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[20654] 【禁書目録】とある絹浜(ふたり)の映画上映(デートスポット)【短編SS】
Name: トリガー◆8d52fb9a ID:178f26f1
Date: 2010/07/27 01:20
 第七学区の高級住宅地が居並ぶホームハウスの一つ。
 学園都市の暗部として活動する非公式組織『アイテム』の隠れ家の一つとして機能する自室に、中学生ぐらいの少女がいた。
 絹旗最愛、と呼ばれる少女は愛らしい顔をニヤけで崩しながら保管用のフォルダに視線を注いでいる。
 彼女の趣味は映画鑑賞だ。
 その映画鑑賞で貰える『使用済みの映画チケットの半券』をコレクションするのに嵌っており、熱心に見つめるフォルダには半券が収められているのであった。

「結構、集まりましたね」

 ジャンルもバラバラ。知名度もバラバラの半券コレクションを前に至福に呟く。
 傾向としてはメジャー級の作品よりも、「それ誰得?」というB級映画やB級を通り越しC級並の半券チケットの方が数を占めていた。
 趣味は人それぞれなのだが。
 少女が嗜好するのは、少しだけだが他人とは一線を引いているようだった。

「まったく超分かってませんよ麦野達は。所詮メジャーなんて物はレンタル屋にでも足を運べば超いいんです。それよりもB級みたいな、日の目を見ない物こそ超リアルタイムで鑑賞することに意味があるのだと気付かないとは超愚かなのです」

 不満そうな愚痴は仲間達に向けたもの。
 彼女の趣味に理解を示してくれない故に漏れた愚痴だった。以前に何度かB級映画鑑賞ツアーに招待したのだが散々な結果になった。
 麦野は開始五分を待たずして苛々しだすし、フレンダは横から馬鹿らしいと茶々をいれまくるし、滝壺は健やかな眠りの世界に旅立つし、誰一人としてまともに鑑賞に付き合ってくれないのだ。しかも上映終了後には憔悴し切った態度を取られるし。それ以降自分がお誘いしても付き合ってくれやしない。滝壷だけは付き合ってくれるのだが、やはり開始と共に飽きるのか目を閉じてしまうので誘っても楽しくないし。
 別にいいんですけど、超気にしませんし、と絹旗はぷくぅーと頬を膨らませた。

「……えへへ」

 そんな不満も直ぐに吹っ飛んだ。
 自慢のコレクションを眺める内にだらしなくも頬が緩む。両手が倍あっても足りない程のコレクション群は宝物。

「超最高ですよね」

 ペラリペラリ、と一枚づつページを進めながらジックリネットリと視姦していく。
 これは超面白かったですよね! と鼻息荒く半券一枚一枚を評価してテンションを高めていく絹旗。
 ちなみに現在の時間は深夜。夜も更けた寝静まった時間帯であり、『アイテム』の仲間達も各々自室で寝ているのだが、彼女だけは寝付けないまま一人で夜を過ごしていた。明日の事を考えると、どうしても胸がトキめいて寝付けなかったのだ。

「……あぅ」

 ご機嫌良く動いていた手が止まった。ペラリと捲られる音が止まった場所は、別枠で保管している半券チケットのページ。
 ここから先のページは絹旗最愛にとって、違う意味を秘めた場所だった。
 自分一人だけで鑑賞に行ったチケットでは無く、気になる人と二人きりで見に行った大切なメモリー。
 熱が顔に集中するのを絹旗は自覚した。
 だけど抑えなんて効く筈がない。停止していた手がゆっくりとページを捲った。

「…………」

 ギッシリと所狭しに飾られていたこれまでのページと違い、捲られたページには両手で事足りだけの枚数(九枚のみ)しか保管されていなかった。
 それでも絹旗に取っては、これまでの物よりも大事だと確信している。
 何を超思っちゃっているんですか自分は、絹旗は真っ赤になりがらも頬が垂れるのを抑えきれない。

