社説
口蹄疫終息へ/「痛み」を教訓にしなければ
畜産王国・宮崎を大きく揺るがした口蹄(こうてい)疫に、ようやく「終息」の二文字が見えてきた。 今月4日の宮崎市を最後に新たな感染がないことから、宮崎県はきのう県内全域で家畜の移動・搬出制限を解除。ウイルス残留の恐れがあるふん尿を処理した後の来月27日に終息宣言を出す見通しとなった。 約29万頭もの牛や豚が殺処分された。戦後最大の家畜被害である。「再生」に向け国と県には被害農家の再建支援に全力を挙げて取り組んでもらいたい。 同時に、感染の拡大がもたらしたこれほどの犠牲と農家の「痛み」を、再発防止の教訓としなければなるまい。 口蹄疫は東アジアで流行しており、海外からウイルスが侵入した可能性が高いと考えられている。宮崎に限らず全国どこで発生しても不思議はないのだ。 水際でいかにウイルスの侵入を防ぐか。侵入を許した場合、感染拡大を防ぐため、どう対処するか。国の危機管理が問われているのはもちろん、畜産振興に力を入れる東北の各県にも万が一の備えが求められている。 感染源と感染経路は依然として不明だ。政府は発生からの経過をつぶさに検証し解明を急ぐべきだ。併せて、なぜ感染拡大を防げなかったのか、国と県の対応を洗い直す必要がある。 まず初動対応のまずさがある。最初の感染が分かった4月20日以前に、後に感染が判明する疑わしい事例が通報されている。これを県が見逃した。国と連携し疑わしいケースでも遺伝子検査を含め速やかな判断ができるような態勢づくりが必要だ。 優秀な牛を絶やさないため、種牛を迅速に隔離する必要性も浮き彫りになった。ブランド牛を抱える東北各県は、平時でも種牛や精液を分散しておくことを含め危険分散を図りたい。 見逃せないのは、処分家畜の埋却地の不足である。土地が確保できないため、発生ペースに処分と埋却が追いつかず、ウイルスを発散させ続けて感染拡大に拍車をかけたからだ。 家畜伝染病予防法は埋却地の確保を農家に求める。だが経営が大規模化した今、農家が対応するのには無理がある。5月に成立した特別措置法は国と自治体にその確保を求めている。 各県は農家の飼育頭数を把握し、事前に埋却地をリストアップしておくことが大切だ。消毒地点の設置や通行制限を含む有事の訓練も実施しておきたい。 もっとも家畜の処分・埋却には土地とともに獣医師や自衛隊員ら人員の確保が必要だ。感染が複数県に及ぶ事態も考えられる。国主導による対策の強化が不可欠で、1951年に施行され対策の主体を県とする予防法は、特別措置法の内容も組み込んで抜本的に改正するべきだ。 宮崎県で畜産農家が再び出荷できるようになるには、肉牛の繁殖農家で2年以上かかる。経営と生活の再建に向け、行政によるきめ細かで長期的な支援が欠かせない。手塩にかけた家畜を一挙に失った生産者に精神的なケアも要る。国と県には、打撃を受けた地域経済の復興にも十分な目配りを求めたい。
2010年07月28日水曜日
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