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天声人語

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2010年7月26日(月)付

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 名古屋場所の千秋楽を、日本相撲協会のネット中継で見た。結びの一番は、白鵬と把瑠都が四つに組んでの力比べ。実況も解説もないので、場内の興奮がびんびん伝わる。白鵬が大きな上手投げに仕留めると、パソコンの薄い画面が震えた。3場所続きの全勝優勝である▼異例ずくめの場所だった。野球賭博で琴光喜が解雇され、幕内の謹慎休場が6人。魁皇らが故障で休んだため、幕内出場の力士は外国出身者が多数となった。客の入り、懸賞とも寂しく、NHKの生中継も天皇賜杯もなかった▼身から出た毒にのたうつ大相撲を、かろうじて一人横綱の偉業が救った。これがなければ、大衆の興味は土俵を離れ、「国技」はいよいよ見限られていたはずだ。抱けなかった賜杯二つ分に値する奮闘である▼朝青龍の引退で迎えた春場所、解説の舞の海秀平さんが、白鵬の宿命を「一人寂しく勝ち続けるしかないでしょうね」と味な言葉で語っていた。確かに名古屋の白鵬は、孤高ゆえの悲壮感をまとい、すごみがあった▼好きに取らせて料理する横綱相撲ながら、細かい動きにも対応できる運動神経で、連勝は47に伸びた。まだ25歳、当分はこの人の時代だろう。越すべき名峰はあと二つ。まずは53の千代の富士、その先に69の双葉山がそびえる▼親方衆と暴力団の関係が新たに報じられるなど、角界の前途は多難を思わせる。強い白鵬が人気をつないでいるうちに、再生の足がかりをつかむほかなかろう。相撲協会は、危機を一人で背負える大横綱の存在に感謝しないといけない。

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