昨年4月に起きた大阪市西淀川区の女児虐待死事件で、保護責任者遺棄致死などの罪に問われた母親の松本美奈被告(35)=保釈中=が、12日の初公判を前に毎日新聞の取材に応じた。「(娘が)死んでも何も感じなかった。感覚がまひしていた」。事件当時の自分をこう振り返る一方、「あの子は人生で楽しかった時期があったのかなあ……」と娘の無念を思い泣き崩れた。
前夫と別れた松本被告は、3人姉妹のうち次女の聖香さんを引き取り、08年秋から小林康浩被告(39)とその長男との計4人で暮らし始めた。
5カ月後の昨年4月5日夕、美容院で携帯電話が鳴った。「聖香が息をしてない」。小林被告からだった。自宅へ戻ると、台所の床に聖香さんが寝かされていた。小林被告に「確認して」と促され、肌に触れると、既に冷たくなっていた。
「驚きもなく、泣きもしなかった。理由は今も分からない。ただ、その夜は眠れなかった」。翌日夜に小林被告らが運び出すまで、聖香さんは床に寝かされていた。
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聖香さんは小林被告から度々、体罰を受けていた。「甘やかし過ぎや」。小林被告の言葉に、松本被告もそれを許してしまった。「聖香のためには怖い存在があってもいいのかなと思った。でも暴力はエスカレートした」
春休みになり、聖香さんはしつけと称して暴力を振るわれたり食事を与えられず、更に衰弱した。松本被告は死亡の2日前、児童相談所に電話した。「(小林被告から)聖香を引き離す方法を相談したかった」と言う。聖香さんを連れて出て行くあてもない。児童相談所にすがる思いだったが「担当者が不在」と言われ、電話を切った。
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逮捕・起訴された後の昨年秋。拘置所から大阪地裁へ向かうバスの窓から、遠足に行く小学生の集団が目に入った。涙が止めどなく流れた。「昨夏ごろから涙があふれるようになった。今は聖香と同じ年ごろの子どもを見ると、どうしようもない気持ちになる」
聖香さんが幼いころから、昼の仕事に加え夜も水商売で働き詰め。「聖香に寂しい思いをさせた。これからいっぱいかまってあげるはずだったのに、なぜ今、そばにいないのかと思う。自分をしっかり持っていたら。もっと強かったら……」。母になりきれなかった自分を責めている。
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■ことば
大阪市西淀川区で昨年4月、小学4年の松本聖香さん(当時9歳)が行方不明になったと、母親の松本美奈被告(35)と内縁の夫の小林康浩被告(39)から捜索願が出された。大阪府警は公開捜査に踏み切ったが、間もなく2人の関与が判明。知人の男(42)とともに死体遺棄の疑いで逮捕された。
供述から、奈良の山中で聖香さんの遺体が見つかった。聖香さんは日常的に虐待を受けており、同4月5日に自宅ベランダで衰弱死していた。松本、小林両被告は保護責任者遺棄致死の疑いで再逮捕、起訴された。知人の男は昨年9月、死体遺棄罪で執行猶予付きの有罪判決を受けた。松本被告の初公判は今月12日、小林被告の初公判は23日にそれぞれ開かれる。
毎日新聞 2010年7月7日 大阪夕刊