「……はーまづらぁ」

 想い人の名前を呼んだ。
 浜面仕上。
 スキルアウトを束ねていた元リーダーで、今では『アイテム』の下っ端構成員として活動しているチンピラ崩れの少年。
 どこをどう間違ってしまったのか、絹旗はいつの間にかそんな少年に想いを寄せてしまっていたのだ。彼女が真っ赤になりながらも別枠で大事そうに保管している半券チケットは、彼と二人きりっで鑑賞した記念の一品達。

「うあぁやばいやばいです超やばいですって」

 これまでの映画デートを思い出し、キャーと乙女チックに悲鳴を漏らしながら悶えた。
 両手で自分の体を抱きしめながら身をクネらせる絹旗。赤面してこれ以上が真っ赤にならないと思われた顔を更に赤面させながら。
 完全に出来上がってしまっている彼女だが、別に初めからこうだった訳では無い。
 大能力者で紙の上ではお嬢様学校で知られる中学校に在籍している少女と、取り柄なんて何処にも無い平凡以下の不良少年。そんな二人の相性は一見すると最悪だったし、浜面が配属された当時は本当に接点なんて有りはしなかった。
 便利な奴隷がやってきた程度の認識が『アイテム』の共通認識であり絹旗自身もそう思っていたのだが、浜面の特殊な持ち味だったのか、奴隷扱いされているにも関わらずヘコたれず、しまいにはこちらに馴染み出してくるのだから侮れない。

 決定的だったのは、初めて映画に誘った時だろうか。
 身分証を偽造させて二人で鑑賞した時に、少しだけ彼を見直した気がする。

 仲間達からも疎まれがちな趣味に真摯に向き合ってくれて、絹旗自身もコイツは何を言ってるんだ? と理解が及ばなかったがB級映画の楽しんでくれていた。

「超初めてですよね共感してくれた人は」
 
 悶えながら思い出していた絹旗は嬉しさに弾む口調で言った。
 あの時は馬鹿にしてしまったが、内心では凄くはしゃいでいた自分を思い出し照れる。
 それから幾度の映画館デートを繰り返し、密に接する事により彼に惹かれていった。馬鹿でアホで超エロくてなのにチキンで超ヘタレな浜面に。
 あれ? これって超褒めるとこありませんよね? と気付いたが、

「所詮、浜面は超浜面ですし仕方ありませんね」

 答えにならない答えを吐いた絹旗。その表情は蕩けおちる寸前のチーズみたいに締まりが無いのに気付いていたがどうか。
 そんな彼女達の関係はと言えば、未だに友人以上恋人未満の関係である。
 途端に、情けなく眉を垂れさせる絹旗。
 自分はこれほど浜面の事を気にしてしまい眠れない夜を過ごしているのに、当の本人は絶対に気にしていないのだ。

「うぅ……納得いきません。超不本意です超不平等です!」
 
 映画館デートに誘うのも絶対に自分から。アクションを仕掛けているのは必ず自分からなのだ。
 
 ……彼女は気付いていない。もしくは失敗と言い換えるべきか。

 誘い方に問題があるというべきなのか。絹旗は素っ気無い口調(もちろん照れ隠しにより)と彼の予定を考えない(気が早ってしまい)な傍若無人な行動に、『また詰まらない映画を見る苦行につき合わされるのか』としか思われてない事に。しかもデート中についつい口の悪さから毒舌を吐いちゃうのだから、そりゃぁ浜面的にはトホホとしか思えず、非情に残念な結果しか残していないのである。それはそれで忍耐力と根性に定評ある浜面は『我侭な妹に付き合っている兄の心境』を味わい、親密にはなってきていたりするのだが。
 そんな物を絹旗は求めていない。ノーサンキューである。
 もちろん、それに気付いていない絹旗は、

