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2010年7月30日 (金)

要求を通すために咬む犬

咬む犬のご相談のなかでも、犬が自分の要求を通そうとして
飼い主を咬むケースは、比較的解決が早い。


そのような犬は、「咬むことの威力と効果」を十分理解したうえで、
咬むという行為に及んでいるので、飼い主が犬に咬まれるような
状況を一切避けることと、犬の要求には一切応じないこと、こちらの
要求に応じたときのみ良いことが起こる(食べ物を与える、愛情や
関心を与える)


といった、行動療法を行うことが解決の指針になる。
自制心が弱く、すぐに興奮する犬であれば、自制心を強化する
トレーニングも同時に行う。


運動不足、食餌量の不足、食餌内容の問題、人間のかまいすぎ、
といった犬の問題行動を誘発するような生活面の問題がないか
カウンセリング時にチェックすることによって、必要であれば
それらの改善についてもアドバイスしている。


要求を通すために咬むのか、恐怖による攻撃なのか、所有欲に
よる咬みつきなのか、過敏性によるものなのか、一口に咬むと
いってもさまざまな原因と、要因がからみあっている。


どちらにしても、「犬には絶対に咬まれてはいけない」
咬むことで犬の興奮が増大するし、攻撃が成功することで次の
攻撃を発生させるリスクが上がってしまう。この仕事をして6年に
なるが、攻撃的な犬に咬まれたことは、1度しかない。


それは、細心の注意を払って咬まれないようにしているからだ。
不用意な動作、無神経な接近、手荒い扱い、どれも厳禁である。


よく、「咬まれた時はどう対処したらいいのですか?」と
聞かれるが、対処なんてものはない。殴る、蹴る、押さえつける、
どれも、犬の攻撃を防ぐためにする以外には、何の効果もない。


咬まれたらどうするか?ではなく、咬まれないようにする
にはどうしたらよいのか?を考え、実行することが大事だ。


「咬んでいないときの生活を変える」ことが、結果的に
「咬まない犬にする」解決法なのである。


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2010年7月28日 (水)

支配性による攻撃の例 その1

私が支配性による攻撃、と判断してトレーニングした犬の
実例をあげよう。


ミニチュアダックス(ワイヤーヘアード) 5歳 去勢したオス


とくに問題もなく飼っていたが、半年前から(4歳半)ソファーで寝て
いる飼い主のお腹に乗って寝ているとき、飼い主が起きようとしたら、
唸って咬むようになった。それ以来頻繁に咬むようになってしまった。


夜は飼い主ご夫婦と一緒に寝ているが、片方が後から部屋に入って
くると、吠えたり唸ったりして威嚇するようになった。


朝ご主人が起きて自分の出かける支度をしていると、激しく吠えついて
くるので、うるさいのと、邪魔なのとで出かけるまで大変。


散歩時にハーネスを装着しているが、帰宅後にハーネスを外そうとしたら、
唸って咬むようになった。飼い主さんの主張では、ペットホテルに預けて
から、上記のような問題行動が出現したように思うとの事。

このワンちゃんは、別の行動療法専門家にカウンセリングを受けており、
その際の診断(?)は「恐怖による攻撃行動」だった。
8週間にわたって、カウンセリングとトレーニングを行ってきたが、まったく
改善が見られず、このままでは犬を処分することもやむなし。。。と悩んだ
挙句、私に相談してきた、という経緯である。


相談してきたときは、犬のハーネスがぶら下がっている状態で、取る
こともつけなおすこともできない、ということだったので、咬まれるのを
覚悟してトレーニングに赴いた・・・と、思ったら、私の気合が空回り
するくらいの、フレンドリーな歓迎ぶりだった。


玄関で尻尾ふりふりで出迎えてくれたので、用意した首輪を装着し、
ハーネスは外そうにも縫って固定されていたので、飼い主さんの了解を
得て、ハサミで切って外した。その間、まったく機嫌が良く、攻撃する
そぶりはまったく見られなかった。


飼い主さんが言う、ペットホテルと犬の行動の変化に、私には関連が
あるとは考えにくかったし、考えても意味がないと思ったので、
その件は留保することにした。


診断のポイント

犬の態度からは、「恐怖」という様子はまったくみられなかった。
体の過敏性をみるテストにも、まったく好反応で、ハンドリングの
しかたが悪いから咬む、ということでもない。


行動療法のプログラムに、飼い主が主導権を示す、というものが
含まれていなかった。また、犬の行動に対して、制限がまったく
設けられていなかった。


若いころには攻撃的な行動は無く、ハーネスの装着でも咬んだ
ことがないことから、犬が何かの偶然で咬んでから、それが
飼い主をコントロールする手段として効果的とであると学習した
結果、些細なことでも咬むようになったと診断。


行動療法

家の中のすべての決定権をもっているのは人間である
ということを示す行動をとっていただくことをお願いし、犬の行動を
制限すること、自制心を養うトレーニングをしてもらうこと、を
アドバイス。散歩にも一緒に出かけ、犬の行動に対する飼い主
さんの取るべき行動を指示して、その日は終了。


※行動療法には、叱る、罰を与える、という方法は一切含まれて
いません。


さて、結果はというと


私たちの8週間はなんだったんでしょう?!


