『ざから』
其のものの伝承自体は少なからず残されていた。
しかしその存在の姿や能力を書き記した書物や伝承はほとんど残されていなかった。
ただ、どんな武器も術も通用しなかった。すべてを破壊する力を持っていた。すべてを焼き尽くす炎を持っていた。
何が本当で何が作り話かはわからない。
だがこれだけは言えよう。
『ざから』とは人間の想像を超えた存在であり、並みの者にはどうする事も出来ない脅威であり災害であると。
力が溢れる。
深い湖の奥底でざからは歓喜していた。今まで封じられていた力が復活した。それどころか前以上に力がみなぎる。
あの男に付けられた傷も、あの女とあの獣が自分を封じていた力も何もかもが消え去った。
頭の中に聞こえていた自分を制止する声。あの女の声も消えた。
あの女は自分の奥底で眠りに付いている。自分の行動を邪魔する存在はいない。
何の束縛も制限も無い。だから自分は行動する。
あの男を、あの男を捜す。自分に傷を負わせ、この地に封印した男を。
それは怒りでも憎しみでも無い感情。
ただの切望。あの男にもう一度会いたいと言う願望。
まるで恋焦がれる恋人に会いたいというようなものだった。
ゆえに彼がそれを邪魔された時、どれほどの怒りを顕にするのかは想像に難くない。
フェイトがその存在と相対したのはジュエルシードの反応を感じ、この地にやって来て直後だった。
湖の奥底から現れる存在。巨大な獣のような姿をしている。
犬とも猫とも狐とも狸とも似つかない姿。しかし獣と称するのが一番適切だろう。
ジュエルシードの反応がするところを見ると、何かの動物を取り込んだのだろうと最初は思った。
しかし同時にフェイトは恐怖した。
目の前の存在の魔力が尋常ではない。はっきり言おう。単純な魔力量だけなら自分を遥かに超えると。
ざからには本来魔力と呼ばれるものは備わっていなかった。どちらかと言うと霊力などに順ずる生命力の塊とでも言うべき存在だった。
だがジュエルシードを取り込んだ(取り込まれた)ことで、ざからは生命力を上昇させ、同時に魔力への変換を果たしていたのだ。
取り込む前でも軽く山一つ破壊するだけの力を有していたのだ。これが増幅されればどれほどの力になるのか。
「けど戦いは魔力量だけで決まらない」
フェイトは恐怖を振り払い、ざからと対峙する。まずは結界の構築。こんな化け物と自分が戦えば周辺への被害が大きすぎる。
外部に影響をもたらさず、誰も入り込めない結界を魔法で構築してから対処に当たる。
「どれだけ相手が強くても負けるわけにはいかない」
覚悟を決める。自分には負けられない理由がある。母のためである。あの人の笑顔のため。自分に期待してくれているあの人を裏切るわけには行かない。
「バルディッシュ」
『Yes,Sir』
手に握る自分の相棒であるデバイス『バルディッシュ』に声をかける。
魔力を込め、黄色く輝く魔力刃を作り出す。
『Scythe Form』
それは死神の鎌。黒衣の少女が扱う強力な武器。並み居る者をことごとく倒す愛器。
ただし・・・・・・・いかに彼女をもってしても、これから戦う相手に対してはあまりにも差がありすぎた。
「くぅん」
「くーちゃん?」
同時刻、久遠と高町なのはは二人で国守山の方までやってきていた。
この近くにはさざなみ寮と言う女子寮があり、以前からそこの住人の何人かとは交流があった。
ここのオーナーの槙原愛は獣医で、よく久遠の予防接種などもしてくれていた。
その際、久遠は大変嫌がり、なのはやストラウスの説得でも中々応じてくれずに苦労したのはここだけの話である。
他にもここの住人の仁村真雪とストラウスは漫画関係で交流があり、何度か意見交換や同人誌作成で協力したこともある。
真雪とストラウスの合作誌は、同人誌界においてもはや伝説の一冊として今でもネットオークションで高値で取引されている。
二人はさざなみ寮に顔を出し、周辺で戯れる猫達と遊び(久遠が少々激しいスキンシップに見舞われたが)、今は森の散策にやってきていた。
そんな中、不意に久遠は国守山の湖の方を見た。なのはも釣られてそちらの方を見る。
同時に奇妙な違和感をなのはは覚えた。まるで世界が反転したかのような感覚。
自分が世界から切り離されたと言うような、現実感の無い奇妙な感覚。
胸の奥が熱い。まるで何かが鼓動しているかのような感じがする。
(なんだろう、これ?)
