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[15173] それゆけ漆黒の翼  【チラ裏より】(オリ×ネギま &テイルズ要素)  
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:e7b962fa
Date: 2010/02/23 17:46
チラシの裏からこんにちは。初投稿です。

タイトルがイタイとの指摘を受けました。私もそう思います。でもしょうがないんです(泣 ちょっと変えてみます。


知らない人のための注釈 : 『漆黒の翼』とは、歴代の「テイルズシリーズ」に登場する3人組のイカシた連中のチーム名です。


随時改変を加えていきます。どんどん改訂します。

板移動に伴い、構成を若干変更いたしました。

原作の設定を変えることもあるかもです。


矛盾してんじゃねえのって思ったら、「ガイ様、華麗にスルー」でお願いします。


どうにもギャグとシリアスの描きわけが苦手です。私はギャグが書きたいんですが・・・。


それでもいいというのなら。




「それゆけ漆黒の翼」、始まるよーーーーーーー。




[15173] 漆黒の翼 #1
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:e7b962fa
Date: 2010/01/21 01:43



月明かりがふんわり落ちてきそうな夜、薄暗く木々の生い茂る森の中に聳える大木が1本。
その木の上にアナタと2人きり、とかそういう訳ではなく、ただ1人、太めの枝に寝っ転がり月光でその身を照らされた少年の姿がそこにあった。


紹介しよう、この少年が『この物語』における主人公・・・・『俺』だ。


ソノ『俺』が、こんな夜中のこんな森で、一体何をしているのか。





「・・・・・・・・ぐぅ」



・・・・本当に寝ていた。




「あ、おったおった」


「まったく、こんな所で寝たら風邪ひきますよ?」



いつの間にか現れた2人の少女。その少女達に体を揺すられ少年は・・・・もうナレーション面倒だからモノローグでいいや、俺は「ふぁああ・・」と欠伸をかきながら目を覚ました。


ボケっとしてたらいつの間にか眠ってしまったようだ、不覚。

ショボつく眼を擦りながら、ふと天を仰いでみる。



――――幻想種に力を与えるとされる月が淡く輝いていた、・・・今夜は満月だったか。






―――時が経つのは早いもんだな―――




そんな似合わぬ感慨がふと過る。『アレ』からもう何度季節が廻ったか、そりゃ感慨も起きるってもんか。


月光を双瞳に受けながら、俺は『アノ時』のことを思い返していた――――ハイ、回想スタート―――――――













――――――『オレ』は見覚えのない風景の中で、光の球体となって浮いていた、なんじゃこりゃ。とりあえず現状を確認しないことには話は進みそうにない。



――――それ以前に・・・・・・・・・『オレ』は、誰だ?


極めて根本的な問題に気がついた。『オレ』には『オレ』の記憶が無かったのだ。

全く記憶が無いわけじゃない。一般常識は問題なく覚えてる。そうじゃなきゃこうして思考を巡らせられるわけがない。
あと、今までに読んだことのある本の内容や、やったことのあるゲームの技名とか、そんな役に立つかも怪しい記憶も浮かんできた。
無いのは『オレ』自身に関すること。名前・性別・年齢・職業・対人関係等々、『オレ』のパーソナルな情報が一片たりとも思い出せないのだ。
『オレ』って言ってるから、たぶん男だと思うけど。

事故にでも遭って頭を打ったのだろうか。それとも何か巨大な陰謀に巻き込まれて・・・。




「よく来たな、選ばれし者よ―――――私は創生者、世界を形創るものだ」


いつのまにか眼の前に仙人みたいのが居た。それっぽい髭を蓄えそれっぽい布を着てそれっぽい杖を持っている。

なんだよ選ばれし者って、何を仰ってるんだこの爺様は。なんだ創生者って、厨二か、そのナリで厨二のつもりか。


「厨二っていうな。この姿はお主にわかりやすい形をしているだけだ。 別に見た目なんてどうだって良いだろう」


良かないよ。野郎と、しかもジジイとタイマンでディスカッションして何が面白いってんだ。どうせなら眼の保養になりそうな姿にしろよ。


「注文が多い奴だ、これでいいか?」


まだ一回しか注文してねえだろ、と思ったが、自称創生者の姿が似非仙人から海賊女帝の蛇神っぽくトランスフォームしたので、「仕方なく」文句は飲み込むことにした。

で、結局なんなんだ。


「今言っただろう、お主は選ばれたのだと」


だから何に?要点だけじゃわかんないっての。


「お主には別世界に転生してもらう、お主は死んだのだ」


・・・はぁ?どゆことよ?





聞けば、『オレ』は死んでしまったらしい。

ハンコッ・・・創生者が転生とか言ってたので、2tトラックに撥ねられたのかと思ったら、どうやら違うらしい。突発的な心臓発作、享年19歳だそうな。
その成人目前で死んじまった哀れな『オレ』が、何の因果か転生者に選ばれたらしい。して、その理由というのも―――――――




「クジ引きで当たったのが偶々お主だっただけだ」


――――これだよ。


「【祝・五千無量大数番世界創生記念祭】のお楽しみクジに、「発作クジ」というものがあってな?悪行の限りを尽くす無法者に罰を与えるためのものなんだが、・・・バイトが、な・・・・お主のクジを入れ違えて、・・・・・・な?」


いや、「な?」じゃなくてだな・・・



「お楽しみクジのうちの1つに「転生クジ」というのもあってだな、本来なら、有効期間内に死亡した者から無作為に選ばれるのだが、私が便宜を計らいお主を当選者にしたのだ。つまりはそういうことだ」


・・・・・・・・ツッコミキレネェ。


「世界の数多いな」とか、「発作クジってなんだ」とか、「バイトでも仕事するからにはプロなんだからもっとプロ意識を持て」とか、「それ以前にバイトに生死を左右させる仕事を任せるな」とか、「便宜というより尻拭いだろ」とか、逐一指摘していきたいがメンドくなってきたんで話を進めようと思う。

その事と『オレ』についての記憶が無い事との関係は?


「生前の対人関係に関する記憶が残ったままだと、来世でホームシックを起こすかもしれないと思ってな、まっさらな状態で第二の人生を歩んでもらおうかと」


比喩抜きで「第二の人生」だな。そのくせ一般知識は持ったままなのか。


「それくらいのアドバンテージはあっても良いだろう、サービスだ。とにかくだ、お主にはもう帰る体が無い、火葬も済んでいるようだからな。転生の儀式も滞りなく終えている。本当にすまないと思っているが、お主には新たな身体で新たな人生を歩んでもらうしかないのだ」




―――はぁ・・・・・

まぁ、しょうがねえか。なっちまったモンはどうしようもない。開き直って、第二の人生を謳歌してやろうじゃねえか。


「・・・そうか、すまぬ。こちらの不手際でお主をこんな目に・・・」


もうイイさ。新しい人生を用意されてただけでもラッキーだと思わないと。楽しんでやるさ、アドバンテージを活かして、な。



創生者の姿がすこしずつ光に溶けていく。


「―――――――――ではさらばだ選ばれし者よ――また逢う時まで――願わくば――――主に幸多からんことを――――――」


ちょっと待った。


「―――なんだ、せっかくいい感じでフェードアウトするところだったのに」


ストップをかけられて、不満げに頬を膨らませる見た目女帝の創生者。


「なんなのだ。ただでさえテンプレが長いと苦情が来てるんだ、これ以上反感を買いたくないんだよ」

そういうことは思ってても言うなよ。
あのさ、転生するのは了承したけどさ、そんだけ?こう、理不尽に人生終わらせてくれちゃったお詫び的なものは無いのかなと。


「詫び、か? それなら第二の人生を・・・」


それは当然のことだろ?そっちのアホみたいな祭のアホみたいなバイトにアホみたいな理由で殺されたんだ。事後処理は当然そっちの負担だろ?詫びにはならねえよ。



・・・そうだなぁ、何か特殊な技能をオプションに付けるってのはどうだ?

どうせアドバンテージ持つなら、すごい技が使えるとか、ビックリするようなモンスターを召喚できるとか、そう云うのがあると心強いだろ?
新しい世界が平和かどうかもわからないし、自己防衛のためにもあって損はないはずだ。


「うむ、新世界にも争いは絶えん。それも事実だ。だが【力】を持つという事は、それだけの責任が伴うということだぞ?」


・・・アンタが言うと、説得力があるんだか無いんだか。





―――わかってるさ、大いなる力には大いなる責任が伴うってことくらい。どっかの映画の中のオッサンも言ってしな。

【力】の前には、大衆はなんて蟻も同然だ。
指先一つで多くの命が消えてしまう。今の『オレ』みたいにな。

もしかしたら、【力】を得た『オレ』は、その【力】で誰かを殺めてしまうかもしれない。

もちろん殺しなんてしたくないし、そんな【力】なら持たない方が得策かもしれない。


けど、こうして死んでみてハッキリ感じた。


理不尽なことなんて、いつ襲ってくるかもわからないんだ。


世の中、こんなはずじゃなかったことだらけだ。


こんなはずじゃないことに立ち向かうだけの強さが欲しい。


抗う強さが欲しい、理不尽に抗うだけの【力】が。


そして、その理不尽に襲われる奴らも助けてやりたい。


大事なモノを理不尽に奪われてしまわないように―――――




―――なんてな。ちょっと厨二臭かったかしら?まあ覚悟なんて後から付いてくるさ。心配いらん。


「―――いいだろう。お主に【力】を授ける。して、どのような【力】が望みだ?」


そうだなぁ、いざ決めるとなると悩む、どうしたものか。・・・一旦休んで考えるか、TVゲームでもしながら。


「そんなものあるわけないだろう、いいからサッサと決めんか」


ジョークだよ、輪廻転生ジョーク・・・ん?ゲーム?・・・・・そうだ!


「決まったのか?」


なあ、『ゲームの技を使えるようになる』ってのは可能か?できるならアレ、「テイルズ」シリーズの技が使えるようになりたい!わかるか、「テイルズ」シリーズって?



「できなくはないな、先程お主の記憶を覗いたときに見たぞ、あれでいいのか?」


モチのロンだ、剣と魔法のファンタジーは男の憧れだ。秘奥義とかスーパーカッコいいじゃん。


「だが、いきなり秘奥義は使えんぞ。鍛練を重ねすこしずつ習得するものだ。最初から使える技などないぞ、使えても【魔神剣】とか【ピコハン】くらいだ。」


さっき見ただけなのに結構くわしいのな。それで構わない、むしろ望むところだ。


「鍛練さえ積めば、どのタイトルの技でも使えるようにしておこう。無論、簡単には習得できんからな、覚悟しておくことだ」


わかってるって、それだけでも十分チートだよ。


「では、今度こそ――――――」


なぁ。


「今度はなんだ?」


・・・もう『オレ』のときみたいなミスすんなよ?


「――――――無論だ」











がちゃっ

はじめ、御飯よ、ってなにやってんのあんた?」


「母上、今いいトコだからあとにしてくれ」


お母さんでてきちゃった!!!?

あぁ、ツッコミたいのに意識が、とお――の――――









――――――強い倦怠感と共に、『オレ』はまどろみから覚醒した。

体がひどく重く感じる。云う事を聴かない四肢は早々に放置を決めこみ、瞼を開くことに全力を注いだ結果、
かろうじて視界に入ってきたのは、『オレ』の記憶にはない光景、所謂「知らない天井」という奴だった。


・・・さて、こうしちゃいられない、鍛練しなければ。がんばって秘奥義炸裂させちゃるぞ!!

『オレ』は輝かしい未来に向かうべく、意気揚々と身体を起こすのだった――――



――――――起こすの、っだ、っぬ・・・


――――――このっ、起きるっつってんだろ、動けよっ・・・



・・・・・・だめだ、起き上がれん。どう頑張っても手足をバタバタさせるのがやっとだ。麻痺してんのか、『オレ』のから、だ――――

そう思い、今まで必死にバタつかせていた右手に眼をやると―――




―――かわいらしい、まん丸お手手が鎮座しておりましたとさ。


・・・・そうだよね、転生っつてたもんね。赤ちゃんスタートでも別段おかしなことじゃないよね。


仕方がない、鍛練はあきらめて情報収集だ。この世界がどんな所なのか、そこをうまく理解しなくては。

今まで住んでたような普通の世界なのか、それとも摩訶不思議なアドベンチャーがそこかしこを横行するファンタジック世界なのか。

前者なら技の鍛練は人目を忍んで行わなければならないな。
後者なら鍛練は積極的にやらねば、なんせハチャメチャはすぐそこまで押し寄せてきているのだから。

とりあえず、かろうじて稼働可能な目線を動かし、周囲を見渡してみる。

ここはベビーベッドの上のようだ、周りを柵で囲われている。乳児の立場からみると、自身を閉じ込める檻のようだ。
視界にはいる白色の比率が高いので、おそらく医療施設なのだろう。

更に目線を上に持っていくと、紙が貼ってあるのが見えた。文字が書かれている。これが『オレ』の名前だろうか。

いい加減この『オレ』という表記も疲れてきたのでありがたい。新たに与えられた己の名を知るべく、眼を凝らして文字を読み取る。


『命 名   一 海 里』


・・・・・・イチカイリ?なんだそれは、両親は漁業関係者か何かか?

もう一度、眼を凝らす。今度は名前に集中して・・・・。
よく見れば、ちゃんとルビがふってあるではないか。どれどれみふぁそ、と・・・。



にのまえ 海里みさと


・・・「ニノマエ ミサト」、か。
これが『俺』の名前か、・・・大事にしよう。








「―――、――――――」


ようやく俺の名前も判明した所で、何やら声が聞こえる。

声の主はどうやら看護士らしい。
目線を向けると、扉がある。構造からみて引き戸だろうか。やや隙間のあいたその扉の向こうから聞こえている。

――――そっと、耳を傾けてみた。





「―――聞いた?この部屋の子のこと・・・」

「聞いた聞いた、・・・あれホントなの?」


ふむ、看護士二人の会話だったか。

この部屋の子・・・つまり、俺のことか?
なんだろう、もしかして変な病気にかかっていたのか?
まさか厨二病とかいうオチじゃないだろうな?



「母体は子供を産んだ後、間もなく息を引き取ったし・・・」

「不憫ね・・・」



おぉう、母上殿、まだ逢ってないのに・・・・・。くそぅ、早速理不尽だ。



「これからアノ子、大変ね・・・」

「・・・そうね」



こりゃあ、孤児院入りか?いやいや、俺は負けんぞ。逆境がなんだ!




「ただでさえ社会から受け入れ難い存在なのに・・・」

「守ってくれる大人が居るといいんだけど・・・」



・・・ん?何やら様子がおかしい・・・。

俺が受け入れ難いってどういうことだよ?
素行に問題アリってか?まだ何もしてないのに?





「・・・大丈夫かしら、心配だわ」

「私たちがどうやっても、偏見はどうにもならないわ」



いや、なんだよ偏見て・・・。






「可哀そうに・・・、アノ子が・・・・」



――――――アノ子が、何だよ――――――?









「―――――――半妖だったばっかりに―――」


・・・・・・・・え?














――――――手にしたものは、憧れた幻想ファンタジーの力――――――


――――――出会ったものは、逃れられない現実リアルの宿命――――――



――――――『襲い来る理不尽ちからに抗うRPG』――――――



――――――少年の『物語テイルズ』が、今、幕を開ける――――――










[15173] 漆黒の翼 #2
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:e7b962fa
Date: 2010/02/01 00:14
―――――人生の転機、いや、人生の改変と言うべきか、あの衝撃から早数年。



俺は、ある森の中にある一際大きな木の上に作られた、小屋のような見晴らし台のような、そんなモノの中でボ~っと空を眺めていた。

ここは俺『達』の秘密基地、ツリーハウスと言うには少々不格好だが、雨風は凌げるし床板も張ってある、子供の作品にしてはなかなかの出来栄えだと思う。


その秘密基地で何をしてるかっていうと、待ち合わせだ。もうすぐ友達がやってくる時間なのさ。


さっき俺『達』って言ったけど、この基地に入れるのは俺を含め3人、大人たちには内緒の秘密チームを創ったのだ。その構成員たちを日向ぼっこしながら待っているという訳だ。



言い忘れたけど、俺はアレからいろいろあって、今は京都に居る。『関西呪術協会』っていう組織に御厄介になっているんだ。

この世界は、俺のよく知る現実とファンタジックな非日常が壁一枚はさんで存在しているみたいなんだよ。世界の表と裏って言った方が分かりやすいか?

表には一般の大衆、裏には人知れず戦う異能者「魔法使い」なるものがいるそうな。
ココ京都には、関西の魔法使いの総本山『関西呪術協会』があり、関東にも大きな魔法協会があるんだと。この2つの組織はちょっとばかり仲が悪いんだってさ。



そして俺は半妖――――烏族っていう妖怪と人間のハーフらしいんだ。
眼も紅いし、普段は隠しているが、背中には真っ黒いカラスのような羽がはえている。ちなみに頭髪も黒、そんでもって三白眼で目つきがちょい悪です。


この生まれのおかげで、いろいろと面白くないこともあったけど、今はハッピーライフを満喫している。

ココに来たばかりのときは、『あんな』生活送ってたもんだから、俺は他の子供程の活発さは無く表情も硬い奴だった。
しかし、今じゃすっかり言動も明るく、というよりかなりハッチャケた感じになっている。元々性格が暗いわけじゃなかったんだけど、反動でね。





―――――そうこうしているうちに、下の方から2人の少女の声が聞こえてきた。ようやく来たか、アイツら。



ちなみにこの基地、結構高い所に建てられているが、エレベーターはおろか梯子もツタも無い。子供が素手でよじ登るにはハードかつデンジャラスだ。


残り2人のメンバーがどうやってココまで辿り着くのかと言えば――――――






 バサァっ





――――――1人がもう1人を横抱きに抱え、その純白の『ツバサ』を用いて飛翔してくるのだ。俺もこの方法でココまで来ている。






「おはようさんや、そーとー」

「おまたせしました、そーとー」

「おはよっす、コノカ、セツナ」



紹介しよう、我が組織の幹部『近衛木乃香』と主任『桜咲刹那』だ、ちなみに俺と同い年。

抱っこされてるのがコノカ、俺と同じく烏族と人間のハーフであり白い羽根を持っているのがセツナだ。

この2人とは、俺が西に世話になることになった当初からの付き合いで、いつも一緒に居る仲良し3人組だ。


2人の性格は、一言で言うと「ぽやぽや」と「わたわた」である。やや天然の入ったコノカと若干テンパリストのセツナ、そしてまとめ役に俺。


今コイツらが俺のことを「そーとー」と呼んだが、これは俺の組織における役職『総統』のことである。
まあ階級なんて有って無いようなモンだけどね、今じゃ半ばあだ名と化している。





さてと、全員揃ったことだし、恒例のアレ、いっちょ気合い入れてやりますか―――――――!





「主任・桜咲刹那!」

「はいっそーとー!」

「俺達の目的は何だ!?」

「このちゃんをキケンからまもることです!」

「上出来だ!次、幹部・近衛木乃香!」

「はーいっ!」

「目的その2は何だ!?」

「トモダチとたすけあうことや!」

「文句無し!その3は!?」

「「えがおで、たのしくあそぶこと!!」」



「えがおはゲンキ!!」

「ツバサはユウキ!!」

「そう、俺達の名は!!」





「「「秘密結社【漆黒の翼】!!!」」」











―――――そう、俺はこの世界に、テイルズファンにはお馴染みの3人組、小粋でイカしたあのチーム、【漆黒の翼】を結成したのだ。

黒翼は俺だけなんだが、2人は文句ないとのこと。ユウキとキズナの証が名前に込められているからなんだけど、この辺は追々話すことにするよ。



ところでさっきから言ってる「コノカを護る」発言についてだけど、実はコノカは関西呪術協会の長『近衛詠春』さんの1人娘なんだよ。

ソレに加えて、コノカ本人も極東一の魔力保有量を誇っているらしく、ネームバリュー+実質的価値から、いろいろ面倒なポジションなのである。

だから俺達はコノカ守護のため【漆黒の翼】を結成したのだ。以上、説明終わりっ。


ちなみに詠春さんは俺とセツナの保護責任者でもある。お世話になってます。




それはそれとして、【漆黒の翼】は毎日絶好調、いつも3人一緒に遊んでいる。設立目的が「コノカを守護すること」なので、一応活動していると言っていいんだろうけど。



まぁ、遊んでばかりいる訳じゃあゴザイマセン。ちゃんと鍛練はやってますよ?

技の訓練を始めてもう何年たったか忘れたが、今は剣・斧・魔法・体術なんかの鍛練を中心に行っている。無手でも闘えてこそ意味があるってもんだ。
おかげで特技や奥義もだいぶ習得できた。【獅子戦吼】とかスゴイよ、ホントに獅子の形した氣が出るとは思わなかったよ。



セツナもまた、戦闘訓練を行っている。
セツナが受けているのは剣術の訓練。聴いたところによると、【京都神鳴流】とか云う退魔の剣だそうな。
『主任』を任されているセツナは、鍛練への取り組み具合も半端じゃない。その名に恥じぬようメキメキと腕を上げているという。・・・・追い越されんようにせねば。

鍛練に集中、といってもコノカをほっぽってるワケではない、鍛練以外はほぼ一緒にいる。仲いいねえ。



あ、そういえば俺の技の流派のこと訊かれたらどうしよう?
基本的に魔力や氣を用いて闘うのは同じだが、やはりこの世界には存在しない術形体であることには違いない。・・・我流で通すか?

たしかゲームだと、【アルベイン流】とか【アルバート流】とか【シグムント流】とかあったよな。術にしたって、【晶術】や【晶霊術】、【譜術】に【魔術】と、もうたくさんだ。

・・・この際、統合した新しい流派名でも考えるか。


―――テイルズ・・・、ファンタジー・・・、剣と魔法・・・、翼・・・、冒険・・・、ガルド・・・、レンズ・・・、グミ・・・―――


・・・・・よし、【幻魔天翔流】という事にしよう。「天翔」ってやたら使われてる気がするし。文句は受け付けない、厨二っていわれても無視だ無視。





そして癒し系コノカ、どんなふうにボクを癒してくれる? 震えるぞこの胸の【獅子戦吼らいおんはーと】!!

まぁ冗談はさておいて。

元々コノカは“裏”のことは全く知らされずに生きてきたんだけど、ある事件をキッカケに“裏”の存在を知ったんだ。
それには俺がかなり深くかかわってるけど、また今度話そう。

そのコノカだが、どうも俺らの鍛練を見て魔法に興味を持ち始めたようなのだ。

詠春さんはコノカが危険な“裏”の世界に踏み込むことを良しとしていなかった、だから魔法も呪術も教えずにいたのだ。
だがコノカは“裏”を知り、毎回鍛練でボロボロになって帰ってくる俺とセツナに何かしてやりたいと感じるようになっていった。


一念発起したコノカは俺達を引き連れ詠春さんに直訴。
俺もコノカの立場上の危険性を唱え、何か覚えさせるべきだと援護。
詠春さんはだがしかしと反論。そしてセツナは議論についていけずに傍聴。


6時間に及ぶ朝まで生討論の末、治癒術なら覚えさせてもいいと渋々、本当に渋々承諾。詠春さんは砦を崩され憔悴、寝不足でグッタリ、悪い顔色がさらに悪くなっていた。

コノカたちは大喜び、俺も眠気を堪えた甲斐があったってもんだ。それにしてもすごいハシャギっぷりだな。元気いっぱいで顔のツヤもいいし、クマもない。

・・・・・オマエら途中から寝てたんじゃないだろうな?


そんなこんなでコノカは目下、治癒術の練習中。いろいろ訊きながら苦労してるようだけど、適性は高いのか徐々にコツを掴んできている。






――――――そうして鍛錬を続けるうちに、1つの考えが浮かんできた。



ある日のこと、例によって俺らは森に作った秘密基地の中にいた。

木漏れ日の中、自らの白い翼で親友を包みこんでウトウトするセツナ、その翼にモフモフ顔をうずめながら昼寝をかましているコノカ。

そんなとても目に優しい光景を視界の端に捉えながら、俺は1人思案していた。







――――――俺の戦闘スタイルは戦場じゃ活かしきれないんじゃなかろうか。



というのも、俺は剣技・斧技・体術・魔法など、技のバリエーションが幅広い。まだ広く浅いことは確かだが、それでも他の奴よりは引き出しは多いと自負しているつもりだ。

だが、それを戦いの場でいかんなく発揮できるかと云われれば、それはノーだ。

使わない武器を持ち歩いてもかさ張るだけなんだ。剣を持ちながら斧を携えるなんて邪魔くさいにも程がある。オールドラントにゃホドがある。いや、今は無いか。


斧で【魔神剣】もできないことはない、現にリッドはやっていた。だが、実際問題やってみるとなると、やはり剣でやった方がやりやすいんだよ。
そうでなくても、これからも引き出しを増やしていくつもりなのに、使える武器を全部持っていって、重くて動けませんでしたじゃ話になんないよ。


・・・・・どうしたものか、どう思うよ小鳥さんや。

問いかけてもチュンチュンとしか応えない。「チュンチュン」・・・、雑魚キャラの分際で生意気なっ。



よし、ここは戦いのプロ・詠春さんに相談してみよう。

聴けば詠春さん、昔【紅き翼】っていうパーティの一員だったんだって。つまりそれは我ら【漆黒の翼】の先輩という事に等しい。きっと何かヒントをくれるはずだ。
そうと決まればレッツ・ディスカッション!








「―――ふむ、それなら良い方法がありますよ」

おお!すごいよ詠春さん!!アンタやっぱタダものじゃなかったんだね!!―――――して、その方法とは?


「【仮契約パクティオー】というものを知っているかい?」


ぱ、ぱく、・・・なんだって?


仮契約パクティオー】というのは、西洋魔術の一つで主と従者を結ぶ絆のようなものなのだという。
一人が主、もう一人が従者となり、主は従者に魔力を分け与えたり、ある程度なら離れていても従者を召喚できたり。そして従者には自分に最も適した専用の武器が与えられるのだ。

要するに俺が誰かの従者になれば、この悩みを一発で解決できるスーパーアイテムが手に入ると、つまりはそういうことなのだ。


聴いた限りメリットばかりに感じる、何か代償とかは無いんですか?


「契約といっても、お試し期間のようなものですから」

だ、そうだ。しからば早速ソノ契約とやらを、・・・でも誰を主にするか?



「それなんですが、木乃香と契約してはもらえないかな?」

コノカを主に?


詠春さんはコノカが“裏”に関わるようになってからいろいろ考えていたらしい。その結論の一つとして、俺とセツナに護衛を任せたい、というものがあったんだと。
この際だから、セツナとも契約を結んでコノカの安全をより強固なものにしたい、というのが詠春さんの弁。

契約魔方陣は詠春さんが用意してくれるって。西の総本山で西洋魔術使ってもいいのかなと思ったが、その辺はスルーだ。


【漆黒の翼】の活動方針とも合致する、俺たちにとってはイイこと尽くめではないか。コノカの魔力は極東一イィらしいので、魔力供給も申し分ないだろう。


早速このことを構成員2人に伝える。返す刀で賛同を得た。2人を引き連れ再び詠春さんの所へ。



――――――で、どうやるんですか?


「簡単な方法として、仮契約魔方陣の上でキスをするというのが一般的なやり方だね」


キス?・・・キスって、「接吻」とか「口づけ」とかに言いかえられるアレ?娘に勧めていいものなのかい、父親として?


「安全には代えられないからね、それに無理強いはしないよ、木乃香の意思を尊重しますから」


コノカどうよ?


「んー、ええよ?」

いいんかい。セツナは?


「こ、このちょんと、き、きす・・・・」

見事にテンパってる、誰だよこのちょんて。まあ嫌ではなさそうだな。・・・友情が危険な方向に向かないか心配だよ、ホント。

俺は、・・・まあ、断る理由は無い、か。俺みたいな馬の骨に唇を許していいのかコノカよ、馬じゃなくて烏だけど。






―――契約は滞りなく終わった、特に問題は無かったな。
あるとすれば、コノカが俺と契約する時よりもセツナと契約した時の方が顔が赤かったことくらいか、・・・・・・凹んでもいい?


【仮契約カード】なるものが出現、マスターカード2枚をコノカに、コピーカードを俺とセツナに1枚ずつ渡される。

セツナのカードには、白い翼を広げたセツナが詠春さんからもらった野太刀「夕凪」と匕首を携えた図が描かれている。



一方、俺のカードはというと・・・・・称号は【理不尽に抗う理不尽】、なんだそりゃ。


セツナと同じく翼を広げている、もちろん黒だ。服装は黒の長ズボンに、腹にサラシ・・・、ここまではいい、問題は武装だ。


右手で斧を肩に担ぎ、左手は槍を地面に突き立て、さらに腰に剣らしきものを携え、歯で短刀をくわえ、矢の入った黒筒を背にかけ、右腿にホルスター・・・・。



・・・・俺の話聞いてた?

なんだよこの無駄な重装備、これじゃまともに動けないじゃないか、何のために仮契約したと思ってんの、馬鹿なの?

描かれているのはこれだけじゃない、地面にもたくさんの武器が刺さっている。無限の剣製みたいに。
地に刺さってるのは、メイス、それにエクスカリバー?あとトライデントに、おお、ディムロス、シャルティエも・・・あ、腰のこれローレライの鍵じゃね?・・・等々。



・・・とにかく一回出してみよう。えっと呪文は確か―――――


「―――来たれアデアット―――」


カードが光を放ち、得物が俺の手に収まる。・・・・・・・木刀?

なんだ木刀って、舐めてんのか。


一回カードに戻す、んで、もっかい―――来たれアデアット―――



今度は柄が長い、うん、振りやすそうだ、手になじむ。それに先端の緑色がイイ感じ――――――デッキブラシじゃねえか!



・・・・・・・・こうなったら――――――――








「【来たれアデアット】!!【去れアベアット】!!【来たれアデアット】!!【去れアベアット】!!【来たれアデアット】!!【去れアベアット】!!【来たれアデアット】!!【去れアベアット】!!【来たれアデアット】!!【去れアベアット】!!【来たれアデアット】ォ!!!」



順に、セプター・コンポジットボウ・おにぼうちょう・ニードルグローブ・トライデント・バルディッシュが出てきた。・・・眼がチカチカする。


どうやらコレは、俺が望んだ武器が出てくるアーティファクトみたいだ。試しにローレライの鍵を思い浮かべながらやったら、ちゃんと出てきた。

ただし、ゲーム内の性能と寸分違わないかと訊かれれば、違うと答える。
例えば俺の剣技が200だとする。ここでロングソードを使うと、発揮できるのは大体160~180ってトコか。そしてデュランダルを使うと、発揮できるのは頑張っても200強ってところだ。
・・・自分でもこの説明じゃサッパリわかんない。要するに何が言いたいかっていうと、俺の腕次第ってことなんだよ。

フランジュベルとかアイスコフィンとかは、ちゃんと属性持ってる。ソーディアンも出してみたけど、しゃべんなかった。あくまでただの武器なのだ。

呪文連呼しすぎた、のどがイガイガするよ。一回一回カードに戻さなきゃいかんのか?

試してみよう。デッキブラシの状態で刀を思い浮かべる。
パッと光ったと思ったらおにぼうちょうになった。叫び損か。

だがこれは便利だ、俺にピッタリかもしれない。これで問題解決だ。





こうしてコノカの従者となった俺とセツナは、アーティファクト共々鍛錬に精を出し、己の腕をさらに向上させていくのだった。

・・・・俺、『総統』なのに『女幹部』の手下なの?


・・・・・・・・・まぁ、いっか。











―――――――そして、月日は流れていく―――――――

























{でっかいおまけ}


ある日、詠春さんに蔵に案内された。閉じ込められてフルボッコかとビクビクしていたが違うんだって。
この蔵には東洋呪術に関する本がたくさんあるんだそうな。「暇なときにでも利用してみるといい」と、相変わらずの顔色の悪さで勧められる。
俺は東洋呪術覚えるつもりはないんだけどなぁ。

まぁコノカやセツナの役に立つかもだし、覗いてみるか。どれどれ・・・・




『妖魔大全』
『陰陽心得帳』
『困った時の対処法――退魔入門編――』
『セントーで役立つ!陰陽マルわかり問題集』




・・・・小難しそうな本からネタなんじゃねえかって本まで取りそろえてある。

さらに奥に入ってみる、すると、本棚の後ろに挟まるように放置されてある難解そうな本を見つけた。おもむろに手に取ってみる。
『退魔術指南書』と書かれた、背表紙もない紙束のような古い本だ。やたら分厚い。埃具合から、随分長いこと放置されていたことが窺える。

じっくり読んだところで理解が追いつきそうにないので、とりあえずパラパラ流し読んでいく。
複雑な術式や東洋における陰陽形態などが事細かに記載されているようだが、サッパリわからない。俺のオツムじゃこんなもんか。


・・・と、妖怪との戦闘を想定した文章の中に「烏族」の文字を発見、読み進める。以下、本文から一部抜粋――――






[―――烏族は稀に白い羽根を持って生まれてくる場合があるが、これは単なる先天的異常ではなく、強い妖力が染色体に影響を及ぼし、本来あるべき身体の色素に異常が発生したもので―――――――(ウンヌンカンヌン)―――――――したがって白い羽根を持つ烏族は、総じて他の烏族より強力な場合が多く、相対した場合は――――]





・・・へえ、セツナってポテンシャルがハンパねえんだ。じゃあなんで迫害されてたんだろ?

アレか、「アイツ調子こいてるから、みんなでハブろうぜ」みたいな、くっだらねえ理由なのか?・・・嫌な世の中だよマッタク。



後日セツナにこの烏族の行のことを教えたら、すっげぇ泣かれた。その声を聞いて駆けつけたコノカにしこたま怒られた。理不尽だ。
まぁおかげでセツナが自分の羽根に少しずつ自信を持ち始めたみたいだから、良しとしよう。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





刹那のアーティファクトはそのままで。
構想段階からこの部分をどうすべきか悩みましたが、こっちにします。








〈仮契約カード〉



姓名 : NINOMAE MISATO (一 海里)

称号 : IRRACIONALIDADE CONTRA IRRACIONALIDADE (理不尽に抗う理不尽)

徳性 : audacia (勇気)

方位 : septentrio (北)

星辰性: cometes (彗星)

色調 : Album et Nigror (白と黒)

番号 : DCCLXV (765)


アーティファクト : A lâmina que gira uma fantasia (紡ぐ幻想の刃)





ラテン語が分かんないのでポルトガル語で表記します。













[15173] 漆黒の翼 #3
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:e7b962fa
Date: 2010/01/22 14:34
 ガガッ!ギギイィ!!

シュイン!シュババァ!!!ズバッシュアアァ!!

 ゴガガガガ!!ギャルルウゥ!!!グアッキイィィン!!!

ガンガン!!ギギイイン!!ギンガマアァン!!!

 ギギギィィ!グアシャアアァ!!!






―――あ!?なに!!?今戦闘中だから!!!しゃべってる暇ないっての!!!!




「【斬空閃】!」
 「【蒼破刃】!」


 バシュアアア!!


飛来する斬撃が空中衝突!




「【弧月閃】!!」
 「【斬岩剣】!!」


 ガギイィン!!


弧を描く剣閃と岩をも断ち斬る一撃が火花を散らす!!




「【斬鉄閃】!!」
 「【空破特攻弾】!!」


 ガガガガッ!!


斬撃の螺旋を弾く特攻の旋風!!




「【岩斬滅砕陣】!!!」
 「【斬空掌・散】!!!」


 ドゴガゴガガガゴッ!!


迫り来る岩礫を迎撃する氣弾の掌!!!




―――――――視線が交差する――――――



―――これで――――――決める―――!!!





「駆けろ地の牙!【魔王!地顎陣】!!!!」  

 「神鳴流秘剣!【百花繚乱】!!!!」



ドガラガシャアアアァ!!!!!!














「―――腕、あげたなぁ」

「総統こそ」



息も絶え絶え、お互いを褒めたたえる俺とセツナ。――――そう、模擬戦です。【京都神鳴流】剣士・桜咲刹那と、【幻魔天翔流】戦士・一海里との恒例行事だ。

今回の観客はコノカ他数名、ウチの組員以外は金払えコノ野郎。


しかし俺らも随分成長したなあ、技にしても身体にしても。


ここで新事実、実は俺たちはもう中学生だ。ためになったね。
ちみっこかった2人はすっかり女らしさが表れてきちゃってまあ、嬉しいやら感慨深いやら。



コノカは相も変わらずおっとりだが、そこに大和撫子風味がでてきた。料理も上手いときているから、将来は引く手数多だろう。

だがまず『総統』の俺に許しを得ることだ野郎ども。
こちとら詠春さんからいろいろ任されてんだ、見極めさせてもらうぞ。今のトコ該当者無し、俺の査定は難易度[アンノウン]よりキビシいのだ。



一方セツナ、コッチもきれーになっちゃってまあ。切れ長の眼にスラリとした手足、日本美人の素養バッチリである。着物とか着てくんないかなぁ。

こちらは俺の査定もないというのに男っ気が無い。人気はあるらしいが近寄ってはこないんだそうな。コノカ大好きっ子は相変わらず、とっても仲良し。

百合の人なのかとの質問してみたが、本人は一貫して否定、断固否定。「そうゆうのじゃないんですよ私たちの絆は」とのこと。




ああ、俺も成長したよ、それなりに。自分じゃよくわかんないけど。「男っぽさが出てきとる」とはコノカの談。
鍛練のおかげで技の方はかなりのもんじゃないかな?剣技と斧技はほぼ習得、体術もなかなかだし、槍と弓も、まぁそれなりだ。やっぱ剣と斧だな、得意なのは。

ただ、魔法の方はあまり自信が無い。いや訓練は続けてたけどさ、使い難いのよ。

基本的なことだけど、上級の術になるほど詠唱、正確には詠唱に入るまでに魔力を練り上げる時間が長くなる。俺はバリバリの前衛気質なもんだから、使う暇が無いんだよ。

おかげで使えはするけど使わないというペーパードライバーみたいな感じになってしまった。見た目も西洋魔術っぽいから、西だとおおっぴらに使えなかったしね。
ぶっつけ本番というのはかなり不安だ、苦手意識もある。ちょこちょこ試運転しないと。





―――――あ、まだ休憩じゃないよ、2人とも相対したままです。


「・・・さて、もう疲れてきたんで俺の奥義を受けて堕ちてもらおうか」

「奥義?」


怪訝そうな顔をするセツナ、「聴いてませんよそんなこと」って広めのデコに書いてある。


ふっふっふっ、ゲーム内じゃ日の目を見ることのなかった伝説の奥義を受けるがいい!



「いくぞセツナ! これぞ秘奥義!!」

「!!」


セツナが身構える、だがもう遅い!!コレで堕ちろ!!!











「【電光石火 流し目】エェ!!!!」


 キラッ!!







「・・・・・・・・・・」




――――かつかつかつかつかつ・・・、がっし――――



「アレ?」




「【浮雲・旋一閃】!!!!」



「ほべぇ!!?」




お気に召さなかったようだ、やっぱりソノ手の才能は無いのか。・・・駄目だったよロニ。

何がいけなかったのか?解説のコノカさん、いかがでしょう?


「ただ睨んでるようにしか見えへんよ?」

しょうがないじゃん、眼付きのを悪さは生まれつきだもの。三白眼がうらめしいぜ。


プリプリ憤慨するセツナにハッ倒された俺は、混濁する意識の中、この広場に聳え立つ規格外の大樹、通称『世界樹』を逆さ眼になりながら見上げていた。





―――――そう、ここは東。関東魔法協会本部・『麻帆良学園都市』―――――

―――――我ら【漆黒の翼】の新天地―――――

















――――それは、小学校卒業も差し迫ったある冬のこと。

いつものように3人で遊んで、もとい活動していた俺たちを詠春さんが呼び出した。何用かと速やかに馳せ参じる―――――





「俺たちが東に?」
「お父様、ホンマなん?」
「そうなんですか、長?」

異口同音とまではいかないが、ほぼ同義の質問をぶつける俺たち。
それというのも、詠春さんがこの春から俺たちを東の本部、麻帆良の中学校に編入させると言ってきたからだ。なんでまた。



「どうも下の者の中に良くない動きをしている輩がいるようなんですよ」

曰く、西の治安が少しずつ雲行きの怪しい方向に向かっている。西の長の娘であり極東一の魔力を持つコノカは、その輩に狙われる危険性が出てきたというのだ。
確かにそれだけの好物件なら利用価値は計り知れないだろう。言いたかないけど、胸糞悪くなる使い道だってたくさんある、なんとなくわかる。

でも、態々敵地のド真ん中に行かなくても。何か理由があるんですか?


「アソコは都市を覆うように強力な結界が張られてありますから、危険な輩から護ってくれますよ。少なくともここよりは安全なハズです」


東のお偉いさん方がなんていうかわかりませんよ?

「それなら大丈夫、東の長は私の義父、木乃香の祖父だからね」


・・・内輪でなにやってんだアンタら。



西と東は、敵対してるというよりイガミ合ってるというのが正しいらしく、イガミ具合は西の方が強いんだって。
だから俺たちがノコノコ出向いたところをいきなりグサリッ、ということはないとのこと。
ちなみに長同士の関係は良好なんだと。下を抑えられるかは2人の手腕にかかっている。

腕の立つ神鳴流剣士も1人同行させると言っているし・・・それなら、まぁ、大丈夫か?

3人一緒ならオールOKなコノカ、「我が人生このちゃんと共に」なセツナ、その2人の上官たる俺、断る理由はもう無い。【漆黒の翼】は遠征いたします!




了承の返事をした俺たちは退室、だがコノカが出たところで呼び止められる俺とセツナ。まだなにか?



「・・・君たちのことを、東に寝返った裏切り者と呼ぶ者もいるかもしれません。・・・それでもこの任、引き受けてもらえますか?」



顔を見合わせる俺たち。多分2人とも同じような表情だったと思う。





――――何を今更、と―――



「言わせときゃいいんですよ。その程度で揺らぐ程、俺たち3人は脆くないです」

「お嬢様の安全は、私たちの『ツバサ』が約束します」


淀みもなく応えた。





「・・・・・・木乃香のこと、よろしくお願いします――――」






そういえばセツナ、立場的なことを考えてかコノカを「お嬢様」と呼ぶようになった。コノカは不満気だ。まぁ油断するとすぐ「このちゃん」に戻るから別に構わないけどね。









―――やってきました麻帆良学園、なんだこの広さは、東京ドーム何個分だ。それにアノ樹、デカ過ぎじゃないのか?あれだけデカけりゃ観光地にでもなってそうなもんだが。


驚きもそこそこに、この学園を、ひいては関東魔法協会を統べるコノカのじいちゃんが居る学園長室へ向かう【漆黒の翼】+1。・・・なんで女子校の中にあるんだよ、奇異の目で見られたわっ。

学園の女教師の案内の下、学園長室前に連れてこられた。胸デカいなこの人。デカさが売りなのかココは。

ノックしてモシモシした後、中から入室許可が下りる。入る、ガチャリと。




―――――ぬらりひょんが鎮座していた。


・・・ここまで大っぴらにしていいのか、“裏”の秘匿を。

と思ったら、この方が東の長にしてコノカの祖父『近衛 近右衛門』その人。列記とした人間だそうな。
ビックリしたよ、危うくコノカを主人公にしたマンガを描くところだった。だって孫だもの。
それにしても、ちっとも似てないな。・・・・・・優性遺伝万歳!!

そしてその傍らに、柔和な笑みを浮かべ、側近のように佇んでいる眼鏡のダンディズムが1人。
この人は『高畑・T・タカミチ』さん、この学校の教員だって。“裏”の関係者でもあるんだと。・・・・タダモノじゃなさそうだ、そう思う、なんとなく、あと「T」って何の略だ。


「おじいちゃん、久しぶりや」

「フォフォ、よく来たのう木乃香、それにキミらも」

「お初にお目に掛かります、一海里です」

「同じく、桜咲刹那と申します」


セツナ共々挨拶を済ませる俺。一緒に来た神鳴流剣士「葛葉刀子」さんは、さっきのムネの人に連れられて何処かへ。後で聞いてみたら、ここで教師やるんだとさ。


「木乃香と仲良くしてくれてるそうじゃな、礼を言うぞい」

「友達で、総統ですから」
「親友で、主任ですので」

「♪」
「「?」」





そんなこんなで、東の長といろいろ話を進める【漆黒の翼】一同。
コチラの“裏”のことや各関係者――魔法先生とか魔法生徒とか云うんだって――の役割、あとは俺たちの仕事なんかの話だ。

俺とセツナには、この都市に現れる魑魅魍魎やアブナイ連中を撃退する仕事があるんだそうだ、しかも無償で。

セツナは承諾しかけたが、遮って異を唱える。この辺ハッキリさせないと後で面倒だ。




「俺たちの仕事はコノカの守護です、街の治安維持にまで気は回せませんよ」

「ふむ、しかしじゃね、コチラ側にいる以上協力してもらわんと困るんじゃよ」

「いえ、協力はします。関係無い人たちにまで理不尽な思いはさせたくないですから。でもさすがに無償で働くのは嫌ですよ、慈善事業じゃあるまいし」

「いや、割と慈善事業なんじゃけど、『立派な魔法使い』ってそういうモノじゃし」

「なら、傭兵扱いでお願いできませんか?依頼された仕事を引き受けて報酬を貰うっていう感じの」

「ふぅむ・・・」


コノカはニコニコ、セツナはオロオロ、俺と学園長で喧々諤々、高畑さん置いてけ堀。
心象悪くなるかもしれないが、ココは譲れない。俺たちは『立派な魔法使い』を目指して東に来たんじゃないんだ。コノカを護ることが大前提、そんで楽しく暮らせればいいんだから。


話し合いの結果、俺たちの実力を見てから判断することになった。
そりゃ腕の悪い傭兵なんか雇っても金の無駄、その辺で募金した方がよっぽど為になる。アチラの提案は当然のことだろう。
なので俺はそれに応じる。セツナも困惑しながらも、説明して納得させた。





――――それで俺とセツナで模擬戦をすることに、冒頭に戻るワケだ。途中から興が乗ってきたんでスッカリ忘れてたけどね。



結果、最後はポカーンだったが腕は認めてくれたらしく、俺たちは晴れて傭兵職に就いたのだった。定期的にシフトに入るんだとさ。




さあ、いよいよ新天地だ。用意はいいか?

「もちろんや!」
「抜かりなく!」


【漆黒の翼】、関東編のスタートだ!!











―――――少年たちの『物語テイルズ』は加速していく―――――










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ネタ盛り込むって難しい。

だれか海里のカードの絵柄描いてくれないかなぁ。








[15173] 漆黒の翼 #4
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:e7b962fa
Date: 2010/01/22 14:32

―――拠点を東に移して数日、今日はいよいよ初仕事です。金もらえるから文句ないよ。

今夜の相手は異形が数十体、それに術者が1人ってトコか。いっちょ気合い入れていきますか。


「セツナ前衛、俺遊撃、マナは後方で援護、術者は見つけ次第デストロイ、異論は?」

「OKさ」
「了解です」

さぁ、パーリィの始まりだ!!









―――――ここ数日でもそれなりにいろいろあった。


この学園は男子区域と女子区域に分かれている。当然俺は男子区域、コノセツは女子区域。
女子校に編入するのかも、とか一瞬考えたが別にそんなことは無かったぜ。なったらなったで地獄だ。

家から通う生徒もいるが、基本的に全寮制、一部屋につき大体2~3人が住んでいる。
男子寮の俺の部屋には俺の荷物しかいない。偶々余ってたのか、気を利かしてくれたのか。どちらにしろありがたい。悠々自適に暮らせそうだ。


コノカとセツナはもちろん相部屋、と思ったら別の部屋でした。交友関係を広げてほしいとの学園長の計らいだそうな。護衛だっつってんのに、まあ隣部屋だし許容範囲か?

あと、女子寮は男子禁制なんだって。ホイホイ遊びに行けないじゃないか。男子寮は女子ウェルカムなのに。・・・街で会えばいっか。






もうすぐ仕事始めとなる俺たちにチーム編成について言い渡された。ここの仕事は約3人のチームで行うらしい。

コンビネーションも考えて、セツナと俺は当然同チーム、今日はもう1人との顔合わせだ。


オープンカフェでコーヒーを啜りながら待っていると、人混みの中から現れる長身の美人が1人。
褐色の肌を持つこのナイスバディが俺たちの仲間となるらしい。やっぱデカさが売りなんだよココは。

とりあえず挨拶を―――――


「龍宮?」

「新チームと聴いていたが、オマエだったか、刹那」

――――お知り合いですか?


聴けばこの美人さん、『龍宮真名』っていうんだけど、セツナの同居人なんだってさ。・・・てことは、同い年?マジかよ、大学生くらいかと思った。

格差社会の波を感じながら、俺も自己紹介。龍宮・・・もうマナでいいや、彼女も報酬を受けて仕事をこなす傭兵なんだとさ。気が合いそうだ。



「とりあえず、オマエ達がどんなことができるかを確認しておきたいんだが」

ふむ、尤もだ。戦力を正しく把握できなければ戦術は組めない。さすがは先輩傭兵。


「私は銃を使った戦闘が主だ。後方射撃、ショートレンジ、長距離スナイプ、なんでもござれだ。苦手な距離はナイ」

この人パねえな。オールレンジOKのガンナーってヤバいっすよ。


「それと、『眼』だ」


なんでも、『魔眼』という特殊な眼を持っているらしい。・・・・・・・・邪気眼か?

「夏に向けて脳天を肉抜きするかい?涼しくなるぞ」

ゴメンナサイ。




「それで、オマエ達は?」

「剣と斧、体術に、槍と弓を少々、あと魔法をたしなむ程度に」

「総統、お見合いじゃないんですから。私は前にも云ったが神鳴流の剣士だ、武器は選ばない」

「『総統』?」

「ああ、それは――――」



そんな感じで顔合わせ終了。結果、前衛にセツナと俺、後衛にマナという配置になった。状況に合わせて俺が下がったり突っ込んだりするんだ。

ニヒルでビジネスライクな感じだけど、イイ人っぽいし、仲良くできそうだ。こうして、チーム『傭兵ソルジャーズ』が誕生した。







―――――――そして冒頭へ。

マナは俺たちの動きが分かっているかのように的確に弾をぶち込んでいく。邪気眼スゲェ。

前衛を一旦セツナに任せ一歩後退、手の中のトマホークをミスリルロッドに変更。魔力を練り上げる。・・・やっぱり時間かかるな、・・・3、2、1、ハイッ!




「雷雲よ!我が刃となりて敵を貫け!【サンダーブレード】!!」


「「「「「「「ギャオオオオオオオォ!!!」」」」」」」



異形の集団が固まっている場所に稲妻の剣が突き刺さる。セツナがうまいこと誘導してくれたようだ。
こんな調子で蜘蛛の子を散らすように粉砕していく、悪く思うなよ。

と、マナの魔眼が術者の位置をとらえたようだ、俺とセツナに指示が飛ぶ。

セツナが瞬時に回り込み【斬空閃】で牽制、俺から意識がそれたところをすかさず狙う!



「【ピコハン】!!」


脳天クリーンヒット、ピヨピヨ云いながら気絶した。コイツを引き渡して任務完了だ。

みんな、お疲れさん。







「――――息ピッタリだな、オマエ達」

「私たちは相棒みたいなモノだからな」
「オシドリなのだよ」

マナの感嘆の声に応える。長いこと一緒にいると、こうなるのさ。


「結婚でもする気かい?」

「するか?」
「考えときます」

にべも無く返された。つれないなあ。


「俺たち、2人でトリキュアだろ?ネガティブなんかブッ飛ばそうぜ」

「片割れが男の時点でキュア要素が崩壊してますよ」

「俺がオオトリブラック、オマエがコトリホワイト」

「お嬢様はどうなるんです?」

「新メンバーのオットリルージュとして迎え入れる予定」

「化粧品に興味が出てきたみたいですね」


セツナは使わんのか?いや私は、などと雑談しながら帰路につく。後ろから付いてくるマナの邪気眼が生温かく感じた。










―――――ふむ、やはり広大だなこの街は。場所確認のために歩き回ってみたが、終わりが見えないよ。しかしなんでもあるなココ。

映画館に商店街、少し歩けば森や山もある。あとアレ、図書館島だっけ?ビックリだよあんなの、まだ中に入ったこと無いけどさ。
関東地方のド真ん中にこんな土地があろうとは。・・・探せば遺跡なんかも見つかったりしてな。



・・・・そういえば東に行くってわかった後、ココのコトいろいろ調べたんだよ。そしたら気になる単語がヒットしたんだ。



――――【闇の福音】――――



かつて600万ドルの賞金が懸けられた伝説の極悪人で、真祖の吸血鬼。【不死の魔法使い】、【悪しき音信】、【禍音の使徒】等の二つ名を持つ強大な魔法使い。
女子供は殺さないが、彼女を退治せんとする魔法使いは残らず帰らぬ人となる、などの噂が絶えない、一種のなまはげのような存在らしい。名前は、・・・・エヴァンなんとか、だったかな?

10年くらい前までは活動していたみたいなんだけど、アノ『サウザンなんとか』がこの地に封印したとかで、今は音沙汰なし。



・・・・逢ってみたい。どんなヒトなんだろう。それほど強いのなら何か深いアドバイスをくれるのでは?

・・・・楽観的すぎるかな?退治しに行きたいってワケじゃないから、逢っていきなり首チョンパなんてことにはならないと思うんだけど。





―――――そんなことを、ベンチに腰掛けネコに餌をあげている少女を眺めながら、俺は考えていた。・・・・・・・アノ娘、ロボット?すごいな麻帆良の科学力、しかも絵になってる。








◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



チラシの裏は回転速いっす。

・・・赤松健板に載せてもいいレベルでしょうか、この話。








[15173] 漆黒の翼 #5
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:e7b962fa
Date: 2010/01/21 02:58
いよいよ新学期が始まった。新しいクラスってのは、なかなか緊張するもんだ。特に俺は中学からの編入生、見知った奴など居やしない。緊張もヒトシオだ、たとえ二度目の生でもね。


クラス分けも確認し、教室へ。ちなみに1-Aだ。黒板に書かれた席に着座、前後左右の奴に軽く挨拶を済ませる。
周りを観察すると、いくつかのグループが教室のあちこちにたむろってるのが見える。おそらく小学校からの仲良し組だろうか。

俺はどうしようか?まあ、無理に入る必要もないんだけどね。“裏”関係で巻き込んだら悪いし。


と、チャイムが鳴り、担任教師の登場と共にそそくさと着席する野郎一同。・・・あ、刀子さんだ。このクラスの担任なのか、いろいろ都合が好さそうだな。

周りから「おお、美人!」とか、「当たりだぜヨッシャア!」とか歓喜の小声が届く。もっと言ってあげて、あの人バツイチらしいから。
西洋魔術師と結婚して一回東に来たらしいんだけど、あえなく離婚、西にとんぼ返りしたそうな。複雑だろうなぁ、今回の派遣。苦い思い出もあるだろうに。


新クラス恒例の自己紹介タイムも終わり、今日はこれまで。短いが、初日なんてこんなものか。しばらくその辺の奴らと雑談タイム。編入生が珍しいのか、結構寄って来るんだよコレが。

話の合う奴、趣味の似通った奴が何人か居たよ。土地柄なのか、みんな人懐っこいんだよな。寂しい学校生活では無さそうだな、一安心だ。








学校を終え向かうは世界樹広場。俺が行くと、既に幹部と主任が待っていた。


「悪い、遅くなった。クラスの奴らと話してて、ついな」

「ええんよ、総統にウチら以外の友達ができるんなら」

「人を寂しい奴みたいに云うんじゃない。今までだって居たわ、それなりに」

「はは、スマンスマン」

「私たちが居なくて大丈夫ですか?いじめられてませんか?」

「オマエは俺をどう認識してるんだ」


軽いジャブの応酬を受けてから、情報交換を開始する俺たち。
2人は同じクラス、奇しくも俺と同じA組だそうだ。担任は高畑さん、これまた都合がいい。マナもA組だってさ。

「ウチと同部屋のアスナもA組なんよ」

へえ、今度紹介してもらおう。



うん、それなりに情報交換したな。俺の情報、「担任が刀子さんだったよ」くらいだけど。

「それと総統、もう一つ・・・」

なんだセツナ、改まって。

「エヴァンジェリン・・・、【闇の福音】のことなんですけど・・・」

その名にピクリと反応する俺。
なんだ、何かわかったのか?どこに住んでるかとか、どんな性格なのかとか。

「いや、その、ですね・・・」

なんだよ、奥歯にアレが挟まったみたいな言い方して、気になるだろうが。

「何ですかアレって、ソッチの方が気になりますよ」

アレはアレだ、いいから続きを言えって。



「同じクラスだったんよ、エヴァちゃん」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あんだって?



「ですから、私たちと同じ1年A組に在籍してるんですよ、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルさんが」



・・・・・理解が追いつかない。
【闇の福音】が?中学のクラスに?元懸賞金600万ドルの極悪吸血鬼が?学校に通ってる?しかもエヴァちゃんて、どゆことなのソレ、どゆこと?


「私たちにもサッパリですよ、どんな人かと思えばあんなのだし」

あんなのってどんなの?

「せっちゃんと総統が模擬戦しとった時におった子やよ、ほら、金髪のちっちゃい子」

・・・・え、アノ子?誰かの連れ子じゃなかったの?アレが【闇の福音】なの?

い、いや、見た目は関係ない。話によれば彼女は既に数百年生きた不老不死の真祖、「不老」なら成長が止まってても不思議じゃない、「不老不死」そのものが不思議なモノだけど。



「・・・学校に通ってるってことは、ところ構わず殺戮するようなヒトではない、よな?」

「・・・多分」

「可愛かったえ?お人形さんみたいで」


・・・・・・今度、挨拶に行ってみるか。住所は・・・・マナにでも訊くか。










―――――さて、通常授業も始まり、仕事にも中学校生活にも慣れ始めたころ、俺は麻帆良の一角にある電気屋に来ていた。
なんでかって言うと、買い物だよ、パソコンが欲しいんだ。やっぱあると便利だしね、情報がモノを言う時代だもの。報酬も随分貯まったし、ここらで使うのもアリだろう。


・・・しかし、なんだろうねコノ街は。出歩けば必ずと言っていい程騒ぎが起きてる。
大学部の方から巨大なロボットが暴走してきたり、女の子を野郎どもが取り囲んだと思ったらソノ子に端からぶっ飛ばされてたり、もうお腹いっぱいです。

どうして誰も気に掛けないんだろう。もはや日常の一部なのか?

・・・いや、もしかしたら認識阻害術の一種なのかもしれないな。ココは関東の魔法の中枢だ、どこから一般人にバレるかわからない。
だから深層意識にジャミングを掛けて誤魔化してる・・・・・あり得ない話じゃないな。

そうでもなきゃおかしいもの。オリンピックに喧嘩売ってるような奴もたくさんいるし、ロボットとか普通に道歩いてるし。
世界樹だってそうだ。あんなデカい樹、世界中の植物学者が飛びつかないハズが無い、マスコミが騒がないなんて絶対におかしいもん。



―――まぁ、俺の麻帆良考察はこれくらいにして、買い物買い物。パソコン買いに来たんだよ俺は。

この店は割と大きめだ、4階まである。パソコン関係は・・・3階か、エスカレーターでいいな。




3階に到着。さてと、目ぼしいモノはあるか――――


パキッ


―――ん?なんか踏んだような・・・・。

下を見て、スーっと右脚をどかして見る。・・・コレは、メモリーカードの箱?「パキッ」ってことは、中身は―――


「ああーーーーー!!」


うお、ビックリしたぁ!なんだ!?

顔をあげると、そこに居たのは地味目な眼鏡の少女。同い年くらいか?


「テ、テメェ・・・!私のメモリーカード・・・!!32ギガの新品を・・・・!!」


どうやらこのカードはこの娘が買ったモノらしい。落としたものを俺がちょうど踏んづけた、と。・・・・・悪いことしたな。


「その、ゴメン。新しいの買って弁償するからさ、それで勘弁してくれないか?」

「え、・・・い、いや、それはワリィ・・・・悪いですよ・・」


今無理やり敬語にしなかったか?・・・多分さっきの方が素なんだろうな。


「悪いのは俺の方だって。他人のモン壊しといてハイサヨナラじゃ、いくらなんでも失礼だろ?」

「で、でも、コレ・・・最後の一個で、これ以上は64ギガとかになっちま、・・・なりますし、これイイ奴だから高いですよ?」

「大丈夫、今日は金に余裕あるし。言っとくけど親の金じゃねえからな、身体張って手に入れた俺の金だ」

「え、えっと・・・・それじゃあ・・・」


そういうわけなんで、もう少し待っててくれパソコン君、スグ戻るから。






「―――本当によかったのか・・よかったんですか?こんな高いもの・・・」

「テメェのケツはテメェで、ってな。俺が悪いんだから当然のコトだろ」

「じゃ、じゃあ、ありがたく・・・」

「あと、別に無理に敬語使う必要無いんじゃねえの?」

「そ、それは私の勝手だろ・・・!」


無事この娘の会計も済んだ。そんじゃ俺も本命の方へ行くかな。


「んじゃこの辺で、パソコン買いに来たんだよ俺」

「お、おお・・・」


少女に別れを告げて、いざパソコン売り場へ。





―――うーむ、いろいろあるなぁ。ノート型でいいかな、お、コレなんか・・・・

「ソレはCPUがあんまイイ奴じゃないぞ」


聞き覚えのある声が背後から、俺の後ろを取るとは何奴!?

「どこのスナイパーだテメェは」

なんだ、さっきのメガネちゃんじゃないか。どうしたんだ、ココにはレンズクリーナーなんてないぞ。

「なんで私イコール眼鏡の図式が出来上がってんだよ、他の用だってあるんだよ」

じゃあ、いかがした?


「・・・・さっきの礼だ、良さそうなの適当に見繕ってやるよ」

いいのか?礼って言っても、元々俺が悪いんだぞ?

「32ギガが64ギガになって帰ってきたんだ、おつりが残ってんだろうが。借り作ったままなのは嫌なんだよ、筋が通ってねえのもな」

律儀だねぇ、どっかの番長みたいなこと言ってるよ。読んでるのかアレ。

「・・・知ったことかっ」

やっぱ読んでんじゃないのか?

「っ・・・・いいから選ぶぞ、ほらっ」

アイアイサー。





―――――買い物終了。ミサトは「ぱそこん」をてにいれた!ここでそうびしていきますか?

「こんな往来で広げんなっ!」

メガネに止められた。


「コレで良かったのか?アキバとか行けばもっと性能イイのあるぞ?」

「ネットできてオフィスソフト入ってれば十分だからな」

この娘のおかげで割かしイイのが手に入った、ベリーサンキュー、アンドミー。

「なんで自分にまで感謝してんだ、私だけでいいだろ」

ツッコミの才能あるよ、この娘ったら。


現在俺たちは電気屋の入り口にいる。用も済んだし、帰ってセッティングしないとな。

「そんじゃ、この辺で―――」



ドドドドドドドドドドッ!!!




――――なんだ、死神でも現れたか?


「危ないぞぉ!!」


「「げぇ!?」」

迫って来る巨大な重機が視界に入り、同時に声をあげる俺とメガネ。やべぇ、直撃コースだ!!


「アブねぇ!!」

「わあ!?」

咄嗟にメガネを引き寄せ真横に跳躍、間一髪回避に成功する。俺たちが居た電気屋の入り口は見るも無残な感じに。あのまま突っ立ってたら地獄の入口に送られてたかもな・・・。



「いやぁ、大丈夫かいキミたち?」

大丈夫じゃねえよ、他に言う事無いのか。

「・・・ぶじゃねえよ・・・・・ろす気かよ・・・」

メガネもブツクサ言ってる、どうやら俺と同意見らしい。

「キミ、良い身のこなしだったね。中武研の人?」

中武研が何かは知らんが今訊くことじゃないだろ。


他の奴らも似たような反応だ、誰も心配してやしない。店の人も憤慨はするけど、もう通常営業に戻りそうな雰囲気だ。

どうなってんだこの街は。



「・・・・・・!」

メガネはワナワナ震えている。当然の反応だろう、九死に一生スペシャルを身をもって体験したのにこの扱いだ。

・・・てことは、コイツは麻帆良にいながらココの異常さに気付いてるってことか?


「・・・場所移そうぜ、ココじゃ落ち着かん」

「・・・・・そう、だな」

とりあえず近くの公園に移動。なんか奇妙な連帯感が生まれていた。




「ホレ」

「・・・サンキュ」

自販機で買ったコーヒー缶を投げ渡し、2人してベンチに腰掛ける。


「・・・あ、えと、・・・・・ありがとよ、助けてくれて・・」

「どういたまして」

適当に返答。


「・・・アンタさぁ」

「ミサト」

「は?」

「一海里っつうの、俺」

「あ、ああ、そういや名前知らなかったな」

「ソッチは?いい加減「メガネ」じゃ悪いし」

「テメェ頭ん中で勝手なあだ名つけんなよ、千雨だ、『長谷川千雨』」

「チサメ、ね」



その後1分くらい無言。・・・とりあえず俺からしゃべってみるか。


「何なんだろうな、この街」

「え?」

チサメが食いつく、サメだけに。


「事故が起きても騒がない、騒ぎはするが通報の1つも無い、安否確認より身のこなしに目が行く、異常だよ」

「・・・・アンタも、そう思うのか?」

「常識は持ってるつもりだ」

非常識な存在だけどね。



「・・・そうだよ、そうなんだよ、オカシイんだよココの連中は」

なんか独白し始めた。同志に逢ったのは初めてだったか。


「人間やめてるような奴がアッチコッチに居るのに誰もツッコまねえし、いつも馬鹿みたいにお祭り騒ぎしてるし、『フツウ』じゃねえよ」

・・・・・・・。

「私は『フツウ』でいたいんだ、トンでも連中の馬鹿騒ぎになんか混ざりたくねえし、巻き込まれたくもない。誰にも邪魔されない『フツウ』の生活がしたいんだよ」





・・・・『フツウ』、か。


「『フツウ』ってなんだろうな」

「いや、『フツウ』は『フツウ』だろ?」

「『フツウ』なんて結局個人の主観だろ?」

「・・そりゃ、まあそうだけどよ」

「まぁ、オマエの言う『フツウ』が一番一般的なモノなんだろうけどな、世間的には」


初対面の相手にする話じゃねえよな、コレ。


「『フツウ』じゃない連中が何考えて生きてるか、考えたことあるか?」

「・・ねえよ、わかる訳ねえだろ、頭が花畑無双の奴らの思考なんて」

「案外、オマエとそんなに変わらないかもしれないぜ?」

「・・・どういう意味だよ」


ぶすっとするチサメガネ、まあ聴けや。


「人間なんて育つ環境によってカンタンに変るもんだ、クローンを別の家庭に預けて育てたって、同じ性格にはならないだろ?」

「・・・・」

「『フツウ』じゃない環境に置かれたら、ソレに順応するしか道は無いだろ」

「それは・・・・」





「生まれは選べねえんだよ、本人が望もうが望むまいがな」

「・・・」

「現状に満足してる奴もいるだろうさ、でもそうじゃない奴もきっといる。こんな所に生まれたくなかった、もっと『フツウ』でいたかった、そう思ってる奴がな」

「・・・・・・・・」






「それに、『フツウ』じゃないってのも悪いことばっかじゃないと思うけど?」

「なんでだよ、『フツウ』の方がいいだろ」

「生き方が変わるような劇的な出来事、すべてを捧げてもいいと思える異性との出会い、これは『フツウ』のことか?」

「『フツウ』・・・・じゃねえ、な・・・」

「だろ?ソイツらからしたら、『フツウ』な奴の方がよっぽど不幸だ」


何が言いたいかっつうとだな。








「『フツウ』ってのは、それだけで幸福しあわせなんだよ。でも、それだけじゃ不幸ふしあわせなのさ」





「・・・・私は哲学が聴きたいんじゃねえよ」

「俺も哲学を語るつもりはなかったんだがな」


さて、柄にもなく真面目な話しちまった。いい加減帰ってパソコンセットアップしないと。


「じゃあな、俺帰るから」

ベンチから立ち上がり帰り支度を――――



「・・・・オマエは・・・?」


―――チサメが俺の背に問いかける。


「・・・オマエは、どっち側の人間なんだ?」




――――決まってんだろ。








「俺は『不幸シアワセ』者だよ、とびっきりのな」



背を向けたまま応えた。






















家に帰って絶望した。

「プロバイダ契約すんの忘れた・・・・・」

ネットが見れねえええぇぇ・・・・・・。











[15173] 漆黒の翼 #6
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:e7b962fa
Date: 2010/01/21 02:05
――――麻帆良学園女子中等部・校舎屋上――――




「エヴァちゃーんっ」
「ちょっとイイですか?」

「む、なんだ、近衛木乃香と桜咲刹那。私は忙しいんだ、後にしろ」


「マスター、お茶を」
「うむ」


「・・・忙しいって、屋上でティータイム洒落こんでるだけじゃないですか」

「うるさい、用があるならサッサと言え。張り倒すぞ」


「あんなぁ、今度エヴァちゃんち行ってもええかなぁ?」

「断る」

「早いですよ、『何のつもりだ』くらい訊いてくださいよ」


「どうせ碌な用じゃあるまい、態々【闇の福音】の住居に来るなど。オマエ達も“裏”の者ならわかるハズだろう」


「総統が挨拶に行きたいゆうんよ」

「総統?・・・・・ああ、あの小僧か。なんで私がそんな小僧の相手を・・・・、そういえば、アヤツ見たことのない技を使っていたな・・・・」

「人生の先輩からアドバイスが欲しいとか言ってました」



「・・・・・いいだろう」

「よろしいのですか、マスター?」

「少し興味が湧いた、『悪の魔法使い』に逢いたいなどと云うモノ好きに、な」

「・・了解しました」



「次の日曜だ、すっぽかしたら挽肉にすると伝えておけ。クククっ・・・・」










――――同学園男子中等部・1年A組教室――――



―――――!? な、なんだ、今の悪寒は?


「どーしたよ、カイリ」

「いや、ちょっと寒気がな」


なんだろう、何かすごくヤバめな猛獣に狙いをつけられたような・・・。



「おいメシ行こうぜ、ミサっちゃん」

「今日はニノのオゴリっつーことで」

「マジで!?サンキューさっとん!!」


勝手なことぬかすな、あとあだ名を統一しろ。

発言を訂正させるべく、ガタリと椅子から立ち上がり級友の後を追う俺。今日はカツカレーでも食うか、金曜だし。




――――――――そんな昼時日本列島――――――――














  (とーきどーきー、と○くーをーみーつめーるー♪)


―――――おはようございます、一海里です。今日の建もの探訪は、埼玉県麻帆良市のエヴァンジェリン邸にオジャマします。いやぁ、立派なログハウスですねぇ、手作りでしょうか?