と飼い主さんに言われました、1週間で問題行動がまったく消失
してしまったのです。正確には、私が訪問した日から、飼い主さん
が咬まれることはなくなりました。行動に注意しなくても咬まれる
心配がなくなるまで、およそ2週間でした。


もともと支配的な性格の犬ではない、ということも、解決の早さに
関係したと思います。


2回目の訪問時には、すっかり穏やかな顔になったワンちゃんと、
リラックスしてかわいがっている飼い主さんにお会いすることが
できました。

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問題行動を起こす犬には自制心の強化を

咬む犬、吠える犬に日々向き合っている私だが、
問題行動を起こす犬に共通しているのは、

自制心が足りないということだ。


嫌だと思ったらすぐ吠える、咬む、逃げる、パニックになる


嫌な事をしなければいい、嫌なことをするから咬まれるのだ、
という意見を目にすることもあるが、とんだお笑い草だ。


犬には嫌なことを我慢する力が、ちゃんと備わっているのだ。
それも、苦痛の中で我慢するのではなく、「どうってことない!」
と平然と我慢できる力が備わっているのだ。


旭山動物園の園長、坂東さんが著書の中で、
「野生動物はしつけることができない」と書いていた。
犬は安全とわかれば、少々嫌なことでも我慢して受け入れる
ことができる。むしろ、過去には嫌がっていたことを
喜んでするようになる、というのは皆さんも経験があるだろう。
ここが、野生動物と家畜化された動物の、決定的な違いだろう。


犬が嫌がっていたら、嫌がらないレベルでやめる


これは、トレーニングの開始時には重要なことだが、
そこでやめてしまったら、「毛ブラシではブラッシングできる
けどスりッカーは使えない」「ハウスには入れるけど、留守番は
できない」と、飼い主さんの望むレベルには、いつまでたっても
近付けない。


犬にはストレスなくいろんなことを受け入れられる、高い能力が
ある。「ストレスになるから」といって自制を求めない人は、
しつけなんかしようとせず、一生犬の奴隷でいればいいと思う。

ある飼い主さんから、こんな訴えがあった


子犬のころ病気がちで、外に出さなかったことが社会化不足
になったのか、外で会う人、会う犬に攻撃的になる。
吠えて止まらないこともあるし、手を出されて咬んだこともある。


この場合、皆さんはどう対処するだろう?


吠えたらだめ!咬んだらだめ!と叱るだろうか?


このような犬は、社会化不足ももちろん原因の一つだが、
飼い主さんが家の中で、犬に「自分に主導権がある」と思わ
せる接し方をしている可能性が高い。
また、話からは「怖いと思ったら即吠える」「怖いと思ったら
すぐに咬む」といった、犬の衝動的な行動がうかがえる。


この場合、自制心を強めるトレーニングをする
ということが、問題行動を消失させるカギになる。


もちろん、自制心は、叱ったり、首にショックをかけたから
といって、強まるものではない。


・我慢することへ導くトレーニングを行う
・我慢したことに対して報酬を与える
・主導権をもっているのは飼い主である、と犬に理解させる。


この3つが、吠えに限らず、あらゆる犬の困った行動を
改善させるポイントになる。

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2010年7月24日 (土)

言葉の定義とニュアンス

犬との関係を語る時、「信頼関係」や「支配的行動」などと
いう言葉を使うが、イマドキの進んだドッグトレーナーを自称する
方々は、この「言葉の定義」にやけにこだわるようだ。


私は、犬は人間とは違った行動原理によって動く生き物
だと認識しているので、実際の犬の行動を表わす言葉として、
一般に通用するわかりやすい言葉を使うけれど、言葉の定義は
人間の行動を表わすものとは、同じではないと思う。


「支配的な犬」という言葉を使う時、犬が人間のような形で
こちらを支配しようとしている、という意味では本当は、ない。
そもそも、犬にそんな知能はない(人間の上に立つとか?
ありえないでしょう、実際の犬の行動を見ても)


適当な言葉と言えば、「要求を通そうとする意思の強い犬」
だろうか?


お客様の犬で何頭かそういった意味での「支配性の強い
犬」がいる。でも実際は、「自分に一番に注目してもらい
たがり、自分のしてほしいことを要求する、それも穏当では
ない方法を(吠える、咬む)行使し、飼い主が無視できない
レベルでそれが続く」という感じ。


・・・と説明すると、やっぱ長すぎるのだ。


「信頼関係」という言葉も、犬と人間の間のどんな状態が、
その言葉にふさわしいのか、という定義がそもそもないので、
これまた「このニュアンスだったら信頼関係かな」といった、
多少あいまいさを含みつつ使っている。


英語ではボンディング(絆)という、こっちのほうがしっくりくるが、
なじみが薄い言葉なので、使いにくい。でも使ったほうがいい
のかもしれない、広めるためにも。


人がリーダシップをとる、という言葉もよく使うが、この言葉を
「軍隊の指揮官」や「独裁者」と関連付けるようなひねくれた
人はめったにいないだろう、という前提のもとで使っている。


