児童ポルノ遮断議論をネットの中の実情から論じる
私は信条的に児童ポルノ遮断に賛成であることと、仕事がインターネットの中の人をやっているので、多少のポジショントークと社外秘ネタに関してはややぼやかした表現になるが、児ポ遮断議論をネットの中の実情をふまえて論じてみたい。
インターネット上の児童ポルノサイトへの接続を強制的に遮断する「ブロッキング」導入(以下:児ポ遮断)に関して、ネット上で議論が白熱している。”炎上”を研究しているものとしては児ポ遮断の議論は決着がつきづらい議論であるために燃えやすいという分析をしている。児童ポルノが自由にみれる世界がよいか悪いかという議論(私は到底理解できないのだが「児童ポルノを自由に見れる世界がよい」という意見もある)の他にも、表現の自由を制限することに関しての議論、強制遮断という方法が検閲にあたるか否かという議論、さらには実際の児童が被害にあわないイラストなどであれば良いのではないかという議論、さらには児童ポルノを見ること自体が犯罪にはつながらないのではないかという議論、児童ポルノの児童の定義についての議論、冤罪の危険性についての議論など、さまざまな論点での議論が繰り返されている。
児童ポルノの閲覧の禁止に対して反対する人たちは「児童ポルノを見ることにより性犯罪が抑えられる」というのが主な主張で、いくつかのデータを提示しその根拠としている。また児童がポルノ写真を撮られるという行為自体が問題であるという反論に対しては「被害児童がいない2次元(イラスト)であれば良い」というのが再反論の論理である。
また表現の自由や検閲に反対する人たちは、児童ポルノ規制を拡大解釈すれば言論の自由が奪われ、日本社会が独裁国家になってしまうという危惧を呈している。
前者の児童ポルノ閲覧禁止の議論は、禁止反対派に「児童は保護すべき存在」であり「保護されることは児童が持つ権利である」ということの視点が欠けている。日本は児童に関しての人権に関して先進国の中で最も保護が遅れている国で、社会全体で保護しようという機運が希薄である。この手の論者にはそれがたとえイラストであったとしても、児童を陵辱することが可であるかのような風潮を助長することは社会全体で児童を保護するという観点からみて不適切であり、それが児童に対する人権侵害であるということに気づいていないものが多い。
次に後者の独裁国家になってしまうのではないかという懸念だが、これもいくつかの視点が抜けている。そもそも児童ポルノが遮断されたぐらいで表現の自由が侵害されたとは言いがたい。また、法運用が拡大解釈され政府の都合の悪い意見が遮断されるのではないかという意見については、まったく根拠の無いことだ。拡大解釈をした上で危険性を煽り自分の主張の支持拡大を狙うという手法は人権擁護法案反対議論にも見られることで、詭弁の1つといってよいが、これらはインターネットが民間、特に商業サービスとして成り立っている以上、ありえない話しである。
ポルノ(児童ポルノに限らずポルノ全体)をウェブ上で公開する行為は多くのサービスプロバイダー(以下:プロバイダー)で規約上で禁止しており、通報および発見し次第削除されているのが実情である。しかしそれをもって言論弾圧がおきているという大きな議論は確認されていない。プロバイダーがポルノを遮断・削除する理由は表向きは公序良俗に反するからであるが、内情としては2つある。
1つはプロバイダーにポルノのイメージがついてしまうことでユーザーが離れてしまい経営的に苦しくなるためである。90年代中旬にホームページエリアレンタルの容量を他社よりも10倍~100倍多く提供していたプロバイダーのB社は、その容量ゆえにポルノ写真を掲載しているウェブサイトの温床となった。いまでもそのプロバイダーの名前を出せば当時を知っている人なら「あのアダルトサイトのプロバイダー」と思うかもしれないが、実情はポルノサイトを開設しているユーザーは全体の1%以下で、残りの99%以上は所謂”普通の接続サービスユーザー”であった。しかしアダルトサイトのプロバイダーというイメージが着いてしまったために普通の接続サービスユーザーの多くが解約してしまい経営が傾いてしまった。
また別のあるプロバイダーも00年代半ばにポルノ閲覧サービスを前面に打ち出したプロモーションを行ったが、そのプロバイダーのドメインのアドレスでメールを送ると送り先の人から「あ、この人はポルノが見たくてこの会社を選んだのかな?」と疑われるのがいやで多くのユーザーが解約してしまったという話もある。つまりポルノのイメージはブランドにマイナスであり、どの社も排除したいものの1つだ。
もう1つは、ホスティングサービスとしてもポルノはデータ量・転送量ともに大きく、ビジネスとして考えた場合に割に合わないためである。あるホスティング会社はアダルトサービス向けに高スペック・高額なサービスを用意したのだが、通常のホスティングとちがいアダルトサイトは”スペックどおりに利用されてしまう”ために設備投資が追いつかず、サービス開始してまもなくサービスを終了してしまった。通常のホスティングはスペックどおりに利用する人などほとんど居らず、1割~2割程度の設備としておけばなんとかなるのだが、アダルトサイトに関してはほぼ100%スペック通りに利用されてしまうということだ。
実際いくつかのデータを見たことがあるが、ポルノ情報は需要に対して供給が少なく、また高精細であったりマニアックなものは希少であるためにトラフィックが集中しやすい。また高精細・マニアックになればなるほどその需要を満たすために容量が大きくなるため、サイト運営者はサーバースペックぎりぎりまでデータをアップロードする傾向がある。そのため経営的に見てアダルトサイトの容認は割りに合わない。またホスティングではなくて広告モデルの無料エリア提供に関しても、猥褻サイトには広告単価の高いナショナルクライアントが着かないために、同じく割に合わない。
これら事情から現在でもプロバイダーによる検閲、排除は日常的に行われている。今回の法改正に対して、最終的にプロバイダー各社が同意した経緯の1つには、上記のようなポルノ排除が経営的にプラスになるという内情もある。
話しをもどすと、児童ポルノ排除がすなわち思想統制・言論弾圧になるかといえば、ならない。そもそもインターネットは民間のものであり国家のものでないから、民、特に”商の論理が優先”されるというのは前述のとおりだ。アダルト、とくに児童ポルノ排除は経営的にプラスであるから協力するのであって、自由な言論を排除することは経営的にプラスにならない。また仮に接続サービス業者で「わが社は児童ポルノ遮断に協力しない」というところが現われたとしても、その接続業者を利用している=児童ポルノの閲覧ユーザー、とみなされるようになれば例にあげたB社のように経営が傾くだけであり、商の論理で淘汰されるだけである。
また思想統制・言論弾圧の手段として国家が恣意的に関与すれば、関与を受けたプロバイダーから商の論理でそのプロバイダーから、プロバイダー全体が関与を受ければインターネットそのものから利用者がいなくなるだけである。仮にそのような事態になったとしても、それは自由なメディアが1つ失われることであり、そのこと自体は悲しいことであるが、自由な言論の需要があれば別のメディアにその舞台が移るだけである。多少不便になるけれども、それがすなわち思想統制・言論弾圧につながるこというは無い。
| 固定リンク
|
コメント