なのはは自分の身体に何が起こっているのかわからなかった。さらに遠くから聞こえる音。
まるで雷のような轟音。物や木が壊れるような激しい音。
「なに?」
音のする方はちょうど湖がある方向だった。久遠やストラウス、家族でも行った事がある。静かで綺麗な湖がある。
「何だろう・・・・・・」
何が起こっているのか気になった。好奇心と言うのは人間なら誰でも持っているもの。なのはが気になったのも無理ないことだ。
「くぅん!」
「くーちゃん?」
だが久遠がなのはを呼び止める。まるで行ってはダメだと言う様に。
「行っちゃダメって?」
「くぅん!」
なのはの言葉に久遠も首を縦に振る。ただならぬ久遠の様子に、なのはもそれを無視するわけにはいかない。
「わかった。くーちゃんがそう言うんだったら私は行かないから。それよりも危ないかもしれないから戻ろうか」
久遠がこうやって警告すると言う事は、何かよくない事があるということだと聡明ななのはは理解した。
ならすぐにこの場を離れるのが良いだろう。何が起こっているのか気になるが、自分に何かあっては家族が心配するし、警告してくれている久遠に申し訳が立たない。
「じゃあ戻ろうか。くーちゃん、ライドオン!」
「くぅん!」
なのはは背中に背負ったリュックに久遠を乗せる。これはなのはのリュックサックに久遠専用の収納スペースが作られていて、ここに入るとちょうど頭と手だけが出るように出来ている。
これはなのはと久遠がお出かけの際、普通にしていると目立つので、こうやって人形みたいな扱いをすれば目立ちにくいとのことで、ストラウスと桃子が提案した。
作成もストラウスと桃子の合作であり、なのはと久遠は共に気に入っている。
二人はそのまま山を降りようとした。
しかしそんな彼女達の前に突如、根のような物が襲い掛かった。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・・・」
フェイトは肩で息をしながら、目の前の存在を見据える。
はっきり言って、絶望的なくらい力が違った。
「くっ、フォトンランサー!」
周囲にフォトンスフィアを展開し、魔力で作られた槍をざからに向かい放つ。
「ファイア!」
『ォォォォォォッッッッ!!!』
咆哮。ざからは真正面からフォトンランサーを受け止める。
フェイトの魔力から作り出されるフォトンランサーの一撃一撃はかなりの威力である。並みの魔導師でも一撃でも当たれば十分に昏倒させられるだけの威力を有している。
ジュエルシードの暴走体であろうとも、打ち込めば倒せるはずであった。
しかし・・・・・・・・。
ざからは無造作に、まるでそんなもの意に介さないとばかりに正面から受け止める。ざからは何もしていない。
ただ本来の身体強度で、生命力で、取り込んだジュエルシードの魔力だけで受けとめる。そこに小細工は一切無い。ただ単純で純粋な力。技でも特殊な能力でもない。
圧倒的で絶望的な力。
それだけでざからはフェイトの攻撃を受け止めていた。
これまでにフェイトが仕掛けた攻撃は十を超える。だがそのどれ一つとして、ざからに傷一つ負わせることが出来なかった。
「これだけやっても無傷なんて・・・・・・・」
バルディッシュで切りかかっても刃は身体に突き刺さらず、今のような魔力弾も弾かれる始末。
「このままじゃダメだ。大技を決めないと・・・・・・・」
ならば今自分のもてる最強にして最大の攻撃を打ち出すしかない。これが効かなければ、もう自分にはどうする事も出来ない。
「でもやるしかない!」
持てる魔力をすべて絞り出す。同時に相手の動きを拘束する魔法『バインド』で、ざからの動きを封じる。
相手はそこまで動きは速くなかった。バインドを設置し、即座に絡め取るのも余裕だった。
「でもあまり長い時間は持たない」