「こんな超美少女がアプローチを仕掛けているのに知らん振りとは、超ヘタレですね。据え膳喰わねばと言うのに、ひょっとして浜面は超不能だったりするんでしょうか?」
 
 見当違いの方向に解釈していた。
 どうやら絹旗最愛の恋路は険しく難関なようである。
 最も、聡明な彼女は薄々自らの過失に気付き始めており(口には決して出さないが)それを元に秘策を練っているわけだが。だって認めたら超シャクじゃないですか、とは彼女の心の声。花も恥らう乙女としては、男性の方から求められたい欲求はどうしても残してしまうのである。
 
 デレデッレの絹旗。

 ちょっとどうなん? と危惧するほど射止められてしまっている彼女が練っている秘策は、現在進行形で足踏み中であった。
 前振りが長くなったので具体的に説明しよう。
 明日(正確には今日の昼頃から)記念すべき十回目の映画館デートの約束を取り付ける事に成功していたのだった。

「ですから早めに布団に潜ったのに……一向に眠気がやってきません。超どうかしちゃったんでしょうか。べ、別にデートが超楽しみで寝れないなんて有り得ませんから! そんな次の日が遠足で楽しみで眠れない子供みたいな事なんて超ないですから超勘違いしないでくださいっ」

 誰に向けて発しているのか。
 ベタベタな言い訳を飛ばしながらも、ビッタンビッタンと身体を跳ねさせている絹旗。転がっていたベッドのスプリングが軋み音を上げながら小柄な身体を受け止めていた。

「くふ……くふふ超デートですよー、はまづらー」
 
 甘ったるい猫撫で声。
 眠らないと明日に響くと言うのに、一向に眠ろうとする気配は見られず、明日のお楽しみばかりに気持ちが行き過ぎているようだ。
 時計の針は刻々と進んでいる。
 彼女が無事に眠りにつけるかどうか定かではないが、デートの時間は確実に近づいていたのだった。





【続く】

 こっちに久々の投稿。
 初めまして、もしくはお久しぶりです。相変わらずジャンルは安定しないけど気にしないでくださいな。今回のカップリングは絹旗×浜面なんだ。もう原作なにそれ美味しいの?って感じで色々素っ飛ばしてるが原作推奨派のお方は回れ右を。絹浜最高ー!って方は突撃あるのみで。絹旗さんキャラ崩壊してね?ちょっとデレデッレしすぎなどはもうスルーしてくれ!俺にはこれが限界だったんだ!
 じゃあこんな感じで続編は近い内(二日以内)に更新しにきます。ちなみにタイトルを考えてくれた皆もありがとうね。じゃお休みなさいー。



[20654] とある絹浜(ふたり)の映画上映(デートスポット)【
Name: トリガー◆8d52fb9a ID:178f26f1
Date: 2010/07/28 22:30

 第七学区の大通り。
 人でごった煮になった大通りから邪魔にならぬ様に、隅の方に寄っていた浜面仕上は欠伸を噛み殺しながら呟いた。

「ねみぃ……」

 いつものジーパンにパーカーと変わり映えしない服装の浜面は目尻に涙を浮かべながら、周囲を捜索するように視線を飛ばしていた。そろそろ待ち合わせの時間なのだが、待ち人はまだ到着する気配はない。

「まぁ遅刻って訳じゃないからいいんだけどよ。いつもは10分前には来てるんだけどな。何かあったのか?」
 
 ちなみに浜面は待ち合わせ場所に二十分前に到着していた。
 女性を待たせてはいけないという紳士的な行動であり、時間にルーズな彼にしては良くやっている。実際、数回前の約束自には見事に寝坊して、その日は終日不機嫌な絹旗相手に悪戦苦闘したのだから、もう二度と遅刻はしないと決意していたからこその結果だが。

「ずっと無言は勘弁して欲しいよな。恨みがましい目線で睨みつけてくるし。最終的には頭下げて飯奢ってやったら機嫌直してくれたけどよ」

 まいったまいった、と首を振る浜面。
 まだ絹旗はやってきていないが、もしアイツが遅刻したら俺も不機嫌な振りをしてやっても罰は当たらないんじゃないかと思う。それで生意気な口から心の籠もった謝罪を要求させるのも見物だが、