「渡辺篤史ごっこはいいですから、入りますよ?」

「せかすなよ」

「緊張しとるん?」

「割とな」



そう、今日は【闇の福音】との顔合わせだ。顔自体は1回見てるけど、面と向かってはコレが初めて、そりゃ緊張の一つもするさ。

マナから聴いた住所を頼りに歩を進めた結果、今言ったようなイイ感じのログハウス前に到着した。ココが【闇の福音】の住居か、もっとお屋敷みたいのを想像してたよ。



さて、いつまでも家の前にいるわけにもいかない。気引き締めドアの前に立つと、キィッと音を立てて開く。自動ドア?



「いらっしゃいませ、近衛さん、桜咲さん、それと・・・」

「一海里っす」

「・・・一様、ようこそ」


この娘が開けてくれたのね。・・・あ、キミは・・・


「ネコに餌あげてたロボッ娘?」

「ガイノイドです、『絡繰茶々丸』と申します」


【闇の福音】の従者だったのか。ソレにしては優しげだな、エプロンドレスが似合ってる。


従者チャチャマルに促され、家の中へ。いよいよ対面だ。

家の中は、一言でいえば『ファンシー一直線』だった。多種多様の人形がズラリと並べてある。そういや【人形使い】って二つ名もあったな。



そんな感じで家の中を物色している俺たちに――――――







「―――遅かったな、待ちくたびれたぞ」





――――ソファに腰掛け、足を組んで妖艶な笑みを浮かべる麗しい金髪の少女が1人。


・・・・このヒトが、真祖の吸血鬼・・・・、最強にして最悪の、『悪の魔法使い』・・・・。






「―――よく来たな、近衛木乃香、桜咲刹那、そしてニノマエミサト」


「―――初めまして・・・ではないか、・・・改めまして、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルさん」





【闇の福音】と【漆黒の翼】が、ここに邂逅した―――――








「態々招いてやったんだ、手ぶらじゃないだろうな?」

「あ、そうだ、コレお土産っす」


木製のバケットを差し出す。


「・・・何だコレは?」

「ニシンのパイをお届けにあがりました」

「どこの宅急便だキサマは」



見てんだ、ジブリ。



「ちなみに俺が作ったヤツです」

「ふん、毒でも盛ったか?」

「そんなこと言わんでくださいよ、ホラここ、ココのクリームのデコレーションとか苦労して――」

「なんでデザート風なんだ!!メインディッシュを張る料理だろコレは!!!ってクサッ!!魚クサッ!!!」



――――邂逅は、なんかマヌケな感じに収束していった。







俺たちの対面に座るエヴァンジェリンさん、そしてその後ろに仕えるチャチャマル。その顔は若干引き攣っている、チャチャマルは変わらんけど。



「・・・・よくそんなモノ食えるな・・・」


ソレと云うのも、俺たち3人が『ミサト特製・ニシンのパイ』を躊躇いも無くパクついてるからだ。



「最初はアレやけど、だんだんクセになってくるんよ」

「このエグさが堪らないんです」


結構好評なんですよ、初めは敬遠するけど食ってみたら意外に、って感じで。ドリアンみたいなもんだ。



「・・・キサマらは嫌がらせしに来たのか?」

「違いますよ、エヴァさんにもこのスイーツのうまさを味わってもらいたくて」

「スイーツなのはキサマの頭だ。あと勝手に私の名を略すな」



だって長いんだもの。お気に召さなかったか、ニシンのパイ。


「捨てるか食いきるかしろ、吐き気がする」


その言葉を聞いて、後ろに仕えていたチャチャマルが前に出て、テーブルの上のパイに手を伸ばす。・・・捨てちゃうの?



チャチャマルはナイフを手に取り、切り分け、皿に乗せ―――


「・・・茶々丸、何をしている?」

「食わず嫌いはよくありません、マスター」

「いや、そういうレベルじゃないだろ、ゲテモノだぞソレ」

「皆さんは美味しそうに召し上がっています、よってマスターの食わず嫌いと判断します」



何か琴線に触れるものがあったのか、皿片手にエヴァさんに詰め寄るチャチャマル。ガイノイドの琴線てどこだ、なんのコードだ?



「さぁマスター、口をお開けください」

「や、やめろ茶々丸!」

「食べ物を粗末にしてはいけませんマスター」

「い、いや、だから――!」

「さぁ――――」





――――ログハウスに真祖の悲鳴が轟いた。レアなもん見たな。


















「・・・・・意外にイケるな」

「でしょ?」


ニシン信者が増えた。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『建もの探訪』のテーマソングって何気に良い歌詞ですよね。






[15173] 漆黒の翼 #7
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:e7b962fa
Date: 2010/01/21 02:05
「ところで一海里、キサマ変わった技を使っていたな?」


しばらくニシン談義を続け、そこから何故かお気に入りのジブリ作品の話になっていたところで、エヴァさんがそう切り出した。

ちなみにコノカは『耳をすませば』、セツナは『もののけ姫』、エヴァさんは『紅の豚』、チャチャマルは『猫の恩返し』だそうだ。俺?俺は『ラピュタ』だよ。

で、何の話だっけ、・・・・ああ、俺の技のことね。



「数百年生きているが、見たことの無い流派だ。なんと云う?」

「【幻魔天翔流】です」


用意しておいたオリジナル流派名を答えた。



「・・・ふむ、やはり聞き覚えの無い流派だ」

「そりゃそうですよ、俺が名付けたんだもの」

「・・・シバくぞキサマ」


幼女に脅された。メッチャ怖いんだけど。



「・・・要するに我流か、見たこと無いわけだ。魔法は使えるのか?」


俺が模擬戦で見せたのは剣技と斧技、魔法は使っていない。
剣と違って魔法は我流で通すには厳しい。一般的な西洋魔術とじゃかなり違うからなぁ、俺の魔法は。



「使えますけど、普通の術じゃないですよ?」

「どういうことだ?」


内緒にしてくださいよ?


「物心ついたころからなんですが、頭ん中にボヤ~って術の形態というかやり方というか、そう云うのが入りこんできたんですよ。
それを感じた通りに練習したら、西洋魔術とは違った魔法が使えるようになったんです」

「新種の魔法ということか!?」

「どういう訳なのかは俺にもサッパリなんですけどね」


本当ではないが嘘でもない、詠春さんにもこう説明した。普通ではないことを理解したのか、あまり人前で使わない方がいいと言われたよ、バレたら大騒ぎだからな。決して公にはしないとも約束してくれた。
ここで態々バラすことも無いかもしれないが、エヴァさんにはきっとこれからも世話になると思うし、ヘタに誤魔化せば後が怖い。



「でも俺にしか使えませんよ?口じゃ伝えられないし、かなり概念的というか感覚的というか、そんな感じですから。言うなれば、俺専用魔法です」

「む、そうか・・・」

「できれば他言無用でお願いします、バレるといろいろ厄介なんで」


少し残念そうにする金髪幼女さん。しかしすぐさまズイッと身を乗り出してきた、顔が近いっすよ。


「その中に呪いを解呪できる術はあるか!?」

どしたんすかイキナリ、呪いがどうかしたんですか?


「私に掛けられた呪いを解け!今すぐ!!」






前に言ったように、エヴァさんは『サウザンドマスター』とか云う魔法使いに、この地に封印されている。その封印方法と云うのが件の呪い、【登校地獄】というふざけた名前の呪いなのだという。

休み以外は必ず学校に行かなくてはならない、麻帆良からも出られない、卒業しても1年生からやり直し、まさに地獄だ。


「・・・・ひどいっすね、『サウザンドマスター』」


しかも3年したら解呪しに戻るといった本人は行方知れず、というか死亡扱いらしいし、もう10年以上中学生を続けているそうだ。

オマケに卒業したら同級生たちから忘れられてしまう、・・・・絶望なんてもんじゃないだろうな。




「・・・・よし」

「いいんですか総統?仮に解けたとしても、後で問題になるんじゃ・・・」

「元々3年契約だったんだ、約束破った向こうの責任だろ」


鳥籠に入った鳥には自由なんて無いんだ。鳥には飛ぶ権利があるんだよ。





「エヴァさん、一応やってみます。でも、1つ約束してください」

「・・・・なんだ?」




「―――アチラから手を出してきたとき以外は、平穏に生きてください」

「・・・約束すると思うか?この【闇の福音】が」


―――――貫き殺さんばかりの視線が俺を射抜く。けど、譲らない、譲っちゃいけない。



「また『闇』に戻るっていうんなら、協力はできません」

「私に意見する気か?キサマを操ることなど容易いことなんだぞ?」

「・・・【闇の福音】はその程度のことでヒトを殺すような安い悪なんですか?」



そうだとしたら、幻滅だな。



「・・・・・・・・ふんっ」



そっぽを向くエヴァさん、さぁどうするんです?


「・・・私がこの場限りの嘘を吐いて、契約を違えるかも知れんぞ?」

「エヴァさんはそんなことしないでしょう?」

「・・・わかったようなことをっ」

「ジブリ好きで、あのパイを美味そうに食えるヒトに悪党は居ませんよ。エヴァさんは『悪』だけど『悪党』じゃないでしょ?」

「・・・・・・なんなんだオマエは」





エヴァさんはしばらく頭を抱えるようにした後、顔をあげコチラに眼を向けた。


「――――いいだろう、約束しよう。意味も無く殺しに走るなど、『悪』の誇りが許さん」



ありがとうございます。それじゃあ・・・・・。


「【来たれアデアット】」


ホーリークロスを携え、集中、魔力を練り上げる。そして――――――





「――――穢れを浄化せよ、【リカバー】!!」



状態を正常化させる癒しの魔法を唱える―――――――――








バチイィッ!!!





―――――浄化の魔法が弾かれた。





「~~~!!やっぱ駄目だったか、呪いが固すぎるぞコレ」


弾かれた反動で杖を持つ手に電気のようなものが走った、いってぇ。



「・・・・解けなかったか」

幼女落胆。



「スミマセン、俺じゃ力不足だったみたいです」

「いや、感覚からしてイイ線行ってたぞ、パワー不足だったがな」


お褒めの言葉を頂戴した。『最強の魔法使い』に褒められるって、かなりスゲェことなんじゃ?



「・・・・・・・うん、そうしよう」


何を1人で完結してんですか。

「他の魔法も見せてみろ、何かキッカケが掴めるやもしれん」


ソレはイイですけど、今度にしません?もういい時間ですし、今から人目を忍んで魔法を連発するのはちょっと・・・・。



「・・・・・む、そうだな。焦ることは無いんだ、うん」


希望が見えたせいか、若干嬉しそうだ。そうしてると、先程までとは違う魅力があるな。俺ロリコンじゃないけどさ。




「それじゃ、今日はこの辺でお暇します」

「おお、また来い。人目につかない場所を用意してやる」


誘いを受けてしまった。これは来ない訳にはいくまいて。


「それじゃあ」

「ちょっと待て」


なにか?




「・・・・・また、あのパイ作って来い」


ハマったんすか。




オマエら帰るぞ、ってコノカは?


「―――で、そこにオリーブオイルを――――」

「なるほどなぁ――――」


チャチャマルと料理談義してた。どうりで会話に入ってこないと思ったよ。
















 キーンコーンカーンコーン


―――――本日の授業終了。さあ帰るべ。

今日は特に予定なし。部活にも入ってないし、暇だ。

・・・この際だから、まだ行ってないところに足を運んでみるのもいいかもしんないな。何処行こうかなぁ・・・。


あ、そうだ、図書館島、まだ行ったこと無かったけか。

なんでも、明治の中ごろに学園創立とともに建設された世界最大規模の図書館で、2度の大戦の戦火を避けるため世界中から本が集められたとか。
それにしたって湖の中に建てなくても良かったんじゃなかろうか。

まあいいや、そうと決まれば行動開始じゃ。






――――やってきました図書館島。現在地上1階に居ます、本多過ぎです。

これで地下にもまだまだ有るっていうんだから、もう司書さんもやってらんないだろうなぁ。そもそも司書が居るのかココは?

そんな感じに辟易とする俺に声をかける猛者が1人―――――




「あれ?総統やん、なにしとるん?」


――――ウチの幹部だった。



「暇だったんでね、ちょっとぶらついてたんだよ。ココまだ来たこと無かったし」

「へえ」

「ん?珍しいな、セツナは一緒じゃないのか?」

「剣道部の練習に顔出しとるよ」

「なるほど」


まぁ、そういうこともあるか。そう1人で納得していると―――――



「あれ~?木乃香の知り合い?」


――――コノカの後ろからひょっこり出てきた2本の触角、もといアホ毛。それについて来たデコの広い娘っ子、そのまた後ろから隠れるように現れた前髪の長いショートヘア少女。


「友達か?」

「そうやえ、クラスメートや」


また個性あふれる面々だこと。と、触角娘がコノカに声をかける。


「なになに~?もしかして彼氏~?お姉さんにも紹介しなさいよっ、コノコノッ」

・・・ああ、こういう人なのね。


「アホなこと言ってないで話を進めるです。それで、こちらの方は?」

こちらは冷静沈着、淡々としているというか、なんというか。


「あ、あの・・・・、その、・・・は、はじめ、まして・・・・・」

こっちはこっちで恥ずかしガールだし。前髪長くないか?眼が悪くなるぞ。



「ウチの幼馴染の総統や」

「「「そうとう?」」」


そんな説明があるかバカモノ。


「初めまして、コノカの幼馴染やってるモンだ。総統はあだ名だよ」

「じゃあ何て名前なんです?」

「ミサト、『イチカイリ』って書いて、ニノマエミサトだ」


そっちはなんてーの?


「へぇ~?幼馴染ねぇ~?それだけぇ~?」


いいから早く言えっつうの。


「まぁいいわ、私は『早乙女ハルナ』だよ、よろしくっ」

「まったくハルナは・・・、ああ、私は『綾瀬夕映』というです」

「み、『宮崎のどか』です・・・よ、よろしく・・おねがい・・(ゴニョゴニョ)」


「ハルナ、ユエ、ノドカ、ね」

「もう呼び捨てですか」

「悪いけどそうさせてもらうよ?俺にはこの方が自然なんでね」

「まぁ、構いませんが・・・」




ところで、さっきからノドカの反応がヤバいんだけど。どうかしたの?


「・・・・!」


・・・あれ、もしかして・・・、俺に怯えてらっしゃるの?


「総統は眼付き悪いかんなぁ」

「す、すす、すみません・・・・・!」


あー、いいさ、恥ずかしガールには俺の眼光は酷だったな。ごめんよ。


ちなみにキミら何してんの?


「ウチらは『図書館探検部』の活動中や」



・・・・探検?


「解説するです!『図書館探検部』とは――――!」


デコ娘がイキイキとしだした。興味あることに力を発揮するタイプか。


解説によれば、この図書館島は蔵書の増加に伴い地下に向かって増改築が繰り返されたため、現在ではその全貌を知るものがいないのだという。
その実態を調査するべく、中・高・大合同サークル『図書館探検部』が存在しているのだ、というのがユエの弁。奇特な部活もあったもんだ。


「地下深くなるほど危険が増すです。貴重な蔵書を泥棒から守るために多くの罠が仕掛けられているんです」

じゃあどうやって貸し出すんだよ。本当に図書館かココは。




「あ、そうや!」

なんだねコノカ君、何をひらめいたのだね?


「あんなぁ、総統も図書館探検部に入らへんか?」


この奇特部に俺がか?


「せっちゃんもこっちに兼部しとるんやけどな、強い人がいっぱいおった方がええ思うんよ」

「木乃香、ミサト君て強いの?」

「せっちゃんに負けず劣らずや」

「それは頼もしいですね、このかさんの知り合いなら信用できそうですし」


勝手に進めんなよ、いやイイんだけどさ入っても、でもノドカはどうすんだ?俺が居たら怯えっぱなしだぜ?


「この際、のどかの男性恐怖症を治すいい機会かもしれないです」


そういうもんか?


「え、えっと、・・・わ、私、が、がんばりましゅ・・・!」


・・・・ホントに大丈夫かよ。





―――――というわけで、俺はめでたく図書館探検部の一員となったわけだよ。

それからしばらくの間、全員で館内を散策。ハルナが何か猛烈な勢いで描いているが、何だろうか。そしてノドカはビックビク、前途多難だよこりゃ。







――――そんなこんなで、日も暮れた。今日はココまでだな。


「そんじゃ、これからよろしくね~、あ、これオチカヅキの印ってことで」

そう言ってハルナが手渡したものは、紙束のようなもの。



「ハルナ・・・、またアナタは・・・・」

ユエがデコを抱えている、なんじゃらほい?表紙には『タカ×ミサ新刊』と書かれている・・・・。



・・・・ああ、「腐」のヒトなのか。つうか即興で描いたのかコレ、すげえな。

めくって読んでみる。・・・・へぇ、絵ぇ上手いなぁ。





「・・・・・・・・」



「いや、アナタもここで読まなくても・・・・」

「は、はう~~・・・」






「・・・・・・・・・・・・・・・」







パタンっ




「・・・・・・ハルナ」

「ん~~?」



喜色満面の触角メガネ、反応を楽しんでるようだ。

ソノ笑みに、俺は―――――――――










「―――――ココもうちょい掘り下げないと読者が感情移入できないぞ?」




―――――――冷静な批評を下した。







「「「「・・・・・・へ?」」」」


俺以外全員ポカン顔、そんなにこの反応が意外か。


「この雨の中を『タカミツ』が追いかけるシーンとか、心理描写がほしいな。モノローグとか入れるといいんじゃねえか?」

「え、ああ、うん、ありがと・・・・・・」


なんだ、ちゃんとアドバイスもしたのにソノ反応は。



「・・・・え、えっと、ミサトさんは、その、・・・・・『ソッチ』のヒトなんですか?」


違えよ馬鹿デコ。



「他人の趣味にケチ付ける気は無いんでね、マイノリティーには優しいのよ俺は」

「そ、そうですか、ビックリしたです」

「ホンマやえ、総統がどっか遠いトコに行ってしもうたんかと思おたわ」



オマエを置いてはいかんさ、俺は総統だからな。

ま、なんにしろ、仲良くやってけそうだな。


































「あと、ココの『ミサオ』のアレをもうちょい大きく描いた方が・・・」

「・・・ナニ見栄張ってるですか」


見栄じゃないやい。











◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



多少の無理には目を瞑ってくださいませ。








[15173] 漆黒の翼 #8
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:e7b962fa
Date: 2010/01/21 17:13
本日は土曜日、例によって暇を持て余していた俺は、午前中からネットサーフィンに勤しんでいた。ちゃんと繋がってるよ、回線。

買ったゲームの攻略サイトやらマンガの感想掲示板やら、見たいところは一通り巡回したんで、現在適当に検索エンジントップの芸能ニュースなんかを覗いているところだ。


・・・そういや前に検索かけてみたけど、「テイルズシリーズ」って打ち込んでもヒットしなかったんだよな、当たり前だけど。やはりこの世界には存在しないみたいだな。
ソレに関するモノ、例えばオープニング曲とかも無かったよ。歌手自体はいるけど、歌は出してないみたい。残念だ。


ボヘ〜っとアホ面してディスプレイを眺めていた俺だったが、その視界にチラリとあるバナーが入り込んできた。



――――――『ネットアイドル掲示板』?



ネットアイドルねぇ・・・、この手のサイトは覗いたことないから実態がつかめん領域だな。いったいどんな娘っ子が集まっているのだろうか。



・・・・ちょっと覗いてみるか。


好奇心に駆られた俺はバナーをクリック、ポチっとな。


ディスプレイにズラリと少女達のサムネイルが現れた。ほぉ、なかなかのレベルじゃないか。

でもこういうのって大体顔に修正かけたりしてんだろうな。今の技術はスゴイから、二重にするのも輪郭削るのも楽勝だろう、・・・・考えたら少し悲しくなってきたよ。


トップにはどんな奴が君臨してんだろ?スクロールスクロールっと・・・。



・・・この娘か、ハンドルネームは『ちう』、コスプレ写真が多いな。これまたレベルが高いこと・・・・。

なんだこのコメント、「みんな、ちうを応援してくれてありがとうなのら〜、きゃっる〜ん♪」って、すっげえブリブリってますよ。





・・・・・・・ん?


・・・なんか、どっかで見たことあるような?ソレもつい最近・・・・、でも俺の知り合いにこんなにハッチャケてる奴いたっけ?




・・・・・駄目だ、わかんねえ。気のせいだろうか・・?

まあいいや、それより作曲の続きでもしよう。音楽ソフト入れたんで、記憶を頼りにテイルズソングを創ってる最中なんだよ。これでも音楽は得意なのさ、カラオケとか大好きだ。



それからしばらくキーボードと格闘する俺、難しいなこれ。


・・・・・ディスプレイ見続けたせいか、ちょっと疲れたな。外にでも行くか―――――――――






――――さて、今はちょうど昼飯時だ。腹も減ってきたことだし、どっかにイイ店ないかなっと・・・。




「ハイイイイィ!!!」


 ドカッバキッドグシャアァッ!!


「「「ぐほああああぁ!!!」」」




―――――前方30メートル先で屈強な男共が宙を舞っていた。


・・・・またやってるよ。出かける度に見てる気がするな、このあり得ない光景。
あの女の子ナニモンだよ、褐色の肌にチャイナ服、クリーム色の髪を二つに纏めた・・・・


「さあ!次の相手は誰アル!?」


・・・・わかりやす過ぎるほどの中華キャラ口調。所謂一つのバトルジャンキーだ。

・・・吹っ掛けられちゃかなわん、サッサとメシ屋を探そう。


そう歩を進めようとした俺の前に――――――――――




「ごっほあああああっ!!!」



――――――むさ苦しい呻き声と共に野郎が空から降ってきた。



こっちに飛ばすんじゃねえよっ!「親方、空から男の子がっ!」とでも言うと思ったか!!

反射的に腕で受け流すように身体を捌き、ムサクルボディプレスをかわす。アブねえアブねえ・・・。



・・・・と、なんか視線を感じる。とても嫌な予感がする。

頭ん中に響く警鐘を耳に感じながら、目線を前に移すと――――――



「むむっ、ソノ体捌き!タダモノじゃないアルな!?」


・・・・チャイナ娘が、新しいおもちゃを見つけた子供のようなキラキラワクワクした眼でこっちを見てた。・・・・うそーん。




「いざ尋常に勝負アル!!」


チャイナが俺目掛け猛然と距離を詰める!こっち来んなぁ!!



「ホアタアアアアッ!!」



一瞬で目前まで詰めた勢いそのままに、中段蹴りを放つ!!

その蹴撃を体勢を極限まで落とし紙一重で避ける!

チャイナ、そのまま踵落としに移行!俺、バッタのようにバックステップ!!

再び俺に迫り左腕を引き絞るチャイナ、くそっ、こうなりゃ!



「【崩拳】!!」
 「【掌底破】!!」



拳と掌がぶつかり合う!!眼を輝かせる中華娘々、・・・これ以上付き合えるかっての!!

右掌に氣を込め、引き抜くと同時に・・・・爆ぜろっ!!



「【烈破掌】!!」

「っ!!?」



氣の爆発に巻き込まれ吹き飛ぶチャイナ!

一気にケリを――――――――――――つけずに回れ右して一目散!!さらばだ明智君!!!


チャイナがなんか喚いてるが知らんっ!アーアーキコエナーイ!!
とにかく駆ける、ひた走る、無駄に闘いたくないんだよコッチは!!!


メンドウという名の危機を脱すべく、俺はストリートを何も考えず駆け抜けるのだった―――――――








――――――そして何も考えずに走った結果、山の中に来てしまった。・・・・・走り過ぎた。

メシ食うハズだったのに何故こんな所に・・・、くそぅ、みんな社会が悪いんだ!!


・・・・しかたない、川で魚でも獲るか。数週間山道を歩き続けた経歴を持つ俺はサバイバル術も身につけているのだ、魚くらい訳無いさ。

まず川を探さねば。どっかにあるだろう、俺の勘からして。森林浴でもしながら探索しますかね。




――――そうして獣道をテクテク歩いたところ、なにやらヒトが居た形跡を発見。焚き火跡にテント、ドラム缶もある。ちょっとしたベースキャンプだなこりゃ。


・・・・山男でも居たのか?


恐る恐るテント内を覗きこむ、・・・・・誰も居ねえな―――――――




「おや珍しい、お客人でござるか?」



――――――気配も無き背後から若い女の声。誰だこんな山の中に、アヤシイ奴めっ!



「他人のテントを覗きこんでる御仁に言われたくないでござるよ」


御尤も。で、ドチラ様だい、糸目のお姉さん。このキャンプの主かい?


「いかにも、ココは拙者の修行の拠点でござる。それと、お姉さんと呼ばれる程歳は離れていないでござるよ、まだ中1故」

「タメかよ」

「ニンニン」



俺よりデカイじゃねえかよ、少し分けてくれ。胸の方はウチの部下に。



「して、其方は何用でここに?」

「用は無い。バトルジャンキーチャイニーズから逃げてたらいつの間にかココに。仕方ないから川で魚でも獲ろうかと」


ソッチは修行とか云ってたな。なんの修行だ、花嫁修業か?


「山に籠っても嫁ぎ先は見つからないでござるよ」


そりゃそうだ。じゃあなんだ、まさか忍者じゃなかろうな、さっきからわかり易いくらいござるござる言ってるけど。


「はて、なんのことでござろう?」


うわーぉシラバックレたよ、こんなに証拠が物語ってんのに。でも逆に証拠があり過ぎて怪しくないかもしんない、容疑者から真っ先に外れるタイプだ。



「川に行くなら案内するでござるよ、ちょうど昼時、拙者も魚を調達するでござる」


おおサンクス、&サークルK。ありがとう、忍者かと思いきや忍者っぽい別の何かである年上風味の同級生。


「長いでござるよ、拙者の名は『長瀬楓』と申す」

「カエデ、ね。俺はミサト、一海里だよ」

「ではミサト殿、川へ参るでござる」

「御意」

「おお、いいノリでござる」


いざ行かんリバーサイド。






「―――ところでさっきのチャイナがどうのと申していたが、多分拙者のクラスメートでござるよ」
「マジでか」

そんな会話をしているうちに、目的地に到着。きれーな水だこと、関東のド真ん中とは思えん。



「では早速」

そう言ってカエデが懐から取り出したるは鉄製の棒、所謂「クナイ」だろうか。流れるような動きで3本投擲、見事全弾命中。スゲエな忍者もどき。


「んじゃ俺も、ソレちょっと貸してくれる?」

「あいあい」


手渡されたクナイを構え、ヒュイっと投擲。しかし得物は獲物に当たらず水中へ、だが本領はこっからだ。右手の指を2本立て、手首を軽く振る。




「忍法 【雷電】っ」


ピシャンっと水中のクナイ目掛けて極小の落雷、当然感電、5匹ほど魚がプカリと浮かんできた。




「・・・・ミサト殿、忍者であったでござるか?」

「さあ?」

「今思いっきり「忍法」って言ってたでござる」

「空耳じゃない?タモリ倶楽部に投稿してみたら?」


カエデは九割九分九厘忍者だろう。気配の絶ち方、氣の張り方、その他諸々が常人とはかけ離れてる。なら俺も忍法くらいなら使っても問題無かろう。



「修行の賜物、とでも言っておくよ」

「拙者と手合わせを願えるでござろうか?」

「パスだ」


こいつもバトルジャンキーか。眼ぇ輝かせんな糸目のくせに。






食う分を獲った俺たちは、ベースキャンプに戻って焚き火で焼いて調理することに。その辺の枝に刺して塩ふって、焦げ目がついて脂が滴ってきたら食べ頃だ。


「「いただきます」」


素材本来の香りを楽しみながら2人してカブリつく。魚ってこの食い方が一番うまいんじゃなかろうか。




「しっかし、麻帆良ってのは変人の巣窟だな」

「自分もその一員と云う自覚はあるでござるか?」

「一応な」


ムシャムシャ食いながら会話する俺とカエデ、雰囲気など欠片もない。


「カエデはココに住んでのか?」

「休日だけでござるよ、ずっとここに居てはルームメイトが心配する故。ミサト殿も寮暮らしでござるか?」

「まあな、ソッチと違って一人部屋だけどね」

「悠々自適と云う訳でござるか」

「そゆこと」


会って間もないのに会話が途切れないってのはいいな。気まずくなんないし、何よりメシが美味くなるってモンだ。


「そういえば、もうすぐ学園祭でござるなぁ」

「珍しいよな、ソノ手の祭りは秋ごろやるもんだと思ってたけど」

「場所それぞれでござろう」

「それもそうか。カエデんトコのクラスは何やるんだ?」


3匹目の岩魚に手を伸ばす。幾らでも食えるなコレ。


「それがまだ決まって無いでござるよ、なかなか意見が纏まらないんでござる」

「どこも似たようなもんだな、ウチのクラスもそんな感じだ」

「A組は積極的な生徒が多いでござるが、すぐ話が横道に逸れてしまうのでござるよ」

「え、カエデ、A組なのか?」


何気に重要キーワードじゃねえか。


「そうでござるが、ミサト殿もA組でござるか?」

「まあそうなんだが、そうじゃねえんだ。近衛木乃香と桜咲刹那って知ってるか?」

「このか殿と刹那でござるか?もちろん知っているでござる、クラスメート故」

「幼馴染なんだよ、ソイツら」

「なんと」


奇妙な縁だこと。友達の友達は友達でしたよ。



「もしや、2人の会話から偶に出てくる『総統』とは?」

「ああ、俺だな」

「と云う事は、真名が言っていた最近知り合った面白い奴というのも・・・」

「ソッチは知らねえ」


マナの奴、一体何を吹聴してやがるんだ。


「むむっ、真名が認めるという事はやはり相当の実力者、是非手合わせを!」

「パス2だ」

「あと1回パスしたら罰ゲームとして拙者と闘ってもらうでござる」

「七並べじゃねえんだから」


そんなローカルルールは知らん、無視してやる。


「どうしても嫌というのでござれば・・・・・」


ござればなんだ。


「ミサト殿に山中で襲われ揉むに揉まれたって報道部に駆け込むでござる」

「なっ!テメェ汚えぞ!!俺を社会的に殺す気か!!」

「汚れ仕事も忍の務めでござる」

「今「忍」って言ったな、ハッキリと」

「ブラタモリに応募すると良いでござるよ」


空耳コーナー無いよ、その番組。


「さあ、どうするでござる?」


「・・・・・・わかったよ、やりゃいいんだろ」

「おお!では早速・・・!」

「ただしまた今度だ、今日は駄目だ、テンションが上がらない」


しゅんとするカエデ。そんな捨てられたアレみたいな顔すんなよ、モヤモヤすんだろが。


「アレってなんでござるか?」


アレはアレだっての。約束は守る、だから元気出せって。


「・・・ウソ吐いたらチャイナ娘を連れ立って昼夜を問わず襲撃を仕掛けるでござるよ?」


やめろっつの。


「冗談でござるよ、楽しみにしてるでござる」


一転、鼻唄を歌い出す糸目忍者。喰えない奴だよホント。







「ほんじゃあ、帰るわ」


昼食も摂り終えたのでお暇させてもらう。


「手合わせ、待ってるでござるよ」

「へいへい、都合がいい日がわかったら連絡するっつーことで」

「あいあい♪」


今時は忍者もケータイ持ってる時代なんだな。俺のアドレス帳にどんどんA組女子の名前が増えていくんだが。


・・・・そういやチサメは何組だ?今度逢ったら訊いてみるか、いつになるかわからんけど。




こうして自然の恵みを堪能した俺はカエデに別れを告げ、再び街へと降りて行ったのだった―――――


















「見つけたアル!いざ勝負!!」

「嫌だってのっ!!!」


またチャイナに発見された。
















[15173] 漆黒の翼 #9
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:e7b962fa
Date: 2010/01/21 03:00
 ミーンミンミンミンミーン




あっづいな・・・・・・。

現在8月下旬、夏真っ盛りだ。太陽ギラギラ、アスファルトむわむわ、猛暑を通り越して酷暑だ、暑いったらありゃしないよ。








・・・・え、学園祭?とっくに終わったじゃねえか、何言ってんの?



それにしてもあの規模は半端じゃなかったなぁ。
連日連夜のお祭り騒ぎ、アッチもコッチもカーニバル状態でてんやわんやだったさ。


ウチのクラスは射的屋、セツナたちのトコは喫茶店だった。シフトの合間に遊びに行ったり遊びに来られたり、いろいろ楽しませてもらったよ。
あのクラス全員レベルが高いっすよ、オーディションでもしてんのか?


マナがウチの店に来て無双していったのはまだ記憶に新しい、あんときはクラス全員お手上げ時々土下座の嵐だったな。
本職のスナイパーが来ちゃだめだろう、コッチは大赤字じゃ。


あと、セツナたちのクラスに行ったらチサメが居たのには驚いた。大変だなアイツ、学園で一番非常識な場所に居るんだもの。ていうか俺の知り合いはA組ばっかか。
よう、って声かけたらすっげえ渋い顔してた。なんで居んだよオマエ、と眼鏡越しに伝わってきたよ。

それにアノ拳法中華、『古菲』っていうんだけど、顔合わせた瞬間襲いかかってきた。TPOをわきまえろ。カエデもニンニン言ってないで止めろよ。



結局コノセツの幼馴染ってことでクラス全員に顔覚えられてしまった。一部しつこいパパラッチが居たけど気にしない方向で行こう。


そういや、そん時ようやくコノカのルームメイトに会ったんだよな。『神楽坂明日菜』っていうツインテールのオッドアイ娘。キャラ立ちまくりだな。


あとは、クラスの男連中とアチコチ回ったり、【漆黒の翼】の3人でエヴァさんとチャチャマルの所属する茶道部の野点に顔出したり、ロックコンサート観に行ったり。何時か出たいなアレ。








・・・・うん、すごく楽しかった、最高だね麻帆良祭。来年が今から楽しみだ。








さて、思い出話も済んだところで夏に戻ろう。

現在午前11時、現在地は俺の部屋、なにしてるかってーと――――――





「ミサト殿、この問題どうやって解くでござるか?」
「コチもわからないアル」
「・・えっと、私も」


「このちゃん、ココは?」
「あ、ここはなぁ・・・」




―――――夏休み宿題講座を開講してます。・・・・・・なんで俺の部屋で?





女子中等部1-Aには成績が学年底辺のおバカ達、通称「バカレンジャー」なる5人組が存在するそうな。
そしてこの忍者と中華と二尾はそのメンバー、順にバカブルー・バカイエロー・バカレッドである。

レッドは同室のコノカに助けを求め、そこにセツナもやって来て、更にソレに乗じて教わりに来たブルー&イエロー、といった豪華メンバーが集結。
大所帯となりコノカ1人の手に負えなくなったため、俺に出動要請がかかったという訳だ。
ちなみに残りのレンジャー2人はバカブラック・ユエ、そして『佐々木まき絵』という新体操おバカ、バカピンクである。アッチの方はノドカとかが何とかするだろう。


・・・しかし、ノドカの奴は一向に俺に慣れないようだ。
目線を向ければビクっ、一息つくとビクっ、俺が居るとビクビクっ、男性恐怖症克服とか言ってたけど逆効果なんじゃなかろうか。
アイツはもっと他の、例えばもうちょいカワイイ系の年下男子辺りから慣れていった方がいいんじゃねえか?



ソレはさておき、なんで俺に白羽の矢が立ったかっていうと、俺は一応成績上位組なのさ。だから臨時講師として指導することならできなくはない。コノカも上位組だ。

あ、セツナの成績は少々ヤバめ、結構低空飛行だ。駄目だよ剣ばっかりじゃ、このままじゃポストバカレンジャーだよ?




でもやるのはイイけど、なんで俺の部屋なんだよ。廊下で会った他の野郎共から敵意の視線がグサグサ来てんだけど。


「公共の場じゃ騒ぎが起きた時に迷惑ですし、女子寮じゃ総統は入れないじゃないですか」

なんで騒ぎが起きること前提なんだよ、宿題如きで何が勃発するんだよ。

「A組のバイタリティを舐めてはいけませんよ?」

何の自信だ、何の。


「ええやん、女の子いっぱいで嬉しいやろ?」

オマエらが居れば十分なんだがなぁ。







――――そんなこんなで勉強会続行中。


「う~、体動かしたいアル・・・」
「右に同じでござる・・・」

「ノルマが終わるまで戦闘行為禁止な、破ったらもう相手せんぞ」

「「ううううぅ・・・・・・」」


バトルジャンキーズ、眼に見えて落胆。
結局この2人とは偶に模擬戦をする仲になってしまった。今は宿題を先にコンプリートした方が優先的に相手をする、と云って効率をあげている。面倒だが仕方ない。

今まで模擬戦の相手はセツナばっかりだったから、戦闘スタイルの違う相手ができてよかったと言えばよかったんだけど・・・・・手強いんだよなあ、この2人。
クーの拳法もそうだけど、カエデの忍術が厄介なことこの上ないんだよ、分身とか反則だって。

この前やった時は――――――――









「「「――――っは!!」」」


――――前方から無数の手裏剣が飛来する!


「【秋沙雨】!!」

ソレを高速の乱れ突きで叩き落とす!


右前方と左後方に気配、右を木刀、左を肘で防御!直後に背後に現る忍者、両側の分身を弾き飛ばしクロスガード!


「ぐぅっ!この・・・、【獅子戦吼】!!

衝撃に耐え、瞬時に距離を詰め入魂の一撃!だが、その姿はヒットすると同時に煙と化した。

消えた分身に気を取られた隙に、四方に4体の新たな分身を配置。右手に氣を凝縮、俺目掛け同時攻撃!


「楓忍法!!【四つ身分身 朧十字】!!」

我が身に掌底が叩き込まれる直前、木刀を逆手に持ち地面に突き刺す!


「【守護方陣】!!」

浮き上がる円陣が4体の分身を弾き返す!





「むむ、デキルでござるな・・・」

「そりゃどうも」


・・・嬉しそうな顔しやがって。分身同士のコンビネーションがトンでもねえよ、幻じゃなくて実体持ってるし。



「ならば、ハイっドン!更に倍!!でござる!!」


カエデの姿が一気に16体に増えた、・・・・勘弁してくれよ。
そのままワラワラ動き出す分身たち、・・・うっぷ、何か酔ってきちゃった・・・。




「「「「ふっふっふっふ」」」」
「「「「「さあ、どれが本物か」」」」」
「「「「「「「わかるでござるか、ミサト殿?」」」」」」」


サラウンドで話すんじゃねえ!


「っなめんなよ、【インスペクトアイ】!!

双瞳を強化、敵情報を読み取る!




[ブンシンカエデ][ブンシンカエデ][ブンシンカエデ][ブンシンカエデ][ブンシンカエデ][ナガセカエデ][ブンシンカエデ][・・・・



「見えた、左から6番目ぇ!!【魔神剣・双牙】!!

「っ!?」


瞬時に木の上に跳躍するカエデ、地を這う斬撃を回避する。



「本体を見抜かれるとは、いやはや・・・」


このまま本体集中攻撃しちゃる。


「しからば物量作戦でいくでござる、全員構え!!」


ソレはマズイ!こんな量捌き切れねえよ!!どうするよ俺、どうするよ!?

氣を滾らせ、手裏剣を構え、もはやいつでも総攻撃が仕掛けられる状態だ。


こうなりゃコレだ!
魔力を練りながら両手で印を組む、目には目を、忍術には忍術を!!忍者伝統の召喚術を見やがれ!!



「忍法 【児雷也】!!」


 ぼわんっ



煙と共に俺の足元に出現したるは、体長数メートルの大ガマ―――――――




――――――ではなく、10センチほどのガマガエルだった、・・・・・・もう少し練習しとくんだった。


とりあえずコイツどうしよう?投げつけてみるか?




―――――と、臨戦態勢から一転、カエデたちが妙に大人しくなる。どうした急に、と思ったら・・・・





 バタバタバタバタバタバタッ



・・・・・全員、泡吹いて倒れた。え、このカエル、毒霧でも吐きだしてたの?



木から落っこちた本体のカエデにそっと近づいてみると。




「か、かえ、かえる・・・かえるが・・・・」



青い顔でなんか呻いてた。


・・・・え、カエル苦手なの?忍者なのに?




――――その後、「忍法【児雷也】」はカエデの前では全面使用禁止となった。というか、使わないでって泣きながら懇願された。・・・オマエ、ホントに忍者か?









―――――こんな感じだったな、うん。


・・・・あれ?そういや、さっきからアスナが大人しいな、行き詰ったか?




「~?☆?♯?♨?」


・・・・・頭からSL並に煙があがっていた。大丈夫かコイツは?



「・・・もう、だめ、あたまばくはつしそう・・・」


マズイな、漢字に変換する処理能力も無くなったか。



「しっかりしろアスナ、オマエのポテンシャルはそんなモンじゃないハズだ」

「ぽてんしゃるもえっせんしゃるもないわよぉ・・・」


どうするかな・・・、たしかアスナは担任の高畑さんに惚れていると聞く、ならば・・・。


「気をしっかり持て、ココで倒れたら高畑さんに顔向けできんぞ」

「っ!た、高はた先せい!!」


持ち直してきたな、もうひと押しだ。


「そうだアスナ!見事この難局を乗り切った暁には、きっと高畑さんが御褒美をくれるぞ!ハグとかが待っているハズだ!」

「高畑先生乃覇愚!!」


余計なモノまで漢字になってるが、まあいい、押せ押せだ。声色を渋くして高畑ヴォイスに・・・。


「『アスナ君、よく頑張ったね。困難を乗り越えたキミは何処か輝いて見えるよ』」

「い、いえっ!そんな、私なんてっ!!」


「『ああ、僕はどうして気がつかなかったんだ。こんなにも魅力にあふれた女性が傍に居たというのに・・・』」

「み、魅力にっ!?」


「『さあおいでアスナ君、僕の可愛いヒカリの天使・・・』」

「てっててて、てんしいいい!!??!?」



「さあアスナ、今こそ飛翔する時だ!!この暗闇を抜けたその時、オマエは鳥になる!!彼の人の元へとはばたく鳥にっ!!!」

「おおおおおおお!!鳥よ!!!鳥になるのよわたしいいいいいいい!!!!」



・・・・・・ノセやすい奴だ。バリバリ解き始めたよ、正答率はともかくとして。


「総統が一番騒いどるえ?」

こりゃまた失敬。





―――――昼食をはさみ、再び勉強。さあガンバレ、もう一息だ。


「ミサト殿、この式でござるが・・・」

「そこはコッチの値を代入すれば一発だ」


「総統、この文章はどう訳せば?現在の話かと思って読んでたらなんか変な感じに・・・」

「Heの後の動詞がreadになってるだろ?三人称のsがついてないから過去形ってことだ」


うむ、みんな勉強熱心で大変ヨロシイ。


「・・・・・(コソコソ)」


・・・おいソコ、なに他人の机ゴソゴソあさろうとしてんだ。

「い、いや、別に写させてもらおうなんて考えてないアルよ?手取り早い方法がいいなとかも思てないアル」

「それじゃ身に無らんだろうに。積み重ねが大事だって、拳法家ならわかるだろう」

「うう・・、勉強は嫌いアルよ・・・」

「留学生に日本語は難しいかもしんないけど根性でなんとかしろ、それでわかんなかったら俺を頼れ」

「ココどうやるアルか?」

「もうちょっと粘れよ」




・・・・・ん?またアスナが静かになったな、もっかい焚きつけてみるか?




「――――トリ、トトリニ、トリナル、トリナルワタシシガガピガピ――――」


ヤバイ!思考回路がショート寸前だ!!


「あかん、アスナが重症や!」
「総統が変に煽るからですよ!」
「クー!早くチョップを!斜め45度だ!!」
「ホワチャァッ!」
「ぴがぶっ!?」
「ああ、煙が白から黒に!逆効果でござるよ!!」

助けてタキシード仮面!







――――とりあえず水に浸すことで事なきを得た。


「お花畑で見渡す限りに渋いオジサマたちが手ぇ振ってるのが見えたわ・・・・」

「地獄絵図だな」

「極楽よ!!」

「断言した!?」


・・・・・やっぱ自分のペースが一番だな、うん。




















「まあ、この調子なら最終日までには終わるさ」

「・・・・そう云うアンタはどうなのよ、宿題ちゃんとやってんの?」

「7月中に終わらしたに決まっとろうが」

「「「・・・・・・・このブルジョワめ」」」


意味がわからん。












◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



はやくネギ来日にまで持っていきたい・・・・。









[15173] 漆黒の翼 #10
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:e7b962fa
Date: 2010/01/21 02:06

《―――それでは皆様、よいお年を〜〜〜》



・・・・・・今年は白組が勝ったか、相変わらず小林さんは衣装が派手だったな。




本日、12月31日。日本人には説明不要の大晦日。
歌合戦の勝敗と云う割とどうでもいい情報を手に入れた俺は今、茶を啜り、ゆく年くる年を観ながら炬燵に足を突っ込み暖を取っている。


現在地はもちろん俺の部屋、炬燵はこの冬に例の電気屋で買ったモノだ。オプションのミカンは欠かせないぜ。




・・・え、もう冬なのかって?時が経つのは早いんだよ、「光陰矢のごとし」っていうだろ?




2学期もいつもどおりの毎日だったなぁ。

朝学校行って、
夜侵入者をシバいて、
休みにコノセツと買い物行って、
図書館を彷徨って、
ノドカにビビられて、
魑魅魍魎をぶっ飛ばして、
エヴァさんの家でお茶会して、
男友達と遊び行って、
クーの相手して、
体育祭で盛り上がって、
カエデと模擬戦して、
テスト勉強して、
それから・・・・・・・




・・・・列挙してみたらスゲエ充実してんな、俺の生活。恵まれた環境だよ、ココは。楽しい一年だったなぁ・・・・。



そんな感慨を胸に、俺はヘロヘロの身体に喝を入れ、来年も楽しく生きようと決意するのだった。






・・・なんでヘロヘロなのかって?


・・・・・・行ってきたからだよ。聖地に、戦場の有明に。部下2人も一緒に。





ハルナに、「修羅場なのよ〜人手が足りないのよ〜」としつこく懇願され、やむなく原稿のベタ塗りやらトーン貼りやらをやらされたまではいい。

だがヤツはそれだけに飽き足らず、この3日間売り子だの何だので俺たちを祭にフル出場させやがったんだよ。

終いにゃ「手分けしてお目当てのモノを手に入れろ」とか言って、俺を買い出しに使おうとする始末だ。


マイノリティーへの優しさに定評のある俺でもさすがに断った、ややキレ気味に。
理解はあるが許容範囲を超えてるんだよ。男に買いに行かせるモンじゃねえだろ、オマエのお目当ては。

その様子を見た売り子嬢ノドカ&ユエは、同情の眼差しを俺に向けていた。ノドカも今回ばかりは俺に共感してくれたようだ。


コノカも顔を赤らめながらも売り子に勤しんでいた、真面目さんだねぇ。

セツナなんか終始顔が真っ赤、紅蓮・la・顔グレン・ラ・ガンだったよ。コイツには刺激が強すぎたか。


ハルナんトコは、ココじゃ割と人気サークルらしく、かなりの部数だったにもかかわらず残らず売りきった。

しばし自由時間を貰ったので、3人でうろつくことに。女2人連れてコミケなんて、周りの野郎共に包丁で刺されそうなシチュエーションだな・・・。

せっかくなので何冊か買うことにした。・・・エロじゃねえぞ?全部ギャグ物だ。

結構デカくてカゲキなポップ作ってるところも多く、コノセツは顔面紅葉娘と化していた。
俺をとがめるような、「エロスはホドホドに」と言わんばかりの視線を向けたりしてたなぁ。エロ系は買ってねえっての。

途中、見たことあるようなメガネが居たような気がしたが、気のせいだろう。

そんな感じに歩き回っただけで、体力を根こそぎ持って行かれた。人多すぎるぞ、油断するともう二度と会えなくなりそうだ。



「どしたのミサト君?テンション低いよ?」

「・・・テメェがさんざん扱き使いやがったからだよ、触角メガネがっ」

「触角メガネ!?ヒドくない!?」

「酷くない、もう二度と手伝わねえからな」

「そんなこと言わないでよォ、売り上げの一部は献上するからさっ」

「困ったことがあったらいつでも言えよ?俺たちは図書館部の仲間なんだからな」

「切り替え早っっ!!」








―――――そんなこんなで無事帰還したので、ゆったりたっぷりのんびりとヌクヌクしているという訳だ。ハルナ、ノドカ、ユエはそのまま実家に帰ったようだ。


やっぱ大晦日は、こうして紅白観ながらのんべんだらりと過ごすのが一番だよ・・・・・






「私はK-1が観たかたアル」

「良いではござらぬか、これも日本の伝統でござるよ」

「あ、ミサト、そこのミカン取って」

「おそばできたえ〜」

「あ、手伝いますこのちゃん」




・・・・なんで居るんだよオマエら。





――――帰って来てから俺はずっと部屋でだらだらしていたのだが、しばらくして俺の部屋のチャイムを鳴らすモノが現れた。

誰かと思って扉を開ければ、そこに居たのはウチの構成員+バカレンジャー3人。

聴けばクーとカエデは同室の奴が実家に帰ったとかで暇してたらしい。なのでコノカの部屋に行ったところ、


「せっかくやから、みんなで年越そ♪」


という一言で俺んトコに来たらしい。



・・・・いつから俺の部屋はコイツらの集会場になったんだろうか?


確かにこの部屋は他の部屋より広いんだけどさ。なんで1人部屋なのにこんなにスペースがあるんだろうか。学園長の配慮か?何に対しての配慮なんだコレは。



結果、男1人に対して女5人。これだけ聴けばミラクルハーレム状態だ、ウレシクないと言えばウソになる。

・・・でもなぜだろう、嬉しさより哀しさが勝ってしまっているよ。
コノセツはわかるよ、でもオマエら3人はなんなんだ。男の部屋に居るという意識はないのかオドレらは。


「アンタじゃ渋さが足りないわよ。わ、私には、高畑先生がいるし・・・・」
「拳を交えた者同士、言葉は不要アル!」
「右に同じでござる」


・・・・なんとも嬉しいお言葉を頂いた。


くそぅ、寝込みを襲ってやろうかしら?

「襲ったらあかんえ?」

「当然だよ、英国紳士としてはね」

「アンタ思いっきり日本人じゃない」

無粋なツッコミはよしとくれ。
まあ、コノカ特製の年越しそばも食えるからいいか。



「おそば、ちゃんと数足りとる?」

「『数』と言えばこんなナゾを知っているかい?」

「まだそのネタ引っ張ってんの?」


「3以上の自然数nに対して、 (xのn乗)+(yのn乗)=(zのn乗) を満たす0以外の自然数x,y,zは存在しないという・・・」

「「「「????」」」」

「そんな数学界のナゾを突き付けられても困るわ」

「アイドル評論家ってどうやって生計を立ててるんだろうな?」

「ソレはただの疑問や」


「自然数」という単語が出てきた辺りから、レンジャー+予備軍が煙をあげてしまった。もう少し頑張りましょう。




みんなしてズルズルそばを食っていると、ふと疑問が。


「そういやマナは?」

「実家に帰りましたよ、神社の手伝いをするとかで」


ああ、近くの神社の娘だったなアイツ。この時期は何かと忙しい商売だからなぁ。
・・・年が明けたら初詣がてらヒヤカシに行くか。





そうこうしているうちに・・・






 ゴーーンゴーーンゴーーン





《―――皆様、新年明けましておめでとうございます》





「「「「「「あけましておめでとうございます」」」」」」


全員、姿勢を正して一礼、新年のスタートだ。



今年もよろしくな、コノカ、セツナ、その他。


「「「その他!?」」」

ナイス初ツッコミ。










 ―――――がやがやがやがや―――――




やってきました龍宮神社。いやぁ人いっぱいだねえ、考えることは皆同じか。
神社行くけどどうする、と訊いたら全員ついて来た。暇なんだなオマエら。


「おや、来たのかオマエ達」


巫女装束のマナを発見、あけおめ。



「新年早々実家の手伝いとは、アッパレでござるな」

「なに、大したことじゃないさ。バイト代も出るしな」

ああ、そゆことなのね。


「折角来たんだ、ウチの神社に貢献していくといい。このお守りなんてどうだ、1つ500円」

「・・・参拝客にせびる巫女が何処に居る」

「ココに居るじゃないか」


コノヤロウ・・・・・。




「屋台が出てるアル!」
「タイヤキのイイ匂いがするでござるな」


食い意地張った発言をかます奴が2人。さっきそば喰ったばっかじゃねか、太るぞ。


「屋台は別腹アルよ」
「ニンニン♪」

そういって屋台へ駆け寄るジャンキーズ。まあ太りはしないか、年中動きまくってるし。


・・・・ん?ションボリしながら帰って来たぞ?


「サイフを忘れたアル・・・」
「ニン・・・」

バカだろ、わかってたけどオマエらやっぱりバカだろ。



「「・・・・・」」

・・・そんなモノ欲しそうな目で見るんじゃない。



「「「・・・・・・」」」

・・・なんで1人増えてんだよ、オマエも忘れたのかオジコン娘。



「「「「「・・・・・・・」」」」」


「・・・・・・わかったよ、1人1個な」


ヤッホーイと屋台に群がる女ども。・・・まあ、臨時収入もあったから良しとするか、うん。


「小倉1個アル!」
「拙者も小倉で」
「私カスタードね」
「ウチは抹茶で」
「白餡でお願いします」
「私も小倉だ」
「なんで巫女テメェまで頼んでんだよ」

くっ、まあいい。すんませーん、チョコレート1個くださーい。






―――――さて、いよいよ参拝だ。45円入れて、ガラガラ振って、2礼2拍手1礼っと・・・








――――――――今年もコイツらと楽しく過ごせますように――――――――













「おみくじ引いていくアル!」


俺の金で、な。少しは遠慮しろよ。あとクジって聴くと微妙な気持ちになるんだけど、どうすればいい?


「知らないわよ、おみくじにトラウマでもあんの?」


あるっちゃある、どデカイのが1個。


「そんな些細なことより、早く引いていけ。1回100円だ」


また出費か、まあ正月だし大目に見ようか・・・。




シャカシャカ振って、棒出して、同じ番号の引き出しから紙を貰う。
さて、今年の運勢やいかに?




「大吉アル!」
「ほお、末吉でござるか」
「半吉?初めて見たわね、こんなの」
「ウチは中吉や、せっちゃんは?」
「私は小吉です」
「ふむ、吉か。ボチボチだな」
「だからなんで巫女テメェまで引いてんだよっての」
「総統は?」
「・・小吉だな」


運勢は・・・・・







[ 金運:やや右下がり。思わぬ出費に注意すること ]



・・・・・もう遅えよ。



















「金運上昇にも効果のある破魔矢はどうだ?1本5000円だ」

「それが原因だよ」

「ミサト、お年玉は無いアルか?」


いい加減にしろよバカイエロー。











◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




まだまだいくよーーーー


追記 : 45円→しじゅうごえん→始終御縁→ずっと御縁がありますように

という意味です



[15173] 漆黒の翼 #11
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:e7b962fa
Date: 2010/01/23 17:18
 びゅうぅぅうううぅううぅううぅ




「・・・寒っ」




ただいま冬真っ盛り。2月も中旬に差しかかり、木枯らしがこちらの都合も考えず毎日ビュービュー吹いている。寒太郎のバカヤロウ、少しは休め。

こんな日は登校するのも億劫だ、自前の羽毛にくるまっていたいよ。
だがそう云う訳にもいかん、寒かろうが暑かろうが学校へ行く、ソレが学生たる俺の義務なのだ。



――――そんな訳のわからない使命感を燃やして暖をとっていたのだが・・・・





「・・・!・・・!・・・!」
「ブツブツブツブツ・・・」
「大丈夫・・・・大丈夫・・・」



・・・・なんか、通学路全体がピリピリしている。なんだ、まだ試験は先だろうに。



と、前方50メートルにクラスメイト2人を視認。早足で駆け寄り声をかける。




「ダイチ、セイウン、おは―――」

「「はいいいい!!なんでしょうかああ!!?」」

「うおっ!!?」


・・・・すんげえ血走った眼をしながら嬌声をあげて振り返ってきた。なんだそのテンションは。



「・・・んだよ、カイリかよ」

「ニノ・・・期待させないでくれよ・・・」

「・・・会っていきなりその言いぐさはないんじゃねえの?」




俺を「カイリ」と呼んだコイツは『九十九大地ツクモ ダイチ』、「ニノ」と呼んだのは『八谷青雲ハチヤ セイウン』だ。

この2人とは学校以外でもよくつるんでる。席が近く趣味も似ている、そして名前にシンパシーを感じたためだ。

3人あわせて周りからは「陸海空トリオ」とか「百八煩悩鳳」とか呼ばれてる。後者は不本意だ。

ちなみにこの2人はルームメイト、俺の部屋の隣に住んでいる。



「けっ、余裕じゃねえかよ。カイリは自信ありってか?」

「たくさん女を侍らせてる奴はいいねえ・・・・」

「侍らせてるつもりはない」


勝手に集まってくるんだよ、茶ぁ飲みに。



「うるせえ!いつもいつも女を部屋に連れ込みやがって!!」

「誰か紹介しろよ裏切りモノ!!」

「一応訊いてみたけど、断られたぞ?」

「ジーザス!!」
「ガッデム!!」



なんでこの2人が朝っぱらからこんなテンションなのかと言うと―――――




「義理でもいい、誰か俺にチョコを!」

「僕にも愛の手をォ・・・!」



――――そう、今日は2月14日。聖バレンタインデーである。通学路が弓の如く張り詰めていたのもソレが原因だ。

というかオマエら、さっき超反応してたけど、ココは通学路だぞ。男しか通らないんだからな。もしチョコ渡そうとしてきたら、ソレは特殊な趣味の人だぞ、ちゃんとわかってる?



「『もしも』があるかもしれないだろうが!」

「そうだよ!僕に想いを寄せる誰かが朝早く起きて待ち伏せしてるかも、とか!」

「で、想いを寄せられた覚えは?」

「「・・・・・・・」」


無いだろうなあ。この学園は男子区域と女子区域に分断されている。部活とか学園祭とかで交流が無い限り、日常生活内で女子と親しくなるのは難しいだろう。


まあ、毎年コノカとセツナに何かしら貰ってる俺は、コイツら程の必死さは無いけどね。


「このリア充野郎がぁ!!」

「1回シメてやるぅ!!」



ヘッドロックを掛けられながら学校への道を急いだ、イテェよ。









 キーーンコーーンカーーンコーーン




「・・・・・・カバンの中も・・・」

「机の中にも無かった・・・」

「あったらあったで怖いと思うけどな」


探すのやめたら見つかるかもよ、うふっふぅー。



ただいま昼食タイム、食堂でメシを調達に来た俺達。今日はチャーハンにしよう、値段の割に食い応えがあるんだよ。



「もう下校時間に懸けるしかねえか・・・」

「放課後、街をぶらついてみようかな・・・」


つうかさぁ。


「今日だけ頑張ってもダメだろ。普段から女子と親しくしてないと貰えないぞ。一目惚れとか片想いとか以外は」

「くぅ、俺にも幼馴染が居ればなぁ・・・」

「可愛い幼馴染って想像上の生き物かと思ってたよ・・・」

「幼馴染2人以外とはどうやって仲良くなったんだ?」

「山でばったりとか、街で目を付けられたとか」

「後者のは逆ナンに聞こえるがな」

「そういうロマンスが神様った展開じゃなかったな」


ますます落ち込んでいく男2人。ふむ、どうアドバイスしたらいいものか。





「何か女子に注目を受けることをすべきかなぁ」

「そうはいうけど大地、具体的にはなにするのさ?」

「オマエも考えろ、青雲」



注目ねえ、そう簡単に行くのかなぁ。

食堂に流れるアップテンポのJポップを聴きながら、俺も考え―――――――Jポップ?




・・・・・そうだ。




「バンドは?」

「「へ?」」


提案してみよう、イイ線行ってるはずだ。



「麻帆良祭でロックコンサートがあっただろ?アレに出場するんだよ」

「バンド・・・」

「上手くいけば、注目どころかファンがつくぞ?」

「ファン・・・」



・・・・だんだんニヤケてきたな、ファンに囲まれた図でも思い描いているんだろう。




「・・・・・いいな」

「・・・・うん、ソレだよ!」


賛成多数で可決されました。臨時国会in食堂、閉廷。



「こうしちゃいられねえ、すぐにでも練習を始めねえと!」

「機材とかメンバーとかも集めなきゃ」


うんうん、やる気になってくれてうれしいよ。



「メンバーは俺と青雲、2人じゃキツイな・・・」

「クラスの人に声かけてみようよ」





・・・・・ん、2人?


「俺は?」

「テメェは駄目だ」

「うん、駄目だね。不必要だ」


おいコラ待て!提案者は俺だぞ!駄目ってなんだ、俺だってステージでシャウトしたいんだよ!アレ見たときからずっと出たかったんだよ!




「女侍らしてる奴に、俺達のバンドに入る資格はねえ!!」

「ニノは歌いたい、僕らはモテたい。残念だけど、方向性の違いって奴さ」


早えよ!そう云うのは結成してしばらくしたら出てくる問題だろ!まだ結成もしてねえじゃん!!



「悪ぃが他を当たってくれや」

「早速メンバーを集めなきゃ」



そういってソソクサと席を立ち食堂を後にするダイチとセイウン。





・・・・・頼んだチャーハンは、もう冷たくなっていた――――――――



















――――――――放課後・ミサト自室――――――――



がちゃりっ



「総統おるー?」

「チョコ持ってきましたよ」

「・・・・さんきゅう、いつもありがとうな・・・」


・・・・・・・もうノックも無いんだね。




「どうしたでござる?取っといたケーキのイチゴを掠め盗られたような落ち込みようでござるな?」

「どうせチョコ貰えなかったから凹んでるんでしょ?」

「しかりするアル、『超包子』の肉まん持てきたから元気出すアルよ」


おお、オマエらも来たのか・・・。



「いつも手合わせをしてもらっているお礼に甘味を持ってきたでござる」

「ま、アンタには勉強とかで世話になってるしね」

「五月がバレンタイン用にチョコまん作てくれたから、お裾分けアル」



・・・・・嬉しいんだが、コレが原因でもあるんだよな。




「なんでそんなに元気無いん?」

「学校で何かあったんですか?」



・・・・・実はなぁ――――――――――――









「―――と、いうわけなのさ」

「なるほどね、それで落ち込んでたの」



とりあえずみんなに礼を言った俺は、持って来てくれたチョコやら肉まんやらを炬燵のテーブルに広げ、全員にお茶を淹れながら今日のショッキングニュースを伝えた。

いつの間にか食器棚にコイツらの湯飲みや箸が常備されているんだけど、いつ持って来たんだよ。もう完全に寄り合い場じゃねえか。




「それにしても、バンドでござるか・・・」

「ミサトにそんな趣味があるとは知らなかたアル」

「総統は昔から音楽得意やからなあ」


一応、ギター弾けます。ジョニーの楽器で練習しました。




「ウチのクラスにもバンドやってる人達がいましたよね?」

「ああ、桜子たちでしょ?なんだっけ、『きまぐれロボット』だっけ?」

「『でこぴんロケット』やよ、アスナ」


ああ、居たな、そんなバンドが。ロックコンサートに出てたのを覚えてるよ。元気のいいグループだったなぁ。





「・・・・出たかったなあ」


天板に顔を突っ伏してまた落胆。クラスの奴はもうアノ2人が引き抜いてるだろうし、他のクラスに知り合い居ないし、どうしよう・・・。




「でも、出たところで何歌う気だったのよ?」

「カバー1、2曲とオリジナル1曲を予定してた」

「オリジナル!?」

「作曲までできたでござるか?」


オリジナルっつうか、リスペクトっつうか、「この世界」ではオリジナルのハズ、だと思う、多分。




「へえ、どんな歌なん?」

「聴いてみたいアル!」

「ちょい待ち、パソコン立ち上げるから」


ノートパソコンを起動させ、CPUが温まってきたのを見計らい音楽ソフトを起動。歌も歌って売れる優れモノだ。

えっと、どれだっけかなっと、ああコレだ。



「楽しみでござるな」

「『愛』とか『恋』とか連発してたら笑ってあげるわよ」

「再生すっぞ」





《―~――!♪!~~!!~♪》



















――――――それは、生まれた意味を知る、臆病者の一撃――――――


















《―――――♪!!》





・・・・どうよ?



「なんていうか、すごく哲学的な詩ね・・・」

「よくわからないけど、イイ曲アル!モチ肌になたアル!!」

「『鳥肌が立った』って言いたいのか?」

「ニン、なにやら胸の奥に響いて来たでござるよ」

「総統すごいわぁ」

「いつの間にこんな曲を?」

「暇のある時にちょこちょこな」


これをステージで思いっきり歌えたらサイコーだろうなぁ・・・・。


「思ってたのより断然イイ曲でビックリしたわ」

「勿体ないですね、歌えないなんて」

「でござるな」



・・・・・いっそのこと弾き語りで出場しちゃおうかな。







「――――あ、せやっ!」


どしたコノカ。





「ウチらでバンド組めばええんや!!」




「「「「「・・・・え!?」」」」」



このメンバーでか!?その発想は無かったな・・・・、でもいい考えかも・・・。



「ちょっとこのか何言ってんのよ!私達楽器なんて弾けないわよ!?」

「お、大勢の人前で演奏するなんて、とても・・・」

「そんなん練習次第でどーにでもなるえ?」

「そ、そうかもしんないけど・・・」


保守派アスナと羞恥派セツナは渋り気味、まあ急な提案だからなあ。



「バンド・・・、今までにない試みでござるな」

「面白そうアル!楽しそうアルよ!!」


肉体派の2人は結構ノリ気、挑戦するのが好きなんだろう。




賛成4票に反対2票、か。




「無理に出る必要はないぞ?言っちまえば、俺のワガママなんだし」


音楽は楽しんでナンボだ、無理強いするモンじゃない。




「い、いえ、このちゃんと総統が出るなら、やります!!」

「いいのか!?」

「ありがとうせっちゃん!」



賛成5票になった、あとはアスナだが・・・・。





「~~~~~っ!わ、わかったわ、やるわよ!やってやろうじゃない、上等よ!!」

「「「「「おお!!」」」」」



全会一致で可決!法案は承認されました!!ありがとうみんな!!!






「早速担当決めな」

「俺はギターだな、間違いなく」

「ウチは、せやなぁ、キーボードがええかな?」

「ドラムはクーに頼むか、パワーあるし」

「任せるアル!」

「ならば拙者はベースを担当するでござるよ」

「え、えっと・・・」

「私達は・・・?」

「そうだな、ギターとベースに1人ずつ、かな?」

「じゃ、じゃあ私はベースにします」

「え!?あ、ちょ!?」

「アスナはギターに決定だな」

「うう・・・、難しそう・・・」

「体で覚えるもんだから心配いらねえよ、わかんなきゃ俺ができる限り教えてやる」


だが時間は限られている、忙しくなりそうだ。



「機材はどうするでござる?」

「桜子達に相談してみるわ」

「足りなきゃ俺が金出すから買いに行こう」

「おお、太腹アル!」

「これくらいはさせてもらわなきゃな」



報酬が貯まりに貯まってるモンだから、ここいらでパーっと使うのもいいだろう。



あと必要なのは・・・・・




「バンド名はどうします?」

「そうね、ソレ決めないと」



ふむ、どうするか。【漆黒の翼】はもう使っちゃってるし。





「『大丈夫じゃんシスターズバンド』はどうアル?」
「どっかで聞いたことあるわね」
「イニシャルを取るという方法もありますね」
「じゃあ、M・K・S・K・A・Kだから・・・、K多っ!」
「KKKって組織あったな、確か」
「なら漢字はどうでござる?」
「えと、海・木・桜・楓・神・古アルね」
「桜木と楓、それに神、・・・『SLAM DANK』は?」
「あかんなぁ」
「全員A組だから、『AAAAAA』でどうでしょう?」
「やはりどこかで見たことがあるでござる」
「というか、何て読むの?」
「なら、こうして集まる仲間と言う事で『放課後のお茶会』というのは・・・」
「ソレは駄目だ!何かに喧嘩を売ってる気がする!!」


会議は踊る、されど進まず。




「なら、未来に輝く星『すたーちゃいるど』はどうや?」

「う~ん・・・・、イイ線行ってるけど、やっぱり聞いたことあるわねぇ・・・」





星、か・・・・、それなら・・・・・。







『ブレイブヴェスペリア』・・・」

「「「「「?」」」」」



5人の視線が同時にコチラを向いた。つぶやいたつもりだったのに、意外に響いたらしい。



「なにアルか、『ボスニアヘルツェゴビナ』て?」

「何処をどう聞いたらそうなるんだよ、ワザとやってんのか?」

「いいからなんなのよ、その『ドライブなんとか』って」

「『ブレイブヴェスペリア』、日本語で『凛々の明星りりのあかぼし』って意味だ」



あってるよね、意味?これまたテイルズ用語だけど。






「・・・いいかも」

「耳に残り易いでござるな」

「ソレで行くアル!」

「異議ナシや!」

「同じく」







――――――こうして、俺達のバンドグループ名は『凛々の明星ブレイブヴェスペリア』に決定した。






「よし、名前も決まったし・・・・・・・・やったるぞぉ!!!」

「「「「「おう!!!」」」」」




目指せ、麻帆良祭ロックコンサート!!





























「―――――ところでアスナ、高畑さんにチョコあげたのか?」

「・・・・・」

「・・・アスナ?」

「ううううううううるさいわね!」


・・・渡せなかったのか、俺にチョコやってる場合じゃねえだろ。


「うぅ・・・・、ら、来年こそはっ!」


・・・・・・・・・頑張れよ。










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



本板に移動いたしました、応援よろしくお願いします!