ざからは単純な魔力だけでも自分を超えている。力任せにその魔力を振るうだけでバインドなど簡単に破壊できる。
「それでも簡単には壊せない」
フェイトは自分を過信はしていなくても、自信を持てるほどの修練は積んでいた。自分に魔法を教えてくれた師。その師の教えと努力があったからこそ、今の自分がいる。
「アルカス・クルタス・エイギアス。疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル」
足元に魔法陣を出現させ、フェイトは大技を打つ準備に入る。
強大で膨大な魔力。見るものが見れば、魔力に恐怖すらしただろう。周囲に無数の雷の塊が姿を現す。
「フォトンランサー・ファランクスシフト。撃ち砕け、ファイアー!」
一斉に解き放つ。
スフィアの数は三十八基。毎秒七発のフォトンランサーを四秒継続させる。数にして実に千六十四発。この攻撃の前にはいかなる存在であろうとも倒せるはず。
さらにフェイトは左手を掲げ、魔力を収束して巨大な雷の槍を作り出す。巨大なまるで杭の様な魔力の塊。最後にそれをもざからに向けて叩き込む。
爆音と轟音が響き、土煙が周辺に立ち込める。
フェイトは魔力のほとんどを絞り出し、息を荒くしている。魔力は底を尽きかけている。バリアジャケットと飛行制御でギリギリだ。
何とか無理をすればあと何発かフォトンランサーを放てるだろうが、それで精一杯。
「でもこれだけやれば・・・・・・・」
土煙が晴れいく。そしてフェイトは見て・・・・・・・・絶望した。
「そ、んな・・・・・・・」
消え入りそうなかすれた声を出す。土煙の向こう。巨大な姿が見える。
だが問題はそんな事ではない。目の前の存在は、あれだけの攻撃を前にしても・・・・・・傷一つ付いていないと言う事だった。
『オォォォォッッッッ!!!!』
再びの咆哮。放たれる魔力。フェイトはその魔力を感じ戦慄した。目の前の存在は、ほとんど魔力を消耗していない。
自分の攻撃など、まるでカトンボに刺されたような程度のものでしかなかったかのように。
フェイトは決して弱くは無い。彼女の魔力、戦闘能力は共に高い水準であり、純粋な破壊力だけを見ればかなりのものであろう。
ざからも本来の能力だけを見れば、フェイトとそこまでの大差は無い。ざからは軽く山一つ吹き飛ばし、数多の僧や霊能力者を葬ってきたが、それでもここまでの攻撃を喰らって無傷で居られるほどの存在ではなかった。
本来のざからならば、フェイトのファランクシフトの直撃を受ければ致命傷とまでは行かなくとも、大きなダメージを受けていた事だろう。
だが今のざからは違う。
ジュエルシードと一つになったことで、ざからの能力は大きく強化されていた。
さらにジュエルシードとは歪だが願いを叶える能力を有する。願いの思いが大きければ大きいほど、その能力は大きく発揮される。
ざからは封印されてからずっと渇望していた。最初は小さな想いだが、数百年の時を経て思いは大きくなり、増幅されていった。
その思いがジュエルシードと結びついた時、どれほどの力を発揮するのか想像も出来ないほどに。
ざからは会いたかった。自分を倒したあの男に。また戦いたかった。自分を傷つけたあの男と。
―――――お前は、強いなぁ―――――
かつてのあの男との戦いを思い出す。
あの男は言った。自分はもう死ぬと。けれどもいつかその血を受け継ぐ子孫が会いに来ると。そしてその時は。
――――そん時は、また、遊ぼうや――――
男はそう言った。
初めてだった。そんなことを言われたのは。
いつも自分は恐れられるだけの存在だった。誰からも望まれず、必要とされなかった。
けれどもその男は違った。自分を対等に見てくれた。自分を必要としてくれた。
嬉しかったのかもしれない。そんな今までに無い感情がざからの中に芽生えた。
ゆえに静かに湖の中で眠っていた。
