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[20551] 【チラ裏から】ネギくんといっしょ(女オリ主)(御詫び追加)
Name: みかんアイス◆25318ac2 ID:68c9a700
Date: 2010/07/24 01:33
 はじめまして。みかんアイスです。
 この作品は「ネギま!」の二次創作を読んでいて、ふと思いついた作品です。
 決して原作、他の二次創作作品を馬鹿にする気も否定する気も御座いません。むしろ大好きです。
 軽い読み物として、楽しんでいただけたら幸いです。



 お読みになる前の注意書き
 
 女オリ主で、TSではありません。
 ご都合主義です。
 チート主人公です。
 チート男オリ主的なオリキャラが出てきて、アンチネギ派です。
 アンチネギに否定的な表現があります。
 ネギの初恋物語的な感じになる予定です。
 ヒーロー(?)ネギとヒロイン(?)女オリ主です。
 ネギ×女オリ主はほぼ確定です。
 妄想が溢れて出来た作品です。痛いです。
 自己満足です。御免なさい。



 上記の注意書きをご不快に思われるようでしたら、どうか引き返して下さい。

 かまわない、気にしない、と思われるようでしたら、このまま進んで下さい。




御詫び

2010.7.23.
チラシの裏から移動しました。

………………………

2010.7.24.
こんばんは。みかんアイスです。
今まで読んでくださった皆様には、板を移る際の誤削除にてご迷惑をおかけしました。
感想にて「消えてないよ」とアドバイスを頂き、確認してみたところ、消えていませんでした。
ですが、もうこうして新たに投稿してしまいましたので、ここは潔く諦めて、このまま頑張ろうかと思います。
消えていなかったものは、混乱が起きるといけませんので、削除いたしました。
皆様から頂いたご感想、ご意見は、読み返し、メモしたりして、がっちり脳内に保管しました。
この削除に関し、私の勝手で、皆様にご不快な思いをさせてしまうかもしれません。本当に申し訳ありません。
そして、先の誤削除に対し、様々なアドバイス、お言葉を頂きまして、本当にありがとうございました。
これからも頑張っていこうと思います。よろしくお願いします。
  



[20551] プロローグ 予定外の覚悟
Name: みかんアイス◆25318ac2 ID:68c9a700
Date: 2010/07/27 13:43

 誰か私に教えて欲しい。

 関わるまいと決めていた人物が、暗い顔で、顔を俯けて生活をしていたら、どうすればいいだろうか。

 マリア・ルデラは、心底悩んでいた。


   プロローグ 予定外の覚悟



 本来その人物は、多少困ったちゃんではあったが、明るく、素直な良い子なのだ。

 そんな子が、生気の無い淀んだ目で、背中を丸めながら、一人でぽつんと、木陰に座っている。

 まだ七歳の子供が、だ。

 これは正直、ヤバイと思った。

 このままじゃ、死んでしまうんじゃないかと思うほどだ。



 大人は、親しい人間は何をやってるのよ?!



 そんな事を思うが、思っただけでは世界は動かないし、現状は打破出来ない。

 本当に、関わるつもりは無かった。

 けれど、放っておくなんて出来っこなかった。

 気付いたからには、気付いてしまったからには、マリアはそれをすべきだと思った。

子供を守るのは大人の役目。

 ここは空想の世界なんかじゃなく、現実なのだから。



「ネギくん。具合、悪いの?」



 マリア・ルデラが話しかけた子供、ネギ・スプリングフィールドは、ぼんやりとした表情で、顔を上げた。



   *   *



 全ての始まりは何処だったかと聞かれれば、自分『秋元 七海』が病死した瞬間から、とマリアは答える。

 マリア・ルデラは転生者なのだ。

 マリアの前世は『秋元 七海』という病弱な女の子だった。

 『七海』は病魔に侵され、十七歳の時にこの世を去った。

 そして、『七海』の魂が輪廻の輪に加わろうとした時、神の気まぐれによって掬い上げられたのだ。

「ワシはお主ら人間の言うとことの神じゃ。どうにも最近暇でのぉ。じゃから、お主を物語の中に転生させる。転生先は『ネギま』じゃ。そして、物語を歪ませ、ワシを楽しませてもらいたい。なに、タダとはいわん。お主の望みを三つ叶えてやろう」

 神様がそれで良いのか……?

 そんな事を思いつつも、『七海』が神に敵うはずも無く……。

「では、性別は前世と同じく女で。それから、丈夫な体が欲しいです」

「ふむ。良かろう。では、残りの一つを言うがよい」

「残りの一つは、一般家庭に生まれることです」

「……それだけか? チートな能力とかはいらんのか?」

「そんなもの手に入れたら争いに巻き込まれるじゃありませんか」

「お主、ワシが言ったことを聞いておらんかったのか?」

「聞いてましたけど……?」

 『七海』がそう言って首を傾げれば、神は震えだし、怒鳴った。

「ぜんっぜん聞いておらぬ! ワシは物語を引っ掻き回し、ワシを楽しませろといったのじゃ! なんじゃ、そのやる気の無さは?!」

「えっと……、私、戦いはちょっと……」

「もう良い!ワシが決めてやろう。…ふむ、お主は『刀語』という物語が好きなのじゃな。む、丁度良い人物が居るではないか。『ななみ』つながりで、お主には『鑢 七実』の『天才性』を付けてやろう」

「ええ?! いりません!!」

「やかましい! ふむ、そうじゃの。お主の願った丈夫な体は、『天才性』に負けぬほど強く頑丈で柔軟性のある体にしてやろう」

「だから、神様。私、戦いは――」

「よし、行って来い!」

「い、嫌ぁぁぁ?!」

 こうして、『七海』は勝手に能力を付けられて、『ネギま』の世界に『マリア』として転生したのだった。



   *   *



 そして、転生してから七年の月日が流れ、マリアは遂にネギ・スプリングフィールドと接触しだのだった。

「ネギくん、大丈夫?」

「マリア…ちゃん……?」

 生気のない目を見て、マリアの背中にぞくり、と冷たいものが走る。

 これはいよいよもって、よろしくない事態である。

 一年前に見たときは、もっと明るい子だったのに、いったい何時から……。

 なるべく接触を避けていたため、ネギの異常には気付かなかったのだ。

 物語のやっかいな主人公と決め付け、避けていた事に罪悪感が過ぎる。


 悪いことしちゃったな……。


 ネギの異常な様子にようやく気付いたのは、一週間ほど前のことだ。

 気付いたときは驚いたものの、一時的なものだと思い、様子を見ていたのだが。


 ごく一部の親しい人間には明るく見せてたけど、他では様子がちっとも変わらなかった、というか、それが普通になってる様な感じだったんだよね……。


 それはつまり、長い間ネギはこの陰鬱とした影を背負って生きてきた、ということにならないだろうか。

 そんな、一週間にわたる観察で恐ろしい予測を立てるなか、ふと、思ったことがあった。

 これって、もしかして、あの子の所為……だったりするのかなぁ?

 そんな事を考えながら、マリアはネギの隣に腰を下ろした。



 さて、マリアがこの世界に転生したときは思いもしなかったが、この世界には、実はもう一人の転生者が存在していた。

 神が消極的なマリアでは楽しめないかもしれないと危惧し、もう一人転生者をこの世界に放り込んだのだ。

 彼の名前は、アルカ・スプリングフィールド。

ネギ・スプリングフィールドの双子の弟である。



 まさか、ねぇ?

 たとえ転生者といえども、血の繋がった兄弟で、精神年齢は良い大人の筈だ。まさか、ネギを虐げるような事はしないだろう。

 アルカに対する疑いをすぐに打ち消し、マリアはネギに再度聞く。

「ネギくん。何か悩み事?私に出来ることってある?」

 ネギは暫く考える様子を見せた後、何でもない、といって首を横へ振った。

 そしてネギは立ち上がり、教室に戻ると言って去っていった。

 まあ、大して仲の良くない自分が突然こんな事を言っても、すぐに相談など出来ないだろう。
 辛抱強く、気長に構えていよう。たとえ仲良くなれずとも、自分がネギを構う様子を見れば、誰かがネギの異常に気付くかもしれない。ネギの問題を解決するのは自分でなくても良い。ネギのあの様子が少しでも良いものになれば良いのだ。

 マリアはそう考えながら、ネギの後を追ったのだった。









[20551] 第一話 マリアとネギ
Name: みかんアイス◆25318ac2 ID:68c9a700
Date: 2010/07/27 13:45


 さて。暗い表情のネギを見かけてから、一年の月日が流れた。

 あれから、どうなったかというと……。



「マリアちゃん、遊ぼう!」

「うん、いいよ!」



 マリア・ルデラと、ネギ・スプリングフィールドは友達になった。



   第一話 マリアとネギ



 ネギの誘いに頷きながら、マリアはネギの元へ駆けていく。
 そして、そこでようやくある人物の姿が見えない事に気付いた。

「あれ? 今日はアーニャちゃんは一緒じゃないの?」

「あ、うん……。今日は、アーニャはアルカと一緒だよ……」

 そう言ったネギは、少し気まずげに視線をずらした。

 そんなネギの様子に、マリアは内心ちょっと慌てた。

 あの一年前のネギの暗い様子は、ほぼ、アルカが原因だったのだ。



   *   *



 自分こと、マリア・ルデラは転生者だ。

 前世は病弱だった為、満足に走ることも出来なかったが、今の体は望みどおり頑丈で、好きなだけ走り回ることが出来た。
 マリアはただ走れるという事が嬉しくて、精神年齢が大人であっても、子供達と一緒に遊ぶのは苦にはならず、むしろ思いっきり動き回れるので楽しかった。
 その為、マリアは子供達の輪に違和感なく溶け込んでおり、マリアを異端視する者は居なかった。まあ、少しばかり、自分の精神年齢が本来のものより低いだけなのかも、と思わなくもなかったが。
 マリアの転生先は望み通りの一般家庭で、神に強制的につけられた『天才性』はトラブルに出会わない限り隠しやすいものだった。

 さて、そんな一般人に紛れやすいマリアに対し、もう一人の転生者、アルカ・スプリングフィールトは見るからに異端だった。
 マリアが彼を転生者だと確信したのは、何もネギの双子の弟だからではない。あの、子供らしからぬ思考からだった。

 アルカ・スプリングフィールドは『立派な魔法使い』というものに対し、随分と否定的だった。

 ただ、否定的と言っても、彼がそれを明言したわけではない。
 しかし、彼の全てを斜めに構える姿勢が、『立派な魔法使い』を目指すなどくだらない、と言っているようなものだった。

 魔術学院の生徒の大多数が『立派な魔法使い』を目指す中、そんなアルカが周りに受け入れられる筈もなく、彼は常に一人だった。

 彼の魔力量は少なく、成績も下の中。それを皆はつつき、英雄の息子の癖に、と嗤い、失望した。

 だが、それをアルカは大して気にした様子もなく、日々を淡々と過ごしていた。

 ここで、マリアはほぼ確信する。

 彼は転生者で、絶大な力を隠していると。

 アルカの魔力量や能力が本当に周囲の評価通りならば、たとえ本当に気にしていないのであっても、あのあからさまな失望と嘲笑には、年齢的にも、実力的にも少しは堪えるはずである。

だが、アルカはそれを受け流した。

 有り得ない。
違和感が拭えない。

 あれは、見た目通りの年齢ではない。
 あれは、周囲の評価通りの実力ではない。

 アルカは、あまりにも『普通』から逸脱した存在だった。



   *   *



 アーニャが今日は居ないと知って、マリアが提案する。

「そっか。じゃあ、今日は森で木登りでもしよっか?」

「うん」

 マリアの提案に、ネギは少し安堵した。

 ネギは、マリアをアルカに取られるのが恐かったのだ。

「アーニャちゃんって木登り嫌いだよね」

「うん。髪が枝に引っかかるのが嫌なんだって」

「括っちゃえばいいのに」

「それでも引っかかっちゃうみたいだよ」

「ふぅん。面白いのにね?」

「うん。面白いのに、勿体ないよね」

 談笑しながら、ネギとマリアは森に入る。

 嬉しいな。誰かが隣に居るって、すごく幸せだな。

 そう思いながら、ネギはマリアの笑顔を盗み見る。

 マリアは、十人が十人とも美少女だと認めるような、綺麗な容姿をしていた。

 マリアのふわふわした長い髪は、綺麗な淡い金髪で、瞳は若葉のような緑色。
 妖精が居るとしたら、きっとこんな姿をしているんだろうと思わせるような少女だった。

 ネギは初めてマリアを見たとき、なんて綺麗な子なんだろう、と思った。

 だから、一年前のあの日、マリアがネギに話しかけて来た時は、とてもびっくりした。だって、ネギはマリアから避けられているようだったから。

 あの時、マリアに話しかけられて、心配されて嬉しかったが、同時にマリアもきっとアルカの元へ行き、どうせ自分を一人にするのだろうと思った。だから、あの時はマリアを拒絶した。