大地と青雲の出番は・・・・・・・・わかりません。



削除したミサトの過去については、そのうちまた出てきます。







[15173] 漆黒の翼 #12
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:e7b962fa
Date: 2010/01/26 10:04

「ねえ桜子、ちょっと相談があるんだけど」


現在昼休み。生徒の大半は食事も終えて級友とおしゃべりに興じている者がほとんどであるが、ココ女子中等部1-A教室もその例に漏れていないみたいである。

明日菜は木乃香と刹那を引き連れ、『でこぴんロケット』のメンバーである『椎名桜子』に話を持ちかける。用件はもちろん1つだ。



「んー?」
「なになに、何の話?」
「珍しいじゃん、アスナが相談なんて」
「どないしたんや?」


ちょうどバンドメンバー全員がそろっている。これなら話が早い、明日菜は早速切り出してみることに。




「えっと、アンタ達ってバンドやってるじゃない?」

「うん、そうだけど?」

「それでさ、機材とか余ってたりしない?ギターとかベースとか」

「余って無いけど?」

「そっか・・・」

「そう都合よくはいきませんね・・・」

「残念やわぁ・・・」


やはりそうそう甘くは無いようである。



「なかなか余るモンや無いと思うで?楽器なんて万単位やもん」

「そんなにするモンなの!?」


今まで楽器などには無縁の明日菜、当然相場も知らない。アルバイトに勤しむ苦学生の彼女からすれば、万単位など眼を剥いてしかるべきことなのだ。



この質問から察したのか、桜子は質問の意図に当たりをつけ問い返してみる。


「もしかしてアスナ達、バンド組むの?」

「え?うん、そのつもりなんだけど・・・」





 ざわっ






「アスナ達がバンド!?」
「なになに~?面白そうな話してるじゃん?」
「じゃあ武道館!?」
「いや、それは無いでしょ・・・」
「あらあら」


その発言に、教室にはびこる野次馬根性丸出しのお祭り少女達は、一気に話に飛びついて来た。みんな暇なんだね。



「ん~、芳しい面白スクープの香りがしてくるぅ!取材させてもらうよっ!」


取材と称しマイクを向けるジャーナリズムの塊、名を『朝倉和美』、自称【麻帆良のパパラッチ】。パパラッチを自称するとかどんだけだよ。





「それで、どう行った経緯で始めようとしてんの?」

「え、えと、成り行きと言うかなんと言うか・・・」


「青春の思い出作りって奴?」

「そんなところやね」

「今は必死に一丸となってバンド機材を探してるところです」

「そこでもう必死なの!?」


「メンバーには誰がいるの?」

「ポジションは?ピッチャーは誰?」

「・・・まき絵、何の話か解ってる?」

「アスナ達が二死に一塁となってバント機会を狙ってるってところは聞いたよ?」

「話の流れとしても野球のセオリーとしても間違ってるわよ」


奇襲をかけるにはいいかもしれないが。



まあ、バカピンクはほっとくとして。


「で、メンバーは?」

「えっと、ウチとせっちゃんと・・・」

「私に楓ちゃん、それにくーふぇと・・・」

「バカレンジャー3人が組み込まれてるの!?」

「譜面覚えられる?」

「バカにしないでよ!こ、これからよ、これからっ!!」


レッド憤慨、ブルー&イエロー苦笑い。



「あと総統や」

「ミサトさんもメンバーなんですか?」

「へぇ~、ミサト君バンドとかやるんだ、ちょっと意外」

「そ、そうだね」


ミサトと割と長い付き合いの図書館部の面々は、三者三様の反応。



「ミサトって何処かで聞いたような・・・」

「あ、思い出した!学園祭のときに来た桜咲さん達の幼馴染だ!」

「ああ、ミサト君かぁ」

「覚えてる覚えてる、ちょっと眼つきの悪い男の子だよね?」


どうやらA組女子の認識はこんなものらしい。




「この間ミサト殿の部屋に行ったときに、バンドを組みたいけどクラスメイトに断られたと零していたでござるよ」

「それでコノカのアイディアで、私達でバンド組むことになたアル」


ジャンキーズが補足するが、ココで「部屋に行く」という単語を拾い上げるモノが出た。




「え、アンタ達男子の部屋に遊びに行ったりしてるの!?」

「割とちょくちょく」

「集会場アル」


やはりそう云う認識であったようだ。ミサトも薄々は勘付いてるようだから何も言うまいが。




「アスナさん、あまり風紀を乱すような真似は慎んでいただきたいですわね?」

「なによいいんちょ、別にヤマシイことしてるわけじゃないんだからイイじゃない」

「ミサトはイイ奴アルよ」


明日菜反論、古菲フォロー。だが彼女達は止まらない。



「男子の部屋に女が5人て・・・」
「軽くハーレムだよね・・・」
「ミサト君てジゴロ?」
「あらあら大変ねぇ、昼間から6ピ「ちづ姉アウト!それアウトォ!!」

「ア、アスナさん!?そ、そのような不純異性交遊は許しませんわよ!?」

「する訳無いでしょそんなこと!!」




「じゃあ普段何してんの?」

「えっと、炬燵でお茶飲んでヌクヌクしたり・・・」

「みんなでスマブラしたりするでござる」

「超平和じゃん」


「あらあら、一体何処にスマッシュをブチ込むのかしらねぇ?」

「・・・ちづ姉?」

「若いっていいわねえ、6人で大乱こ「アウトオオォ!!ちづ姉さっきからソレばっかりぃ!!」

「アアアアアアアアスナさん!!?」

「してないっつってんでんしょうがああああぁ!!!」




このクラスには耳年増が多いようである。そして巨乳のトラブルメーカーもいるらしい。




・・・・そして、教室の後ろで頭を抱えるメガネが1人おったそうな。














――――――放課後・ミサト自室――――――





「というわけで、タダでの機材調達は難しそうです・・・」

「まあ、しゃーないわな」


やっぱそう簡単にはいかないか。
仕方ない、全額負担と行きますかね。




「・・・ところで、なんで1人増えてんだ?」

「着いてきちゃったのよ」


いつの間にか、1回見たことある金髪の美人さんが炬燵に入っていた。確か、セツナ達のクラスの委員長の・・・



「えっと、確かヒロユキさんだっけ?」

「『雪広あやか』ですわ。今回はアナタを見極めさせていただきに参りました」


あ、こりゃどうも、・・・・ん?



「見極めるって?」

「ウチらのクラスで、総統に鬼畜ジゴロのレッテルが張られるかどうかの瀬戸際なんや」

「なんでそんなことになってんの!?」

「主に泣きボクロさんのせいです」


泣きボクロ?・・・・ああ、そういや居たな、泣きボクロでいろいろデカイ人が。あの人のせいなの?



「・・・よくわかんないけど、よろしく、アヤカ」

「っ!女性をいきなり下の名で呼ぶなんて、やはり噂に違わぬ鬼畜ジゴロ・・・」

「えっ、もう!?見極めが早えよ!!」




判定はどうにか先送りにしてもらい、【凛々の明星ブレイブヴェスペリア】の本日の活動内容を決める。

・・・まあ、楽器も無いからやることなんて限られてるけどな。




「仕方ねえ、今日はとりあえず演奏する曲をあと1、2曲決めておこう」

「1曲だけという訳にもいかないでござるからなあ」



「で、なにかしら方針とか方向性とかはあるの?」

「ああ、俺としてはアニソンを推したいと思ってるんだけど」

「アニソン~?ガキっぽいのは嫌よ?」

「アニソンをナメんなよ?最近のはイイ曲使ってる番組が多いんだぞ?」



俺は、番組はテーマソングで4割決まると思っている。最近はどこも気合い入っているんだよ。


事前に立ちあげておいたパソコンのドキュメントの中から、ネットでオトした動画の再生準備にかかる。

そのうちの1つを選びダブルクリック。



「例えばコレとか」


大きなお友達に大人気の魔砲少女のOPが流れる。



「ホントだ、この人ウマイ・・・」

「すごい声量アル」

「でも難しそうやなあ・・・」

「ビブラートがハンパ無いですね」


ふむ、ハードルが高かったか。




「あと、コレとか」


別のファイルを展開、ハジケまくってる奴らのEDが流れる。



「おお、なかなかでござるな」

「ああコレね、昔見たことあるわ。不条理過ぎてついていけなかったけど」

「ヒロインの声がコノカに似てんだよな」

「このちゃんが大声でツッコミを入れてるようで違和感バリバリでしたね」


俺好きなんだけどな、不条理ギャグって。





「んで、俺のイチオシはコレだな」


また違うファイルをクリック、今度はOPとEDを1つずつ。糖分侍の奴だ。




「・・・あ、ウチこの曲好きかも」

「私も・・・、なんだか胸に響きます」

「私はこちのEDの方が好きアル。明るくていいアルよ」

「楽しい毎日、と言ったところでござろうか」

「へえ、アニソンも馬鹿に出来ないわね」

「だろ?」






―――――その後いくつかピックアップした曲を流してみたが、どうやらみんなこの2曲がお気に召したようだ。気に入ってくれてうれしいよ。



「どうやら、これに決まりみたいでござるな」

「あれ?でもOPの方は女性ボーカルよ?」

「どないする気なん?」


ああ、ソレね。




「折角だから、オマエらの中からボーカルを決めたいと思う」


「「「「「ええ!?」」」」」


おお、驚いてる驚いてる。




「ちょ、ちょっとミサト、どういうことよ!?」

「総統が歌うんじゃないんですか!?」

「歌うよ?オリジナルの方は」


でもこんだけ女子が居るんだから、歌わせない手は無いだろう?客の受けもいいと思うんだよね。



「まさかの展開アル」

「ニン、ボーカルでござるか・・・」

「でも、いい思い出になりそうやえ?」


まあ、そういうことだからガンバろうぜ。




「この曲はツインボーカルで行こうと思うんだが」

「てことは、2人選ぶアルな?」

「どうやって決めるんや?」


「・・・・よし、投票で決めよう」



カラの缶を用意して、紙とペンを6組・・・


「私の分がありませんわよ?」

「いいんちょ居たアルか?」

「いましたわよ!ずっと私そっちのけだったじゃありませんか!!」

「悪い悪い、はいコレ」



アヤカにも投票用紙を渡し、各自記入。そして缶カラに投票。




「ほんじゃ、かいひょー」


結果は?








〈刹那さん〉
〈アスナ〉
〈せっちゃん〉
〈このかさん〉
〈かえで〉
〈アスナさん〉
〈古〉




セツナとアスナが2票ずつ、他が各1票。



「わ、私ですかっ!?」
「え、ちょ、わたしぃ!?」


「ガンバレよ」
「ファイトアル!」
「何事も経験でござるよ」
「楽しみやなぁ、せっちゃんとアスナのデュエット♪」
「お2人とも、精一杯やってくださいな」


という訳で、この曲のボーカルはこの2人に決定!



「せ、責任重大です・・・」
「誰よ、私に入れたの・・・」


逆算すんなよ?何人かマルわかりだけど。






「あとは機材揃えて練習あるのみだな」

「しかし借りる当てもないから、完全にゼロから始めなければいけないでござる」

「総統、おかね大丈夫なん?」


まあ、なんとかならないことも無いさ。




「ところで、何処で練習するアルか?」

「あ、そうよ。ソレすごい重要じゃない」




・・・しまった、場所の問題もあったのか。

スタジオ借りるにしてもタダじゃないし、出費がヤバいことになるなこりゃ。






「――――――まったく、本当に行き当たりばったりな方達ですのね」


アヤカがあきれるような態度を取っている。面目ねえ。


「し、仕方ないじゃない、この間決めたばっかなんだから・・・。て、ていうかそもそも、部外者が口出ししないでよ!」


んなことでキレんなよ、向こうの方が正論だぜ?





「・・・・部外者でなければいいんですのね?」



・・・ん?




「わかりましたわ、そう云うことであるのなら・・・」



え、どうしたの?










「たった今を持ちまして、我が『雪広グループ』は、あなた方のバンドのスポンサーとなりますわ!」



「「「「「「・・・・ええ!!?」」」」」」




雪広グループって、あの財閥の!?って、そういや同じ名字じゃん!!娘さんだったのか!?


え、てことはつまり・・・・・



「機材用意してくれるのか!?」

「練習場所もアルか!?」

「ええモチロン、早急にご用意いたしますわ。お望みとあらば、有名ミュージシャンを講師として招いてもよろしくてよ?」

「い、いや、そこまでしなくてもいいんだけど・・・」


でもすげえ、問題が一気に解決した!ブルジョワすげぇ!!


・・・・でも、なんで?




「どういうつもりよ、いいんちょ」

「ふん、口出しするなと言われたから口出ししたくなっただけですわ」



・・・・。



「・・・やっぱ悪ぃよ、金出してもらうなんて」

「何言ってんのよ、渡りに船じゃない」

「でも、いくらなんでも都合がよすぎるって。元々俺のワガママなのに、金だけ出してもらうっつうのはさ・・・」


いくらアヤカの家が金持ってるからといって、それほど親しくも無い俺の道楽に付き合わせるってのは・・・




「勘違いなさらないでいただきたいですわね」

「へ?」



「私はクラスメイトが困っているから、委員長として協力を惜しまないだけです。つまり、これは私の義務、私の務めなのですわ」

「いや、でも・・・」



「それに・・・」

「?」






「――――――こんなに楽しそうに笑いあってるあなた方のバンド、この先一体どうなるのか、是非見てみたくなったんです」


アヤカ・・・・。


「ミサトさん、アナタのことはこの雪広あやかが、これからしかと見極めさせていただきますわ。ですから、責任を持って皆さんをしっかり引っ張ってくださいな」


「・・・・いいのか?」


「スポンサー料は、ロックコンサートチケットA組全員分。あと、モノになったら真っ先に私に聴かせること、よろしいかしら?」


「・・・ああ、鳥肌が1週間退かないくらいヤツのを聴かせてやるよ」



・・・最高だよ、オマエ。




「ありがとう、いんちょ!」
「助かります」
「恩に着るでござる」
「謝謝!!」
「ま、お礼は言っとくわ」
「・・・相変わらず素直じゃありませんこと」







―――――こうして、我ら【凛々の明星ブレイブヴェスペリア】はアヤカをバックに迎え、改めてスタートを切ることとなった。




「よっしゃ、今日はお祝いだ!オマエらメシ喰ってけ、マーボーカレー作ってやる!!」

「おお、マジアルか!」

「またあの味が楽しめるでござるか!」

「コノカ、セツナ、手伝え!!」

「了解や!」
「まかせてください!」

「え、なんですの?マーボーにカレーって、その濃い組み合わせは?」

「ミサトの特製料理・マーボーカレーよ。1度食べたらヤミツキになるんだから」

「はっ!もしやミサトさんは料理で皆さんを誑かして・・・」

「そこから離れろっての」


レッツクッキング!!











――――――その頃の女子寮――――――




「いいんちょ、大丈夫かなあ?」

「あやかが心配?」

「というより、ミサト君の方が心配だよ。いいんちょとアスナが暴走したりしないかとか」

「大丈夫よ夏美。私のあやかだもの、心配いらないわ」

「・・・その根拠はどこから来るの?」

「今頃はみんなで仲良くポケモンの通信対戦でもやってるころじゃないかしら」

「・・・うん、そうだといいね、ちづ姉」

「うふふ、きっとみんなミサトさんの下のクロバットの餌食に「言わせないよ!!?」




















「ウマイ!」
「ウマすぎる!!」
「オカワリアル!!」


みんな大好きマーボーカレー。

















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



私の中の千鶴はこんな感じです。千鶴ファンの方、平にご容赦を。ホントすみません。


カイルの称号【マーボーカレー大好き君】の解説文は、テレ玉のCMのパロディなんですよね。








[15173] 漆黒の翼 #13
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:e7b962fa
Date: 2010/01/26 21:40
春休みは、みっちり丸々バンドの練習に当てられた。俺達は素人集団だからとにかく練習あるのみなんだよ、時間はいくらあっても足りないんだ。

俺以外はコードと譜面を覚えるところから始まり、俺とセツナとアスナにはボイストレーニングも追加された。



「曲の躍動感はドラムスに掛かってるからな、頼りにしてるぜ?」
「元気なら負けないアル!」



アヤカには感謝してもしきれないな、この設備を全部自費で出したら一体どれだけ費用がかかるんだろう?。

・・・学園祭限定のバンドなのに、こんなに金使わせていいんだろうか?



「旋律に色彩を加えるのがキーボードの仕事だ、花を添えてくれよ?」
「お任せや!」



更に俺とセツナは、バンド練習+“裏”の仕事もある。なかなか大変だよ、両立させんのはさ。減らしてくれよ学園長。



「音に深みを出すためにはベースが必要不可欠だ、ガンバレよ」
「期待に添えるよう頑張ります!」
「縁の下から支えるでござる」



そういえば、ダイチ達のバンドも始動したらしい。
グループ名は『A.A.キングス』、やっぱりどこかで聞いたことがある名前だった。

なにやら自慢してきたようなので、俺もアイツらとバンドを組む旨を伝えると、本気でコブラツイストかけてきやがった。すぐに外してキン肉バスターくらわしてやったけど。



「バンドのクオリティは俺達ギター次第だ、やれるか?」
「い、いいわ、やってやろうじゃない!」



こんな感じに、全員に発破をかけながら練習は続けられた。












――――――休みも明け、新年度が始まる。俺達は2年生になった、リアル中2だ。


進級してもトレーニングは続行。クーが力加減を間違えてドラムセットを何台かおシャカにしたなどのハプニングもあったが、練習は続けられた。


そして俺達の技術は順調に向上していき、5月の上旬にはなんとか人前で演奏しても恥ずかしくないレベルまで達した。



早速スポンサー料を払うべくアヤカの前で演奏したところ、



「荒削りですが、光るモノを感じましたわ」


との感想を頂戴した。


ならばこっからは研磨作業の開始だ、1人1人の精度をあげていくしかあるまいて。












――――――いよいよ今年の麻帆良祭が近づいて来た。

俺達はクラスメイトの了承を得て、自分のクラスの出し物の手伝いを抜け出しラストスパートをかける。


ロックコンサートに出場するには、予選として事務局にデモテープを渡すことになっている。なので、雪広グループ所有のスタジオで曲を録音、しかる後に事務局に提出。



数日後、予選突破の連絡が俺の部屋に来た。メンバー全員狂喜乱舞、『A.A.キングス』も予選を通ったらしい、やるじゃん。





「さあ、もう少しだ!気合い入れていくぞォ!!」

「「「「「おおー!!!」」」」」









そして――――――――――










《―――――只今より、第77回・麻帆良祭を開催します!!》




ついに学園祭が始まった。


今年のロックコンサートは初日、つまり今日の午後より行われる。


俺達は午前中からギリギリまで使って、最終調整に入っていた。

大きな問題はナシ。あとは本番を待つだけだ・・・・・。










《――――レディース・エーンド・ジェントルメーン!!これより、大音楽祭、まほロックを取り行いまあす!!》



いよいよ本番がスタートした。

トップバッターから順に演奏していく、みんなウマイなぁ・・・。



俺達の出番は後半、というかトリだ。待ち時間が異様に長く感じる。


セツナ達も落ち着かないようだ、さっきからウロウロしている。まあ、カエデは割かし悠然と構えてるけど。




と、ADのような人が俺に話しかけてきた。

なんでも、前半グループが思いのほか長くなってしまい、時間が押しているとのこと。
だから申し訳ないが、俺達の曲数を3から2へ減らしてほしい、との知らせだった。


・・・・残念だが、仕方あるまい。全員で歌うアレを削るしかないか。ゴメンな、あんなに練習したのに。







――――後半が始まり、『でこぴんロケット』も『A.A.キングス』も出番を終えた。





そして・・・




「いよいよ次だな・・・」

「き、緊張してきた・・・」

「ウチもや、ドキドキがおさまらへん」

「でも、後戻りはでいないでござるよ」

「ええ、ここまで来たら・・・」

「最後まで突走るだけアル!!」



・・・みんな、付き合ってくれてありがとよ。



「やれるだけやった、あとは出し切るだけだ・・・」

「「「「「・・・・」」」」」





・・・・・・・・よし―――――――――――







「―――――行くぞォ!!!」


「「「「「おお!!!」」」」」








《――――さあ、最後のグループとなりました!最後を飾るのは、・・・・初登場!男子1人に女子5人のハーレムバンド、【凛々の明星ブレイブヴェスペリア】ですっ!!》


・・・その紹介文、なんとかならなかったのかよ。



《今回のまほロックに出場するために結成された出来立てホヤホヤの新星!カバー1曲とオリジナル1曲を引っ提げやってきた彼女らの実力やいかに!?》


ソデから舞台に上がる俺達。練習通りの、いつものポジションへ。最初は、セツナとアスナのツインボーカルだ。



目線を配らせる――――――――準備はイイか?



―――――――――おう!!







《それでは1曲目、参りましょうっ!【凛々の明星ブレイブヴェスペリア】で――――――――――――――!!》

























―――――2人の少女は唄う―――――














寄り添う影が、一つになる唄を―――――
















 わああぁあぁああぁああぁ!!!!



《ありがとうございます!すばらしいデュオでした!!それでは、この勢いのままラストの曲に参りましょう!!》






さあ、俺の出番だ・・・・全力で行くぞ!!




《それでは聴いてください、【凛々の明星ブレイブヴェスペリア】オリジナルソング――――――――!!》































―――――漆黒の少年は唄う―――――










自分は何故生まれたのか、その答えを知るための唄を―――――

















 わああああぁあああぁあああああぁああ!!!!!





《お聴き下さいこの歓声!!すばらしい歌をどうもありがとう!!!以上、【凛々の明星ブレイブヴェスペリア】でした!!皆さん盛大な拍手を!!!》













「・・・・・ぷあぁ!!緊張したぁ!!」

「もう私、腰が砕けそう・・・」

「ど、動悸が・・・」

「ウチ、ちょっとトチってもうたわ・・・」

「・・・でも、楽しかたアル!!」

「やりきったでござるな」



・・・ああ、やりきった。

いろいろ言ってはいるが、全員顔が笑っている。悔いは無いだろう。



―――――みんな、本当にありがとう。

























《――――優勝は、エントリーNo.07【ストライパーズ】です!!》


審査結果の発表。優勝したのはこのロックフェスの常連のグループ、全員縦縞の服を着ている。『でこぴんロケット』は3位、大健闘だ。

『A.A.キングス』?アイツらは駄目だったな、音ハズシまくってたもん。


まあ、俺達も入賞できなかったから似たようなもんだけどな。


だが、俺達の顔には悲壮感など欠片も無かった。やるだけやった結果だ、楽しかったしな。



トロフィーや優勝旗の授与などが滞りなく進む。




・・・これで、全部終わっ―――――――





《―――――え?・・・あ、はい、わかりました》



・・・ん、なんだ?不測の事態でも起きたか。




《申し上げます!!たった今、『審査員特別賞』を受賞するグループが決定いたしました!!》



え、そんなのあったのか?一体どこのチームが・・・・・







《発表しますっ!!!栄えある、審査員特別賞に輝いたのは―――――――――――――











―――――エントリーNo.18【凛々の明星ブレイブヴェスペリア】です!!!!》








「「「「「「・・・・・・」」」」」」



・・・・・全員、放心状態。







「・・・・ホントに?」


「私達が・・・・?」


「特別賞、アルか・・・・?」











 ―――――パチパチパチパチパチパチパチ




観客の拍手で我に帰り、顔を見合わせる俺達。






・・・・マジ、なんだな―――――!






「「「「「「―――――いやっったあああああ!!!!」」」」」」




狂喜っ乱舞っ!!抱きついてきたコノカとセツナを受け止めながらクーとハイタッチ!あーあー、アスナもポロポロ泣いちまって。カエデ、あやしてやってくれ。


周りに促され、前に出る【凛々の明星ブレイブヴェスペリア】一同。

観客席を見ると、2-A連中が惜しみない拍手を送ってくれていた。あとアヤカ、泣き過ぎ。




審査員長の青年が、クリスタルの像を持って近づいてきた。



「まだまだ未熟な面も見えたけど、それを補って余りある魂を感じたよ。よってこの賞をおくろう、おめでとう!!」


「「「「「「ありがとうございます!!」」」」」」




クリスタルトロフィーを受け取り、全員で歓びを分かち合う。


―――――最高だよ、オマエ達!!











〔アンコール!アンコール!アンコール!アンコール!アンコール!―――――――〕




《おおっとぉ!!ここでアンコールが来たあ!!優勝チームを抑えてのこの歓声、どう応える【凛々の明星ブレイブヴェスペリア】!?》





・・・・メンバーの顔を見てみる。





――――――全員、ニカっと笑った。


・・・・・・上等!!





「ポジションに着けぇい!!」


「「「「「了解!!」」」」」



俺達の声に観客が湧き立つ。応えてやろうじゃねえの!


駆け足でステージへ!それぞれの楽器を手に取り、演奏準備に掛かる。



メンバー間の目配せ・・・・準備万端!


それじゃあ行くぜ、本当のラスト1曲―――――――










「行くぞォ!ラストナンバー、――――――!!」









――――――星たちは唄い上げる――――――




朝焼けの中、大切な人と共に歩く、素晴らしい日々を―――――

































―――――――数日後―――――――




「―――――あ、ちょっと!サムス使わないでよ、私の持ちキャラなんだから」

「別にええやん、色違いで同じの使えば」

「俺のピーチは無敵だぜ」

「なんの、拙者のゼルダが打ち砕くでござる」

「このちゃん、頑張ってください」

「負けたら私と交代アル、ファルコンが火を吹くアル」




――――そこには、いつもの風景。いつもの放課後。



今までと違うのは、棚の上のモノ。



置時計や充電器と一緒にそこにあるのは、日に照らされ輝くクリスタル、そして―――――――








[ 特別賞受賞!我らブレイブヴェスペリア!! ]






――――――そう書かれた、クリスタルに負けない輝きを放つ、6人の笑顔の写真だった。





































俺は、この平穏が、この平和が、ずっと続けばいい、いや、ずっと続くんだと、そう思っていた。










―――――――――英雄サウザンドマスターの息子が、この地に赴くまでは。

















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




これは、少年たちのミュージックサクセスストーリー・・・・・ではありません。ネギまです。



平穏も終わり、いよいよ原作開始に近づいてきました。

ネギ襲来、巻き起こる騒動、そして闘い。


ほのぼの要素は失くさずにいきたいですけど、この先どうなるか、私もよくわかりません







[15173] 漆黒の翼 #14
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:de901972
Date: 2010/01/30 22:20

「【サウザンドマスター】の息子が?」

「ああ。イギリスから修業のため、この地にやって来るそうだ」




ただいま夏休み真っ最中。今日はリゾートも兼ねてエヴァさんの別荘にお邪魔させてもらっている。紅茶飲みながらニシンのパイをパクついてます。


別荘と言っても、遠出している訳ではない。魔法でボトルシップの中に異空間を作り上げて、そこを別荘として使っているのだ。

内部は南国リゾート風、海もあるしプール完備ときている。エヴァさん泳げないのになんであるんだろう?

オマケにこの空間は、外界の1時間が1日になるという優れモノ。こういうのを見ると、エヴァさんてスゲエ魔法使いなんだなあと、改めて実感するよ。

俺も魔法の練習とかのために、よくココを利用させてもらっている。便利だよ、上級魔法ぶっ放しても怒られないし。






ソレはそうと先程の話だが、エヴァさんを麻帆良に縛り付けた野郎の子供が来日するとの情報が入ったそうな。



「ソレはいつごろの話なんです?」

「今冬、3学期が始まって少ししたらだな」


なんでも魔法学校を飛び級で卒業し、一人前の魔法使いになるための修行の地として日本が選ばれたらしい。


そして出された課題と言うのが――――――




「日本で教師をすること、ですか・・・・魔法全然関係ないっすね」

「教師云々は、ただの口実かもしれんがな。多くの魔法関係者が集い、なおかつ癖者ぞろいのこの街で揉まれてこいってことなのだろう」

「オマケに親父と因縁のある【闇の福音】がいるから、と・・・・」

「大方、試練として私をぶつけようなどと考えているのだろうさ」




あれ、でも確か・・・・


「飛び級ってことは、結構若いってことですよね?」

「数えで10歳だそうだ」

「10歳!?」


そんなガキに教師やらせようっての!?何考えてんだお偉いさん方は!?




「なんせ英雄の息子だ、奴らの期待も高いんだろうよ」

「それにしたって限度ってモンがあるでしょ・・・」


ちゃんと教員免許とった大人でさえ大変な仕事なのに、そんなチビ助に勤まるのか?






「あと5ヶ月か、ククククク・・・・・・」


・・・・幼女が悪い顔してる、何か企んでやがんな?




「これでやっと、このふざけた呪縛から解放される、クフフフフフ・・・・」

「・・・何する気ですか?」

「決まっている!この呪いを解くには、かけた本人に解呪させるか、血縁者の血を大量に頂くのが1番手っ取り早いんだ!」

「・・・女子供は殺さないんじゃなかったんスか?」


ソレが【闇の福音】のポリシーのハズだけど?



「ふんっ、親の後始末は子供の仕事だ」

「駄目っすよ、親の失態を子供に押し付けるなんて最低ですよ?」

「じゃあどうしろと言うんだ!このまま永遠に能天気連中と学校に通えというのかキサマは!!」

「そうならないために、こうして俺が解呪しようとしてるんじゃないっスか」




そう、エヴァさんと交流を持ってから、俺は2週に1回くらいのペースでエヴァさん宅を訪れ、浄化魔法を掛けまくっているのだ。


元々俺の浄化魔法は、状態異常を問答無用で正常化させる回復魔法なんだ。だから【登校地獄】も解呪できたっておかしくは無い。


だが俺の魔力では、【サウザンドマスター】が力任せにかけた呪いに太刀打ちできないのだ。

コレでもいろいろ試行錯誤してみたんだよ。
これでもかってくらい集中して魔力を練り上げたり、はたまた続けざまに魔法を重ねがけしてみたり、他の回復魔法を手当たり次第にかけてみたり。



「だが、その結果がコレじゃないか」


仰る通りでございます、面目ねえ。




「コレは千載一遇のチャンスなんだ。そのためにも、奴が来日する前に力を貯めなければ――――」

「力を貯めるって・・・、まさか一般人から吸血するつもりですか!?」



それは駄目だ!関係ない人まで巻き込むのはイカン!!



――――――あ、そうだ!!



「エヴァさん、こういうのはどうです!?」

「ん、なんだ?」

「それはですねえ、―――――――、――――――」





とっさに思いついた計画を早口で説明、コレで丸めこまれてくれ!







「――――――っていうことなんですけど・・・、どうでしょう?」

「・・・・」




・・・・駄目っすか?





「・・・・・いいだろう」



よかった、なんとか納得してくれたか。




「じゃあとりあえず、4月ごろまでは様子を見るということで・・・」

「そのかわり、これから定期的にキサマの血を頂くからな」

「吸血鬼化させないでくださいよ?」



もしもの時のエヴァ案実行のために、力を貯めることをやめる気は無いそうなので、俺の血を献上することで決着がついた。




・・・・なんで俺がこんな気苦労しなけりゃならんのだ。

くそぅ、【サウザンドマスター】め、覚えてろよ・・・。









「話ハ終ワッタカ、御主人?」

「お、チャチャゼロじゃん、元気してたか?」

「元気スギテ、ナンデモイイカラ斬リタイ気分ダゼ」

「ソレいつもじゃねえか」


この物騒なことをほざいてる人形は『チャチャゼロ』、【人形使い】エヴァさんの従者の中でも最古参の殺戮人形だ。

エヴァさんの魔力供給で動いているから、普段はしゃべれても動けない状態なんだが、この別荘の中だとエヴァさんは力を取り戻すので、こうして自由にウロウロできるという訳だ。

最古参だけあって戦闘技術は群を抜いている。ときどき戯れに手合わせするんだけど、一撃ずつが重いの鋭いのって。





「ミサト、久シブリニ斬リ合オウゼ」

「え゛、・・・マジでか?」

「オマエハスジガイイカラ、ヤリアッテテ楽シインダヨ。思ワズ殺シタクナルクライナ」

「オマエの気分で殺されちゃたまんないっての・・・」


だが、断ることもできない。いや、断ることはできるが、その場合は問答無用で斬りかかって来る。だったら素直に受諾した方が建設的だ。


とはいえ、進んで斬りあいたいとも思わない。どうすれば・・・・





「・・・よし、今日は少し趣向を変えてみるか」

「ン?ナニスル気ダヨ?」


なるべく俺の身の安全が保障された状態でやりたいからね。


カードを出して、思い描くはアノ姿。





【来たれ】!



カードが輝きを放ち、姿を現したのは―――――――――――








―――――――腕がダランと伸び、猫のような耳を携え、なんとも形容しがたい笑みを浮かべたツギハギだらけの人形であった。




「なんだ、この不細工な人形は?」

「俺のアーティファクトの1つ、その名も『トクナガ』!!」

「ソイツデ闘ウノカヨ?」

「まあ見てなって」


トクナガの頭を掴みながら地面に置く。そして――――――




「―――ふっ!!」


 ぼわんっ







――――――一気に俺の背丈を越えるほどに巨大化した。




「デッカクナッチャッタ!?」

「古いぞ、それ」

「ほう、【人形使い】の私でも初めて見るシロモノだな」


エヴァさんが【人形使いドールマスター】なら、俺は【人形士パペッター】なのだよ。

コレ出すのも久しぶりだなぁ。昔はよくコノカやセツナと一緒にトクナガに乗って遊んでたっけ・・・。



ただ、ぬいぐるみの上にイイ歳した男が乗っかるのは、画的になんか嫌だ。


なので、試行錯誤の末――――――








『憑依合体inトクナガ!!』




――――――着ぐるみのように着こむことに成功した。こうすることにより防御面の心配が減るんだよ、防刃ジャケットみたいなもんだ。





『準備万端!!さあ、どっからでもかかってきちゃってくださぁ~い!!』

「・・・ソレはいいんだが、なんだその甘ったるいしゃべり方は」

「声モ変ワッテルナ、年頃ノ女ミテエダ」

『ボン太君効果とお呼びください、大佐ぁ♪』

「誰が大佐だ」


この状態になると、何故か自動的にアニス声になってしまうのだよ。
まあ、この方が気分が出ていいんだけどね。



「ナンデモイイ、ハヤク殺リアオウゼ」

『ボクのチカラを見せてあげましょう!』


今の俺は『ミサト』ではなく『トクナガ』だ。なので一人称は「ボク」だ、なんとなく。





「イクゼェ!ケケケケケケケケッ!!」

『おりゃああ!【流影打】ぁ!!


対の刃と流れる拳が激突する――――――――――!!
















―――――――――結果、ボコボコにされました。


「動作ガデカ過ギダゼ」


トクナガは機動性に難があるのを忘れてたよ・・・・。


『・・・・月夜ばかりと思うなよ、・・・ガクッ』

「オマエは何がしたかったんだ?」

















それからしばらくは去年に引き続き、とても楽しい毎日が続いていった。







「ミサトお願いっ!宿題手伝って!!」
「リミット寸前でござる!!」
「ヘルプウィーアル!!」

「学習しろよ、オマエら」


―――――――コントバカ信号の夏休みの課題に付き合わされたり。









「ニノ、一緒にボウリング行かない?」

「女の子何人か連れて来てくれよ」

「ソレが狙いか」


―――――――野郎共の飽くなき挑戦に付き合わされたり。









「セツナ、ソッチ行ったぞ!」

「はああ!【斬岩剣】!!

「残党は私に任せてもらおうか」


―――――――傭兵組で仕事に勤しんだり。









「ユエ、髪のベタ塗って!!ミサト君、ここペン入れして、早く!!」

「なんでハルナはいつもいつもギリギリまで溜めるんですか!」

「す、すみません、ミサトさん・・・」

「・・・・ノドカ、いい加減俺に慣れてくれよ」


―――――――ハルナの強行軍に付き合わされたり。









「ケーキ焼けたえ~♪」

「やっぱり俺の部屋なんだな」

「いつものことでござるよ」

「それもそうか、・・・・・ほんじゃあ――――」

「「「「「「―――――メリークリスマースっ!!!」」」」」」


―――――――聖なる夜を星達と共に過ごしたり。









「おっす、あけおめ」

「今年も参拝に来たのか、何か買っていけ」

「いきなりたかるんじゃねえよ」

「今川焼が美味しそうアル」

「俺を見ながら言うんじゃねえ、他4人もコッチ見んな」


―――――――年が明けてスグに奢らされたり。










―――――――そして。













本日、2月某日。3学期も半ばである。




《学園生徒の皆さん、こちらは生活指導委員会です。今週は遅刻者ゼロ週間。始業ベルまで10分を切りました。急ぎましょう。

今週遅刻した人には当委員会よりイエローカードが進呈されます。くれぐれも余裕を持った登校を―――》



そんなアナウンスと共に、駅前改札口の喧騒が耳に入って来る。ココの朝はマジでうるさい。

ヌーの大行進の如く猛進する生徒達を横目に、俺はコノカ、セツナ、アスナと共に改札前で待ちぼうけ。

ソレと言うのも、俺達に本日付で麻帆良に赴任してくる新人教師を迎えに行くようにと学園長が頼んできたからである。

新人教師と言うのは、例の子供。エヴァさんの情報通り、修業のために麻帆良にやって来るのだ。

それで俺らが迎えに来た訳なんだけど、これ他の先生に頼めなかったのか?早起きしなくちゃならなかったから超メンドイんだけど。

ちなみに俺達と言ったが、正確には【漆黒の翼】の3人が頼まれたことであり、アスナは付き添いである。



「危うく寝坊するところだったわね」

「総統にモーニングコール頼んどいてよかったわぁ」


さいですか。



「でもさ、学園長の孫娘のアンタが何で新任教師のお迎えまでやんなきゃなんないの?」

「スマンスマン」

「いろいろ事情があんじゃねえの?」

「すみませんアスナさん、付き合わせてしまって」

「まあ、私が勝手について来たんだから文句言ったってしょうがないんだけど・・・

でもさ、他の先生に頼んだっていいと思わない?大体、ジジィの友人ならそいつもジジィに決まってるじゃん」


残念、的外れだ。ジジイの対極を行く奴がやって来るぞ。



「でもアスナ、今日は運命の出会いありって占いに書いてあるえ」

「え、マジ!?」


そう言ってコノカが取り出したのは購読している占い雑誌。コノカは占いが趣味なので、よくこの手の本を読んでいる。

でもよく考えろアスナ、今日運命の出会いがあるってことは、既に面識のある高畑さんは運命の人じゃないってことになるぞ。



「ほら、ココ。しかも、好きな人の名前を10回言って『ワン』と鳴くと効果ありやて」
「お、ホントだ。それに『ワン』の直後に『○○、大好きだニャン』て言うと更に効果倍増だって」

「うそ!?



―――――高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生(以下略)ワンッ!!高畑先生、大好きだニャンッ!!!」



・・・・ホントにやりやがった。スゲエ度胸だな、こんな往来でそこまでするとは。



「・・・すごいですねアスナさん、高畑先生のためなら何でもしますね・・・」

「・・・殺すわよ?」

「いいや、褒めてんだよ。本人の前じゃないにしても、この往来で大好きとまで宣言したその度胸があれば、きっといつか高畑さんは振り向いてくれるさ」

「え、ホントに!?」

「ああ、今すぐ『ムーンライトパワー』って言いながらセーラー服に着替えればきっと叶うってココに書いてある」

「アンタを月に代わってブチノメシてもイイ?」


やっぱりノセやすい奴だよな、アスナって。










「あのぉ・・・・」


ん、誰だ?


声のする方に顔を向けると、アスナの顔を窺いながら朗らかな笑みを浮かべる少年が一人。

背中には杖らしき棒を差してるし・・・、もしかしてコイツが件の子供か?


その利発そうな眼鏡の少年は、こう続ける。









「――――あの、・・・・・アナタ、失恋の相が出てますよ?」





・・・・うわぁ、ちょーしつれーボーイ。

対してアスナ、どう反応する?




「なっ、・・・し、しつ、しつれ、・・・・」


そうだね、失礼だね。






「――――んだと、このがきゃああぁ!!!」

「うわあああああ!?」



般若降臨。少年、デリカシーという言葉を覚えよう。俺は女2人に囲まれて育ったからその辺敏感だぜ、多分。



「い、いえ、何か、占いの話が出ていたようだったので・・・」

「ど、どど、どういうことよ!テキトーなこと言うと承知しないわよ!?」

「い、いえ、かなりドギツイ失恋の相が・・・」

「ちょっとおおおお!?」

「泣くなよ、ガキの戯言程度で」

「私はね、ガキは大ッ嫌いなのよ!!」

「いえ、戯言じゃなくて本当に・・・」

「オマエはちょっと黙っていようか」


テメェがしゃべると収まるものも収まらなくなりそうだ。



「あ、アナタ・・・・」

「今度は何だ」

「軽く浪費の相が出ていますよ?」

「・・・ソレは去年あたりから出始めたヤツだ」


・・・結構信憑性あるかもな、コイツの占い。


と、アスナの手が少年の頭に伸びる。そのままワシっと掴みあげ、万力の如く締め付ける。おおスゲエ、アイアンクローだ。



「取・り・消・し・な・さ・い・よおおお・・・!!」

「い、いだい、いだいですよおお・・・」


このまま観戦してもいいが、いつまでもココに居る訳にもいかんな。



「アスナ、ストップ」

「邪魔しないでよミサト!このガキを火星に代わって折檻するんだから!!」

「ソレはまた時間のある時にしてくれ」


とりあえず手を離してもらうことには成功した。少年涙目っす。



「んで、頭痛に苦しんでるところ悪いんだけど」

「は、はい・・・・」

「キミが『ネギ・スプリングフィールド』か?」

「え、・・・あ、ハイ、そうです!」


やっぱそうなんだ、本当に10歳なんだ。



「じゃあ総統、このコがおじいちゃんがゆうとった・・・?」

「そうみたいですね、このちゃん」

「え、ちょっと、何よ、何の話よ。なんでミサトがこのガキの名前知ってんのよ?」


アスナの疑問に答えようとしたその時、






「――――いやあ、済まなかったねキミたち、面倒を押し付けてしまって」

「あ、高畑さん、おはようございます」
「た、高畑先生!? お、おはよーございましゅ!」
「おはよーございまーす」
「おはようございます」


タキシード眼鏡様、じゃなくて高畑さんが来てくれた。来れるなら初めから来てくれよ。



「お久しぶりです、ネギ先生」

「久しぶりタカミチーッ」


この2人って面識あったのか、知らんかった。

アスナもかなり動揺してるな。そりゃそうか、憧れの人と失礼なクソガキが知り合いだったんだから。



「麻帆良学園へようこそ、いい所でしょう?ネギ『先生』」

「せ、先生?」

「あ、ハイ、そうです」


少年は頷いた後、咳払いして一礼。ココでようやく自己紹介か。







「この度、この学校で英語の教師をやるコトになりました、ネギ・スプリングフィールドです」


「・・・・え、ええ、えええええええええええええぇ!!!!?」



まあ、当然の反応だよな。あり得ないもん、常識的に考えて。



「ちょ、ちょっと、どういうことですか!?こんなガキが先生って・・・、何かの間違いじゃないんですか!?」

「ハハハ、彼は頭がいいから問題ないよ」


大ありだろ、ダンディに笑い飛ばせば誤魔化せると思うなよ。




「い、いや、でも・・・」


・・・・誤魔化されかけてるのが1人居るな。




「それと、今日から僕に代わってキミ達A組の担任になってくれるそうだよ」

「はあああああああああ!?」


驚愕の余りこんな声が出るアスナ。


おい、そんな話聞いてねえぞ?このノーデリカシーボーイがコノカやセツナの担任?なんで担任なんだよ、せめて副担とか教科のみとかにすればいいのに。



「そ、そんなぁ、・・・私、こんな子イヤです。さっきだってイキナリ失恋・・・いや、失礼な言葉を私に・・・」

「でも本当なんですよ」

「本当とか言うなああああ!!!」


アスナにとっちゃ一大事だろうな、担任が大好きな人から気に食わないガキに代わっちまうんだから。

高畑さんの前だというのに、ネギに無神経だのミジンコだの罵声を浴びせ続けるアスナ。それだけ切羽詰まってんだろうな。




「まあまあアスナ、ちょお落ち着こな?」

「そうですよ、そう頭ごなしに否定しては・・・」


コノカとセツナに肩を掴まれるも、いっこうに勢いの落ちないアスナ。


あまりの罵声に、ネギ少年も困り顔から怒り顔にシフトしてきた。怒るのは勝手だが、原因はキミだよ、わかってる?





――――と、ヒートアップしてネギに近づいたアスナの髪の毛が、眼鏡の掛かった小さな鼻をくすぐるのが見えた。











―――――――そのときはまだ、このガキの恐ろしさを、俺達は知らなかったんだ。








「はっ・・・、はぁっ・・・」




ネギの鼻腔は刺激を受け―――――――










「――――はくちんっ!!」







――――――瞬間、魔力がその場を渦巻いた。



暴走を起こしたその噴流は、少年を掴みあげていたアスナ、そのアスナを宥めていたコノカとセツナの制服を、下着を残し、すべて塵と化した――――――






「「「「・・・・へ?」」」」











――――――何が起きたのか、一番早く理解できたのは、俺だった。












「―――――見るなあああああああああぁ!!!!!!!」


「ひぎゃあ!?眼がああああああ!!?」




光の速さでネギに眼つぶしを喰らわせる!


ガキが悶絶しているが無視!瞬時にコートと制服の上着、Yシャツを脱ぐ!


コートをコノカに!!

上着をセツナに!!

Yシャツをアスナに!!



「あ、ありがとお、総統・・・」

「た、たすかりました・・・」

「・・・・な、なんなのよコレはああああああ!?」


・・・・なんとか、コイツらの痴態を曝さずに済んだか。俺もTシャツ着てるし。


幸いなことに、今は通学ラッシュを過ぎた時間帯。周囲に人影らしきものは無かった。


高畑さんは・・・・、そっぽ向いてるな、アンタ紳士だよ。



「え、あ、あの、・・・ご、ごめんなさい!わ、ワザとじゃなんです!!」


・・・・このガキャァ、ウチの構成員をキズモノにする気かテメェ・・・。














――――――これが、【英雄の息子】ネギと俺達の初邂逅だった。











◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ついにネギ来日。いったいどうなるミサトの平和!?



ネギ着任の日を間違えました、修正します。







[15173] 漆黒の翼 #15
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:de901972
Date: 2010/01/31 19:24


「学園長先生!一体どーゆーことなんですか!?」

「まぁまぁ、アスナちゃんや」




所変わって、ココは学園長室。あのストリップ騒動の後、俺達はネギを伴い挨拶にやってきた。挨拶というか、アスナの抗議が7割くらいだけど。


現在学園長室に居るのは6人、高畑さんは用があるとかで退席した。


その内4人は装いを改めている。

服がハジケ飛んだ女3人は学校指定のジャージに着替え、そしてハジケ飛ばした本人は頭の上にこの冬の流行アイテム『たんこぶ』を乗せている。


なんでかって?俺がネギをぶん殴ったからだよ。大事な幼馴染達が服を剥かれたんだ、これくらいは許してほしい。


まあ十分反省してるみたいだから、一応アスナ以外はもう怒ってないけどさ。くしゃみを媒介にした武装解除なんて初めて見たぞ。コレはある種の才能だろうか。





「なるほど、修業の為に日本で学校の先生を・・・・・、そりゃまた大変な課題を貰うたのぉ」

「は、はい、よろしくお願いします」

「しかし、まずは教育実習とゆうことになるかのう、・・・・・・ところでネギ君には彼女はおるのか?どうじゃな?うちの孫娘なぞ」

「ややわぁ、じいちゃん」



どさくさにまぎれて何言ってやがるジジイ。いい加減コノカの見合いのセッティングとかすんのやめろよ、これでもコノカ結構嫌がってんだぞ?

あとコノカ、幾らツッコミでもハンマーはやめとけ?じいさんが三途の川に足をツッコンじまうから。





「ちょっと待ってくださいってば!だ、大体、子供が先生なんておかしいじゃないですか、しかもウチの担任だなんて・・・・・」

「ネギ君、この修業は恐らく大変じゃぞ」


アスナは無視か、ジジイ。


「駄目だったら故郷に帰らねばならん。2度とチャンスはないが、その覚悟はあるのじゃな?」

「は、はい、やります。やらせてください!」




これから大変だろうに、あのクラスは並大抵の教師じゃ収拾つかないからなぁ。高畑さんだからなんとかなったんだよ。


周りの期待が高いってものイイことばっかじゃないんだよなぁ。英雄の息子も楽じゃないってワケか・・・。



コイツはまだ子供、至らないところがあって当然なんだ。


ある程度は長い目で見てやらないといけないのかもな・・・。




・・・だがソレを抜きにしても、あの思慮の浅さはイタダケナイ。教師としては致命的だぞ。



・・・また俺の友達に不埒な真似を働くってんなら、容赦なく制裁を喰らわせてやろう、うん、そうしよう。









――――――いずれにせよ、これからに期待するしかないかねぇ、ネギ・スプリングフィールド君?





・・・と、ネギがいつの間にか部屋に入ってきたしずな先生の胸に顔を埋めていた。俺の見てない間に何があった?


・・・・・・やっぱ1回ヤキ入れた方がいいかな?







「そうそう、もう1つ。このか、アスナちゃん、しばらくはネギ君をお前達の部屋に泊めてもらえんかの。まだ住むとこ決まっとらんのじゃよ」



「げ」
「え゛」
「え?」
「ええよ」
「い゛い゛!?」



―――――――上から、アスナ・ネギ・セツナ・コノカ・ミサト―――――――






何考えてんだクソジジイ!コノカの部屋に男を住まわすだぁ!?
長い目で見るとは言ったが、それとこれとは別問題じゃい!!
いかん、いかんぞ!!こんな天然のエロガキと一緒にさせたら一体どんなことになるか!!
認めん、総統は認めませんよおおお!!?


「大丈夫やって総統、この子かわええし」


そう云う問題じゃねえんだよ!セツナ、オマエもなんか言ってやれ!!


「わ、私は、このちゃんが良ければソレで・・・」


予想通りの答えだよチクショウッ!!


「もう!そんな何から何まで学園長ぉ!!」


アスナが机をバンバン叩いて抗議するも、学園長はのらりくらり。
暖簾に腕押し、糠に釘、豆腐に鎹、何を言ってもフォッフォッフォ。安西先生かテメェは!




「そう云う訳じゃ、みんな仲良くしなさい」


結局その一言で抗議は終了。

くそぅ、いつかその頭をヤスリで通常サイズにまで削り取ってやるからな・・・。







「そろそろ授業じゃ、早く行きなさい」

「あ、ホンマや。じゃあなぁネギ君、また後でなぁ」

「失礼します、学園長。では総統、行ってきます」

「ちょ、ちょっと待ってよ!・・・・私は認めないからねっ!」



3人の女学生たちはその場を後にした。


・・・俺も行かなきゃ。いくら刀子さんに話が通ってるとはいえ、余り遅れすぎるのもマズイ。




「・・・それじゃ、俺も行きますね」

「おお、手間を取らせたのぅ」



部屋を出る前に、先程の「認めない」発言に軽くショックを受けている少年の肩に手を置く。



「・・・まあ、いろいろ大変だろうけど、修行ガンバレよ?」

「あ、ハイ!えっと・・・『ミサト』さん?それとも『ソウトウ』さんですか?」

「『一 海里』だ、『総統』はあだ名だよ」


・・・一応、釘刺しとくか。




「さっき何が起こったかはよくわかんねえけど、もうあんなのはやめてくれよ?

アイツらは俺の大事な幼馴染で、大切な友達なんだ。オマエが俺の立場なら、当然怒るだろ?ワザとか否かに関わらず」

「は、はい、スミマセンでした・・・」


素直なイイ子なんだけどねえ、だからこそ性質が悪いというか・・・。




「それと、女に向かって『失恋の相が出てる』は無いだろ、失礼すぎるぞ」

「でも、あんなに怒るとは思わなくて・・・、親切で教えたのに・・・」

「『小さな親切、大きなお世話』ってな。他人の気持ちも汲めるようにならないと駄目だぞ?もう先生なんだから」


ヤル気が空回りさえしなければイイ線行くと思うんだよね、なんとなくだけど。




「俺も偉そうなこと言えないけどさ。まあ、全てはこれからだな。しっかり頼みますよ、ネギ『先生』?」

「ハ、ハイ!!僕、ガンバリます!!」

「あと、コノカ達に手ぇ出したらコロスからな」

「ハイ、ってええええええ!?」


死の宣告と共に、俺は学園長室を後にした。






















――――――翌週日曜日・エヴァンジェリン邸――――――





「――――で、子供先生はどんな感じだ?」


本日は【漆黒の翼】一味と【闇の福音】一味の臨時報告会。テーマは今言ったように、ネギの奮闘っぷりについてだ。

とりあえず1週間たったけど、それぞれの目から見てどう思ったか率直な感想が欲しい。





「ハッキリ言って、期待外れだよ。魔法の方は何とも言えんが、精神面は見た目通りの子供だ」

「責任感は強く見受けられますが、空回り気味のようです」


エヴァさん達の評価は辛め、か。ソッチは?




「頑張っているとは思いますけど、少々頼りないかと・・・。でも、一部の生徒を除けば受けはイイですね」

「ネギ君がんばっとるよ、アスナとも結構仲良うしとるし」


ソレは意外だ、ガキ嫌いのアスナが面倒を看るとは。




「総統、そのことなんですけど・・・」


なんだセツナ、何かあったのか?・・・・・ん、前にも似たようなやり取りしたような?




「その・・・・、バレたんです・・・」


バレたって何が?






「・・・ネギ先生が魔法使いだということが、アスナさんにバレたんです・・・」




「・・・・・・・・・・はあああああ!!!?」



え、ちょ、アス、バレたって、えええええええええええ!!!?



「い、いつ!?」

「・・・就任初日です」

「初日ぃ!?」


俺と別れた後すぐってことか!?早過ぎんだろ、いくらなんでも!?




「ネギ君を怒らんといてあげてぇな、ちゃんと理由があるんや」

「・・・理由?」




―――――セツナの話によると、広場をウロウロしていたネギの近くで、大量の本を持ったノドカが階段で足を踏み外し、ソレを助けるためにネギが咄嗟に魔法を発動。

その光景を、歓迎会に呼ぶためネギを探していたアスナが偶然目撃。あえなく魔法バレ、ということらしい。ちなみにノドカにはバレてないようだ。






「・・・申し訳ありません総統。遠方から監視していたために、対応が・・・」

「いや、誰のせいでもねえよ、タイミングが悪かっただけだ」

「ほう、安易に魔法を使ったぼーやはお咎めナシか?」

「俺のトモダチを助けてくれたんですから、感謝こそしますが文句なんて有りませんよ」



逆に、「魔法がバレるのはイケナイことだから助けませんでした」とかほざいてたら、この手でブッ殺してたところだ。





「・・・その後、アスナさんがパンツを消されたんですけど・・・、言わない方がいいか・・・」

「セツナ、なんか言ったか?」

「いえ、何も」







てことは・・・。


「じゃあ、俺達のことは?」

「ソレは大丈夫です、アスナさんもネギ先生も気づいていません」

「だが、時間の問題だ。私の呪いを解くにはミサトとぼーやの力が必要不可欠、近いうちにバレる、いや、バラす」

「そーいうことになるか・・・」



アスナを巻きこむことになるのか・・・。
危険だから関わるなって言って、ハイそうですかって引き下がるような奴じゃないし・・・、確実に首突っ込んでくるよな。
だからって、強制的に記憶を消すのは・・・・。



「悩んでもしゃあないて、その時になったらアスナと話し合お」

「それしかないか・・・」


・・・しばらくは秘密のままだな。






「あとは、ウルスラとのドッヂボール対決、それとホレ薬騒動ですね」

「ホレ薬?」



なんでも、迷惑をかけたアスナのためにホレ薬を作って持っていったら、機嫌の悪かったアスナに逆に飲まされて大騒動が起こったんだと。

このメンバーはキチンと対処したから平気だったらしい。





「まったく・・・、媚薬の精製は禁じられているのを、あのぼーやは知らんのか?」

「え、ああ、そうっすね」

「何だその曖昧な返事は」


いや、その件に関しては、俺も強くは言えないというか・・・。




「総統、昔ホレ薬作ろうとしとったもんなぁ?」

「・・・西の文献に似たような奴があって、好奇心でつい・・・」


結局失敗作しかできなかったし、後で詠春さんにバレてすげえ怒られたし・・・。



「・・・何をやっとるんだキサマは」


だってマンガでしか見たこと無いような薬の精製方法が書いてあったんだよ?試してみたくなるじゃん。


・・・・俺は悪くねえ!俺は悪くヌエェ!!






「ドッヂボール対決では、少しずつですが指導力が見受けられました」

「1回士気が下がってもうたけど、ネギ君の一言でみんなヤル気になったんよ」

「へえ、ちゃんと先生してんだな」

「その後くしゃみでウルスラ連中の服を消し飛ばしたがな」

「授業中にも、何度か神楽坂明日菜さんを武装解除しています」

「・・・やっぱり1回【クレイジーコメット】喰らわせた方がいいかな」



どうにかなんねえのかよ、あのくしゃみは。つうか、よくそれでアスナ以外にバレないな。



【登校地獄】の解呪については、ネギの技量を判断してから臨機応変に対処していく計画だったんだが・・・・



「とりあえず当初の予定通り、3年に上がるまでは様子見だな」

「ネギ君、今は実習期間中やし、新しい問題を増やしたら体がついていかんからなあ」

「どちらにしろ、血は頂くことになるがな」


どうにか穏便に事を運びたいもんだな・・・。





















「他になんか変わったことあるか?」

「ん~・・・、あ、ネギ君がウチらの部屋に住んどるのがいんちょやハルナの耳に入って、部屋で宴会始めたらアスナが怒って追い出してもうたり・・・」

「いつも俺の部屋で似たようなことしてるくせに・・・」



























※注意!ココから先はR-15です。






















{オマケ ある日の百八煩悩鳳の会話}



「あ~・・・・、彼女欲しい」

「何だダイチ、唐突に」

「別に唐突じゃないよ、僕らはいつだって出会いを求めてるんだから」

「そうだ!女侍らしてる奴にゃわかんねえだろうけどな!」

「だから侍らせてねえっての」

「うるせえ!その言葉はもう聞き飽きたわっ!!」

「ホントだよまったく・・・、ニノはベルカの騎士の風上にも置けないね」

「いつから俺はベルカの騎士になったんだ?」

「バーカ、男は誰しも股間にアームドデバイスを携えるベルカの騎士なんだよ」

「そうそう、女性と言う名の融合騎を求めて戦場を駆ける騎士なのさ」

「じゃあ訊くがダイチ、オマエのストラーダの調子はどうなんだ?」

「誰がスピード野郎だテメェ!」

「そう言うニノはどうなのさ?」

「俺のレイジングハートは何の問題も無い」

「へっ、カードリッジ使いすぎてポンコツになっちまえ」

「んなもん使わなくても常時エクセリオンモードだっつの」

「というか、レイジングハートはアームドデバイスじゃないんじゃないの?」

「事を済ませば賢者インテリジェントデバイスになるからいいんだよ」

「まあ何にせよ、融合事故には気をつけろってこったな」

「事故ってなんだよ」

「できちゃ「もういい、皆まで言うな」





――――――――中2男子の会話なんてこんなものである。










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





現在の総統の中での優先順位



漆黒の翼≫越えられない壁≫凛々の明星>エヴァ一味=図書館部=真名=詠春>百八煩悩鳳≧あやか≧千雨≧ネギ≫≫その他




木乃香と刹那は別格なんです、ハイ。










[15173] 漆黒の翼 #16
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:de901972
Date: 2010/02/03 17:29


 キーーンコーーンカーーンコーーン



「――――では、今日はここまでです!皆さん、気をつけて帰るようにしてください!」



ネギが女子中等部2-Aに着任して早数週間、戸惑いながらも少しずつ教員職が板についてきた今日この頃。




「さよーなら、ネギせんせー!」

「ネギ君、また明日ねー!」




A組女子の反応は上々。当初は少々頼りないと思われていたネギであったが、先のドッヂボールの一件で多くの生徒達からの信頼を獲得することとなり、多少のToLOVEるもありながら順風満帆の教員生活を送っていた。




「ネギ君、お疲れ様や」

「あ、アスナさん、このかさん。どうでしたか、僕の授業?」

「よかったえ、わかり易いし」

「ま、頑張ってんじゃない?」




ネギと同居しているこの2人は、とりわけ親しい間柄となっている。
特にアスナは、自分『だけ』が知っている『ハズ』であるネギの秘密へのフォローもあり、手放しにできないという理由もある。



まあ、少年の現状はさておき―――――



「アンタは、これから仕事?」

「あ、いえ、今日は会議も無いのでこのまま帰りです。アスナさん達は?」

「ウチらは総統の所に寄るつもりなんよ」

「総統・・・、ああ、ミサトさんですね。お2人で、ですか?」

「あとは、せっちゃんと―――」

「ミサトのトコに行くアルか?」

「拙者達も同行しても構わないでござるか?」

「おまたせしました、このちゃん」

「とまあ、この5人ね」



要するに、いつもの面々である。



「長瀬さんと古菲さんも、ミサトさんと親しいんですか?」

「あいあい」

「同じ釜のメシを食た仲アル」




「せや、ネギ君も一緒に来る?」

「え?僕も、ですか・・・?」




このネギ少年、少々海里に対して苦手意識のようなモノがある。

そりゃ会った初日に殴られたり眼潰し喰らったり、更には別れ際に死の宣告を賜わったりしていたのだ。
原因が自分に帰結しているとはいえ、その気持ちは分からなくはない。

オマケに彼と最後に会ったあの日から、一体どれだけ突発的武装解除をやらかしたことか。
もしソレが知れた日には火あぶりにされるのではないかと戦々恐々なのだ。

尤も、もうバレてるんだけどね。



「ぼ、僕が行っても大丈夫でしょうか・・・?」

「1人増えたところで怒るような御仁ではござらぬよ」



そう意味で聞いたんじゃないんですけどと言いたげなネギだが、そんな事情などお構いなし。

ネギは肉体派2人に売られゆく子牛のように引きずられ、その様子に明日菜と刹那が御愁傷様的な視線を送る。特に止める気はないようだ。




「・・・ネギの奴、大丈夫かしら」

「総統の折檻が頭に残ってるんでしょうね」

「大丈夫やて、総統も鬼やないんから」



甘いぞ木乃香、彼は君達のためなら「鬼」にも「魔王」にも「ぶるぁ」にもなる男だよ。




――――まあとにかく、一同は男子寮目指してダバダバ歩んでいくのだった。





















「――――んで、数学の範囲は、っと・・・」




 がちゃっ




「総統おるー?」

「遊びに来たわよー」

「だからノックしろっての」



いつもの事ながらまったく・・・、俺がレディアントマイソロジイ中だったらどうすんだコラ。





「・・・ん?珍しい顔が居るじゃねえか」

「こ、こんにちはミサトさんっ」



ネギが俺の部屋に来るとはな、珍しいこともあるモンだ。


・・・しかし、なんだかビビられてるような感じがするな。コロスは言いすぎたか、撤回する気ないけど。




「まあいいや、あがれよ。茶ぁ淹れっから」

「オ、オジャマシマス」

「「「「「お邪魔しまーす」」」」」





―――――全員に湯飲みを配付、ネギには客人用のシンプルな奴を。



「皆さんは、よくこうして集まるんですか?」

「まあな、この部屋は完全に溜まり場と化してんだよ」

「このメンバーでバンドを組んだこともあるでござるよ」

「ほら、そこに写真あるでしょ?学祭のときのヤツよ」

「本当だ・・・わ、スゴイ、賞も取ったんですか!?皆さんカッコいいですね!!」

「ふふん、もと褒めるアル♪」




あ、そう言えば・・・。


「ネギ、オマエまたアスナの服引っぺがしたらしいじゃねえか?」

「え!?あ、いや、ソレは、その・・・!?」

「一体どうなってんだよ、そのイリュージョンはよ?」



くしゃみで暴走する魔力って、どんだけ有り余ってんだよ。




「ミ、ミサト!!そ、ソレは私がみっちりきっちり叱っておくから、気にしなくてもいいわ!?」

「え、ああ、オマエがそう言うなら・・・」




・・・なるほど、こうしてフォローに回ってるってワケなのね。魔法の存在が一般人にバレたら、ネギはオコジョになっちまうからな。

でも何でオコジョなんだろうか?どっかの魔法少女はカエルだったような気がするけど・・・。


アスナの慌てっぷりにブルー&イエローはハテナ顔、ネギほっと安堵、その他苦笑い。・・・スマン、アスナ。苦労を掛ける。





――――と、セツナが俺の机の上に積んである教材やらノートやらに目を留める。



「勉強中でしたか?」

「いや、勉強っつうか、範囲の確認だな。もうすぐ学期末テストだし」

「へ~・・・・、ってええ!?そうなんですか!?」



・・・なんで教師のオマエが知らねえんだよ。




「もうすぐって・・・、まだ2週間以上先じゃない」

「気が早過ぎアルよ」

「ニンニン」



コントバカ信号どもはお気楽な発言。




「今の内からチョコチョコやっといた方が、後で慌てなくて済むんだよ。どっかの誰かさん達と違ってな」

「「「ギクッ」」」



コイツらはいつも直前になってからアタフタするからな。その度に俺が駆り出されてるワケなんだけど。

逆にいえば、テスト直前はコイツらの勉強を見るために当てられるので、今のうちに自分の分をやっておこうということなんだけどね。

知識としてはもう頭に入ってることばかりだから、軽く復習する程度で済むから楽だけどさ。




「へ~、ミサトさんは偉いですね!」

「ウチの学校はエスカレーター式だから、そこまで根詰めることじゃないんだがな」

「そ、そうそう!あわてなくてもヘーキヘーキ!」

「大丈夫アル!まだ余裕アル!」


「その余裕が、A組万年最下位という不名誉な称号として残ってる訳なんだけど」

「「「「うっ!」」」」



あれ、1人増えたぞ?





「ぜ、全然大丈夫じゃないじゃないですか!?」

「そうだな、今回はネギのこともあるしな」

「? ネギ君がどないしたん?」


よく考えてみ。




「教育実習期間中のネギが受け持っているクラスが学期末テストで最下位を取る。学園長からの評価は?」

「良くは・・・、無いでしょうね・・・」

「ヘタすりゃその時点で修業終了、なんてことにもなりかねんぞ」

「そ、そそ、そんなぁ!?」


まあ、ソレは言いすぎかもしれないけどね。




「と、いうわけだ。今回は気合入れてけよ?オマエらの頭脳にネギの将来が懸かってんだから」

「よ、よろしくお願いします、皆さん!!」

「や、やるだけやってみるわ・・・」
「ま、まかせる、アル、ヨロシ・・・」
「ニ、ニン・・・」

「・・・このちゃん、よろしくお願いします」
「まかせとき♪」



・・・本当に大丈夫だろうか?まあ、いざとなったら俺も手を貸すし、なんとかなるか?




・・・ん?どうしたネギ、キラキラした目でコッチ見て。



「ミサトさん!僕、誤解してました!あんな失礼を働いた僕を、こんなに気にかけてくれるなんて・・・!怖い人かと思ってたけど、ミサトさんてイイ人なんですね!」

「・・・面と向かって怖い人とか言うなよ」




俺だって、進んで子供の未来をつぶすような鬼畜ではない。

俺がコイツをブン殴ったりしたのは、逸脱した失礼を働いたからだ。大事な幼馴染達が往来で脱がされりゃ、俺じゃなくても殴るだろう。

かなり私怨も混じっていたが、子供の過ちはちゃんと周りが正してやらなきゃならない。そして長所は伸ばしてやるのがベストだ。

教育を語るほどデキタ人間ではない、というか本当に半分はニンゲンではないんだが、それくらいは俺にもわかる。




「一応はオマエより長生きしてるし、相談くらいには乗るさ」

「はい!よろしくお願いします!!」

「あと、コノカ達に手ぇ出したらコロスから」

「ソコは変わらないんですか!?」


―――――詰まる所、トモダチ達に危害が及ばなけりゃソレでいいんだよ、俺は。





「すぐ近くに先生が住んどることやし、いろいろ質問したらええんやない?」

「はい!どんどん訊いちゃって下さい!なんでも答えますから!」

「アイドル評論家ってどうやって食い扶持繋いでんだ?」

「え、いや、その手の質問はちょっと・・・」

「まだその疑問引き摺ってたんですか?」






「・・・ま、まあ今日は勉強道具も無いし!」

「とりあえず遊ぶアル!」

「明日からがんばるでござる!」



ソレ完全に駄目な奴の発言じゃねえか・・・。


・・・まあ俺も今日は範囲確認だけの予定だったし・・・。




「まあいいや、何する?」

「スマブラでもやろっか」

「ミサトのピーチにリベンジアル!」

「ネギ君もやろー?」

「TVゲームですか?僕、そう云うのはやったこと無くて・・・」



・・・何?




「じゃあ、マンガとかは?」

「ソレもあまり・・・。図書館で勉強したり、まほっ、・・・い、いろいろ練習したりはよくしてましたけど」



そりゃいかん、マンガには人生の教訓が兵糧丸の如く詰まってるんだぞ?ワンピとか銀魂とか読んでみ、いろんな意味でスゴイから。




「子供は遊ぶのが仕事アル、偶には息抜きも必要アルよ」

「何事も挑戦、でござるよ」

「は、はい、なんとかやってみます」



・・・ゲームってこんな畏まってやるモンだっけ?





「まずは、ネギ・コノカ、セツナ・アスナでチーム戦やってみ」

「あの、説明書は?」

「後ろから指示出してやるから」

「習うより慣れろアル」


やりながら覚えたほうが早い。



「私サムスね」

「では私はマルスを」

「ウチはカービィや」

「ネギ坊主は?」

「えっと、・・・じゃあこの帽子の子を」


・・・いきなりネスとは、レベルが高いな。




《―――――Ready・・・・Go!!》



「喰らいなさいネギ!チャージショット!!」

「うわ、アスナ容赦ねえ!」

「うわわっ!ぼ、防御はどうやるんですか!?」

「ネギ君、人差し指のボタンや!」





――――――遊びも大事な糧となるのだよ、ネギ少年?





























――――――数十分後――――――




「あ、この電撃みたいなのって自分にも当てられるんですね!」

「ああ!私のマルスがぁ!!」

「ネギ君すごぉい!」

「この・・・、刹那さんの仇ぃ!チャージショットォッ!!」

「あ、バットで打ち返せました!」

「サムスウウゥ!!!」



コイツの学習能力ハンパねえ!!














◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





「―――――詰まる所、トモダチ達に危害が及ばなけりゃソレでいいんだよ、俺は」




これがミサトの行動原理です。一般人に危害が~~とかいろいろ言ってますが、根本はこれです。














[15173] 漆黒の翼 #17
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:de901972
Date: 2010/02/08 00:41



「――――やっぱりテスト前だけあって、他のクラスの皆さんはピリピリしてますね・・・」



学期末試験も間近になったある朝、ネギは日直の桜子、同じく日直の『明石裕奈』と廊下を歩いていた。

ふと他の教室を覗けば、しかめっ面してノートに向き合う女生徒達が多く見受けられる。遊びたい盛りの学生にはツライ時期だ。

実習生のネギにとっても、今回のクラスの成績いかんで己の評価も変わるやもしれないと云うのもあって、幼いフェイスに神妙な表情を浮かべている。




「あー、週明けからだもんねー」

「大変だよねー」



・・・そんなネギの心配とは裏腹に、可愛い教え子2人はまるで他人事。危機感の欠片もない。




「・・・あの、ウチのクラスも例にもれず試験はやって来るんですけど・・・?」

「あはは、でもウチの学校エスカレーター式だし、あんまり関係ないんだよね~」

「そうそう。2-Aはずーっと学年最下位だけど、大丈夫大丈夫」



能天気なのはこの2人だけではない。基本的には何をせずとも進級できるので無理に勉強なんてしたくない、と言うのがA組女子の大半の意見だ。

でも、それではネギが困ってしまう。これから先の修業に支障をきたす、いや、修業自体おじゃんになってしまいかねないのだから。


だがネギだって、ただ手をこまねいていた訳ではない。

海里に言われたあの日から、自分にできることを模索し、各教科ごとに要点をまとめたプリントを作成したりして手を打っていたのだ。


テスト1週間前辺りから、HRに特製の小テストを実施したりもした、もちろん詳しい解説付きで。

勉強嫌いの生徒達は笑い泣きだったが、ネギを溺愛する委員長・あやかの一喝により異議は却下された。

ちなみに、キラ着いた眼でネギから礼を受けたあやかが鼻血を吹いて倒れたのは全くの余談である。




―――――ただ、やはりネックなのは例の5人、バカレンジャーの面々である。学年底辺の異名は伊達じゃないと言わんばかりだ。

やはりこの5人を攻略しないことには最下位脱出は難しい、もちろんロイド的な意味ではない。





「・・・ま、まあ、最下位になったら修業断念と決まったわけじゃないし・・・、ポジティブに考えなきゃ、ポジティブに・・・」

「ネギ先生?」

「うきゃいっ!?」



思考の渦にどっぷり浸かっていたため、急に声を掛けられて変な声が出てしまう。



「し、しずな先生でしたか・・・。どうしたんです?」

「あの・・・、学園長先生がこれをアナタにって」

「封筒・・・、手紙ですか?」



深刻な顔をしたしずなから受け取ったのは封筒。そして封筒にはこう書かれてあった――――




――――『ネギ教育実習生最終課題』、と――――




「ぼ、僕への最終課題・・・!?」



いやまさかと、頭によぎる不安を振り払い、意を決して封を切り、中に入っていた手紙をゆっくりと開いた。







[ ねぎ君へ――――――


次の期末試験で、ニ-Aが最下位脱出できたら正式な先生にしてあげる。


―――――――麻帆良学園学園長 近衛近右衛門 ]






「え~、何々!?どーしたの、ネギ君?」

「あー!ネギ君、本物の先生になるんだ!?・・・・・て、あれ?どしたのネギ君?」



「・・・あは、あはははは・・・」




初年の少々渇いた笑い声が、廊下に響いたとか響かなかったとか。
















「――――という訳で、週明けはもうテストです!今回また最下位だといろいろ大変なコトになるので、皆さん頑張って猛勉強しましょう!!」



朝のHRは、ネギの激励から始まった。正式採用の懸かったこの課題、なんとしても合格しなければという気合いがヒシヒシと感じられる。




「では、朝恒例の小テストを・・・」

「ハイハーイ!提案提案っ!」

「ハイ桜子さん、何ですか?」

「今日は趣向を変えて、『英単語野球拳』をやるのがイイと思いまーす!」




ネギ特製のテスト配付を遮り、能天気丸出しの提案をするラッキーガール桜子。

そのアホな提案に、あやか等クラスの良識派数名は異を唱えるが、大多数の能天気派の歓声に掻き消されてしまった。


そして野球拳の意味など知らないネギは、生徒の自主性を尊重し、その案を採用。

とりあえず、これからの方針を決めるべく数秒思考に入る。






「アレが、コレで・・・、ソレが、アレして・・・・・」




・・・そうして、方針も固まったところで顔をあげ―――――




「・・・・よし、コレで行こ―――――!?」





―――――眼の前に桃色空間が、いや、カオス空間が出来上がった。


気が付けばバカレンジャーは全員半裸、明日菜とまき絵に至ってはパンツ一丁である。




「な、何やってるんですかーーー!?」

「何ってホラ・・・・、答えられなかった人が脱いで行くんだよ」




もはや勉強など忘却の彼方、完全にお祭りモードにシフトしてしまった。


ココでようやくネギは野球拳のルールを理解し、同時にこのクラスの能天気さ、そして最終課題の難しさを改めて理解させられた。

所謂、『駄目だこの人達・・・、早くなんとかしないと・・・』状態である。




「ど、どうしよう、このままじゃ・・・・」




―――――その時、ネギの優秀な頭脳に天啓が舞い降りた。



「――――そうだ、思い出したぞ!3日間だけ、とても頭が良くなる禁断の魔法があったんだ・・・!


・・・・副作用で1ヶ月くらい頭がパッパラパーになるけど、この際仕方が無い!!」
 

「コラーーー!!やめやめええい!!」



・・・天啓は寸前の所で明日菜に却下された。パッパラパーはお気に召さなかったようだ。


明日菜はネギを教室から連れ出す、もちろん裸じゃない、ちゃんと服着てます。そして2人は人気のない階段の踊り場へ――――――。





「アンタねぇ!魔法に頼るのやめなさいよ!」



そしてスーパーお説教タイム。魔法バレしたら即帰国なのに何やってんだこのヘボ魔法使い!と、がうがう吠える。


しゅんとするネギに、ホラコレとノートを差し出す明日菜。

そのボロボロのノートには、今までやってきた自己採点済みの小テストの答案が挟んであった。


「あっ、まあまあ出来てる!」


明日菜も、海里に言われた時から何もしていなかった訳ではない。小テストは決して良い点数とは言えないが、今までに比べればかなり良い点を取れるほどにまで頑張ったのだ。



「まったく、本当の魔法は勇気だとか自分で言っておいて・・・」



以前祖父から聞いたありがたい言葉を明日菜にも教えていたネギ。その本人がコレじゃ説得力無いじゃない、と言いたいようだ。



「マギ・・・何とかを目指してるのか知らないけどさ、そんな風に中途半端な気持ちで先生やってる奴が担任なんて、教えられる生徒だって迷惑すると思うよ!」



そう言って、ネギをその場に残し去って行く明日菜。


その言葉に、ネギは強いショックを、そして同時に強い感銘を受けた。



――――そうだ、コレじゃダメだ。魔法に頼っちゃいけない、ただの人として、一教師として、乗り越えなきゃダメなんだ!と―――――




【――――誓約の黒い3本の糸よ、我に3日間の制約を――――】



――――そして、少年は己に制約を掛ける決意をした。



















「――――えええええっ!? 最下位のクラスは解散!?」



時刻は午後6時25分。場所は女子寮大浴場。湯につかっているのはバカレンジャーと図書館部の面々。

なんでも、『最下位を取ったクラスは解散』という噂を何処からか拾ってきたらしい。



「その上、特に悪かった人は留年!! それどころか、小学校からやり直しとか・・・!」

「ええ!?」

「ちょ、ちょっと待ってよ!そんなの嫌だよ!」

「マ、マズいね・・・。ハッキリ言ってクラスの足引っ張ってるの私達5人だし・・・」

「わ、私もあまり自慢できる成績じゃありませんし・・・」

「明日辺り、ミサト殿に泣きつくしかござらぬか・・・」

「ミサトには苦労をかけるアル」

「まあ、総統もテスト前にみんなに教えるの、割と楽しんどるみたいやけどな」



このメンツの中でも特に頭を抱えているのは、今日ネギに説教したばかりの明日菜。自分が1番を足引っ張ってる自覚がある分、その悩みもデカイ。

昼間偉そうなコト言った手前、ネギのパッパラ魔法に頼るわけにもいかない。一体どうすればいいんだ。




「――――ココはやはり・・・、アレを探すしかないです」



――――と、ジュースを飲みながら風呂に入る夕映が唐突に発言する。風呂で飲むのがオツなんだろうか。

藁にもすがる少女達は、一斉に『抹茶コーラ』なるものを味わう全デコ娘に注目する。



「『図書館島』は知っていますよね?我が図書館探検部の活動の場ですが・・・」

「う、うん。一応ね・・・。あの湖に浮いてるでっかい建物のコトでしょ?」



長いことこの都市に居るのに、行ったこと無いのかオマエは。



「実は、その図書館島の深部に、読めば頭が良くなるという『魔法の本』があるらしいのです」

「「「「ま、魔法!?」」」」
「「ドキッ!」」



魔法、と聞いて驚くバカレンジャー―1、ドキッとする“裏”関係者2人。



「大方出来のイイ参考書の類とは思うのですが・・・、それでも手に入れば強力な武器になります」

「もー夕映ってば、アレは単なる都市伝説だし」

「ウチのクラスも変な人達多いけど、流石に魔法なんてこの世に存在しないよねー」

「せ、せやせや!ま、魔法なんてあらへんよなぁ、せっちゃん!?」

「そ、そうですとも!そ、それより、明日部屋に行く旨を総統に連絡しておかないと・・・!」



どうにかこの流れを断ち切らなければ、と頑張る関西出身コンビ。

約2名テンションのおかしくなった者が現れる中、ただ1人、明日菜は違った。

この冬、魔法ネギという存在を知った明日菜はこう考えた。



――――魔法使いが居るなら魔法の本があってもおかしくないんじゃないか――――

――――ネギも頭が良くなる魔法を使おうとしていた、なら魔法で頭が良くなるコトは裏打ちされた事実なのでは――――





「―――――行こう!! 図書館島へ!!」


「「「「「え?」」」」」
「「え!?」」



明日菜は魔法など信じていないだろうと考えていた少女達は気の抜けた驚嘆の声を、話がマズイ方向へ向かってしまうことを察知した少女達は驚愕の声をあげた。



「ア、アスナ!有るかどうかもわからんのに行かん方がええて!」

「そ、そうですよアスナさん!眉唾の本より、今まで通り総統に頼った方が・・・!」

「いいえ!このままミサトに頼ってても前には進めないわ!!栄光は自分の手で掴み取るものなのよ!!」



・・・これから魔法に頼ろうとしている奴が何言ってんだか。

他の面々も、明日菜のアホみたいなスピーチに感銘を受け行く気満々になってしまった。


ココで困るのは木乃香と刹那だ。噂がのぼるということは、何かしらの根拠があるハズ。ならば図書館島の地下には何か魔法的なモノがあるに違いない。

それなのに、こんなに大勢の一般人を引き連れて潜入させる訳にはいかないのだ。



「せ、せっちゃん、どないしよう・・・、ウチらじゃ止められんよ・・・」

「と、とにかく、お風呂からあがったら総統に連絡しましょう・・・」



“裏”の少女達は、上官に一縷の望みを託すことにした――――――
















「―――――さてと、今日の夕飯何にしようかなっと・・・」




時刻は夕方6時40分、テスト勉強もそこそこに俺は机に向いながらそんなことを考えていた。

事前に復習しておいたおかげで大体は片付いた。後は最終確認くらいか・・・、この土日にやっとけば十分だな。

俺の勘では、明日の土曜辺りにアイツらが泣きついてくる頃だと踏んでいる。自分の理解度を確認するにはちょうどいい機会だ。




――――と、その時、俺のケータイに着信を知らせる振動がブーンと鳴った。予想より早かったか?



だがディスプレイの表示には、友の名前ではなく[学園長]の文字が浮かんでいた。・・・何用だい?





「もしもし、ニノマエっすけど?」

《おおミサト君、ワシじゃ。スマンがちょっと頼まれてくれんかのぅ?》

「依頼ですか?」

《うむ、すぐにコチラに来てもらいたいんじゃが》

「・・・俺、週明けテストなんですけど?」

《キミの成績なら問題なかろう?他に手の空いている魔法先生もおらんし、規模が大きくなりそうなもんじゃから、腕の立つ者が必要なんじゃよ》



・・・ウルトラメンドくせぇ。



「・・・ちゃんとテスト前手当て、払って下さいよ?」

《細かいのぅ・・・》

「慈善事業じゃないって言ったでしょう。・・・セツナは?」

《彼女は・・・、なんと云うか、成績が良い方ではないじゃろ?》

「・・・ああ、わかりました」



・・・仕方ねえ、やりますかね。



《おお、そうじゃミサト君、キミのケータイは防水タイプかな?》

「いえ、そんな仕様は無いですけど、それが?」

《水辺での戦闘になりそうじゃから、持って行かんほうがええぞい。ビッチャビチャになるでのぅ》

「連絡はどうするんです?」

《ワシの方で手段を用意するから心配無用じゃ》

「・・・了解しました」



・・・ちゃっちゃと片付けるとするか。


買っておいた菓子パンで軽く腹を満たし、カードを持ってケータイ置いて、俺は自室を後にした。
















―――――海里が部屋を出た30秒後、彼のケータイに着信が入った。


表示には[桜咲刹那]の文字。


・・・だが、その着信に応える者はいなかった―――――――

















 プルルルルルルッ、プルルルルルッ・・・・・




「・・・・総統、でませんね・・・」

「お風呂入っとるんかなぁ?」


「何してんの2人ともー?行くわよー、・・・・ほら、アンタも来なさいっ」

「ムニャァ・・・」




・・・・望みは、儚くも散りゆく―――――――















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




あまり話が進んでなくてスミマセン・・・・。








[15173] 漆黒の翼 #18
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:de901972
Date: 2010/02/12 00:32
「――――ココが現場か・・・・」



学園長から指定された自分の持ち場にやってきたが、・・・なるほど、泉の畔か。確かにここで戦えば、水浸しになるかもな。


カードを武器に変え、軽く素振りをして調子を確かめる・・・・、よし、イイ感じだ。単独での戦闘は久しぶりだからな、気合い入れていかないと。





―――――と、辺りを邪を纏った空気が包む。おいでなすったか・・・。



現れたるは、数十はあろうかという異形達。子供が見たら泣く顔ぶれだ。



「なんじゃい、餓鬼1人か」

「手ごたえなさそうやなあ・・・」

「喰われる前に帰った方がええんちゃうか?」

「「「「「「「「ぎゃへへへへへへへへ!!」」」」」」」」




・・・ほんじゃあ、いっちょやったりますかね。




「こないな餓鬼、俺1人で十分やわ」



ずいっと前に出る妖怪、・・・若手なのか?



「いてこましたらァ!!!」


若手鬼(仮)が棍棒を振りあげ襲いかかる。


俺はソイツが振り下ろすと同時に跳躍、その頭上へと舞い踊りバルディッシュを振りかぶる――――――――



【神空割砕人】!!



――――――――戦斧を振りぬき脳天から一閃。




「ンなぁ――――――――――――」



若手クンは反応する間もなく、そのまま還された。アーメン。






「ほう・・・、ちったあ歯応えのありそうな餓鬼やないか」

「ガキをナメンナヨ?」



伊達に傭兵やってるわけじゃねえんだよ。





「オモシロい―――――――――――――かかれやああああ!!!」


「「「「「ごおおおおおおお!!!」」」」」




号令と共に一気に俺の元に押し寄せる異形達。


・・・随分と多いな、まずは数を減らすことだな。

一旦後方にバックステップし距離を取る。得物を斧から剣、アースブレードに変更。



【魔神剣】!!


剣を振りぬき、続けざまに地を這う斬撃を鬼の集団に放つ。勢いに乗って突っ込んできた先頭の数体はその衝撃波に切り裂かれる。

仲間が送還され、たたらを踏む鬼が数匹。
そのせいで他の異形達の陣形が若干崩れた。すかさず密集地に出来上がったスぺースに飛び込み、斬撃を逃れたうちの1体を袈裟掛けに斬り伏せる。

鬼だって黙っちゃいない、人1人分はあろう大きさの棍棒を振りぬいてくる。ソレを剣を斜に構え攻撃を反らす、こんなモン真正面で受けたら身体がもたない。
棍棒を受け流されて鬼の身体が宙を泳ぐ、そのガラ空きの胴体を斬り上げる。

雄叫びと共に左右から同時に襲い来る剣と棍棒を前方に飛び込んで回避、ソレを待ち受けていた異形が棍棒を大リーガーの如く振りぬく。

咄嗟にフォークボールのように身体を沈ませやり過ごす、チッと髪が数本持って行かれた。

空振った極太バットは勢いが止まらず、周りの鬼数体をホームラン。やーい、マヌケー。


「バカタレ!!状況を考えんかっ!!」

「避けねえ奴が悪ィんだよ!」



敵が仲間割れしているうちに攻勢に出る。

牽制代わりに【魔神剣・双牙】を前方に放ち、衝撃波が2体を巻きこむ。間を開けずに身を躍らせ、右前方の鬼を横一文字に一閃。勢いそのまま回転し、左後方の敵を斬り倒す。

後ろから大剣で唐竹割りしてきた異形を横っ跳びで回避、剣が地面に深々とメリ込む。俺もお返しとばかりに唐竹割り、刃をひっこ抜こうとしていた敵を送り還す。



「ちぃっ、面倒な餓鬼や」

「歯応えアリアリやな、スジばっかの肉みたいや」


「俺を簡単に噛み切れると思うなよ?」



楽勝ムードだった敵勢もさすがに焦り出す。目線で合図し、俺を四方から取り囲むように誘導する。

各々の得物を握りしめ、時間差で襲いかかって来る鬼軍団。

前方から襲い来る棍棒をギャリギャリ音を立てながら受け流し、流した勢いで後方に剣を躍らせるが、ガキィンという金属音と共に阻まれる。

鍔迫り合いする間もなく敵の武器を弾き、右から首を狙い来る大鉈をカチ上げるように上方に捌く。

その隙に残り1体が俺の胴体目掛けて刺突を繰り出してきた。風を切り裂きながら迫るソレを、前髪を掠めながらスライディングでギリギリかわし、靴底で柄を思い切り蹴り上げる。

すぐさま体勢を立て直し、脇が留守になったその胴に薙ぎ払う。



「「おるあああ!!」」



左右後方より風切り音、思考が纏まる前に前方に転がる。その直後、2本の棍棒が俺の居た場所に叩きつけられる。やっべぇ、すり身にされるかと思った・・・。

嫌な汗が止まらないが、止まってる暇なんてありゃしない。

黒肌の鬼3体が一列に襲ってくるのを視認、「ジェットなんとか」気取りか。

最前列の鬼が鈍く光る刃を真横に薙ぐ。俺は跳躍してソレを回避、別にコイツを踏み台にする気は無い。



【裂空斬】!!



跳躍の勢いで全身を車輪のように大回転、己を刃と一体とし、放物線を描くように飛び込む。

軌道上に居た黒い3連星は全員頭部を真っ二つにされ、煙に変わるが如く消滅した。そして俺は見事な着地を―――――――――



「隙だらけじゃあ!!」



――――――――決めた瞬間、待ちかまえていた妖怪の1人が俺の右半身に棍棒をフルスイング。

着地直後に回避できる訳もなく、自動車事故のような衝撃が身体を駆け抜ける。

間一髪、剣を間に入れることで直撃は免れたが、人外の圧倒的パワーに対抗できず俺の身体は宙を舞い、そのまま泉にダイブした。

水がクッションになったこともあって、ダメージは少なくてすんだ。思いの外に浅かったのも救いだ。


それを好機と見たか、ずぶ濡れの俺に四方から飛びかかる魑魅魍魎。

・・・マズイ、水中じゃ思うように足が動かない。この状況で機動力が落ちたら致命的だ。


すぐさまその場で立ち上がり、剣を逆手に持ちかえ足元に突き刺す。浮かびあげるのは、癒しと護りの円陣【守護方陣】。


輝く方陣が俺を包みこみ、迫る敵を足元の水ごと弾き飛ばす。まるで壁でもあるかのように陣の縁で塞き止められている水、モーゼになった気分だ。

しかし効果はほんの数秒だけ。円陣は消え、再び足元を水が満たす。

弾かれた鬼がまた迫って来る。水に足を取られるのは向こうも同じようで、動きは先ほどよりも遅い。

だが俺も足を使えず転がることもままならないので、回避が極端に難しくなってしまった。

鋭い爪を剣で受け、弾き飛ばした隙に一閃。直後に後ろからの剣撃を頬を掠めながらもなんとか避け、敵を水中に叩き込んで間を置かずに両断。

ココじゃどうにもやり難くてかなわない、一旦水から離脱しないと・・・。

しかし、敵は後から後から向かってくる。今は捌くのが精一杯だ。くそっ、水が邪魔すぎる・・・。



・・・そうだ!逆に利用してやれ!

手にした剣に魔力を込め、焔をその身に宿す。刃を高々と振りかぶり――――――――――



【爆炎剣】!!



――――――――渾身の力で灼熱の剣を水面に叩きつける。


途端に衝撃で立ち昇る水柱、そして――――――――――――




 ジュワアアアアアアアア!!




―――――――――爆炎により瞬間的に発生した大量の蒸気が、異形達の視界を覆い隠す。



「な、なんやコレ!?」

「煙幕や!あの餓鬼、何処行きよった!?」




だが俺はその場を動かない。

音を立てぬよう水に手を突っ込み、数個の石を掴み取る。その石をあさっての方向に放り投げる。




 ボチャッバチャバチャッバチャッ




「! 居たで、向こうじゃ!!」



偽の音に誘導され、半数近くの奴が音のした方に駆ける。その隙に俺は、罠を完成させるための魔力を練りあげる。



―――――――創造するは氷、刺し貫く猛攻―――――――――




【フリーズランサー】!!




凍てつく刃が、まんまと集められた異形目掛けて飛来する――――――――――




「「「「「「ギヤアアアアアアアア!!!」」」」」」




―――――――無数の氷槍が敵勢を貫いていく、ヘタな【魔法の射手】より速くて凶悪なんだよコレ。


この隙を逃すほど俺はのんびりなどしていない。視界も晴れかけている今が攻め時だ、一気に畳み掛ける!




――――聖なる意思よ、我に仇なす敵を撃て――――――




紡ぎだすのは清浄なる光の魔法、闇を殲滅する聖光―――――――――――!!




「―――――――――【ディバインセイバー】!!



「「「「「「「ぎゃあああああああああああ!!!」」」」」」」




―――――――清き光の雨が魍魎達に降り注ぐ!ジャクテンミタイネッ!!




「居た!今度は本物じゃ!!」

「怯むなぁ!いてこませやあああ!!」

「「「おおおおおお!!!」」」




敵も然る者、怯むどころか火を点けてしまったようだ。

―――――――――だが、ソレはこっちも同じコトだ!



「まとめて返り討ちにしてやらあああ!!」



得物を握りしめ、勇猛果敢、猪突猛進に敵勢に迎え撃つ――――――――――――





















――――――一方その頃――――――


《―――第9問。『library』、日本語訳は?》

「らいぶらりーってなんだっけー!?」

「皆さん、ココです!ココのことです!!」

「ココって・・・、遺跡!?」

「違います!ココは何処の地下ですか!?」

「あ!そうだ、『図書館』だ!!」

「『と』はどこアル!?」

「アスナさんの右手の近くです!」

「ムリムリムリッ!!これ以上開いたら裂けるって!!」

「コ、コラ楓!私に体重を掛けるんじゃないだだだだだっ!?」

「せっちゃんしっかりー!」



探検隊一行は、図書館島地下遺跡の『英単語ツイスター・ゴーレムと一緒!』でくんず解れずしていた。

本人達はいたって真剣なのだが、無理な体勢でパンツ丸見えの上にヘソチラ、更に美少女同士の絡み合いも相まって、傍から見るとなんとも眼福な光景であった。



「総統には見せられん姿やなぁ、せっちゃん」

「い、いわないでくださいいいい!!」


ちなみに刹那、頭が良くなる本『メルキセデクの書』を見つけた時、結構早めに走り出していた。実は結構成績を気にしていたようだ。
























「――――だっしゃあああぁ!!!」

「ぶふぉああ!」


また1体、鬼を両断して送り還す。これでもう何体目だ・・・?



「・・ゼェ・・・ゼェ・・・」


・・・もう息が上がりっぱなしだ、数多すぎだっつの。

だが無限とも思えた鬼さん達にも終わりが見えてきた。地道に薙ぎ払い続けた甲斐があったぜ、あと少しだ。



「舐めるなよ小僧!!」

「ワシらが相手じゃあ!!」



威勢良く吠える邪鬼が姿を見せる。まだ別格が2体残ってたか・・・!



「いくでぇ!!」

「くたばれやァ!!」


「やらせるかよ!!」


剣と剣がぶつかり合い、甲高い戦いの音色を奏でる。相手は1体だけじゃない、攻撃を受けた時にはもう1体が振りかぶっている。

受け止めてはならない、拮抗した所をもう1体が貫いてくる。とにかく弾いて、避けて、攻勢に出て、受けられて、また避け――――――――



 ズルッ



―――――――ようとして、濡れたぬかるみに足にを取られよろめいてしまった。



「そこや!!」

「ちぃっ!」




眼の前で剣閃が風切り音を立てて迫る。

だが間一髪、ギリのところで持ち堪え、上体を限界まで反らす。

鋭い刃が俺の頬に数ミリの斬り込み線を付け、剣圧が旋風を巻き起こす。

だが敵は決めにかかって空振りしたせいで、完全に体が泳いでいる、隙ありだ!


水が流れるような淀みない剣閃を続けざまに浴びせる――――――――!!




「ガッ!ゴアッ!!ガアアア!!」



最後の剣閃と共に鬼は消滅、・・・これで、あと、1体・・・!!



その刹那、右後方より空を断つ唸り声が俺の耳に―――――――――――――




「おおおるあああああ!!!」

「のおおおお!!!?」



――――――――前転して緊急回避。っぶねえ!!首から上持ってかれるトコだった!

野郎も後が無い、最後の追い込みに入ったか・・・・!!




「死ね死ねシネシネエエェ!!!」



剣閃が雨霰とばかりに降り注ぐ。

剣一本では対応しきれない、すぐさま武器を変更させる。

手にするはソーディアン・シャルティエ、そして短剣・クリスダガー。シャルティエは短剣とワンセットのようだ。


鋭い刃が、腕を、肩を、頬を掠めていく。

俺は視力・聴力・勘をフル稼働させ、とにかく捌くことと回避することに全力を注ぎこむ。 幾重にも連なる刺突を息つく間もなく、曲刀で捌き、短剣で逸らし、そして紙一重で避ける。




「――――――――こんのガキぃ、いい加減往生せえやァ!!」



―――――ついに焦れて大振りになった、チャンスだ!

俺の視線は切っ先を向いたまま、敵の渾身の一撃をかわす――――――――――!




「だぁるあああ!!!」

「っづぅ・・・!」



ぐっ・・・肩口を斬られたか・・・・・・だが、俺は止まらない!!


魔力を剣に込め、一気に間合いに踏み込む――――――――――――!




「―――――これで終いだァ!!」 




――――――双剣が輝きを放ち、その刃から灼熱の爆炎を引き起こす―――――




【粉塵裂破衝】!!!




――――――戦鬼は、地獄の豪炎に全身を飲み込まれる――――――




「うぐおおおおおぉおぉおおお―――――――――!!!?」








――――――――最後の魍魎はついに力尽き、ようやく泉に普段通りの静寂が訪れたのだった―――――――――






















「―――――や、やっと片付いた・・・・」


ここまでぶっ続けで戦ったのは初めてじゃないだろうか・・・?俺、もうビッチョビチョのボッロボロだよ。


とにかく終わったんだ、早いトコ学園長に報告して帰ろう・・・。

ココに来る前に渡された防水ケータイを取りだし、ワンタッチダイヤル。ポチッとな。






 プルルルルルルッ、プルルルルルッ・・・ガチャッ



《ほいほい、ワシじゃが?》

「ニノマエです。コッチは片付きましたよ」

《おお、御苦労じゃったのう》

「1人にやらせる量じゃなかったっスよ・・・、料金割増しでお願いします・・・」

《がめついのぅ・・・》

「コッチは多勢に無勢でボロボロのクタクタなんですよ、どんだけ冷や汗掻いたか・・・」

《わかったぞい、その件も含めて学園長室に報告に来てくれんかの?》

「・・・直帰しちゃだめですか?」

《駄目じゃ》



・・・・・メンドクサッ。



《・・・・フォフォ、ハズレじゃな・・・・》

「? なんか言いました?」

《い、いや、コッチの話じゃ》



・・・まあいいや、とっとと報告して早く帰ろう。


突かれた、いや疲れた体に鞭打って、俺は泉の畔に背を向け、一路ジジイルームへ歩くのだった――――――

















――――――そして同時刻――――――



「『dish』は『おさら』ね!」

「『お』!」
「『さ』!」
「「『ら』!」」



複雑に絡んだ明日菜の足とまき絵の手が最後の文字を同時に押さえる――――――




・・・・『る』の文字を、だが。




「・・・・・・・『おさる』?」

《フォフォフォ。ハズレじゃな》



――――石像ゴーレムがその手に持った大槌を振り上げ、一気に地盤を叩き割った!



「違うアルよーー!! 」

「アスナのおさる~~~!!!」

《い、いや、コッチの話じゃ》

「え、何が!!!?」




「「「「いやああああああ!!!」」」」






少女達は、暗い暗い地下深くへと落下していくのであった――――――























「―――――という訳で、服代とか超過労働料金、その他諸々口座に振り込んどいてください」

「・・・ホントに細かいのぅ」



俺in学園長室。今夜の報告もあらかた終わったし、コレでやっと帰れる・・・。




「それじゃ、俺はこの辺で・・・」

「ちょっと待っとくれ」


・・・まだ何か?


「ホレっ」



ほいっと投げ渡されたのは、褐色のビン。よくある栄養ドリンクの類だろうか?




「部屋に戻ってから飲みなさい、スッキリするぞい」

「・・・あざーっす!」



こういうのは値段どうこうじゃなくて、気持ちの問題だ。貰えれば嬉しいモンなんだよ。



「そいじゃ、失礼しまーすっ」



そうして、ようやく俺は家路に就いたのである。









「・・・・・ニヤリ」



・・・老人は、ほくそ笑む―――――――――――


























―――――いろいろあって、ようやく帰宅。



「今日は疲れた・・・・、マジで疲れた・・・・・」


近年まれにみる量を相手してしまった。早いとこ寝てしまいたい・・・・。


けどそうもいかない、濡れ烏の上に傷だらけ、このまま寝たらベッドが大惨事だ。

とりあえず傷の治療からやっとくか・・・。


氣を全身に滾らせ、気合い一発!!


――――――【集気法】!!


早送りのように傷が塞がっていく、何回見ても面白いなコレ。

これを何回か繰り返して、目立たなくなったらOKだ。



濡れ問題は風呂に入れば一発で解決だ。まあ、面倒だからシャワーでいいや。




――――――そんなこんなでシャワーを軽く浴びて、寝支度を整える。よく働いたなぁ・・・。




「っと、そうだそうだ・・・」



冷蔵庫から取り出すのは、帰り際に渡された栄養ドリンク。キリキリッとふたを開け、腰に手を当て、一気に飲み干す!



「んっ・・・んっ・・・ぷはぁ」



――――――んめぇ。風呂上がりには最高だべ。



・・・あ、そうだ。留守中にケータイに連絡来てたりしないかな――――――――




 グラリ・・・



「・・・おろ?」


なんだか、フラフラするな・・・、それに、急に眠たく、なってきた・・・・。


「疲れが、出たか・・・?」


びしょ濡れの、ままで、いたから・・、風邪、ひいた、のかも、な・・・。



「・・・確認は・・・明日で、いいか・・・・」




・・・そのまま、ベッドに倒れこむようにダイブ。布団の柔らかさが心地よい・・・。




「・・おや・・・すみ・・・・・・・ぐぅ・・」






――――――己の状態に何の疑問も持たずに、海里の意識はそこで途切れた――――――

















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




戦闘描写は久しぶりです。



追記:

この稚拙な文を読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。

皆様の感想にもありましたが、確かに秘奥義が安くなっている感じがしたので内容を少々変更いたしました。

皆様の貴重なご意見は、この物語の重要参考物としてありがたく頂戴させていただきます。

どうぞこれからも、総統を長い目で見守ってやってください。







[15173] 漆黒の翼 #19
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:de901972
Date: 2010/02/17 00:02


「―――――――ふむ、ネギ君達は眼を覚ましたようじゃな・・・」


テスト2日前の土曜日。ココは学園長室。

この部屋の主である翁は、図書館島地下深くに落ちたネギ一行が覚醒したのを遠見の魔法で確認していた。



「フォフォッ、事がウマく運んで何よりじゃわい」



そう、何を隠そう今回の図書館島侵入騒動はすべて、この老人が仕掛けた臨時処置なのである。

『成績不振者は小学生からやり直し』や『頭が良くなる本の存在』などの噂を流し、地下遺跡に誘き寄せ、ネギとバカレンジャー達に悪ふざけと言う名の試練を与えたのだ。

理由は単純明快、「面白そくなりそう」だから。

どうやら目論見通りネギに触発され、生徒達は勉強をヤル気になったようだ。

コレでイイ、後はタイミングを見計らって脱出させれば計画完遂である。




・・・だがこの計画を実行するためには1つの障害があった。そう、海里の存在である。


普段から見てもわかるが、彼は木乃香や刹那を始めとした友人連中を若干過保護とも言えるくらいに大切にしている。

その海里に「面白くなりそうだからネギ達を地下に落とすんでヨロシク」などと言えば、「ハイそうですか、ヨロシクです」なんて言うハズが無い。間違いなく止めにかかるだろう。
当然だ、そんなアブナイ真似などさせるわけがない。



そこで学園長の灰色の脳細胞は閃いた。

海里に連絡が行く前に個人任務を与え、事態を把握される前に眠らせてしまえばいいじゃないか、と。


結果は大成功。睡眠作用のある魔法薬を混ぜたドリンクを飲んだ海里は、見事にグッスミンである。しばらくは起きないだろう。







「・・・・しかしのう・・・」



ふと、老人の顔に思案の表情が浮かぶ。

今回の作戦にはもう一つの目的があったのだ。その内容と言うのも・・・




「やはり彼の魔法は興味深いのう・・・」



―――――そう、海里が使用している新種の魔法についてだ。


以前から、学園長はこの西洋魔術とは似て非なる魔法に興味をそそられていた。

この自称オリジナル魔法は、始動キーを必要とせず、今まで見たことの無い形態の術を多種多様に揃えている。協会の長たる学園長が眼を付けるのは当然ともいえることだ。

ともすればコレは魔法の大革命なのかもしれない、あわよくば独自に検証してみたい、などと、この爺様は考えていたりする。


そんな知的好奇心から、学園長は常日頃から遠見の魔法で彼の仕事ぶりを覗いたりしている。


だが、自身の術の希少さに気付いている海里は、あまり魔法を他人に進んで教えようとしないし、人前で大っぴらに使おうともしない。1つの任務で2回使えば多い方だ。

なので遠見の魔法で仕事の様子を見ても、その実態を掴めずにいるという訳だ。

彼の魔法を詳細に知っているのは、幼馴染の木乃香、相棒の刹那、そして練習場所を貸し与えているエヴァくらいである。

だが訊き出そうにも、木乃香と刹那が海里の秘密を簡単に漏らすような真似をするハズもないし、エヴァも訊かれて正直に答えるようなタマではない。どうすりゃいいんだコノヤロウ。



そこで学園長、またもや閃いた。彼に単独任務を与えれば、人目を気にせず思う存分魔法を使ってくれるのではないか、と。


その予想はある程度的中し、海里は普段よりも多くの術を使い勝利。見れば見るほど、その効果の多彩さに驚かされた。



「実に興味深い・・・。彼の魔法は、西洋魔術に革新を起こすやもしれんのぅ・・・」














そしてその頃、当の本人は―――――――――――――




「・・・お、おれは、悪くヌェ・・・・・、・・・なに、気にすることは無い・・・・・ぐぅ・・・・」




―――――――起きる気配が皆無だった。というか、どんな夢見てるんだコイツ・・・。

























「何ですって!?2-Aが最下位脱出しないとネギ先生がクビに!?ど、どーして、そんな大事なこと言わなかったんですの、桜子さん!?」

「あぶぶっ!だって先生に口止めされてたからー」

「皆さん!テストまでにちゃんと勉強して最下位脱出ですわよ!その辺の普段真面目にやってない方々も!」

「げ・・・」

「仕方ないなぁ」

「問題はアスナさん達バカレンジャーですわね。とりあえずテストに出て頂いて、0点さえ取らなければ・・・」

「みんなー大変だよ!ネギ先生とバカレンジャーが行方不明に!!」

「「「え・・・」」」




そんな感じで、2-A教室が「やっぱダメかも」的絶望に満ち溢れたりした土曜日―――――――――
























――――――――そして放課後。




「ジジイ、入るぞ」



そういって、学園長室の扉をノックも無しに開け放つブロンド幼女ことエヴァンジェリン。茶々丸は先に帰したようだ。



「おおエヴァ、ようやく来たか。昨日は直帰しちゃったから、がくえんちょションボリじゃよ」

「気持ち悪いしゃべり方をするなクソジジイ、こうして報告に来てやるだけありがたく思え」



報告というのは、昨晩の海里の単独戦闘についてである。


通常は不測の事態に備えて数人のチームで任務に当たるのが一般的だ。

だが今回は海里が単独で行ってこそ初めて意味が生まれる。付き添いを付けてしまってはまた出し渋られるかもしれないのだから。


そこでこの老人は、海里の術について詳細を知る人物の1人であるエヴァンジェリンに、彼の近くで待機するよう依頼したのだ。

一応は海里にも配慮して情報の漏洩は最小限で済むようにし、彼女なら不測の事態に陥っても助け船も出してくれるとの考えからである。


そのハズだったのだが・・・・・




「かなり危ない場面もあったじゃろうに、少しくらい援護してやってくれてもええじゃないか・・・」

「あの程度で死ぬなら、奴はそれまでの男だったということさ」



・・・この幼女、海里が苦戦しようがヤバかろうが全然助けてくれなかった。



「本当の本当に死にそうになったら助けてやったさ。だが奴は完遂した、だから何もしなかった、それだけだ」

「それはそうじゃがのう・・・」

「それに、私も奴の多対一の戦闘を見るのは初めてだったからな、じっくりと見物したかったんだよ」



これでもエヴァは海里の事は気に入っている方だ。普段から練習の場を提供している彼女も、彼の魔法や剣技については興味が尽きないようだ。

それに、海里はエヴァの呪いを解く上で欠かすことのできないキーパーソン、そう易々と見殺しにしたりはしない。

あと、例のパイがポイント高かったようだ。「茶々丸がレシピ通りに作っても、あの味が再現できない」と零したこともある。

何故だかあのパイは海里以外はうまく作れないのだ、マーボーカレーも同様である。

ちなみに普通の料理はあまり得意じゃない、ネタ的な料理専門のシェフなのだ。普通の料理は木乃香に丸投げである。



「・・・ったく、せっかく私が習得の機会を与えてやったというのに・・・」

「なんか言ったかの?」

「別に」




エヴァの言う「習得の機会」とは何のことかと言うと―――――――――――――――














==================================================================











――――――――ある日の別荘――――――――





「――――――ふっ!はっやぁっ!てやっ!!」


エメラルドグリーンの海に面した砂浜で、一心不乱に剣を振るう紅眼の少年。言うまでも無く、俺である。


空を断つように木刀を薙ぎ、逆袈裟に斬り上げ――――――――


【散葉塵】!


舞い散る木の葉を斬るような連撃を放つ。その後も、今まで習得した剣技をおさらいするかのように連続して繰り出す。

【散葉塵】から、突き刺し、引き抜くように【散葉枯葉】に繋ぎ、間を置かず【虎牙連斬】、着地と同時に踏み込み【瞬迅剣】で眼の前の空間を刺突。

突きだした剣を振り上げ三日月型の剣閃を描き、勢いそのままに地を駆ける衝撃を繰り出す【魔神月詠華】を放ち、【爪竜連牙斬】で見えざる敵を流水の如く斬り付ける。

気合いを入れて木刀で3連斬、振り抜いた勢いで回転しながら跳躍し【飛燕連脚】、2段蹴りの直後に空中で体勢を整え、剣の切っ先に炎を宿し―――――――


【鳳凰天駆】!!


豪火を身に纏い、前方に突撃を仕掛ける。火の鳥が地を滑るように着地し―――――――――――――――――ここからだ!



「うおおおおおおおお―――――――――――!!!」



――――――刹那、数メートルの距離を瞬く間に駆け抜け、大地を大きく薙ぎ払う―――――――




だが・・・・・・・、






 プスン・・・・





・・・・砂浜からは、情けないような渇いた音しか響かなかった。



「・・・不発かよ・・・・」



潮風香るビーチで、俺はガックリとうなだれた――――――――――――





――――――――俺が剣やら斧やらを振り続けて、かれこれもう10年近く時が流れたことになる。

もちろん鍛練をサボったことなど無い、秘奥義にかける情熱は生まれたときから燃え続けているのだから。


今日はどうにかして秘奥義をモノにしようと躍起になっていたんだけど、どうにもうまくいかない。何がいけないんだろうか?

俺の腕が秘奥義の域まで達していない、と言う訳でもない。これでも一応、成功例はあるんだ。

だが敵も然る者、「秘」奥義と言うだけあって難易度は通常の奥義を遥かに上回る。いつでも好きな時に引き出せる訳じゃないみたいなんだよねえ。




「なかなか、ままならねえなぁ・・・・」

「何を辛気臭い顔をしているんだキサマは」

「お疲れ様です、ミサトさん」

「ケケッ」

「あ、エヴァさん達・・・」



姫が家来を引き連れ現れた。この鍛練は、御覧の幼女スポンサーの提供でお送りします。




「いや、秘奥義の練習してたんですけど、なかなかうまくいかなくて・・・」

「・・・秘奥義?」

「そうです。こう、カッコいいカットインがズバッと入るようなスゲーヤツです」

「カットインてオマエ・・・、ゲームのやり過ぎじゃないのか?」



・・・よくご存じで。さすがは【闇の福音】、その眼力は千里を見通すか。



「まったく、年甲斐もなく秘奥義だのなんだのって・・・」

「コレガ噂ニ聞ク『ちゅうに』ッテ奴カ」

「中二っていうな。いや年齢的には中二だけど、中二じゃない。仮に中二だとしても、中二と言う名のロマンだよ」

「わかったから中二を連呼するな、激しく鬱陶しい」


コレは失敬。


「どうぞ、冷たいお茶です」

「オマエは淡々としてるなぁ、チャチャマル・・・」



いや、気遣いはとてもありがたいんだけどね。なんか「コレで頭冷やせバカ」って言われてるみたいで腑に落ちない・・・。



「キミ達に足りないのは情熱ですよ。有名なあの人も言ってるでしょ、「もっと熱くなれ」って」

「ここで松岡修造を引き合いに出す意味がわからん」

「違いますよ、大黒摩季ですよ」

「どっちでもいいわ、そんなモノ。・・・で、その秘奥義とやらがどうしたって?」



軌道修正された。俗に言う『閑話休題』というヤツだ。



「反復練習は欠かしてないんですけど、ことごとく不発なんですよねえ・・・。完成形は頭に入ってるんですけど」

「ドンナ奥義ナンダ?」

「えっと、―――――が――――――したりする奴とか、――――――の後に――――――を放つ奴とか・・・・」



構想にある秘奥義を数例挙げて説明。技名も教えてあげた。



「・・・ことごとくクドイ技名だな」

「魔法の秘奥義もありますよ、――――――が―――――――になったりするのが」

「ほう?」



エヴァさんが喰いついてきた。やはり魔法の方に興味があるようだ。



「デ、1回モ成功シネエノカ?」

「できるにはできるんだけど、練習で成功したこと無いんだよなぁ・・・。テンションが上がりきらないって言うか・・・」

「モチベーションの問題なのか?」

「戦闘中にテンションが異常にハイになった時とか、なんていうか、脳にピキーンッて来たりするんですけど・・・・」




それと、あとは・・・・・・・




「・・・命の危機に瀕した時とか、突発的に出たりするんですけど・・・・・・」



“あの時”はマジで死ぬかと思ったからな・・・、火事場の馬鹿力って奴だろうか?







「―――――――ホォ、ジャア死ニソウナメニ遭ワセテヤルヨ」



 ビュオッ!



「どわああああ!!?」



殺戮人形がいきなりクビを狩らんと襲ってきた。なんとかギリギリで回避できたが・・・・。



「な、何しやがんだチャチャゼロ!?」

「死ニソウニナレバ秘奥義ガ出セルンダロ?」

「間違ってないけど完全に間違ってる!!!」

「遠慮スンナッテ、オレトオマエノ仲ジャネエカ」

「オマエはただ単に俺を斬りたいだけだろ!?」

「ですとろーいっ!!!」

「にぎゃああああ!!?」








――――――それからしばらく、夕陽の海岸でチャチャゼロとなぐり合った。



その日のチャチャゼロのこぶしは、随分とおしゃべりだったなぁ―――――――――――











==================================================================



















―――――――というやり取りがあったのだ。

そう云う訳で、エヴァは海里の秘奥義習得に協力してやろうと『あえて』手を出さず、ヤバい状況を演出してやったのである。

エヴァも割と秘奥義、できれば魔法の方を見てみたかったので、今回の監視を快く引き受けたのだ。結局、秘奥義は出ずじまいだったけど。




「・・・ふむ、こんなところかのぅ」

「じゃあな、私は帰るぞ」



その後大体の報告も済んで、エヴァが学園長室から退室しようとしたその時、ふとエヴァが足を止め口を開く。



「まあ、アイツが起きる前に言い訳の一つでも考えておくことだな」

「ほ?」

「キサマが如何に画策しようが、今回の件は必ず奴の耳に入る。あのバカレンジャー達がミサトに報告しない訳が無いからな」



・・・するとどうなるか?



「過保護なアイツのことだ。その原因がジジイの悪ふざけだと知れた日には、キサマはこの部屋ごと壊滅するかもしれんぞ」

「ふぉ!?」

「せいぜい上手い言い訳でも考えるんだな」



そんな不吉な予言と共に、エヴァはケラケラ笑いながら学園長室を後にした。




























 チチチチチ・・・・




「・・・・闇の炎に抱かれて、馬鹿な・・・・・・・・・・・・・ムニャ・・?」




敵が炎に包まれながら鳥の囀りのような悲鳴を上げている、という夢を見た・・・・。



・・・なんだ、夢か・・・、せっかく秘奥義が出せたと思ったのに・・・。


イイ感じにまどろんでいた俺は、カーテンの隙間から差し込む日の光に瞼をこじ開けられ目が覚めた。



「・・ふぁ~~~・・・・・、よく寝たべ・・・」



あの栄養ドリンクが効いたかな?寝起きだというのに身体の調子がすこぶるイイ。


気分良く部屋の壁かけ時計に目を向け、時刻を確認する。長針は12の直前、短針は7を指していた。7時か・・・、余裕だな、サッサと朝飯食って学校に行かなきゃ。

シャッと勢いよくカーテンレールを滑らせ、溢れんばかりに降り注ぐ日光を浴びる。

そして流れるように手を動かし、リモコンを拾い上げテレビを付ける。習慣は身体が覚えてるモンなんだね。





 プッ、プッ、プッ、ポーーーン



《――――おはようございます、モーニングサンデーの時間です》




「・・・・・・・・へ?」



今なんつった?サンデーとか言わなかったか?今日は土曜のハズじゃ――――――――




「・・・・いやいや、まさか?」



窓辺からベッドサイドまで一歩で移動し、ベッド脇のデジタル目覚まし時計を掴みあげ、食い入るようにディスプレイを確認する。





[ AM 7:01  SUN ]





・・・SUN?


SUNって、日曜ってことなんだよね・・・・・?






「・・・・・・うえええええええ!!!?」



え、ちょ、ええ!?もう日曜の朝!?30時間以上寝てたの!?どんだけ爆睡してんだよ俺!!?どうしよう、学校サボっちまったよ!!

と、とりあえず、無断欠席の連絡を刀子さんにしないと・・・。あぁ~、ヤだな~、あの人厳しいから、寝過ごしたなんて言ったらどんな説教が待ってるか・・・。


とにかく連絡しないことには始まらない、2つ折りのケータイを手に取りパカッと開ける。




・・・ん、着信履歴がある。発信者は、・・・セツナ?

時間は金曜の夜、俺が部屋を出てすぐか。何の用だったんだろう?







 コンッコンッ



と、ケータイの画面とにらめっこしていた俺の耳に、訪問者の到着を知らせるノック音が届く。

ノックするってことは、アイツらじゃないよな?



「どうぞー、開いてますよー」



ドア越しの訪問者に入室を促す。・・・あ、部屋の鍵も閉めないで寝ちゃったんだ。

俺の返答を聴いて、ガチャリとドアを開けて入ってきたのは、意外や意外。



「失礼するぞい、ミサト君」

「学園長?」



珍しいにも程がある来客だ、学園長室に根をはったまま動かない存在だと思ってたのに。


・・・あ、そうだ!



「すんません学園長!うっかり30時間ほど眠っちまいました!!学校サボってすんません!!」



深々と謝罪。



「いや、気にするでない、ワシもオーバーワークを要求したからのぅ。刀子君には、ワシからちゃんと言っておくから安心せい」

「マジですか!?」



ありがとう学園長!融通が効く先生って大好きさ!!



「それと、ついでにもう1つ頼みたいことがあるんじゃが・・・」

「なんです?」

「ネギ君達を迎えにやって行ってくれんかの?」

「迎えにって、駅にですか?」



こんな朝早くに?



「いや、図書館島の地下遺跡じゃ」

「・・・・・は?」



あの島、地下遺跡なんて有ったのか・・・、いや、問題はそこじゃない。



「アイツなんでそんなとこに居るんですか?」

「金曜の晩にアスナちゃん達と一緒に侵入して落っこちたんじゃよ」



何やってんだアイツ・・・・・。



「『達』って、他に誰が居るんです?」

「楓君と古菲君と、夕映君にまき絵君、それと木乃香と刹那君じゃ」

「アイツらまで何やってんの!?」




話によれば、図書館島地下にある「頭が良くなる魔法の本」の噂を信じて侵入し、そのまま警備システムに捕まり地下で勉強中らしい。



「そんな本あるんですか?」

「ある訳無かろう」

「ですよね」



アイツらも学校サボったのか・・・。なんで止めなかったんだよコノカ、もしくはセツナ。

あとネギ、一番止めなきゃいけない奴が一緒に行ってどうすんだよ。止めろよ先生。



「その3人は他の5人の勢いに勝てなかったみたいじゃから、あまり責めんでやってくれ。ネギ君は寝ていた所を強引に連れ出されたようじゃし」

「あ、そういやセツナから着信あったのって・・・」

「自分たちじゃ止められんから助けを呼んだんじゃろうな」



・・・・はぁ、しゃーない。



「・・・わかりました、行ってきます」

「おお、助かるぞぃ」

「で、どうやって行けばいいんスか?」

「地下までの直通エレベーターがあるからソレを使うがいい。普段は地下から一階までの一方通行じゃが、特別に往復できるようにしておこう」



ホントすみません、ウチの馬鹿どもが御迷惑かけて。


学園長からエレベーターの場所を聴いて、いざ出発―――――――――の前に・・・。



「・・・あの、アイツらには俺からよ~く言って聞かせますんで、無断侵入のペナルティは・・・・」

「ふ、ふむ・・・。まぁ、今回は特別にお咎め無しにしておこうかの」

「あざーっす!!」



んじゃ、行ってきまーっす。











「・・・・・なんか、良心が痛むのぅ・・・」


魔法薬入りのビンを回収しながら、しゃがれた声を零す。ぬらりひょんにも、一応人並みに良心があったようだ。


「あ、そうじゃ、急いで石板の問題を撤去せねば・・・、ミサト君にバレてしまうからのう・・・」














◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






だんだんリアルの方が忙しくなってきました。













[15173] 漆黒の翼 #20
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:de901972
Date: 2010/02/17 00:29



 チーンッ





図書館島まで急ぎ足で赴いた俺は、指示された直通エレベーターに乗って地下深く一気に降り立った。そこから、更に螺旋階段を降りないといけないらしい。

ヒョイッと下を覗きこんでみるが、全然底が見えない。


石を落してみる、・・・・・・・・・・・しばらくしてカツーンって音が聞こえた。

コレ歩いて降りんのかったるいな・・・。




「誰か居るかーーーーー!!?」



 イルカーー、イルカー、イルカー・・・・・・




・・・・エコーはあれど、返事無し。


誰も居ないなら・・・・、まあ、いっか。


氣で足を強化し、斜め下の足場目掛けて飛び降りる―――――――――


―――――――――着地したら、反転してまた斜め下の足場へ跳躍、着地、反転、跳躍、着地、また反転して跳躍――――――――





――――――――そんな感じに、髭が似合う配管工の如きジャンプアクションで一気に底まで舞い降りる。

終点には1つの扉、『非常口』と書かれてあった。レッツオープン、よいこらせっと。



――――――眼の前を水が上から下へと流れている、どうやら滝の裏側に出たようだ。


・・・・・滝?



なんで図書館に滝があんだよ、本がシワシワ~ってなるじゃん、水気厳禁でしょうが。

前々から思ってたけど、この図書館も相当変だよな。何が変かって、まあ、いろいろだよ。



そんな風に異常な保存状態の本達を眺めながら歩いていると、1冊の本がコツンッと足にぶつかった。

なんじゃらほいと拾い上げてみると、何やら重厚な本だ。中身は・・・全ページ白紙。守護騎士が出てきて菟集したりするのかな?・・・なんてね。

手持無沙汰だったので、何の気なしにその本を持ったまま歩きだす俺。すると――――――――





「――――このように、cutは過去形も過去分詞形も変わらずcutとなる訳です、わかりましたかー?」

「「「「「ハーイ♪」」」」」




――――――――楽しげな授業の声が聞こえてきた。ノンキなモンだよ、まったく・・・。




「ではこの文を、長瀬さんに訳してもらいましょうか?」

「ニン・・、えーと、『ジョンは紙に書かれた文を読む。ソレには、「期限内に鍵を探すこと」と書かれている』、で良いござるか?」

「あー、ほとんど合ってますけど、おしいですね~」

「Johnの後のreadにsが無いから過去形だな、正確には『文を読んだ』が正解だ。前にも教えたろ?」

「あれま、初歩的なミスでござる」

「ケアレスミスには皆さんも注意してくださいね」

「勿体無いからな」

「「「「「ハーイ♪




・・・・・・・・・・・ん?」」」」」

「あ、総統や」




・・・・ようやく気付いたか。




「うわあああ!!? ミ、ミサトさん、いつの間に!!?」

「ど、どうしてアンタがココに!?」

「オマエらを迎えに来たからだよ、学園長に頼まれてな」

「ええ!?じゃあ侵入したのバレちゃってたの!?ど、どうしようネギ君!?」

「今回は特別にお咎め無しだとよ」

「よ、よかった~・・・」




全然よかねえんだよ。




「全員、そこに正座」

「「「「「「「「・・・・へ?」」」」」」」」

「だから、正座」

「えっと、ミサト・・・?」


「Hurry up!!」

「「「「「「「「イ、イエッサー!!」」」」」」」」



瞬時にビシィッと姿勢を正して正座する6人。



「おかしいな・・・、・・・みんな・・・どうしちゃったのかな・・・?」

「み、ミサト殿・・・?」


「日頃の積み重ねが大事だって、いつも言ってるよね・・・?」

「そ、総統の眼がツヤ消しに・・・!」


「教えてもらう時だけちゃんと言うこと聞いて、直前でこんな無茶するなら・・・、練習の意味無いじゃない・・・? ちゃんとさ、練習通りやろうよ・・・」

「わ、私は教わったこと無いんですけど・・・」
「わ、私も・・・」


そこ、うるさい。



「ねぇ・・・、俺の言ってる事、俺の教導、そんなに間違ってる・・・?」

「ヒィッ・・・・・!」


ネギがビビりまくり。



「わ、私は! 小学生からやり直しなんてしたくないから!! だから・・・!! 頭良くなりたいのよ!!!」


・・・義務教育なんだからそんなことありえんだろう。



「もう少し・・・、頭使おうか?」



とりあえず全員に一発ずつハリセンでクロスファイヤーしておいた。




そして、個別にお小言タイム。



「まずネギ、オマエが一緒になって侵入してどうすんだよ。教師なら生徒の暴走はちゃんと止めなさい」

「あぅ、す、すみません・・・・」



「アスナ、こんなトラップ満載の危険地帯に子供を連れ込むとはどういう了見だコラ」

「い、いや、ソイツも役に立つと思って・・・」

「役立てるなら、自分の部屋で勉強教えてもらえばいいだろうが」

「うう・・・」



「カエデ、クー、眉唾本に縋ってどうすんだよ。武術家が他力本願でいいのか?」

「ニン・・・」

「す、すまないアル・・・」



「コノカ、セツナ、コイツら止められなかったのか?」

「面目ありません・・・」

「ウチらじゃ力不足やってん」



「ユエ、オマエ頭いいんだから普通に勉強すりゃイイじゃねえか・・・」

「・・・勉強は嫌いなんです」



「・・・・・・・オマエは誰だ?」

「ヒドイ!? まき絵だよ、学園祭の時に会ったじゃん!!?」


ああ、悪い悪い。






「・・・ミサトさん、怒ってますよね?(ヒソヒソ)」

「大丈夫です、アレは怒ってるというより拗ねてるだけですから(ヒソヒソ)」

「拗ねる、でござるか?(ヒソヒソ)」

「今まで頼ってくれとったのに、急に眉唾の噂に鞍替えされたから寂しいんよ(ヒソヒソ)」

「寂しいって・・・、ミサトってそんなキャラだったっけ?(ヒソヒソ)」

「そうは見えないです(ヒソヒソ)」

「そう云うモンなんよ(ヒソヒソ)」

「意外アル(ヒソヒソ)」

「へ~(ヒソヒソ)」




「・・・・・全部聞こえてんだけど」

「「「「「「「「あ・・・」」」」」」」」




なんとなく恥ずかしかったから、もう1回ずつシバいといた。反省はしない。






「ところでミサトさん、その手に持ってる本は・・・」

「ん、ああ、ココ来る途中で拾ったんだよ」

「そ、それはまさしく、頭が良くなる魔法の・・・・!!」

「別に読んだトコロで何にも変わんないぞ?」

「ガーーーン!!」



全ページ白紙だから、読む以前の問題だけど。



「む、無駄足だったの・・・?」



バカレンジャー総しょんぼり。んなもんあったら誰も苦労せんわい。




「だ、大丈夫ですよ! 皆さんココでみっちり勉強してましたから、ちゃんと成果は出てるハズです!!自信を持ってください!!」



意気消沈のメンバーに激励を飛ばすネギ少年。ちゃんと先生らしいことしてんだね。




「・・・確かに、先程の英訳、以前の拙者なら苦戦は必至でござった」

「ネギ君、教え方ウマイもんね~」

「ん、だんだん自信が出てきたアル!」

「そうです! 魔法の本なんかに頼らなくても皆さんはやればデキるんですよ!!」



イイこと言うね、ネギ。できればココに来る前に言って欲しかったけど。




「ま、今は日曜の午前中。あと1日残ってるし、上に戻ってスパートかけりゃイイとこまで行くんじゃねえか?」

「よーし、皆さん帰りましょう!!」

「「「「「「おーーー!!」」」」」」


「ところで、総統はどうやってここまで来たんです?」

「地上からの直通エレベーターでな」

「そんなのあったですか!?」





――――――俺は探検隊一行を引き連れ、滝裏の非常口から螺旋階段を上り、エレベーターまでエッサホイサと向かう。



「この階段、何処まで続くの~!?」

「どうなってんのよミサト!!」

「俺に言うな、造った奴に言え」

「どうなってんのよ大工さん!!」



大工さんではないと思う。




















 チーンッ





「ん~!久しぶりの外だ~!!」

「空が青いアル!」



――――――ようやく地上に出た、太陽の光が眩しいっす。そういやあの地下遺跡、電気も無いのに明るかったな。アレも魔法だろうか?


時刻は午前11時を廻った所だ。最終調整には十分な時間があるだろう。




「んじゃ、各自部屋に戻って昼食タイムね。食べ終わり次第、勉強道具持ってミサトの部屋に集合ってことでイイ?」

「講師役が何人か必要やね」

「のどかとハルナに頼むです」



結局いつも通り俺の部屋で勉強会を取り行うことになった。なんかみんなが優しい目線だったけど気にしない、拗ねてないっての。




「頑張った奴にはマーボーカレー作ってやるぞ」

「「「「「いやっほーい!!」」」」」
「「「?」」」



餌づけ組とそうじゃない組で反応がきっかり分かれた。ふっふっふ、そうじゃない組よ、食った後でも同じ反応ができるかな?


・・・今度は「ピーチパイ」とか「ビーストミートのポワレ」とか作ってみようかな?












――――――そんなこんなで勉強会開始。





「ネギ君、ココは?」

「ソコはですね、円周角と中心角の関係を利用してですね・・・」

「カンケイを利用するって、なんだかイケナイ響きだね~♪」

「・・・ホラ、これでこの値を求めるんですよ」

「このアタイを求めてごらん! な~んてね♪」

「ハルナは少し黙るです」



「ふじわらのかたまり、・・・あ、間違えた、カマタリだ」

「私、聖徳太子って聞くと青ジャージ着た駄目男しか思い浮かばないんだけど」

「ああ、わかるわかる。松尾芭蕉もそうだよな」

「でもおかげで芭蕉の弟子の名前は覚えたアル」

「ソラ君だよね」

「漢字で書けるようにしとけよ?」

「『空』じゃないの?」

「『曾良』だよ」



「電流がコッチから来るでござるから・・・」

「左手の法則で・・・、あれ、左手ってどんな形だったっけ?」

「こうでござるか?」

「ソレ、『グワシ』だぞ」





「晩飯できたぞ~」

「「「「「いやっほーーいっ!!」」」」」

「・・・なんでこんなにテンションが高いですか?」

「そんなに美味しいんでしょうか?」

「食べればわかるんじゃない?」





「ほう、コレはなかなかだな」

「・・・マナ、なんで居るんだ?」

「御相伴にあずかりに来ただけだ。なに、気にすることは無い」



マナに空気フラグが立った気がした。そして本当にメシだけ食って帰って行った。




さー、ラストスパートだー、みんなガンバレー。



































 チュンチュン・・・・





・・・ん、朝か・・・。


しょぼついた眼を擦りながらデジタル時計を確認、・・・・うん、月曜だ。ちゃんと[ MON ]の表示が出てる。今は6時半か・・・。



顔をあげて辺りを見回してみると、乙女達が安らかにお眠りあそばされていた。


普段俺が使ってるベッドにコノカとセツナ、炬燵にカエデ・クー・マキエ、毛布かぶってソファで寝るハルナ・ノドカ・ユエ、そしてその脇で寄り添って船を漕ぐアスナ&ネギ。


・・・コイツら全員泊って行きやがったよ。気付いたら日付を跨いでいたんで、そのまま徹夜覚悟で勉強してたからなんだけど。

頼むから誰か危機感を持ってくれ、ココは男の部屋なんだぞ。無防備に寝てたらどうなるか解りませんよ?

・・・まあ、何もしないんだけどさ。


ちなみに俺はイスに座ったまま寝ました。若干、体が痛いです。



とりあえず洗面所で顔洗って、水を1杯クイッと飲み干す。



・・・さて、そろそろ起こさないとな。


おもむろに台所へ向かい、手にしたのは使い込まれたフライパン、そしてその相棒のお玉。


スーッと深呼吸。右手にお玉を、左手にフライパンを構え、そして―――――――――――









「―――――奥義! 【死者の目覚め】!!」




  ガンガンガンガンガンガンガンガンッ!!!!






「「うわわわわわ!!?」」
「「な、なに!!?」」
「空襲!?」
「謀反でござるか!?」


「ハーイ、グッモーニーン。爽やかな朝ですよー」

「何処が爽やかなのよ!!?」

「うう・・・、頭の中でガンガン音がリフレインされてます・・・」



とっとと起きて朝飯の支度を手伝いなさい。




・・・それにしても、ノドカまで泊っていくとは意外だった。絶対帰ると思ったのに。


「・・・ネギ先生と、お泊りしちゃった・・・・、・・・・・・・・きゃっ♪」



・・・ネギ目当てだったんだ、これまた意外。






――――――そして、朝飯も食ったところで・・・・




「「「「「「「「いってきまーーっす!!!」」」」」」」」

「おー、がんばれよー」



手を振って全員を送りだした。傍から見たら異様な光景だよな、男子寮の一室から朝早くに飛び出していく少女達って。


どうやら一旦女子寮に戻るらしい、間に合うのかねえ?







―――――――――あとは野となれ山となれ、ってか?























――――――――そして、数日後の結果発表。


各学年のテスト結果は毎回放送部が大々的に発表するコトになっており、その結果予想による食券トトカルチョも生徒達の娯楽の1つとなっている。なんて不謹慎な学校だい。




そして、気になる結果だが―――――――




《第1位!2年A組!! 平均点81.0点!!》




――――――なんと女子中等部2-Aは、万年最下位からの脱却どころか、学年トップの成績を獲得したそうな。ちゃんと遅刻しないで試験を受けたらしい。

セツナも、今回は今までよりもかなりイイとこまで行ったみたいだ。よかったよかった、優秀な部下を持って俺も鼻が高いよ。


・・・がんばったなあ、アイツら。




ちなみに俺はいつも通りの点数、クラスの順位もそこそこだった。
















「――――ふむ! まさか学年トップにしてしまうとは、アッパレじゃネギ君!!」

「ありがとうございます!!」



そして俺は今、学園長室でネギとジイさんの遣り取りを傍聴しているところである。別に付き添いでいる訳じゃない、俺は別件で用があるんだ。



「約束通り、最終課題は合格じゃ! 来季から正式な先生として働いてもらうが、精進は欠かさないようにのぅ?」

「ハイ、よろしくお願いします!!」



こうしてネギは4月から教師として正式採用が決まった、おめっとさん。




「ミサトさん、いろいろお世話になりました!」

「ま、これからもっと大変だろうけど、ガンバレよ?」

「ハイ!!」



ホントに大変になるぞ、主にエヴァさん関係で。今は黙ってるけどね。






「――――それでは学園長、失礼します!」



意気揚々と退出していったネギを見送り、部屋に残る俺とジイさん。さて、こっからは俺の用事だ。




「キミにもいろいろ迷惑かけてすまんかったのぅ」

「いえいえ、俺にかかる迷惑なら別に気にしてないですから」

「フォフォ、そうかそうか」









「―――――――ただ、アイツらを面白半分で地下に落としたことについては別ですよ」

「フォ!? な、なんのことかの?」



「地底図書館に落とされる前にやったツイスターゲームの番人の声が、明らかに学園長のモノだったとの情報をセツナからもらってます」

「はっ!?詰めを誤っ・・・!・・・あ、しまっ・・・!」



「俺と電話してた時も、リアルタイムで実況してましたね? 『ハズレじゃ』とか『コッチの話じゃ』とか」

「い、いや、それは・・・!」



「おかしいと思ったんだよ・・・、電話のタイミングが良すぎるし、いくら疲れてるからって30時間も寝るなんてさぁ・・・」

「ま、待つんじゃ! コレは子供のネギ君がちゃんと教師としてやっていけるかどうかの試練で・・・!!」



「その試練にセツナ達を巻きこむ必要性はあったのか・・・?」

「ちょ、ちょっと待つんじゃ!いやホントにちょっと待って!!頼むからそのスゴそうな武器をしまっとくれ!!」







――――――聞く耳持たん!!!



















「断罪の【エクセキューション】ンンンッッ!!!!」




「ぎょえええええええええ!!!!!???」



















――――――――その日、学園に奇妙な悲鳴が木霊したとのニュースが報道部から出たが、すぐに風化していったそうな。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆








第一次「ぶるぁ」降臨。









[15173] 漆黒の翼 #21
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:de901972
Date: 2010/02/23 17:46



中学2年も終わりを迎え、春休みに入った。新学年に向けて張り切る者、年度を終えてゆっくり羽を伸ばす者など、過ごし方は様々だ。

桜も開花を迎え、眼にも美しい季節が到来したことを知らせている。エヴァさんは花粉症で辛そうだけど。


そんな早春の某日、俺は――――――――――――







 ヒュウウウウゥゥゥウゥゥ




「・・・寒ぃ・・・・・眠ぃ・・・」




――――――――早朝から、開店前のゲームショップのシャッター前で行列に身を投じていた。春とはいえ、朝はまだまだ肌寒い。


なんでこんな所に居るのかっていうと、ゲームを買うためだ。それ以外に何があるってんだコノヤロウ。

ただ、俺がやるために買うんじゃない。友達に、ダイチとセイウンに頼まれてお使いに来ているんだ。


なんでも新感覚の恋愛シミュレーションゲームが出るとかで、発売の相当前から意気込んでいたんだけど、うっかり予約するのを忘れてしまったと言うのだ。

しかも発売当日は2人とも都合が悪く店まで来れないとかで、「じゃあ代わりに買ってきてくれ」と俺にお鉢が回って来たという訳だ。

何で俺がと渋ったが、今度『JoJo苑』で奢ってくれると言うので快く承諾した。そんなにこのゲームに懸けてるのかアイツら・・・。


・・・しかし、当たり前と言えば当たり前だが、並んでんの男ばっかだな。むさ苦しいったらありゃしない。






―――――――早朝の寒さと野郎共の熱気という相反する二重苦に苦しめられること数時間後。午前9時58分、開店直前。



「お待たせいたしました! 間もなく『らぶたす』販売開始です! お1人様につき1本とさせていただきますのでご了承ください!」



ありゃま、じゃあ2人分買えないじゃん、どうしよう・・・。

周りの野郎共は鼻息荒くして入口を凝視してるし・・・・・・今なら大丈夫か?