だが待てども待てども、彼の言う存在は現れない。どれだけの時が経ったのかわからない。
思いは強くなる。芽生えた感情がざからを苦しめ、苛む。
ジュエルシードが反応したのはそんな負の感情。負の感情と言うのは正の感情よりも時として強い。
元来、ざからに存在した破壊衝動と負の念とジュエルシードの力が一つになった。
今のざからは本来のざからよりも何倍も、何十倍も強い。
ざからはフェイトを一瞥する。ざからはフェイトの攻撃をすべて受けきり、彼女にある判断を下していた。
違う。
この者ではない。
仮にあの男の子孫でも自分に傷一つ負わすことの出来ない存在が、自分が待ち望んでいた存在であるはずがない。
自分にとって邪魔な存在。あの男を、あの男の言う存在を捜すのを邪魔する者でしかない。
ざからはフェイトをそう判断する
そこからのざからの行動は早かった。今までただ攻撃を受けるだけだったざからが攻撃に転じた。
「えっ!? きゃぁっ!?」
突然の魔力の放出。同時にフェイトを襲う炎。すべてを燃やすざからの炎の直撃をフェイトは受けてしまった。
バリアジャケットが焼け焦げ、身体にも火傷を負う。幸い、咄嗟に残った魔力で防御したのとバリアジャケットのおかげで火傷自体もたいしたことはなかったが、服はところどころ燃え落ち、肌が今まで以上に露出していた。
「あっ、あっ・・・・・・・・」
どさりと地面に墜落する。身体に力が入らない。立たなければならないが、足が動かない。
フェイトはざからを見る。ざからはゆっくりと近づいてくる。
本来のざからは様々な物を食した。物であったり、人であったり、魂であったり、エネルギーであったり。
ざからは今まで三百年間、何も食していなかった。そのため、何かを食したいと思っても不思議ではない。
感情の中では優先度が低いものであったが、それが消えるわけではない。
ざからは目の前に倒れる少女を見る。少しは腹の足しになるか。
ゆっくりとざからはフェイトに近づく。巨大な顎がフェイトの目に映る。鋭い牙を持つ巨大な口。
食べられるとフェイトは身を竦ませる。けれども逃げる事も出来ない。身体は満足に動かず、魔法を使う魔力も残っていない。
「こっ、のぉっ!」
直後、叫び声と共に一人の女性がざからに殴りかかった。フェイトの危機を察知して駆けつけたアルフである。
「フェイトぉっ!」
心配そうな声を上げるアルフ。ざからを一度殴った後、すぐに彼女は倒れているフェイトの下へと駆け寄った。
「フェイト! 大丈夫かい!?」
心配そうに身体を抱き上げるアルフ。大切な主のボロボロの姿を見て、彼女は狼狽した。
「アルフ・・・・・・」
小さくフェイトは彼女の名前を呼ぶ。だが彼女達の背後から、ざからが襲い掛かる。
食事の邪魔をされたざからは怒りの矛先をアルフへと向けた。先ほどの一撃もざからには何のダメージも与えていない。
それどころかむしろ、ざからを怒らせるだけの結果しか生み出さなかった。
『オォォォォォ!!』
「逃げるよ、フェイト!」
アルフはフェイトを抱えると、すぐさま空へと逃げる。目の前の化け物は空を飛んでいない。つまり空ならばこいつは追って来れない。
空に逃げて、すぐにこの場から転移する。それがアルフの考えた逃走手段だった。
それは間違っていない。ざからは空を飛べない。しかし空を飛翔する事は叶わずとも、空に飛び上がる程度の事は出来た。
「なっ!?」
目の前に巨大な影が踊りでる。ざからの巨大な体が目の前にある。その腕がアルフを狙う。
「ちっ!」
アルフはフェイトを抱えたまま、何とかその腕の直撃を回避する。だがその際に発生した風圧と、ざからが纏った魔力の余波を二人は受けてしまった。
「うわぁっ!?」
思わず動きが止まる。致命的な一瞬の隙。ざからはそれを見逃さない。炎が二人を襲う。
「ちくしょうぉっ!」