「そんなことした日には一発大きいの貰いそうだよな。ありゃ死ねるまじ死ねちゃう」
 
 大能力者の『窒素装甲』の一撃は限りなく重い。
 なんせ片手で車を投げ飛ばし、硬い壁をパンチ一発で粉砕しちゃう怪力を発揮するのだ。まかり間違ってもアレを全力で喰らっては……ブルリと身を震わせた浜面は「くわばらくわばら」と肩を竦めた。

「今日の映画は当たりだといいんだけどな。前回見たのは最悪過ぎて、絹旗と雑談してた記憶しか残ってねぇし。なんか人間が突然変異で超巨大化して、最後は地球より大きくなって最後には地球ごと爆発したんだったか……?」
 
 やっぱり覚えてないや、と浜面は早々に思い出すのを諦めた。
 そのまま思考は絹旗との雑談内容に切り替わっていく。B級映画の下らない雑学や、映画とは全然関係ない話題――好きな食べ物の話や任務の話に、初恋の人なんて話もしていた気がする。初恋の人は近所のお姉さん、と答えた時は超キモいと貶されていたが、いつもの事なので流しておいたが。

「……これってやっぱりデートって言うのかね?」

 世間一般ではそうなのかもしれない。
 だが、なんか違うような気がする浜面。そもそも暗部に所属している自分と絹旗を世間一般の標準に照らし合わすのが土台無理なのだ。大体、自分は生贄として呼び出しを喰らっているのだから、そんな事実は有り得ないのである。

「別に付き合うのは嫌じゃないけどよ」

 鈍感な浜面は彼女の気持ちに気付くことなくそう締めくくった。
 その背後から、

「何が嫌じゃないんですか?」

 聞き知った声が聞こえた。
 浜面は動揺に肩を震わせながらも降り向き、

「遅いぞ。二分遅刻だ」
「これだから浜面は超浜面なんですよ。二分ぐらいでギャーギャーと指摘して、そこは男なら“早かったな。俺も今来たとこだ”ぐらい超言って欲しいものです」
 
 遅刻した癖して反省の色もない生意気なチビっ子が出現していた。
 
 モコモコとした薄い桜色のワンピースを着飾った絹旗の格好だが、今回は初めて見る服装だった。似た様な傾向を好むのか大味では普段と変わらないが、所々の細々した部分が違っていた。服の模様が花柄模様を彩り、少し子供ぽい気がするのだが彼女の幼い容姿には充分に似合っている。気分の変化なのか頭にも花柄のヘアピンをアクセントとして飾っており、手ぶらが常の利き手にはフリルとリボンが一杯ついたバックを下げている。

「お前は先に遅刻したのを反省しやがれ。言っておくが俺が誘われたんだからな? それと珍しい格好してるなお前」
「別に超普通ですけど。……ひょっとして超おかしいですか?」
「いや別に。ただ珍しいなーって思っただけだ」
「ふーん、そうですか。髪留めなんかも超初めて付けてみたんですけど」

 ほらほらー、と見せびらかしてくる絹旗。
 浜面はふわふわして気持ちよさそうな髪のアクセサリーを凝視した。

「そいえば初めて見るかもな。結構いいんじゃないか?」
「……なんですかそれは。もっと言い方があると超思うんですが、浜面は女の子の気持ちっていうものを超理解していませんね」

 ムッ、と顔を顰めてくる絹旗。唇が拗ねた様にアヒル口になっていた。
 鈍感な浜面には彼女が何を求めているのかが分からない。不機嫌になってしまったのは、あからさまな表情で悟っているのだが、一体何に不機嫌になったと言うのだろうか?

