これは歪んだ物語
完成した物語に、ひとりの男を介入させることにより歪んだ物語
ご都合主義を好しとする物語で、ご都合主義を廃したことにより歪んだ物語
ひとりの男が受け入れた大きく歪んだ物語
ひとりの女が受け入れた大きく歪んだ物語
ひとりの男が救われただけの物語
ひとりの女が救われただけの物語
ひとりの男が死を運んだだけの物語
ひとりの女が死んだだけの物語
これはただそれだけの物語
これは、歪んだ大きく歪んだ恋の物語
__Prologue_/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
輪廻転生。
仏教だかアジア関係の宗教で出てくる、人が死んだら違う生き物になって生まれ変わるという、魂のリサイクルシステムを知っているだろうか?
そんなモノの実在を証明する術はないが、そのシステムを信じ、その宗教を崇める人は数知れずいる。
そんな人々に言ってやりたい。
輪廻転生は存在すると。
いや、そうじゃないと俺が陥っている状況に説明がつかないから。
始めはドッキリとか、夢かと思ったが、ドッキリにしては物理法則とか無視しすぎだし、夢にしては長すぎるのと、この苦痛。
悪夢なのかどうかはその人その人に寄るだろうが、俺としては意外とどうでもいいことだったりする。
もはや夢と思っていないから。
現実と受け入れたから。
この苦痛もリアリティを帯びてくる。
板張りの床の冷たさを感じながら、俺はそう思う。
火照った体が床の冷たさで冷まされていく。
「……今日は此処まで」
侮蔑さえ混じった声が、俺の頭上からかかった。
今現在、辛うじて動く首を動かし、上を見上げる。
瞳に、憎悪を込めて見上げる。
「―――…はっ」
そんな俺の無様な姿を見て、親父は鼻で笑い、道場から出て行った。
全く持って、儘ならない。
何時もと同じ一日のはずだった。
そうならないと思った事が無かったのは、平和大国日本の住民であるが故か。
我ながら平和ボケしていたと思う。
動けなかった。
田舎で暮らしていて、小中高と田舎の公立学校に通って、大学の為に上京した俺にとって平穏は日常茶飯事で、それが壊れる事を夢にも思っていなかった。
だから講義から帰ってきて、レオパレスのアパートに帰ってきた時に、泥棒がいたとしても、対処の仕様が無かった。
ただ、呆然と泥棒の包丁を腹に受け入れ、死を受理した。
そして気付けば、羊水の中。
それから俺は赤ちゃんとして、新しい母親の股から出てきて、混乱の末、泣かなかったことから産婦人科の医者に逆さ吊りにされ、蒙古斑塗れのケツを叩かれた。
そこからあれよあれよと歳をとって、小学五年生。
俺は九条家の長男として、川神の一角に住んでいる。
九条組次期当主という看板を背負って。
もっと簡潔に言えば、俺は前世で一度死に、違う世界で生まれ変わり、一族の後取り息子で実家はヤクザ屋さんだ、ということだ。
見も蓋もない。
何だ、その無茶振りな設定は、と言ってしまいたいが、一度死んで記憶を受け継いで転生したことには、正直感謝している。
人の人生は一度きり。
大体八十から長く生きても百歳程度のもの。
後悔もあれば、やり直したいことも多くあるだろう。
若さ故の無知、無謀を、俺は今、やり直す事が出来る。
それはとても魅力的なことで、どれだけ金を積んでも出来ないことのはずだ。
気とか武道とか武家とか色々と出鱈目な世界、というのにドラゴンボール的な違和感を感じずにはいられないが、そこら辺には折り合いをつけている。
死んでしまったものは仕方ない。
今生きている。
それでいいではないかと。
しかし、親父を憎悪する理由は別物。
何故憎悪しているのか、それを俺は理解できない。
一応武家の血筋だから、小さい頃から鍛錬でボコられているから?
ヤクザという家系だから?
人殺しだから?
この世界さえ、前世の世界と同じく腐りきっていると、嫌というほど教えられたから?
そのどちらでもないと思う。
ただ、生理的に本能的に憎悪していた。
そのことを親父の右腕的存在である一之瀬に相談した事がある。
そうしたら、一之瀬は笑って答えた。
『そういう家系らしいですよ』、と。
ならば仕方ないのかもしれない。
そういう家系ならば仕方ない。
そういう風に遺伝子に刻み込まれているのならば、と。
そう納得付けた。
前世の常識など通用しない世界なのだから、その世界に純粋に生を受けて、生きてきた一之瀬が言うのなら、そうなのだと納得した。
こうして今、俺は前世とは違う世界にいる。
風間ファミリー。
そう呼ばれる小学生グループがある。
小学生の癖にファミリーなんていう英語をグループ名に入れているのは、流石に世代の違いというかジェネレーションギャップに驚きを隠せない。
が、俺はそのグループに席を置いている。
小学生らしい封鎖的なグループで、設立当初の面子からあまり人数は増えていない。
グループのメンバーは
リーダー:風間翔一
軍師:直江大和
用心棒:川神百代
ペット:岡本一子
アホ:島津岳斗
一般人:師岡卓也
元いじめられっ子:椎名京
侍中:九条沙紗
の八人。
何故俺が侍中なのかは、今一分かっていない。
モモさんと京は色々とあった中で途中から仲間に加わったが、小4から小5の一年間に二人しか加わってないことを考えれば、十分に閉鎖的ものだ。
しかしその中は心地良く、精神年齢的には随分年上な俺でも、楽しかった。
というか身体に精神が引っ張られて、随分と精神年齢が下がってしまっている気がする。
思っていることと言動が一致しなかったりするのが、その一例。
対処法は無いが、このまま成長していけば問題は無いので治そうとも思わないが。
そんな感じで暮らして小5の夏休み。
俺は一人の女の子と出会う。
そしてそれが、俺がひとつの禁忌を犯す切っ掛けであり、その子を壊してしまった俺の始まりでもあった。
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あとがき
というわけで、何をトチ狂ったのか改訂版投稿完了。
前回のあとがきで六月の中盤あたりに投稿しますと言いましたが、22日ってセーフなのか?
まあ、とりあえず完結できるように頑張り直してみようと思うので生温かい目で見ていてください。