 一年前のあの頃、ネギの笑顔を曇らせ、子供らしからぬ陰鬱とした影を背負わせたのは、アルカが原因だった。

 ネギは、孤独に追い込まれていた。

 まず、周囲の期待の目。
 これは、アルカへの失望がネギへの期待に変わり、当初のネギへの期待を何倍にも膨れ上がらせ、ネギに多大な重圧をかけた。
 ただしそれは、ネギの親しい者がフォロー出来ていれば、負担は軽減されていたであろうものだった。
しかし、それは叶わなかった。
 ネギの親しい者、ネカネやアーニャ、学院長などは、こぞってアルカに構いっぱなしになっていた。
 それは、アルカが周囲から孤立していたからだった。
 アルカとしてはそれで良かったのだろうが、親しい者達はそれを心配した。
 ネギはしっかりしているから大丈夫だろうと思いもあったのだろう。彼等はどうにかアルカを孤立させないように苦心し、アルカを構った。
 そんな中、素直な良い子のネギは、一人で頑張っていた。
 だが、そんなネギに悲劇が襲う。

 『いじめ』だった。

 何時の世も、出る杭は打たれるものである。
ネギの才能を妬んだ人間が、ネギに嫌がらせを始めたのだ。

 ネギは、それを誰にも言わなかった。

 だが、それは親しい者であれば見抜けたであろう稚拙な態度だった。
 けれども、彼等はアルカを構うのに忙しく、ネギの様子を見逃した。

 ネギは、孤独だった。

 だが、ネギはどんなに辛くとも、誰かに頼ろうとはしなかった。
 それは、アルカへの罪悪感からだった。

 あの、悪魔の襲撃の日。
 一人だけ父に会い、杖を貰った。
 
 それを、あろう事かアルカに自慢してしまったのだ。

 それは、ネギのアルカに対する大きな引け目になった。

 それからのネギは、寂しさでいっぱいだった。

 あの悪魔の襲撃の日から、そこそこ仲が良かった双子の弟との関係は冷え切ったものになった。
 自分を甘やかしてくれる優しい姉は、アルカに構いっぱなしで、ネギにまで手が回らない。ネカネとネギが最後に一緒に寝たのは随分昔の事だ。
 一番仲良しだった幼馴染は、アルカがいつも一人で居ることを気にして、ネギを一人にした。
 優しいお爺ちゃんは、アルカの冷めた思考を悲しく思い、何かと気にかけるようになって、ネギの様子を見逃すようになった。

 けれど、ネギはアルカから彼等を取り上げられなかった。
 だって、大好きな、尊敬する父に会い、大切な杖を貰ってしまったのだから。

 だから、お姉ちゃんやアーニャ、お爺ちゃんが僕の側に居ないのは仕方のないことなんだ。

 そう思って、ネギは耐えた。

 ともすれば、泣き喚きたくなるような重圧を、父の杖に縋りながら。

 だから、恐かったのだ。
 こんな自分に根気強く話しかけてくれて、やっと出来た大事な友達をアルカに取られてしまうのが。

 ネギはそんな事を考えてしまう自分を嫌悪し、再びアルカへの罪悪感に苛まれる。
 そんな、感情の悪循環に嵌まり込んだネギが、胸の内、心の蟠りをようやく吐き出せたのは、つい最近の事だ。

 こんな事を言って、嫌われないだろうか?軽蔑されないだろうか?
 マリアも、アルカの元へ行ってしまわないだろうか?
 それとも、マリアがアルカの元へ行ってしまうのは当然の事なのだろうか?

 自分が一人なのは、当然の事なのだろうか?

 とても恐かった。



 けれど、マリアはネギの隣に居る。

 ネカネも、アーニャも、お爺ちゃんも、皆アルカを選んだけど、マリアはネギの隣に居るのだ。

「?」

 自分を見つめるネギに気付き、マリアが首を傾げた。

「何? ネギくん」

「あ、ううん。何でもないよ」

 変なネギくん、と言って笑うマリアに、ネギの頬が染まる。

 寂しかったネギの傍に居る可愛い少女。

 ほっこりと胸を暖めるその存在に、ネギが段々と友情とは別の感情を少女に抱き始めるのは、とても自然なことだった。










[20551] 第二話 我が親愛なる兄上様
Name: みかんアイス◆25318ac2 ID:68c9a700
Date: 2010/07/27 18:29

「貴様がネギ・スプリングフィールドか!」

「我が妹に目を付けるなど、見所のある奴め!」

「兄貴、何を褒めているんだ?」

「む! つい本音が!」

「ふん!まあ、とにかく、我が妹とオツキアイしたいのなら、我々を倒してからにしてもらおう!!」

「たとえ英雄の息子といえど、容赦はせんぞ!」

「さあ!かかって来い!!」

「うええぇぇ?!」

「兄さん達、八歳の子供に何しようとしてるのよ?!」



   第二話 我が親愛なる兄上様



 それは、ある休日の事だった。

 マリアは前日にネギと遊ぶ約束をしており、待ち合わせ場所の広場に向かい、ある事に気付いた。

「あれ? 何だろう、あの人だかり……」

 不思議に思いつつも、先にネギを探すために辺りを見回すが、ネギの姿は見えない。

 いつも先に来てるのに、珍しいな。

 そう思いつつ、広場に入り、人だかりに近付くと、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「貴様がネギ・スプリングフィールドか!」

「んん?!」

 聞き覚えのある声、自分の兄の声が人だかりの中心から聞こえてきたのだ。

 そして、話は冒頭へ戻る。



   *   *



「もう! 兄さん達ったら、朝から姿が見えないと思ったら、何をやっているのよ!!」

 そう怒りながら、マリアが睨み付けるのはマリアの三人の兄達である。

「む! しかしだな、これは大切なことなのだぞ!?」

「そうだぞ、妹よ! 我々の可愛いマリアにたかる害虫が居ると聞けば、いてもたってもいられなくなるというものだろう!」

 胸をはり、ふんぞり返りながらそう反論するのは暑苦しい双子のムキムキマッチョ。一番上の兄達で、スキンヘッドが眩しいガルトとゴルトである。

「大体、ランド兄さんも何で兄さん達に同調しているのよ! 止めてよ!!」

「うーん。けどな、俺もマリアのカレシ、じゃなくて、友達が気になってな」

 そうやって困った様子で笑うのは、金髪碧眼の三男ランドだ。ランドは上の双子と違い、爽やかな細マッチョだ。その所為か女性に人気があり、双子から訓練という名の制裁を受けることが多々ある。
 これで元祖マッチョの父が加わると、暑苦しいというより、もはや凶器だ。その所為か、マリアが生まれたとき母は泣いて喜んだし、マッチョ達に囲まれた自分は我が家のお姫様扱いである。

「はぁ……。もう、いいわ。ネギくん、大丈夫だった?」

「カレシ……、あ、えっと、うん。大丈夫だよ」

 何故か微妙に嬉しそうなネギの様子に、マリアは首を傾げる。

「じゃ、ネギくん。遊びに行こう」

「うん」

 ネギの手を引いて走り出そうとすると、それを阻止せんとマッチョ双子が立ち塞がった。

「待てい!」

「まだ話は終わっておらんぞ!!」

 本当に鬱陶しい兄達である。

「もう!兄さん達、いい加減にして! 私達は―」

 兄達に文句を言おうとマリアは言葉を連ねようとするが、それは叶わなかった。何故なら……。



「くしゅんっ!」



 ぶわっ!!



「ぬおおおお?!」

「なんとぉぉぉ?!」

「い、いやぁぁぁぁ?!」

「「「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ?!」」」」」

「なんつー凶器だ……」



 広場に悲鳴が響き渡った。

 なんと、ネギのくしゃみによりマッチョ双子が武装解除され、下着の黒ビキニのみという醜態を晒したのだ。悪夢のような光景である。

「むむっ! 何やら注目を集めているようだな!」

「何やら新たな目覚めの予感が……」

「やめてぇぇぇ?!」

 新しい扉を開こうとしている兄達にマリアは涙目だ。
 この状況を治めたのはランドで、飛ばされた衣類を素早く回収し、それを兄達にとっとと着せた。周囲に平謝りする姿は苦労人の気配が滲み出ている。

 人だかりが無くなり、閑散とした広場で双子が呟く。

「ふむ。やはり服を着るというのは大切な事の様な気がするな」

「ああ、俺もそんな気がする」

「気がするんじゃなくて、人として当然の事なんだよ。よしよし、マリア。もう怖くないぞ~?」

「えぐえぐ……」

「マ、マリアちゃん、ごめんね? お兄さん達もごめんなさい」

 新たな扉を開き損ねた双子にランドがツッコミをいれつつ、あまりの恐怖にとうとう泣き出したマリアを慰める。
 そして、思わぬ凶器を作り出してしまったネギは、慌てて謝った。

「う~ん。ネギ君はどうやら魔力の制御が甘いようだね」

 泣き止まないマリアを見てオロオロしているネギに、ランドが話しかける。

「ふむ。しかし、ただのくしゃみで武装解除が出来るとは、凄まじく魔力が大きいようだな」

「それで魔力の制御が甘いとなると、危険だぞ」

 それに双子が加わった。

「このままでは、周囲に被害が出るやもしれんな」

「我々は男だったから良かったようなものの、これが女性であったら悲惨だぞ」

 違う意味で悲惨な状況ではあったが。

「制御が甘いとなると、攻撃魔法を使うとき暴発の恐れがあるぞ」

「そうなると、マリアが巻き込まれる可能性もあるな」

 それを聞いたネギが顔色を変える。

「ぼ、ぼく、どうすれば……?!」

「ふむ。致し方あるまい」

「そうだな、兄者。おい、ランド!」

「まあ、可愛い妹の為だしね」

 ランドは未だ泣き止まず、ひっくひっく、としゃくりあげるマリアの頭を一撫でし、ネギに向き直る。

「今日から俺の暇がある限り、ネギ君に魔法の制御を教えようと思う。ネギ君、やってみるかい?」

「あ、は、はい! お願いします!!」

 天の助けとばかりに、ネギは勢いよく頭を下げた。

「うむ! しっかりと学べよ小僧!」

「まだマリアとの仲を認めたわけでは無いからな!」

「あ~、とりあえず、今日からやってみるかい?」

「お願いします!」

「ほら、マリア。お前もそろそろ泣き止め。ある意味、男の門出だぞ」

「ふぇぇ…?」

「マリアちゃん! ぼく、頑張るよ!!」

「う? え? なに? 何の話?」

 話をさっぱり聞いてないマリアであった。



   *   *



 マリアが頭上に疑問符を飛ばす横で、ネギは燃えていた。



 それは、ネギがマリアと遊ぶ約束をした休日のこと。

 待ち合わせの広場に行ってみると、三人の男性がネギを待ち構えていた
 内二人はスキンヘッドのムキムキマッチョで、残る一人は爽やかな細マッチョ。
 三人のかもし出す異様な雰囲気は一体何なんだろうか。やたらと迫力があるのだが。

 だが、その疑問はすぐに解消されることになる。

 この三人の男性は、マリアの兄達で、カ、カレシ候補の自分を検分しに来たのだ。

 その事実に、ネギはちょっと舞い上がってしまった。

 しかし、それがいけなかったのか。思わず出てしまったくしゃみで、スキンヘッドの二人の服を吹き飛ばしてしまったのだ。

 それは正に悪夢の様な光景だった。

 周囲の人間は悲鳴を上げ、双子のマッチョは新たな扉を開こうとし、それを見たマリアが泣き出してしまった。
 自分が原因でマリアを泣かせてしまい、ネギは慌てた。
 きちんと謝ったものの、それで終わらなかった。

 自分の魔力の制御の甘さが、マリアを傷つけてしまう可能性があるとマリアの兄達に指摘されたのだ。

 目の前が真っ暗になる思いだった。

 自分が、マリアを傷つける?
 あの、優しくて、暖かなマリアを?