(何か調子狂うな)

 精々その程度の認識だった。
 絹旗はジトーっとした視線を注ぎ続けていたが途中で諦めたのか溜息を付くと、

「もういいです。浜面に期待した私が超馬鹿でした」

 ぷいっ、と横に首を振った。
 絡み合っていた視線が解けて、居心地悪かった雰囲気が少しだけ和らぐ。

「――みたいです」

 ボソっとした絹旗の呟きが耳に届いた。

「ん? 何か言ったか?」
「超何でもないですっ!」
「? お前なんで怒り気味なんだよ。カルシウム不足じゃねぇか?」
「――っ。早く行かないと上映時間に超間に合いませんので超急ぎますよ!」

 荒く言い放った絹旗は返事も聞かぬ内に先導していってしまう。
 やっべぇ、何かミスったか? と自分の大ポカに気付かない浜面は頭を悩ませながらも、小さい背中を追いかけるように歩き始めた。





【続く】

こんばんこー。
続きを更新。今回は浜面視点での回。実際、浜面って何処まで鈍感なんだろうねー?上条さん程ではないと思うけど、実態はどうなのか。興味がつきない。まぁもげろですがww取り合えず時間軸はあまり深く考えるとポシャるのでスルーで。ifって最高だよね?絹浜愛でそこは乗り越えよう!
次回の更新は明日か二日後にでも。では感想や批評お待ちしていますー。



[20654] とある絹浜(ふたり)の映画上映(デートスポット)
Name: トリガー◆8d52fb9a ID:178f26f1
Date: 2010/07/29 22:20
(最悪です……)

 先導する絹旗は、若干涙目になりながら映画館への道筋を進んでいた。
 彼女の後を追うように背後からは浜面が着いて来ている。
 背後の気配は二歩ほど下がった距離を維持しつつ、自分を追っているようだと思いながら、絹旗は鬱々とした気持ちに支配されていた。

(せっかく服も新着したり、髪飾りなんかにも初めて手を出してみたのに)
 
 分かっている。
 相手はあの浜面なのだ。下手な期待をした自分の方が悪いに決まっている。そもそも自分はデートのつもりだが、相手はデートなんて一欠片すら思ってすらいなかったはずだ。だから自分の姿が気合が入った服装でも、浜面からしたら不思議には思っても特別期待するような事はなくて。

(超馬鹿です私。一人で舞い上がって、浜面に超勝手な意見を押し付けて、それで不機嫌になっているんですから)

 惚れた弱みだろうか?
 昔の自分ならまず浜面を折檻でもして強引にテンションを切り替えていたのだろうが、今はそれをする気にも慣れない。
 別に暴力行為がなくなった訳ではない。
 つい数日前には軽く窒素デコピンを食らわして浜面を地面に数十分蹲らせる行為を素でやっていたはずなのだが。

(ああ……なるほど。つまり自分で思っていたより私は超舞い上がっていたんですね)
 
 裏通りの小さな路地を過ぎ去り、どんどん奥深くの場所にへと潜っていく。
 ここら辺まで潜ると、周囲は蜘蛛の巣みたいに小さな通路が迷路みたいに重なり合い、ちょっと方向を間違うとすぐに迷子にでもなってしまう。実際、初めてB級映画を見ようと潜ったときに迷子になったのだから。それ以降、ここは絹旗にとってホームグラウンドのようになっていた。

(わざと迷子にでもなって、帰っちゃいましょうか)

 ここでなら絶対に捕まらないし、逃げ切れる。
 ネガティブ思考にすっかりやられた絹旗は乾いた笑みを浮かべていた。楽しみにしていたデートだが、今の気分から察するに楽しめそうにないし、なんだかマトモに浜面の顔を見ることすら出来ない。
 無言の壁は重たく横たわっている。
 背後に居るから確認のしようが無かったが、きっと浜面も似た様な気分だろう。

(誘った相手が勝手に不機嫌になっているんですしね)

 浜面はそんなことを気にする玉では全然ないが、一度深みに嵌ると冷静に物事は把握できないのは人間の悪い所で、それは大能力者である『自分だけの現実』をマスターしている彼女を持ってしても同じみたいだった。

