千葉景子法相が民主党政権になって初めての死刑執行を命じ、2人が東京拘置所で執行された。
かつて、「死刑廃止を推進する議員連盟」のメンバーだった千葉法相の執行命令について、関係者からいぶかる声が出ている。だが、法相として初めて執行に立ち会った千葉法相は「死刑に関する根本からの議論が必要だと改めて感じた」と会見で述べた。
秘密のベールに包まれた執行の現場はどうだったのか。直接見た実態について、千葉法相が国民に率直に語るのが議論の出発点である。
千葉法相は、死刑制度の存廃を含めて議論する勉強会の設置や、東京拘置所の刑場の報道機関への公開も法務省に指示した。
民主党は、昨年公開した政策集で「死刑の存廃問題だけでなく当面の執行停止や死刑の告知、執行方法などをも含めて国会内外で幅広く議論を継続する」と、うたった。千葉法相の方針は、党の方向性とも合致する。ただし、勉強会は、法務官僚だけで構成するのではなく、外部の第三者も加えて、幅広く議論する機会を作るべきである。
死刑の執行命令は、法相の任務だが、千葉法相の就任後1年近く執行がなく、持論を貫いて執行せずに退任するとの憶測も出ていた。また、参院選で落選し、25日で参院議員の任期が切れていた。執行命令書へのサインは24日だが、野党からは「国民からノーと言われた人が執行のサインをした」との批判が出ている。
なぜ、この時期に執行したのかについても、疑問の声がある。30日召集の臨時国会では、野党の追及も予想される。千葉法相には、今回決断した理由について説明責任を果たしてもらいたい。
世界の3分の2を超える国が法律上、または事実上の死刑廃止国だ。先進国で死刑を存置しているのは、日本と米国である。
07年12月の国連総会で、欧州連合(EU)などが提出した死刑執行の一時停止(モラトリアム)を求める決議案が104カ国の賛成で初めて採択された。決議は拘束力がなく、自民党中心の政権下では、厳罰化の流れに沿う形で執行を続けてきた。08年にも、国際人権規約委員会が、人道的見地から死刑確定者の処遇を見直したり、精神的苦痛を軽減するため死刑囚に執行日時を事前に告知するよう日本政府に勧告した。
司法制度や刑罰は、それぞれの国が決めるのは言うまでもない。だが、国際社会の声に全く耳を貸さないという姿勢は通るまい。実態がほとんど明らかにされていない死刑囚の処遇や執行の実態について公の場で議論を始めるのは当然である。
毎日新聞 2010年7月29日 2時35分