 そんな馬鹿な?!

 けれど、現実は目の前にあった。

 今、マリアを泣かせたのは誰だ?

 自分だった。

「ぼ、ぼく、どうすれば……?!」

 マリアを傷つけるなど、冗談ではない。
 それだけは、絶対に許せない。

 青ざめるネギに、救いの手は差し伸べられた。

 他でもない、マリアの兄達である。
 ネギは、迷わずその手を取った。
 マリアの兄の手を煩わせるのだ。頑張らなくてはならない。

「マリアちゃん! ぼく、頑張るよ!!」

 マリアを傷つけないために。
 マリアの傍に居るために。

 ネギは決意を胸に、燃えていた。









[20551] 第三話 アルカ・スプリングフィールド
Name: みかんアイス◆25318ac2 ID:68c9a700
Date: 2010/07/27 13:49


 それを見たときのマリアの感想は、ただ一言だった。



 ヤバイ。



   第三話 アルカ・スプリングフィールド



 こんなことがあって良いのだろうか。

 むしろ、これは何かの陰謀じゃないだろうか。

 そう思わずにはいられない今の状況に、マリアは頭を抱えた。



 なんで、アルカ・スプリングフィールドがここで訓練してるのよ?!



   *   *



「魔法の射手 連弾風雷の二十五矢!」

 ズガァァァァァン!

 風と雷が掛け合わされた魔法の射手が、轟音を立てて巨大な岩を砕いた。

「そこまで! このまま順調に行けば三十矢もすぐに撃てるようになるでしょう」

「ありがとうございました!」

「では、十五分の休憩後、俺との模擬戦だ」

「はい! お願いします!」

 山奥の更に奥の奥。人がとても入って来そうにない森に、ぽっかりと開けた草原があった。
 そこに居るのは三人の男女。
 一人は十歳にもならない男の子供で、残る二人は妙齢の美女と、筋肉質な男性だ。

 子供の名前は、アルカ・スプリングフィールド。

 英雄ナギ・スプリングフィールドの息子であり、天才ネギ・スプリングフィールドの不出来な双子の弟である。
 だが、先程の様子を見れば、その評価は覆されるだろう。
 アルカの魔力量はネギやナギを遥かに上回り、その実力は天才などという言葉すら生易しいものとなっている。
 アルカ・スプリングフィールドは実力を隠していた。

「しかし、アルカ。随分と強くなりましたね」

「ああ、まさかここまでになるとは思わなかったぞ」

 どこか自慢げに笑うこの男女は、実はアルカの式神である。
美女の名はライラ。アルカの魔法の師を担当している。そして、男性の名はアース。武術の師を担当している。

「アースとライラのお陰だよ。二人が居てくれて良かった」

 そう言って、アルカはちょっと照れくさそうに笑った。

 この二人はアルカが転生する際、神から貰ったものだった。

 そう、アルカ・スプリングフィールドは転生者だった。

 アルカの前世の名は、『四条 斎』ごく平凡な高校生で、十七歳の時に事故死したのだ。
 『斎』があの世で漂っていると、神が現れこう言ったのだ。

「これから、お前を『ネギま!』の世界に転生させる。なに、ただ転生させるのではない。三つまで願いを叶えてやろう。見事、あの世界で生きてみせよ」

 正直、物凄く嫌だった。普通に転生させて欲しかったのだが、この絶対者には敵いそうにない。

「では、魔力はこのかの二十倍くらいで。あと、武術と魔法の師が欲しいです。それから、魔力の隠蔽能力が欲しいです」

「ふむ、良かろう。そうじゃな、武術と魔法の師は式神にしておこう。ただし、式神は最初に使った日から七年ほどで使えなくなる。勿論、お主を鍛えるためだけにしか使えぬ。 それから、強さの限界を無くしてやろう。これで、鍛えれば鍛えるほど強くなるぞい」

「あ、ありがとうございます!」

「よいのじゃ、よいのじゃ。よし、では行ってくるがよい!」

 こうして『斎』は、ネギの双子の弟『アルカ』として転生したのである。まさか『斎』を送り出した後、神が「上手くいったわい。思惑通りのチート能力じゃ。これで楽しめるぞい」とほくそ笑んでるなど思いもせず。

 双子の兄、ネギ・スプリングフィールドは多少わがままな所があったが、子供としては当然だろうし、アルカのお兄ちゃんをしようと、ちょこちょこ動く姿は可愛らしく、良い子だった。
 正直、未だ見ぬ父に憧れる気持ちは共感出来なかったが、ネギとアルカの仲はそこそこ良いものだった。

 『原作』を知るアルカは、三歳の頃から修行を始めた。
 さすがに体が小さく、修行は思い通りに進まなかったが、日々確実に強くなっていった。
 周囲には隠蔽された魔力量から、「ネギの搾りかす」やら、「出来損ない」と罵られたり、失望されたりしたが、こちらとしては好都合だった。しかし、自分に良くしてくれたアーニャの両親や、世話になった叔父、叔母、そして、スタンさんはどうにかして助けたかった。その為、アルカは修行に力を入れた。

 そして、あの運命の悪魔の襲撃の日。

 その襲撃が何時起こるかなんてアルカは知らず、修行から戻ってみれば村が燃えていた。

 雪が降っている日とは知っていたが、まさか今日だったとは!

 後悔が募るなか、アルカは炎の中を走る。

 そんな時だった。

 一瞬の油断。

 たとえ数年修行しようとも、数年前まではただの高校生だったのだ。
 実戦経験は無いに等しい。

 アルカの背後から悪魔が現れ、アルカを襲ったのだ。

 その豪腕で、アルカは吹き飛ばされた。

 どうにか防御したものの、建物に叩きつけられ、崩れた建物の瓦礫の下に埋まり、気を失ってしまった。
 
 次に気が付いた時には、そこは病院だった。
 どうやら自分は運良く瓦礫の隙間で気を失っており、悪魔の目から逃れたらしい。

 悔しかった。

 一年間修行したが、何も出来なかった。

 アルカだって、たった一年程度で悪魔に敵うなんて思ってはいない。ただ、誰かを連れて逃げるくらいなら出来ると思ったのだ。

 悔しくてたまらなかった。

 そんな時だった。
 ネギがお見舞いに来たのだ。

「アルカ! ぼく、お父さんに会ったよ! それで、ぼく、お父さんの杖を貰ったんだ!」

 瞳を輝かせて、自慢げに父の杖を見せてくるネギ。

 アルカは我慢ならなかった。

「出て行け……」

「え?」

「出て行けって言ったんだ! 父さんの杖? それが、どうしたっていうんだ! 俺に自慢したいのか?! ああ、良かったな! 父さんに会えて!」

「あ、アルカ……」

「俺は、お前がそうやって居る間に瓦礫の下に埋まってたんだ! 何も出来ずに!」

「ご、ごめん…」

「スタンさんや、おじさん、おばさん、アーニャの両親は石にされたんだぞ?!」

「………」

「お前みたいな無神経な奴、顔も見たくない!とっとと、出て行け!!」

「……ごめん」

 そう言ってネギは父の杖を握り締め、背中を丸めて病室から出て行った。

「っちくしょぉぉぉぉ!!」

 ネギが出て行った後、病室にアルカの慟哭が響いた。



 それからというもの、アルカとネギの間は冷え切ったものとなった。

 ネギが「父のような『立派な魔法使い』を目指す」と言い、アルカはそれを冷めた目で見ていた。
 何故なら、あの悪魔の襲撃は、いわば父の所為ではないか。
 そんな父をアルカは許せず、その父に憧れるネギもまた、理解できず、許せなかった。

 こうして、月日が流れた。

 アルカは、どうしても『立派な魔法使い』たる『正義の魔法使い』に対して、良い感情が抱けなかった。

 そんなアルカは周囲から孤立した。

 アルカが周囲から孤立していることを優しいネカネは気にして、よくアルカに構ってくれた。
 幼馴染のアーニャは、ネギほどではないにしても、よく一緒に居るようになった。
 魔法学校の校長たる祖父は、こっそりとこちらの様子を伺い、アルカが何か困ったことになっていないかと心配しているようだった。

 どれもこれも、アルカには有難く、嬉しいものだった。

 自分は、この世界に受け入れられている。

 この世界にとって異分子である自分の身の置き場に、少し不安を感じていたのだ。

 そうして、学校では無能を演じ、修行に明け暮れる日々。
 アルカという異分子が居るものの、アルカの知る『原作』通りに時間は過ぎていった。

 そんな時だった。

 アルカという異分子が混じった所為なのか、『原作』には登場しない人物が、いつの間にかネギの傍に現れるようになった。

 その子の名前は、マリア・ルデラ。

 アーニャと同じ学年で、学校でも評判の美少女だ。
 彼女はどうやら引っ込み思案のようで、ごく親しい人物以外との交流はあまり無いようだった。
 そんな少女がネギの傍に居る。
 おそらく、アーニャがアルカに構う所為で、『原作』に齟齬が生じたのだろう。

 あれもネギハーレムの一員になるのか。

 そんな冷めた思考で、アルカはマリアを見ていた。
 そして、アルカはマリアの事など特に気にせず、日々を淡々過ごした。



 まさか、自分と同じ転生者であるとは思いもよらず。

 まさか、自分が『原作』にこだわり、ネギを『物語の主人公』という色眼鏡で見ているとは気付きもせず。

 アルカは神の掌の上で踊っていた。



   *   *



武術の訓練を終えた後、アルカは美女と男性を紙に戻し、周囲に張っていた結界を解く。
そして、飛び去っていくアルカをマリアは息を潜めて見送り、アルカの気配を感じなくなってから、大きな溜息を吐いた。

 ネギが兄達と修行を始めてから、マリアは暇になった。
 そんな暇を持て余しているマリアは、一人で森に入り、野生児さながらの遊びをするようになったのだ。
 この日も、そんな一日になるはずだったのだが…。

 まさか、ここで修行しているとは……。

 この場所は、マリアが山で遊んでいたときに偶然見つけた場所だった。

 ここで、ネギくんと遊ぼうと思ったのに……。

 マリアはそう思うが、ネギにとっては、運の良い事だっただろう。
 この場所は、村から恐ろしく遠く、険しい道を通るのだ。
 正直、マリアの身体能力や、アルカの飛行魔法が無ければ、こんな所に来るのは難しすぎる。歩いて、走って行けなどと言われれば、何処の地獄の訓練だと思うだろう。
 そんな、地獄の訓練をナチュラルにこなし、むしろ遊び感覚でやってきたマリアは、やはり異常だった。
 
 しかし、やはり何よりも異常なのは、その『天才性』である。

 一度で覚え、二度目で磐石。

「うう…。ぜんぶ、覚えちゃった……」

 アルカの修行風景を見ただけで、マリアはその全てを理解し、覚えてしまったのだ。

『刀語』、『鑢 七実』の『天才性』。
 それは、恐ろしいものだった。
 『鑢 七実』はその『天才性』故に、父『虚刀流六代目当主』に、自分を超えているものには教えられない、と『虚刀流』の武術を教えられることを拒否され、最後にはその『天才性』を恐れた父に殺されそうになった少女である。
 しかし、彼女は天才でありながらも、生来の病弱さから、戦うにしても時間制限があった。

 その『天才性』をもって生まれ、『鑢 七実』の最大の弱点である病弱さは無く、むしろ頑丈で柔軟性のある体でマリアは生まれた。
 『マリア』の体には、隙は無かった。

 所詮、魔法も技術。とらえようによっては『武』の一つである。
 マリアの魔力量は普通より少し多いくらいなので、魔力量の関係で使えない魔法もあるかもしれないが、その再現は完璧である。
 