「おい、絹旗」

 背中から声が掛かった。
 意地みたいな物で無視しようかと返事を躊躇っていると、ガシィ! と腕を掴まれた。

「――!?」
「道順間違ってるっての。先導してくれるのはいいが、お前が間違ってどうするんだよ?」

 驚く絹旗に、浜面は笑みを堪えながら朗らかに語りかけてきた。

「お前ひょっとして調子悪いんじゃねえか?」
「そ、そんなこと超ありませんよ」

 腕から伝わる温もりに声が上擦りながらも、周囲を見渡せば浜面の指摘通り、本当に道順を間違えてしまっていて。どうやら欝な思考に身体が引っ張られてしまっていたようだ。

「本当か? 何か顔が赤いが風邪とかじゃないよな?」
「気のせいです。大丈夫ですから」
「だったらいいけどよ……」

 納得したのか微妙だが、浜面からの詮索は終わったようだ。

「えーと、そのですね……」

 絹旗は言い辛そうに口ごもりながら、

「腕を放して貰えると超ありがたいんですが」

 そう言った。
 浜面は慌てたように掴んでいた腕を放してくれた。離れていく温もり。少しだけ勿体無いかな、と感じてしまう絹旗は相当に重症ですねと内心で頭を力無く振った。

「……」
「……」

 また無言に戻った二人は正しい道順を進んでいく。
 もうすぐ目的地に着いてしまう。
 出来たらそれまでにモヤモヤとした感情にケリをつけたいと思うのだが、自身の無駄なプライドから声を掛けるのを躊躇っていると、浜面の方から声を掛けてくれた。

「ひょっとして……拗ねていたりするか?」

 ……は?
 あまりにもストレートな問い掛けにポカンとした絹旗に重ねて声が届いた。

「だから。お前が機嫌悪い理由だよ」
「そんなことはありませんが」

 嘘だ。
 拗ねまくっているのなんて一目瞭然なのに、下手な誤魔化しをしてしまっている。

(ですけど超拗ねてます、なんて答えられるわけ超ないじゃないですか!?)
「嘘付けっての。まぁアレだよな……俺の勘違いだったら笑い飛ばしてくれて結構なんだけどよ、ひょっとして服装褒めなかったから怒ってたりするのか?」

 変化球? なにそれ美味しいの? とばかりに調剛速球ストレートをど真ん中に放ち続ける浜面投手。あまりにもアレなアレにアレで、見事に振り遅れというよりも目にも入らず討ち取られてしまった絹旗選手は耳まで真っ赤に染まり上がってしまった。

「でででででででりっ、デリィ――」
「デリバリー?」
「デデ、デリカシーです!! 浜面にはデリカシーってものがないんですかないですね超デリカシー!!」

 意味不明な最後の掛け声と同時に放たれた左ストレートが浜面を強襲した。
 ズバーン! と効果音を響かせながら飛んでいく浜面を尻目に、混乱して不思議な踊りを披露しているのか、手をパタパタと振り回している絹旗。一通り混乱し終えた絹旗は、悶絶する浜面を視界に拾いつつ深呼吸を繰り返す。まずは落ち着こう。落ち着かなければ――っ!!

 ……………………………………ふぅ。

 冷静になった絹旗に、悶絶から復帰した浜面はふら付く足で近づくと、

「死ぬかと思いましたが絹旗先生」
「どうせなら超死んでしまえば良かったと思いますが浜面くん」

 お互いに何キャラだ? を演じながら冗談を交し合う。
 そこにさっきまでの重たい雰囲気は残らず消失していた。

「取り敢えず歩こうぜ」
「超同意します。遅刻したら浜面のせいですから」

 俺のせいかよ、と浜面が文句を言ってきたが無視。超美少女の自分は絶対正義だから問題はないはずだ。
 トコトコと並び歩きながら、浜面が気軽な口調で話しかけてきた。

「でもまさかお前がなー」
「何ですかその含んだ物言いは。殴り足らなかったですかね? だったら――」
「わっ、馬鹿、構えるな!? 次は流石の俺でも死にますから勘弁してください!」
「ふんっ。最初から気をつければいいだけの事です。猿でも超理解できますよ?」

