最終的には装着したんですが、テストが終わると彼女がやってきて、もう一度、付けてみたいというんです。応じると、あちこち歩き回り始めました。いろんなものを触りながら、認識できるものを確かめているようでした。そして教室の出口で立ち止まると、ふっと彼女が手を上げたんです。そして、5本の指を額の前にさらした。大きな声で彼女が叫んだのは、次の瞬間でした。「I can see my fingers!」彼女は自分の指を、動く指を初めて見たんです。
その声を聞きつけて、生徒が次々に集まってきて。みんなが自分の手をかざし始めて。 私たちは生徒たちに「Can you see?」とは絶対に聞きません。「feel」や「distinguish」を使う。ところが、自分たちから「see」が出た。これには「やった!」でした。触ることでいろいろなものを認識してきた彼女たちにとって、動くものがわかるというのは、とんでもないことだったんです。だからメディアも、ミラクル、と言ってくれたんです。
「やりたい」と思ったことを次々と実現させている菅野さん。全盲者に視覚を与えた「オーデコ」の研究開発に着手するまでのキャリアは、とても意外なものでした。営業、SE、研究者と、まったく違った道をそれぞれ納得いく形で成し遂げているのはすごいと思います。一人でも多くの全盲者の方が、「I can see my finger!」と叫ぶ日が待ち遠しい!