 思わぬ所で、思わぬ人物から『武』を手に入れてしまったマリア。
 
 まさか、また誰かの修行風景や、試合を見たりして『武』を手に入れたりしないでしょうね……。

 実は、既に何人かの人間から『武』を手に入れているマリアは、嫌な予感がしてならなかった。

 だが、これらからの事については、ある程度予想していたものである。
 ネギと関わったからには、それはきっと避けられない。

 マリアは、新たな覚悟を必要とされていた。



[20551] 第四話 来たるべき日の為に
Name: みかんアイス◆25318ac2 ID:68c9a700
Date: 2010/07/27 13:50


「右の脇をもっと締めろ!」

「はいっ!」

「阿呆! 左が甘くなっとるぞ!!」

「申し訳ありません、師匠!」

「……何でこんな事になってるの?」

「あっはっはっ」



   第四話 来たるべき日の為に



 ネギがランドから魔力の制御を習うようになって早三ヶ月。
 今では、何故か双子から武術を習っている。

「ランド兄さん。魔力の制御はもう出来ているんでしょう?」

「ああ、大体一ヶ月ほどで終わったな」

「なら、何でガルト兄さんとゴルト兄さんが武術を教えているの?」

「うーん。それがな、ネギ君はやたらと飲み込みが良くて、兄貴達の武術馬鹿の琴線に触れたらしい」

「あー、なるほど」

「俺も、もっと細かい魔力の制御方や、使い方とか教えたくなってなぁ。いやぁ、天才ってのは面白いな。本当に、教え甲斐がある」

「ふーん」

 楽しげに笑うランドは、実は魔力量が少ない。それでも自分の数倍は魔力量のある人間を倒してしまうのは、武術の実力もあるだろうが、魔法の使い方がとても上手なのだ。
 マリアは兄のランド以上に魔力の制御が上手な人間を見たことが無い。
 
 そして、対する双子の兄だが、こちらは魔法使いとしての適性が無く、ひたすら体を鍛えた武術の達人である。ちなみに彼等は英雄ラカンの大ファンであり、いつかあんな漢になるのだと言って、鍛錬を欠かさない。いつか本当にあんなバグキャラになりそうで恐い。

 世界は広い。
 『知られざる達人』というのは意外なところに居るものだ。兄達もまた、その『知られざる達人』の一人である。今回、ネギは運が良かったといえるだろう。

 そして、そんな達人に教えを請うネギは、打てば響く天才だった。

 ネギはとても素直で、言う事をよく聞き、一教えれば十を知る。
 これほど教え甲斐があり、可愛い弟子は居ないだろう。

 兄達はネギをよく可愛がり、自分達の全てを教え込もうとしていた。

 それは良い。

 今後、ネギの為になる事だ。

 が、しかし。

「私、すっごく暇」

「あ~、そうだろうな」

 頬を膨らまして拗ねるマリアに、ランドは苦笑した。

 そう。ネギが修行を始めて、マリアとは滅多に遊べなくなってしまったのだ。
 
「兄さん、私、外に遊びに行ってくるね」

「ああ、分かった。暗くなる前に帰ってこいよ」

「はーい」

 そう言って、マリアは退室の魔方陣の上に乗る。
 マリアの姿が掻き消え、次に姿を現したのはランドの部屋の中だ。
 マリアの目の前には、大きなガラスケースあり、その中に入っているのは赤い大地の模型だ。
 このガラスケースは、いわゆる『別荘』の劣化版の『修行場』である。
 この『修行場』は、外とは同じ時間が流れており、外とは自由に行き来できるが、中は『別荘』と違い、赤く渇いた大地が広がっているだけで、その広さはサッカースタジアム程度のものだ。それでもこの『修行場』は高額で、兄達が働いて、金を合わせて買った自慢の一品だった。

「頑張ってね、ネギくん」

 マリアはそう呟き、部屋の外へ出て行った。



   *   *



 ランドはマリアが出て行ったのを確認し、視線をネギ達に戻す。

 必死になって修行に明け暮れるネギを見ながら、ランドは二ヶ月前、魔力の制御を教え終わった時の事を思い出していた。



「さて、ネギ君。これで、魔力の制御は大丈夫だろう」

「はい! ありがとうございました!」

 嬉しそうに笑うネギを見て、ランドも頬が緩む。
 だが、ランドはこれからとても残酷な事を言わなくてはならなかった。

「それで、だ。ネギ君。君は、これからもマリアと一緒に居たいかい?」

「え? はい。もちろんです!」

 ネギはちょっと不安そうにしながらも、はっきりと答えた。

「そうか……。だが、すまない、ネギ君。俺は、俺達兄弟は、今のままの君ではマリアに近付いてほしくない」

「え……?」

「子供の君にこんな事を言うのは、とても酷な事だとは分かっている。だが、これはとても大切な事なんだ」

「………」

 泣きそうになるのを堪え、潤んだ瞳でネギがランドを見つめる。

「君は、英雄の息子だ。英雄の息子である君は、多くの心無い者達に狙われる。そして、利用されるだろう」

「……マリアちゃんを、巻き込まない為に?」

 か細い声で、ネギが尋ねる。

「ああ、そうだ。そして、もしこのままマリアとネギ君が一緒に居るとしたら、今のままでは、君は確実にマリアの足手まといになる」

「……足手まとい?」

 ランドの口から出た言葉は、ネギにとって予想外のものだった。

「ネギ君。ネギ君は俺たち兄弟の実力を知っているね?」

「はい」

 マリアの兄達は、それぞれが達人と言っても良い位の実力を持っていた。

「マリアは、俺たちよりも強い」

「ええ?! あの小さくて、可愛くて、可憐で、儚げなマリアちゃんが、あのマッチョ達より強いんですか?!」

「あー、ネギ君? 色々と気になる部分があったけど?」

「ランドさん!」

「ああ、はいはい。分かったよ。ええとだね、マリアは何というか、『天才』なんだよ」

「天才?」

「ああ。武術も魔法も、一度見ただけで覚えて、再現してしまうんだ」

「え?たった一度で、ですか?!」

「そう、たった一度で、だ。だから、俺達はマリアが心配なんだ」

「………」

「あのマリアの才能を、誰かに知られたらきっと利用されてしまう。マリアの性格は戦いには向かない。もし、『正義』を掲げる頭のおかしな連中や、『悪』の名乗る極悪人に知られたら、きっとマリアは平穏な暮らしが出来なくなってしまう」

「あの、『正義』もなんですか?」

「ああ、『正義』もだ。時々、『正義』の為なら仕方ない、って言って残酷な事をする奴がいるんだ。俺達はそういう奴をマリアに近づけさせたくない」

「………」

「それで、だ。ネギ君。君はこれからきっと色々なことに巻き込まれると思う」

「……はい」

「このままマリアが君のそばに居れば、マリアも否応なく巻き込まれるだろう。そして、友達である君を守ろうとするだろう」

「僕を、守ろうと……」

「ああ、マリアなら絶対にそうする。そして、きっと矢面に立って傷ついていくだろう」

「マリアちゃんが、傷つく……」

「だから、ネギ君。君が弱いと、とても困るんだ。せめて、マリアの足を引っ張らずに逃げ切る位の実力が欲しい。それが無いのなら、マリアには近づかないで欲しいんだ」

「あ、ぼ、ぼくは……」

 ネギの顔が泣きそうに歪む。

「まあ、今すぐって訳じゃない。せめて、魔法学校を卒業するまでには俺達の納得がいくくらいには強くなって欲しい」

「あの、どうすれば……」

「ネギ君さえ良ければ、俺達が君を鍛える」

「え?! あの、良いんですか?!」

「ああ、これは正直、俺達からのお願いだからな」

「あの、お願いします! 僕を強くしてください!!」

 ネギの弟子入りという、感動の瞬間だった。

「よし、分かった! 今日から――」

 そして、それを受けたランドは嬉しそうに笑うが、その言葉は最後まで言えなかった。何故なら……。

「よくぞ言った小僧!」

「俺は感動したぞ!!」

「今日からみっちりしごくからな!」

「楽しみにしているがいい!!」

「お前も来年にはムキムキだ!!」

「「うわはははははははははは!!!」」

「…どっから湧いて出やがった」

 本日、仕事のためネギへの説明、もとい、お願いという名の脅迫をランドに押し付けたマッチョ双子が音も無く現れたのだ。

「あ、あの、お願いします!」

「「任せろ! わーっはっはっはっはっはっ!!」」

「ネギ君は本当に素直で良い子だねぇ。悪い人に騙されないように、その辺もきっちり教えないといけないかなぁ……」

 こうして、ネギは三兄弟に弟子入りをし、三兄弟は鍛え甲斐のありそうな弟子という名のカモを手に入れたのだった。

 そして、三兄弟プロデュース、ネギのマッチョ魔改造計画が始まった。









[20551] 第五話 一方通行
Name: みかんアイス◆25318ac2 ID:68c9a700
Date: 2010/07/27 13:51


 マリアは、隣の机で向かい合って座る双子を気にしていた。



 ネギくん、ファイト!



 心からのエールを送りながら、マリアは自分の問題集を解いていく。

 その目の前で、アーニャがすらすらと問題を解いていくマリアを悔しそうに見ながら、必死になって机に齧りついている。



 その日、いや、その日から、ネギとアルカ、マリアとアーニャは、一緒に勉強するようになったのである。



   第五話 一方通行



 その日、ネギはマリアと一緒に図書館で勉強していた。

 マリアと出会う前、ネギは何かに取り付かれたように勉強していた頃があった。
 それはきっと、あの悪魔の襲撃の日から感じている罪悪感が、ネギを急かし、勉強に打ち込ませたのだろう。
 その勤勉さはマリアと出会ってからも変わらず、その勉強にマリアも付き合うようになった。
 マリアと出会う前は、アーニャとよく一緒に勉強していたのだが、最近ではアルカと一緒に居るらしい。
 少し寂しい気もするが、マリアが一緒なので、ネギの胸は暖かかった。

「ネギくん、ここなんだけど…」

「ああ、そこはね……」

 ネギはマリアと勉強するのが楽しかった。

 だって、マリアは勉強の事になると、ネギを頼ってくれるのだ。

 マリアは、遅生まれでネギと大して年は変わらないのだが、ネギの一つ上の学年だ。だから、本来ならこうして勉強を教えるなんて出来ないはずなのだが、ネギの過去の猛勉強が、今、思わぬ形でネギに幸福をもたらしていた。
 このままいけばネギもマリアも飛び級し、来年には同じ学年、そして一緒に卒業できるだろう。

 そうなったら、授業中もマリアちゃんの近くに居られる。

 ネギは、その日を楽しみにしていた。

 そんな、いつもと変わらない平凡な日。

 そんな日々に、まさかの展開が訪れようとしていた。



「ネギ! あたし達も一緒に勉強するわよ!」

「………」



 アーニャとアルカが一緒に勉強することになったのである。



   *   *



 その日、アンナ・ココロウァは不機嫌だった。

「アーニャ、まだ拗ねてるのか?」

「だって……」

「そんなに気になるなら、ネギのところに行けば良いじゃないか」

「アルカには微妙な乙女心が分からないのよ!」

「男なんだから、当然だろ?」

「そんなんじゃ、恋人が出来ないわよ?!」

「ネギを取られそうだってのに、こんな所で拗ねているアーニャには言われたくないね」

「んなぁ?!」

 アルカの鋭い切り返しに、アーニャは言葉に詰まった。

 ネギとアルカ、アーニャの三人は幼馴染である。
 そして、アーニャは、昔からネギの事が好きだった。
 だからよくネギと一緒に居たし、どこか抜けているネギの面倒をよく見ていた。
 けれど、アルカが孤立するようになって、アーニャはアルカが心配になった。アルカも、アーニャにとっては無くてはならない大事な幼馴染なのだ。
 だから、アーニャはアルカがなるべく孤立しないように一緒に居るようにした。
 アーニャは、ネギにはきっと自分より仲のいい女の子なんて現れないと思っていた。
 けれど、それは違った。
 アーニャが油断している間に、ネギの傍には淡い金髪の妖精が居たのである。

 そう、アーニャに恋のライバルが現れたのである。

「だって、相手はあのマリア・ルデラなのよ?!」

 マリアは、アーニャが思わず弱気になってしまう程の美少女だ。

「ふーん。で?」

「で? って……」

「それって、アーニャがネギを諦めるのに関係あるのか?」

「それは……」

 関係なかった。

だって、ネギはまだ八歳で、アーニャはまだ九歳なのだ。先はまだまだ長く、行動次第では、アーニャはネギにとって『一番仲良しの女の子』に戻り、将来的には『恋人』『お嫁さん』になれるかもしれないのだ。
 
「そうよね。まだまだチャンスは一杯あるんだもんね!」

「そうそう。だから、とっとと行ってくれば?」

 そして、俺に修行をさせてくれ、と内心でアルカは願う。

「じゃあ、そうと決まれば行くわよ!」

「おう、行って来……ん? 行く?」

「あんたも一緒に行くのよ!!」

「はあ?!」

 こうしてアルカはアーニャの道連れとなり、強制的に勉強会に毎回出席させられるようになったのだった。



   *   *



「あ、アルカ、その……」

「話しかけないでくれる? 気が散る」

「え、あ、うん。ごめん……」



 マ、マリアちゃ~ん………。

 ネギくん、何でそこで引くの!頑張って!