 猿以下の知能しかない浜面だから仕方ない、と溜息をつく絹旗に、どうせ俺は馬鹿ですよーっと頬を膨らませる浜面だが可愛くないと思った。ああいうのは自分みたいな可愛い女の子がやるからこそ映えるんですよね、と絹旗は頷きながら前を確認する。
 目的地のオンボロ映画館が見えてきた。
 相変わらず客寄せなんて知ったことじゃない、と門構えを見せる汚らしさだが、文字通り『二人きり』の映画館デートを楽しめるのだから感謝しなくてはいけないだろう。

(あれ、いつの間にか超機嫌が直ってますね私)

 お手軽で現金な性格だ、と苦笑しながら絹旗と浜面は映画館の敷地内に足を踏み入れる。
 良かった、と安堵の息をつく彼女に、隣を歩いていた浜面は今日の為に作製しておいた詐欺用の身分証明書を懐から出しながら、

「――似合ってるよ。めっちゃ可愛いぜ絹旗」

 囁くように風に乗ってきた台詞。
 耳を疑った絹旗が停止した瞬間を見計って、浜面は我れ先にと受付窓口にへと逃げるように早足で歩いていった。

「ふぇ――? ちょ、えっ、ええ?!」

 フリーズした脳味噌が再起動し始めて漸く意味に気付く。
 可愛い。浜面に可愛いと褒めて貰えた事実に。朝から緊張に晒されながらもオシャレをしてまで期待していた言葉を伝えてくれたのだ。想い人からも、最も欲しかった言葉を。

 ……超反則です。

 物理的攻撃力ならほぼ無敵を誇る『窒素装甲』も、浜面が繰り出した弾丸には無力だった。防ぐのは不可能だったし、防ごうとも思わなかっただろうが。壮絶な威力を秘めた弾丸は一直線に絹旗の心を打ち抜き、派手な胸のザワメキと鼓動の加速を訴えてくる。

 ……ドクンドクン。

 心臓が爆ぜそうな感覚と全体に広がる喜の感情に翻弄された絹旗は、もう何度目になるか分からないほど頬を桜色に染めると幸せを噛み締めた。胸を中心にジンワリと広がる温かさが心地良くて、このまま永久に浸りたくなるが――。

「ふ、ふふっ――待ちなさいはまづらー! よく聞こえませんでした! もう一度今の台詞を要求します!」

 もっと素敵なイベントが待っているのだ。
 これだけで満足できない。これだけで満足できるはずがない。
 駆け足で追い始めた絹旗は、前を早足で歩く大きな背中を追いかけ始めた。

(我ながら超貪欲ですよね。もっともっと欲しいって願っちゃうんですから)


 追われ、追いかける。
 少し前とは正反対の構図になった二人は、そのまま競い合うように受付窓口へと全速力で駆けて行く。
 まだ二人きりの物語は序盤。これからが本番だった。



【続く】

さぁさぁ。糖分度が多くなってきました。
浜面仕上は馬鹿だけど、駄目な馬鹿じゃない。きっちりと押えないといけない場所は押える馬鹿だからこそカッコイイ訳で。そんな彼を俺は応援してる。
何が言いたいのかっていうと、
絹旗は浜面の嫁!ってことなんだよ諸君!異論は認める。だが譲るつもりはない!

って訳で投下終了。
次回から場所を映画館に移しての本格デートの開始。もうすでに砂糖吐く勢いですが(主に書き手の俺がウェェェって感じ)まだまだ続きます。お付き合い頂けましたら。絹旗愛や浜面愛の感想お待ちしていますのでよろしくお願いしますー。次回の更新もまた二日以内に。ではではー


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