きょうの社説 2010年7月30日

◎新幹線推進会議 「能登は無関係」のはずがない
 「STEP21県民推進会議」の発足により、北陸新幹線の金沢開業効果を最大限に引 き出すための官民一体の取り組みがスタートした。同会議で示された「新幹線対策イコール地域の成長戦略」という視点は、私たちのこれまでの主張の核心部分でもあり、これを県民の合い言葉として、2014年に向けて全力を傾注していきたい。100年に一度のチャンスを最大限に生かすために、この4年間、持てる力を一点集中で出し切る覚悟が求められる。

 気になるのは、この期に及んで県民の中から金沢開業の経済効果を軽く見る声が、わず かながらも聞こえてくることである。特に能登方面からは時折、「新幹線開業で潤うのは金沢」と言わんばかりの発言も散見される。だが、北陸新幹線の金沢開業が能登の振興に無関係であるはずがない。北陸全体で経済のパイが増えれば、当然のごとく能登も潤うのである。後ろ向きの発想ではなく、地域振興の千載一遇のチャンスに目の色を変えて取り組む積極性がほしい。

 鉄道・運輸機構の試算では、長野―金沢間の開業によって沿線各県の消費活動が活発化 し、設備投資の活性化やビジネス効率の飛躍的な向上などが見込める。開業後10年目の同区間の経済波及効果は年間で約1600億円に達するという。100年に一度のチャンスという表現は、決して大げさではないのである。

 民主党政権には成長戦略がないと言われる。鳩山由紀夫前首相が打ち出した「コンクリ ートから人へ」のスローガン、菅直人政権の「強い経済、強い財政、強い社会保障」はともに具体性を欠き、イメージ戦略の域を出ていない。その点、北陸新幹線対策がそっくりそのまま地域の成長戦略になるという主張は、具体的で分かりやすい。

 経済団体の代表や有識者でつくるSTEP21県民推進会議と、県庁内に部局横断で設 置されたSTEP21推進本部は、谷本正憲知事の言葉通り、まさに車の両輪である。どちらの力が不足してもスムーズに前に進まないだろう。地域の英知を結集し、北陸全体が浮上していくための大胆かつ具体的な絵をふるさとに描いていきたい。

◎日中ガス田交渉 条約の締結は焦らずに
 東シナ海のガス田共同開発に関する日中両政府の条約締結交渉が、ようやく始まった。 互いに国益のかかる問題であり、交渉は長丁場になるとみられる。交渉が決裂し、対立が深まるという事態は避けなければならないが、日本として決して焦る必要はなかろう。

 東シナ海は日中の排他的経済水域(EEZ)の境界線がまだ画定していない。そのこと が海底資源開発問題の根底にあるのだが、日中両政府は2006年6月、日本が境界線として提案する日中中間線付近のガス田開発について、とりあえず合意した。中国が単独開発してきたガス田「白樺」に日本企業も出資する▽ガス田「翌檜(あすなろ)」南側海域で共同開発を行う、というのが主な内容である。

 この合意内容に対して、中国国内の世論が「日本への譲歩が過ぎる」と強く反発したた め、中国政府は慎重な姿勢に転じ、合意内容を具体化する条約締結交渉を先送りしてきた経緯がある。1回目の交渉では早期妥結方針で一致したが、国内世論を気にする中国政府は、日本に譲歩を強く迫ってくるとみられる。

 中国側とすれば、特に単独で開発を進め、すでに掘削施設ができ上がっている「白樺」 の出資割合の交渉を早めたいことであろう。「白樺」は中国の主権下にあるという立場を崩しておらず、中国側に有利な条件を提示し、実現を迫ってくると予想される。しかし、日本としては対立の激化を恐れて安易に譲歩するようなことがあってはなるまい。交渉の長期化で困るのは中国側であるというくらいの認識で臨めばよい。「白樺」の生産の遅れで実害を被るのは中国であり、日本側から譲歩しなければならない理由はない。

 ガス田開発に関する06年の日中合意書は、東シナ海を「平和・協力・友好の海」とす るため、「互恵の原則」に従って共同開発を行うことをうたっている。主権が鋭く対立する中での「互恵」の実現は言うほど簡単ではなく、交渉に当たる外務省担当者らはタフネゴシエーター(手ごわい交渉人)であってほしい。