きょうのコラム「時鐘」 2010年7月30日

 連載「丈夫がいいね」に「着衣泳」が紹介されていた。服を着たまま泳ぐ。不慮の事故での心得だが、大事なのは泳ぐことより長時間浮いていること、とあった

自力で泳ぐよりも、浮いて助けを待つ。なるほどと思うが、案外難しい。あおむけになって体の力を抜く。力を抜けと意識すると、逆に力んで体が沈む。子どものころは上手に浮けたのだが、もう自信はない。雑念が体にまとわりついている

連載小説の挿絵を担当したある画家に聞いた話だが、小説家の筆が遅れ、原稿が届かないまま絵の締め切りになった。一計を案じ、畳にあおむけになった主人公を描き、「じたばたするな」と書き添えた。困ったときは、そうして力を抜くものだ、という意味を絵に託したという

政治や経済、社会のいろんな分野でも明るいニュースを待つのだが、なかなか届かない。ここは一番、じたばたしないで待つ覚悟が大事なのかもしれない。着衣泳によると、急に服を脱ぐと、体温が奪われる。焦って服のまま泳ぐと、すぐにへばる。助けを急ぐと共倒れになる

深読みだろうが、着衣泳の教えることは示唆に富む。