寒さ対策用に持ってきていた毛布を深く被り直し、その中で手早く印を組む。



・・・忍法【写身】ッ(ボソッ)」



ポンッという小気味いい音と共に、毛布の中に俺と瓜二つの分身体が姿を現す。そしてチョチョイと氣の量を調節し、現在の俺よりも若干年上風味の姿にする。

そんでもってバサリと毛布を取っ払って、あたかも最初から2人いましたよ風な空気を装う。完璧だ。



「・・・・あれ、2人も居ましたっけ?」

「ずっと毛布の中で縮こまってたから、わからなかったんスよ」
「そうそう、俺達ココから動いてないし」

「そう・・・ですか・・・?」

「お待たせいたしましたー!! 開店でーす!!」



後ろの人に少し不信感を与えてしまったが、店員の声に反応して気が逸れたからセーフだろう。・・・そこ、ズルイとか言わない。

・・・コレ15歳以上対象のゲームだから、気取られないようにしなくちゃ。



幸い店側は商品配布にせっつかれて年齢確認などは行わなかったので、俺達1人は無事に2本ゲット、そして焼き肉ゲットだぜ。


・・・っと、マズイ、そろそろ分身が解けそうだ。あんま時間持たないんだよコレ。そこいくとカエデの分身は見事だ、出すも増やすも自由自在だもの。

足早にトイレへと駆け込み個室に飛び込む、傍から見たら「今にも漏れそうな兄弟」ってところだろうか。

そしてドアを閉めたと同時に、分身は煙と化して消え去った、アブネェ・・・。



ついでだから本当に用も足して、未だに野郎がひしめくショップを後にする。店の外からでも異様な熱気が視認できるな・・・。










――――――さて、頼まれた用事も済んだことし、これからどうしようかな・・・。



「あれ、総統?」

「あ、ホンマや」



何の気なしにボーッと歩いていた俺に声をかける2つの声。その正体は言わずもがな、コノカとセツナだ。コイツらもお出かけか。

くるっと振り返って返事する俺。



「よぉ、偶然だな」

「買い物ですか?」

「友達に頼まれてたゲーム買いにな、ソッチは?」



ゲーム屋のロゴ付ビニール袋を見せ、コチラも訊き返してみる。



「ウチらも買い物や、ゆうてもウィンドウショッピングやけど」



要するに2人で遊んでるってことね。仲好きことは美しきかな。



「これから予定とかあります?」

「今日はコレ買って終わりの予定だな」

「暇なら一緒に行かへん?」

「そうだな、んじゃ行くか。荷物運びくらいはしてやるよ」

「ほなら、れっつごーや♪」



どうせ暇だったし、2つ返事で承諾して2人に付いていくことにした。

道中、ショーウィンドウにディスプレイされている服を見ながら似合う似合わないの意見を出し合ったり、街ゆく人を勝手にファッションチェックしたり、道すがら雑談に興じたり。

雑談の内容はと言えば―――――――――――



「―――――そうゆーたら、終了式の日にクラスで『学年トップおめでとうパーティー』やったんやけどな」

「相変わらずあのクラスはそう云うの好きだな、それで?」

「千雨ちゃんがめっちゃかわえー格好してきたんよ」

「チサメが?」



騒いでる場所には行きたがらなそうな奴なのに?



「いつもその手の集まりには来ないんですけど、ネギ先生が部屋から引っ張ってきたみたいなんです。みんなで楽しく集まろうって」

「いかにも熱血先生っぽい行動だけど・・・、引っ張ってきたってことはチサメが自主的に可愛い服着てたってことだよな?」

「まあ、そう云うことになりますね。ネギ先生が着換えさせたわけも無いでしょうし」



地味目な格好ばっかしてんのかと思ったら、結構そう云うの好きなのか・・・・、意外だ。



「総統は長谷川さんを名前で呼んでますけど、親しいんですか?」

「いや、1年の時に1回電器屋で世話になったことがあるってだけで、そこまで親しいワケじゃねえよ」



その後学園祭でまた会ったけど、それからほとんど交流ないな。



「その時の写真あるけど、見る?」

「朝倉さんが撮った奴ですね」

「見して見して」



コノカが手帳に挟んである1枚の写真を俺に渡す、どれどれ・・・・・。



「・・・・・ん?」

「どうしました?」

「なんか・・・どっかで見たことあるような・・・?」

「せやから千雨ちゃんやて」

「そうじゃなくて、こう、チサメじゃない誰かに・・・」



何処で見たんだっけかなぁ・・・?



「・・・・わからん」

「他人の空似じゃないですか?」

「かもな」



思い出せないってことは、それほど大したことじゃないだろう。気にしてもしょうがなかんべ。



「ところで、何のゲーム買うたん?」

「情操教育に大変よろしい類のものだ」

「脳トレですか?」

「コレ」



袋からブツを取り出してパッケージを露わにする。



「・・・恋愛ゲーム?」

「えっちぃヤツ?」

「いや、清い交際だと思う」



物珍しそうにしげしげとパッケージに視線を送る思春期少女2人。興味あんのか?



「アプローチかけて女の子をオトすんやな?」

「序盤でオトして、恋人気分を満喫するのがメインなんだとさ」

「「へぇ」」



・・・・1回やらせてみようかな。なんとなく、コイツらハマりそうな気がする。

・・・ソレはソレで危険だからやめておくか。








――――――――それなりにいろいろと見て回り、いつの間にか時刻は午後1時を廻っていた。そろそろ昼飯にしようと提案し、近くのファーストフード店でバーガー類を注文することに。

ハムハムとチーズバーガーを口にするコノカと、モシャモシャと照り焼きバーガーを食すセツナを眺めながら、俺もビッグなバーガーにガツガツ噛り付く。実に平和だ。



「行きたいトコはあらかた行けたし、どないする?(ハムハム)」

「そうですねぇ・・・・(モシャモシャ)」

「セツナ、鼻にタレ付いてるぞ(フキフキ)」

「あ、すみません総統」

「総統、なんか見たいものある?」

「いや、特には・・・・」



・・・まてよ・・・?



「そういや靴が欲しかったんだよな、今履いてんのがボロくなってきたから」



俺の場合、荒仕事もあるから傷むのが早いんだよ。



「靴買うなら、夕方の方がいいですね」

「まだ昼過ぎだし、時間余っちまったな」

「どっかで時間潰そか?」



となると、何処へ行ったものか・・・。



「映画でも観に行くか?」

「あ、今ちょうど面白いのやっとるって、桜子達がゆうとったえ?」

「じゃあ行きましょうか」



異論は無いようなので、一路映画館へ。



















――――――着いた着いた、ココが映画館『麻帆ミヲン』だ。



「で、その面白いのってどれだ?」

「う~ん・・・・、あ、アレや!」



数ある客引き用の宣伝看板の中で、コノカが指さしたのは―――――――



「・・・・『彼奴の怨念3』・・・・・?」



――――――――タイトルからして、いかにもなホラー映画。題名の『3』を見るに、シリーズ第3段のようだ。




「迸るほど怖面白い、って言っとったえ」



ニコニコしながら事前情報を伝える娘っ子。



・・・・オマエ、ワザとだろ?




「・・・俺がホラー物ダメだって知っての狼藉かコラ」



何を隠そう、俺はこの手のホラー映画がビックリするほど苦手だ。

具体的に言うと、『怨霊』とか『呪怨』というフレーズがダメだ。サスペンス系や殺戮系は平気なんだけど・・・。




「私達だって人のこと言えないじゃないですか」

「バカ、妖怪は触れるけど怨霊は触れないんだぞ。襲われたら手の打ちようが無いじゃねえか」



悪霊の呪いなんてどうやって迎え撃てばいいんだよ、あんな理不尽なモン。



「そろそろ克服せんと、成長できんよ?」

「このちゃん、スパルタですね」



1個くらい苦手なモノがあったっていいじゃんよォ、他のにしようよォ。ほら、あのSF物とかイイじゃん、3Dで飛び出すんだってよ。



「『彼奴の怨念3』も3Dやよ?」

「・・・怖さ倍増じゃんかよ」



そんなモンに3D技術を使わないでくれよ・・・。



「だいじょーぶやって、ホラ行こ?」

「私も居ますから、ね?」



「ね?」じゃねえよ、オマエは俺の保護者か。


抵抗むなしく、元気な幼馴染2人にズルズル引き摺られ、俺は戦慄の館へと足を踏み入れてしまったのだった―――――――










「―――――あ、ポップコーン下さーい。塩キャラメルで」
「俺、塩チョコな」
「私は塩バターです」







――――――――怖くてもコレは欠かせない――――――――
























――――――――上映終了、外に出てきました。・・・・太陽が眩しいぜ。



「・・・・た、大したこと、無かった、な」

「・・・じゃあ、なんでさっきから私の手を握ったままなんですか?」

「・・・今はオマエを離したくないんだよ」

「もうちょい雰囲気のある時にゆうたらカッコええのに」

「・・・うるへぇ」



理屈じゃねえんだ、怖いモンは怖いんだよ、魂って奴が実在するって解ってるから尚更な。


ソレはともかく、映画のおかげでそれなりに時間も潰せた。

とりあえず少し落ち着こうかと、近くのカフェでなんか飲むことに。

注文の品を持って開いてる席に腰を下ろす、よっこいしょういちっと。



「けど、3人で映画に来たんも久しぶりやね」

「昔はよくドラえもんとか観に行ってたっけな」

「懐かしいですね、総統が『帰ってきたドラえもん』観て号泣したりして」

「・・・そう云う思い出は封印しとけよ、オマエらだって泣いてたじゃん」

「総統程じゃなかったですよ」



だってよぉ、もう会えないと思ったドラえもんとのび太がウソのおかげで会えるシーンなんてもう・・・・、あ、やベッ、泣きそう・・・。



「ウチは『のび太の結婚前夜』が好きやな」

「『ぼくの生まれた日』もイイですよね」

「『おばあちゃんの思い出』も捨て難いな」




――――――とまぁ、しばしドラえもん談義で盛り上がり、そろそろイイ時間になってきたので目的の靴屋に向かうことにした。











――――――着いた、『XYZマート』だ。パクリ臭い店名だが、スニーカーから草鞋まで、品揃えはバッチリだ。

ぞろぞろと入店し、フラフラと店内を物色して回る。



「コレは、・・・なんか違うな、俺の趣味じゃない」

「あ、コレ可愛えなぁ・・・」

「・・・うわっ高い・・、やはりイイ物はそれなりか・・・」



他2人も好き勝手に見て回っているようだし、ゆっくり選ぶとするかねぇ。


・・・・・お、このミリタリーブーツかっけえな。値段は・・・・・うへぇ、3万超えてら。


仕事に履いてくなら丈夫そうな奴がいいな。この運動靴は・・・うん、耐久性ありそうだ。






―――――しばらく見て回った結果、軽くて丈夫そうなヤツ1足と、気に入った安めのミリタリーブーツ1足を購入することに。

会計も終わり、ツレを回収するため店内を探索。どこかなっと、・・・・・・・お、いたいた。


コノカはある1点をじぃ~っと見ている。視線の先には、1つの商品が。



「・・・・ソレ、欲しいのか?」

「うーん・・・」



別に買ってやってもいいんだが・・・・、一言だけ言わせてもらおうか。



「歯が20センチもある一本下駄なんていつ使うんだよ」

「なんか面白そうやん」



ノリで買い物すんな、要らんもんが増えるだけなんだから。選ぶんならもっと女の子らしいものにしなさい。


んで、セツナは・・・・・。



「・・・・・・」



・・・靴の中敷きを凝視してた。



「・・・そんなん欲しいのか?」

「あ、いや、迷ってうちにいつの間にかココに・・・」



・・・オマエは、もうちょいノリと決断が必要だな。










――――――店を出たときにはもう日も落ち、カラスがカーカー鳴いていた。



「そろそろ帰っか」

「あ、夕飯の買い物せんと」

「お供します」

「んじゃ俺も」

「ジャムも切れとったなぁ、あと蜂蜜も」

「ハハァ、蜂蜜だァ!!」

「どしたんですか急に」

「いやなんとなく」

「そういえば、またお見合いの話が来とるんよ」

「ジジイも懲りねえなぁ」

「断っちゃいましょうよ」





他愛も無い話をしながら、俺達3人はまた再び歩き出す。








―――――――夕日が【漆黒の翼】を照らし、3つ並んだ影を映していた。


―――――――それは、出会ったときから誰1人欠けることなく、互いに支え合ってきた影。


――――――――影の大きさは変わった、それでも変わることの無い影。








こんな平和な日々が、いつまでも続くといい。

この幸せを、ずっと護っていきたい。


俺は、心からそう思った。





















――――――――激動の中学3年が、今、幕を開こうとしていた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




副題「【漆黒の翼】の休日」。大きな動きなんてゴザイマセン。




ありがとう、20万HIT!!!







[15173] 漆黒の翼 #22
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:de901972
Date: 2010/03/05 18:23


―――――――新学期のスタートが秒読み段階にまで迫った4月初頭。桜もすっかり見頃を迎え、能天気が集まるこの街の住人がポカポカ陽気で更にボーッとしてしまう時期。


そんな麗らかな小春日和の中、俺達【漆黒の翼】の3人はエヴァさん邸にて角を突っ突き合わせて会議を行っていた。議題はズバリ、【登校地獄】の解呪についてである。



「じゃあ予定通り、あのプランで行くということで」

「そう何度も言わなくてもわかっている、シツコイぞ」



俺の度重なる確認に、眉間にしわを寄せて答えるエヴァさん。

だって、念を押しとかないと絶対なんかやらかすじゃないか。この人ってば、すぐ物騒な方向に話を持っていこうとするんだから。



「それで、決行はいつにするん?」

「次の土曜辺りが妥当だろ」



なんにせよ、次の土曜だ。まずはエヴァさんの呪いを解かないことには始まらない。

部屋の窓から見えるピンクの花びらを見ながら、俺は気合を入れ直す。


・・・と、





 チーーンッ





―――――――オーブンレンジが焼きあがりを告げる音を奏でた。ついでに台所を借りてオヤツを作っていたのだよ。

ソソクサと使い勝手の良いエヴァ邸のキッチンに向かい、ブツの具合を確認する。・・・よし、でけたでけたっと・・・・。



「新メニュー『ピーチパイ』、かーんせ~い」

「「「おお~~」」」



―――――――その後は、試食会でまったりまったりと相成りました。うむ、上出来じゃ、レパートリーが増えたぜ。
























――――――――そして、新学期。

教室の札が一斉に掛け換えられるこの日、2-A教室は3-A教室として新たなスタートを切る。

そして、その教室の中でも・・・



「3年、A組!!」

「「「「「「「「「「ネギ先生ーーー!!!!」」」」」」」」」」



A組女子が有名なセリフをパクってまで熱烈歓迎する担任教師、その名は―――――――



「――――改めまして、正式に担任になったネギ・スプリングフィールドです! これから1年間、よろしくお願いします!!」

「「「「「「「「「「はーーい! よろしくーーー!!」」」」」」」」」」



ついにネギ少年の正式な教師としての生活が始まった。

生徒達からの反応はいたって良好、若干不安も残っていたネギも満面の笑みを浮かべ、これから先の修行に希望を抱いていた。


願わくば、まだ親しくなっていない生徒たちとも交流を深めたいなぁ、とか少年がノンキに考えていると――――――――









 ・・・・・ゾワッ


「!?」





――――――突如、背筋に氷を放り込まれたような悪寒が駆け抜けた。



その悪寒の正体は視線。そしてその年端もいかぬ少年教師にニヤリと妖しげな視線を注ぐのは、ブロンドの美少女エヴァンジェリン。


ハッキリ言って、ネギにはその視線の意味が理解しがたかった。自分はこの少女とはほとんど接点を持っていない、ならこの舐めるような視線はなんなんだろうと。


ネギが出席簿に書かれた前担任からのアドバイスを読んで首を傾げていると、1人の女教師が教室の扉を開いた。お馴染みの教員、しずなである。



「ネギ先生、今日はこのクラスが身体測定ですが・・・」

「あっ、そうでした! み、皆さん、今すぐ脱いで準備をしてください! ・・・・・・あっ!」



・・・己の失言に気付くも、時すでに遅し。



「「「「「「「「「「ネギ先生のえっち~~!!」」」」」」」」」」

「す、すみませーん! 間違えましたーーー!!」



慌てて教室から飛び出すネギを、溜息混じりに見届ける2人の少女。1人は、保護者的な意味で明日菜。もう1人は、落胆の意味でエヴァだ。



「・・・まったく、本当にアレはあの男の子供なのか?」



あんな子供に自分の運命を握られているのかと思うと、エヴァは何だかやるせない気分になった。








「では、まずは身長を測るので準備してくださーい」


「・・・・・・・はぁ・・」




―――――――そして成長しない己の身体に、更にやるせなくなった。






























―――――――あっという間に、金曜日の放課後。


辺りはすっかり日も落ち、月が顔を出していた。放課後というには少々遅い時間である。



「ひゃー、すっかり遅くなっちゃったーー!」

「早く帰ろうぜ兄貴、姐さん達が心配してるっすよ」



街灯に照らされた道を小走りで駆ける1つの人影。

背丈より長い杖を背に負ったその影の主・ネギは、家路を急いでいた。そしてその肩にちょこんと乗っかるもう1つの小さな影がネギを急かす。


コイツはオコジョ妖精の『アルベール・カモミール』、新学期2日目に現れた「自称・ネギの舎弟」である。

元々イギリスに居たハズなのだが、いろいろあって日本に居るネギを訪ねてきたというのだ。その理由は推して知るべし。


オコジョという愛くるしい姿に騙される無かれ、中身はエロ満載の中年オヤジ、ユーノ君と双璧をなす淫獣ネズミだ。

しかもコイツは、ネギのためと称して隙あらば【仮契約】させて仲介料を頂こうとするトラブルメーカーでもある。

つい最近も、のどかを勝手に呼び出して【仮契約】させようとしたりしたのだが、その時は明日菜が割って入って事なきを得た。


一応、カモの存在は刹那の口から海里の耳へ届いているが、そのことについては海里達は知らない。



ソレはソレとして、ネギが女子寮に向かうべくスタコラ走っていると、1本の街道がネギらの眼の前に現れる。別に突如として現れたわけではない、ココは前からある通学路だ。

桃色の木々が街道の両脇に連なるココは、『桜通り』と呼ばれる名所。

ネギも、その見事な美しさに一旦足を止める。夜桜は昼間のモノとは違う趣があるものなのだ。





「・・・うわぁ、キレーだなあ・・・」

「夜桜ってのも、なかなか乙なモノッすね」


確か日本では『ハナミ』っていう野外パーティーがあるんだよね、とかいう日本知識を思い出しながら、散りゆく桜をしばし眺めていると――――――――――









 ・・・コツッ・・コツッ・・コツッ・・・





――――――並木の陰から現れる2つの影が顔を出した。こりゃいかんと、カモは口を噤む。





「・・・やあ、イイ夜だな、ネギ『先生』」

「こんばんは、ネギ先生」

「あ・・・、エヴァンジェリンさん、それに茶々丸さんも・・・」



誰かと思えば、自分のクラスの生徒ではないか。こんな時間に何しているんだろうと、ネギは担任として少々気になって訊いてみることにした。



「どうかしたんですか? もう遅いから早く帰った方がいいですよ、夜道は危険ですから」



10歳の子供に言われたくないセリフだが、金髪の少女は意に介さず言葉を紡ぐ。



「なに、先生に少し話があってね、待っていたのさ」

「僕に話、ですか?」



何の用だろうと考えた次の瞬間、彼にとって驚くべき言葉が彼女の口から飛び出した。










「―――――魔法使いの修業は上手くいっているかい、『ネギ・スプリングフィールド』?」

「え!?」



それは、言外に「オマエの正体を知っているぞ」と言われたのと同じことだった。





「な、なんで知って・・・、・・・じゃない、・・・な、ナントコトデショウ?」



思わずポロっと言葉が漏れたが、なんとか必死に誤魔化そうとするネギ。そんなんで誤魔化し通せる奴がいたら見てみたい。

まあ、別にエヴァはネギの正体について言及しに来たわけではない。とっとと本題に入るために言葉を続ける。



「別に隠す必要などない、貴様の正体など百も承知だ」

「え・・・? そ、ソレはどういう・・・?」

「あ、兄貴、きっとコイツらも魔法関係者っすよ!」

「ちょ、ちょっとカモ君! 人前でしゃべっちゃ・・・って、ええ!!?」



コレは意外にも程があると言わんばかりにネギはもう慌てっぱなし、えらいこっちゃ状態だ。



「あ、アナタも魔法使いなんですか、エヴァンジェリンさん!?」



その問い掛けに、妖艶な幼女はニヤリとした笑みで応える。ネギはソレを肯定の意味だと捉えた。

そしてもう1人、この状況でも表情がほとんど変わらない少女の方へと向き直った。



「じゃ、じゃあ茶々丸さんも!?」

「ハイ、マスター・エヴァンジェリンの従者です」

「え、エヴァンジェリンさんのパートナー!?」



さらなる新事実発覚、こんな身近に魔法関係者がいたとは思わなんだネギは驚きのバーゲンセール状態だ。



「そ、それで、僕に話って・・・?」

「なに、“奴”の息子たる貴様に用があるだけのことだ」

「と、父さんを知っているんですか!!?」

「ああ知っているとも、奴とは浅からぬ因縁があるんでな」



父親『ナギ・スプリングフィールド』の事を知っていると聞くや否や、前のめりになって喰い付いてくるネギ。

行方不明の父親を探すことは、彼の大きな目的の1つなのだ。そのため、彼には手掛かりがあるとわかると脇目も振らずに猛進してしまうという悪い癖があった。



「教えてください! 父さんは、父さんは今何処に!?」

「仮に知っているとしても、そう簡単にホイホイ教えたりなどするものか」

「ど、どうして!?」

「私はイジワルなのさ、『悪の魔法使い』だからな」


「やいやい! テメェら兄貴に何の用なんだ!? 事と次第によっちゃあ、このカモミール様が黙っちゃいないぜ!?」

「・・・ほう、オコジョ妖精如きが【闇の福音】に刃向かう気か? (ギロリ)」

「ヒィィ!!?」


「マスター、穏便に事を済ませるはずでは?」

「む、そうだった、つい反応が面白くて忘れていた」



つい興が乗ってしまい本来の目的を忘れかけてしまったが、従者茶々丸のツッコミにより思い返したエヴァ。今日はネギをからかうのが目的じゃなかったんだよな。



「これ以上荒立てるとアイツがウルサイからな、さっさと用件を済ましておくか・・・」



ようやくエヴァが本題に入ろうとしたその時――――――――







「あ、いたいた・・・ネギー!!」



――――――通りの向こうから、ツインテールを揺らしながら掛けてくる健脚少女が1人やってきた。



「アスナさん! どうしてココに・・・?」

「アンタが遅いから迎えに来たのよ。 それよりアンタなにやってんのよ、またなんかやらかしたんじゃあ・・・って、エヴァンジェリンさん? それに茶々丸さんも、一体みんなで何してんのよ?」

「またウルサイのが来た・・・、いや、かえって面倒が省けたか・・・」



一応は明日菜にも関係あることなのでちょうどいいと思い、話を切り出そうとする。

・・・が、





「さて、役者も揃っ「姐さんちょうどいい所に! 今スゲェヤバいんスよ!!」


「おい神楽坂明日菜、貴様の「って、アンタ、人前で喋ってんじゃないわよ!? バレたら大変なんでしょ!?」


「おいコラ、人の話を聴「違うんです! エヴァンジェリンさんも魔法使いだったんですよ!!」


「だから話を「ええ!? そうなの!!?」




「ええい、ヤカマシイ!! 話を聴かんか!!!」

「マスター、そんなに興奮されては血圧が・・・」



もともと話をややこしくしたのは自分なのに何て言い草だと思わなくもないが、茶々丸は華麗にスルーして己の主を宥める。



「・・・ふんっ、まあいい、少しだけ教えてやる。
私は貴様の父にふざけた呪いを掛けられて以来、この地に縛り付けられ、魔力も封じられた挙句、15年間も中学生をやらされてるんだよ!」

「父さんに呪いを!?」

「15年って、エヴァちゃんて歳幾つ!?」

「マスターは600歳を超えています、真祖の吸血鬼ですので」

「真祖の吸血鬼ィ!? そんなヤベェ奴だったのかよ!?」

「600歳!? エヴァちゃんてお婆ちゃんなの!?」

「誰がお婆ちゃんだ!」

「略してエ婆ちゃんね!!」

「略すな!!」

「マスター、話が逸れています」



明日菜のピントのずれた問答にムキーッと地団太踏みながら怒るエヴァだが、子供が駄々こねているようにしか見えないのが少々気の毒だ。





「とにかく、貴様の父親の事や呪いの事も含めていろいろと話がある! 場所を設けてやるから、明日の土曜、私の家に来い!! いいな、絶対だぞ!?」



そう言うだけ言ったら、エヴァは背を向け肩を怒らせながらズカズカと帰ってしまった。茶々丸もぺこりと1回お辞儀をしてエヴァの後を追って去ってしまう。


ネギたちは呆気にとられ、そのまま2人の後姿を見送ってから、お互いに顔を見合わせる。





「えっと・・・・・、結局何なのよ?」

「わ、わかりません・・・、でも、父さんの事を知っているって言うなら・・・」

「で、でも兄貴、吸血鬼相手にどうする気だよ?」

「と、とにかく、話し合い、かな・・・?」




少年、少女、オコジョは、桜舞い散る並木通りでしばらく思案に明け暮れた―――――――――

















《・・・という訳だから、明日は遅れずに来い、いいな?》

「わかってますよ、エヴァさん」



ネギ達をちゃんと招待したとの報告をエヴァさんから受けた。いよいよ明日か・・・。



「上手くいくといいですね」

《「いいですね」じゃない、絶対に成功させるんだよ》

「ハハッ、そうでしたね」

《なんだ貴様は、ちゃんとヤル気があるのか!?》

「当然じゃないっすか、俺だって2年近く解呪に協力してるんですから、最後までやり通しますよ」

《ふん、それならいいが・・・》

「トモダチを助けたいと思うのは当たり前のことっすよ」

《オマエと友達になった覚えは無いが?》

「そんな!? ヤルだけヤってポイするって言うの!!?」

《気色悪いこと言うな!!》

「冗談すよ、長い付き合いじゃないっすか」

《たかだか2年が長いものか》

「まぁ、エヴァさんからすりゃそうでしょうけど」

《貴様など、せいぜい茶飲み仲間程度だ》

「あ、『仲間』とは思ってくれてるんだ、やったね!」

《やかましい!》



その後しばらくしてから無駄話に見切りをつけ、電話を切る。・・・今日は早めに寝よう。


・・・明日は頑張ろう―――――――――――――

























――――――――翌朝、女子寮――――――――




「兄貴、ホントに行く気かよ!?」

「うん、エヴァンジェリンさんが父さんのこと知ってるって言うなら、話を聴かなくちゃ」



使い魔カモの心配をよそに、ネギは身支度を整えエヴァ宅に向かう準備をしていた。

ちなみに木乃香は「準備がある」とか言って朝から出かけているため、カモも気兼ねなく喋っている。

慌ただしいカモの様子に、明日菜が問いかける。



「そんなに慌てなくてもいいんじゃないの? 吸血鬼、だっけ? そんなにアブナイの?」

「危ないなんてもんじゃねえっすよ!! 真祖の吸血鬼って言ったら、魔法界でも危険度トップクラスの化物だぜ!!? 命が幾つあっても足りねえっすよ!!」

「でも、あの2人は2年前から一緒のクラスだし、命の危険なんて・・・」

「甘い!甘過ぎる!!マックシェイクにマックスコーヒーぶちまけるより甘いっす!!」



そういってカモが取り出したのは自前のパソコン。その画面をネギと明日菜に見せつける。



「【闇の福音】って言葉が気になって昨日の晩に『まほネット』で調べたんす! 
コレ見てくれよ! エヴァンジェリンは元懸賞金600万ドルの賞金首だったんすよ!! 女子供には手にかけなかったらしいけど、魔法使いの間じゃ誰もが恐れる極悪人っす!!」

「ええ!!?」

「そ、そんなに危ない奴なの!!? ていうか、なんでそんなのがうちのクラスに居るのよ!!?」



カモの必死の訴えに、ようやく事の重大さが分かったネギと明日菜。


なのだが・・・




「・・・でも、昨日の感じじゃそんな風には見えなかったわね」

「・・・そう、ですね」



特に何かされたわけではないため、あまり実感がわかないようだ。見た目は完全に幼女以外の何物でもない訳だしね。





「一応、最低限の装備はしていくし、なんとかするよ」

「兄貴ぃ~・・・」

「私も行くわ、アンタだけじゃ不安だもの」

「だ、駄目ですよ! 危ない目にあうかもしれないのに、アスナさんを巻きこむなんて・・・」

「ガキが強がってんじゃないわよ。もっと年上を頼りなさい」

「アスナさん・・・」



正直言って少々不安だったネギにとって、明日菜の申し出はとても心強く感じた。



・・・と、その時、明日菜の携帯電話に着信が入る。発信先は―――――――



「・・・あ、木乃香からだ」



通話ボタンを押して、友人からの電話に応じる明日菜。



「もしもし、私だけど?」

《あ、アスナ? ネギ君もおる?》

「ネギ? 居るけど、なんで?」

《今なぁ、エヴァちゃん家におるんやけど、エヴァちゃんが待ちくたびれとるから、はよ来てって伝えてくれる?》

「ちょ、ちょっと木乃香!? 今何処に居るって!!?」

《せやからエヴァちゃん家やて。 あ、せっちゃんと総統もおるから、はよ来てな?》

「え、あ、ちょ!?」

《ほんなら、また後でな~♪    (プツン、ツー、ツー、ツー)》







「・・・・」

「どうしたんだよ姐さん?」

「木乃香さんがどうかしたんですか?」


「・・・・・・」

「アスナさん、顔が青いですよ?」




「・・・・・・木乃香、今エヴァンジェリンの家に居るって・・・」

「「・・・・え?」」



「・・・刹那さんとミサトも居るから、早く来てくれって・・・・・!」

「「・・・・・・・ええええええええ!!!?」」




先程の余裕から一転、場は混沌へと劇的にビフォーアフターした。





「ど、どどどどどどうすんのよ!!?」

「最悪だ!カタギの人間を人質にとりやがった!!」

「そ、そんな・・・!」



・・・どうにも情報が歪んで伝わってしまったようである。






「は、早く行かなきゃ!!」

「わ、私も行くわ!!」

「だ、駄目ですよ!! コレは僕の問題――――――」

「もうアンタだけの問題じゃないわよ!! 友達が人質に取られてんのよ!!?」

「そうだぜ兄貴! 姐さんは見どころあるし、絶対に助けになってくれるっすよ!!」


「で、でも、アスナさんが危険な目に・・・!」

「ガキがナマ言ってじゃないわよ!! 私は友達を!そしてアンタを!放っておけないの!!助けたいの!!悪い!!?」

「姐さん、逆ギレしてる場合じゃないっすよ!」



明日菜は必死に訴える。ネギの肩を掴み、顔を眼と鼻の先にまで近づけ眼と眼を合わせる。

その表情は真剣そのもの。瞳から友を助けたいという想いが、決意の焔が伝わって来る。


その訴えに、赤毛の少年は―――――――――――






「―――――わかりました! 僕からもお願いします、アスナさん! 僕に力を貸して下さい!!」

「あったり前よ!!」

「よっしゃ、急いで準備だ! 万全の態勢で臨むんだ!!」









―――――――――ソレは勘違いなんだよ、と教えてくれる者はココにはいなかった―――――――――


















――――――――――1時間後。



「・・・ここ、ですね」

「なんか、思ってたのと違うわね・・・、何、この素敵なログハウス・・・」

「見てくれに騙されちゃいけねえ、お菓子の家だって悪いばあさんが住んでたんだぜ」

「でもアレって、勝手に家を食べた2人も悪いと思うんだけど」

「細けえことはいいんスよ!」



・・・と、彼らの声を聞きつけたのか、ログハウスの玄関がギィッと開き、メイド服姿のガイノイド・茶々丸が現れた。

2人と1匹はすぐさま気を引き締め、茶々丸をガン見して臨戦態勢に入る。

だが茶々丸はそんな彼らの行動を気にも留めず、スッと身を引き、手で入室を促すジェスチャーをする。





「お待ちしておりました、ネギ先生、神楽坂明日菜さん、カモミールさん」

「あ、コレはどうもご丁寧に・・・」

「って違うでしょ! ちょっとアンタ、木乃香達は何処よ!?」

「皆さんはリビングでマスターと共にカ「行くわよネギ、カモ!!」

「ハ、ハイ!!」

「ガッテンでさあ!!」



茶々丸のセリフを遮り、エヴァ邸に突入する。全ては、友の無事のために――――――





 バタァンッッ!!




「木乃香さん!!」

「刹那さん、ミサト、無事――――――――――!!?」






――――――――――勇者たちが踏み込んだ魔王の根城の中では――――――――――



















「伏せカードを1枚セットし、ターンエンド。 クククッ、さあ、貴様のターンだ」

「くっ、俺のターン!!」




――――――――海里とエヴァが決闘デュエルしていた。










「「「・・・・・・・・・・あれ?」」」


「あ、アスナ達、やっと来たん?」

「随分遅かったですね?」



人質のハズの少女2人も勝負の行方を見守る観客と化していた。

ネギ達は、ただただボー然。「アンタら一体何してんの?」って、口にしなくてもわかるくらいのボー然だ。



「・・・・何してんの?」

「見ての通り、決闘デュエルやえ?」

「ま、まさか、コレが噂に聞く【闇のゲーム】ですか!?」

「いえ、普通の遊びですよ?」

「で、でも、モンスターが実体化してるわよ!?」

「アレは、マスターが暇つぶしのためにハカセに造らせた『ソリッドビジョンシステム』です」

「真祖の吸血鬼が何やってるんですか!!?」

「ネギ君、今いいトコやからちょお静かにな?」










〔現在の決闘デュエル状況〕


〈エヴァ〉LP3500

モンスター:ブラッド・ヴォルス(ATP1900)、怒れる類人猿バーサークゴリラ(ATP2000)
伏せカード:2枚
手札:3枚


〈ミサト〉LP350

モンスター:バードマン(DEF600)
伏せカード:1枚
手札:2枚


現状:ミサトのドローフェイズ






「クククッ・・・、場には雑魚モンスターと役立たずのハッタリ伏せカード、私のLPは貴様のちょうど10倍、風前の灯とはこの事だな」

「まだ終わっちゃいねえ、ドローッ!! ・・・ッ!!」

「む?」


「行くぜ! モンスター召喚、来い〈アメーバ〉!」

「攻撃力300、効果モンスターか・・・」


「更に手札から魔法カード〈死のマジック・ボックス〉を発動! 敵モンスター1体を破壊し、〈アメーバ〉を相手コントロール下に置く!」

「なるほど、〈アメーバ〉の効果でLPに2000のダメージ、更に〈バードマン〉で〈アメーバ〉を攻撃して1500のダメージ、か」

「合計3500のダメージ、俺の勝ちだ!!」


「だが甘い!! リバースカードオープン!〈マジック・ジャマー〉! 手札の〈ゴブリン突撃部隊〉を墓地に捨て、〈死のマジック・ボックス〉を無効化する!」

「うげえ!?」

「ふふん、さあどうする?」

「か、カードを1枚伏せて、ターンエンド・・・」


「私のターン、ドローッ! クックックッ・・・、貴様に絶望をくれてやる!! 〈ブラッド・ヴォルス〉と〈怒れる類人猿バーサークゴリラ〉を生贄に、〈青眼の白龍ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン〉召喚ッ!!」

「いいいいッ!!?」


「そんな・・・、〈ブラッド・ヴォルス〉で総統の〈アメーバ〉を攻撃すれば終わりのハズなのに・・・、鬼畜です!」

「流石はマスター、なんというオーバーキル」

「ソコにシビれる、あこがれるゥ、やね」


「黙れ外野!! 行くぞ、〈青眼の白龍ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン〉!!」

「と、トラップ発動、〈拷問車輪〉!」

「カウンタートラップ発動、〈盗賊の七つ道具〉! LPを1000支払い、〈拷問車輪〉を無効化する!」

「な、ななななあ!!?」

「コレで終わりだァ!! 〈青眼の白龍ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン〉の攻撃! 『滅びの爆裂疾風弾バーストストリーム』ッ!!!」







「・・・・攻撃宣言しましたね?」

「なに?」


「正直、ココまで上手くいくとは思いませんでしたよ・・・、伏せカード全部使ってくれてありがとうございます」

「ま、まさか、〈死のマジック・ボックス〉も〈拷問車輪〉も囮だったというのか!?」


「そのまさかだ!! リバースカードオープン! 〈魔法の筒マジック・シリンダー〉!!」

「そ、そんな馬鹿な!? アレはハッタリの伏せカードだったハズ!!」

「いつ俺がそんなこと言いました?」

「発動の機会は何度もあったハズ、何故今頃!?」


「勝負の切り札は最後まで取って置くものよッ!!ソレが、アナタの敗因ッ!!!」

「馬鹿な、ありえん!あぁりえんぞおぉ!?」



「『カウンターバーストストリーム』ッッ!!!」

「ぐああああああああああああああ!!!?」



エヴァ:LP 0

ミサト Win!!









「っっしゃあああ!!! 勝ったあああ!!!」

「ぬぐぐぐぐ・・・・!! もう1回、もう1回だ!!!」

「もう1回じゃないわよ!! いつまでやってんのよ!!?」



あれ、アスナ来てたのか。勝負に夢中になり過ぎて気付かなかったぜ。



「アンタ達がヤバいって聴いてすっごい心配したのに、何遊んでんのよ!!?」

「うるさいぞ怒れる類人猿バーサークゴリラ!! 後で召喚してやるからデッキに戻ってろ!!」

「誰がゴリラだコラァ!!」

「アスナさん落ち着いてください!!」

「そうだぜ姐さん、無事だったんだから良かったじゃねえっすか」

「ネギとエロガモは黙って・・・、ってカモ! 何普通に喋ってんのよ!?」

「へ?・・・・ああ!!」



・・・オマエら、ちょっとは落ちつけよ。

とりあえず、このオコジョに会うのは初めてだから挨拶しとくか。



「オマエがカモか、初めましてだな」

「だ、誰でい!?」

「一 海里だ、ソイツらから聞いてないのか?」

「そ、そんな! 木乃香の姐さんの幼馴染だって言うから、どんな美人の姐さんなのか楽しみにしてたのに!!」

「残念だったな、美人じゃなくて」



ミサトって中性的な名前だし、間違えんのも無理無いけどね。



「ちょ、ちょっとミサト! アンタなんで平然としてんの!? オコジョが喋ってんのよ!?」



ふむ、ではそろそろネタばらしと行きますかね。



「ほらよ」



ポケットから1枚のカードを取り出し、2人と1匹に見せる。コレ見せりゃ一発だろ。



「そ、ソレは【仮契約】カード!?」

「ど、どういうことよ!?」

「も、もしかして、ミサトさんは・・・!?」

「御推察の通り、魔法関係者だよ」

「ちなみに私とこのちゃんも関係者です」

「黙ってて勘忍な?」





――――――――げっ歯類と少年と、そして一際大きい少女の驚愕の雄叫びがログハウスに響き渡った。






















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





次回は【登校地獄】の解呪と闘いまっすぅ~。



『とうこうじごく』って変換すると『投稿地獄』って単語が出てきます、私に対する当て付けでしょうか?










[15173] 漆黒の翼 #23
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:deda448d
Date: 2010/05/21 22:21
未だ驚愕の余韻が残るアスナ他1名と1匹をどうにかクールダウンさせ、一旦ソファに座るよう促す俺ことミサト。

何か言いたげなソイツらの眼の前に、チャチャマルが淹れた紅茶と、俺の新作スイーツ『ピーチパイ』を差し出す。まずはソレ食って落ちつけって。


「(モグモグ)・・・あ、コレ美味しいです!」


うむ、好評のようでなによりじゃ。


「ちょっとネギ、ノンキに食べてる場合じゃ・・・(ハムハム)・・・、ホントだ、美味しい・・・」

「何普通に食ってんスか2人とも!? 毒でも入ってたら・・・(カリカリ)・・・、マジでウメぇ・・」


ピーチパイを美味しいと思う心に、人間ヒューマオコジョガジュマも無いのだよ。


ようやく客人達が落ち着いた所で話を切り出す。
俺達3人が魔法関係者であること、エヴァさんの呪いを解くのに協力していること、呪いを解くにはネギの力が必要であること、などを簡単に説明した。




「――――――と言う訳でネギ、イキナリで悪いけど、オマエにもエヴァさんの解呪に協力してもらいたい」

「ちょ、ちょっと待ってもらってもイイですか? なんか混乱しちゃって、何が何やら・・・」


ふむ、一気に新情報が増えすぎて処理が追いつかなかったとな? 大丈夫だ、オマエの頭はインテル入ってるハズだから。



「まさか、アンタ達まで魔法の世界の人だったなんて・・・、ずっと一緒に居たのに全然気付かなかったわ・・・」

「来日早々に気付かれたぼーやがマヌケなだけだ」

「はぅっ!?」

「エヴァちゃん、ネギ君イジメたらあかんて」

「知ったことか、私は“悪”なんだからな」

「ネギ、エヴァさんの分のパイも食っていいぞ」

「あ、コラ貴様!」

「聞き分けの無い人にはあげません」


幼女が抗議しているが、無視して話を進めることにする。



「本来、魔法を知った一般人は記憶を消去することになってんだけど、・・・アスナ、記憶消してもいい?」

「お断りよ」


だろうね。 この質問に躊躇なくYESと答える奴はどれ位いるんだろうか。



「そもそも、なんでバレたら記憶消さなきゃなんないのよ?」

「単純明快、危険だからだ」

「危険って、そんなオーバーな・・・」

「基本の技に【魔法の射手】ってのがあるんだけどな」

「そうなの、ネギ?」

「あ、ハイ、魔法学校で習う基本魔法です」

「ソレ1発で岩くらいなら簡単に砕けるぞ」

「え゛、マジ・・・?」


『魔法』なんてファンタジックな言葉使ってるけど、数ある“力”の内の1つであることに変わりは無い。俺の魔法なんて、ほとんど攻撃用だし。イイもワルイも使い手次第だ。



「要するに、危険に巻き込まないための措置でもある訳なのさ」

「アンタ達、そんな危険な世界に居るわけ・・・?」

「全部が全部危険な訳やあらへんよ」


俺らは結構危険な事してるけどね、闘ったり戦ったりタタカったり。



「とにかく、魔法を知るってことは、普通に生活する人よりも火の粉が降りかかる確率が格段に上がるってことなんだよ」

「できることなら、アスナさんには魔法を忘れて平穏に生きてもらいたいんですが・・・」

「余計に嫌よ」


なんでさ。




「私さ、アンタ達が人質になってるって聞いて、――――結局勘違いだったけどさ、すっごい心配したのよ?」


アスナがゆっくりと胸の内を独白する。



「私の大事な友達が、仲間が、親友が、危険な目にあってるって聞いて、心配で胸が張り裂けそうだったわ。

とにかく助けたかった、どんなことしてでも救いたかった、なんでもいいから私にできることがしたかった。」



色彩の違う双瞳を揺らしながら、言葉を紡いでいく。




「私はね、ネギやアンタ達の助けになりたいのよ。

火の粉がかかる? 上等じゃない、そんなモン振り払うわよ、水かぶってでも突っ込むわよ。


―――――何処かで友達が傷ついてるのに、何も知らずに、何も気付かずにのうのうと暮らすなんて、私には耐えられない、そんなの死んでもごめんだわ」




・・・こりゃ退きそうにねえ、か・・・。




「それに私はネギの従者だし、すでに関係者みたいなもんなのよ?」

「【仮契約】したのか!?」

「だ、だって、『装備は万全にした方がいい』ってカモが言うから・・・」




――――――――それからいくつか危険性についての話をしたが、アスナの意見が曲がる事は無く、議論の末、結局コチラ側に残留することになった。

・・・まぁ、麻帆良に居る限りは安全かな?











「話は終わったか?」


途中から傍観していたエヴァさんが、口の周りに食べクズを付けながら話を切り出す。

・・・・あんなにあったハズのピーチパイが無くなってる・・・。

・・・全部食ったのか、この人・・・。


「解呪について詳しく説明するから場所を移すぞ。 茶々丸、案内してやれ」


そう言って、ケプっと腹をさすりながら従者茶々丸に命令を下す。自分はそそくさと先に行ってしまった。

茶々丸は命じられた通りアスナとネギを別荘へ促し、コノカとセツナもソレに続く。



・・・ほんじゃ、俺も行くかね。







「・・・・・・解せねえな、アンタ、一体何企んでやがんでぃ?」


皆の後を追おうとする俺の背に問いかける1つの声、カモである。



「どういうことだ? “企む”なんて穏やかじゃねえな?」

「【闇の福音】は世紀を超えた大犯罪者だぜ? そんな奴をお上に無断で解き放つなんて、何考えてるか解ったもんじゃねえ」


オコジョなんて外見の割に、意外と思慮深いトコがあるんだなコイツ。



「オレっちには、そこまでしてエヴァンジェリンに協力する理由がわからねえ。 解呪することで、何か自分が得をすることでも無けりゃあ、な」


俺が得すること、ね・・・。



「大した理由はねえよ、単なる俺のワガママだ」

「わがまま?」

「閉じ込められて、翔びたくても翔べない鳥を、籠から出してやりたくなった・・・、そんだけだよ」

「奴は大罪人だぜ? そんな同情かけるような相手じゃねえだろ?」

「だから言ったろ、俺のワガママだって」


腑に落ちない顔で俺を見つめるカモ。納得できねえっスよ、という表情をしている。





・・・でも、そうだよな。 ホントなら、俺がココまでやる義理なんか無いんだよな。




―――――――でも、放っておけなかった。 どうして――――――――?





「・・・他人事とは思えなかったから、か・・・・・?」

「へ?」

「あ、いや、・・・・なんでもねえよ」



話を打ち切って、未だに疑問が残っている様子のカモを肩に乗せ、俺達も別荘へと進む。



「安心しろって、何も企んじゃいねえからさ。 会ったばっかの俺の言うことじゃ、信じらんねえかもしれないけど」


「・・・・今は、兄さんを信じることにするっス。 兄貴や姐さん達も、アンタを信頼してるみたいっスから」

「そうかい」


ま、信じたくなったら信じればいいさ。















―――――――――時と場所は変わって、ここはエヴァンジェリン’sリゾート。砂浜の見える場所でテーブルを囲んでいるところだ。

エヴァさんがネギ達に、呪いを掛けられた経緯、現状などを簡潔に説明していく。


説明を受けるごとに、ネギの顔は苦悶の表情へとシフトしていく。ソレというのも―――――――




「と、父さんが落とし穴で・・・、なんか、イメージが・・・」

「ホントにフザケタ奴だった・・・、アンチョコ見ながら呪文唱えるわ、魔法学校中退だとかほざくわ・・・」

「うぅ・・・、イメージがどんどん崩れていきますぅ・・・」



サウザンドマスターってのは随分と破天荒な人だったみたいだな。

ネギは父親に対して、かなり美化というか理想化というか、そんな感じのイメージを抱いてたみたいだからショックが大きいようだ。

なんとなく、スタンとカイルの関係に似ている気がする。気がするっていうか、そのまんまだよな。




「思い出すだけで腹立たしい・・・! ニカニカ笑いながら呪いなんぞ掛けおって・・・!」

「そしてエヴァさんはそんな笑顔に惚れてしまった、と」

「そう惚れて、ってななな何を言わせるキチャマッ!!?」


「噛んだな」
「顔赤いですよ?」
「エヴァちゃん、かわえーなー♪」

「やかましいわッ!!」



怒り心頭なエヴァさんだが、頬を朱に染めテーブルをバシバシ叩くソレは微笑ましい光景以外の何物でもなかった。


アスナ達の眼もなんだか暖かいものになってきた所で、金髪少女は咳払いして話を戻しにかかる。



「と、とにかくだ! アヤツが来ない以上、血縁者である貴様に責任を取って貰うぞ!」

「ハ、ハイ! がんばります!!」

「というわけで、ぼーや、血を寄こせ、ありったけ」

「ええええ!!?」

「ダメだってのに」

「フンッ」


文字通り血の気の多い幼女にチョップをかまして静止させようとしたが、障壁に阻まれた。



「まあ、血が欲しいのは確かなんだ、もちろん全部じゃないけど」

「兄さんは具体的にどんな方法で解呪するつもりなんでぃ?」

「俺の解呪魔法とネギの血の力で、内と外から同時に攻めてみようと思う」


解呪魔法のパワー不足を別方向から補おうという算段だ。



「解呪魔法・・・、・・・ということは、父さんの懸けた呪いを解析できたってことですか!?」

「いや、俺のはちょっと特殊でな、あらゆる状態異常を問答無用で解いちまうんだ」

「す、すごい! 僕、そんな魔法聞いたこと無いですよ!!」

「それはそうだ、コヤツ独自の新術なのだからな」

「えええ!!?」

「ネギ、アンタさっきからウルサイわよ、叫びすぎよ」


ネギの隣に座るアスナが両手で耳をふさいで抗議している。



「だ、だってアスナさん、新術を開発するって云うのは物凄いことなんですよ!?」

「知らないわよ、今はそれよりエヴァちゃんの呪いの話が先なんでしょ?」

「その通りだバカレッド、バカのくせにイイこと言ったな、バカのくせに」

「2回も言うな! ていうか誰がバカレッドよ!!」

「どうどう」

「馬かッ!!」


荒ぶる名馬オジコンツインオッドを如何にか諌め、話を戻す。



「だけど呪いが強固過ぎて弾かれちまうんだよ。 流石はサウザンドマスターが力任せに掛けただけはあるって感じだ」

「ネギ君のお父さんスゴイなぁ」

「さすが父さんです!」

「黙れ小僧」

「ごめんなさい・・・」


ねぎ は ちょうしにのった。
ねぎ は ようじょ に おこられた。



「ですから、少量のネギ先生の血で内側から崩して、その隙に総統の魔法で外から打ち砕くという作戦なのですが・・・」

「上手くいくんスか、ソレ?」

「確実、とは言えないな。 だから手っ取り早く血を全部頂いた方が・・・」

「だからダメだっつの」

「フンッ」


チョップ、しかし防がれる。障壁張らないでくださいよ。


と、ネギがおずおずと手をあげて何か言おうとしている。



「あの、質問してイイですか?」


なんだいネギ君、なんでも訊きたまえ。



「解呪魔法は、パワー不足だったから効かなかったんですよね?」


うむ、その通りだ。 問題は呪いの方が強かったということだ。



「ミサトさんは【仮契約】してますよね?」

「あ、そういえばさっきカード持ってたけど・・・、てことは・・・・」


なにやらアスナの顔が朱に染まっていくのが見える。何をそんなに・・・・、・・・ああ、そう云うことか。



「どんな相手とブチューっとかましたんスか?」


なんかカモが興奮してんだけど。ムハーっとか言ってるんだけど。ちょっちウザいんだけど。



「そこに居るコノカと」

「いやん♪」


両手を頬に添えて体をくねらすコノカ嬢、面白がってんなコイツ。

カモはヒューヒューと冷やかし、ネギは「はわー・・・」と呆け、そしてアスナは眼を見開き、顔面が灼熱のバーンストライクと化しながら口をパクパクさせて俺らを凝視している。



「契約したのは随分前だぞ、もっとガキの頃だ」

「え? ああ、そういうことね、あービックリした・・・」

「ちなみにセツナもコノカと契約してるぞ」

「おおっ、禁断の愛ッスね!?」

「違います!! 私はノーマルです!! 男性が好きなんです!!!」

「・・・セツナ、大声で男好きと公言するのはどうかと思うぞ?」

「ち、違います総統!! そう云う意味じゃないんです!!」



「あ、あのぉ、話を戻してもイイですか?」


あ、ネギの質問の途中だったんだっけ、ごめんごめん。




「じゃあ、魔力供給してもダメだったんですか?」

「ネギ、魔力供給って何よ?」

「姐さん、さっき教えたじゃないっすか、【仮契約】の効果の1つっすよ」

「ああ、従者を強くしてくれるっていうアレ?」








・・・・魔力供給、だと?




「どうしたのよミサト、変な顔して?」




目線をエヴァさんの方に移して表情を確認する。



・・・俺と同じ顔してた。





そして、同時に口を開く―――――――――――――







「「・・・・そ―――――」」


「「「「「そ?」」」」」









「「―――――――――その手があったか!!?」」




全員、その場で盛大にすっ転んだ。





「試してなかったのかよ!? 【仮契約】の1番基本的な機能じゃねえか!!」

「い、いや、【仮契約】してから1回も魔力供給したこと無かったから、すっかり忘れてて・・・」


俺もセツナも氣で身体強化して闘うから、魔力供給されると反発するからやらない方がいいって詠春さんが言ってたんだもんよ。



「コヤツの解呪魔法にばかり気を取られ、西洋魔術との関連性を完全に失念していた・・・・・、クッ、私としたことが・・・!」


エヴァさんも悔しげに言葉を吐く。



「600年も生きてるからボケてきちゃったんじゃないの?」

「誰がボケ老人だッ! くびり殺すぞバカレッド!!」

「またバカって言ったわね!? なによ、このボケゴールド!!」

「ボケゴッ!?」

「あ、おばあちゃんだからゴールドじゃなくてシルバーかしら?」

「こ、この小娘がぁ・・・!!」

「落ち着いてください、ボ・・・マスター」

「茶々丸、今『ボ』って言ったな?『ボケ』って言いかけたな!?」

「あぁ、いけませんマスター・・・・」


あ、ねじ巻かれて悶えてる。



「姐さん達は気づかなかったのかよ?」

「基本的に私達2人は、解呪自体についてはノータッチでしたので・・・」

「総統に任せっきりやったからなぁ」



しかし、魔力供給とは盲点だった。本来は身体能力向上のためのモノだが、上手く転用すれば俺の魔法にブーストを掛けられるかもしれない。

コノカの史上最大量を誇る魔力があれば、・・・ひょっとしてイケるんでない?




「早速試してみよう! コノカ、頼む!」

「りょーかい! ・・・・・えっと、どうするんやったっけ?」

「木乃香姐さん、魔力供給ってのは・・・」



カモからレクチャーを受け、供給の呪文を覚えるコノカ。何度か口の中でブツブツと反芻し、確認する。そして、マスターカードを取り出して気合いを入れて構える。

準備が整った所で、俺もポケットからカードを出してアーティファクトを顕現させる。右手でホーリークロスを握りしめる。



「その杖がミサトさんのアーティファクトなんですか?」

「正確には、アーティファクトの1つ、だな」



ここで1つ補足しよう。
今、俺は魔法を使うために杖を顕現させたが、別に杖じゃなくても魔法は使える。このアーティファクト自体が発動体として機能しているのだ。

でも杖の方が威力も上がるし、「魔法使うぞ!」って感じに気合入るからこうしているのだ。



んじゃ、無駄話もこれくらいにして・・・






「よし、コノカ、頼む!」

「いくえ!

 【契約執行30秒間、木乃香の従者〈一海里〉】!!



―――――――瞬間、俺の中に大量の魔力が流れ込んできた。


供給された感想としては、体が熱くなって漲るっていうか、そんな感じ。

もしかすると、コレは【オーバーリミッツ】に近い状態なのかもしれないな。

両手をニギニギして感触を確かめてみる・・・、うん、確かに力が上がった感じはするけど、氣のような慣れた感じじゃない、何となく違和感がある。コレが反発って奴か?



・・・っと、いけない、ボケッとしてる場合じゃないんだった。

両の手で杖を握りしめ、全身に流れる魔力を1点に集中するイメージで・・・・


筋肉、神経、その他あらゆる部分を駆け巡る魔力をコントロールし、流れの方向を集約させる。 結構難しいな・・・。

魔力の流れが変化し、心臓に向かって集まって行くような感覚に陥る。

なんだかいつもより格段に練り上げるスピードが早い。それに、集められた魔力も多い。



ちょっと試しに1発、海に向かって―――――――――鋭く、速く!



【フリーズランサー】!!



無数の氷刃が水平線目掛けて放たれる。


―――――――間違いない、氷の槍はいつもより格段に多い量、格段に速いスピードで駆けている。



ならば今度は大技、現在練習中の強力な奴に挑戦する。

心臓に渦巻く魔力を、すべて杖に注ぎ込む。

呼び起こすのは豪炎、すべてを焼き尽くす灼熱の意思。




―――――――古より伝わりし浄化の炎、落ちよ!!


【エンシェントノヴァ】!!



虚空から現れる灼熱の業火。
強大な炎が、穏やかに凪ぐアクアブルーに叩きつけられる。
直撃した海面は巨大な水柱を立て蒸発し、浄化の焔が瞬間的に海水を焼き尽くすが如く浸食、広大な海原に穴を開けるというトンでも現象が発生した。

すぐに周囲の海水が流れ込んで元通りになったけど。



・・・・コレ、上手く使えば秘奥義が出せそうな気がするな!



と、契約執行の時間が過ぎ、コノカからの供給がストップされ、俺の身体は通常の状態へと戻った。




「どうだ、ミサト?」


エヴァさんが魔力供給利用時の感想を求めてくる。 なので、感じたままを伝える。



「威力が格段に上がってますね。 上級魔法を使うのもあまり苦にならないし、上手く利用すれば秘奥義も放てそうな気がします」

「おお!」


ただ、戦闘中にコレができるかって言われると微妙だ。
やってみてわかったけど、魔力流をコントロールするには、かなりの集中力を要する。 

使えるとすれば余裕がある時、もしくは距離を取っての決め時くらいか。使いどころが難しそうだな。





・・・・ん、どしたアスナ、そんな鳩がバズーカ喰らったような顔して。



「な、なに今の!? 氷がたくさんドドドドって!? でっかい火がドカーンで!? そんで水がザバーンで!!?」

「とても中学3年生の言語表現とは思えんな」

「う、うっさいわね、これくらいが普通よ!!」


素人には刺激が強かったか。【ゴルドカッツ】辺りにしとけばよかったかな?



「よし、ソレで解呪してみろ!」

「コノカ、もっぺん頼むわ。 今度は少し短めでいいから」

「ハイハーイ♪

【契約執行15秒間、木乃香の従者〈一海里〉】!!



再び似非【オーバーリミッツ】モード。

先程と同様に、眼を閉じ、全身の流れを1か所に送り込むように集中する。


・・・そして練り上がると同時に眼を開き、杖を介して解き放つ!




――――――卑しき闇よ、退け!


【リカバー】!!



放たれた聖なる意思が、強固で巨大な呪縛の意思とぶつかり合い、火花を散らす。

今までにない手応えが、杖から伝わって来る。有無を言わさず弾かれていた呪文が、僅かながら壁にめり込むような感触だ。


呪縛の鎖と解呪の祈りがせめぎ合い、そして―――――――――








 バチイイイイイイイイイッッ!!!!






―――――――――壮絶な電流音と共に、俺の身体は後方へと吹っ飛ばされた。





「ごっふぇッ!?」


・・・そして、後頭部にチャチャマルのカッチカチの膝が直撃した。



「こ、この手ごたえ、コレは使える!

・・・・む、おいコラ、いつまで寝っ転がっている気だ、さっさと起きろ! まだ終わっとらんぞ!!」


「・・・~~☆・・・(ピヨリピヨピヨ)」


「・・・アカン、気絶しとる」

「後頭部しこたま打ちつけてましたからねぇ・・・」

「何をやっとるかマヌケがッ!」


その言いぐさはあんまりだと思う、と言いたかったが、気絶してたので何も言えなかった。





その後、5分で気絶から目覚めた俺は、早速今後の方針をエヴァさんと話し合った。


「致死量限界まで血を飲んで、供給を受けながら解呪すればどうですか?」

「かなりイイ線行くと思うが・・・、あと1つ決め手に欠けるな」

「なんか恐ろしい事をサラッと話してる!? 致死量限界は流石に嫌ですよ!?」

「そう思うなら、ぼーやももっとアイディアを出せ」



そう言われて頭を捻るネギだったが、いくら天才といえど、そうホイホイ考え付く訳も無く、どうすればいいんだろうと悩んでいると―――――――



「1人でダメなら、2人から供給すればいいんじゃない?」


今度はアスナがアイディアを出した。



「姐さん、ソイツはちょいと無茶な相談ですぜ」


だが、カモが待ったを掛けた。



「従者が2人の主と契約するってことは、例えるなら部活を掛け持ちするようなモンなんスよ。 魔力供給は、部活の練習時間だと思ってくれりゃあいい」

「えっと・・・、つまり、同時に2つの練習には出られない?」

「そう云うことっス」

「頑張れば絵を描きながら走り込みとかできそうじゃない?」

「スッゲェ器用っスね、その人」



あまり参考にならないなと俺は思ったが、エヴァさんは何やら思案しているようだ。




「・・・よし、その案採用してやる。 泣いて喜べ、バカレッド」

「どう致しまして、ボケゴールド」

「え、でも今、カモ君が無理だって・・・」

「無理なのではなく、それだけ供給を受ける者への負担が計り知れないというだけの話だ。
実行する者がいないだけであって、やろうと思えばできなくはないだろう」



・・・ちょっと待ってくれ。その流れだと、俺にその計り知れない負担がかかるってことだよな? 俺の体への配慮はどうなってんの?



「耐えろ」


いや、耐えろって・・・。



「貴様ならイケる、だから耐えろ、以上だ」


一目置いてくれんのは嬉しいけど、時と場合によるよ・・・。




「・・・ん? でもそーなると、総統はウチ以外の誰かと【仮契約】するってこと?」

「じゃあ、是非兄貴と! 男ってのが頂けねえが、兄さんが従者になれば兄貴は安泰、オレっちの懐も・・・、ウッヒッヒッヒッ・・・!」

「断固拒否だ! 何が哀しくて男とキスせにゃならんのだッ!」



何考えてんだよ、まったく・・・。






「仕方がない、私が契約してやろう」





・・・・・・・・・・へ?



「・・・エヴァさん、今なんと?」

「だから、貴様を私の従者にしてやるというのだ。 光栄に思うがいい、最強の魔法使いの従者なんてそうそうなれる者じゃないぞ?」


どうだ嬉しいだろ、と言わんばかりにエヴァさんが近づいてくる。

そして俺は後ずさり。



「ちょ、ちょっと待って下さい? エヴァさん、そんな簡単に決めていいんスか? 【仮契約】ですよ?」

「別に唇の1つや2つくれてやった所で何の差し支えも無い。その程度で便利・・・、いや、面白・・・、いや、それなりの従者が手に入って、尚且つ呪いも解けるなら十分だろう」

「今『便利』とか『面白い』とかいう言葉が出ませんでしたか? しかも言い直しても『それなり』止まりですか?」

「いいから黙って契約しろ」


エヴァさんの細く華奢な腕がフッと振られたかと思うと、俺の四肢が突如空中に張り付けられたように身動きが取れなくなった。

この人、俺が逃げる前に糸で動きを封じ込めやがったよ!



「ちょ、ダメですって! こういうのは軽はずみにやっていい事じゃねえっスよ!」

「別に焦ることも無いだろう、初めてじゃあるまいし」

「そう云う問題じゃねえッス!」


コイツらの前でそんなことできるかってんだよ!

誰か、誰か俺を救ってくれ! 貞操のピンチだ!



「契約魔方陣、描き終わりやしたッ!!」

「ふむ、御苦労だな小動物」


カモ、テメェ!? 完全に仲介料目当てだなコノヤロウ!! 欲望に忠実すぎるぞ!!



「なんで僕に目隠しするんですか、アスナさん?」

「ガキが見るにはまだ早いわ」


アスナ、子供へ配慮するなら俺にも配慮してくれ!!


コノカ、助けて!




「総統、ガンバってや♪」


何を!!?



「待って待って! 幼女に唇奪われるのは嫌ですよ!」


とにかくエヴァさんを怒らせてでも止めさせようと、軽く暴言を吐く。

案の定、エヴァさんの額には無数の青筋が浮かび上がってきた。 やっべ、超怒ってる・・・。


・・・しかし、ふと何かを思いついたような顔をしたと思ったら、青筋を沈め、代わりに妖艶な笑みを浮かべた。



「この姿が気に入らんのか? ならば・・・・」


その言葉と共にパチンッと指を鳴らしたかと思うと、小さな体が一瞬煙に包まれ、エヴァさんの姿が見えなくなる。

煙が晴れたそこには―――――――――――



「コレなら文句はあるまい?」



―――――――――艶やかな金色のロングヘアーを潮風に揺らした、絶世の美女が姿を現した。


・・・・ドチラサマ?



「・・・・茶々丸さん、あれ誰?」

「あれはマスターが威厳を出すために使用していた幻術魔法です。 マスターが成長した姿を想定して構成されています」


俺の疑問を代弁してくれたアスナに回答するチャチャマル。

幼女から美女へジョブチェンジしたエヴァさんは、身動きの取れない俺の顎を人差し指でクイッと持ち上げて顔を覗きこむ。
その際、成長した2つの巨大な丘が、たわんっと揺れるのが俺の視界に入った。でけえ。



「容姿に関する問題は解決したな?」

「あ、ハイ、そっスね、すっげぇスタイルで・・・って違う違う! そうじゃな――――――――――――――ハッッ!?」




な、なんか冷たい視線が背中を刺してるような・・・?


錆びついたブリキ人形のように首を回して、後ろを振り返ると・・・・






「・・・・・・(ジト~)」



・・・・セツナが半眼になってコッチを見ていた。




「あ、あの、セツナ・・・?」

「・・・総統・・・」



お、怒ってらっしゃる・・・。 一瞬鼻の下伸ばしたのがいけなかったのか・・・?





「・・・・好きにすればいいんじゃないですか? (プイッ)」



見捨てられた!!!?





「満場一致だな」

「俺の反対票がまだ残ムグゥッ――――――――――!?」






――――――――見た目は美女・ホントは幼女・中身は超熟女、というなんだかよくわからない女性に、俺の唇は奪われた――――――――











◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



次回、「【登校地獄】解呪編」、決着!?








[15173] 漆黒の翼 #24
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:deda448d
Date: 2010/04/05 01:41



「どうぞ、マスターカードっス」

「うむ」

契約は滞りなく済んだ。俺のメンタル以外は何の問題も無かった。


「・・・・・・・・」

向こう側でカードの受け渡しが行われる中、俺は砂浜のド真ん中で灰になっていた。

・・・・なんていうか、めちゃめちゃディープだった・・・、生命力やその他諸々をすべて奪われた・・・。
母上様、アンタの息子は汚されちまったよ・・・。


そんな感じに体育座りで虚ろになっている俺のもとへ、砂をサクサクさせながら近づいてくる影が1つ。


「・・・・」


影の正体はセツナ、無言の怒りが怖い。
・・・コレってやっぱり俺が悪いのかなぁ・・・。


「・・・なぁ、その、セツナ?」

「・・・・」


声を掛けてみるが、反応なし。


「アレは、その・・・、不可抗力であったワケで・・・」

「・・・・」

「だから、その・・・」

「・・・・」


・・・ダメだ、取り繕うとすればするほど言い訳がましくなってしまう・・・。


「・・・・俺が悪かった」

「まったくですよ」


やっと反応してくれた。してくれたけど、眉間にはシワが寄ったまま、眼もジト眼のままだ。
・・・そんな目で俺を見ないでくれ、オマエにやられると際限無く落ち込んでしまう。


「・・・そんなに大きな胸がイイんですか?」

「へ?」

「ちょっと胸で誘惑されたくらいでニヤついて・・・、揺れるのがそんなに好きなんですか、たゆんたゆんがそんなに偉いんですか?」


・・・怒りの矛先はそこか。いつもは「剣を振るにはこれくらいで充分」的なこと言ってるけど、気にしてたのね。
言ってた、といっても直に聞いたわけじゃない。コノカがそう言ってたんだよ。


「挙句にキスまで許して、ホントにまったく・・・」

「オマエも見捨てたじゃねえかよ」

「あ、あれは、その・・・、なんか悔しかったというか・・・」


だからって見捨てないでくれよ、あの時の絶望感たら無かったぞ。
開き直るみたいでアレだけど、多少目が行くのは勘弁してくれよ。


「多少じゃないですよ、ガン見でしたよ」


・・・俺は自分で思っているより男の部分が強いのかもしれない。


「まあまあせっちゃん、総統も男やし仕方あらへんて」


そんな俺とセツナが問答している場に、コノカがニコニコしながら現れた。肩にはニヤニヤしたカモも乗せている。なんかムカツク。
それにしても、この娘は全然動じないのな、器がでかいって言うかなんというか。


「刹那の姐さん、怒っちゃいけねえよ。 ソコに山があれば、男はそのロマンに惹かれるモンなんですぜ」


・・・弁明してくれんのはありがたいんだけど、俺のイメージがどんどんエロい方向に傾いていってる気がするのは、俺の考え過ぎかな?


「エロいのは男の罪、ソレを許さねえのが女の罪ってもんでさぁ。 男に罪を問う前に、まずは己の罪と向き合うのが先決ってモンだぜ」

「己の、罪・・・」


何か急に深そうなこと言いだしたよこのイタチってば。何処で得た知識だソレは。

カモのよくわからんあやふやな感じが場に伝染し、セツナもいつの間にか怒りなど忘れてしまったようだ。なんか女について真剣に考え出してしまっている。
俺が言うのもアレだけど、あまり深く考えることじゃないと思うぞ。タダの男目線の言い訳だし。


「まあアレや、要するに、だらしない総統を諌めて補うことがウチらの仕事やっちゅうことや」

「あ、なるほど、納得しました」


合点がいったようで、ようやくセツナに笑みが戻る。
・・・今のでわかったのかよ、俺がだらしないことは確定なのか?
なにはともあれ、機嫌が直ってよかった。カモのアホみたいな言い分のおかげで難所を乗り切れた、感謝するぜ。


「兄さん、コレで貸し1ってことで」


・・・ちゃっかりしてやがる。





「痴話ゲンカは終わったか?」


カモからカードを受け取ったエヴァさんが他のメンバーを引き連れやってきた。原因のアンタが何を言うか。
その声で本題を思い出したのか、カモが新たに発生したコピーカードを俺に手渡してきた。

どれどれっと・・・・・・ん?


「俺の持ってんのと絵柄が違うぞ?」

「きっと別扱いなんだな、今までとは別個のアーティファクトが出てくるハズっスよ」


マジでか、思わぬ収穫じゃないか。一体どんなのが出てくるやら、楽しみでもあり恐ろしくもあり。
コイツもテイルズ関連のアイテムなんだろうか?


「出してみたらええんやない?」

「そだな」


ぞろぞろとやって来た他の連中の前でカードを掲げ、【来たれ】の呪文を唱える。
カードが独特の光を放った後、そこの現れたのは――――――――――


「・・・・布、ですか?」


手のひらに乗る1枚の布。コレが新しいアーティファクトか?


「布っていうか、ハチマキじゃない?」

「いや、ハチマキっていうより、コレは・・・」


・・・バンダナ、だな。
なんだコレ、コレ付けてYOKOSIMAになれってか?付ければ文珠を生成できるとか?
どんなチートアイテムだソレは。

全体の確認のために裏返して見ると、そこには見事な達筆でこう書かれていた。



『必勝』



――――――――ああ、わかった!! これアレだ、マリーのバンダナだ!!


