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民主党政権下で初めて死刑が執行された。命令した千葉景子法相は執行の現場にも立ち会ったという。あわせて「死刑に関する根本からの議論が必要だと改めて強く感じた」と述べ、法務省内に勉強会を設けるこ[記事全文]
「苦い現実」から、もう目をそらすのか。そんな懸念を感じる。民主党が参院選の敗北を総括する両院議員総会を開き、菅直人首相は自身の消費増税発言について平謝りした。[記事全文]
民主党政権下で初めて死刑が執行された。命令した千葉景子法相は執行の現場にも立ち会ったという。あわせて「死刑に関する根本からの議論が必要だと改めて強く感じた」と述べ、法務省内に勉強会を設けることや刑場を報道陣に公開することを表明した。
参院選で落選した千葉氏がなお法相の座にいることに、野党から批判が出ている。かねて死刑廃止の立場を明らかにしていただけに、今回の決断への批判や疑問も強い。臨時国会で「法相の資質」が問題になるのは必至だ。
だがここはそうした話はおき、法相の問題提起を正面から受け止めたい。
死刑をめぐる議論は、以前からその必要性が唱えられながら、なかなか深まりを見せなかった。当局は秘密主義を貫き、国民は専門家に委ねる。しょせん遠い世界の話であり、そう割り切ることで特段の支障はなかった。
ところが重大事件を対象とする裁判員制度が始まり、いま、国民はいや応なくこの問題に真剣に向き合わねばならない立場に置かれている。状況は、司法参加が実現した昨年5月の前と後とで決定的に変わったと言える。
死刑をどう考えるか。実に難しい問題である。私たちも確定的な意見を持てず、悩みの中にある。
世論調査をすれば存置派が廃止派を圧倒する。だが、間違えると取り返しがつかない究極の刑罰である。加えて、世界の潮流が廃止に向かうなか、存置し続けることは国家として様々な不利益や厳しい取り扱いを覚悟しなければならないという、グローバルな視点からの廃止論も強まっている。
もちろん国民の正義感や刑罰観から遊離したところで判断するわけにはいかない。当たり前の言い方になるが、議論を尽くすよりない。
世論の重みは重みとして、それがどのような理解と認識の上に形成されているかにも目を配る必要があろう。
治安の悪化を感じる人が多いが、凶悪犯罪は減少傾向が続く。このギャップをどう見るか。死刑の犯罪抑止効果をめぐる見解の対立をどう考えるか。被害者やその家族はどんな苦しみを抱きながら暮らしているのか。死刑囚の生活とはいかなるもので、本人や周囲は「その日」をどう迎えるのか。
実態を知り、とことん考える。千葉氏がいう勉強会も刑場の公開も、それに結びつくものでなくてはならない。そう遠くない時期に予想される法相の交代で、今回の問題提起がうやむやになったり骨抜きにされたりしないよう注視していきたい。
「罪と罰」について考えたり、議論したりするのは重苦しい。とりわけ死刑の是非はできれば敬遠したいテーマに違いない。だが、市民が刑事裁判に直接かかわる今、一人ひとりがその課題に向き合うことが求められている。
「苦い現実」から、もう目をそらすのか。そんな懸念を感じる。
民主党が参院選の敗北を総括する両院議員総会を開き、菅直人首相は自身の消費増税発言について平謝りした。
有権者から「初志を貫徹せよ」との批判を招いたとし、昨年の総選挙の政権公約について「できる限り誠実な実施を追求する」と語った。
総会に諮られた総括文書も同様だ。参院選では総選挙公約の実現に取り組む姿勢を改めて示すことが求められたのに、「約束を放棄したとの誤解すら生ずることとなった」と分析した。
出席した議員らからは「勝手にマニフェストを変えた」といった批判や、菅氏に対する辞任要求が相次いだ。
菅氏ら党執行部側が低姿勢に徹し、鳩山由紀夫前首相、小沢一郎前幹事長時代に掲げた総選挙公約に立ち戻る考えを強調したのは、党内融和を図り、9月の党代表選をなんとか無難に乗り切りたいという狙いに違いない。
選挙に負けたのだからしかたない面もある。それでも菅首相らの「総括」ぶりには賛成できない。
「政権選択」をかけた総選挙の公約が何より原点だという認識は、一般論としてはその通りだが、あの内容をそのまま実現させるのが無理なことは、もはや誰の目にも明らかではないか。
あれもこれも予算をつけます、4年間は消費増税の必要はありません――。民主党は総選挙で「甘い約束」を繰り返した。その修正を試みたのが参院選公約だ。子ども手当の満額支給断念はその象徴である。
約束を果たせないのだから批判を受けるのはしかたない。だが、批判される本当の原因は、財源の裏付けのない公約を掲げたことか、地に足のついた内容に改めようとしたことか。それは前者に違いない。
厳しい現実を見据えているのは、政治家よりむしろ有権者だろう。
選挙前の朝日新聞の世論調査では、子ども手当満額支給断念に72%が賛成した。公約をそのまま実現せよとは、有権者も求めていない。そもそも総選挙の勝因が公約だったと単純には言えない。有権者は当時から子ども手当にも高速道路無料化にも懐疑的だった。
公約をかたくなに見直さない姿勢は時に有害である。有権者に現状の厳しさを説明しながら進む方向をともに考える。大切なのは、その積み重ねだ。
せっかく提起した消費税論議をどう進めるのか。総選挙、参院選二つの公約に盛った政策をどう「仕分け」し、優先順位をつけ直すのか。
さらなる党内論議も必要だろうが、菅首相は国会審議や記者会見を通じ、国民に向けてもっと語るべきである。
苦い現実から逃げない。その揺るぎない決意を改めて示すことが、国民の支持を取り戻すことにつながる。