 アイコンタクトで会話するネギとマリアに、アーニャの柳眉がつり上がる。

「ね、ねえ、ネギ! ここはどうすればいいの?」

「あ、そこはね……」

 ネギが身を乗り出して、アーニャの問題集を覗き込んで説明する。
 それに対して、アーニャは何処か自慢げにマリアを見る。

「だから、この問題はこっちの…って、アーニャ、聞いてる?」

「き、聞いてるわよ! ここを、こうすればいいのね?」

「そうそう」

 ……平和だわ。

 そんな光景にマリアは和みながら、隣に座るアルカを盗み見る。

 アルカからは、話しかけるな、というオーラが立ち上っていた。

 ガリガリと問題集を解いていく様子を見るに、少しでも手を休める様子を見せれば、話しかけられると思っているのかもしれない。

 何をそんなに意地になっているのかしら?

 ネギの話を聞く限り、そう悪い子でもなさそうなのだが。

 確かに、ネギとアルカの仲に亀裂が入った原因は、ネギの無神経な言葉だったかもしれない。けれど、あれから四年は経ち、ネギはそれを心底反省している。ネギの謝罪、反省を受け取れないほど彼には余裕が無いのだろうか?

 マリアは村の襲撃を体験したわけではないし、複雑な家庭環境に生まれたわけではない。だから、当事者の気持ちを正確に推し量れるはずも無く、この複雑な双子の関係を、情けなくも静観する事しか出来なかった。

 暮らしていた村が焼かれ、親しい人達が石になった様を見た時の気持ちは、いったいどれほどの衝撃を彼に与えたのだろうか。

 ああ、本当に、自分に出来ることは少ない。

 大事な友達に、何もしてあげられない自分が、マリアは情けなかった。



   *   *



 アルカは、隣で問題集を静かに解いていくマリアを、こっそり盗み見る。

 ……意外だ。

 ここに引き摺られてきて、無理やり一緒に勉強させられてから、ネギとマリアの遣り取りを見ていた限りでは、どうやらマリアはネギの事をただの友達としか思っていないらしい。

 しかも、ネギの片思い……。

 アーニャのあの焦りようも当然かもしれない。

 アルカは、ネギはそういう方面に疎く、知らない間にフラグを乱立するハーレム野郎かと思っていたのだが、そういう訳でも無いのかもしれない。

 しかし、こいつ、大きくなったな。

 アーニャに勉強を教えているネギを盗み見る。

 そういえば、こうして真正面からネギを見るのは久しぶりかもしれない。
いや、むしろ数年ぶりだ。

 こいつと最後にまともに会話したのって、一体いつだったっけ?

 アルカは、あのネギの無神経な言葉を聞いて、ネギとはまともに顔も合わせない生活を送っていた。
 ネギから何か言いたげな視線を送られたが、ネギが口を開く前にさっさと立ち去り、自室に篭るか、修行に出掛けていたのだ。

 けど、やっぱり、あの言葉は許せない。

 それに、あの甘い性格が嫌いだ。今もネカネに甘やかされて、周りからチヤホヤされて!

 ガタッ!

 アルカは音を立てて席を立った。

「あ、アルカ? どうしたの?」

 ネギが慌てた様子で話しかけてくるが、アルカは冷たい視線を返し、言う。

「終わったから、帰る」

「え? え?」

「は? 終わったぁ?!」

 さっさと帰り支度を始めるアルカから、アーニャが問題集を取り上げ、見るが、問題集は綺麗に埋まっており、すでに答え合わせまで済んでいた。

「え。本当に、終わってる……」

「もういいだろ? 俺は帰る」

「あっ、ちょっと、アルカ!」

 アーニャから問題集を取り返し、アルカは出口へと歩を進める。
 アルカは、ネギの何か言いたげな視線が背に突き刺さるのを感じたが、それを無視した。
 しかし、アルカはネギの視線を感じることは出来ても、肝心なことには気付けないでいた。

 アルカは、現実のネギを知らないという事実に、気付いていないのだ。

 あまりにも様々な先入観が、アルカの目を曇らせていた。

 アルカは知らない。
 ネカネの愛情が、誰に一番向いているのか。
 アルカは知らない。
 アーニャが、誰と一番一緒に居るのか。
 アルカは知らない。
 祖父が、誰を一番見守っているのか。

 アルカは、知ろうとしなかった。
 誰が、一番守られているのか。

 だから、アルカは知らなければならない。

 ネギ・スプリングフィールドという、自分の双子の兄で、八歳の子供の事を。そして、あまりにもネギの事を知らない自分自身を。



「アルカくんって、頭がいいのね」

「うん。昔から、アルカはしっかりしていて、頭が良くて、優しいんだ」

「へぇ、そうなんだ」

「僕のほうがお兄ちゃんなのに、いつも僕を助けてくれて」

「そうね。皆、アルカの方がお兄ちゃんっぽいって言ってたわね……」

「こっちに来てからも、影で勉強して、何処かで修行してるみたいなんだ」

「……そうなの」

「僕の、自慢の弟なんだよ」



 そう言って、淡く笑うネギを、アルカは知らなければならない。









[20551] 第六話 卒業
Name: みかんアイス◆25318ac2 ID:68c9a700
Date: 2010/07/27 13:53
「くぅっ、すまない弟子よ!」

「不甲斐ない我々を許してくれ!」

「ど、どうしたんですか、師匠?」

「俺達は、俺達はぁぁぁぁ!」

「お前との約束を守れなかったぁぁぁぁ!」

「約束? 何か約束したの? ランド兄さん」

「さぁ? 思い出せないな」

「あの日、確かに約束したというのに!」

「俺達は!」

「俺達はぁぁぁぁ!」

「「お前をムキムキに出来なかったぁぁぁぁぁ!!」」

「ええぇぇぇ?!」

「ああ、それは心底良かったわね」

「そういえば、そんな事も言ってたなぁ……」



 第六話 卒業



 爽やかな風が心地よい、よく晴れた日。
 ネギとマリア、アーニャとアルカは魔法学校を卒業した。

 嬉しそうなアーニャに対し、ネギは少し浮かない表情をしている。


 これでマリアちゃんとは、前みたいに気軽に会えなくなるんだ……。


 覚悟していたとはいえ、やっぱりネギは寂しかった。

 そんな対照的な二人の横で、アルカは眉間にしわを寄せて険しい表情をしている。

 アルカは、ネギと一緒に卒業する気は無かったのだ。

 そんなアルカが何故二年もスキップし、ネギと一緒に卒業する羽目になったかというと、それは自らの犯したミスと、アーニャの所為である。
 あの日、ネギ達と勉強を始めた日に、早く席を立ちたいばかりに、さっさと問題集を解いてしまったのが原因だった。
 その勉強会に、事あるごとにアーニャに引き摺られ、出席させられる内に、アーニャに実践魔法は仕方がないにしても、座学は手をぬくなと、きつく、しつこく言われ、ついには魔法学校の校長である祖父まで引きずり出して、説得されたのだ。

 何だかんだで、アルカはアーニャや祖父には弱かった。
 そこでネカネまで入ったら最悪だ。

 アルカに逃げ道は無かった。

 アルカは観念して、座学のみは実力を隠さないことにしたのだった。

 こうして、アルカの評判は『落ちこぼれ』から『頭でっかち』『勉強だけ』にランクアップしたのである。まあ、大して変わらないような気もするが。

 そうして、何だかんだでネギと張る成績を叩き出したアルカは、アーニャに引き摺られるようにしてスキップし、祖父に後押しされるように魔法学校を卒業したのだった。

 結局、自分で招いた結果である。自業自得だった。

 そんな、不機嫌そうなアルカの横では、ネギとアーニャはドキドキしながら修行地が浮かび上がるのを待っていた。

「あ、私は『ロンドンで占い師をすること』ですって。ネギは?」

「えーと、僕は『日本で先生をやること』……」

「………」

「………」

「「ええぇぇぇぇぇ?!」」



   *   *



 ネギとアーニャ、そしてアーニャに引き摺られたアルカは、ネギの修行内容の事を聞こうと、校長を探していた。

「あ、いた! 校長せ――」

「何故だぁぁぁ! 何故、マリアが日本などという異国の地で修行せねばならんのだぁぁぁ?!」

「答えろ、校長ぉぉぉぉ!!」

「お、落ち着かんか……ぷげふっ!」

「兄さん、締まってる、締まってる!」

「落ち着けよ兄貴達。日本っていったら治安が良い事で有名じゃないか」

「それがどうしたぁぁぁ!」

「そんな事で俺達が落ち着けるとでも思っているのかぁぁぁ!」

「……がふっ」

「こ、校長先生ぃぃぃ!」

「兄貴! 落ちた! 校長落ちた!」

「それがどうしたぁぁぁぁ!」

「たかが、校長が落ちたくらいで――」

「さっさと放せっつってんだよ、この馬鹿兄貴ぃぃぃぃ!!」

 ごぎゃっ!!