「テスト勉強に効くアーティファクトなんかなぁ?」

「とりあえず巻いてみたらどうですか?」


セツナに促され、早速キュッと巻いてみる。・・・・おおう、コレは・・・!

「どうでぃ、兄さん?」

カモが俺の肩に移り、巻いた感想を求める。


「とても気が引き締まった」

よって簡潔に答える。


「・・・え、そんだけっスか?」

そんだけとは何事だ、モチベーションは大事だぞ。俺の秘奥義にとっては特に重要だ。


「あと、攻撃力が少しばかり上がったぞ」

「気分の問題でしょ? ほらアレよ、『皮下脂肪効果』ってヤツ?」

「・・・姐さん、ひょっとして『プラシーボ効果』って言いてえのか?」

オコジョに訂正されてかなり屈辱だったのだろう、ツインテールがしょげてしまった。難しい言葉を使おうとするからそうなるんだ。
それにコレは催眠術だとか思い込みだとかそんなチャチなモンじゃ断じてねえ、コレはそういうモノなんだ。

しかしこれでは効果が判り難い、どうすればこのバンダナの凄さがわかって貰えるのかな?

俺はそうやって考えに“集中” する―――――――――





 ―――――キイイイイイイインン―――――





どうすればわかる・・・?

どう伝えればいい・・・?

考える・・・・、深く・・・長く・・・静かに・・・。



「・・・う・・・・・・そ・・と・・・!」



アレして・・・コレして・・・ソレがアレでコレになって・・・。



「―――――――――聴いているんですか総統ッ!!」

「え?」


セツナが俺の肩を掴んでガクガク揺さぶっているのを感じて、そこで初めて自分が思考に没頭していることに気が付く。
いつの間にか、俺は思考の奥底に入りこんでしまっていたようだ。
俺は一体どうしたってんだ? ココまで周りの音を遮断するほど考え込んだつもりは無かったんだけど・・・。


「どうしたん? 考え事した思おたら、全然反応せえへんようになったえ?」

「なんか、ものっスゴイ“集中”してたわね」


“集中”・・・・? ・・・あ、もしかして・・・。


「なぁ、バンダナになんか変化あるか?」

「え、特に何も・・・・あ、バンダナの文字が変わってますよ!」

マジでかと問い返すと、コノカが手鏡を渡してくれたので確認することに。
鏡文字になって読みにくくはあるが、確かに『覚醒』の文字に切り替わっているバンダナが俺の額に巻かれていた。


「ホント、『必勝』じゃなくて・・・・えと、さ、さめ、にし、ほし・・・?」

「アスナ、『かくせい』って読むんやえ」


どうやら『必勝』だけではなく、念じればちゃんと他の文字にも変わるようだ。

確か『覚醒』のバンダナの効果は<集中力アップ>だったハズ。それなら今の俺の集中力にも頷ける。コレがこのアーティファクトの力か。


あ、『覚醒』にはもう1つ効果があったよな、たしか・・・。


「・・・ネギ、相手を眠らせる魔法って使えるか?」

「【眠りの霧】なら使えますけど?」

ならちょうどいい、実験にはもってこいの人材だ。


「ちょっと俺に掛けてくれ」

「え? いいんですか?」

「いいからいいから」

少々戸惑いながらも、ネギは普段から持ち歩いている杖を手に取り、朗々と調べを奏でる。


大気よ 水よ 白霧となれ この者に一時の安息を 【眠りの霧】!


唱え終えたと同時に、俺の身体を包むかのように白い霧が発生する。たっぷり時間を掛けて霧が充満し――――――――


「おはようございました」


――――――霧が晴れると、そこにはバッチリ起きてる俺の姿が。どう見ても効いていません、本当にありがとうござました。

ネギは俺と杖に交互に視線を向け、首を捻った。「あれれ~~?」って感じに。


「失敗したの?」

「いえ、成功したハズなんですけど・・・」


その通り、ネギの放った【眠りの霧】は確かに効果を持って発動した。


その証拠に、俺の肩に乗ってたカモが霧に巻き込まれてグースカ眠りこけている。 魔法はちゃんと発動していたという動かぬ証だ。
俺が霧を吸っても意識を保っていられたのは、この『覚醒』のバンダナの効果<睡眠防止>のおかげである。原作通りの効果だな。


「ほぅ、文字によって効果が違うようだな」

「いろいろ使えそうですね」


だけど、コレがゲームに出てきた物と全く同じ物であるとは限らない、なら俺の知らない効果も期待できるかもしれないな。
いろいろ試してみる価値はありそうだな。


「私が発する特定のキーワードに応じて頭を絞めつける機能などあれば最高だな」


あってたまるか、そんな西遊記みたいな機能。
しかし、いいモン手に入れたな、結構便利そうなアーティファクトで良かったよ。




―――――――その後、一旦バンダナを外し、眠りに落ちたカモの野郎を【死者の目覚め】で文字通り叩き起こし、同時供給の試運転を行うことに。

・・・よし、コノカ頼む!


【契約執行15秒間、木乃香の従者〈一海里〉】!!


また再び供給が開始される。なんかこの感覚にも慣れてきたな。


「とりあえず、軽くいくぞ?」

そして、本人曰く“軽め”の供給がエヴァさんから始まろうとしている。
気合い入れていかねば、何が起こるかわかりゃしない。


【契約執行10秒間、エヴァンジェリンの従者〈一海里〉】!!


決まり文句の呪文が唱えられ、供給が開始される――――――――――



「――――――――ッ!!!!??」


――――――――供給を受けた瞬間、全身が警告を発した。

次から次へと溢れ出る魔力、その豪流は先行していたコノカの魔力と合流し、俺の中で荒れ狂う。

同時に、内から込み上げてくる熱いナニカを確かに感じとった。

抑えきれないほどの、滾るナニカが暴れまわる。

ココから出せと訴えかける。


――――――イイだろう、望み通り、そこから出してやろうじゃないか。

熱いナニカは、歓喜の雄叫びをあげながら光の漏れる出口へと駆け上がり、そして――――――――






オ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛!!!!


――――――その場に膝をついて、盛大にリバースした。


「ちょ、総統大丈夫ですか!?」
「ちょっと大丈夫!? どうしちゃったのよイキナリ?」

すぐにコノカとセツナが駆け寄って背中をさすってくれた。アスナ達も心配して来てくれた、しのびねえな。


「ビーチを汚すなバカモノ」

・・・エヴァさん、そりゃねえっスよ。


だけど、このかつてない程の吐き気はなんなんだ・・・。
まるで樽いっぱいの徳用マヨネーズを胃にブチ込まれた直後にヘビー級のボディーブローを連打されたような気分だよ・・・。
こりゃ一体どういうこと・・・・うぷっ・・・。


「たぶんスけど・・・、供給過多による魔力酔いだと思いまさぁ」

カモがそんな俺の疑問に答えてくれた。
キャパシティを大幅に超えた量をぶち込まれたことによる弊害、ということらしい。とんだ副作用だよ。

チャチャマルが気を利かせて水を持って来てくれたので、ありがたく受け取ろうと立ち上がろうとする、だが・・・


「――――いぎぃッ!!?」

両足に筋肉痛を二階級特進させたような、鈍く、ソレでいて鋭い痛みが走った。
鋭いのか鈍いのかハッキリしてほしい。痛いことには変わりないけど。
そんなことより、な、なにこれ、どうなってあ痛づづづッ!?


「身体強化が強すぎて、肉体の方がついていけなかったみたいっスね」

「私達は真祖の吸血鬼と歴代最大の魔力タンクを持つ者だからな、その強大な魔力を一気に注ぎ込まれたのだ、負担は並ではなかろう」


は、半妖の身体を、持って、しても、耐えられない、とは、お、恐るべし、だ・・・。
ま、まさか、こんなに負担が掛かるとは・・・。キツイわコレ・・・、それにまだ魔力が渦巻いてう感じがする・・・。


「ミサト、もうやめた方がいいんじゃない?」

「そうですよ、軽くやってコレですよ? 本気でやったらどうなるか・・・」


アスナとネギが俺の身を案じて声を掛けてくる。心配してくれるのは正直かなり嬉しい。




でも・・・


「・・・いや、続行しよう」

「兄さん、正気かよ?」


まだ試してすらいないんだ、ココで終わりじゃ消化不良もいいとこだ、わざわざ【仮契約】までした意味が無くなっちまうよ。


「私達は総統の指示に従います、けど・・・」
「無理せんどいてな?」

わーってますとも、心配しなさんなって。


「ちょっと2人とも、止めなくていいの?」

「言って止めるような人じゃないですから」
「ウチらは信じて待つだけや」

幼馴染達は言わなくてもわかってるみたいだな、ありがてえこった。
・・・しかし、この副作用は問題だな。どうにかして乗り越える方法は無いか?


「さっきのバンダナでなんとかならねえっスかね?」

カモ、ナイスなアイディアをありがとう。たしかに、あのバンダナがあれば多少はマシになるかもしんないしな。


「よし、ついでだから貴様を吸血鬼化するぞ」


ドサクサにまぎれて何言ってんだ、この幼女は。
・・・そんなに俺を従順にさせて何するつもりよ、このケダモノ!


「誰がそんな気色悪いこと考えるかッ! 吸血鬼化すれば耐久力も上がるハズだから多少はマシになるのではないかと言っているんだ!」


あ、なるほど、そう云うことですか。なーんだ、それならそうと早く言ってくれればいいのにぃ。
あ、終わったらちゃんと戻してくださいね?

腕を差し出し、そこにエヴァさんが牙を立てる。もう何度も経験したチクリという痛みと共に、血液がジュルジュルと吸われていく。
同時に、俺の中で何かがドクンッと音を立てて目覚めていくのを感じた。いつもは吸血鬼化防止の薬を処方してからの採血だから、初めての感覚だ。

ある程度血を吸われたところで、噛みついている幼女を強制的に引き剥がす。
なんか不満げな顔をしているけど、今は我慢してほしい。俺が貧血になってしまってはどうしようもない。

指先を口元に持っていくと、今まで無かった立派な牙が生えているのが確認できた。
ヒトであり、トリであり、ヴァンパイアでもある、欲張り生物の誕生だ。


「少し物足りないが、まあいい。 やはり薬無しの生の血はイイな」

「そんなに違うモンなんですか?」

「気分の問題だ。 やるならやはり生だ」

「女の子が生でヤるとか言うモンじゃありません!」

「何の話をしているかッ!?」


怒られちった。どうもさっきからエロに敏感なってるようだ、自重しないと。


気を引き締めるべく『必勝』バンダナを額に締め、全ての準備が整った。
――――――――いよいよ作戦開始、『プロジェクトEVA』だ!


「ぼーや、腕を出せ」

「ハ、ハイ!」

まずは第1段階、ネギの血を摂取して【登校地獄】を軟化させる。


「カプッ・・・・ジュル・・・ジュル・・・ジュルル・・・・・」

「あ、あぅぅ・・・」

ネギの喘ぎ声に少女達が顔を赤らめているが、まあ問題ないだろう。


「マスター、そろそろ限界値です」

「む」

名残惜しそうに口を腕から離す。ネギが多少ふらついているが、・・・・うん、大丈夫だろう。
ココで言う「限界値」っていうのは、致死量じゃなくて健康を害さない程度って意味なのであしからず。


・・・こっからが本番だ、第2段階スタート!


「いくぞ!

【契約執行15秒間、エヴァンジェリンの従者〈一海里〉】!!


詠唱と共に、エヴァさんの魔力が俺の中に流れ込んでくる。強大なソレは渦を巻いて、全身を駆け巡る。
俺は各部に関所を構築するイメージで、流れの矛先を1か所に誘導させる。
集められた膨大な魔力は、放流する瞬間を今か今かと待ちわびているようだ。


―――――――――おそらく2度目は身体がもたない、・・・・・・・一発勝負だ!!!



――――――――患い招きし元凶よ、退け!!【ディスペル】!!!


開戦の合図を受けた兵士の如き勢いで、ありったけの魔力達が呪いに突撃した。
【ディスペル】は俺が使用できる中でも上級に位置する浄化魔法、コレでもダメなら後が無い。

敵勢の築いた城壁を打ち破らんと、浄化の意思達が総攻撃を仕掛ける。その勢いを絶やして堪るものかと、俺も力の限り送り続ける。


―――――――そして、無敵の城壁に決壊の兆しを確かに感じ取った。内側が脆くなった成果だ!


気を引き締めろ、第3段階!!


「今だコノカァッ!!」

【契約執行10秒間、木乃香の従者〈一海里〉】!!


―――――――かつてない程の衝撃が俺を襲った。


「うぐぉあ、うっぷぅ・・・・!! っぷぅ・・・!!?」


ソレは、明らかに俺の魔力キャパを超えた力の奔流。
内臓が、神経が、筋肉が、あらゆる身体の器官が張り裂けそうになる。得体のしれない何かが込み上げてくる、正体は言うまでも無いだろう。

・・・ヤバイ、マズイ、イダイ、ギボヂワルイ・・・!

だが、負けない。

元々持っているヒトならざるタフネス。
幼少期に培った我慢強さ。
バンダナの恩恵を受けた精神力。
そして、吸血鬼化して得た耐久力。
これらを総動員して俺の中の悪魔(笑)を抑え込む。

そして、持ちうる限りの魔力を注ぎ込み【ディスペル】に更なるブーストを掛ける!



「え、ちょっと、なにアレ!?」


アスナがある変化に気が付いた。何かがエヴァさんの周りに浮かび上がって来ているのだ。その全貌が、薄っすらとだが、徐々に明らかになっていく。

ソレは鎖、ソレは荒縄。
誰かが何も考えずにぐるぐる巻きにしたような、例えるなら、ゴルディオスの結び目をもっと滅茶苦茶にしたような感じ。
エヴァさんの周りに、そんなモノが何重にも巻き付いている。

―――――――まるで、彼女をココから逃がさんと言っているかのような光景だった。


「おそらくマスターを縛り付けている【登校地獄】が、ミサトさんの魔法の作用で可視化されたものであると推測されます」


両眼のレンズに備え付いている何かしらの機能を用いて、チャチャマルがその光景を解析する。
・・・アレが元凶か、わかりやすい形してんじゃねえか・・・。

ちなみにさっき言った「ゴルディオスの結び目」っていうのは、かのアレキサンダー大王が解いたとされる結び目のことだ。解いたって言うか、ブッた斬っただけなんだけどね。

対象が視認できればイメージするのも簡単だ、アレを解いちまえばいいんだからな。

力を振り絞る、もう少しなんだ、頼む・・・・・!


砕けろ、砕けろ砕けろ、砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろおおおおおおおお!!!!!




――――ピシ、――――ビシ、ビシ――――


―――――――ついに、鎖に罅が、そして荒縄に亀裂が生じ始めた。


「いっけえええ兄さんッ!!」

「総統、もう少しです!!」

「根性よ、ミサトォ!!」


もう少し、そう、もう少し―――――――――――



――――――――――だが、唐突に俺の魔法の勢いが減退を開始した。契約執行の時間が終わろうとしているのだ。


「ヤベェ、タイムリミットだ!!」

「そんな、ココまで来て!!?」


っきしょう・・・・・、ココまでなのか・・・・・・!!!?


「まだまだぁ! 【契約続行 追加10秒!! <一海里>】!!!」


ちょ、エヴァさん!? そんなイキナリ続行とか―――――――――――!?

だがそんな俺の声にならない悲鳴など聞こえるはずも無く、無情にもウルトラヘビー級の魔力がわんこそばの如く俺の器に追加された。


「う゛ぷぅぅぅ!!!??」


再びの強烈な嘔吐感、そして同時に訪れる四肢への鈍痛。咄嗟に右手で口を覆い隠す。
込み上げてくる酸味を必死に飲み込む。

・・・今のはヤバい、マジで決壊するかと思った。続行するなら、せめて一言言ってほしかった。
なにやら鉄の臭いを感じる、おそらく鼻血が出てきたのだろう。無理が祟ったせいだろうか。

襲い来る吐き気と激痛を忘れるべく、魔法のブーストに全神経を集中させる。

だが、罅は入れども、亀裂は入れども、その先には至らない、決定打が無い。


「ダメだ、あと一歩足りねえぜ!」

「これ以上やったらミサトさんが持ちませんよ!」


ホントにヤバイ、マジヤバイんだけどコレマジヤバイよ! どれくらいヤバいかっていうとマジヤバイ!!
このままじゃ持たない、リバースする! 俺が生まれ変わる! 胃のフォルスが暴走する!!

意識が混濁する、限界が近い。どうすりゃいい・・・・・・!?


――――――――こうなりゃ破れかぶれ、一か八か、当たって砕けろだ・・・!


込み上げる衝動を掌で塞いで必死に耐えながら、心配そうな顔して供給を続けるコノカに視線を向ける。
俺の視線に気づき、コノカの眼と俺の眼がカチあった。


視線が交錯する。この間、僅か0.6秒。


「・・・・・了解や!!」


―――――――だが、意思を伝えるには、それで充分だった。


「エヴァちゃん、追加や!! 同時にラストスパートかけるえ!!」

「ちょ、木乃香姐さん、そんなことしたら!?」

「ミサトが持たないわよ!」

「総統が今そうゆーたんや!!」

しっかり伝わったようだ、幼馴染スキルをナメてもらっては困る。


「ふん、腹くくったか・・・イイ度胸だ、買ってやる!!」

エヴァさん了承、そして両者が魔力を送り込む準備を整える。
受け入れ態勢は最悪、だが泣いても笑っても怒っても・・・、コレで最後だァ!!!


「「契約続行 追加5秒!! <一海里>!!!」」


正真正銘、最後の濁流が注ぎ込まれる。

色の違う魔力が、同時に別方向から侵入し、ぶつかり合い、大嵐を巻き起こす。

もはや俺の身体も我慢の限界、アチコチから何かが断裂するような嫌な音が耳を穿つ。
押し寄せる壮絶な存在に、意識が朦朧とする。眼の前が、歪む。

最後のブーストが掛かった浄化の意思が、最終特攻を仕掛ける。
呪いはハッキリと視認できるまで具現化されている。
鎖が、荒縄が、音を立て亀裂を生みだす。
罅の浸食は全体に及ぶ。もう少し、後一押し、そう見えるほどにまで・・・・


・・・だが、終わらナイ、解ケない、クダけなイ。


・・・呪バクの鎖ガ、断ちキれナい。


・・・皆の声ガ、遠くニ、聞コえル。


・・・意シキが、マリョクニ、ノミ、コマレ、ル―――――――――――――――――――――











―――――――――ピキイイイイイイイイイイイイイイイイイインン!!!!!―――――――――





刹那、ミサトの脳髄を閃光が貫いた。






・・・ナンデ、トケネエンダヨ・・・・・・ドウシテ、クダケネエンダヨ・・・・・



――――――――魔力の限界を超え―――――――――――



ソノコヲ、カゴカラ、ダシテヨレヨ・・・・・モウ、ジュウブンダロウ・・・・・・



――――――――肉体の限界を超え―――――――――――



イイカゲンニシロヨ、テメェ・・・・・・・



――――――――精神の限界を超え―――――――――――



・・・アァソウカイ、・・・ソレナら、ヒトおもイに・・・



―――――――――少年は、ついに――――――――――――









そノ呪縛ごト、ブッた斬ってヤるよぉおおおおオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!




―――――――――――キレた――――――――――








少年の激情と呼応するようにアーティファクトが光を放ち、形状を変えていく。


光と共に姿を現したのは、一振りの剣。

時を統べ、空間を制する、奇跡のヒカリ。

“時”に縛り付けられた少女を解放するための希望のヒカリ。


――――――――――名を、永劫の剣【エターナルソード】――――――――――


荒れ狂う奔流は導かれるように蒼き刃へと流れ込んでいく。

永劫の剣に、持ちうる限りの魔力が内包される。

・・・さぁ、準備は、ととのった―――――――


瞬間、眼が眩むほどの光を放出し、蒼き刃が聖なる閃光の波を生み出す。
輝ける星のようなその蒼剣を、その力を解放するかのごとく、天へと振りかざす。

限界に近い少年の雄叫びと呼応するように、限りなく輝く刀身から一筋の光が顕現する。

それは正しく、あふれ出る魔力と臨界点を超えた精神状態が生み出した、光の奇跡。
その姿は、光り輝くツバサの如し。


狙いは鎖、今こそ、先の見えない時の呪縛から、その身を解放してやる―――――――――!!!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」



―――――――万感の想いをこの身に乗せて、力の限り輝く剣を振り下ろす!!!


煌めくツバサと呪縛の鎖が、轟音を立ててぶつかり合う。

せめぎ合い、削り合い、火花と称するには大き過ぎる閃光を撒き散らす。



「――――――――負ける、・・・ものかあああああああああああああああ!!!!」



ツバサが、呪いの罅を、亀裂を、押し広げていく。



――――――――そして――――――――







 バキイイイイイイイイイイイイイインンン!!!!!







―――――――――ついに、少女を15年に渡り縛り続けてきた呪いの鎖は、音を立てて崩壊した。

崩壊の衝撃波で、金色の少女と漆黒の少年は吹き飛ばされる。


一気に気が緩んだせいだろう、砕け散るソレを見届けるのを最後に、意識が闇に堕ちていくのがわかる。



・・・コノカ、セツナ、後始末は、・・・任せ、・・・た――――――――――――





















「総統!! しっかりしてください!!」

「あかん、お食事中の方には見せられん在り様や!!」

「ちょっと、鼻血が尋常じゃないわよ!?」

「耳血も出てるぜ、マズイんじゃねえか!?」

「大丈夫ですか!?」


ギャラリーは倒れこんだ海里の元へと集まっていた。

限界を超える精神力で仕事を遂行した海里。その身体をわかりやすく表すなら、『ザ・重症』の一言に尽きるだろう。
殴られたわけでもないのに鼻血に耳血に内出血、顔色も最悪、まさにパーフェクトだ。
また、意識を失うと同時に抑え込まれていた生理反応が一気に噴き出したため、今さっき木乃香が言った通り、現在あまり直視したくない状況にある。
詳しくは彼の名誉のために言わないでおきたい。下の方は無事だということだけ言っておこう。

明日菜、ネギ、カモもかなり心配しているが、木乃香と刹那はなりふり構わず彼を抱きかかえ、海里に声を掛け続けている。自分が汚れようがお構いなし、流石は幼馴染だ。

とりあえず命に別状はなさそうではあるが、しばらくは起きそうにないだろう。



「ナンダナンダ、ナンノ騒ギダ?」

そしてギャラリーの中でただ1人、主の安否を気遣う茶々丸と、騒ぎを聞きつけてフラフラ現れたチャチャゼロは、エヴァが居るであろう砂煙の立ち込める場に集まっていた。

砂煙が収まると、そこにはうつ伏せでピクピクし、所々焦げ、頭にコブをこさえたエヴァンジェリンの姿が。どうやら余波を受けてダメージを喰らったらしい。
コブは吹っ飛んだときに石にぶつけ出来たようだ。障壁を張ろうにも、ヘタをすれば解呪の邪魔をしかねないため手が出せなかったのである。
吸血鬼の身体にコブが出来たということは、相当な勢いでぶつけたんだろう。考えただけで痛い。


「マスター、無事ですか?」

「う、うう・・・・ミサトの奴、私ごと攻撃しよってからに・・・!!」


コブを押さえながらヨロヨロと立ち上がるエヴァンジェリン。そしてそんな彼女の変化にいち早く気付いたのは、数百年来の付き合いの殺戮人形だった。


「オ? 御主人、イツモヨリ供給ガ強イガ、封印ハドウシタ?」

「何!? ・・・・こ、これは・・・・!」


チャチャゼロに言われ、慌てて自身の状態を確認する。
そう、今まで己を縛り付けていたものの存在が感じられない。魔力運用が全く阻害されない。

「マスター周囲の魔力反応に変化あり。封印術式の消滅を確認。【登校地獄】の解呪は成功した模様です」


「・・・ふ、ふふ、ふふははははは、フハハハハハハッハハハッハハハッハハハッハァッ!!!」 


ブロンドの少女は歓喜の叫びを上げる。苦節15年、ようやく解放された歓びを全身で表している。
人目が無ければ小躍りしそうな勢いだ。


「やった、ついにやったぞ!! ついに解けた!!」

「ああ、マスターがあんなに嬉しそうに・・・」

茶々丸も心なしか表情が柔らかく見える。見ようによっては、娘の成長を喜ぶ母親のようにも見えなくもない。


ひとしきり喜んだ後ようやく興奮が落ち着いてきた所で、チャチャゼロがもう一方の騒ぎの中心に視線を向ける。

「ケケケ、ミサトノ野郎、面白ェコトニナッテルゾ」

「む? ・・・確かにな、とてもサウザンドマスターの呪いを撃ち破った者の顔とは思えん・・・」

「かなり衰弱してるようです。 脱水症状、内出血、その他諸々の症状が見受けられます」


幼馴染に抱きかかえられ、未だ生気の無い表情で気絶を続ける少年を見て、「全く、世話の掛かる従者だ」と溜息をつくエヴァ。


「茶々丸、アイツを治療室に運んでやれ。 チャチャゼロは他の者を呼んで風呂と着替え、それと清掃の用意をするように伝えろ」

「了解しました」
「ヘイヘイ」


少女は、自分諸共呪いをブッた斬った従者に青筋を浮かべている。「よくもやってくれたなコノヤロウ、後で覚えてろよ」と言いた気な表情だ。

だがそんなこと海里が知る由も無く、未だ青い顔して呻いている。


――――――――あんな奴が、呪いを打ち砕いたのか・・・。

――――――――こんな奴が、私の、・・・。


・・・その情けない少年の姿を見て、ふぅっと一息つくと、エヴァンジェリンは外見相応の柔らかな笑顔を浮かべ、こう続けた。




「・・・丁重に扱えよ、仮にも私の“友人”だからな」

「オ優シイコッタナ」

「やかましいぞ」






―――――――――――海里が眼を覚ますのは、現実時間で5時間、別荘時間で5日後のことであった。












◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



解呪完了。エターナルソードでぶった斬ってみましたけど、・・・無理がありますか?

一応、【ディスペル】中にアーティファクトチェンジしたため剣に浄化作用がついた、という感じになっています。

じゃあ他の剣でもいいじゃん、と思うかもしれませんが、やっぱりナギの呪いを斬るならエターナルソードくらい強力なのじゃないと。

ちなみに最後に放ったのは【冥空斬翔剣】ではありません。それに近い物ですが、力任せに時空剣技を使っただけです。
ミサトはまだエターナルソードも時空剣技も完全には制御できません。只今訓練中でございます。今回使えたのは、超魔力+極限状態 のおかげです。




[15173] 漆黒の翼 #25
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:0c1e7953
Date: 2010/05/21 22:26

―――――――暗闇に染まる深い森。



―――――――その黒い世界を紅くせんと、紅蓮の炎が闇を喰む。



―――――――重なり合い、溶け合い、融合し、勢いを増す業火。



―――――――周囲からは、パチパチと木々が熱で爆ぜる音が耳を穿つ。



―――――――灼熱の焔に包まれたその場所に立つのは、1人の少年。



―――――――その手には、使い込まれた得物が堅く握られている。



―――――――噛み締めるように、震えを抑え込むように、堅く、強く、握られている。





―――――――そして、静かに瞳を閉じ、ゆっくりと背を向け、少年は歩き出す。







―――――――――漆黒の少年は、焔の渦巻く森の中へと消えていった―――――――――

































「―――――――・・・・っん、・・むぅ・・・」


瞼の上から注がれる光を感じ取り、俺の意識が現実に回帰していく。
どれくらい寝てたのかは知らないが、ともかく俺はそのままのっそりと覚醒した。

上体を起き上がらせようと腕に力を入れると、身体の節々がパキポキと音を立てる。どうやら長いこと意識を失っていたようで、全身運動不足で悲鳴を訴えているらしい。

視線を上に移せば、自分の趣味にマッチしない豪華な照明器具。てことは、ここはまだ別荘の中か・・・。



・・・にしても、久しぶりにあの夢見たな・・・。






 ぐぅ~ぎゅるるるぅ~~~・・・・・・・・



・・・・それはそれとして、腹減ったな・・・。ホントにどんくらい寝てたんだろうか・・・?



「5日間眠りっぱなしでしたよ」


思考を読み取ったかのような柔らかな声が左耳から入ってきた。

上に向いていた視線を左に向ければ、いつも通りの表情をしたセツナが、イスに座ってベッドの傍らに佇んでいた。

足元には水の入った洗面器、手元には濡れタオル、そこから導かれる解答は・・・・。



「看病してくれてたのか」

「このちゃんと交代で、今は私の番です」


もうすぐ交代の時間ですがと付け足し、やや呆れるような顔で俺を見るセツナ嬢。なんだその顔は。



「まったく、無茶しすぎですよ・・・」

「まさかここまでとは思わなんだ」


ゲロの始末が大変だったんですからね、女の子がゲロとか言うな、などと話していると、部屋の重厚な扉がギィっと軋みながら開かれた。
その隙間からひょっこり顔を覗かせる黒髪ロング。言うまでも無い、コノカだ。



「せっちゃん、そろそろ交代・・・・あ、眼ぇ覚めたんやなッ」


起き上がっている俺を確認すると、パッと顔を明るくさせてトテトテ侵入してくる。



「看病してくれてたんだってな」

「せや、感謝しィや♪」

「感謝、感激、雨、霰」


ゲロ始末が大変やったんやから、だからゲロとか言うな、とやり取りした後、臨時看護人2人が揃った所で改めて礼をする。
世話掛けたな、もう大丈夫だ。



「てい」

「あだっ」


油断してたらデコピンされた。何しやがんだコンチクショウ。



「無理せんどいてってゆーたのに・・・、スパートかけたウチが言うのもアレやけど」


プリプリ頬を膨らませながらむくれるコノカ。本気なんだか、おどけてるんだか。
セツナも「あなた1人の身体じゃないんですよ」と言わんばかりの小言トーク。俺は妊婦かっての。



「「返事は?」」

「わ、悪かったよ、心配掛けて・・・」

「「判ればよろしい」」


2人してズズイッと顔を近づけ迫って来たので、思わず仰け反って平謝り。
こういうときは男より女の方が強い。というか、この2人はいつも強い。船頭取るのも大変だよ。




「ぷっ」

「・・・あはッ」

「フフフ・・・」



――――――――何が可笑しかったのかは判らないけど、俺達は顔を見合わせて笑った。


・・・そういや、昔は3人のうちの誰かが風邪ひいたら、こうやって2人掛かりで看病してたんだっけか。
慣れない手つきでリンゴ剥いたり、見よう見まねでお粥作ったり。
コノカが料理に興味を持ちだしたのそのあたりだっけかな?
俺も多少興味が湧いていろいろやってみたけど、どう頑張ってもコノカより美味く出来なかった。
結果、別のベクトルに向かって邁進し、ネタ料理を作るに至ったわけだ。マーボーカレーはその副産物と言えよう。

・・・そんで結局残りの2人にも風邪がうつって、3人揃って女中さん達の世話になるっていうオチが付いちゃうんだよなコレが。


そんな思い出に浸りながら、ベッドの縁から足を放り出してブラブラさせる。
ふと、足元の洗面器とタオルが眼に留まった。ちょうどいい、ちっとばかし汗かいたし、使わせてもらうか。

やたら豪華な寝具から身を乗り出し水面を覗きこむ。ソコに映っているのは、毎日見慣れた顔・・・・・



「・・・・・」

「総統?」
「どないしたん・・・・、あ・・・」


ゆ~っくりと視線を水面から少女達の顔にシフトする。若干引き攣り気味なのは気のせいじゃないと思う。



「・・・・・コンニャロウ・・・」

「「あ、あはははは・・・・」」



―――――――――水面に映った少年の額には、デカデカと『肉』と書かれていた。振り仮名付きで。



















――――――長い廊下をバラバラの歩調でテケテケ進む少年少女。ネギ、明日菜、カモ、エヴァ、茶々丸である。

前者3人はやや急ぎ足、エヴァは頭に後ろ手を組んでテチテチと歩き、その後ろを茶々丸が付いていく。

ミサトが気を失ってから、未だ全員別荘に留まり続けている。なんやかんやで心配なのは皆同じなのだろう。金髪さんは否定するかもだが。



「ミサトさん、眼が覚めてるといいですね」

「ホントに心配かけて・・・、起きたら文句言ってやらなくちゃっ」

「もう5日ッスからね。そろそろ起きてもいい頃だと思うぜ」


ガヤガヤとしゃべくりながら歩を進める若人衆に、眉をピクリとさせながら金髪娘が注意をかける。



「騒がしいぞ貴様ら、病人の部屋に行くならもっと静かにしたらどうだ」

「っと、そうだったわ。煩くしちゃダメよね」


注意を受けて、片手で口元を押さえて反省する明日菜。それでも歩調は緩めない。

人は1週間身体を動かさないと、筋力が20%以上低下するといわれている。
5日間寝込んだミサトの身体は、おそらく相当弱りきっているに違いない。

しっかりサポートしてやらないと、と意気込むネギ&明日菜。
サポートはあの2人がやってるからオマエ達の仕事は無いぞ、と後ろで傍観していたエヴァは思ったが、メンドクサイので黙っておいた。



そうこうしている間に病室前に到着。

衰弱しているであろう少年の姿を思い浮かべながら、ふぅっと息を吐く。
ノックもそこそこに、扉を開けて入室する一同。



「ミサト、身体の具合は――――――――」


そこで、彼らが眼にしたものは――――――――――――――










「人の寝てる間に落書きなんかしてんじゃねえよ!」

「心配かけた罰ですよーだ」
「せやせや、心配料として受け取っときー♪」

「こンのお転婆共ォ、お仕置きじゃいッ!!」

「ちょっ総統ッ!?」
「あ~れ~おたわむれを~♪」

「ハッハーッ!! オラオラァ、貴様らにも書いちゃるッ!!」





――――――額に『肉』と書かれたミサトが、黒ペン片手に少女2人とベッドの上でドッタンバッタンしていた。




後にその光景を見た5名にその時どう思ったかを尋ねてみると、口を揃えてこう呟いたという・・・





『・・・心配して損した・・・』と。





















アスナのからてチョップ(クリティカル)により俺達のじゃれあいは中断された。病み上がりの人間にチョップって。



「もうちょっと病人を労わってくれよ」

「私はその辺の板でも割りたい気分なんだけど?」

「このタイミングでダジャレってすみませんごめんなさい心配掛けて悪かったから拳をしまって下さい」


アスナの気迫に押され、米つきバッタばりの平謝りを見せつけるハメになってしまった。

落ち着いた所で、その場に居る全員に「心配掛けてすまんかった」と詫びを入れる。
アスナから「無茶すんじゃないわよ」と説教され、エヴァさんから「治療薬作るのメンドかった」と文句を言われた。すいませんねえ、不死身だから治療苦手なのに。


深々と頭を下げた所で、再び俺の腹の虫が大合唱を始めたため、一旦その場は流して食事を摂ることに。
ちょうどよかった、腹へって死ねるトコだったのよ。


――――――――数十分後、そこには大量の肉料理を搭載したカートと共に戻ってきたチャチャマルの姿が!

宴もたけなわ夏のおきなわ、ということでありがたく運んできた料理を頂くことした。豪勢な肉料理の数々、心して食すべし。
とにかく喰う、かっ喰らう。身体が血肉を欲している。だから喰う。強くなりたくば喰らえ!!



「(ガツガツ、ムッシャムシャッ)」

「よく食べるね・・・」

「5日ぶりのメシッスからね」

「(ガツガツ、ゴックン)チャチャマル、肉追加!」


カモネギが感嘆する声も気にせず、いかにも高級そうな皿の上のレバーを喰う。
ふむ、イイ肉使ってんな。タレも上物だ。カルビうめぇ。



「起き抜けによくそんな脂っこい物食べられるわね・・・」


起き抜けだからこそ、胃を活性化させて消化を促すのだ。
胃に優しくない?知るかそんなこと、甘やかすとつけ上がるんだよコイツらは。

朝からガッツリ! 肉を頂く新習慣、『朝カルビダイエット』! コレは流行る!!



「流行んないわよ、そんなギトギト習慣。ダイエットの意味解ってんの?」


失敬な奴だな、それくらい知ってらい。『diet(ダイエット)』は『食事』という意味だ、常識だろうが。


「え、マジで!?」

「よく『diet therapy(食餌療法)』と混同されますが、本来はそういう意味なんですよ」


英語教師ネギも補足してくれた。良かったなアスナ、また1つ賢くなったぞ。

それにな、俺の胃の心配なら無用だ。
変な雑草や怪しいキノコを喰らい尽くしてきた俺の鋼鉄の胃袋はそんなに柔じゃねえのさ、舐めて貰っちゃあ困るぜ。

んなこたぁどーでもいいんだよ、今は肉を食わせろ肉を。



「野菜も食べなアカンよ?」

「今は栄養よりエネルギー重視だ」


子供の好き嫌いを躾ける教育ママ的な発言をしながら、グルグルほっぺのコノカが野菜の盛られた皿を差し出してくる。



「・・・キュウリだけかよ」

「余ってたんがコレしかなかったんよ」


その他のベジタブルは別の料理に使ってしまったらしく、皿の上にはスティック状に切られた緑のお野菜がこんもり盛られていた。

キュウリ単品でこんなに食えるかよ、沙悟浄じゃねえんだから。



「ミソくれよ」

「マヨならありますけど」

「ソレでいいや」


ネコ髭モードのセツナからマヨ容器を受け取る。
肉の合間にキュウリをシャックシャク咀嚼。

・・・やっぱキュウリにはマヨよりミソ派だな、俺は。



「いやでも(ムッシャッムシャ)、ホントに(クッチャクッチャ)、心配(シャクシャクッ)、かけてメンゴ(ジュルルルルッ)―――――」

「喰うか喋るか謝るかどれかにしろ」



注意されてしまったので喰うことに専念する。あっコノカ、そこのホルモン取って。




――――――数十分かけて運ばれてきた料理を完食し、ケプッと息を吐く。5日分は摂り戻したな、多分。今にも身体から蒸気が溢れそうな気配だ。



「一海里復活ッッ!!一海里復活ッッ!!」

「少し黙らんと砂糖水14キロ鼻から流し込むぞ」


調子に乗り過ぎて怒られちった。美味いモンたらふく食ったから変なテンションになってしまったぜ。



「ま、なんにせよ【登校地獄】はコレで完全に解呪されたハズだ。褒めてやる。光栄に思えよ」


そりゃどうも。苦節2年弱、俺も頑張った甲斐があったってモンよ。

・・・・ん? “ハズ”ってことは・・・。



「まだ外に出てないんですか?」

「・・・ん、まあ、な」


そりゃまたなんでさ、さっさと試してみりゃいいのに。



「ミサトさんが眼を覚ますまでは待つのがスジ、だそうです」

「・・・余計なことは言わんでいい」


律儀なモンだねぇ、流石は『誇り高き悪』だ。
それでさっきからソワソワしてんのか。早く外に行きたくて仕方ないんだろうな。



「俺ならもう平気ですから、試してきていいですよ」

「そ、そうか、じゃあ行ってくる!」


返事も言い切らないうちに、雪を見た関東地方の小学生のようにピューっと外へ走って出ていってしまった。チャチャマルも俺に一礼して後を追う。

ほんじゃ、寝てる間のラグを埋めておくとするかね。



「俺が寝てる間になんか変わった事とかあるか?」

「あ、じゃあ説明しながらちょっと歩こか? リハビリせな」


コノカに促され、その辺を散歩することに。
セツナが肩を貸そうとしてくれたが、やんわりと断った。氣を足に回せば動けないことも無いし、その方が治りも早かろうて。

そんなこんなで話を聞きながら、5人と1匹で別荘を徘徊する。






「――――――――と、まあこんなとこや」

「なるほどね」


しばらく別荘内をぶらぶらしながら話に耳を傾ける。

あらかた情報を受けとったが、1番驚いたのは『サウザンドマスター生存』だろうか。
10年前に死亡説が流れエヴァさんも半ば諦めていたことだが、6年前にネギの前に姿を現し、己の杖を息子に託していったそうな。

つーか生きてんなら解呪しに来いよ。それとも何か来られない事情でもあんのだろうか?

・・・ま、生きてたのなら、ソレはソレでメデタイ話だからイイか。



「めでた過ぎて、エヴァちゃんがはしゃいでネギとガチバトルしそうになったけどね」


『生きてた→嬉しい→ちょうど呪いも解けたことだし→景気づけにいっちょやったるか』のコンボだったらしい。
眼をつぶると、「フハハハー!」とか言いながらネギをいたぶる幼女の図が容易に想像できる。
なんとかやめさせたらしいけど、災難だったな、ネギよ。



「で、でも、解呪に協力したお礼に父さんの情報も手に入りましたし、収穫もあったんですよ!」

「京都に親父さんの手掛かりがあるんだっけか?」


曰く、サウザンドマスターが一時期隠れ家にしていた住居が京都にあるらしい。
俺は聞いたこと無いけど。詠春さんから教えられた覚えも無いし。けちンぼめ。



「再来週から修学旅行で京都だから、ナイスなタイミングよね」


よかったわねネギ、と姉のように子供先生に話しかけるアスナ。とっても嬉しそうなネギ。
マジで姉弟みたいだよね、コイツら。



――――――そう、中学3年の修学旅行。コノカ達のクラスは、俺らの故郷・古都京都を訪ねることになっている。

留学生が多く担任も英国人ということもあって、日本文化を肌で感じてもらおうと多数決で決まったらしい。なんと云う偶然。

ただ、西の情勢が今どうなってんのか解らないから、ちょっとばかり不安なんだよな・・・。
詠春さんが頑張って下の奴らを押さえてくれてるといいんだけど。

・・・何も起こらなきゃいいんだけどな。



「総統のクラスも京都なんですよね?」

「京都派とハワイ派と割れたけど、最終的にな」




―――――ウチのクラスの野郎共は大きく2つに分かれた。

「とりあえず定番は抑えるべきっしょ、jk」という京都派と、「ビキニ美女ktkr!」というハワイ派だ。

俺はコノカの件もあるし、心配だから同行したいということもあって京都派に属していた。
ちなみにダイチ達はハワイ派、わかりやすい奴らだ。

煩悩の強いハワイ派がやや優勢だったため、秘密兵器投入。ピンチヒッター俺。


「金髪ボインと甘い夜を過ごすんだお!」という夢見がちボーイズの速球。
「甘い夜に持ち込めるほどオマエらは英語が達者なのか?」と、ピッチャー返しを浴びせる。

「この機を逃したら、もう行くチャンスは無いかもだぞ!?」と、外角高めのストレート。
「高校の修学旅行で行けんじゃね?」と、二塁頭を越すポテンヒット。

「い、今行かなくてどうすんだよ!」と、内角に高速スライダー。
「中学生のガキより高校生の方が相手してもらえる可能性高いぞ」と、三遊間を抜ける当たり。

「お、オマエは京都出身だろ!?だったら・・・!!」と、すっぽ抜けど真ん中の棒玉。
「地元の可愛い娘の居る甘味屋なら案内するぞ」と会心の一打。

アーチを描き見事グランドスラム。逆転サヨナラ勝利を収め、会場はニノマエコールに包まれた。


あと、俺は京都育ちだけど、京都出身じゃないのであしからず――――――――――






「しっかし兄さん、あのサウザンドマスターの呪いをぶった斬っちまうとは恐れ入ったぜ」


カモが思い出したかのように俺の方を向き、やんややんやと褒め称える。

あれは俺一人の力じゃない。ネギやらコノカやらが力を貸してくれたから出来たんだ。
もう1回やれって言われても出来るモンじゃない。というか、やりたくない。あんなの何度もやったら死ぬっつうの。



「兄さんは魔法使いなんだろ? 剣も使えるんスか?」

「どっちかっつーと剣の方が得意なんだよ。俺、バリバリの前衛タイプだから」


エヴァさん曰く、魔法を使うものは大きく分けて2種類に分類されるという。
1つ目は術者が後ろに下がり、従者に守られながら大火力魔法を武器に戦う巨大な砲台『魔法使い』。
2つ目は術者が前衛に出て、体術と小魔法を織り交ぜて接近戦をこなすスピードスター『魔法剣士』。

この括りで言えば俺は『魔法剣士』だ。
なんだけど、接近戦では剣で戦って一旦後ろに下がってセツナに守られながら魔法をぶっ放すのが俺のスタイルだから、微妙に違う気もする。
かといって『魔法使い』にしては前に出過ぎな感じが否めない。

言わば、『剣士兼魔法使い』といったところだろうか。
厳密にいえば『剣士』でもないんだけどね。



「いやー! 魔法も剣も達者たぁ感服したぜ!! よっ、この漢前ッ!!」

「よせやい、テレるぜ」

「是非、兄貴のパーティの一員に!!」

「ソレは断る、俺は忙しいんだ」


さっきからやたら煽ててたのはソレが狙いか。俺はコノカを護るので手いっぱいなんだよ。他当たってくれ。



「カモ君、無理言っちゃダメだよ。ミサトさんにも都合があるんだから」

「でもよぉ兄貴、兄さんが居れば百人力だぜ? ・・・今なら2人もオマケがついてくるし(ボソッ)」


カモの勧誘活動をネギがやんわりと咎める。小動物がボソッとなんか言った気がするが、無視することにする。

ネギの言う通り、俺には【漆黒の翼】の総統としての大事な役目がある。
コッチにゃコッチの都合があるんだ、勝手にパーティに組み込まないでほしい。

ネギもそのあたりは理解しているのかいないのかは知らないが、ちゃんと相手の都合を汲み取るだけの配慮は欠かしてないらしい。
来日初日の失礼さがウソのようだ。成長したな。


・・・ただ、ネギもちょっと残念そうな顔をしている。

・・・無碍に断りすぎたか?


・・・コイツには協力してもらった借りもあるし・・・。



「・・・あー、アレだ、前にも言ったけど、一応は俺の方が年長者だからな」

「え、あ、はぁ・・・」

「・・・だから、まぁ、相談くらいには乗ってやるから、困ったことがあればいつでも来いよ?」

「ッ! ハイ、ありがとうございます!!」


少し落胆気味だったネギの顔が、パァっと明るくなった。
うんうん、子供は素直でヨロシイ。



「デレたわね」
「デレましたね」
「デレたなぁ」


煩いぞ、そこの三人娘。




「そういえばミサトさんのアーティファクトって杖になったり剣になったりしますけど、他にも形態があるんですか?」


ネギが俺のアーティファクトの話へと話題を変えてきた。流石ネギ、目の付け処がシャープです。



「杖と剣の2形態だけッスか?」

「いんや、他にも斧・槍・弓・ハンマー・グローブ・レガース・銃・バズーカ、出そうと思えば楽器や人形、けん玉も出せる」

「・・・なんかもう滅茶苦茶ッスね、統一感がまるで無いというか・・・」


個性がいっぱい、と言ってほしいな。それに統一感ならあるぞ、全部『武器』だからな。



「一体何種類あんのよ?」

「知らね、数えたこと無いし」


数があり過ぎて数えらんねえんだよ、俺も全部は把握しきれないし。

・・・多分、百や二百は余裕で越えてる、よな? もしかしたら千くらいあったりするかもしれないな。



「でも数持ってるってだけで、全部を使いこなせるわけじゃないんだよ」

「そうなんですか?」


持ってるだけで強くなるワケじゃない。使いこなすには、それなりに訓練しないといけないんだよ。
もったいないことに、鍛錬が追いつかずおざなりになってる武器も1つや2つじゃないんだ。武器の種類が多いと習得にも一苦労なのさ。
1番得意な剣だって、その全てを使いこなせている訳じゃない。

例えば、今回使ったエターナルソード。アレはテイルズの中でも最強に位置する武器の1つだが、未だにその強大な力に振りまわされ続けている。

俺自身のレベルが足りていないというのも理由の一つだが、本来エターナルソードは精霊との契約とか指輪とかが無いと扱えない代物。
手にしただけで使えるような便利グッズじゃないんだよ。使えるだけ僥倖というものだ。

それにアレは、持ってるだけで魔力をガツガツ喰らう果てしなく燃費が悪い問題児なのだ。

どうやら自身を使うにふさわしい術者を見極めるために魔力を喰っているらしい。
ココで言う“ふさわしい術者”ってのは、魔力運用の上手い奴って意味だ。

魔力運用に長けていれば、例え魔力量が少なくても剣への供給は最小限で済み長時間の使用が可能となる。
逆に、魔力運用がヘタな初心者なんかだと、いくら大量の魔力を保有していても魔力をいっぺんに奪われてバタンキュ~という寸法だ。

更に供給とは別に、時空剣技を使うのにも大量の魔力を消費するという不親切設計。

俺も数年訓練しているが、持つだけで3分、戦闘に使えば30秒が限界だ。
時空剣技など放とうものなら、今の俺じゃ良くて1発、しかも放った瞬間意識が飛ぶ有様だ。

つまり、この剣を平然と持てるようになれば魔力のコントロールはバッチリってことなんだども、俺もまだまだ修行が足りないってことさね。
時空剣士への道は長そうだよ。


・・・ちなみに後日エヴァさんに試しに持ってもらったら、30分振りまわしても平然としていた。恐るべし600歳。





「――――んじゃ、そろそろ外に出る?」

「俺はもう少しココに居るよ、リハビリしたら出るわ。2日もありゃ充分だろ」

「付き合おか?」

「そうだな、頼むわ。ちょっと試したいことあるし」

「では私もお供します」

「サンキュ、セツナ」


というわけで、【漆黒の翼】の3人はココに留まり、ネギ・アスナ・カモは一足先に別荘を後にすることになった。


手を振りながら2人と1匹を見送り、ふぅっと溜息を1つ。



・・・・とりあえずランニングでもすっかな。























――――――魔法陣を通して外界へと帰って来たネギ一行。

ネギが部屋の時計に眼を向けてみると、時刻は午後3時を廻った所だった。
別荘に入ったのが午前10時過ぎだから、妥当な時間である。



「しっかし便利よねー、1時間が1日になっちゃうんだもん。魔法ってすごいわ、ホント」

「先に寮に戻ってやしょうか?」

「2,3時間したら出てくるんでしょ? それまで待ちましょ」


どうやらミサト達が帰るまで、エヴァ邸に居座り続けるようだ。
それまで何して暇つぶそうか、「昼寝でもするか」などとのび太的思考を働かせる明日菜の視界に、あるモノが入りこんできた。



「・・・・あ」


どうやら少女は暇つぶしの道具を見つけたらしい。








――――――1時間後――――――



「――――――〈ブラック・マジシャン〉でアスナさんにダイレクトアタック!」

「ぬがあああッ!! また負けたァ!!」


そこには元気にカードゲームに興じる2人の姿が!
暇つぶしの道具とは、先刻ミサト達が興じていたソリッドビジョンのアレだったようだ。

現在、〔ネギ 3-0 アスナ〕で、ネギ3連勝中。



「もぉー!どーして勝てないのよォ!!」

「姐さんのデッキ、攻撃モンスターばっかだからっスよ」

「何言ってんのよ、攻撃は最大の防御よ! 喰われる前に喰うの!!」

「姐さん、思考回路までモンスターになってますぜ・・・」


しかしながら明日菜のデッキ構成はヒドイ、猪突猛進にも程がある。なぁにこれぇ。



「考え無しに上級モンスター入れ過ぎなんスよ。さっきから何回手札事故起こしてんスか、何ジャンクションっスかココは」

「で、でも、ネギだって強いのいっぱい入れてるじゃないのぉ・・・」

「兄貴のはバランスが取れてるからいいんだよ。姐さんの9割モンスターじゃねえか、モンスターファームでも始める気ッスか?」

「うぅ、・・・じゃあどうすりゃいいのよぉ?」

「デッキ組み直すしかないッスね。兄貴、ちょっとタイム、作戦タイム!」


作戦参謀カモミールがバックに就き、デッキ再構築。
オコジョにアドバイスを受けながらカードを吟味する女子中学生の図は、シュール以外の何物でもなかった。







――――――さらに2時間後――――――



「なんやかんやでダイレクトアターックッ!!」

「また負けたあああああ!!」


明日菜がネギを追い詰める場面も何度かあったが、土壇場でのネギのデスティニードロー連発により、〔ネギ 10-0 アスナ〕で、ネギ10連勝中。



「カモ!ぜんぜん勝てないわよ!!どうなってんのよ!?私もう泣きそうよ!?」

「兄貴は・・・、兄貴は戦いの中で進化しているんだ!なんてぇ御人なんだ!!」

「す、すみませんアスナさん、楽しくてつい・・・・」

「私はちっとも楽しくない・・・・ちょっとは手加減しなさいよぉ・・・グスッ」

「でも、勝負はいつでも全力が礼儀だって古菲さんが・・・」

「世の中には接待ゴルフってのもあんのよぉ・・・」


この少年はどんなことに関しても飲み込みが異常に早い。高分子ポリマー並の吸収力だ。ソレは無論、遊びに関しても同義なのである。
たまに明日菜らと共にミサトの部屋に遊びに行った時も、スマブラでネス無双して帰って行くのだ。
学習能力の塊と言っても言い過ぎではないだろう。まったく末恐ろしいガキである。



「あーもう寝る!! このか達帰ってきたら起こして!!」

「あ、アスナさん!?」


「クカー・・・」

「もう寝ちゃった・・・」

「完全に不貞寝ッスね・・・」


ボスッと乱暴にソファで横になると、ものの数秒で眠りに落ちてしまった明日菜に驚愕しつつ、悪いことしちゃったかなぁと少々反省するネギであった。










――――――さらに3時間後――――――



「・・・・・むぅ・・・、・・・・・・アレ、・・・・僕、寝ちゃってたの・・・?」


別荘時間と現実時間との時差ボケも手伝ったのか、いつの間にか自分も寝てしまったことに多少驚きながら、身体を起こしてしょぼつく眼を擦るネギ。カモは床で丸まっていた。
ふと隣を見ると、ノンキな寝顔した明日菜がムニャムニャ言っていた。どうやらまた寝ぼけて明日菜にすり寄ってしまったらしい。ネギ、再び反省。



「えっと、時計は・・・・・・え、もう9時!?」


部屋の時計で時刻を確認するネギ。窓の外を見れば、辺りはすっかり暗くなっていた。
もうこんな時間ではないか、早く寮に帰らないと・・・・。

・・・あれ、このかさん達は?と、ネギは当然の疑問を抱いた。

明日菜が不貞寝した時点で夕方6時、現在時刻は夜9時。もしこの間に別荘から出てきたのだとすれば、自分達をスルーして帰るハズは無い。もう夕飯時なのだから。

ということは・・・・・。



「・・・まだ別荘に居るってことかな?」


ネギがそう結論付けたと同時に、玄関から物音が聞こえた。正確には、ガチャリというドアノブの音だ。



「――――――はぁ~、やれやれどっこいしょ・・・、って貴様らまだいたのか!?」

「こんばんは、ネギ先生」


家主のご帰宅だった。肩を自分で揉みながら部屋に入って来たエヴァの後ろに、大量の買い物袋を携えてた茶々丸が待機している。
家に帰った時のリアクションが完全に中年だったエヴァンジェリンにどう対応したらいいものかと、ネギは困惑してしまった。スルーした方がいいのかな?



「ん・・・むにゅ・・・・・あさごはんは~?」

「あ! アスナさん、眼が覚めましたか!」


ちょうどいいタイミングでツインテールさんが起床してくれてネギもほっと一安心。カモもソレに乗じて起きたようだ。

寝ぼけ眼で辺りを見回す明日菜。
とりあえず、ココが寮の部屋で無いことはわかったらしく、少しずつ記憶をたどって、頭をボリボリ掻いて状況を把握しようとしているようだ。



「・・・あ、エヴァちゃんお帰り、ご飯まだ?」

「当たり前のようにたかろうとするなッ!!」

「って、もう真っ暗じゃない! ちょっとネギ、ちゃんと起こしてって言ったわよね!?」

「おいコラ無視するなッ!!!」


・・・寝起きで若干頭が回らないみたいである。



「それが、このかさん達がまだ別荘から出てきてないみたいなんです・・・」

「まだって・・・、私達が出てきてからもう6時間は経ってるわよ?」


つまり、別荘内では1週間近く経過している計算になる。
治療薬のおかげでミサトの身体はかなり回復していたから、リハビリすれば1日弱で元通りになるハズなのだ。それでもまだ出てきてないということは、コレは軽く異常事態である。



「別荘で何かあったんでしょうか?」


不測の事態か、はたまたToLOVEるか、心配になったネギは様子を見に行こうとヒョイッと立ち上がる。

・・・と、ちょうどその時、一同の耳に人の声らしき音が届いた。
どうやらミニチュアのある部屋の方から聞こえてくる。ということは・・・



「あー、久しぶりの外だー・・・」
「籠りっぱなしでしたからねー」
「遅くなってしもーたな―」


そう、ミサト達3人がタイミングよくミニチュアの中から帰還したのだ。

籠り疲れた声を上げながら3人がリビングに入って来る。
ミサトは肩をぐるぐる回しながら首をコキコキ鳴らしている。
その様子を見る限り、すっかり元通りの身体に戻ったらしい。ネギ、ほっと一安心。



「皆さんお帰りなさい!」

「あれ、オマエら帰ったんじゃなかったのか?」

「すぐ戻ると思ってココで待ってたのよ」

「それなのに全然帰ってこないから、何かあったんじゃないかって心配してたんです!」

「あ~悪ぃ、リハビリ自体はすぐ終わったんだけどさ、魔力供給の活用方法とかを模索してたら、のめり込んじゃってな?」


どうやら中途半端に終わらせるのも嫌だから強化合宿していこうということになったようだ。
ネギ達も先に帰ってるハズだから、待たせなくて済むと踏んだのだろう。



「寮に戻っとっても良かったんやえ?もうお外真っ暗やん」

「何言ってんのよ、このかが帰ってこないと夕飯にありつけないじゃないの!」

「自分で作るっていう選択肢は無いんだな」


自炊能力くらい身につけておいた方がいいぞマジで、と明日菜の他力本願さに呆れてしまうミサトであった。














いつまでもグダグダたむろっていても仕方ないので、俺達は一旦リビングで落ち着くことにした。

10日以上引き籠ってたからな、軽く旅行に行ってきた気分だ。麻帆良から一歩も出てないのに。

なにやら小腹が空いたので、チャチャマルが淹れてくれた紅茶を飲みつつ軽い軽食を頂くことに。いやぁ悪いね、用意してもらっちゃって。



「で、合宿の成果はあったワケ?」

「それなりに、な」


ほっと一息ついた所で、アスナがスコーンをムシャムシャ食べながら質問してきた。行儀悪ィなオイ。

成果としては、魔法の方の秘奥義がかなり完成に近づいた、ような気がする、多分。
もともと結構頑張って練習してた所に魔力ブーストが加わったからな。あとは経験とテンションの問題だ。

あと、ついでだからコンビネーション攻撃の修業もしてきた。コッチの方も上々、長年の相棒との連携だったから比較的楽だったよ。
・・・ココだけの話、“3人”でのユニゾンアタックも思案中だ。

お披露目は近々、かみんぐすーん。



「・・・あ、そうだエヴァさん、身体の調子はどうですか?ちゃんと解呪できてました?」

「・・・・・」


・・・あれ?何か微妙な表情・・・?
・・・まさか、解呪は失敗!? どうしよう、ぬか喜びさせちゃったか!?



「ん、ああ、安心しろ。【登校地獄】は無効化されていた。無事学園の外にも出られたよ」

「マスターは存分にはしゃがれていました。嬉しさのあまり、小一時間ほど学園都市の境目で反復横跳びをされていたのを確認しています。もちろん録画済みです」

「バ!?おま、余計なことを・・・!?」

「「ニヤニヤ」」

「ええい!そんな生温い目でコッチ見るな!!」

《見ろ茶々丸、出られるぞ!!出たり入ったりできるぞ!!ほっはっよっとぁ!!》

「再生するなァ!!!」


その後ひとしきり喜んだパツキンさんは、学園外のブティックやらショップやらを巡り巡ってこんな時間になってしまったんだそうな。

フム、映像を見る限り解呪は成功したと見て間違いなさそうだ。
じゃあ、なんでそんな微妙な表情なんでしょう?



「【登校地獄】は消え去りましたが、マスターの魔力は封じられたままなのです」

「それってどういう・・・?」

「マスターの力の大半を封印しているのは【登校地獄】とは別物、ということです」

「私も15年間気が付かなかったのさ、忌々しいことにな。・・・ちっ、あの狸ジジイめ・・・」


話によれば、別荘を出た瞬間に再び魔力が抑え込まれ、どういうことだゴルァと学園長室へカチコミに行ったらジジイが全部吐いたらしい。

曰く、学園を覆う防御結界に隠れるようにエヴァさん1人を対象とした封印結界が施してあったというのだ。

それも、学園の電力と組み合わせたかなり強力なものらしい。
なんとも大がかりなこった。科学と魔法を組み合わせるとスゲェもんが出来ちゃうんだな。

本来【登校地獄】には魔力を封じる効果は無いのだが、ネギの親父さんが力任せに掛けたせいなのか、数%程魔力が抑えられる効果が付与されていたらしい。
そして残りの90%強を学園結界が封じ込んでいたのだという。

別荘の中では学園結界の効果から外れるが【登校地獄】は健在となっており、別荘内で封印を解いた時にエヴァさんが感じた解放感はその数%分である。



「つまり、学園を出入りできるようになった以外は以前と変わらないと?」

「いや、【登校地獄】の分の魔力封印が無くなったせいか、満月でなくても魔法薬の媒介なしで魔法が行使できるようになったぞ」


威力は全盛期とはほど遠いがな、と付け加え右手を軽く振るうエヴァさん。
すると小さな冷気の渦が発生し、俺の顔をヒュオッと撫でた。ちべてっ。


でもまあ、これで籠は無くなったわけだし、何処でも好きな場所へ飛んでいけますね。良かった良かった。



「それはそうなんだが・・・、よくよく考えたら、特に行きたい所も無いんだよなぁ・・・」


なんだか遠い目をする幼女。儚げな表情が画になる人だね。

しかし、まるで突然休暇を与えられたワーカーホリックのようなセリフッスね。
急に自由になると、どうすればいいかわかんなくなっちゃうんだよね。



「ナギを探そうにも、手掛かりは今のところは京都の隠れ家くらいだからな。闇雲に飛び回るのも効率が悪かろう」


随分と落ち付いておられる。てっきり――――

「世界中の草の根を掘り返してでも見つけ出して、私のモノにしてやるゥ!!」

――――とか言い出すのかと思ったのに。
呪いが解けたこととサウザンドマスターの生存が確認できたことで、精神に余裕が生まれたのだろうか。
あるいは、生きてるうちに会えりゃいいやとか思ってんのかもな。



「麻帆良から離れれば、また馬鹿共が私を討伐しに来るかもしれんしな。返り討ちにするのも面倒だし、しばらくはココで好きに暮らすさ。自由に出入りできる牢屋のようなものだ」

「ビスケット・オリバみたいっスね」

「“アンチェイン”か、悪くないな」


なんかエヴァさんがニヤニヤしてる。満更でもなさそうだ。
試しに、黒光りする筋骨隆々のマッチョボディを手にいれたエヴァさんを想像してみる・・・


・・・おえぇ。



「失礼な想像しなかったか?」

「いえ全然」


あっぶねぇ、気付かれたよ。なんて勘の鋭い人なんだ。


ちなみに、学校は辞めずに卒業まで居ることになっている。コレは前々から決めていたことなので特に話し合うことも無い。
何で辞めないかってーと、コノカが1週間くらいかけて説得したからだよ。「エヴァちゃんと一緒に卒業したーーい!!」って。
エヴァさんとしては、もうウンザリするほど通ったんだからサッサと辞めたいっていうのが本音みたいだけど、“記憶に残る”卒業を迎えるのも悪くないはずだ。



「そういえばさっき学園長のトコにカチコミに行ったとか言ってましたけど・・・」

「ああ、ジジイには話した」

「俺のことも?」

「伏せてはいるが、バレているだろうな」

「やっぱりなぁ・・・」

「あんなでも東の長だからな、眼力は甘くないぞ」


まあ、追及されたら口八丁手八丁で乗り切るか。
気付いてる上で好きにさせてくれたんなら、黙認と見てもいいのかもしてないけど。

やっちまったモンはしょうがない、後で考えよ。



「――――それじゃ夜も更けたし、寮に帰るとしますかね」

「ほらネギ、帰るわよ」

「ムニュゥ・・・、ふぁ? ふぁい・・・」

「眠そうやね」

「まだ10歳ですからね」


いろいろ疲れたのか、すっかりオネムになったネギをアスナが手を引き、俺達はエヴァ邸からお暇することにした。

住人2人に見送られ、ログハウスを後にする。

・・・と、その直前に俺だけ呼び止められた。なんじゃらほい?



「ジジイから伝言だ、“明日の午後3時に学園長室に来ること”だそうだ」

「・・・呼び出しッスか」

「もうすぐ大停電だから当日のシフトと担当区域を伝えるとか言っていたぞ」

「ああ、ソッチですか」

「貴様のチームのスナイパーにはもう伝えてあるそうだから、刹那には貴様から伝えておけ」

「りょーかいです」


・・・てか、エヴァさんに俺への伝言を頼んだってことは、バレてること確定だなこりゃ。エヴァさんも暗にそう言っているんだろうな。



「・・・京都に手掛かりがあるといいですね」

「ん・・・、そうだな」

「楽しみですね、修学旅行」

「・・・ふん」

「それじゃ、また」

「ああ」


ソレだけ言うと、エヴァさんは背を向けて家の中へ戻っていく。チャチャマルも後に続いた。
俺も踵を返して、コノカ達を追うため駆け――――――



「・・・ミサト」


――――――だそうとして、また呼び止められた。なんだよもぉ。



「なんすか?」


その場で足踏みしながら首だけ後ろに振り向いて訊き返す。

エヴァさんは扉に手をかけ、背を向けたまま一言。




「・・・・ありがとう」


「・・・どういたしまして」



ソレだけ言って、俺は後ろ手を振って駆けだした。



――――――パタンと扉の閉まる音が、夜空に響いた。

































〈オマケ〉



――――別荘内・修業中――――



「・・・そういえば総統」

「なんだよ?」

「アスナさん達に私達が魔法関係者だと話したワケですけど・・・」

「ああ、それが?」

「・・・私達の正体も、話した方がいいんでしょうか・・・?」

「・・・あー、まだそれが残ってたか・・・」

「アスナさん達なら、きっと受け入れてくれるとは、思うんですけど・・・」

「不安がゼロってワケじゃあ、ねえよな・・・」

「ええ・・・」



「だいじょーぶやてッ2人ともっ、アスナもネギ君もそんなこと気にせーへんよ」

「コノカ・・・」

「・・・ふふっ、そうですね」

「・・・だな!」

「せやせや!」



「とりあえず、必要に応じてってことにしておくか」

「せやけど、いざ伝えるとなると、どないして伝えたらええかなぁ?」

「いきなり『実は半妖でーす』とか言ってもビックリだよな」

「じゃあ、ちょっとずつ仄めかしていくんはどおやろ?さりげなーく」

「仄めかすって、どうやってですか?」

「うーんと・・・、例えばぁ・・・―――――――」






――――夜・帰り道――――



「いやー、もう真っ暗だなーセツナー」
「そーですねー総統、私達2人とも“トリ”目の気があるから気をつけましょうねー」

「?」











「ペットの美容師ってなんていうんでしたっけー?」
「おいおいセツナー、そりゃ“鳥魔トリマー”に決まってんだろー?」

「「?」」











「突然ですがクイズターイム、『汎用』は何て読むでしょー?」
「はーい、答えは“はんよう”でーす」
「せいかーい、いえーいっ」





「・・・アンタ達、さっきからどうしたのよ?」
「なんだか、やたらと棒読みなんですけど・・・」
「何かあったんですかい、お二方?」

「いいえーべつにー?」
「なんでもねーよー、なーセツナー♪」
「ねー、そーとー♪」


「「「??」」」

「・・・♪」



――――――2人が正体を明かすのは、そう遠くない。







「「へっくしょいッ!まもの!」」

「「「???」」」



・・・・ハズである、多分。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


久しぶりの更新です。待っていてくれた方々、本当にすみましぇん。

リアルのほうが忙しくってもう・・・、やっと投稿できましたよ。

「待たせた割に話全然進んでねえじゃねえか」とは思われるかと思いますが、御勘弁を。

もうちょっとしたら修学旅行編に突入すると思うんで、しばし待たれよ。







[15173] 漆黒の翼 #26
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:ab670fa7
Date: 2010/06/08 13:32

―――――日曜日。

本来なら、日頃学業に勤しむ学生諸君にとっての安息日ともいうべき曜日。

だというのに、学園長様から直々に呼び出しをくらってしまった俺は、翁の待つ学園長室へ向かうべく、女子中等部校舎の静まり返った廊下をペタペタと進んでいた。


休日の学校というのは、なんというか不思議な空間だ。

普段は少年少女達の賑やかなで軽やかな喧騒に満ちている場所であるだけに、こうも静寂に溢れてしまうと軽く異様である。

耳に入って来るのは、遠くの方から聞こえる部活動の掛け声や、木々に止まる鳥の囀る鳴き声くらいなものだ。

日常とは隔絶された、静かな風景。己以外には誰も居ない、非日常の空間。


・・・もしかしたら日曜の校舎というのは、俺達の一番身近な所に存在する異世界への入り口なのかもしれない。





「・・・なにアホなこと考えてんだ俺は」


なんだよ異世界の入り口って。そんな世にも奇妙な話の導入みたいなこと考えてどうすんだ。タモリに笑われるっての。そもそも俺の存在自体が奇妙なのに。

どこぞの詩人のような思考を振り払い、普段より冷たい廊下を歩き続ける。早いトコ用事済ませて帰ろう。


そう考えて歩調を気持ちペースアップしようとするが、一旦思考が傾くとどうしても周りが気になってしまうのが心理というもの。ついつい視線がキョロキョロ動いてしまう。

俺は普段、女子中等部の方にはあまり来ない。そりゃそうだ、男子中学生なんだから。こんな所、こうして学園長に呼ばれた時くらいしか赴かない。

そんな縁の薄い場所ゆえに、己の通う学び舎との差異を比べながら興味本位で教室を覗いてみたりしちゃったり・・・。





「・・・って、コレじゃただの変質者じゃねーか・・・」




―――――休日の女子校を徘徊する目付きの悪い男―――――


・・・やべぇ、犯罪の臭いしかしねえ。

とっとと終わらせよう。余所見などするな。男なら、横道それずに真っしぐら、ババンバーンだ。



・・・しっかし、呼ばれたのが夜じゃなくてホント良かった。夜の学校とか難所過ぎて困る。

俺ったら『学校の怪談』もまともに見れない人なんだから。『リング』なんて見た日にゃ背中が怖くて風呂に入れないっつーの。世にも奇妙な奴だってギリギリなのに。


幽霊なんて出たりしないよなぁ・・・怖すぎるぞ・・・。




『それが居ないんですよ~。仲間が居なくて寂しいですぅ・・・』




ふーん、そうなのか、君も大変だね・・・・・




・・・・・・・ん?


