きょうの社説 2010年7月29日

◎法相が死刑執行 信条より職務優先は当然
 千葉景子法相が2人の死刑執行に踏み切った。かつて死刑廃止推進議員連盟に所属し、 昨年9月の就任以来、1度も執行がなかったが、法相は法執行の最高責任者であり、刑事訴訟法で法相の死刑執行権限が明記されている以上、個人的な信条より職務を優先させるのは当然である。

 死刑廃止議連などは今回の決定に対し、千葉法相が変節したと批判しているが、法相が 最終判断を負わずして、誰が判断するのだろうか。死刑存廃の問題と、確定した死刑判決を執行することは明確に区別して考える必要がある。

 裁判員裁判では今後、一般市民が死刑の重い決断を迫られる局面が予想される。裁判員 が苦悩の末に決めた極刑判決に法相が背を向け、執行が滞れば、あまりにも無責任であり、裁判員制度の基盤は崩れることになる。

 千葉法相は、死刑執行後の会見で、死刑存廃を含めて議論する勉強会の設置や、刑場を 報道機関に公開するよう省内に検討を指示したことを明らかにした。さらに、執行に立ち会ったことも公表した。執行判断を機に、公正な立場で議論を活性化させるという狙いなら理解はできる。

 今年2月に発表された内閣府の世論調査では、死刑を容認する人の割合は85・6%と 過去最高に上った。この数字をみても、今の段階での死刑廃止は現実的ではないだろう。その一方で、執行者の氏名、執行場所が公表されるようになったとはいえ、死刑制度に関する情報公開は十分とは言い難い。国民の関心をさらに高める取り組みは必要である。

 千葉法相は参院選で落選しながら、菅直人首相が続投を要請したことで野党から批判を 浴びている。臨時国会を控えたこの時期の死刑執行は、そうした批判をかわす狙いとの見方も出ている。真意はともかく、政治色を帯びた執行だったという疑念を持たれること自体、好ましいことではない。

 人命で罪を償う死刑は、究極の公権力の行使といえる。それを担うポストに、民意の支 持を得られなかった人物が居続けることは、続投人事が内閣の都合だったという側面も考え合わせると、やはり違和感はぬぐえない。

◎認定看護師の助成 教育機関の設置が課題
 認定看護師を増やすため、石川県は資格取得費の助成制度を設ける。資格をめざす看護 師にとって歓迎すべき措置で、これを機に病院の支援体制の充実を望みたい。また北陸三県共通の中長期的課題として、認定看護師の教育機関の設置を考える必要もあるのではないか。

 特定の看護分野で熟練した技術と専門知識を持つ認定看護師は、看護スタッフのけん引 役であり、その存在は病院の評価をも高めている。自信と誇りをもって看護の道を進みたいという意欲的な看護師の目標となる存在であるが、日本看護協会の認定を受けるには、半年以上の研修を受けなければならず、その間の生活不安や負担の増大が重荷になっている。

 このため、看護師が安心して研修を受けられるよう、研修期間中の身分・給与を保障し 、さらに独自の助成制度を設ける病院が増えている。が、看護師の確保自体が容易でない状況のため、希望者がいても長期研修に出す人的余裕のない病院も多いといわれる。

 それだけに、公的な負担軽減策だけでなく、資格取得をめざす看護師が気兼ねなく研修 を受けられよう、例えば、柔軟な勤務体制を敷き短期、短時間の看護スタッフでカバーするなど、病院挙げての理解と後押しが欠かせない。

 7月1日現在の全国の認定看護師は7363人に上る。石川県内の認定者数は68人( 全国36番目)で、看護職員に占める割合は0・59%(全国平均0・81%)にとどまる。富山県は71人、0・69%、福井県は69人、0・96%で、北陸の認定者数が下位にある背景の一つとして、認定看護師の研修を受ける教育機関が地元にないというハンディを指摘できる。

 日本看護協会認定の教育機関は首都圏や関西、東海、福岡に集中しており、北陸方面で は新潟県に「皮膚・排泄ケア」分野の教育機関があるだけだ。北陸在住者は旅費や滞在費でも重い負担を強いられているのである。5年ごとに資格更新が必要な認定看護師を将来的に着実に確保していくには、教育環境の改善を真剣に検討する必要があると思われる。