というか、犬の問題行動に直面している飼い主にとって、
言葉の定義などにこだわってくどくどした説明をするより、
ニュアンスの伝わる言葉で「犬とはどういう関係を築こうと
する生き物なのか」を説明してもらうことのほうが、よほど
大事ではないだろうか。

2010年7月21日 (水)

総合診療医をめざせ

NHK番組、「総合診療医 ドクターG」がすごく面白い。
ただ単に番組として面白い、というだけでなく、ドッグトレーナー
の仕事とかぶるところがあって、いつも大変楽しく見ている。


以下NHKの公式サイトの説明を抜粋↓


総合診療とは、ほとんど問診から得られる情報だけで、目前の
患者の病名を探り当てるプロフェッショナルな医療領域です。
真の病名にたどり着く道筋は、名探偵が真犯人にたどり着く
ように論理的かつ発想力に富む知的興奮に満ちたもの。

この番組は、そうした「謎解き」の面白さを再現する知的情報
クイズバラエティー。医者の目線から見た医学情報としても新鮮。


この、「問診から得られる情報だけで」というところが、ミソ。


問題行動を解決する場合も、飼い主さんの訴えから犬の
行動と心理を推測し、目の前にいる犬の振る舞いと合わせて、
原因を確定し、対策を練っていきます。


飼い主さんの訴えから状況を判断し、犬の様子をくまなく
観察しながら、問題行動を解決に導くというのは
大変エキサイティングで知的興奮に満ちている・・・


私も医師には到底及ばないかもしれないが、犬に関しては、
総合診療医のようなプロフェッショナルを目指している。


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2010年7月20日 (火)

「支配性などない」を主張する人たち

最近、「犬に支配性などない!」と主張するなんだか博士とか、
社会化のドッグトレーナーの文章をやたらとよく目にする。


基本的に犬を甘やかしたい飼い主からしてみたら、
目からうろこ!のすばらしい提言のようにうつるのだろう、
と思うと、苦々しい思いでいっぱいだ。


なんだか博士曰く

「私がおまえのボスで絶対的存在なんだから、私にしたがえ
という、人間のほうが何様?」だそうだが、


誰がそんなことを言ったのか?どこかにそんなことが書いて
あるのだろうか?私が言うとしたら、


「私がお前を養っているのだから、自分の要求を通すために
私を脅したり、攻撃することは許さない」


犬に対して、というより、一対一の生き物に対する姿勢として、
どこが間違っているのか?と言いたい。人間ですら、犬以下
の生活を強いられている人たちが沢山いるというのに、十分な
食事を与えられて、さらに飼い主を咬む、という行為は
飼い主に不備があったとしても、到底認めることは私には
できない。


この人たちは、一見犬の福祉を非常に尊重しているかの
ように見えるが、人間に対してはシニカルな冷酷さが
文章のあちこちに垣間見える。


私は犬には、安楽に生きる権利はあるが、人間の「個人」
のような権利はない、と思っている。なぜなら、犬は
一生かかっても自活することも、自立することもないから
である。


犬の行動を不自然に美化する、いまどきのトレーナーを
見ると、「この人たちは犬には溢れんばかりの愛を持って
いるが、人間に対しての愛は持っていないようだ」


という印象だけが強まるのである。


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2010年7月17日 (土)

支配性の強い犬の心を掴む

この仕事を始めて、沢山の攻撃的行動(つまり咬む犬)の
ご相談とトレーニングをしてきたが、咬む理由のほとんどは、


恐怖や防衛本能から、衝動的に発作的に咬んだ


というもので、いわゆる「犬が威張って飼い主を咬む」
という例は、全体からみると非常に少数だ。
しかも、そういう犬のさらに大半が、飼い主の犬の扱い方が
犬を増長させている(わがままにさせている)ケースで、


「わがままは通りません」


と意思表示をキッチリすることができれば、問題解決!
そんなことが多かった。


ところが、ひさびさに、自分の意思でこちらを意のままに
しようという犬に出会って、目下トレーニングの真っ最中だが、
その支配性と自制心の強さに、毎日驚くことしきりである。


支配性の強い犬をコントロールしようとするとき、
こちらの意に沿わない行動をしたことを罰する、では
絶対に犬の心をつかむことはできない。

表面上は従うふりをするかもしれないが、犬が心から
こちらに従う気持ちになるためには、「罰」ではなく、


私がその犬の生殺与奪権を握っている絶対的存在
ということを、犬に分かる方法で認識させなければならない。


それには一定の物理的な時間と、常に一貫したこちらの態度、
さらに犬の行動の一切を見逃さない、細心の注意深さと、
物理的に犬をコントロールするテクニックのすべてが要求される。


強い犬の出現は、私の能力への挑戦なので、疲れることでは
あるが、とてもやりがいのあるエキサイティングな仕事になる。
ここ数日は確実に私がポイントを稼いでいるせいか、
かなり従順な態度を示すようになってきているが、まだまだ
信頼関係は確立できていない。


頭のいい、強い犬に信頼されるようになる、これは決して
一筋縄でいかないことなので、焦らずがんばろうと思う。


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