・・・今、なんか違和感が・・・・・・?



・・・バッと後ろを振り返る。


誰も居ない。寒々しいくらい人っ子1人いやしない。




・・・・じゃあ、俺は今、誰に相槌を打ったんだ・・・?







「あら、アナタは・・・」
「あ、こんにちは、一先輩!」

「うおぅッ!?」


イキナリ声をかけられ、おかしな声を上げながら即座に正面に向き直ると、少女2人組と対面した。


1人は金髪、ナースキャップのような帽子が特徴的なウルスラの制服に身を包んだ少女。
もう1人は赤っぽい髪、女子中等部の制服を着た肩までのツインテール娘。

ああ、この人達か。仕事で何回も会ってる顔見知りだ。名前は・・・・



「・・・あー、どーも御無沙汰です、高音・D・グレイマンさん」

「誰がエクソシストですか!?私はグッドマンです!!」


ニアミスだった。おしい。



「まったく、顔を合わせるのが久しぶりとは言え、女性の名を間違えるなんて不躾ですよ!」

「キッドマンって言われた方が嬉しかったですか?」

「そう云う問題でもありません!」


この人はボケたらすぐツッコンでくれるからありがたい。
ツインテールの方は、『佐倉愛衣』、だったな。うん、完全に思い出した。



「先輩も学園長室に?」

「ああ、停電時の打ち合わせにな。そっちも?」

「ええ。先程終わって、今から帰るところです」


魔法先生や魔法生徒からの俺への評価はまちまちだ。純粋に実力を買ってくれている人もいれば、【闇の福音】と親交のある要注意人物と見てる人もいたりいなかったり。

その中でいうなら、高音さんはやや懐疑的、メイは割と友好的な方だろう。
高音さんは、“魔法使い”というものに高い理想を抱いてる人だからなぁ。メイの方は・・・なんでだろ、わからん。



「桜咲先輩は一緒じゃないんですか?」

「セツナになんか用か?」

「い、いえ!そういうわけじゃ!」


なんかワタワタしてる。何を慌ててんだこの娘は?


・・・もしかして、“ソッチ”の人なのか?高音さんのこと『お姉様』とか呼んでるし。スールか、スールなのか?

マズイよマズイよぉ、ただでさえウチのセツナは百合の気が心配されるってのに、取り返しがつかなくなっちゃうよぉ?


・・・と、そんなバカな発想は置いといて。



「しっかし毎度のことながら、かったるい行事ッスよね。働く方の身にもなれって感じですよ」

「その発言は無視できませんわね」


世間話程度に話を振ってみたが、話題が悪かった。高音さん、少々お怒り気味。



「人々の平和のために身を粉にして戦い抜くのが、【立派な魔法使い】を目指すものとしての我々“魔法生徒”の使命なのです。そんな腑抜けた態度では困りますわ」


高音さん、ココ一応公共の場だから。発言は気を付けて。
なに普通に『魔法』とか単語だしてんですか、オコジョにされますよ。日曜だから誰も居ないだろうけど。




「前にも言いましたけど、俺は別にそんなん目指してるワケじゃ・・・」

「そんなんとは何ですか!!【立派な魔法使い】は多くの魔法使いの目標なのですよ!?それをアナタという人は!!」

「だから声がデカイってば!!」


どうどう、とメイと一緒に興奮する高音さんを宥める。




「・・・俺の言い方が悪かったです。別に俺は高音さんの考えを否定する気は無いんですよ」


【立派な魔法使い】という考え自体を否定する気なんて毛頭ない。

むしろ、その意思が“本物”であるのなら尊敬するくらいだ。

無償で多くの人々を救い続けるヒーロー。大いに結構だ、カッコイイじゃないか。

俺だって、助けを求める人が居て、それを俺の力でなんとかしてあげられるのなら、喜んで力を貸すだろう。


・・・でも、そうじゃないんだ。【俺】と【立派な魔法使い】とでは、優先すべき対象が根本から違うんだよ。


俺には、誰よりも何よりも、護りたい大事な奴らが居るから、ソイツらよりも不特定多数の他人を優先するような役になる気は無いってだけなんだ。




「・・・ええ、わかっています。その話は以前にも聞きましたから」


前にもこの人とは似たような議論を交わしたことがある。

元々、俺と高音さんはそれほど仲がよろしくなかった。というか、向こうが俺のことが気に喰わなかったようだ。

【立派な魔法使い】を目指す彼女にとって、報酬を受けて仕事をこなす俺のような傭兵は相容れない存在だったんだろう。

そんな俺達が口喧嘩にまで発展するまでには、さほど時間はかからなかった。

結局、どちらが正しいという結論には達しなかった。悪く言えば平行線、良く言えば互いの意思を許容した、ということなんだろうか。

まあ、その話し合いのおかげかは判らんけど、お互い多少は棘が取れたような気がするよ。
お話って大事だいじだよね。OHANASIは大事おおごとだけどね。



「すいません、癇に障るような言い方して」

「いえ、私も熱くなりすぎました」


互いに非礼を詫びる。元の発端は俺のヤル気の無さだから、俺の方がやや深めのお辞儀。




「先輩、時間大丈夫ですか?」

「っと、いけね。そんじゃ俺はこの辺で。2人共お仕事頑張ってください」

「ええ、お互いに」


約束の時間が迫っているのを腕時計で確認し、急ぎ足でその場を去る。



――――――いろんな考え方があるってのは難しいことだけど、悪いことじゃないよな。“みんな違ってみんなイイ”って奴さ。



・・・限度はあるけど、な。











「・・・残念です」

「そうね愛衣。実力はあるのだから、志を同じくすれば【立派な魔法使い】も夢じゃないのに・・・」

「あ、いえ、そうじゃなくて・・・」

「?」

「桜咲先輩も居れば揃踏みだったのになあ、って・・・」

「・・・ホント、ミーハーなんだから・・・」

「だってだってホントにカッコ良かったんですよ!!

今年の麻帆良祭も出場してくれないかなー・・・また聴きたいなー・・・」




――――――愛衣は【凛凛の明星ブレイブヴェスペリア】のファンだった。























 コンコンッ


「学園長、ニノマエです」

「おお、入っとくれ」


ノックの返事を貰ったことを確認し、重厚な扉を押し開いて学園長室に入室する。

翁は定位置のデスクで書類やら何やらを広げて待っていた。多分、契約書か何かだろう。
傭兵職に就いてる俺との仕事の際は、毎回こんな感じである。内容や報酬などを確認し、いくつかの書類にサインして仕事を請け負うのが定例だ。




「早速じゃが仕事の話じゃ。君達にはこの地区を守って貰うぞい」


そう言って麻帆良の地図をデスクの上に広げる学園長。

・・・うーむ、いつ見てもだだっ広い敷地だ。地図にするとその無駄な広大さが手の取るように分かる。地図なんだから手に取れて当然だけど。

ジイさんがシワシワの手で俺らの担当区域を指し示す。
・・・あー、ココか。都市の外れの森ン中。何度か仕事とかで行ったことあるところだ。なるほど、了解したぜ。

あとは、想定される戦闘時間、敵勢の予想規模、その他諸々を考慮して今回の報酬額を決めるだけだ。


今回のギャラは普段の仕事の時より単価が高い。

全滅させて終わりのストック制の短距離走じゃなくて、時間いっぱいまで働かされるタイム制の持久走だからな。普通より疲れんだよ。

通称『停電賞与』、俺達傭兵にとってはボーナスみたいなモンなのさ。年2回あるし。



「“―――――以上、これを承諾することを約束いたします。 『一 海里』”・・・っと」


契約書を端から端まで目を通し、おかしな部分が無いか確認してからサインをする。
うっかり借金の保証人になどされては困るからな。無いと思うけど。



「契約成立、ですね」

「うむ、期待しておるぞぃ」


これで停電時の打ち合わせは完了。報酬分はしっかりと働かせていただきます。






「・・・さて、もう2つばかり話があるのじゃが」


・・・来た、例の話だな・・・ん?『2つ』?1つはアレだろうけど、もう1つって・・・?




「エヴァンジェリンの【登校地獄】が解呪されたらしくての・・・、君は、何か知っとるか?」


そんな俺の疑問など露知らず、デスクに肘をついて両手を組みながら話を切り出す学園長。

予想できた1つ目の質問が予想通りに投げかけられる。その問いに対し・・・



「・・・いえ」


とりあえず、しらばっくれてみる。
学園長は追及する訳でもなく、ふむ、と一言漏らし、言葉を続ける。



「昨日突然エヴァがワシの所に来ての、『ジジイ、解けたぞ』と言われた時はたまげたわい」

「・・・へえ、そッスか」


もっかいしらばっくれ。学園長、更に続ける。



「彼女の封印が解けたという情報は、まだ広まってはおらん。ヘタをすれば大混乱を招きかねん事態じゃからのう」

「・・・」

「幸いにも、彼女は解呪後もこの地に留まる意向を示しておる。彼女の力が抑制されるこの地に居るというのなら、なんとか他のお偉方も納得させられるじゃろう」


東の長も楽じゃないわい、と肩をすくめておどける好々爺。

・・・が、すぐに気を引き締めたように椅子に深く掛け、話を続ける。



「・・・じゃが、『【闇の福音】の封印が解かれた』、コレが魔法界にとって大事に値するということには変わりない」

「・・・」


「ワシが独自に調査したところによるとじゃな、どうやらエヴァには“協力者”が居たらしいという情報があるんじゃ」

「・・・」


「もし、その者が英雄サウザンドマスターの掛けた強力な呪いを解いたとなれば、お偉方もそんな人物を放ってはおくまい。無論、ワシも同じじゃ」


俺が何もしゃべらなくてもお構いなしに、両目を閉じながら淡々と口を動かす。
ココまで真剣な表情を見るのは、麻帆良に来てから初めてだ。



「【闇の福音】を野に放った者。もし本当にそのような人物がおるなら、ワシはなんらかの対応を採らねばならない。“関東魔術協会の長”として、な」

「・・・」




一旦そこで言葉を切り、数秒の沈黙が場を支配する。


そして、閉じていた右眼を開き、俺を見据えて――――――




「改めて訊くが・・・、その者に、心当たりは無いかの?」




最終質疑が、俺に投げかけられた。



その問いに対し、俺の最終回答は―――――――





「・・・皆目、見当もつきませんね」


――――――最後までしらばっくれた。




「・・・ふむ、そうか・・・」


その答えを予想していたのか、あるいは違う答えを期待していたのか考えは定かではないが、翁はまた瞳を閉じた。




また、場に静寂が訪れる。今度は10秒を超えた。








静寂に耐えかね、早く終わんねーかなーなどと少々不謹慎な考えが頭を過ったその時。




「・・・彼女、エヴァは10年前、ナギの死亡が噂されるようになってからかのぅ、あまり笑わなくなってしもうてな」


つぶやくように、学園長が再び言葉を発した。




「1度目の卒業から間もなかったからのぅ。自分の存在が級友の記憶から消える絶望を味わった上にそれじゃ。それからしばらくは、生ける屍のようじゃったわい・・・」

「・・・」


「じゃが、ここ1,2年はよく笑うようになった。機嫌良さ気に鼻唄を歌っている姿など見たのは何年振りのことじゃったかわからんかったわ」

「そう、ですか」



相槌とも生返事ともとれるような言葉が俺の口から出てくる。



―――――ここ1,2年。

“奇しくも”、俺達が麻帆良に移ってきた時期と合致する期間だ。



「『光に生きろ』、ナギが言うとった言葉じゃが、まさしくじゃ。彼女は、望まずして多くの咎を背負ってしまった。じゃからこそ、彼女には幸せになってもらいたいのじゃよ」

「・・・」


「本当に彼女に協力者が居たのならば、ワシはその者に言いたいことが山のようにある。無論、“居れば”、の話じゃがの」

「・・・」


「しかしまあ、話の長い校長先生は嫌われるからのぅ、一言だけで我慢するわい」



コチラに向き直り、両の眼で俺をしかと見据える学園長。

・・・気のせいか、先程より表情が柔らかい感じがする。




「もし、君が彼女の協力者に会うことがあればでいいんじゃが・・・」





またそこで区切り、こう続けた。





「・・・一言、“エヴァンジェリンの友人”が『ありがとう』と言っていたと、そう伝えて欲しい」



「・・・善処しますよ」

「頼んだぞぃ」



俺の素っ気ない返答に、翁はフォフォっと含んだ笑いを見せる。

互いに真実を知りながらも決して口にはしない、茶番のような約束がココに結ばれた。












「さて、これで1つ目の話は終わりじゃ」

「で、2つ目は?」

「来週からの修学旅行についてじゃよ」

「修学・・・・・・ああ、コノカの護衛のことですか?」

「君も京都に行くようじゃからのう。刹那君共々、護衛を依頼したい」

「依頼されるまでもないッスよ。俺らが好きでやってることですから」

「ふぉふぉっ、頼もしいのぅ」


コノカに手ぇ出す奴は例え神であろうと許さんばい!!



「頼もしいついでに、もう1つ頼まれてくれんかの?」


ん、まだ何か他に問題があんの?



「知っての通り、西と東は仲が悪くてのぅ。ネギ君・・・西洋魔術師の同行に難色を示しておる者達が少なからずおるのじゃよ」


・・・あー、そう云うことか。西の下っ端とかは西洋魔術嫌いな奴結構いるしなぁ。お偉方にも魔法嫌いな人ちょいちょい見かけるし。



「詠春さ・・・西の長はなんて?」

「戒厳令を敷いて手を出させぬよう抑制するとのことじゃが、・・・正直、何とも言えんと」


さすがに組織の末端にまで目を光らせるワケにもいかないか。そうするには詠春さんは役職が高すぎるからな。

いくら長同士が仲良くても、組織全体がそれに賛同するわけじゃない。一枚岩な組織の方が珍しいくらいだ。

修学旅行の行き先を変更すりゃ問題解決なんだろうけど、諍いの根本的解決にはなんねえよなぁ。全くメンドクサイねぇ、組織って奴は。



「うむ、そこでじゃ。ネギ君には東からの特使として、婿殿に親書を渡す任務を与えようと思うのじゃが・・・」


俺にそのフォロー役をしろ、と・・・。

なるほど、どうせ面倒事が避けられないのならば、マイナスの面倒をプラスにしちまおうって魂胆か。
英雄ナギ・スプリングフィールドの実子が友好の証を持って訪問する、と。確かにネームバリューとしてはこれ以上ない程の人材だ。

・・・いやでも、そうなると今度は友好条約締結阻止の妨害が出てくる危険性があるんじゃなかろうか?

“裏”の秘匿がある以上、表立った対応はとれないし、他の生徒達に危害が及ぶ可能性だって・・・。



「確かに。じゃが、“裏”の秘匿があるのは向こうも同じこと、一般人や生徒達に危害が出るような派手な真似は出来んハズじゃ」


・・・うーん、一応筋は通ってんだけど・・・なんか余計事態がややこしくなった感も否めないような・・・






・・・・・・・ん?


ちょっと待てよ・・・・・・この状況、どっかで見たことあるような・・・・




「・・・引率しながら特使として親書を渡しに行くってことは・・・・」





・・・・コレってもしかして・・・・






「それってつまり・・・・・お供を引き連れた“親善大使”ってことッスか・・・?」

「ふむ、そう云う言い方もできるかのう。それがどうかしたかの?」





・・・・・“赤い髪の男児”が、“人々を引き連れ”て、“親善大使”だと・・・?











――――未来予想映像――――





『僕は先生で、親善大使なんですよ!?僕が行くって言ったら行くんです!!』



『だ、だって、西の本山が崩落するなんて誰も教えてくれなかったじゃないですか!!僕1人に責任を押し付けないでください!!』



『カモ君が、カモ君がやれって言ったから!!僕は悪くないッ!!僕は悪くぬゎいッ!!!』





―――――――――












・・・・いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやッ!!?

無い無い!コレは無いッ!!いくらなんでもコレは有り得ないッッ!!!


アイツそんなワガママな奴じゃないし!!

そもそも西の本山が魔界クリフォトに堕ちるわけ無いし!!

つーか何でカモがヴァン師匠のポジションなんだよ!?髭か!?髭があるからか!!?

偶々だ、偶然の一致だ!別に“王族に連なる赤い髪の男児”ってわけじゃないし!!



・・・・違うよね?王族の設定とか無いよね?王位継承権なんて持ってないよね? ねえ!?誰か教えて!!誰か俺を安心させて!!?



「ま、案外杞憂に終わるかもしれんしの、君も修学旅行を楽しむと良いぞい」


楽しめねえええええええええッ!!?嫌なビジョンが頭から離れねえええええええええッッ!!?

何か、何か手は!?惨劇回避の名案は無いのか!?

・・・そうだッ!!今の内にネギのチョンマゲを切り落としちまえば!!先に断髪イベント終わらしときゃいいんじゃね!?

って違うよ!?そう云う問題じゃないっての!!!
だああああああああああッ!!?おおおおおおおお落ち着けェ俺エェェッ!!!!



「・・・ミサト君、顔色が悪いが大丈夫かの?」

「へ、平気ッス、ちょっとトリ乱しただけッス、俺は冷静ですっ」


そうさ、『取り乱す』と『鳥乱す』というウマイ掛け言葉を瞬時に繰り出せるくらいにクレバーだ。
冷静さ、ああ冷静だともさ、本人が冷静だって言ってんだからソレでいいじゃん!?



「ふむ、ではコレで話は終わりじゃ。退室してもよいぞ」

「ハぁイ・・・しつれーしましたぁ・・・・」


結局、一抹の不安が消せないまま学園長室を後にした。どうしよう・・・。



・・・・もー知らん、なるようになれだ。敵が来るならぶっ飛ばす、以上!























――――そんなこんなで日が経ち、本日は火曜日。大停電当日を迎えることと相成りました。

現在、夜の帳も下りた午後7時45分。停電開始まであと15分。
俺達傭兵ソルジャーズは、学園長に指定された持ち場で戦闘開始の時を待っていた。


これから4時間にわたる長い戦いが始まろうとしている。長期戦に備えて栄養補給しておこう。

持ってきたビニール袋から握り飯を取り出し、セツナと2人してモシャモシャと喰らう。中身は梅干しだった、すっぺぇ。


ふと、ライフルやらデザートイーグルやらの最終チェック中のマナと目が合った。なんだ、やらんぞ。



「食後すぐの運動は毒だぞ?」

「いいんだよ、そんなヤワな胃袋してねえから」
「このちゃんがワザワザ作ってくれたんだ、食べない方が毒だ」


その通り、コイツはコノカが持たせてくれた特製おにぎりだ。力になっても毒になるなど天地がひっくり返ってもありえない。

そんな俺達の様子にマナは肩をすくめ、ごちそうさんといった表情を見せた。




「あ、そう云えば総統・・・」


指に付いた飯粒を舐め取っていると、セツナが思い出したように話しかけてきた。なんじゃい?



「もうすぐアスナさんの誕生日ですけど、総統は何かプレゼント買いましたか?」


ああ、そういやそんな時期だったな。来週の月曜だっけか?まだなんも買ってねえや。



「日曜日にこのちゃんとプレゼントを買いに行く予定なんですけど、総統もどうです?」

「おっけー、予定開けとくわ」


脳内のスケジュール帳の日曜の欄に赤印が付けられる。『アスナ誕プレ買い物』っと・・・。
ちなみに隣の土曜日にも黒字で『ダイチらと旅行の買い出し』と予定が書かれている。
黒字は普通の用事、赤は要チェックの証である。コノセツとの用事は大体赤だ。


・・・にしても、戦闘前とは思えない会話だ。









「さて2人とも、準備はイイか?」



――――停電開始まで、あと5分を切った。


銃器の整備を終えたマナが、ジャキッとジョイントを鳴らしながら俺達に問う。

その問いに、セツナはチャキンッと夕凪の鯉口を切って応える。

俺もまた、得物をジャカジャンッとピッキングして応じた。準備は万全、いつでも来いだ。



「・・・ちょっと待て、1人おかしい奴が居るぞ」

「誰さ?」

「オマエだ、オ・マ・エ。 なんでこれから戦おうという奴がギターなんか持っているんだ」


何を言う、コレも立派な武器だ。最近使ってなかったから久々に火を吹いてもらうのさ。

戦場に俺という名の歌姫が降臨するぜ、キラッ☆



「本当に大丈夫なんだろうな?」

「任しとけよ」


マナは懐疑的な視線で俺のギターを見つめている。失敬な奴だ、自分だってギターケース持って来てるくせに。

まあ見てなって、ジョニーから受け継いだ妙技の数々をとくとご覧あれだ。





「――――総統、そろそろです」


セツナの声を聞き、腕時計に眼をやる。


――――午後7時59分。まもなく戦闘開始――――




《―――――こちらは放送部です。これより学園内は停電となります。学園内の生徒は極力外出を控えてください――――ザザッ――――》



停電前の最後の放送が学園に響きわたる。

ソレと共に都市から灯りが消失し、学園都市は暗闇に包まれた。




「・・・どうやらオデマシのようだな」


暗闇でいち早く敵勢の存在を察知したのは魔眼持ちのマナ。が、俺達もすぐに気付いたのであまり意味は無かった。

だって、もう前方10メートルくらいに敵さん方がいらっしゃってるんだもの。否が応でも気付くっつーの。

わー、いっぱいいるー。みんな目が血走ってるー。こわーい。(棒読み)



「「「キシャアアアアアアアッ!!!!」」」


前振りも無く襲い来る魍魎、正面から3体。

飛びかかるソイツらを尻目に、俺はゆっくりとピックを弦に這わし――――――



【ソニックレイブ】!!


勢い良く弦を弾き、強烈なビートを繰り出した。
生み出された音波は衝撃となり、迫る妖魔を巻き込み貫く。結果、敵3体はあえなく還された。どんなもんじゃい!



「ほぅ、やるじゃないか」


感嘆の声を上げつつも次々と敵の脳天を撃ち抜いていくマナ。セツナもバッタバッタと敵を斬り伏せる。
驚くのはまだ早い、ココからが本領だ。歌の力を思い知れ魔物共!

合図と共にセツナが抜き身の夕凪を振りかざして突撃する。マナもその動きに合わせるようにライフルを構える。ほんじゃいくぜぇ!!



【あぁ~たぁ~るううううううえええーーーーッ】!!!


――――【あたるシンフォニー】――――

俺のテキトーともいえる歌に呼応するように、セツナとマナの連携は巧みになっていく。
まるで歯車が噛み合ったかの如く動きのキレが増し、斬り伏せ、撃ち抜いていく。

負けじと敵も得物を振りかぶり俺達に迫る。だったらコレだッ!!



【かぁっわぁっせえええぇ~~~ッ】!!!


――――【かわせマーチ】――――

アホみたいな歌が俺達に力を与える。鋭い爪撃や剣閃を難なくかわす。そんなハエが止まる攻撃じゃ当たらんよッ!!
今度はコッチの番だ、喰らえ魂の巻き舌!!



【しぃびれるうううううううぅッ】!!!


――――【しびれルンバ】――――

無警戒に近づいてきた敵に、文字通り“痺れる”歌声が素晴らしき巻き舌と共に降りかかる。はっはー、麻痺して動けまい!

そして動けなくなった所を、セツナが斬り、マナが貫き、俺がボコる。

この調子でどんどん行くぞォ!!刻むぜ、熱いビート!!ヤァーーフゥーーー!!!!






「凄いは凄いんだが・・・なんであんな歌で力が湧くのかが不思議でならないよ」

「総統が楽しそうだからソレでいいんだ」


「【ワアアアアァーーーーーーーーオッッ】!!!!」



――――――その夜、ミサトの魂の【ミラクルボイス】が麻帆良に木魂したそうな。












ちなみに誕生日プレゼント、俺はハンカチをあげました。
柄はサクラ、ボタン、スイートピーの3種類。コレ全部4月21日の誕生花らしいよ。
アスナ、泣いて喜んでたよ。よかった、ヘキサゴンドリル3冊とかにしなくて。










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


久しぶりに風邪を引きました、どうも私です。

学園長の対応が甘いと思われる方、目を瞑ってください、私にはこれが限界です。

次回より『修学旅行編』スタート。シリアスもあるかもね。









[15173] 漆黒の翼 #27
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:ab670fa7
Date: 2010/06/25 10:50
新しい朝が来た。というか、修学旅行当日がやって来た。

時刻はAM7:35。俺は今、集合場所である大宮駅に向かうために電車にガタゴトと揺れている真っ最中だ。
普段使用している学生鞄よりも中身の重い旅行バッグ。コレを持っているだけでも若干テンションが上がって来るのも旅行の魔力というものなのか。

それはともかく、規則的な振動と座席の柔らかさの相乗効果というのは恐ろしい物で、気を抜くと意識が明後日の方角へ飛び立ってしまいそうになる。ありていに言うと、超眠い。
別に夜更かししたわけじゃないのにこの威力・・・、列車の催眠誘発効果ってスゲエ。

ああ・・・・イイ感じに・・・意識、が、ウツロ、に・・・・・



《―――ンまもなくぅ~、おおみやぁ~ぅおおみやぁ~、おでぐちぃ、ひだりがわでっす―――》



・・・今みたいな時にこのアナウンスを聞くと、声の主に憎悪を覚えるのは俺だけじゃないハズだ。喋り方が果てしなく鬱陶しい。
でもおかげで眠気が覚めたから拳は引っ込めることにしよう、命拾いしたな。

プシューッというエアー音と共に開いた扉をくぐり、ホームへと降り立つ。
周りを見れば、一般客に交じって麻帆良の制服がチラホラと見受けられる。同じ電車だったんだな。
集合場所の新幹線乗り場前に近づくにつれ、駅構内の麻帆良率が急上昇していく。まだ集合時間より1時間以上前だというのに、みんなヤル気満々じゃあないか。あ、俺もか。


そんな駅中で最も黄色い喧騒に満ちた場所であろう改札前に到着。流石に先生方はもう来てるな。周りに迷惑がかからないように見回っているみたいだ。

と、そこに見慣れた背中達を発見。そして噂のちっちゃい赤毛君も傍に居た。
揺れるチョンマゲを切り落としたい衝動を抑え込んで、ごく自然に話しかける。



「うぉっす」

「あ、ミサトさん!おはようございますッ!」
「おはよ、ミサト」
「おはよーさん」
「おはようございます、総統」


ネギ、元気があって大変よろしい。スーツであることに眼を瞑れば、完全に遠足に行く子供にしか見えない。
その肩には白い影、そうカモだ。人目を気にしているのだろう、声に出さずにビシッと挨拶してきた。兄さんおはようございやすッと聞こえてきそうだった。


「張り切ってんなーネギ」

「ハイ!待ちきれなくて始発出来ちゃいました!」


・・・それは張り切り過ぎではなかろうか。


「ネ、ネギせんせー・・・お、おはよう、ござい、ます・・・」

「あ、宮崎さん、おはようございます!」

「は、はうぅ・・・」


何処からか蚊の鳴くような挨拶が聞こえてきたと思ったらノドカだった。ハルナとユエに背中を押されながら絞り出した声だったようだ。
ネギのこれ以上ないくらいの爛漫な笑顔で返された挨拶を受け、恥ずかしガール・ノドカはシュボッと紅くなってしまう。・・・ガンバレ。


「おっはよーみんな!ミサト君もおはよ!」
「朝からテンション高いですねハルナ・・・あ、おはようです」
「早上好!」
「にんっ」

「うす」


その他の図書館部員と、ちょうど到着したバンド仲間にも軽く挨拶。餞別に肉まんを貰った、1個120円也。
ノドカはもうイッパイイッパイだからそっとしておく。ヘタに話しかけると心臓止まるかもしれないし。いい加減俺に慣れて欲しい。
しかし、なんでコイツらこんなに早く来てんだろう。普段は遅刻スレスレとかザラらしいのに。

みんな浮かれてんなぁ、コレも旅行の魔力か・・・。


「京都・・・仏閣・・・古都が私を待っている・・・」
「ああ、マスターが嬉しそう・・・」


・・・魔力に取り憑かれたヒトがココにも居た。自分の荷物を全て従者に預け、意識が旅行先に先走っているエヴァさんがよだれを垂らしながら悦に浸っている。
この人は古き良き日本の文化とかが大好きなんだ。囲碁やら茶道やらの趣味からもソレが窺い知れるだろう。

ネギ曰く、自分が来た時にはもう居たらしい。一番浮かれてるのはこの人かもしれない。
・・・そっとしておこう。



「・・・見てたよ、ニノ」

朝の挨拶が一段落ついた所で、後方より俺の二つ名を呼ぶ声が。振り返ってみれば、見慣れた級友2人が恨めしそうな顔で背後に佇んでいるではないか。
その姿を見たビビりっ娘ノドカはハルナの後ろにサッと隠れてしまった。知らない男に敏感な奴だ。家猫かオマエは。


「テメェ、またイチャついてやがったのか・・・」
「油断も隙もないね・・・」

「黙れボンクラ共」


イチャついてなどいない。どっからどう見ても爽やかな朝の風景じゃないか。
文句をたれる前にオマエらも挨拶しんさい、マナーですよ。

そんな俺の忠告を以外にも素直に受け入れ、挨拶すべくズズイッと俺の身体を押しのけ前に出る2人。『格好のアピールチャンス!』と言わんばかりだ。


「おはようございます、カイリの“親友”の九十九大地です(キリッ)」
「同じく、八谷青雲です。以後お見知りおきを(キリリッ)」

『出来うる限りのイケメンフェイスで挨拶』という涙ぐましい努力をする2人だが、いかんせん無理やり二重瞼にしようとしているので傍から見ると大変気色悪い。
そんなガンバリ屋さんに対する女どもの反応は、可も無く不可も無い感じ。気色悪がられはしなかったが、特に意識されもしなかった。女って残酷さ。


「おいカイリ、もっと俺達を売り込めよ!」

「知らねぇよ、オマエらがっつき過ぎだっての」

「黙らっしゃいッ!オメェには俺達の栄光の架け橋になって貰わなきゃ困るんだよ!」
「そうだよ、僕達だって彼女を自転車の後ろに乗せて長い下り坂をゆっくり下っていったりしたいんだよ!!」


そんな期待されても困る。そんなにモテたきゃ2人で路上ライブでもしてくれ。

そんなコイツらの飽くなき野望は放っておくとして、他の班員を姿を探そうと周りをキョロキョロと見回してみる。
ちなみに俺達は4班。班員は5名、班長はダイチ。


「他の2人はどうした?」
「バイソンなら鉄道博物館関係のお土産コーナーに居るよ」
「エドワードは本屋覗いてると思うぞ」


やっぱもう来てんのか、感心感心。欠席も無くてなりよりだ。


「総統のクラスにも留学生がおるん?」
「いんや、ただのあだ名だ」


バイソンは『梅村 潮うめむら うしお』、エドワードは『江戸川 文章えどがわ ふみあき』っていう名前なのさ。2人ともバリバリの日本人だ。
・・・どうでもいいな、この情報は。


―――ふと、背の低いネギ坊主に視線を向けてみると、背広の一部分を何やら入念に確認している。多分、親書が入ってるんだろう。

ふむ、ここは1つネギに激励の一言でも掛けてやりたいところだが・・・、一般人も居るし、無理そうだな。
そんじゃ、最低限の事だけ言っとくか。


「そいじゃ俺はこの辺で。・・・ネギ、頑張れよ」
「ハイ!」


去り際にネギの頭を数回撫で廻し、班員2人と共にその場を後にする。俺も頑張んなきゃな・・・。


・・・とりあえず、俺も時間が来るまで本屋でも覗くか・・・。























――――午前9時40分。
出発の10分前となり、点呼と共に生徒達が続々と新幹線・あさま506号に乗り込んでいく。

・・・ここで女子3-A・全6班の班割りを説明しておこう。


―――まずは1班。

「やほー!」
「楽しみですー!」

班長・柿崎他、チア部2人と鳴滝姉妹の計5名。元気いっぱいの1班。



―――続いて2班。

「肉まん、どうかネ?」
「どんどん喰うとよろしアルよ!」

班長・古菲他、忍者1人に【超一味】の3人の、合わせて5名。怪しさ全開の2班。



―――お次は3班。

「ささ、ネギ先生。グリーン車を借り切ってありますので、2人っきりでゆっくりと・・・」
「あらあら、あやかったら」

班長・あやか他、その同居人2名とカメコと眼鏡とピエロで6名。ごった煮の3班。



―――今度は4班。

「乗る前から酔うなんて・・・弱いなぁ」
「ちゃうねん・・・肉まん美味しくて食べ過ぎた・・・うぷっ・・・」

班長・裕奈他、運動部系3人とスナイパー1人で5名。1人を除き比較的まともな4班。



―――そして5班。

「ほらのどか!ネギ君に『自由行動、一緒にどうですか?』って!」
「で、でも・・・」

班長・明日菜他、図書館部5人・・・

「くっ・・・あそこでチョキを出していれば・・・!」
「せっちゃん残念さんやー」

・・・から、人数配分やその他の関係で刹那があぶれて計5名。注目度の高い5班。



―――最後に6班。

「コレが新幹線・・・コレで京都に・・・(キラキラ)」
「ああ、マスターがとても嬉しそう・・・」

班長・刹那他、エヴァンジェリンと茶々丸、そして・・・

「うぅ・・・、なんで私この班なんスか・・・?」

・・・静かな悲鳴を上げている短髪少女『春日美空』を含めた4名だ。

そう、何を隠そうこの美空という娘は見習い魔法使いなのである。
まぁ魔法使いと言っても親の意向で習っているだけであり、本人は不真面目そのモノ。まるでやる気ナッシングな感じである。
面倒事は御免被るらしく魔法関係に関わることや正体がバレることを嫌い、魔法先生以外では彼女の正体を知る者はあまり多くない。
その数少ない人物の中には、エヴァンジェリンなどが含まれる。

本当は無難に2班辺りに入るつもりだったのだが、今回の修学旅行は【闇の福音】エヴァも同行するし、ネギの任務や木乃香の護衛など内容盛り沢山だ。
そのため上司に当たるシスターやその他の思惑により、有事の際に動きやすいよう “裏”関係者として6班に固められたのだ。美空、あわれなり。
なら真名はどうなんだと言えば、依頼料金が馬鹿にならないので保留にされていた。

そう云う訳だから、ジャンケンに勝っても負けても結局、刹那は6班入りが決まっていたのだ。刹那、不憫な子。

それと6班には、あと1人女子生徒が入って5名となる予定だったが、“欠席”のため4名となった。名前は・・・そのうち分かるだろう。


でもまぁ、自由に動けるように固められたワケだから、憂鬱なのは今だけだ。
他の班員達とどっかにフラフラ出掛けても別に問題は無いから、それぞれ好きにやるだろう。具体的には、2班に逃げ込んだり5班と合流したり知ったこっちゃなかったり。























「――――ふむ、特に問題なしっと・・・」


東京駅到着後、あさまからひかりに乗り換え一路京都を目指す麻帆良中等部御一行。
ひかりに乗車してしばらくはクラスメイトと大貧民とかして遊んでた俺であったが、頃合いを見て『便所行ってくる』と言い訳して席を立った。
己に課せられた任務を遂行するため、平たく言えば見回りをするためである。

とりあえず自分達が乗っている席より前の車両をいくつか見て回ったが、特に細工されているよな形跡は見当たらない。
まだ西の刺客は乗り込んできていないのだろうか・・・?

そんな感じに列車の連結部の確認をする俺の背後に何やら気配が。くるっと振り返れば、年中顔つき合わせている幼馴染の姿があった。
夕凪を携えている辺り、コイツも見回り中なんだろう。というか、よくそんなモノ車内に持ち込めたものだ。


「何かおかしな点はありましたか?」

「特になしだ。ソッチは?」

「後ろの車両も見て回りましたが、異常は見受けられません」


ならひとまず安心、といったところか。なるべくなら何も起こらなければそれに越したことは無い。2人してほっと胸をなでおろす。


「コノカはどうしてる?」

「皆さんとゲームして遊んでいます。刺客の影も見当たりませんし、とりあえず安心かと」

「まあ、同じ車両に【闇の福音】が乗ってんだから、何かあっても大丈夫か・・・」

「エヴァンジェリンさん、発車してから窓に貼り付いて微動だにしてませんよ?」

「・・・楽しんでくれて何よりだ」


コノカと親書の護衛をいっぺんにやらないといけないのが辛いところだ。気苦労が絶えないよ。いざとなったらコノカ優先なんでヨロシク。

でもまぁ一般客も居ることだし、流石に列車内で大騒ぎを起こすような真似はしないか・・・


『―――・・いやー・・・!――――』
『―――・・・なんで・・カエ・・・がー・・・!?――――』


・・・と思ったら、なんか後方車両から俄に黄色い悲鳴が聞こえてくるではないか。

何事か!?と、急いで戻ろうとした俺達の前に、車両の扉の隙間から一筋の影が飛び込んできた。
正体はツバメ・・・いや、式神か!

間髪いれず、セツナが瞬間的に抜刀し飛来する式神を両断する。
真っ二つにされたツバメ君は元の和紙へと戻り地面へヒラヒラ、そのツバメが咥えていたらしき封筒は宙を舞い、振り上げた俺の手に収まった。ナイスキャッチプリキュア。

手にした封筒を見てみれば、見覚えのある蝋の刻印で封がしてある。麻帆良学園が公的に使用する封蝋だ。
てことは、コレは学園長がネギにも持たせた親書か・・・。

導かれる解答は2つ。西からの刺客がこの列車内に居ること、そしてネギがその刺客に親書を奪われかけたってことだ。
おそらくさっきの騒ぎで場を混乱させ、その隙に奪い取られたんだろう。

・・・ちょっと心配になって来た。大丈夫かよネギ、浮かれ過ぎだぜ。


「あっ、刹那さん!ミサトさんも!」


そこに息を切らせて式神を追ってきたネギ登場。定位置のようにカモが肩に乗っている。


「ほらよ、これオマエのだろ?」

「あ、僕の親書!ありがとうございます!」


ペコペコ頭を下げるネギに親書を手渡す。もう盗られんじゃねえぞ?

だがコレで、少なくとも友好条約締結に対する妨害の方は仕掛けてくることがわかった。
杞憂で終わるというワケにはいかなそうだ。俺も気を引き締めないと・・・。


「気ィつけろよ?向こうに着いてからもっと大変になるんだからな」

「は、はい・・・」


もう少し何か言いたげなネギだったが、その前にアスナが何事かと駆け込んできたため会話は中断。
どうやらアスナは、今回の任務について何も知らされてないようだ。余計な心配させまいというネギの配慮だろうか。
何も起こらなければそれで良かったが、そうも言ってられなそうだ。アスナにも話しておいた方がイイかもな。


「遊んでないで手伝ってよ、亜子ちゃんとか楓ちゃんが卒倒しちゃって大変なんだから!」

「カエデが?何があったんだよ?」

「カエルがアッチコッチからピョコピョコ出てきたのよ、108匹も」


あの手練のカエデがノックアウトされるなんて一体何が、と思ったら納得の理由が帰って来た。相変わらずのカエル嫌いだな。
というか、なんだそのふざけた妨害は、舐めとンのか?

それはそうと、近くに刺客が居るやもしれないとなると、もう少し捜索したいところだ。
だが便所に行くと言ってからだいぶ時間が経つし、そろそろ戻らないと拙そうなので、事後処理と安全確認をセツナに任せ級友たちの元へと戻ることにした。

・・・雲行きが怪しくなってきたな・・・。










「ふう、よかったぁ。ミサトさんが親書を取り返してくれて」

「・・・兄貴、コレ見てくれ」

「え?・・・コ、コレって、さっきの鳥の式神!?」

「兄さん達は確か京都から越してきたって言ってたよな・・・。もしかすると、あの2人は西のスパイなんじゃ・・・」

「そ、そんな!?ありえないよ、皆とも凄く仲がイイのに!」

「・・・だよな、勘ぐり過ぎッスよね・・・」


実は学園長、ネギに任務を言い渡す際にミサトの事を伝えておくのを忘れていた。
ネギは知ってか知らずか、カモの意見を否定する。だがカモの中では、初めてミサトに会った時に感じた疑念が再び首をもたげていた。


―――――本当に、信じていいんですかぃ、兄さん・・・―――――










「マスター、放っておいてもよろしいのですか?」

「ああ、私が手を出してはいろいろと面倒だからな。それに私は観光に来たんだ。面倒事はアイツら任せて、心行くまで楽しませてもらうとするさ」

「承知しました」

「・・・まあ、旅初めに少々ケチがついたからな。私の安息のためにも手を貸してやらんことも無い、か」

「では、どうするのですか?」

「私に直接チョッカイ掛けてきたら捻りつぶす。あとは・・・腕が斬り飛ばされるくらいヤバくなったら助けてやるとしよう」


――――こんな物騒な話してる間も、窓を流れる風景から決して目を離さないエヴァンジェリンであった。























「京都ぉーーーっ!!」


ハイその通り、ココは京都。そして今わかりきったことを叫んだのは女子3-Aの生徒さんです。
あの騒ぎの後はつつがなく旅行は進行し、我ら麻帆良学園中等部一行は無事京都の地を踏んだ。そして今居る場所は、飛び降りる舞台でおなじみの清水寺である。

ウチの学校の修学旅行は基本的に生徒のしたいようにするシステムだ。
京都到着後にバスで清水寺に直行するまでは全クラス共通だが、その後は各クラスごとに自由に行き先を決められるようになっている。ホテルもクラスごとにバラバラだ。

要するに何が言いたいかっていうと、旅行初日は男子も女子もほとんど同じ道筋をたどるということだ。
一応は団体行動が原則だけど、現に仲好さげに歩いてる制服男女とかをチラホラ見かける。
おかげでそれほど違和感無く護衛ができるってモンよ。近距離にセツナが付き、やや離れたトコに俺がついて周囲を監視する。完璧じゃあないか。


――――しかしまあ、ココに来るのも数年ぶりだけど、改めてるとホントにイイ眺めだ。なんだか感慨深いよ。
前に来たのは、確か小4の遠足の時だったかな?3人で並んで景色をバックに写真を撮ったのを覚えている。

地元ってのはそこかしこに想い出が転がってるから飽きが来ない、たまの帰郷もいいもんだ。


「そーとー!写真撮ろ写真!!」
「わーった、わーったから袖を引っ張るな!」
「このちゃん、走ったら危ないですよ!」


その辺に居る奴にカメラを頼み、あの時と同じ立ち位置でパシャリッ。
また1つ、想い出が追加された。

その様子を視線で貫くように、ウチのクラスの迷える子羊共が恨めしそうに見てた。その後ソイツらにポカスカしばかれたが、やられた分はやり返したので問題ない。


「・・・・・(ホロリ)」
「マスター、ハンカチを・・・」
「・・・ああ、スマン茶々丸」


そんな騒ぎなど気にも留めず、日本人よりも日本人らしい感性を持ったブロンド幼女は、清水の舞台の上で美しき古都の風景に涙していた。
ココまで喜ばれると、逆になんか怖い。


――――ココで旅行イベントの1つ、クラス単位で境内を背に集合写真を撮ることに。先に女子クラス、次に男子クラスだ。

順々に1クラスずつ撮影するため、俺達のクラスが撮り終わる頃には既に女子3-Aは隣の地主神社へと進んでしまっていた。早く追わなければ。

なるたけ自然にクラスの奴らをせっついて地主神社に向かうと、縁結びで有名な恋占いの石の片割れを発見した。
確か、目ぇ瞑って向こうっ側の石に辿り着ければ恋が叶うんだっけか?
ソイツはイイ、面白そうだと挑戦しようとするダイチ他数名。やるのはいいけど成就したい相手なんかいるのかオマエら?


・・・と、男共が無駄に終わりそうな儀式を始めようとした時、何の気なしに向かいの石に視線をやった俺の眼に、おかしなものが入り込んできた。

おかしなモノ、ソレは石と石との間の道にぽっかりと開いた穴だ。なんだこりゃ、前来た時はこんなん無かったと思うけど・・・。
この難所を掻い潜った者だけが恋をつかめるとか、そういう神社側の世相をもじった粋な計らいだろうか?

ダイチ達にアブねえからやめとけと言おうとしたその時、聞き覚えのある慌てふためいた声が更に先の方から聞こえてきた。ネギの声だ。
あっちには確か“音羽の滝”とかいうありがたい名所があるハズ。なんかあったのか?

心配になり、クラスメイトを残して急ぎ足で現場に向かうと・・・・




「いいんちょさん起きてください!バレたら旅行中止の上に停学ですよ!」


・・・ユエがノビているアヤカの胸倉を掴んで往復ビンタをかましていた。なにがどうしてこうなった?

よく見ればノビているのはアヤカだけではない。女子3-Aの大半が新橋のサラリーマンのように顔を赤らめ、折り重なってぶっ倒れていた。死屍累々とはこのことだろうか。

ネギと共に奔走するセツナを捕まえて事情を聞いてみる。俺のいない間に何があったんだ?


曰く、恋占いの石の道にある穴は西の刺客が用意したトラップであり、中にはまたカエルが仕込まれていた。そして今度はこの音羽の滝にも罠が仕掛けられていたというのだ。
学業・健康・恋愛に効果のある3本の滝の内、お年頃の女生徒達は恋愛の滝に殺到。そして滝の上流から混入されていた酒によって酔い潰れてしまったとのことだった。
ちなみにコノカとセツナは健康の滝に並んだため無事だったんだそうな。

・・・なんなんだ、このしょっぱい妨害は・・・。


流石にこのままでは修学旅行が中断されかねないため、ネギがどうにかこうにか他の教員たちを誤魔化している間に、酔い潰れた生徒達をバスに運ぶことになった。
集合時間も近いことも幸いし、苦しいながらもなんとか誤魔化し通せたようだ。

男手があった方がいいだろうと思い、クラスの連中に適当な理由を付けて手伝わせる。『ココで頑張れば好感度アップだ!』とか言ったら、あっという間に運び終わった。




「ったく、西の連中は何考えてんだか・・・」

「・・・兄さん、訊きてぇことがあるんスけど」


ダウンしたA組女子の貸切バスの傍で1人ごちていると、何処からかカモがやって来て俺の肩の上に登って来た。
なんだよ、訊きたいことって?


「兄さんは、今回の件にどう関わってんだ?」

「どうって・・・学園長から聴いてねえのか?ネギの親書受け渡し任務のフォロー役だよ」

「・・・へ?そうなんスか?」


知らなかったのかよ。学園長の奴、ちゃんと伝えといてくれよ。


「え、えと、兄さんは京都から来たんだろ?もしかして、西の連中と繋がりがあるんじゃ・・・?」

「ああ、小学校卒業するまで呪術協会に世話ンなってたからな」

「そ、そッスか・・・・・・あれ、こんなあっさり・・・・?」

「? なんだよ、ブツブツ言って?」

「あ、いや!な、なんでも!」


そういって慌てた様子でヒョイッと肩から降り、バスの中へとチョコチョコ戻っていった。
なんだ、歯切れの悪い奴だな。


なんだか胸にモヤッとしたモノが残ったまま集合時間となり、俺達を乗せたバスは宿泊先のホテルへと向かうのだった。
俺らは烏丸のホテル、コノカ達は確か嵐山だったハズだ。・・・ちょっと距離があるのが難点だな。




――――まだ修学旅行は始まったばかりだ。



















「て、点呼取ります!全員居ますかー!?」
「・・・アレ? ネギ、エヴァちゃんと茶々丸さんは?」
「あ、あれ!!?」





「・・・ずっとこうしていたいな・・・」
「ああ、マスターが最高にうれしそう・・・」


―――――まだ舞台で浸っていた。いい加減正気に戻れ。










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


修学旅行・・・中学も高校も京都でしたが、何か?どうも私です。

今回は修学旅行1日目・昼の部です、導入部だと思ってください。

次回は修学旅行1日目・夜の部。バトルするかもね。










[15173] 漆黒の翼 #28
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:ab670fa7
Date: 2010/07/28 22:00
――――ココは、ホテル嵐山。修学旅行中、女子3-Aが宿泊することになっている旅館である。

そして最大のウリとも言える露天風呂で現在湯につかっているのは、クラス担任たるネギと使い魔のカモ。
両者とも頭に濡れた手ぬぐいを乗せ、一日の疲れを癒している真っ最中。

特にネギは親書受け渡しの妨害を仕掛けてくる刺客に悪戦苦闘。その策略にまんまとはまった生徒達の後始末やら何やらで疲労困憊の極みだった。

せめてこの一時くらいは任務を忘れ、屋外ならではの柔らかな湯と爽やかな風とが織りなすハーモニーを楽しんでいたい所であったが―――――



「ミサトさんが呪術協会と繋がってるってホントなの!?」

「ああ、確かな情報ですぜ」


――――自らの使い魔がもたらした情報により、そうもいかなくなってしまった。

議題の中心は、疑惑の男・一海里。新幹線での一件以来、カモがスパイじゃないかと疑ってかかっていた人物だ。

ネギとしては、付き合いのある兄貴分を疑うなんてことは出来ないし、したくなかった。
躾け的な意味で拳骨を喰らったり痛い思いをさせられたことはあるが、それでも彼は友達思いのイイ人というイメージの方が強く、スパイだなんて到底思えなかったのだ。

だが、カモの情報に間違いは無い。なにせ本人の口から直接聞いたというのだから。
流石にネギにも多少の疑念が生じてしまう。一体これはどういうことなんだ。

2人の間で『一海里スパイ説』が急速に膨らんでいく・・・・・が、


「・・・でも、わざわざスパイ本人が『敵と繋がってまーす』なんて言うかな?」

「そうなんスよねぇ、いくらなんでもそんなマヌケなスパイ居ねえよなぁ・・・」

「僕の任務のフォローに廻ってくれてるって言うし・・・・やっぱりミサトさんは敵じゃないと思うんだけど・・・」


「「うぅ~~~~ん・・・・」」


謎は深まるばかり。結論のケの字も出てこない。

ネギの方はミサトを信じる方向に落ち着きそうであるが、カモはまだ腑に落ちない様子であった。
カモも内心、8割方はこの少年の言う通りだと思っている。ミサトという男は眼付き以外は悪いようには見えない。信じるに値する存在ではないかと感じているのだ。

だが残り2割、一番最初の疑念がどうしても払えなかった。
なぜ彼は【闇の福音】の封印を解いたのか、なぜあそこまで協力的だったのか、彼女と手を組んで一体何を考えているのか。
カモは、ミサトに出会ったあの日の疑問の答えが出せなかったのだ。


こうなったら本人かその幼馴染達かに直接問いただすしかないか、という方向に収まろうとしたその時。


「露天かー、楽しみね」
「あ、ちょお時間掛かるから、せっちゃん達は先に入っとってええよ」
「私付き合うわ、刹那さん先行ってて」
「では中で待ってますね」


脱衣所の方から、自分達のよく知る乙女達の賑わいが聞こえてくるではないか。

「え、なんで!?入口は男女別だったのに!?」
「こういうのを混浴って言うんだぜ!」

なんてテンパってる間に、タオルと野太刀を携えた刹那嬢が入湯してきてしまった。
とにかくこれはマズイという一心で手近な岩陰に隠れる2人。

そこから、そっと少女に様子を窺う。



――――細身で小柄な体躯ながらも、引き締まった腰回りに、スラリとした手足。

――――桶から流れる湯を受け、ほのかに紅らむ色白の肌は、雫をはじいて艶を見せる。

――――その姿は、まさに大和撫子。桜咲く刹那の美。



そんな少女の裸体を前に、カモはムフフと鼻息荒くし、ネギはホヘーっと見惚れてしまう。

・・・が、ある少年の恐ろしい形相がネギの脳裏を駆け抜け、すぐさま両手でその眼を覆い隠して岩陰で縮こまってしまった。
主人の挙動に疑問を抱いたカモミールは、小声で囁きかけてみる。


(どうしたんだよ兄貴、恥ずかしがんなよ。覗かにゃハド損だぜ?)
(ダ、ダメだよカモ君!刹那さんの裸を覗いたなんてバレたら、ミサトさんに殺されちゃうよ!!)

――――今のネギは、ミサトの死刑宣告が何より恐ろしかった。



「・・・西の妨害もエスカレートしてきたな・・・」


ふと少女が呟いたその言葉にピクッと反応するカモネギ。
自分達の欲しかった情報が聞けるかもしれないと、耳元に手を添えて立ち聞きを敢行する。


「今夜あたり仕掛けてくる可能性もあるし・・・、後で総統に連絡を入れないと・・・」


聞き漏らすまいと、眼を固く閉じたまま耳に神経を集中させるネギ。

・・・が、ソレがいけなかった。


「! 誰だ!!」

耳をそばだてるあまり、気配を殺すことをすっかり忘れてしまったのだ。

ヤバい!と思ったが、時すでに遅し。
刹那は抜刀の態勢に入り、【斬岩剣】の居合斬り一閃でネギの隠れていた岩を両断してしまったのだ。恐るべき切れ味だ。

すかさず追撃を試みようとする刹那の眼に飛び込んできたのは、攻撃の余波で湯船に落っこちたカモと、



「ご、ごご、ごめんなさいイィ!!ワザとじゃないです!!覗くつもりは無かったんです!!!」
「ネ、ネギ先生・・・?」


両掌で自らの視界を塞いで平謝りする担任教師の姿だった。

刹那は思わぬ侵入者にしばし呆然とするも、ハッと我に返りバスタオルで肢体を隠し、夕凪を鞘に収める。

ネギは未だ目隠し状態で丸くなっていて話せる状態じゃなさそうなので、底に足が着かずアップアップするカモを夕凪で拾い上げ話を聞くことにした。


「えっと・・・、大丈夫ですか、カモさん?」

「お、溺れるのなら、せめて下着の山で・・・」


なんかコッチもダメそうだった。
一体どうしたものかと、刹那が打開策を講じようとした、その時――――



「ひゃあああああああああああああッ!?」


均衡を破ったのは悲鳴。しかも、コレは間違いなく木乃香の声だ。

悲鳴が耳を穿った瞬間、刹那は一も二も無く駆けだしていた。
考える時間が惜しいとばかりに、夕凪にカモをへばり付かせたままその場を放って脱衣所に向かう。

刹那に数瞬遅れてネギも硬直から回復し、予備の杖を片手に急いで脱衣所に駆ける。
自らが受け持つ生徒の悲鳴、コレは只事ではない。大切な生徒のため、教師ネギは駆ける。


電光石火で脱衣所の扉を開いた2人の眼に飛び込んできた光景とは―――――



「あ~~、せっちゃん助けてーー!」
「なんなのよこのエロザル共はーー!?」


――――木乃香と明日菜が大量の手乗りサイズのおサルに下着をはぎ取られていた。

あまりの緊張感の無い光景に、ネギ、ボー然。

木乃香は治癒術に関しては結構な腕前だが、いかんせん攻撃魔法となるとサッパリなため迎撃ができない。
明日菜も羞恥が邪魔して上手くサルを振り払えない。

そして隙あらば木乃香を連れていこうとするやたら連携力の高い小ザル達。
連れ去るだけなら、案外隙の無い作戦なのかもしれない。


ただ今回の場合、隙があるとすれば・・・・



「――――このちゃんに何をするかこのサルどもオオオオオォォォッ!!!」

木乃香大好き木乃香っ子、鬼の刹那がココの居たことだろう。


「ダ、ダメです!おさるさんを斬「【百烈桜崋斬】ッ!!」って早っ!?」


斬ったら可哀そうだと言おうとしたネギが止める間もなく、一瞬にしてサル達は斬り捨てられ、紙屑の山へと姿を変えてしまった。
コレは生き物じゃなくて式神の仕業だと判りネギは安心する。ソレと同時に、刹那の戦闘技量の高さにも驚いた。ビックリした。おったまげた。


「このちゃん、ケガは!?」

「平気や、せっちゃんありがとーなー」


そして次の瞬間には、もう木乃香の元へと駆け寄って安否を確認している。なんという早業。


「な、なんだったのよ、今の・・・」

「アスナさん、大丈夫ですか?」


少しは私の心配もしてよ刹那さん的な視線を送りながらボー然と呟く明日菜に、手近にあったバスタオルを掛けて気遣いを見せるネギ。


「ちょっと、敵の狙いはネギの手紙でしょ?なんで私やこのかが襲われなきゃなんないのよ?」

「僕も判らない事だらけで、なんと言っていいやら・・・」


明日菜には、風呂に入る前に今回の任務について説明してある。というより、明日菜が明らかに事態がおかしいと勘付き、ネギに詰め寄ったため説明したのだ。
だがソレと今回の襲撃との関係性が全く掴めないので、ネギも明日菜もサッパリサッパリなのである。


「一度、キチンと説明の場を設けましょう」

刹那のその提案に異議が出るわけも無く、とりあえず後でロビーにて作戦会議をすることになり、全員その場を後にすることにした。




「・・・・あれ、カモ君は?」


――――さっきの騒動で吹っ飛ばされて、刹那の脱衣籠に頭から突っ込んでいた。苦しげだが、嬉しげであったそうな。























時は移って、ココはホテル嵐山ロビー。
消灯直前のため、出歩いている生徒をたしなめながらやって来たカモネギと明日菜。
それを脚立に乗ってホテルの入り口に式神返しの札を貼る刹那と、その脚立を下で抑える木乃香が迎える。

役者も揃った所で、総員ソファに座り顔を突き合わせる。まずは現状の把握からだ。


「――――というワケで、西にはこのちゃんの持つ膨大な魔力を狙う輩がいるんです」

ネギ側の事情はすでに把握しているため、しばらくは木乃香側の事情を一方的に伝える形となった。


伝えた内容は以下の通り。

・敵は関西呪術協会の呪符使い。単独か複数犯かは不明。
・狙いはネギの持つ親書、そして木乃香の身柄。重要度はおそらく後者の方が高い。
・元々ミサトと刹那は関西呪術協会に世話になっていて、木乃香の友達兼護衛としてずっと一緒に居たこと。
・ミサトは親書受け渡しのフォロー役も兼ねているが、木乃香の身に危険が及ぶ場合はそちらを優先するつもりであること。



「兄さんが言ってたのはそういう意味だったのか・・・」
「じゃあ2人が麻帆良に来たのも、このかの護衛のためなの?」
「でも、西から東に移ってきたってことは・・・」

「ええ、向こうからすれば、私達2人は西を捨てた裏切り者と見られているでしょうね」


明日菜らの問いに少し申し訳なさそうな表情を見せる木乃香だが、刹那は特に気負った様子も無く答える。
彼女から、いや、彼女らからすれば、どうってことない些末なことなのだから。


「そんなの私達には何の関係も無いことですよ。周りがどうこう言おうが勝手にしてくれって感じです」

西を離れる際に問われた覚悟。だが、そんなもの覚悟するまでも無い。


「それに・・・護衛のためじゃなくて、親友と別れるのが嫌だから一緒に着いてきただけですから」

「~~~~! せっちゃーーん!!」

「うわっぷ!?」


頼まれたからやっているわけじゃない。自分がそうしたかったから。
今こうして抱きついてくる女の子の笑顔を護りたかったから。
その笑顔の隣で、一緒に笑っていたいから。

だから、昔も今もこうしているのだと。



そんな一途な友情物語を聞かされたネギ達は感動の嵐。
知られざる親友達の新たな一面を垣間見た少年少女+αはヤル気爆発、味方と判れば協力は惜しまない。


「私達も力を貸すわ!アンタ達は茶飲み友達でバンド仲間で親友だもんね!」

「決まりですね!【3-A防衛隊ガーディアンエンジェルス】結成です!!」


イイ感じに盛り上がり、一致団結のために防衛隊結成を高らかに宣言するネギ・・・


「「ちょっとストップや(です)」」

「え、ダメですか?」


・・・の、そのハズだったのだが、京都組がコレに待ったを掛けた。


「いいアイディアだと思ったんですけど・・・」
「きっと名前が気に入らないのよ、かすかべ防衛隊と被るから」

「いえ、そうじゃなくてですね・・・」
「ウチらはもう組織に属しとるから、勝手に他の軍団に入ったらアカンのよ」

「組織、ですか?」


協力してくれるのは願っても無いことだ。
自分達を親友と呼んでくれる少女達には感謝の念が尽きない。それは解っている。


―――だが、ココは譲れないのだ。

幼きあの日に誓い合った、固い結束。
勇気で笑顔を護るために生まれた、3人だけの秘密結社。
その組織の“総統”の許可なしに、他の組織には入れない。

くだらないことかもしれないが、2人にとっては重要なことなのだ。


「なんですかぃ、その組織って?」

「ソレはなぁ、ひ・み・つ♪」

「えー、何でよ?」

「秘密だから、秘密なんです」


「「ねー♪」」

「「「?」」」


―――――“秘密”結社だから秘密なのだ、仕方あるまい。





「まぁとにかくよ、オレっち達もやれるだけのことはやるからなんでも言ってくれや」

「ありがとーなぁ」


お互いわだかまりが抜けた所で、臨時会議は終了となった。


「そういえば、エヴァちゃんはどうしたのよ?手伝ってくれないの?」

「エヴァンジェリンさんは名が知られ過ぎてますから、ヘタに動くといろいろ厄介なんです。ですから、よほどのことが無い限りは・・・」

「ふーん、なんか知らないけどケチくさいわね。あの子強いんでしょ?」

「いや、そう云う問題じゃ・・・」


「じゃあ僕、外の方を見回ってきまーす!」



刹那と明日菜が問答している間に、ヤル気が漲っているネギはホテルの出入り口へとダッシュで駆ける。そして肩にはカモ。
勢いがつき過ぎて、外に出た途端にホテル員の押したカートに激突してしまったが、そんなモノで少年のガッツが萎えることは無かった。



「あり?なんか忘れてるような・・・?」


そんなヤル気の塊のネギとは対照的に、肩に乗ったオコジョ妖精は何か聞き忘れたことがあったんじゃないかと頭を捻っている。
さっきまでの会話に、何かヒントがあったような・・・



――――私達も力を貸すわ!――――

――――ねー♪――――

――――そういえば、エヴァちゃんは?――――




「・・・・あ」


そうだ。一番最初の疑問がまだ残っていたではないか。


―――――“なぜ、一海里はエヴァンジェリンの封印を解いたのか”―――――


彼らの信頼関係に埋もれてすっかり忘れていたが、自分の疑問はその一点だった。

気まぐれ? 同情? わがまま? 策略? あるいはどれでも無い? あるいは全て?


「そのうち、もっかい訊いてみっか・・・」


カモミールは、ミサトを信用することに決めた。そして同時に、いつかこの疑念も払おうと決意した。










「・・・ふふっ、おーきになぁ・・・」


――――――そんな心情を知ってか知らずか、カートを押した“侵入者”はほくそ笑んだ。
























「――――この辺りだな・・・」


式神ザル襲撃の知らせをセツナより受け、宿泊先のホテルを抜け出した俺は、ホテル嵐山近くの渡月橋までやって来た。

ちょっと遠かったけど、氣で強化して走ってくればなんてことない距離だ。一直線に来たから電車使うより速いぜ。
ホテルにはもうセツナが侵入防止の結界を張ったハズだから、俺は周囲の見回りだな。


・・・敵さんも随分と大胆な動きしてきたな。ネギやセツナもすぐ近くに居たのに、直接狙ってくるとは思わなかった。
直に狙ってきたってことは、親書は二の次で本命はコノカってことか・・・

・・・何処の誰だか存じねえけどよォ・・・・アイツに手ぇ出すなら容赦しねえぞ・・・。



「――――あ、ミサトさん!」


握った拳を敵に見立てて睨みつけていると、やや離れた場所から聞き覚えのある幼声が。
視線を向けると、橋の向こうからトテトテ駆けてくるネギとカモの姿が見えた。


「見回りか?」

「ミサトさんもですか?」

「セツナから連絡貰ってな、さっき来たところだ」


だから厳密に言うと、まだ見回って無い。ホテルから直でココに来たからな。


「旅館抜け出して大丈夫なんスか?」

「平気だ、身代わり置いてきたから」


身代わりとは、陰陽術における呪符の一つ『身代わりの紙型』のことだ。紙に自分の名前を書けば身代わりの式神が現れるという優れモノだ。
ただ、多少人格面に難が出るというかなんというか、少々安定しない術式なので個人的にあまり使いたくない代物だった。

だがしかし、こうして宿を離れる以上身代わりは必要不可欠。
でも様子が怪しいと思われたらどうしよう。


・・・そんな苦悩の果てに辿り着いた渾身のアイディアが、“身代わり”と“分身”の合わせ技だ。

“身代わり”とは今説明した式神のこと。“分身”とは俺の使える術の一つ、忍法【写し身】のことだ。

式神は長時間の稼働が可能だが、反面、人格が安定しない。
対して【写し身】の方は、人格は俺そのモノだから何の心配もないが、形を保っていられる時間がかなり短い。

―――だったら、式神紙を媒介にして【写し身】の印を込めればどうだろう。

結果は見事に大成功。人格が安定し、かつ長時間稼働できる完全自立型の身代わりが出来上がったのだ。紙型はバッテリー代わりというワケだ。

これで旅館での身代わりは勿論のこと、クラスメイトを引き連れての京都案内まで安心して任せられるという訳さ。
しかも身代わりを消せば記憶は本体に統合されるという親切設計。俺って天才じゃなかろうか。

・・・ただ、人格と稼働時間を追求した結果、戦闘能力はかなり低くなってしまった。
それに、うずまき忍者みたく経験までは統合されないから経験値の倍々ゲームも出来ない。

まぁ、これ以上贅沢は言ってらんないから別にいいけどさ。



「ミサトさん、僕ガンバリます!一緒にこのかさんを護りましょう!」

「その申し出はありがたいけど、自分の任務も忘れんなよ?」

「モチロンです!」

「そうだ兄貴、今の内に仮契約カードについて説明しとくぜ。何かあった時に役に立つハズっスよ」


なんだかコイツら、やたらヤル気だな。ホテルでなんかあったのか?
ん?そういえば、何でコノカの護衛のこと知って・・・・・・・ああ、アイツらからなんか聞いたのか。




ネギがインストラクター・カモからレクチャーを受けている間、俺は周囲を見回し警戒態勢を取っていた。
敵が近くに居ることは間違いない。さっさと見つけ出してフルボッコにしてやらねえと・・・。

だが、辺りには人影らしきものは一切見当たらない。

こっちには居ないのか?なら、向こうの方を見廻って・・・・



・・・・待て、“人影が一切見当たらない”だと?


確かに今は外をうろつくには遅い時間帯だ。多くの人間は良い子じゃなくても布団に入ってお眠の時間、それは間違いない。
だが人はおろか車の音さえ無いなんて、いくらなんでも不自然ではないだろうか。夜分遅くとも、もう少し気配があってもいいハズだ。

まさかと思い、眼を皿にして周囲を捜索してみる。
すると視界の端に白いモノが映り込んだ。すぐさまその違和感の発信源、橋の欄干のうちの1本に駆けよる。

そこに貼られていたのは、1枚の札。
見覚えのあるその呪符、こいつは―――――――!!



―――――俺のネギの携帯電話が同時に鳴り響く。発信元はセツナ、ネギの方はアスナからだ。
このタイミングってことは、まさか・・・・!

すぐさま通話ボタンを押し、着信に応じる。


「俺だ、どうした!?」

《このちゃんが攫われました!!敵は既に旅館内に侵入していたんです!!》


―――――悪い予感が的中した・・・もっと早く来ていれば・・・!!


《今アスナさんと共に追跡中です!場所の確認を!!》

「必要ねえ!ちょうどソイツの逃走ルートの上だ!ご丁寧に人払いの結界まで敷いてやがっ――――!?」


そう、呪符の正体は『人払いの結界』。“裏”を知らない者の立ち入りを阻む見えざる柵。


――――そして今、三日月を背に現れたずんぐりとしたシルエット。


この状況で、この結界内に入り込めるのは、俺達の他には――――――――



「――――おやまあ、さっきはおーきに」



――――――気を失ったコノカを抱えて憎たらしく笑ってやがる、このクソッタレくらいだ!!



「コノカを返せゴラァ!!」


怒りと共に握りしめた拳を振りかぶり、渾身のナックルを叩き込む。
だが女はヒョイっと跳躍してかわし、空を切った拳は橋の欄干を砕いただけに留まる。
クソッ、振りがデカ過ぎた!


「威勢のええボーヤやなぁ、ほなさいなら~」


胸糞悪い挨拶と大量の小ザルを置き土産に、大猿の着ぐるみ着た女は再び跳躍し逃走を続行しようとする。
そうはさせまいと、ネギが呪文詠唱に入るも――――


「ま、待て!ラス・テル―――むぐぅっ!?」


例の小ザル達がネギの口を塞ぎ詠唱を阻む。残りのサル達は俺へと群がり、顔や手足にくっついて動きを封じにかかる。
女はその間にもどんどん距離を開けていく。


「鬱陶しいんだよテメェらァ!!」

纏わりつく式神のうちの2体を両手に掴み、無理やり氣を流し込んで固定化。ソレを思う様、ヌンチャクのように振りまわす。
武器と化した式神は次々と小サルを弾き飛ばし、飛ばされたサルがまた違うサルに衝突して連鎖的に消滅していく。

最後に両手に持った式神同士を思いっきり叩きつけ――――――オラァッ!終了ッ!!


「総統!!」
「ネギー!!」


サルを全て潰した所でセツナ達が追いついてきた。話をしている暇は無い、すぐさま追跡再開だ!


【来たれ】!!

追跡しながら呪文を唱え、2つのアーティファクトを顕現させる。イメージ通り、装着した状態でだ。

額には『滅殺』と書かれたバンダナ。
両手には翡翠色のコアが装飾された、籠手を思わせるダブルボウガン・ゲイルアークが装備される。
コイツは射撃も出来るし盾にもなる、オマケに拳を振るう邪魔にならないという優れモノ。俺のお気に入り武器の一つだ。


と、そんなこと言ってる間に憎きサルの後ろ姿を発見。どうやら近くの駅に逃げ込む算段らしい。電車で逃走するつもりか。

あんな目立つ姿で電車に乗るとかアイツは馬鹿なんだろうかと思ったが、追跡のため改札を飛び越えた所で納得した。
構内は灯りこそ燈っているものの、人影はまるで見当たらない。ココにも人払いの結界が敷いてあったのだ。
つまりコレは計画的な犯行、おそらく逃走用の電車を用意してあるハズだ。逃げ切られる前に追いつかないと!