「ぷげらっ!」

「むっ! 腕を上げたなランド! 良い回し蹴りだ!!」

「こ、校長せんせ~」

「ああ、母さん。貴女に会えるなんて、何十年ぶり…。すぐ、この川を渡って」

「渡っちゃ駄目ぇぇぇ?!」

 そこは、混沌の坩堝だった。



「ああ、酷い目にあったわい」

「うちの兄がご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありません」

 マリアが心底申し訳なさそうに校長に頭を下げる。

 結局マリアの兄達は、ランドの拳による必死の説得により、ひとまず落ち着きを取り戻して帰っていった。

「いや、お主の所為ではないよ。あの双子の暴走癖は在学中から有名でなぁ」

「もう、本当に、うちの兄がご迷惑をおかけして……」

 マリアは涙がちょちょぎれそうだ。

「あの~、校長先生」

 恐る恐るアーニャが声をかける。

「おお、お主らか!どうした、ワシに何か用かの?」

 つい先ほどまで川を渡ろうとしていた校長が、元気よく振り返る。

「ええと、ネギの修行のことで……」

「マリアちゃん!」

「あ、ネギくん」

 アーニャの声を遮って、ネギが嬉しそうにマリアに駆け寄る。

「マリアちゃんも日本で修行するの?」

「うん。『日本の生花店で店員をやること』だって。ネギくんは?」

「僕は『日本で先生をやること』だったんだ」

「へえ、そうなんだ。お互い頑張ろうね」

「うん!」

 嬉しそうに笑うネギに、アーニャは嫉妬の炎を燃やし、アルカはその形相にどん引く。

「…なんじゃ、これは」

「三角関係です……一方通行ですけど……」

「最近の子供は進んどるのぉ……」

 ちょっと置いてきぼり感漂う雰囲気の中、校長はアルカに尋ねる。

「で、アルカや。お主の修行内容はどんなものじゃった?」

「あ、まだ見てません……」

 アルカは紙を開き、文字が浮かび上がるのを待つ。

 そして……。

「『日本で服飾用品の店員をやること』?」

「ほぉ。対人関係に問題のあるお主には、良い機会じゃ。しっかり修行に励めよ」

「………」

 からからと笑う校長に、アルカは不満そうに眉間にしわを寄せる。

「ネギ! あんた、日本で先生やるなんていう修行で良いの?!」

「え、うん。別に、良いと思うよ」

「あ、アーニャちゃん。アーニャちゃんの修行はどんな内容だったの?」

「どうせ私はロンドンで占い師よ! ネギと同じ修行地だからって、調子に乗らないでよね!」

「はい?」

「アーニャ?」

「ネギと一番仲が良いのは、私なんだからぁぁぁぁぁ!」

 顔を真っ赤に染めて、目じりに涙を溜めたアーニャは、そう言って走り去っていった。



 アーニャちゃんったら、可愛い。恋する女の子なのね。

 どうしたんだろう、アーニャ。お腹でも痛くなったのかな……。



 言われた当人達は、ちっともその言葉の意味を理解しちゃいなかったが。



   *   *



「さて、我等が弟子よ。卒業おめでとう」

「ありがとうございます」

 卒業式を終えたネギは、ルデラ家の『修行場』に来ていた。

「それで、だ。今日が我々との約束の期限になるわけだが……」

「約束?」

 何か約束したの、とマリアがランドを仰ぎ見るが、ランドは生温い笑顔でマリアの頭を撫でるだけだった。

「まあ、ギリギリ合格といった所だな」

「ギリギリもギリギリだ」

「よって、マリアとつきあうことは許さん!」

「はいっ?! 何の話?!」

「くぅっ!」

「ネギ君。分かっていたことだろう? まだまだ先は長いんだ。努力を忘れなければ、いつかきっと……」

「ランド師匠……!」

「だから、何の話よ?!」

 膝をつき、悔しがるネギに、ランドが生暖かく慰め、ネギはその優しさに涙する。マリアは置き去りだ。

「まあ、それはそれとして、だ」

 ガルトが一つ咳払いをして、話し出す。

「我等が一番弟子に、卒業祝いを用意した」

 ガルトの言葉を受けて、ゴルトがポケットから小箱を取り出す。

「これは、俺達が偶然見つけた掘り出し物だ」

「武術を嗜む魔法使いであれば、杖よりこれの方が使いやすいだろう」

 そう言って、ネギに小箱を渡す。

 え、え、とネギは戸惑いながら、師匠達の顔と小箱を交互に見る。

「ほら、ネギ君。開けてみな」

「は、はい」

 箱を開けてみると、そこにあったのは銀製のバンクルだった。裏には文字が彫ってある。

「これは……」

「それは杖の代わりになる魔法発動体だ」

「これなら戦うときに邪魔にならないだろう」

「師匠……!」

 感動するネギの後ろで、こそこそと小声でマリアとランドが話す。

「ねえ、ランド兄さん。あれって……」

「そう、アレだ。折角買ったのに、兄貴達の腕が太すぎて入らなくて、お蔵入りになってたアレだ」

「……ネギくん、感動しちゃってるんだけど」

「箪笥の肥やしになるくらいなら、ネギ君にあげたほうが良いだろ?」

「詐欺みたい……」

「それを言うな」

 そんな会話がなされているとは露知らず、ネギは感動と喜びも顕に、礼を言う。

「ありがとうございます、師匠! 僕、大切にします!!」

「はっはっは。感謝するがいい! 崇めて奉るがいい!!」

「日本に行っても鍛錬を忘れるなよ、弟子よ!!」

「はい!」

「ネギ君。俺達の修行はこれで終わりって訳じゃないからね。日本での修行が終わったら、俺達の修行を再会するから、そのつもりでね」

「はい! その時は、改めてお願いします!」

 こうしてネギは、三兄弟の課題をどうにかクリアしたのであった。











[20551] 第七話 晩餐
Name: みかんアイス◆25318ac2 ID:68c9a700
Date: 2010/07/27 13:54


「ん? マリア。こんな時間に何処かへ出掛けるのか?」

「うん。ネギくんの家で卒業のお祝いをするんだって。それで、夕食に招待されたの」
 
「そうなのか? じゃあ、俺が送っていこうか」

「大丈夫。だって――」

「弟子の家だとぉぉぉ?!」

「ネカネさんの居る、弟子の家だとぉぉぉ?!」

「兄貴達……」

「こっそり行こうと思ったのに……」

「「俺達が送って行こう!!」」

「却下」

「「何故だ?!」

「父さんに送ってもらうから」

「「………」」

「マリア。支度は出来たか」

「うん。大丈夫だよ」

 のっそり姿を現したのは、筋骨隆々の巨体、熊の様な父だ。
 
「じゃあ、行くぞ」

「はーい」

 マリアを抱え、のっしのっしと父は歩き、扉の向こうへ姿を消した。

「兄貴達。マリアを送って行くんじゃなかったのか?」

「「親父には勝てん!!」」

「まあ、そうだよなぁ……」

 未だに父に勝ったことの無い三兄弟は、ちょっと遠くを見る。

 マリアを溺愛しているのは三兄弟だけではなく、父もだった。

 三兄弟同様、父も、自分より強い男でなければマリアを嫁にはやらん、と公言している。

「ネギ君も、大変だなぁ……」

やたらと分厚い三枚の壁の向こうに、機動要塞が待ち構えていることを、ネギはまだ知らない。



   第七話 晩餐



「マリアちゃん!」

「あ、ネギくん!」

 扉の前でそわそわとしていたネギは、マリアの姿を見とめて嬉しそうに駆け寄る。
 それを微笑ましそうに見るのは、マッチョ双子のアイドル、ネカネだ。

 父がのっそりマリアを腕から降ろし、マリアもネギの元へ駆け寄る。

「こんばんは、マリアちゃん!」

「こんばんは、ネギくん!」

 二人は嬉しそうに手を握り合うが、マリアが何かに気付いたようにネギの手を離した。

「今日はお招きいただき、ありがとうございます」

 マリアがスカートの裾を掴み、ちょこり、と礼をとれば、ネギは少し頬を染めながら、紳士の礼を返す。

「こちらこそ、来ていただいて、ありがとうございます。貴女にとって楽しい時間になることを、心より祈っています」

 二人は顔を見合わせ、吹き出す。

「行こう、マリアちゃん!」

「うん! じゃあ、父さん、行ってきます! ネカネさん、おじゃまします!」

「ああ」

「いらっしゃい、マリアちゃん。ネギ、リビングにお通ししてね」

「はーい!」

 二人は楽しげに笑いながら、手を繋いで家の中へ入っていった。

「ネカネさん。これは家内から、今晩お招きいただいたお礼です」

 父がのっそり差し出したのは、ワインと葡萄ジュースだ。

「まあ、ありがとうございます」

 ネカネはそれを受け取り、礼を言う。

「では、八時頃にまた伺いますので、娘をよろしくお願いします」

「はい。お任せください」

 ネカネは微笑み、承諾する。

 そして、父は軽く頭を下げて、再びのっしのっしと歩いて帰って行ったのだった。



   *   *



「ああ! なんでマリアが此処に居るのよ?!」
 
「あ、アーニャちゃん。こんばんは」

「あ、こんばんは……って、ちがーう! ちゃんと質問に答えなさいよ!」

 リビングでマリア達を迎えたのは、アーニャだった。

 アーニャはマリアの姿を見ると同時に、肩を怒らせ、臨戦態勢をとるものの、マリアにあっさりかわされてしまった。

「ネギくんに、お夕飯に招待してもらったの」

「なんですって?!」

「え、アーニャ。何か駄目だったかな?」


 ダメに決まってるでしょぉぉぉぉ?!


 アーニャは内心で絶叫するものの、それをどうにか堪えた。

「アーニャ、どうどう」

 怒りでぷるぷる震えるアーニャを、アルカが宥める。

「おお、来たようじゃの。ほれ、そんな所に立っていないで早くこちらに座りなさい」

 リビングの入り口辺りで騒ぐ子供達を見つけて、ネギ達の祖父、魔法学校の校長が子供達を呼ぶ。

「校長先生、こんばんは」

「はい、こんばんは。これ、アルカはネギの前じゃ。アーニャは」

「ネギの隣よ!」

「仕方が無いのう。ルデラ君もそれでいいかの?」

「はい、いいですよ。それから校長先生、どうかマリアと呼んでください」

「そうかの? では、マリアはアルカの隣じゃ」

「はい」

 そうして大人しく席に着くと、ネカネがキッチンから次々と料理を持ってきて、テーブルに並べていく。
 そして、ついに楽しい晩餐が始まった。

「マリアちゃん、これ、美味しいから食べてみて」

「うん。ありがとう、ネギくん。あ、本当だ。美味しい」

 ネギが勧めたのは、カリッと焼いたラム肉に酸っぱめのミントソースがかかっているものだ。

「とっても美味しいです、ネカネさん」

「うふふ。ありがとう」

 ネカネが嬉しそうに笑う。

「そういえば、マリアちゃんの修行地も日本なんですってね?」

「はい。そうです」

 ネカネの問いに、マリアは頷く。

「私の修行地が日本になったのは兄さん達が原因らしいです」

「?」

 その言葉に、ネカネだけでなく、校長を抜かした全員が首を傾げる。

「私が何かしらの店員なのは、私が人見知りするからだろうけど、日本なのは過保護な兄達がおいそれと手を出せない距離と、治安が良いということで納得させる為でもあるんじゃないか、ってランド兄さんが言ってました」

 先日の卒業式の騒ぎを思い出し、校長とネギ達三人は遠い目をする。

「そう。ランドさんが……」


 あれ?ネカネさんの頬が少し赤いような……ネカネさん?ネカネさん!?


「ランドさん……」

 兄の名を呟くネカネを見なかったことにして、マリアはひとまず葡萄ジュースで喉を潤す。

「そういえば、知ってる? 日本の電車って、決まった時間に来て、決められた場所に止まるんだって」

「「うそぉ?!」」

 ネギとアーニャは驚き、目を丸くする。

 イギリスの電車は、あまり優秀とはいえない。十分ほど遅れるのは珍しくないし、時にはキャンセルなどということもある。
 イギリスでは、電車が遅れるのは暗黙の了解だ。
 しょっちゅうストライキがある国よりはマシ、と考えるべきだろうか。

「しかも、電車が遅れると『遅延証明書』を無料で発行してくれるんだって」

「『遅延証明書』って、何?」

「電車が遅れましたよ、っていう証明書の事よ」

「何それ! すっごくサービスが良いじゃない!」

「すごいなぁ……」

 瞳を輝かせるネギを、アルカが少し戸惑い気味に見ている。

「アルカくんは知ってたの?」

「え、あ、うん」

 突然マリアに話しを振られて、アルカの反応が遅れる。

「え?! そうなの、アルカ!」

「あ、うん。知ってた…けど……」

「アルカは物知りだなぁ……」

 興奮した様子で、瞳をキラキラと輝かせたネギの勢いに負け、アルカは思わず返事をしてしまった。

 未だに瞳を輝かせ、尊敬の目でこちらを見るネギに、アルカはうろたえる。

 この何でもないような普通の会話が、この双子にとっては、実に六年ぶりのまともな会話だった。

 未だ興奮が冷めないネギや、そんなネギに戸惑うアルカは気付かない。

 その様子を、長年ネギとアルカの関係を心配し、どうにか出来ないものかと苦心してきた家族達が、感動したように、心底嬉しそうに見つめていたことを。

 そんな中、マリアもネギとアルカの様子を嬉しそうに見つめていた。
 そして、思った。

 ネギとアルカの関係を修復する糸口を掴んだかもしれない、と。







[20551] 第八話 日本
Name: みかんアイス◆25318ac2 ID:68c9a700
Date: 2010/07/27 13:56
「ねえ、ランド兄さん」

「何だ、マリア」

「思ったんだけど、何でガルト兄さんとゴルト兄さんは魔法発動体を買ったのかな」

「ああ、それはな、最初はアレが魔法発動体だとは気付いてなかったんだ」

「へ?」

「デザインが気に入って衝動買いしたら、サイズが合わなくてな。それで、サイズを直そうとして店に持っていったら魔法発動体だと分かったんだ」

「ふぅん。確か、その頃はランド兄さん、杖の魔法発動体を使ってたよね?何で兄さん達から譲ってもらわなかったの?」

「………」

 言えない。
 まさか、サイズがギリギリながらもピッタリだったのを悔しがって、兄貴達が譲ってくれなかったなんて、そんな事、言えない。



   第八話 日本



 ネギは嬉しそうにバンクルを撫でていた。

 師匠から貰ったバンクルは少しネギには大きかったが、真ん中が開いているタイプのものだったため、ゴルト師匠が少し力を込めれば、ネギに丁度良いサイズになった。
 それをランド師匠がちょっと引き攣った顔で見ていたが、魔法を発動させるのに何の問題もなかったので、大丈夫だろう。

 ネギは本国で数ヶ月の間は、日本で先生をするための予備知識や、日本語を学んだりしていた。そして、その勉強の合間に、新しい魔法発動体に慣れるべく師匠達と組み手などをし、ネギは充実した時間を過ごした。

