28日午前4時45分、高所作業車のクレーンに乗った県環境科学研究所の吉田洋研究員が、約10メートルあるヒマラヤスギにゆっくりと近づく。長さ2メートルほどの筒に勢いよく息を吹き、睡眠剤が塗られた矢を2回、クマに撃ち込んだ。 10分ほど経過すると、体長約1メートル、体重50キロほどのクマは力なく枝にもたれ、吉田研究員に抱きかかえられて、ついに“御用”となった。最初の目撃情報が寄せられてから13時間余り。警戒などで延べ100人近くがかかわった騒動が幕を下ろした。 クマの目撃情報が入ったのは27日午後4時ごろ。現場は夏休み中の親子連れらでにぎわうリゾート施設だった。クマは木の上に陣取り、下では富士吉田署員と猟友会員が慌ただしくネットを敷いて捕獲に備える。市民に注意を呼び掛ける市防災無線も流れ、緊迫感が漂った。 騒動に気付いたドライバーらが現場に集まった。帰宅時間帯で県道や国道139号はますます混雑し、署員が交通整理に追われた。クマは午後11時を過ぎても下りてくることはなく、捕獲作戦はいったん中断。逃げられないように木の周囲を板で囲んで封鎖した。署員らが監視を続け、28日午前4時半から捕獲を再開した。 このクマは今月15日、富士河口湖町内で捕獲されている。首には山に放つ際に着けた、重さ約800グラムのGPS入りのタグがぶら下がっていた。爆竹の音を聞かせたり、エアガンで撃ったりしてから山に返す「学習放獣」の成果を検証するためだった。 「また人里に下りたのは『学習』の内容が甘かったのか、ほかに理由があるのか。分析する必要がある」と吉田研究員。10分ごとの移動データが記録されるため、10月ごろにはGPSを回収し、行動範囲などを調べるという。 クマは28日午前10時、エアガンや「熊よけスプレー」、爆竹などで2回目のきつい「お仕置き」を受け、富士山3合目に放たれた。「もう来るんじゃないよ」。走り去るクマに猟友会の男性が投げた言葉は、騒動にかかわったすべての人の気持ちを代弁していた。 ▼動画(クリックで再生) ※PCのみ
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