる。
しっかり者の長女 ウーノ。
ウーノ以上に大人な色気を放つドゥーエ。
父親の私よりも男らしいトーレ。
ちょっと姉妹の仲が上手くいっていないクアットロ。
名前に負けずに真っ直ぐ育ってくれているチンク。
我が家のムードメーカーセイン。
少し間を開けて、ツンデレ気質なノーヴェ。
ボーっとしているディエチ。

もう少し(要するに次回)で十一番の娘が誕生するのは別として、最近気になることがあるんだ。
ああいや、ドゥーエとクアットロのことじゃない。あの娘たちはほら、少し不器用なだけなんだよ。
きっと、いつかきっと分かってくれると私は信じている。
それで今回気になっていることというのは――








「チンク姉、これは何処に運べばいいの?」

「それは2番の倉庫だ――っとセイン、もっと丁寧に扱え。危険なロストロギアもあるんだ」

「はーい」


新しいラボ(引っ越しました)の一室。
正規のルートやちょっと危ないルートから仕入れた物品を娘たちが整理してくれていた。
ああ、その気持ちはとても有り難い、有り難いんだが。


「チンク姉、これは?」

「ん、これは・・・・・・すまない、これは私には判断できないな」


ディエチが自分よりも大きいケースを持って、チンクに尋ねる。
ああっ、それは間違ってオークションで落札してしまったロストロギア!
封印しているとはいえ危険な代物っ。


「仕方ない、ドクターに指示を――」


そうっ、それでいい!
私に、この私に聞きにきなさい!
どうせ使わないし、倉庫の奥にしまってしまうから!


「それは今のドクターの研究には関係ない、15番でいいだろう」

「トーレ」


さあ、私に・・・・・・?←影から今か今かと様子を窺いながら


「この程度でドクターの手を煩わせるわけにもいくまい」

「――ああ、それもそうだな」

「ん、わかった」


・・・・・・もうちょっと父を頼ってくれてもいいじゃないか?


――私は今、娘たちの急速な親離れに悩んでいるんだ。





◇◆◇◆





どうもおかしい。
確かに娘たちは私に遠慮している部分は多かったが、ここまでではなかった。
セインなんかはもっとこう、フレンドリー・・・・・・いや、家族でフレンドリーというのもおかしいか。
とにかく、もっと和気藹々としていた・・・・・・はずだ。


考えてみるに高町なのは嬢が怪我する前後から様子がおかしくなっている。
ふむ・・・・・・これもウーノの何らかの心遣いなのかもしれないが、果たして・・・・・・?


うんうんと唸る私の前に、カチャリと音を立ててティーカップが置かれた。


「あまり考え込まないでください、ドクター。あの子たちもあの子たちなりに、ドクターのために頑張っているんですから」

「ああ、ありがとうウー、ノ・・・・・・?」


いつものように紅茶に手を伸ばしたところで違和感に気付く。
この声は――


「残念、ドゥーエですわ。ドクター」

「あ、ああ。ありがとう、ドゥーエ」


顔を上げれば、思ったよりも近くにドゥーエの顔があって驚く。
動揺を隠すように紅茶に口をつけると、いつもとは違った味と香が広がる。


「教会での仕事のお蔭もあって、私としてはそれなりのものを出せたと思いますが」

「ああ、美味しいよ」


ウーノとはまた違った味わいがある。
これが外の味、というのだろうか?


「ウーノと比べてどちらが?」

「・・・・・・」


なんだいなんだい? どうしたんだい、ドゥーエ?
はっはっはっ、あまり父を困らせないでおくれよ。

などと、先程とは正反対のことを心中で呟く私。


「ごほんっ、私は評論家ではないからね。強いて言うなら甲乙付けがたい、とだけ」


断じて逃げではない。紅茶の味について語れるほど飲んだことはないのさ。


「ん――まあ、良しとしましょう。私がドクターを困らせてしまっては本末転倒ですし」


とりあえずドゥーエは良しとしてくれたらしかった。


「あの子たちのことですが、あまりお気になさらないでください。今は少々引っ越しで忙しいですが、すぐに元に戻ります」

「そう、かい・・・・・・?」

「ええ。みんな、ドクターのことが好きですから」


と、素晴らしい笑顔で言ってくれる我が娘。


「・・・・・・すまない、もう一回」

「みんな、ドクターのことが好きですから」

「もう一声」

「みんな、ドクターのことが大好きですから」

「・・・・・・・・・・・・ふぅ」


いかんいかん、私の無限の欲望の中の一つ、「お父さんだーい好きっ」が叶ってしまったせいで何処かに飛んでいくところだった。


「いやー、はっはっはっ、そうかいそうかい。ならもう少しだけ我慢してみよう。娘たちにも事情があるからね、あまり私がヤキモキしても仕方ない」

「はい。心配せずとも、ドクターの気持ちは伝わっていますから」


うんうん、それはよかったよかった。
確かに引っ越しで忙しい中、娘たちが構ってくれないからといって父親である私がどうこう言っても仕方ない。
私は私で、私の仕事をしよう。
さーて、まずはあのロボットの改良・量産からだな。少しでも娘たちの負担が軽くなるよう、私も頑張るとしよう。


「それではドクター、私も妹たちの手伝いに戻ります」


そう言ってドゥーエは一礼し、踵を返した。



(ウーノが居ない隙を見て来たから、戻って来る前に退散しないと・・・・・・妹たちにももう少しドクターと関わるよう言い含めておかないとね)




「ドクター、お茶が入りました・・・・・・?」


少し遅れてやってきたウーノが見たものは空のティーカップ。
ドクターはやる気を漲らせて研究室に入ったところだった。









あとがき
もうドゥーエがヒロインでいいんじゃね?
いやこの作品にヒロインはいませんが。

と、本編中に入れられなかった補足。
ナンバーズの親離れは次回のおはなしである戦闘機人事件のことで色々と任務があったからです。
原作を見る限り、ゼスト隊の襲撃を予見していたように思えたので、ウーノとクアットロの指示で色々任務やって、ドクターもなんやかんややっていると勘違い→迷惑かけないように!

上記の通り、次回は戦闘機人事件(忘れられてそうだけど、チンクはまだ両目あるよ!)。
なのは撃墜の時もでしたが、シリアスはありません。
ここから原作との更なる乖離が始まるかと。

多分シリアスは最終回あたりまでないかな・・・?


というか今回のスカさんウザくないか心配。


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