 そして、二月。

 受け入れ先の都合もあり、ネギ、アルカ、マリアの三人は、同時期に修行地へ入国することになった。

 少し時間を早めた所為か、電車はすいていた。

「ネギくん。そのバンクル、どうするの?」

 ネギのその様子を眺めていたマリアが、ふと思いついたように尋ねる。

「やっぱり先生なら、あまり装飾品とか着けていったら不味いんじゃないかな?」

「え、そうかな?」

「うん。ちょっと不味いと思うよ」

 マリアの言葉を受けて、ネギは困ってしまった。

 日本でただ先生をするなら魔法発動体は必要無いだろうが、出国の前日に師匠達に言われたことが、ネギは気になっていた。



「弟子よ。明日は遂に日本へ行くわけだが……」

「はい、師匠」

「俺達は、少し心配している」

「どういう事ですか?」

 珍しく師匠達が真剣な顔で言うので、ネギも少し不安になってくる。

「何というか、お前はあの英雄の息子だろう?」

「それに、あの六年前の悪魔の襲撃」

「俺達は、既にネギ君達兄弟が大きな事件に巻き込まれているような気がするんだ」

 ネギは戸惑いも顕に師匠達を見回す。

「特に、今回の修行の地は日本の麻帆良学園都市だ。この学園都市は特にセキュリティが厳しい」

「弟子達を守るためにはもってこいの場所だろうな」

「それに、ネギ君。君の教師という立場も少し気になる。君に指導者になって欲しいという誰かの願望があるようにも思えるし、教師という立場は多くの若い人間に会える立場だ。もしかすると、ネギ君に『仮契約』させたいのかもしれない」

「お前が担当するクラスに集められていたりしてな!」

「はっはっは。まさか、そんなあからさまな事はしないだろう」

 双子の師匠はそう言って笑うが、まさかドンピシャで、あらゆる意味での問題児が集められているとは師匠達は思いもしない。

「今回のネギ君の修行には、あらゆる人間の思惑が絡んでるように思える。魔法の使用はあまり進められないが、いつ何時、何があるか分からない。自分が狙われる立場に居ることを十分自覚して、気をつけて行きなさい」

「はい、ランド師匠!」

「魔法発動体も手放さないようにしろよ。いざというとき、己の身は己自身でしか守れないんだからな」

「逃げるだけなら、魔法らしい魔法を使わずとも大丈夫だろう。弟子がオコジョになったなど笑えんからな。使うなら『戦いの歌』くらいにしておけ」

「はい、ガルト師匠! ゴルト師匠!」
 


 こんな遣り取りを経て、ネギは日本の地を踏んだ。

 その為、ネギは魔法発動体を手放すのが不安だったのだ。

「もし、それをつけていくなら、これを上からつけて行くと良いよ」

 そう言ってマリアが取り出したのは、黒と白の二種類のリストバンドだ。そのリストバンドには、それぞれ『N.S』と緑色の糸でイニシャルが刺繍してある。

「マリアちゃん、これ……」

「うーん。スーツなら、白い方が目立たないかもしれないね。リストバンドなら、ギリギリセーフかと思うんだけど……」

「あの、この刺繍って……」

「あ、ごめんね。私が刺繍したの。初めて刺繍したから、ちょっと歪んじゃったかも……」

「あ、ううん!とっても上手に出来てると思うよ!」

「そう?ありがとう」

 にっこりと笑うマリアに、ネギは頬を染める。

「これ、貰っても良いの?」

「え、当たり前だよ。ネギくんのために用意したんだし」

 そのマリアの言葉に、今度こそネギは顔を真っ赤に染めた。

「ありがとう、マリアちゃん! 僕、このリストバンド、大切にするよ!」

 そんな光景を、車内の人間は微笑ましそうに見ていた。

 そして、完全に空気になってしまっているアルカは、居心地悪そうに身じろいだのであった。



   *   *



 そして、特に問題を起こすこともなく、ネギ達は学園に到着した。

 のんびり歩きながら約束の場所にネギ達は向かうが、時間が経つにつれ、段々と人が多くなっていく。どうやら通学ラッシュらしい。

 皆が慌てて走る中、ネギ達は邪魔にならないように気をつけながら歩いていた。

 そんな時、元気な少女の声が聞こえてきた。

「やばい、やばい! 今日は早く出なきゃならなかったのに!」

 その声の持ち主が後ろから徐々に近づいてくる。

「でもさ、学園長の孫娘のアンタが、何で新任教師のお迎えまでやんなきゃなんないの」

「スマン、スマン」

 新任教師という単語が聞こえて、ネギは振り返った。

 走ってくるのは明るい髪色のツインテールの少女と、綺麗な黒髪の少女だった。

「学園長の友人なら、そいつもじじいに決まってるじゃん」

「そうけ? 今日は運命の出会いありって占いに書いてあるえ」

「え、マジ!?」

「ほら、ココ」

 そんな彼女たちの様子を見て、ついネギは言ってしまった。

「失恋の相が出てる…」

「え゛……」

 ツインテールの少女とばっちり目が合った。

「何だと、こんガキャー!」

「うわああ!?」

 しまった、と思ったときにはもう遅く、ネギは少女に物凄い形相で怒鳴られてしまった。

「す、すいません。何か占いの話しが出たようだったので」

「どどどどういうことよ。テキトー言うと承知しないわよ!」

 滝のような涙を流して迫られ、ネギはたじろぐ。

「すいません。あの、ただ、告白しないほうが良いってことで……」

「どういうことよ!?」

「なあなあ、相手は子供やろー?この子ら、初等部の子と違うん?」

「あたしはね、ガキは大ッッキライなのよ!」

 ツインテールの少女はネギの頭を鷲掴み、そのまま持ち上げた。凄い力だ。

「取・り・消・しなさいよ~」

「あわわ。あの、今日は、失恋の相が出てるってだけです。未来のことまでは、分かりません~」

 そう言って慌てるネギに、そういう事なら、と、とりあえず落ち着きを取り戻した少女は、ネギの頭から手を離した。

「坊や達、こんな所に何しに来たん? ここは、麻帆良学園都市の中でも一番奥の方の女子校エリア。初等部は前の駅やよ」

「もしかして、降りる所を間違えたの? 駅への戻り方は分かる?」

 先程の態度から一変し、少し心配そうにツインテールの少女が聞くが、ネギがそれに答える前に、上から聞き覚えのある声が降ってきた。

「いや、いいんだよアスナ君!」

 見上げた場所には、見知った顔があった。

「久しぶりだね、ネギ君! アルカ君!」

「た、高畑先生!?」

「おはよーございまーす」

「お、おはよーございま……!」

「久しぶり! タカミチーッ!」

「!? し、知り合い…!?」

 ツインテールの少女が驚いたように後ずさる。

「麻帆良学園へようこそ。いい所だろう? 『ネギ先生』」

「え…、せ、先生?」

「あ、ハイ、そうです」

 驚く少女達に、ネギは一つ咳払いをして、挨拶する。

「この度、この学校で英語教師をやることになりました。ネギ・スプリングフィールドです」

「え…ええーっ!!」

 子供が教師と聞いて、少女達が騒ぎ、担任になると聞いて、それは更に酷くなる。

「あの、まだまだ未熟者ですが、精一杯頑張ろうと思ってます。こんな子供でお二人が不安に思われるのも分かりますが、周りの先生方にもよく相談して勤めようと思ってますので、どうかよろしくお願いします」

 馬鹿丁寧な、そして心からそう思っているのだと分かる真面目な様子に、少女達は口を閉じたものの、詳しい話は学園長に聞くという事で話がまとまった。

 その少女達の様子に、ネギは一先ず安堵した。知らないうちに緊張していたらしく、ネギは肩から力を抜く。
 そんなネギの様子を、アルカが困惑した表情で見ている事に、ネギは気が付かなかった。

 それを知っているのは、にこにこと微笑みながら、その様子を全て見ていたマリアだけだった。








[20551] 第九話 それぞれの修行
Name: みかんアイス◆25318ac2 ID:68c9a700
Date: 2010/07/27 13:59

「マリアとネギ君は、もう日本に着いたかなぁ……」

 東の空を見上げて、ランドが呟く。

「あら? ランドさん」

「んん? あ、ネカネさん。こんばんは」

「こんばんは、ランドさん。お仕事の帰りですか?」

「はい、そうです。先日はありがとうございました。マリアを夕食に呼んでいただいたそうで……」

「いいえ、ネギも嬉しそうにしていましたし。こちらも、ネギが大変お世話になっていましたし……」

「いえいえ、そんな。ネギ君は筋が良くて教え甲斐がありましたよ」

「まあ、そうなんですか?」

「ええ、そうなんですよ」

 うふふ、あはは、と笑いながら、帰り道が一緒のため、並んで歩く。

「あ、では、私はここで」

「ああ、そういえばネカネさんの家はこのすぐ先でしたね」

「ええ。では、また……」

「はい、また今度……」

 にっこり笑いあって、そのまま別れる。

 そして、それは現れた。

「「ラ~ンド~……」」

「うおっ!? あ、兄貴!?」

「「貴様、ネカネさんと何を話していた~」」

「は? いや、普通にネギ君とマリアの事だけど……」

「「一緒に帰るなど、羨ましい、妬ましい……」」

「あ、兄貴……?」

「「我等が思い、受け取るがいい!!」」

「え、なんで、ぎゃぁぁぁぁぁ!!?」

 ランドの悲鳴が響いた、そんな、とある日の夕方。



   第九話 それぞれの修行



「学園長先生!! 一体どーゆーことなんですか!?」

「まあまあ、アスナちゃんや」

 学園長室に、ツインテールの少女、神楽坂明日菜の声が響き渡る。

「なるほど。修行のために日本で学校の先生を……。そりゃまた大変な課題をもろうたのー」

「は、はい。よろしくお願いします」

 一般人が居るにもかかわらず、簡単に『修行』という単語を出した学園長にネギは驚く。

 そんな学園長を、アルカは胡散臭そうに見つめ、マリアは困ったように眉を下げる。

「しかし、まずは教育実習とゆーことになるかのう」

「はあ…」

「今日から三月までじゃ…。ところでネギくんには彼女はおるのか? どーじゃな?うちの孫娘なぞ」 

「ややわ、じいちゃん」

 ガスッ!