案の定、ホームには無人の電車が停留しており、サル女はソソクサと乗り込んでいった。
逃がして堪るかと、俺達も飛び乗り追いかける。前の車両まで追い詰めりゃこっちのモンだ。


「ちっ、諦めの悪いガキどもやなぁ。しつこいお人は嫌われますえ?」

「テメェなんかに嫌われようが知ったこっちゃねえんだよ!!」
「お嬢様を返せ、デカザル女!!」


コノカを抱えながらコチラをチラチラ確認してふざけたセリフを吐くデカザル女。ついに追いついた。
一斉に突撃をかますべく跳びかかろうとする俺達をあざ笑うかのように、女はニヤニヤしながら車両連結部の扉を閉める。

その扉には1枚の呪符が貼り付いて――――――――まさか!?


お札さん、お札さん ウチを逃がしておくれやす


女が呪言を唱えた直後、札から荒れ狂う怒涛の水流が俺達目掛け吹き出した。


「わーーーっ!?」
「何この水ーーッ!?」
「ガボベボッ!?」


溢れ出る激流はあっという間に車両を水で満たし、俺達から行動と酸素を奪いにかかる。
ネギは水に飲まれ詠唱不可能、アスナも渦巻く水流に着衣を乱され身動きが取れない、カモにいたってはネギの服にしがみつくのが精一杯だ。
俺とセツナもなんとか体勢を保とうと、浮力や水圧と闘いながら必死に踏ん張る。


「ホホホ、水ン中じゃ武器も振るえんやろ?せいぜい溺れ死なんようになぁ」


俺達の耳に、扉の向こうに居る誘拐女のうすら笑う声が届く。






―――――テメェ・・・・エテ公のくせに何調子こいてんだよ・・・?―――――

―――――貴様・・・・誘拐犯の分際で何を笑っている・・・?―――――


―――――コノカをさらってどーすんのかなんて知らねえ、けどな・・・―――――

―――――私達の親友を奪おうというのなら、相応の覚悟してもらうぞ・・・―――――



―――――“溺れ死なんように?”・・・・ふざけんな・・・―――――

―――――“武器が振るえない?”・・・・甘く見るな・・・―――――



―――――・・・・俺達が・・・・―――――

―――――・・・・私達が・・・・―――――






――――――――この程度で止まるわけ無いだろデカザル糞女アァァッッ!!!



【斬空閃】ッ!!
荒鷹アラタカ】ァッ!!!


声に出ない咆哮と共に放たれた、真空の刃と猛禽の爪。
その一撃は俺達の意思に呼応するかのように一直線に飛び、水流を斬り裂き、呪符を扉ごと貫き、壁諸共ぶち抜いた。

人を呪わば穴二つ。
ぶち抜かれた大穴から溢れ出た大量の水は、決壊したダムの如き濁流となってサル女に襲いかかった。ざまぁ見やがれってんだ。


一車両を満たしていた水が二車両で半々になった所で、突如乗車口が開き、俺達やサル女は水と一緒にホームに流れ出た。
知らぬ間に敵の目的の駅まで来ていたようだ、ってココ京都駅じゃねえか。


「しつっこい奴らやなぁもう!」

「ゲッフェッ、あ、テメェこら待ちやがれ!!」
「ゲホッゴホッ、いい加減に嫌がらせはやめろ!!」


往生際の悪い誘拐女、再びコノカを抱えて逃走を図る。
やっぱりココにも人払いの呪符が貼ってある。最初っから計画済みってワケかよ。クソっ甘かった、もっと警戒しとくんだったぜ!

だが反省は後だ、今はコノカ奪還が最優先。ネギ達には悪いが、俺とセツナはスピードを上げて追いかける。

・・・・待ってろよ、コノカ!!





「ようやく追い詰めたぜ、デカサル女!!」
「このちゃ・・・お嬢様を返してもらうぞ!!」

「よーココまで追ってこれましたなぁ・・・・」


追いかけっこも大詰め、ついに京都駅ホームの大階段中央にまで追い詰めた。誘拐女は着込んでいたサルの着ぐるみを脱ぎ捨て、眼鏡に付いた水滴を払っている。
そしてその冷たく光る眼をした女の傍らには、我が組織の幹部・コノカが横たえられていた。


「あ、アナタはホテルの従業員さん!?」
「新幹線に居た売り子じゃねえか!」
「おサルが脱げた!?」


そこにようやくネギら3人が追いつき、それぞれが驚愕の声を上げる。

・・・なるほど、ホテルの従業員に化けてコノカをさらったってワケだ。新幹線での騒ぎもコイツの仕業か。
あとアスナ。そりゃ脱げるだろ、常識的に考えて。


「ワラワラワラワラ増えよってからに・・・・けど、それもココまでですえ」


水にぬれた黒の長髪を揺らしながら、女は身につけているエプロンのポケットから1枚の呪符を取り出す。また妨害する気か!?


お札さん、お札さん ウチを逃がしておくれやす

「「させるか!!」」


呪文が完成する前に潰さなければ!俺とセツナは同時に飛び出す。
だが、ソレを阻むにはあまりにも距離があり過ぎた。突撃は間に合わず、無情にも術式は完成してしまった。


「喰らいなはれ!【三枚呪符・京都大文字焼き】!!

「うあっ!?」
「あっづ!?」


放たれた呪符は巨大な炎塊となり、文字通り『大』の形を取って俺達の行く手を塞いでしまったのだ。

なんとかギリギリで踏みとどまり負傷こそしなかったものの、コレでは先に進めない。
消そうにも、規模がデカ過ぎて消火に時間が掛かり過ぎてしまう。


「並の術者じゃその炎は超えられまへんえ?ほなさいなら」


そんな俺達を尻目に、女は三度コノカを連れ去ろうと準備にかかっている。
くそっ、このままじゃ・・・・・!!



ラス・テル・マ・スキル・マギステル―――――

――――――救世主は、俺達のすぐそばに居た。


――――吹け、一陣の風【風花・風塵乱舞】!!


小さき魔法使いネギが唱えた呪文により生み出された、強烈な突風。
その乱れ飛ぶ嵐が、眼の前の大文字の炎をすべて掻き消したのだ。


「な、なんやて!?」


突風の余波から顔を庇う女に、これまで見せなかった驚愕の色がありありと浮かんできた。
まさかこんな子供に、この強力な呪符を無効化されるなんて思ってもみなかったのだろう。

ぶっちゃけ俺もビックリしたし。アイツ、こんな強かったんだな・・・。


そんなことは知ったこっちゃないとばかりに、未だ驚愕冷めやらぬ誘拐女をキッと睨みつけ、ネギは言い放った。


「逃がしませんよ!このかさんは僕の大事な生徒で・・・・大切なお友達です!!絶対に逃がしません!!」


・・・オマエがこんなに頼もしく見えたのは初めてだよ。
恩に着るぜ、おかげで気分に余裕が持てた。

ネギは真面目な表情を崩さず、右手に杖を、左手にアスナとの仮契約の証を構える。


【契約執行180秒間、ネギの従者〈神楽坂明日菜〉】!!


ネギからアスナへ魔力供給が開始され、アスナの身体は薄っすらと光を帯びる。身体強化の証だ。


「アスナさん!パートナーだけが使える専用アイテムを出します!受け取ってください!名前は『ハマツノツルギ』、多分武器です!!」

「武器!?ミサトみたいなやつ!?よ、よーしネギ、寄越しなさい!!」

「いきます!【能力発動!!〈神楽坂明日菜〉】!!


アスナもミサトに倣って専用の武器を呼びだしてもらおうと、威勢よく返事をする。
瞬間、投げられたカードが光を放ち、その姿を変えていく。

そしてその武器は、無事アスナの手中に収まった。


―――――グリップの効いた持ち手。

―――――威力の期待できる、重量感のあるボディ。

―――――そして、見事に折り揃えられたスチール製の蛇腹。



「・・・ハリセン?」
「ハリセンだな」

「な、なによこれーーーー!!?」


どの角度から見ても、何処に出しても恥ずかしくない立派なハリセンだった。持っている本人は恥ずかしそうだが。


「ちょっと、コレただのハリセンじゃない!こんなんでどうやって戦えってのよ!?」


大丈夫だアスナ、ハリセンは希少価値が高いんだ。ロイドのハリセンとかメッチャ高価なんだからな。アレ結構強いし。

そんな俺達のアタフタぶりを見て我に返ったのか、気を引き締め直した誘拐女はまた懐から呪符を取り出した。



「ネギ先生、アスナさん、気を付けてください!向こうも仕掛けてきます!」

「・・・“大鉄砲水ハイドロポンプ”、“大文字焼だいもんじ”と来たから・・・、まさか次はソーラービーム!?」

「いや、ソレは無いですよ・・・」
「ハリセン持ってるくせにボケんじゃねえよ」

「ボ、ボケてないわよ!」


「おマヌケも大概にしぃや!行きなはれ猿鬼、熊鬼!!」


君に決めたといわんばかりに、サル女は2枚の呪符を投げつける。
煙と共に出てきたのは、ファンシーな容姿をした大猿と大熊。なるほど、アレがあんにゃろうの善鬼と護鬼か。


「気ィつけろ!見た目はアホだけど強ぇぞ!」

「あーーもうヤケよーーーー!!!」


やぶれかぶれになったアスナが、得物のハリセンを振り上げ大猿に跳びかかる・・・ってオイ!そんな不用意につっこんで大丈夫か!?


 スパアアァァーーーッンン!!

ムキャッ!?


んな!?一撃で送り還した!?なんだあのハリセン!?

そのあまりにもあっけない光景にその場にいた全員がボー然としていたが、多分、叩いた本人が一番驚いてると思う。
なんか知らんが、式神にはかなり有効な武器みたいだ。ハリセンすげぇ。

危機を感じたのか、呪符使いの女はまたポケットから札を取り出す。今度は大量に。
空中にばらまかれた札は例の小ザルに変化し、群をなしてコチラに突撃してきた。アスナの方に行かないのは・・・・・なんか怖かったんだろうな。

跳びかかる式神、正面から6体―――――――しゃらくせぇ!


槍鴎ヤリカモメ】!!


両腕の発射台から放たれる6本の光の矢が、寸分狂わずサル共を射抜く。
『滅殺』バンダナの効果は<命中力アップ>、まさにボウガンにはうってつけだ。

ネギもそれに倣い、【魔法の射手】を打ち出し式神を迎撃する。そして微力ながらカモも奮闘している。

次々と襲い来る小癪なサル共を、千切っては投げ掴んでは蹴り狙っては貫く。


「セツナ、今の内に奪還しろ!!」
「クマの方は私に任せて!」

「ハイ!!」


掛け声とともにセツナは跳び出す。
守りの薄くなった呪術者は隙だらけ、この好機を逃してなるものかと距離を詰める。

――――獲った!――――俺達の誰もがそう思った。



「えーーい!」
「!?」


――――だが、突如現れた謎の影がそれを阻み、セツナは金属音と共にはじき返された。

影の正体は1人の少女。
小柄な体格、顔に眼鏡、ロリータ調の洋服を身に纏い、頭には避暑地のご令嬢みたいな帽子。

・・・そして、そんな格好に似つかわしくない、両の手に握られた2本の小太刀。
なんだ、このイロモノ娘は?



「どうもぉ~、神鳴流剣士の月詠いいます~」

「・・・神鳴流?オ、オマエが・・・?」


なんとこのロリ剣士、セツナの剣術と同じ流派だというではないか。
でも確か神鳴流って、野太刀を振りまわして魔物をブッた斬る流派のハズじゃ・・・。

・・・こらまた随分と型破りなのが出てきたもんだ。


「見たところ同じ神鳴流の先輩らしいですけど、雇われたからには本気でいかせてもらいますわぁ~」

「こんな者が神鳴流とは・・・時代も変わったな・・・」
「年寄り臭いこと言うなよ」


幼馴染の発言に思わず突っ込んでしまった。いやでもホントだよ、若者が時代がどうとか言うなよ。

セツナは少し顔を紅くして俺を睨む。視線が『どっちの味方なんですか』って言ってる。
決まっている、俺はいつだってオマエの味方だ。


「月詠を甘く見ると怪我しますえ?ほな、よろしゅう」
「ひとつお手柔らかにー」


月詠を名乗る少女はペコリと一礼し――――――


「!」


―――――容姿とは裏腹な、獣のような速さでセツナに肉迫した。

瞬く間に4合ほど打ちあった後、月詠はセツナの懐に入り込み右手の小太刀で左胴を斬りつける。
セツナは野太刀を巧みに動かし、これをガード。

だがコレが月詠の狙い。防御の空いた右胴目掛け、左の太刀を射る――――


「ホホホホ・・・伝統の野太刀なんて後生大事に抱えとると、小回りの利く二刀を相手にするんは―――」


 ギィンッ!!


「・・・は?」
「ほえ?」


刃のぶつかる音色によって、女の余裕のある声は遮られた。
セツナの右手には柄頭に房飾りがついた短刀が握られており、見事に月詠の連撃を防いでいたのだ。


――――これこそ、セツナとコノカの契約の証。アーティファクト【匕首・十六串呂シーカ・シシクシロ】――――

セツナは月詠に懐へ入られる直前にコレを顕現させていたのだ。


コレは意外だという表情をするロリ剣士に、すばやく蹴りを入れ距離を取るセツナ。
そして体勢が戻る前に踏み込み、野太刀と匕首で攻勢に出る。

パワーのある長い刀で小太刀をはじき、踏み込まれれば匕首で捌き、時折肘打ちと蹴りを織り交ぜ、徐々に誘拐女の元へと距離を詰めていく。


「先輩やりますな~、なんだか楽しくなってきました~」
「貴様と遊んでいる時間など・・・無いッ!!」


2本の小太刀を夕凪ではじき上げ、匕首で一閃。しかし有効範囲内から離脱され空を斬った。


「な、なんでや!?なんで神鳴流が二刀相手にあんな・・・!?」

「ふん、甘く見られたものだ・・・・」




――――本来、神鳴の剣士の本分は退魔にある。

強大な力を持つ妖魔と対等に渡り合うためには、それを捻じ伏せるだけの重い攻撃が必要不可欠。
故に、神鳴の剣は全てが一撃必殺。武器として野太刀を使用する伝統も、ココから来ている。

反面、そのどれもこれもが対妖魔戦を想定した威力重視の大振りな奥義ばかり。対人戦闘には不向きな隙の大きい剣術なのである。
一般的な神鳴の剣士は退魔のために鍛錬に力を注ぎ、対人相手に刃を向けることは少ない。向けたとしても、技術を身体に叩きこむ鍛練の一環として相対する程度だ。

機動力重視の月詠の小太刀二刀流は、そんな伝統の神鳴流剣士にとってはまさに天敵。
女もそれを狙って、この“亜流の異端”を雇ったのであろう。



・・・だが、今相手取っている少女は違った。

無論、この少女は伝統的な鍛練も行っていた。むしろ、他の剣士達よりも鍛練への熱の入れ方は強かった方だろう。

違ったのは唯一点のみ――――――



「私が何年、総統の相棒やってると思っているんだ・・・・!」


―――――そう、互いに切磋琢磨し合う相棒が少女のすぐ近くに居たことだ。

2人は互いに腕を磨き上げようと努力した。目標を掲げ、目を輝かせて、技術の習得に全力を注いでいた。
暇があれば刃を交え、拳をぶつけ合い、研鑚の日々を送っていた。

そして相棒は変な方向に熱心だった。とにかく様々な戦闘技術を取り込もうと、日夜鍛錬を重ねていた。

剣を基本に、時に槍。時に斧。
ある時は魔法で、またある時は矢。
巨大な槌だったこともあるし、身一つの時もしばしば。
へんてこな人形だった時もあれば、摩訶不思議な楽器だったこともある。


その様々な得物の相手をしてきたのも、常にこの少女。


毎度毎度、得物の扱いがモノになるまで付き合わされていたのも、常にこの少女。


そして、徐々に鋭さを増していく相棒の奥義に、逐一対応策を練ってきたのも、ずっとずっとこの少女。


――――漆黒の少年が技量を上げていく一方で、純白の少女もそれに対抗する戦闘技術を向上させていく――――

そんなイタチごっこを、数年にわたり繰り返してきた。


故に、彼女の対人戦闘能力は他の神鳴流剣士の追随を許さない。


言うなれば、“伝統の異端”。


「―――――二刀相手の捌き方など・・・・・とうの昔に身に付いてるわァッ!!」


進んだ方向こそ違えども、『桜咲刹那』もまた月詠と同じく、対武器戦闘に特化した神鳴の剣士なのである―――――――








「ハァッ!!」
「そりゃー!」


月詠とかいう奴はなんか楽しそうだけど、あのサル女の方はもう余裕がないみたいだ。冷や汗ダラダラ掻いている。

状況を覆そうと、なんとか小ザル軍団で応戦しようとしているようだが、ボウガンや光の矢の乱れ撃ち、ハリセン乱舞で数は着実に減ってきている。


――――そしてついに、隙をついてネギが乱戦から跳び出した。


――――風の精霊11人 縛鎖となりて敵を捕まえろ!【魔法の射手・戒めの風矢】!!


詠唱を完了した捕縛用魔法が、サル女を目掛け一直線に伸びる。

――――今度こそ獲った!!――――



「あひぃっ、お助けぇーーーー!!?」

「あっダメ、曲がれーーーッ!」



――――だがその確信に反して、少年の放った縛鎖は直前で逸れた――――



「・・・あら?」

「ひ、卑怯ですよ!!」

「・・・・ははぁん、読めましたえ・・・甘ちゃんやなぁ、人質が多少ケガするくらい気にせず打ち抜けばええのに・・・」





・・・・アイツは今、何をした・・・・?


攻撃を恐れて怯んだ、その後は・・・?

許しを乞うて悲鳴を上げた、その後は・・・?



・・・・コノカを盾にしやがった・・・・



―――――コノカを、盾にした―――――

―――――コノカヲ、タテニ―――――



―――――――あのヤロウ・・・・・!!!




「ホーホッホッホッ!まったく、ホンマ役に立つ娘やなぁ・・・・この調子でこの後も利用させてもらうとするわぁ」


・・・・利用・・・・だと・・・・・


「アンタ!このかをどうする気よ!?」

「せやなぁ・・・」



・・・・それ以上、口を開くな・・・・!!!






「まずは呪符やら呪薬で口利けんようにして・・・・あ、ウチの言いなりの操り人形にするんもええなぁ・・・ククククッ・・・」

「な・・・!」
「なんですって・・・!?」








 ―――――ブヅンッッ!!!



その瞬間、ネギと明日菜の怒りを掻き消す程の壮絶な血管断裂音が、ミサトと刹那から響き渡った。



「ホホホホホ、コレでウチの勝ちは―――――――ひいぃッ!!?」


調子に乗って木乃香の尻を叩いて挑発しようとした主犯の女。
だが、その場に充満した殺気に当てられ、無意識に悲鳴が込み上げた。


「せんぱーい、ウチの相手をってあぁ~れぇ~~~」


自分を見てくれなくなった刹那に誘いを掛けようと近づいた月詠だったが、怒り心頭の刹那に見向きされる間もなく、一瞬で吹っ飛ばされる。
その際眼鏡も取れたため、アタフタと地面を探しているが、そんなことは彼らの知ったことでは無い。



【風花!武装解除】!!

「このかに何しようとしてくれてんのよォッ!!」


ネギは武装解除の魔法を唱え、明日菜もクマを瞬殺し突貫。
避ける間もなく暴風は女を直撃し、着衣を花弁へと変え吹き飛ばした。そして同時に護符を無効化し、人質の少女を引き離す。


そして最後は、憤怒の炎を瞳に灯した漆黒と純白。

もはや慈悲など無い。あるのは、罪人に振り下ろす鉄槌のみ。


拳に宿すは、獅子の咆哮。
刃に纏うは、紫電の雷轟。

地上の覇者と天空の閃光、その断罪の一撃――――――!!



「「【獅吼爆雷陣】ッ!!!」」



―――――怒りの鉄槌は振り下ろされ、強烈な轟音と閃光が構内を支配した。






余りある衝撃で、女は空中で二転三転。
勢いを失わず地面を幾度もバウンドし、構内の壁面に激突。人型の大きな罅を壁面に描いた所で、勢いはようやく終息した。






「ゲホッガホッ!な・・・なんでガキが、こないに・・・!」


全身を強打したせいか、誘拐女はうつ伏せになり苦しげに呻く。
全裸の上、いたる所に打撲と火傷を負った女は無残の一言。眼鏡も罅だらけ、髪も若干チリチリしている。

俺はヒタヒタと女の元へ近づき、殺気を帯びた視線で女を射抜く。
セツナも気を失った木乃香の介抱のため駆け寄りながら、鋭い眼光で睨みつける。
ネギらも、2人の気迫に押されつつだが厳しい視線を女に浴びせている。


「・・・ちっ、ココは一旦逃げ―――――」

 ズガガガッ!

「―――ッ!?」


女はなんとか逃走を図ろうと挙動を示したが、俺の撃ち出した三連矢【針雀ハリスズメ】が足元に着弾し硬直。
矢は地面を抉り、細かな礫がその場に散らばる。


「・・・・答えろ糞女、何が目的だ?」

「だ、誰がアンタなんかに・・・!」


無言で右腕のボウガンを構え、女の側頭部を掠めるように射出。

矢は寸分の誤差も無く女の眼鏡のレンズとつるを破壊し、後ろの壁に着弾。
数瞬遅れて女の左頬に一筋の紅い線が浮かび、その端から1滴の紅い雫が頬を伝った。

女は顔から血の気が引き、サァーっと青くなる。


「テメェに黙秘権なんかねーんだよ・・・・ついでに、弁護人を付ける権利もな・・・」

「ぐっ・・・・!」

「さっさと吐きやがれ・・・・それとも、生存権まで無くされたいのか?」


眼の前にはボウガン、その後ろには剣士と魔法使い他2名。もはや逃げ場など無い。
女は奥歯を噛み締め悔しげに顔を歪めながら、地を掻き毟るように拳を握る。

・・・だが少し間を置いた所で、女は頬を引き攣らせながらも笑みを浮かべ、声を上げた。


「・・・月詠、今や!!」

「「「「「!!」」」」」


!? しまった、アイツの存在を完全に失念して――――――――――!!?



「あーん、めがね~」


・・・・まだアホみたいに眼鏡を探してる?


「バカが見るぅ!!」

「なっテメ・・・ぐぁっ!?」


謀られたことに気付き振りかえった途端、眼に砂塵を投げつけられ視界をつぶされた。
くっ、さっき握り込んでやがったのか・・・!


俺が想定外のすなかけ攻撃に怯んだ隙に、女はその場を離脱。
隠し持っていた符を使い、額に『2』と書かれた大猿の式神を召喚し、肩へ飛び乗る。
直後に、未だ眼鏡を探し続けている月詠を回収し尻尾に捕まらせる。

大猿は2人を連れ、大きく跳躍し―――――


「覚えてなはれーーーーーー!!!」


――――捨てゼリフを残して、闇へと逃げ去ってしまった。


これ以上の追跡は無理か・・・っきしょお・・・!




「なんなのよあのサル女、腹立つぅ!!」
「ミサトさん、大丈夫ですか!?」

「平気だ、ただの眼潰しだから・・・・・それより、コノカは・・・!?」

「眠らされているだけのようです・・・よかったぁ・・・・」


・・・それを聞いて安心した。俺は安堵を込めた深い溜息を吐く。

眼に入った塵をなんとか取り除きながら、俺も介抱されているコノカの元へと駆け寄ろうと・・・


「ってまだ来ないでください!このちゃん裸なんですから!!」
「うおぅ!?」
「なんか羽織るもの・・・って見てんじゃないわよカモ!?」
「ぶべらっ!?」
「総統、上着脱いで!!」
「ネギ、その半纏貸しなさい!」
「「イ、イエッサー!!」」


・・・・なんか締まらねえなぁ。























「―――――ごめんなぁアスナ、ネギ君。ウチのせいで迷惑かけて・・・」

「何言ってんのよ、水臭いわね」
「このかさんが無事でなによりですよ」


あの後すぐに目を覚ましたコノカ。
ただ、まだ体に力が入らないのか、自力で歩いて帰るのは難しそうだった。

よって、現在俺がコノカをおぶってホテルへ帰還している最中。でっていう状態だ。多分、青ヨッシー。

・・・おい誰だ、コノカ見て『駅のホームでスッポンポン♪』って言った奴。

ちなみに今のコノカの格好は、上に俺のジャージをキッチリ着込み、下はネギの半纏と帯を上手いこと使って頑張ってる感じだ。意外に鉄壁になっている。


「そういえば、さっき使ってた短い刀が刹那の姐さんのアーティファクトかぃ?」

「ええ、最大16本まで増やせて遠隔操作可能な匕首です」

「アーティファクトっていえば・・・スゴかったな、アスナのハリセン」

「一発で式神を送り還しちまうたぁ驚いたぜ、流石姐さんだ」

「私だってビックリしたわよ」


カモの発言により、アーティファクトの話題になった。見た目に反して有能すぎるぜハリセン。


「ハマノツルギって名前ですから、魔を強制的に打ち消す効果があるんでしょうか?」

「〈幻想殺し〉みたいだな」

「そうゆうたら、ネギ君て〈超電磁砲〉の子に声似とるよね?」

「れーるがん?」

「てことは、オマエらは学園都市の〈幻想殺し〉と〈超電磁砲〉のコンビなんだな」

「もう無敵ですね」




「よっしゃ、ならウチは麻帆良の〈冥土返し〉になったる!」

「一緒にがんばりましょうね、このちゃん」


俺とセツナは、ある意味〈一方通行〉と〈未元物質〉のコンビだな。ツバサ的な意味で。

もし俺に能力名が付くとしたらなんだろう?〈多重武装アイテムチェンジャー〉?
・・・・あ、〈鳳凰天駆ゴッドバード〉とかいいな、カッコよさげじゃん。


「でもネギは〈超電磁砲〉っていうより、何か他の能力名の方がイイ気がするな」

「例えば?」


「・・・〈武装解除ストリップフィールド〉とか?」


ネギ以外苦笑いでした、ってミサトはミサトは状況を説明してみる。
















「・・・む、なんか急に宮崎のどかの血が飲みたくなったな」


6班の部屋で茶々丸にお酌してもらっていた吸血鬼が死亡フラグを呟いたそうな。










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


1日目・夜の部、いかがだったでしょうか?どうも私です。

初のユニゾン・アタック【獅吼爆雷陣】。ガイとかが使ってたやつですね。
シンフォニアでは【獅吼爆炎陣】ですが、刹那とやるなら雷だろうということで。

感想で何度かご指摘いただいた刹那のアーティファクト、やっぱり匕首のままです。やらせたい事があったりなかったりするんで。

ミサトがゲイルアークを気に入ってるのは、技名がトリっぽいからです。
そして個人的にハーツ兄妹が好きです。

ついでに言うと、美空はもう2班の部屋に避難しました。エヴァの空気に耐えきれなかったようです。





[15173] 漆黒の翼 #29
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:ab670fa7
Date: 2010/07/28 21:58
コノカ誘拐騒動から一夜明け、本日は修学旅行2日目。

無事朝を迎えられたことをお日様に感謝しつつ、俺はホテルの大広間で朝食を受け取る行列に並んでいる。

修学旅行中の朝飯は、クラス全員は勿論のこと、同じホテルに宿泊している教員達とテーブルを囲んで食すことになっている。
もっとも、テーブルじゃなくて個別のお膳なんだけどね。

不公平なことにメシを受け取る順番は教員優先のため、朝早くから仕事を求めグーグー騒いでいる働き者の胃袋は不満たらたらだ。

昨晩ちょっこし暴れたせいか、いつもより胃酸がヤル気だしてる感じがする。



「「「「「いっただっきむぁーーーすぅっ」」」」」


ようやく順番が廻って来た。和食を絵に描いたような膳を受け取り、班員と共に決まり口上を述べ食事開始。

なんか全員、若干虚ろな感じでモソリモソリと箸を進めている。
寝不足か? 俺が帰って来た時にはもう全員寝てたハズなんだけどな。


「なんかオマエら眠そうだな」

「誰かさんのせいでな……」

「熱く語り合った後にあれだったからね、疲れが残ってるんだよ……」


白熱するほど語り合ったとな? なんだろう? 記憶の確認してないから知らんぞ。

話の整合性が取れなくなると厄介なので、俺の代わりに参加していた分身の記憶から会話の内容をその場でサルベージしてみる。


ええっと何々、昨日の晩は―――――――――?









===================================




「なぁ、オマエ誰が好きなんだよ?」

「オマエから言えよっ」

「いいじゃん、ソッチから言いなよっ」


ふむ、好きな人の話か……。実に中学生の修学旅行らしい会話だ。まさしくテンプレとも言えるだろう。



「じゃあ言うぞ?俺はぁ――――」


やっぱ修学旅行ってのはこんな感じなんだな。恋バナはいつの時代も鉄板――――――



「―――――断然ドゥーエだな!」


…………あれ?


「何言ってんのさ、セインさんには勝てないよ!」

「バッキャロウ!チンク姉こそ至高だっつーの!」


……どうやら“ナンバーズの中で誰が一番好きか”って話だったらしい。

なんて生産性の無い討論してんだコイツら……むなし過ぎるぞ、せめて身近にいる女の話で盛り上がれよ。


「ニノはどうなんだよ!?」

『俺?』

「チンク姉だよな!?」
「ドゥーエだろ!?」


分身は何て答えたんだろう?





『関係無いけど、ナンバーズとバロックワークスって2番目と5番目の能力丸被りだよな』


「「「「……」」」」



………うわぁ。



「やめろおおおおぉッ!!俺のドゥーエを穢すなあああぁッ!!」

「チンク姉のノーズファンシーキャノン…………ヤベェ、ワクワクが止まらねえ!!」

「その理論で行くとセインさんはモグラババアと同列…………イヤだ!考えたくないィ!!」




一瞬で阿鼻叫喚に変わってしまった。ご愁傷様。




===================================








「おかげでドゥーエがオカマ拳法つかう夢見ちまったよ・・・」

「・・・・あー、その、悪かったな」


分身の非礼に詫びを入れる。夢を壊してゴメン、2つの意味で。



まぁそれはともかくとして、とりあえず今日の予定を確認しとくとするか。

修学旅行2日目は班別の自由行動になっている。事前に班ごとに何処に行きたいか決め、担任にその旨を伝えるのだ。

俺らのクラスは大阪での自由行動。道頓堀で女の子を引っ掛けてムフフ、とかダイチが言ってた。そんな上手くいくのかねえ?

当然、俺はそのナンパ計画には参加しない。
あのサル女がいつやって来るかわかんねえからな。遊びは分身君に任せて、コノカの護衛に努めさせてもらうぜ。


コノカ達は、確か奈良公園に行くとか言ってよな。

……早いトコメシ食って、先回りするとしますかね。























―――――ホテルのトイレで分身と入れ替わり、やってきました奈良公園。噂通りのシカ天国。あっちにシカ、こっちにシカ、どっち向いてもシカシカシカ。


着くのが少し早かったので、暇を持て余している間はシカと戯れることにした。
売店で買ったシカ煎餅をエサに、時に優雅に、時に大胆に、時にふてぶてしく、時に妖艶にシカと交流する。

動物園は嫌いだけど、動物がノビノビと放し飼いにされているこういう場所は、……まぁ嫌いではない。


柵も無いのによく逃げ出さないものだ。不思議でしょうがない。

何故なんだ、すぐそこに自由が待っているというのに。俺なら五秒で逃げるのに。



――――俺がしばらくそんな感じに奈良公園のナゾに挑んでいると、何処からともなく聞き覚えのある姦しい声が耳に届く。

咄嗟に近くに茂みに身を潜め、辺りをキョロキョロ。

入口付近にコノカ、セツナ、他五名の姿を捕捉。気配を殺して茂みの中をソリッドスネーク。


……む、ノドカが髪の毛を後ろでまとめてる?

珍しいな、人と眼ぇ合わすのが苦手でお馴染みのアイツが、あんな目ン玉むき出しのヘアースタイルにするなんて。




その後、ネギがシカに噛みつかれるハプニングもあったが、あの女の姿は見当たらず。今日は攻めてこないんだろうか。

……新しい眼鏡でも買いに行ってんのかもな。


と、いつのまにかコノカを含む図書館部四人の姿がどっかに消えているではないか。何処行ったアイツら?


「アスナアスナー! 一緒に大仏見よーー!!」
「何よ突然ってわぁ!?」
「せっちゃん一緒に団子食べへーんっ!?」
「え、ちょ!?」


と思ったら今度は何処からかノドカ以外の三人がセツナらに強襲、ネギを置き去りにまた消失した。あっというま劇場。

置いてけぼりにされポツンとするネギ。いじめ?


そんなパークアローンな少年の元に、おっかなびっくりな足取りで近づく一人の制服少女。


「あ、あの、ネギ先生……」

「あ、宮崎さん……」


正体は言わずもがな、ガッチガチに緊張したノドカだ。
数度口をパクパクさせ、精一杯の言葉を肺に残るわずかな空気と一緒に絞り出す。


「ハルナ達も、どこかに行っちゃって………よ、よかったら、一緒に廻りませんか…?」

「ええ、喜んで!」


居酒屋の掛け声みたいな返事で申し出を軽く承諾するネギ。同時にノドカの表情がパァっと明るくなる。


……はっはーン? なるほどなるほど、ネギを置き去りにしたのはそういうことか。なかなか友達想いじゃないか。

そういうことなら、これ以上の立ち入りは野暮ってモンだな。ニノマエミサトはクールに去るぜ。



……と思ったら、すぐ近くの茂みでユエ&ハルナが思いっきり出歯亀していた。悪趣味な…。

まぁちょうどいいや、コイツらが別行動とってるうちに一旦セツナ達と合流しよう。























「まったく……強引に引っ張って来たと思ったら急にいなくなるなんて、パルも夕映ちゃんも何考えてんのかしら?」

「のどかのためなんよ、勘忍や」

「ははーん? いやはや、青春ッスね~」

「? それってどういう……」


 ガサガサッ

――――四人の背後の草藪が音を立てる――――


「! だ、誰!? 敵!?」



「オッス、おらミサト!」


茂みからひょっこり顔を出す俺。アスナとカモは目を剥き、コノカとセツナは『知ってるよ』って顔してる。


「な、なんだ兄さんかよ」
「お、脅かさないでよ! 昨日のおサルかと思ったじゃない」

「そっちの二人は気付いてたみたいだぞ?」

「え、嘘!?」

「なんとなくやけどな」
「気配で大体わかります」


公園に入った時から『あ、居るな』って思ってたらしい。ウチの部下は実に優秀だ。

あとカモ、あんまどうどうとしゃべんな。公共の場なんだからな。


それはさておき、その場で臨時の現状報告会をおっぱじめる俺達。


「一通り見回ったけど、敵影は見当たらずだ」

「各班に撒いた式神からも、これといった情報は入ってませんね」

「やっぱり今日は攻めてこない日なのかしらね」


昨日コテンパンにしたからな。体勢の立て直し、作戦の練り直し、人員の補充、その他諸々の事情があるんだろう。


……人員の補充、か。

結局、奴らはどれくらいの規模の集団なんだろうか?

昨日の時点で判ってんのは、サル女とロリ剣士の二人。他のまだ仲間が居るかどうかは不明。

向こうの狙いは間違いなくコノカ。それとネギの持ってる親書だ。コレは決定事項と見ていいだろう。


……誘拐と妨害を同時に行うのに、二人だけというのは少なすぎる人数ではないだろうか。

となると、まだ他に仲間が居ると考えるのが自然だ。

昨晩の二人に加え、妨害に一人以上使うと考えれば、少なく見積もっても敵勢力三人。
いや、もっと多いかもしれない。もしかしたら五人、十人、あるいはそれ以上……。


対してこちらの勢力で戦闘可能なのは、俺・セツナ・ネギ・アスナ。

同行している魔法先生は各クラスの警護に当たるだろうし、エヴァさんは手を貸してくれるかわからない。

それにアスナだって身体強化できるとはいえ、戦闘に関してはド素人。あまり頼りきりにも出来ない。


「……数で攻められたら厄介だな」

「少人数の痛いところですね…」

「無い物ねだりしてもしょうがねえ、足りない分はチームワークでなんとかすっぞ」



「人員、か……」

「? カモ、なんか言った?」

「いや、なんでもねえッス」





「じゃ、俺は見回りに戻るわ」


臨時会議は終了。セツナ達に別れを告げ、再び警護に付く。

………そういや、ネギとノドカはどうなったんだろ?























「アイツも大変ねぇ」

周辺警護に戻ったミサトの背中を眺めながらアスナは呟いた。
自分だって修学旅行中だろうに、護衛とフォローの掛け持ちしながら奔走するのは堪えるだろうと若干心配になったのだ。

その発言を聞いて、少しだが、木乃香が申し訳なさそうに眉をハの字にしてはにかむ。


「フォローはともかく、護衛は私達が好きでやってることですから」

明日菜の発言に刹那が注釈を付けて答える。
暗に『なに、気にすることは無い』と言っているのだろう。おかげで、木乃香の眉が元の位置に戻った。



 ガサガサッ

――――と、また背後の藪が葉を鳴らして揺れる。


「ん? ミサトの奴、忘れ物かしら?」


警備のために去っていった少年が戻って来たのかと判断した明日菜が、藪に向かって声を掛ける。


「さっさと出てきなさいよ、もう驚かないわよ」

「……アスナ、コレ総統ちゃうよ」

「へ? じゃあ……」


気配で察したのか、木乃香が否定する。
予想に反して茂みの中から現れたのは――――――――



「ハァ…ハァ……アスナさん…このかさん…刹那さん…?」


―――――何かから逃げてきたかのように息を切らし、涙で顔を濡らしたのどかだった。


「本屋ちゃん! どーしたの!?」

「何かあったんですか!?」

「ネギ君と一緒やったんやないん!?」


その場にへたり込み力無く俯く内気な少女の姿に、口々に何があったのか問いただそうとする少女達。

特に木乃香と刹那は、付き合いの長い図書館部の仲間の一大事に大慌て。てんやわんやで、なんだかんだと、すったもんだの世紀末。


おかげで事態が落ち着くまで、しばらくの時間を要した。







「……わたし、もうどうしていいのか…」


ようやくのどかを含めた全員が落ち着いた所で、場所を変えて休憩所の前にて話を聞くことに。

聴けばコチラにおわすのどか嬢、なんと今日この場を持って、意中の男性―――すなわちネギ少年に告白しようとしたのだという。


だがその意気込みとは対照的に、やることなすこと全て空回り。

『大好き』と言おうとすれば『大仏』だの『大吉』だのおかしなことを口走ってしまう。

オマケに空回りが過ぎて、ネギにいろいろ痴態をさらしてしまうという始末。


そんな自分が情けなくて、恥ずかしくて、ネギを置いて逃げてきてしまったらしいのだ。


「本屋ちゃん、本気だったんだ……」

「せやねん、せやからウチらも応援しとったんよ」


のどかの奮闘ぶりを聞いた明日菜は驚きを隠しきれない。木乃香も、のどかの頭をよしよししながら慰める。

そして明日菜の肩に乗ったカモは目を細めしみじみと若さに賛美を送り、刹那は何か思う所があるのか、黙ってのどかを見つめている。


「でも、なんでネギなの? ハッキリ言ってガキよ? お子ちゃまよ?」

「アスナさん、ハッキリ言いすぎですよ」


身も蓋もない明日菜の問いに、もうちょっと言い方があるだろうと刹那がツッこむ。



「……確かに普段のネギ先生は、皆の言うように……子供っぽくて……可愛いところも、あります」


惚れてる相手を蔑ろにするようなアスナの発言を、のどかはたどたどしい口調で肯定する。

じゃあなんで?と訊き返す前に、のどかはまたゆっくりと口を動かす。


「……でも、時々私達よりも年上のような、頼りがいのある大人びた表情をするときがあるんです」


想いを寄せる年下の少年の表情を想い浮かべ、のどかの頬に紅みが差す。
明日菜は『そうかな?』と首を捻っているが、木乃香と刹那は真剣に耳を傾ける。


「それは多分、私達にはない目標を、ネギ先生が持っているからだと思います。それを目指して、ひたすら前を見ている……」


のどかは、ネギが父親の影を追っていることなど知らない。もちろん魔法のことなど、知るわけがない。

だが、誰よりも少年を見ていた彼女にはわかった。

あの少年は、自分に無い“何か”を持っているということが。
あの少年が、自分には見えない“何か”を見ているということが。

だから、こんなに心惹かれるんだと。



「私はそんなネギ先生を見ているだけで、満足でした。それだけで、私は“勇気”をもらえました」




――――“ユウキ”――――

その短い言葉に、一人の少女の肩がピクリとふるえる。



「……でも、今日は自分の気持ちを伝えてみようと、思いました…………この気持ちは、ウソじゃないから……」


そこまで言い終えると、のどかは再度頬を紅潮させ俯いてしまった。

言葉に表したことで想いの大きさを再確認したと同時に、自分がとても恥ずかしいセリフを吐いたことに気が付いたのだろう。



……だが、紅みはすぐに消え失せ、悲哀の蒼さがその表情に浮かび上がる。



「……でも、やっぱりダメ………私には、そんな“勇気”……持てない…」


声のトーンが落ち、また瞳から涙がこぼれる。

少女達は、なんて声を掛けたらいいか、わからなかった―――――――






「……のどかさん」



―――――少女の一人が、スッと一歩前に出て、膝をついてのどかの肩に手を添える。



「……刹那…さん?」


その少女――刹那は、慈しむようにのどかの瞳を見つめる。

のどかの強い想いを秘めた瞳。哀しくて、どうしようもなく苦しくて、とめどなく溢れ出る涙。



「……私も、同じ思いをしたことがあります」

「え……?」

「のどかさんのような恋の話ではありませんが、私にも経験があるんです」


刹那は、その瞳の想いを知っていた。涙の苦さを知っていた。



「大切な人がすぐ近くに居るのに……嫌われるのが怖くて、何も言えない。

 言ってしまったら、今までのようには居られないかもしれない……壊れてしまうのが怖くて、何もできない。


 ………一歩、たった一歩踏み出すだけで変えることができるのに……その一歩を踏み出すことが、できない。


 こんな弱い自分には、そんな“ユウキ”なんて、持てっこないって………ずっと、そう思っていたんです」


弱い自分を噛み締めるかのように、刹那は一言ずつ、ゆっくりと言葉を紡いでいく。



「でも、それは違うって……そうじゃないんだって、教えてくれたヒトが居たんです」


弱いだけじゃない。そう教えてくれたヒトがいた。



「そのヒトは、私と同じでした。嫌われる怖さも、壊れてしまう辛さも知っていた。

 それでも、そのヒトは踏み出したんです。


 私が持てなかったユウキを、いや、“持てないと思い込んでたユウキ”を持っていたんです」


言葉じゃ無かった。その手で、その瞳で、その心で、それを示してくれたヒトがいた。



「それが、すごくうらやましかった。とても眩しかった。

 …………だから、私も決めたんです。逃げないで、一歩だけ前に踏み出してみようって」


臆病な自分が覆い隠してしまった、小さいけど、確かにそこにある“ユウキ”の火。



「私も、一皮むいてしまえばただの臆病者です。

 でも、どんなヒトだって、“ユウキ”が持てないなんてことは、絶対に無いんです。だって――――――



 ―――――だって、こんな臆病者の私でも持っていたんですから」


持てないなんてことは無い。その小さな火は、必ず胸にある。



「それにのどかさんは、もう“ユウキ”を持っているんですよ?」

「え…?」


「“この気持ちはウソじゃない”って、言えたじゃないですか」

「あ……」


「自分の気持ちを否定して抑え込んでいた私なんかよりも、のどかさんは、ずっとずっと“ユウキ”のある人なんですよ?」


そこまで言うと、刹那はのどかの手を取り、ギュッと握りしめ――――




「――――あとは、一歩踏み出すだけ。アナタは、それができるヒトなんですよ」


―――――背中を押す、最後の一言を告げた。





「…私に…出来るでしょうか…?」

「できます。私が保証します」


きっぱりと言い切った。




「……私、もう一度、先生に会ってきます………会って、一歩だけ、踏み出してみます…!」

「ええ、がんばってください」

「……ハイ! ありがとうございました!」


ペコリ、ではなく、ブンッと音が聞こえてきそうなお辞儀をして、恥ずかしがり屋の少女は駆けていった。

自覚した己の弱さと、それに負けない心の強さを胸に抱いて。



「……え、あ、ちょ!? ちょっと、本屋ちゃーーん!?」


完全に話から置いていかれた明日菜が再起動を果たし、なんだかよくわからない衝動に駆られ、カモを肩に乗せたままのどかの後を追いかける。


力尽きた、とまではいかないが、結構な疲労感が話を終えた刹那の肩にのしかかり、ふぅっと息を吐いて休憩所の椅子に腰を下ろす。

その隣を木乃香がひょいっと陣取り、刹那の顔をニッコニコしながら覗きこむ。


「なんか私、偉そうなこと言っちゃいましたね……」

「せっちゃんカッコ良かったえ?」


一般人であるのどかと魔法使いであるネギ。“裏”の人間としては、彼らの接近は止めるべきなのだと思う。


だが、刹那には止められなかった。

気付いた時には、少女の背中を押してしまっていた。

あの瞳に、どれだけの想いが込められているかを知ってしまっているから。
あの涙に、どれほどの苦しみと辛さが含まれているかが解ってしまったから。


「……総統に怒られちゃいますかね?」

「んー……」


顎に指を当てて可愛らしく唸る木乃香嬢。


「でも、総統もおんなじこと言いそうな気ぃするわ」

「……フフッ、だといいですね」

「ん♪」


少女達は、互いに笑いあう。

恋する少女が踏み出す、小さく、大きな一歩を祝して。




そして、純白の少女は静かに決意する。



――――この旅行中に、もう一歩踏み出してみよう。


――――自分のことを親友と言ってくれたあの少女達に、もう一歩近づいてみよう。





――――私の名前は、桜咲刹那。

――――【漆黒の翼】の、戦闘主任。



――――総統の黒き翼は、“勇気の象徴”。

――――このちゃんの明るい笑顔は、“元気の太陽”。





――――そして、私の白き翼は、“決意の証明”なのだから。























「テメェこのやろサイフ返せコラァ! っておいコラやめろ! 樋口さんを喰うなァ!?」


―――――勇気の象徴は、シカと格闘していた。











◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


2日目・昼の部、いかがだったでしょうか?どうも私です。

あんまり動きのない感じで、どうもすいません。

早く3日目に行きたい今日この頃です。

のどかへの励ましは刹那にお願いしました。原作では『のどかの勇気に乾杯』状態でしたが、ウチの刹那は強い子です。


……過去編、そのうち復活させたいなぁ。


P.S おかげ様で30万HIT!! 本当にありがとうございます!!!





[15173] 漆黒の翼 #30
Name: purepeace◆403dcfc9 ID:3ed6cbd4
Date: 2010/07/28 21:58

ネギ・スプリングフィールドは、かつてないほど苦悶していた。

奈良公園から帰ってきてから、ずっとホテルのロビーで呆けている。かなりの放心状態だ、眼が危ない。

かと思えば、責任がどうだの紳士がどうだの僕はダメな先生だの言いながら、ゴロゴロとその場でのたうち回る始末。とても見ちゃいられない。

事情を知る明日菜達は、やや離れたところで苦笑いしながら眺めていた。というより、それ以外に対処のしようが無かった。


なぜネギがこんな状態に陥ってしまったのか。

それというのも、全てはネギが受け持つ生徒の一人である少女・宮崎のどかに起因する―――――










――――本日の奈良公園自由散策の折、他の生徒達と“偶然”離れてしまったネギとのどかは、ぎこちないながらも二人で楽しく(?)廻っていた。


途中のどかの姿を見失い、ネギが途方に暮れていたところに再びのどか登場。顔がかなり紅い。

走って来たのか、息は切れ切れ。しかし、顔の紅潮は全力疾走が原因では無かった。


息を整え、深呼吸。


両の手をぎゅっと握りしめる。震える体を抑えるために。

堅く閉じた瞳を静かに見開く。奮える心をぶつけるために。



『――――私、ネギ先生のこと、出会った日から、ずっと・・・・・ずっと・・・!』


背中を押してくれた少女の言葉と、自身の中にある勇気の灯を信じて―――――



『わ、私・・・・私! ネギ先生のこと、大好きですっ!!』


―――――少女は、踏み出した。



限界に達した少女は、返事を聞く前にその場を走り去る。


別の意味で限界に達した少年は、「ありえないんだぜ」と叫んでバタンとぶっ倒れました。











――――とまあ、こんなことがあったもんだから、ネギの幼い頭脳はオーバーヒートを起こしてしまったというワケだ。

流石に10歳の子供にマジ告白を瞬時に処理しきれるメモリは搭載されていなかったようだ。


その後、噂の真相を追及してくる生徒達から逃げるようにネギは走り去り、歩きながら途方に暮れることになった。

懸案事項が多すぎる。もう少し減らしてくれ。
コレが今のネギの一番の願いだったが、今すぐ解決できるものがほとんど無くて、もうお手上げ状態だ。


そんなネギの肩に乗ったカモは、「兄貴もまだ青いなぁ」と、しみじみとオヤジ臭いことを考えていた。オマエは一体いくつなんだ。

そしてネギも背中に哀愁を漂わせながら、見回りのため玄関ホールへとトボトボ歩いて行った。





「・・・お、ウワサのネギ少年を発見♪ どこにいくのかな~?」


――――その哀愁の背中を、カメラを持った少女が尾行していることなど、ネギは知らなかった。
























――――――さてと、結局なんのアクシデントも無いまま旅館に戻って来たわけだが・・・まぁ、何も無いに越したことはなんだけどさ。

今日も今日とてホテル周辺の見回りだ。昨日はあっさり侵入されたからな、気を引き締めてかからないと。ふんすっ。

現在、ホテル横の路地を警邏中。今のところ特に異常無し。けど、気は抜けないな。


・・・・そういや、あれからネギとノドカはどうなったんだろう?

ノドカの引っ込み思案も相当なモンだからなぁ、楽しくやれてりゃいいんだけど。トモダチとしては心配だよ、ホント。



「ほう、見回りか。ご苦労なことだな」

「こんばんは、ミサトさん」


ふと聞き覚えのある声が後ろから聞こえたので振り返ってみると、メリハリのきいたボディをひけらかす金髪の美女が、お供のライムグリーン髪の少女を連れ立って佇んでいた。

これはこれは、いつか別荘で拝見した大人エヴァさんじゃないか。なにしてんだ、こんなトコで?


「幻術なんか使って何してんスか?」

「なに、これから夜の祇園に繰り出そうと思ってな」


・・・・このヒト満喫しすぎじゃないだろうか。修学旅行中に夜の歓楽街に繰り出すとか、はしゃぎ過ぎだろ。

それに大体そういう店は一見さんお断りだから、エヴァさんは入れませんよ?


「そんなモノどうにでもなるわ、私を誰だと思っている?」


あー、そーいやそうだった。このヒト結構なんでもできるんだった。洗脳くらいは楽勝だろう。

でも、夜遊びもホドホドにしてくださいよ? 旅行中に生徒が問題起こしたら担任のネギの監督不届きになるんですから。


「心配いらん、そんなヘマを起こす可能性など毛ほども無いわ」


おお、てっきり「知るかそんなこと」とか言うと思ったのに。
一応ネギにも感謝してるってことなのかね。

そのまま話は終わりだと言わんばかりに、エヴァさんはゴシックドレスを翻して後ろ手を振って立ち去り、チャチャマルもペコリと一礼して追従した。

・・・あ、よく見たらチャチャゼロが背中にへばりついてる。アイツも来てたのか・・・。


しかし、あの面子は濃いな。街に出たら目立ちそうだ。ホントに大丈夫なんだろうか・・・?

・・・大丈夫か、ヘマはしないんだもんな。



さ、パトロールの続きだ。・・・といっても、もう一通り巡回しちゃったんだよなぁ。

一旦表の通りに出てみるか。ホテルの入り口に怪しい奴が居ない確認しないといけないし。


そんな感じに、俺は一旦路地を抜けホテル正面の公道に出ることにして――――――――







ラス・テル・マ・スキル・マギステル! 【風花・風障壁】!!



――――通りに出たところで、ネギが軽トラをムーンサルトさせている現場に出くわした。




・・・・・・え、ちょ、なにしてんの!!?



「ふぅ、危なかったぁ・・・・」


危ないは今の状況だと大声でツッコミたかったが、ネギが腕に抱えている子猫の姿を確認して、大体の状況が掴めたので止めておいた。

なるほどね、車道に飛び出した猫が轢かれそうになったから咄嗟に障壁張って助けた、と。

よくやった、と褒めてやりたいところだけど・・・・もうちょっとやり方なかったんだろうか。

あんな派手な奴じゃなくて、もっとこう、ギリギリ誤魔化し効きそうな奴、瞬動とかそういうの。

・・・あーでも、それ以前に瞬動を覚えているかどうかが微妙か。

非常事態だし、しょうがないっちゃしょうがないか・・・・。


幸いにも軽トラの運ちゃんはあまり深く考えないで走り去って行ってくれたみたいだけど、このまま放置するわけにもいくまいて。

普通の暮らしじゃアリエンティな現場を誰にも目撃されてないことを祈りながら、俺はネギに駆け寄った。


「ネギ!」

「あ、ミサトさん。見回りご苦労様です!」


ネギが笑顔でねぎらいの言葉を掛けてくれた。嬉しいけど、今はそんな場合じゃないんだよコレが。


「今の見てたぞ。人助け、じゃない、ネコ助けするのはいいけど、もうちょっとやり方なかったのか?」

「そうだぜ兄貴、そんな派手なまほムグゥッ!?」

(バ、バカ!! イキナリしゃべんな!!)


ネギの肩に乗ったカモを顔ごと鷲掴みひったくった。


(アホ、ココは公道なんだよ! オコジョが口きいたら一発で怪しまれるだろうが!)

(わ、悪ぃ兄さん、うっかりしてたぜ)


俺達にしか聞こえないくらいの小声でカモに厳重注意。
気を付けてくれホントに、ココは麻帆良じゃないんだから。認識阻害も無いし、一般の方が気のせいで済ませてくれるかどうか怪しんだから。


(とにかく、ココに居るのはマズイ。一旦安全な場所まで移動して、猫を放すぞ)

(ハ、ハイ、わかりました!)


迂闊なオコジョの口を抑え込みながら、振り返って周辺確認・・・・誰も居ない、よな?

見られてないなら問題ない、セーフだ。
仮に見られていたとしたら、カモは腹話術、軽トラは運ちゃんがスゲェってことで誤魔化すことにしよう。

多少無茶でもゴリ押せば道理くらい引っ込むだろう。
昔の人はイイことを言った。「成せば成る、洗えば食える、何物も」と。

人影が無いことを早急に確認し、ひとまず安心する。


よし行くか、とネギに声を掛けようと何の気なしに振り返る―――――――――







「ダメだよ、車道に飛び出しちゃ」

「うにゃ」



――――――振りかえると、ネギは子猫を抱えたまま、杖に跨りふわふわ浮いていた。









Q:ネギは何をしている?

A:宙に浮いています。






Q:ココは何処?

A:公道です。






Q:ネギ君はなんで飛ぶのんー?

A:10歳ですけどー?












「なにしてんのおおおおおお!!!?」

「あずまんっ!?」


今度は盛大にツッコんだ。ネギの首根っこを掴み、思いっきり引き摺り下ろす。

ネギが地面にビターンってなったが、この際どうでもいい・・・それよりも!!


「なにやってんのオマエは!?」

「こ、子猫を安全な場所に運ぼうと・・・・」

「何で飛んじゃうのさ!? 台無しじゃん!? 今までの誤魔化しがパーじゃん!? それともパーなのはオマエの頭か!? 阿呆陣クルクルパーなのか!?」

「あぶぶぶぶ!!?」

「に、兄さん落ち着いてくれ!」


ネギの両肩を掴みガクガク揺さぶる俺。

揺さぶられておかしな悲鳴を上げるネギ。

あおりを喰らう子猫。

宥めるオコジョ。


―――――カオスだった。



「ええい、とにかく離脱だッ!」


ミサトは にげだした!
ネギ は にげだした!
カモ は にげだした!








「・・・・宙を舞う車・・・・おしゃべりオコジョ・・・・飛行少年・・・・・・・き、キターーー!! 超特大スクーーーープッッ!!!」



―――――そんなカオスな現場を、一人のパパラッチが目撃していたことに、俺達は気が付かなかった。




















――――一方その頃、ミサトの分身は――――






「豪華夕飯争奪! 早押し大喜利大会ィィッ!!」

「「「「「「イエーーーーーーーーイィィ!!!」」」」」」


スーツにグラサン、ピコハンを携えたクラスメイトの号令にノリノリな分身、他一同。



「第1問!(デデンッ!) 『ホテル烏丸の最大のウリとは、一体何?』」


「『オプションで“妹”が付けられる』」

「近い!」


「『若女将の枕営業』」

「コラッ!」


「『月一でコナン君が泊まりに来る』」

「3班に刺身盛り合わせ!」



「クソ! 獲られた!」

「まだまだぁ! 次来い、次ィ!!」


―――――本人の代わりに、イベントを楽しんでいた。























「ま、魔法がバレたぁ!? しかもよりにもよって、あの朝倉にぃ!?」


時間は飛んで、ホテルの休憩所。

明日菜と木乃香、そして刹那はネギに泣き着かれていた。カモは席を外しているようだ。

先刻の『ネギが地面からふわふわタイム事件』の後、麻帆良のパパラッチこと朝倉和美はすぐさま行動を起こしたのだ。曰く、情報は鮮度が命らしい。

露天風呂で今日の出来事を整理中だったネギにしずな先生に変装した和美が突貫。
現場写真をネタに秘密を握られるが、ハプニングにより画像データは損失。どうにか世界に秘匿が明るみに出ることは免れた。

だが、『朝倉に知られたら世界に知られる』のキャッチコピーでお馴染みの和美が魔法の存在を知ってしまった事実に変わりはない。


「・・・・あー、もうダメだわ。アンタ、オコジョ確定ね。強制送還以外の未来が見えないわ」

「そんな~っ!」


もはや手遅れだろうと明日菜はさじを投げた。ネギ涙目。よしよしと木乃香に慰められる。

流石に事態を丸投げする訳にもいかない刹那は頭を悩ませる。なんで次から次へと問題が増えるんだこんちくしょう。


ネギは和美に強請られてから、すぐに明日菜達の元へ救援を求めに来たので、まだミサトはこの事を知らない。

まずは連絡を入れるべきか、刹那がそう結論付けようとした、ちょうどその時。


「・・・お、いたいた。おーいネギせんせーい!」


悩みの種が向こうからやって来た。間が良いのか悪いのかよくわからない女である。
よくよく見たら、肩にカモを乗せている。

あわあわと慌てふためくネギ。木乃香はそんなネギを宥め続ける。

どう切り出したものかと刹那は思案するが、その前に明日菜が立ち上がって和美を牽制にかかった。『考えるより先に身体を動かす』を地で行く女である。


「ちょっと朝倉、あんま子供イジメんじゃないわよ」

「イジメてないイジメてない♪ それより、話はカモっちから聞いたよ!」

「そうそう、ブンヤの姐さんもオレっち達の味方になってくれたんだぜ!」

「ほ、本当ですか!?」

「ホントホント♪」


曰く、カモの熱意に心打たれたとか、秘密を守るエージェントになるだとか、証拠写真は返すだとか。

いつの間にあだ名で呼ぶほど親しくなったんだろうという疑問はさておき、どうやら味方になってくれるというのは本当らしい。



「・・・で、カモっちが喋ってんのに驚かないってことは、この場に居る全員が関係者・・・・あ、あとミサト君、だっけ? あの男の子も含めていいのね?」

「な、なんでミサトの事まで知ってんのよ!?」

「さっき見かけたんだよ。ネギ君が浮いてたのに驚いてなかったし。別の意味で驚いてたみたいだけど」


どうやらネギとミサトのやり取りも見られていたようだ。予想外の事態にテンパったとはいえ、ミサトも結構迂闊である。上司の失態に、刹那苦笑い。


と、そこへ風呂上がりの生徒数名がワイワイガヤガヤ言いながら近づいてくる。

さらに新田教諭も現れ、早急に部屋に戻るように促されたため、この場はお開きとなった。

普段の和美の言動を知っている明日菜としては、やけに物わかりの良いパパラッチが腑に落ちないようだが、ともあれ、秘密は遵守してくれると判りネギの方は一安心のようだ。




「・・・まぁいいわ。で、これからどうすんの?」


警戒態勢を維持するのは当然のことながら、パトロール以外の事もした方がいいのかと明日菜は尋ねた。


「私は結界の強化に当たりますから、少し手伝ってもらえますか?昨日設置したのは簡易的なモノでしたので」

「ウチは一旦部屋に戻るわ、のどかの事もあるし」

「のどかさんの事って・・・・・・・ああッ!!?」


のどかの名前を聞いた途端、頭を抱えてしまうネギ。

どうやら魔法バレに気を取られて告白の事がスッポリと抜けていたらしい。悶絶した後、再びゴロゴロ転がり出す。


流石にこの問題は当人以外は手の出しようが無いので、明日菜達はひたすら苦笑いだったそうな。























―――――ネギに厳重注意をした後、俺はまたすぐに警邏に戻った。

時刻は午後10時を廻ったところ、今はホテルの裏手に居る。あんパンと牛乳を片手に一息入れている最中だ。


・・・しかし、まさかあそこでネギが飛ぶとは思わなかった。

ネギって頭イイのに所々抜けてるんだよな、最近はそうでも無かったけど。

任務でいろいろ疲れてるから、ボロが出ちまったのかもしれないな。

今日の警備は休ませた方がいいか? あんまり無理させてもいけないだろうし。



「・・・・コッチに・・・かな・・・・」

「・・たぶん・・・・・だぜ・・・・・」


ッ! 誰か来る!

残りのあんパンを牛乳で無理やり流し込む。
咄嗟にその場に設置されているポリバケツに飛び込み、蓋をして身を隠す。

・・・・ウヘッ、生ゴミ臭い!


裏路地に現れたのは、パイナップルみたいな髪型した女子生徒。

たしか・・・朝倉、だったかな。報道部の人間だったハズだ。

その肩には見慣れた小動物の姿があった。何やってんだアイツ?


少女は辺りを一瞥すると、「よっ」っと言いながら俺の潜むバケツに腰を掛ける。コレじゃなんも見えんじゃないか。


「カモっち、ホントにコッチに居るの?」

「ホテルの近くに居るハズなんだけどなぁ」


ふむ、なにやら誰かを探している模様だ。一体誰を・・・・・



「・・・・って、何普通に喋ってんだオマエは!?」

「「うひゃあッ!?」」


一般人と会話を交わしているカモのありえない行動に、思わず蓋ごと押しのけて登場してしまった。

まさかポリバケツにヒトが入ってるとは思わなかったらしく、二人とも目を白黒させている。


「あたたた・・・お尻打っちゃった・・・」
「に、兄さん、なんでそんな所に?」

「んなこたぁどーでもいい!! それよりもカモ、なんでの堅気の人間とベラベラくっちゃべって―――!?」

「あ、ミサト君やっと見つけたよ! 私、麻帆良学園報道部の朝倉和美だよ! 前にも会ったよね、学園祭とかで!」

「あ、ああ・・・」


女子3-Aのブースにお邪魔した時にインタビューされたくらいで、特に接点は無いけど。


「ねえねえ、君も魔法使いなんでしょ? ちょっと取材させてくんない?」

「んな゛!?」


100%好奇心な笑みで詰め寄って来る少女に、俺は驚愕した。

な、なんでコイツがそのこと知って・・・!?


「さっきの現場をこのブンヤの姐さんが見てたんスよ」

「そゆこと♪」


見られてたのかよ・・・・・くそっ、しくった・・・! どうする!?

落ち付けミサト、状況を整理するんだ。考えろ、マクガイバー・・・!


この娘は俺を探していたと言った。

カモが一緒ということは、コイツがココまで案内したんだろう。

“裏”の存在を知った人間を、わざわざ俺のトコまで連れてきたってことは・・・・



「・・・なるほど、わかったぜカモ」

「へ?」


そっとカードを取り出し、アーティファクトを顕現させる。


「俺にコイツの記憶を消せってことだな?」


光の収束とともに、一本のバットが俺の右手に収まった。


「え、ちょ、何それ、なんでバット持ってんの? なんで素振りしてんの?」

「ついに禁断の魔法、【記憶飛ばしの術】を使う時が来てしまったか・・・」

「待って待って待ってッ!! それ魔法違う!! そんなんやったら死んじゃうからッ!! 記憶以外のモノも一緒にトんじゃうからッ!!」


仕方ないじゃないか、俺は記憶消去の魔法なんて覚えてないんだもの。

安心しろ、痛くないから。痛いと思う前に記憶消すから。


「兄さん違うんだ! この姐さんは味方だって!!」

「・・・あんだって?」

「ほ、本日付でネギ君の秘密を守るエージェントになったから、ご挨拶をと思って参上した次第だよ、うん!」


なんだ、最初からそう言ってくれよ。こちとらテンパって、いつも以上に思考回路が短絡的になっちゃってんだから。

・・・疲れてんのかな、俺。


カモによれば、誠心誠意の説得によって味方になってくれたらしい。秘密も守ってくれるそうな。

ほほう、カモの奴やる時はやるんだな。見直したぜ。

でもバレたことには変わりないか・・・面倒事がまた増えちまったよ、ただでさえ今はゴタゴタしてるってのに・・・。


「いま仕事中だ、忙しいから取材はまた今度にしてくれ」

「桜咲達とはいつからの付き合い? どんな魔法が使えるの? この業界に入って長いの? 今の仕事って何? 自分のクラスに戻らなくて大丈夫?」


・・・・聞いちゃいねえよ。矢継ぎ早に質問浴びせるばっかで、コッチの話は無視か。イイ根性してんじゃねえかコラ。

こういう好奇心の塊みたいなのが一番厄介だ。危ないから入るなって言ったら真っ先に入りそうな感じだもん。


「・・・カズミっつったっけ? 取材なら麻帆良に帰ったらいくらでも受けてやるから、今は大人しくしててくれ。それどころじゃないんだよ」

「う~ん、しょーがないかっ。またの機会にするよ」


しっしっ、と手の甲で追い払うと、少し残念そうに愛用の手帳を閉じるカズミ。

とにかく、旅行中は他の生徒へのフォローに回ってくれるそうなのでコチラとしては大助かりだ。

細かい事情の説明は、カモに任せるとしようかな。好奇心の権化を丸め込んだ手腕に期待させてもらうぞ。



あらかた話も済んだところでカモとカズミに別れを告げられ、俺はまた警備に戻ることにした。

誰にも話すなよ、話したら記憶飛ばしだからな。と軽く牽制して、その場を後にする。


・・・・一応、麻帆良に帰ったらキチンと話し合いの席を設けないとな。




「あー兄ちゃん、ちょっとええかな?」

「ん?」


後ろから初老の男性らしき声が俺を呼んでいる。

くるりと振り向くと、紺色の制服に身を包み、ツバ付き帽と腕章を携えた中年のおじさんの姿が。

・・・どっからどうみても、ポリスマンだな。えっと、なにか?


「実はなぁ、さっき近所の人から連絡がありましてな? この辺をうろうろしとる不審者がおるっちゅうんですわ」


なに、不審者だと!? まさか、奴らの仲間がすぐそこまで来てるんじゃ!?

イイ度胸してるじゃねえか、俺がこの手でしょっ引いてやる!! で、ソイツの特徴は!?



「身長は160~170くらいで・・・」


ふんふん、それでそれで?


「短髪の黒髪で・・・」


それからそれから?


「えらい眼つき悪い、紅目の男やっちゅう話ですわ」


なるほど、眼つきの悪い紅目の・・・・・・・・・・・・・・ん?


「ちぃと、そこの交番まで来てもらえますかな?」




・・・・・・・・\(^o^)/



























「ミサト君て、なんか話に聞くほど愛想良くないね。眼付き悪いし」


手帳をパラパラめくりながら和美は呟く。何ページかめくったところで手を止め、自身の足で集めたデータを眺め読む。

データの内容は、件の少年・一 海里についての内容だ。

ミサトの事は以前から3-A内で名前が挙がっていたため、軽く調べたことがあったのである。


以下、データ本文より――――




[ 一 海里 (にのまえ みさと)

12月8日生まれ 射手座 身長163cm O型

所属:男子中等部3年A組(出席番号20)、図書館探検部

小学校卒業と同時に京都から麻帆良学園へ編入。
成績は良好、ただし絵がヘタらしく美術は低め。教師ウケはソコソコ。
女子3-Aの一部生徒、特に幼馴染の近衛・桜咲と非常に仲が良く、休日に一緒に出かけている様子をたびたび目撃されている。
一部では『ハーレムを作っている』、『ヤクザの血を引いている』、『古菲と互角に闘える』などの噂もあるが、そのあたりの真偽は不明。]



和美はペンを取り出し、データの最後に[眼付き悪し]と付け足しておいた。


「今は気ィ張ってるからしょうがねえよ。普段は気のイイ兄さんなんだ。眼付きはあんなだけど、気概や腕前は確かなんだぜ?」


フォローしてんだかしてないんだか微妙なカモの言葉に、ふーん、と軽く返す和美。

じゃあこの『古菲と互角に闘える』っていう噂はあながち間違ってないんだ、と和美は当たりを付け、その文に二重線を引いた。



「ふっふっふ・・・それじゃあ、その張り詰めた気を緩ませてあげないとね?」

「上手くいけば大幅戦力アップ、兄貴達の力になる! オマケに懐もホッカホカってなもんよ!」

「そんじゃ、〔ラブラブキッス大作戦〕始動開始だよ!!」



―――――カモに任せた事をミサトが後悔するのは、翌朝の事であった。






























「・・・で、身分を証明できるものは?」

「・・・・(イライラ)」
(姉さん、どうしましょう?)
(知ルカヨ)


――――――目立ち過ぎたらしく、エヴァンジェリンは職務質問を受けていた。











◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


約一ヶ月ぶりの投稿となります。どうも私です。

最近ホントに忙しくて、てんやわんやです。

ラブラブキッス大作戦は、ほぼ原作通りの道筋を辿ります。

なのでダイジェストでお送りして、3日目の朝まで時間を飛ばす予定です。

変化を期待した方、誠に申し訳ありません。





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