黒髪の少女、近衛木乃香は躊躇い無くハンマーを学園長の頭に振り下ろした。

「ちょっと待ってくださいってば! だ、大体子供が先生なんておかしいじゃないですか! しかも、うちの担任だなんて…!」

 アスナの訴えを、学園長は笑ってかわす。

「それで、アルカ君とマリア君の修行なんじゃが…」

 学園長がアルカとマリアに視線を移した時だった。

 コンコンッ。

 ドアをノックする音がした。

「おお、来たようじゃの。入ってくれ」

「失礼します」

 入ってきたのは、二人の男女だった。

 一人はどこかの執事が着ていそうなフォーマルな服を着た男装の麗人で、もう一人は『フラワーショップ・スズモト』というロゴの入ったエプロンをつけた男性だ。

「こちらの方達が、アルカ君とマリア君の修行先の店長達じゃ」

「こんにちは。私は東堂祥子。ブティック『KANON』の店長だ」

「僕は鈴本陽一。『フラワーショップ・スズモト』の店長だよ。よろしくね?」

 学園長の言葉を受けて、それぞれが自己紹介をする。それに対し、アルカとマリアも自己紹介をする。

「はじめまして、東堂店長。アルカ・スプリングフィールドです。よろしくお願いします」

「はじめまして。マリア・ルデラです。一生懸命頑張ろうと思っていますので、よろしくお願いします」

 そう言って、二人は頭を下げた。

「ふはは。いいねぇ、可愛いねぇ」

「うん。よろしくね」

 東堂店長は不敵に笑い、鈴本店長はのほほんと笑顔を浮かべる。

「丁度、マスコットが欲しいと思っていたんだよ」

「へ?」

「なに、住むところは店の二階が空いているから、そこに住むと良い。ふふふ、楽しみだねぇ」

 ギラギラと捕食者の様な目をした東堂店長が、アルカにじりじりとにじり寄る。

「いいねぇ、本当に可愛いよ。この服が似合いそうじゃないか!」

 そう言って、一体何処から出したのか、東堂店長はビラッ、と服を取り出した。

「この、ゴスロリ服がなぁぁぁ!!」

「な、なにぃぃぃ!?」

 ふはははは、と高笑いする東堂店長に、アルカはどん引きする。

 東堂店長が取り出したのは、レースがふんだんに使われたゴスロリ服である。もちろんスカートだ。

「お、俺に女装しろと!?」

「その通りだ! ふはははは! さあ、カモーン! 可愛くしてやろう!!」

「お、お断りだぁぁぁぁ!!」

「あ、待て! 何処へ行く!? 逃がすかぁぁぁぁぁ!!」

 アルカは学園長室から飛び出し、東堂店長はゴスロリ服を持ったまま追いかける。

 後に残ったのは、気まずい沈黙だった。

「あー、ゴホン。で、ネギ君」

「あ、は、はい」

 咳払いをし、学園長はネギに問う。

「この修行はおそらく大変じゃぞ。ダメだったら故郷に帰らねばならん。二度とチャンスはないが、その覚悟はあるのじゃな?」

「は、はいっ。やります。やらせてくださいっ!」

 ネギの力強い言葉に、学園長は頷く。

「うむ、わかった! では今日から早速やってもらおうかの。指導教員のしずな先生を紹介しよう。しずな君!」

「はい」

 入ってきたのは、柔らかい微笑を浮かべた女性だ。
 ネギは一歩下がって、しずなに場をあけ渡す。

「わからないことがあったら彼女に聞くといい」

「よろしくね」

「あ、ハイ。よろしくお願いします」

 微笑むしずなに、ネギは頭を下げる。

「そうそう、もう一つ。このか、アスナちゃん。しばらくはネギ君をお前達の部屋に泊めてもらえんかの?」

「げ」

「え…」

 学園長の言葉に、ネギとアスナは一瞬言葉を失う。

「もうっ! そんな、何から何まで、学園長ーっ!」

「かわえーよ。この子」

「ガキはキライなんだってば!」

 そんな学園長達の遣り取りに、横から口をはさむ者が居た。

「あー、すいません、学園長。ちょっと、お話しが」

「ん?なんじゃ?」

 鈴本店長である。

「実は、マリアちゃんの住まいの事なんですが…」

「ん?お主の家の離れを使わせてくれるのではなかったかの?」

「ああ、はい。そのつもりだったんですが…実は……」

 鈴本店長の話によると、その離れの一角が、謎の爆発により崩れてしまい、修理には一ヶ月ほどかかりそうなのだという。

「それで、マリアちゃんの住まいなんですが…」

「あ、大丈夫です。私、テント持ってきましたから。お風呂さえ貸してもらえれば、一ヶ月くらいなら…」

「マ、マリアちゃん!? もしかして、野宿する気!?」

「え? 駄目?」

「駄目だよ! 駄目に決まってるよ!!」

 ネギは必死になって引き止める。

「大丈夫だよ。別に熊が出るわけでもないし」

「大丈夫じゃないよ! 別のものが出るかもしれないじゃないか! しかも今は二月だよ!? アスナさん、お願いです! 僕は子供でも、仮にも教師ですから、アスナさん達のお部屋に居座るわけにはいきません。ですが、マリアちゃんは別です! どうか、マリアちゃんを泊めてあげてください!」

「はあ!?」

「ネギくん?」

「お、男の子やな、ネギ君!」

 ネギの訴えに、アスナとマリアは目を丸くし、このかは感動したように目を輝かせる。

「お願いします、アスナさん!」

「ちょ、ちょっと…」

「ネギくん、私は大丈夫だよ?」

「マリアちゃん! お願いだから、屋根のある、鍵のかかる所に居て!」

「ネギ君、ウチは感動したえ!」

 このかが、がっちりとネギの手を取る。

「二人とも、ウチらの部屋に来たらええ! な、アスナ、ええやろー?」

「えっ!?」

「そんな、僕は良いんです。マリアちゃんさえ泊めていただければ!」

「あの、ネギくん。私はテントで…」

「お願いだから、マリアちゃん。言うことを聞いて!」

 そんなネギ達の遣り取りに、ついにアスナが折れた。

「ああー! もう、わかったわよ! 二人ともあたし達の部屋に泊まればいいでしょう!!」

 アスナの声に、このかが嬉しそうに笑う。

「さすが、アスナ!」

「え、いえ、僕はマリアちゃんからテントを借りて…」

「あの、私はテントで良い…」

 往生際の悪いことを言う二人に、アスナは怒鳴りつける。

「あたしが良いって言ってるのよ! いいから、あんた達二人ともあたし達の部屋に来なさい!!」

 こうして、まさかの同居生活がスタートしたのであった。







[20551] 第十話 新生活の第一歩
Name: みかんアイス◆25318ac2 ID:68c9a700
Date: 2010/07/28 09:19


 ネギは頭上を見上げて、しずなに聞く。

「あのー、しずな先生。これは、引っかかった方が良いんでしょうか?」

「え?いえ、別にわざわざ引っかからなくても良いんですよ?」

「あ、そうなんですか。コミュニケーションを円滑に進めるために、引っかかった方が良いのかと思ったんですが」

 しずなは困ったように微笑む。

「そんな事しなくても、円滑に進めますよ」

「そうですか? では」

 ガラッ。

「あ」

 黒板消しが落ちてきた。

「えい!」

 それをネギはクラス名簿で打ち上げ、それは水の入ったバケツに当たり、そのまま転がったバケツに玩具の矢が張り付いた。


「「「「「お、おお~!」」」」」


 その様子を見たクラス中の人間が神業に唸り、拍手する。

 そんな中、ネギは教壇の前に立ち、言う。

「こんにちは。今日からこの学校で英語を教えることになりましたネギ・スプリングフィールドです。三学期の間だけですけど、よろしくお願いします」

 一瞬の沈黙の後…。

「「「「「キャアァッ! か、かわいい~!!」」」」」

 歓声が教室に響いた。



   第十話 新生活の第一歩



 次々に生徒達が席を立ち、ネギは女子中学生という名の津波に飲まれた。

「何歳なの~?」

「えっ!? その、十歳で…」

「どっから来たの!? 何人!?」

「ウェ、ウェールズの山奥の」

「ウェールズってどこ?」

「今どこに住んでるの!?」

 パワフルな生徒達の勢いに、ネギは押され気味だ。

 その向こうでは、生徒がしずなに確認を取っている。

「…マジなんですか?」

「ええ、マジなんですよ」

 その質問に、しずなは微笑んで肯定した。

「ホントにこの子が今日から担任なんですかー!?」

「こんなカワイイ子もらっちゃっていいの~!?」

 どんどん騒ぎが大きくなっていく中、ネギは声を張り上げる。

「あ、あの! 質問なら順番に聞きますから、席に座って下さい!」


「「「「「は~い」」」」」


 ほぼ全員が声をそろえて返事をした。
 ノリの良いクラスである。

「ええと、では、質問のある方は手を挙げて下さい」

「はい!」

 勢いよく手を挙げたのは、出席番号三番の朝倉和美だ。

「ええと、では、朝倉さん」

「おお!」

「出たな、麻帆良のパパラッチ!」

はやし立てる声に、どーもどーも、と朝倉は手を振りながら立ち上がる。

「では、まず最初に、先生は十歳ということですが、学力の方はどれくらいなんですか?」

「大学卒業程度の語学力はあります」

「「「「「おお~」」」」」

 全員が感心したような声を上げる。

「オックスフォードを出たという噂がありますが、それは本当ですか?」

「ええ、一応は…」

 表向きは、そうなっている。

「では、最後に、皆が気になってることだと思うんですが…」

「はい?」


「「「「「好きな子はいますか~?」」」」」


 お約束の中のお約束。
 ほぼ全員が声を揃えて聞いてきた。

「へ? 好きな子?」

 思い浮かべるのは、ただ一人。


 ボッ!


「「「「「いるんだ~!!」」」」」


 一瞬で真っ赤になったネギに、クラスは大騒ぎだ。

「誰? その子、どんな子~!?」

「その子の名前は!?」

「可愛いの!?」

「その子との関係は!?」

「その子も外国人!?」

「あうあう…」

 一気に騒がしくなった生徒に、ネギは顔を真っ赤にしてうろたえる。

「いいちょ、止めなくていいの~?」

「いいんです。これは大切な事なんです! どこの女狐がネギ先生に色目を使ったのか知らなくては!!」

「女狐…」

「色目って…」

「ショタちょー…」

 暴走する生徒達に、ネギは涙目だ。

 この暴走は、一先ずはしずなが治めたものの、マリアはアスナ達の部屋にネギと共に居候する事が決定している。ネギの『好きな子』が知れるのは、最早時間の問題である。

 興味津々の生徒達の視線を背中に感じ、頭を抱えたくなるのを堪えながら、ネギは授業を始めたのであった。



   *   *



「……よし、居ないな」

 アルカ・スプリングフィールドは、現在逃亡中であった。

「はぁ……」

 繁みの中、アルカは溜息を吐いた。


 まさか、こんな事になろうとは……。


 あの店長との鬼ごっこを始め、既に一時間は経っている。
 この数年間、欠かさず鍛錬に勤しみ、鍛えてきた筈なのに、逃げ切れないとはどういう事か。

「あの店長、まさか忍者とかじゃないだろうな…」

 アルカがそう思うのも無理は無い。
 東堂店長は思わぬ所から現れるのだ。

 逃げた先の木の上から降ってきたり。
 逃げた先の天井に張り付いていたり。
 逃げた先の三階の窓に張り付いていたり。


 いつの間にか、後ろにいたり。


 バッ!


 アルカは思わず後ろを振り向くが、誰も居ない。

 再びアルカは、疲れたように溜息を吐く。
 あの店長との鬼ごっこは、既にホラーの域に達していた。

 アルカは徐に懐から小袋を取り出して、それを撫でる。

 この小袋の中には、アルカの師であった式神の紙が入っていた。

 アルカの師であるアースとライラは、数ヶ月前にその役目を終えた。
 もちろんアルカは悲しかったが、彼等は言ったのだ。これは、死では無いと。
 ただ単に、今のアルカでは、この二人を実体化させられる実力が無いのだ。
 それでも、今まで実体化させられていたのは、アルカの願いの結果である。

 だから、早く強くなって我々をまた呼んでくれ。

 そう言って、彼等は紙に戻ったのだ。

 彼等ほどの式神を使役出来るようになるのは、一体何時になるのかは分からない。
 けれど、可能性はゼロじゃない。

 アルカは誓いを胸に、再び小袋を撫でた。

 そして、小袋を懐に戻した瞬間……。

「見~つけたぁぁぁ!」

「ぎゃああぁぁぁぁ!?」

 東堂店長が血走った目で繁みに飛び込んできたのだ。

「さあ! 可愛くなるんだぁぁぁぁぁ!!」

「嫌だっつってんだろうがぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 アルカのホラー鬼ごっこは終わらない。



   *   *



「いや~。本当にごめんねぇ、マリアちゃん」

「いえ、良いんですよ。気にしないで下さい」

 のほほん、という空気を撒き散らすのは、『フラワーショップ・スズモト』の店長、鈴本陽一だ。
 鈴本が謝っているのは、マリアの住まいの事である。
 前々から鈴本の家の離れを貸すという約束をしていたのに、それを守れなかったのだ。

「あの謎の爆発さえ起きなければねぇ~」

 その爆発があったのは、つい二日前の事であった。

 夜中に人の話し声がしたと思ったら、次の瞬間聞こえたのは爆発音。

 何事かと思って様子を見に行けば、そこには誰も居らず、一部が崩れた離れが在るのみだった。

「爆発物なんて置いてなかったんだけどねぇ? やっぱり悪戯なのかなぁ?」

 物騒だよねぇ、とやっぱりのほほんと言う店長に、マリアは苦笑いを浮かべる。

 それは、絶対に魔法使いの仕業だろう。
 だって、学園長の口元が引き攣っていたし、それに…。

「まあ、学園長が見舞金を出してくれたし、良い業者さんを紹介してくるらしいし、予定よりは早く直るみたいだから、安心だねぇ」

 そう。学園長が見舞金を出し、業者の手配までしたのだ。

「学園長って、良い人だねぇ。この学園都市の代表なだけはあるねぇ」

 のほほん、と笑うこの店長は魔法使いの事を知らない一般人だ。
 それもあって、学園長は店長に気を使ったのだろう。まあ、当然といえば当然なのだろうが。

「あ、マリアちゃん。あそこがうちの店だよ」

 鈴本店長が指したのは、商店街の中にある小さな花屋だ。

「これからよろしくね、マリアちゃん」

「はい、店長」

 にっこり笑いあう二人は、のほほん、とした空気を撒き散らし、お互いの存在に和んだのであった。








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