転移は間に合わない。なら防御するしかない。アルフは全力で防御に魔力を回す。
防御は彼女の得意呪文だ。主を守る盾。フェイトを守れるなら、ここで燃え尽きようとも構わない。
アルフは全力でシールドを展開し、炎をさえぎる。彼女はざからの強力な炎に耐える。持ちこたえられる。彼女は確信した。
しかしその希望は直後のざからの動きで凍りついた。ざからは再び、彼女たちめがけて炎を放ったのだ。
一発目の炎が残っているところに、再び同等の炎が襲い掛かる。いかにアルフでもこの炎を完璧に防御する事は出来なかった。
「あぁぁぁっっ!!!」
フェイトを左手に抱えながら、アルフは必死に右手を突き出し防御をし続ける。右腕の一本失っても構わない。ただこの子にだけは、これ以上の傷を負わせない。負わせてなるものか。
その思いだけで、アルフは炎を受け止める。痛みに歯を食いしばり、涙が出そうになるのを必死に我慢する。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・・」
炎が収まるが、もう右腕は使い物になりそうも無い。火傷で感覚がすでに麻痺している。痛いと感じることさえない。
「あ、アルフ。右腕・・・・・・」
「っ。これくらい平気だよ、フェイト・・・・・・」
焼け焦げ皮膚が黒くなっている右腕を見ながら、フェイトは動揺したような声を上げる。
彼女もアルフが傷つくのが嫌だった。自分のために、アルフが右腕を失うなんて、そんなこと許せなかった。
「大丈夫。そんなことより、ここから早く逃げないと・・・・・・・」
だが逃げるといっても、向こうはこちらを簡単に逃がしてくれそうには無い。
向こうはこちらを睨んでいる。もし下手に動けばその瞬間、相手はこちらに襲い掛かってくるだろう。
今相手が動かない理由はわからないが、どちらにしろ自分達が危険な状態であるということには変わらない。
(何とかフェイトだけでも逃がさないと・・・・・・・)
アルフは自分が囮になり、その隙にフェイトを逃がす事を考えていた。この場で取れる最上の策。
右腕がこんな状態では満足に戦えない。いや、両腕が無事でもあの化け物相手にどれだけ戦える事か。
(でも何とかしないと・・・・・・)
アルフにとってフェイトがすべて。フェイトが無事で生きていてくれるだけでいい。
そのためなら自分は喜んで犠牲になろう。命を投げ捨てよう。
すべてはフェイトのため。彼女が生きて、笑っていてくれるだけでいい。
アルフは決意を固める。己がすべき事を、優先すべき事が何であるか理解しているがゆえに・・・・・・・。
違う。皆違う。
ざからは目の前の二人を睨みながら、自分が待ち望んだ相手がどこにいるのかを考える。
あの男のような強者を。自分と戦える存在を。
あの男か、その子か、その孫か、その子孫・・・・・・。
どこにいるのか。この付近に居るのか。それともどこか遠くに居るのか。
わからない。わからなければ探せば良い。すでに根を放ち、自分の待ち人を探している。
ここで見つからなければ遠くまで行こう。見つかるまでずっと探そう。
その前にこの目の前の二人を食してからにしよう。
昔はそうやっていた。好きな時に食べ、好きな時に壊し、好きなように暴れまわった。
あの男と出会うまで。
思い出せばまた恋しくなった。あの男はどこにいるんだ。もう二度と会えないのだろうか。
寂しい、悲しい、辛い。
オォォォォォォ
心が満たされない。こんな気持ちは初めてだ。感情が高まり、ざからは声を上げる。
そして・・・・・・。
ゾクリ
不意に身体が震えた。全身を刺すような鋭い気配。
あの少女の攻撃にもびくともしなかったこの体が、まるで何かに刺されているかのような感覚を受けた。あの三百年前のあの男の時と同じ。
身体を見るが、別に何も刺さっていない。ざからはその気配がどこから来たのかを探る。
感じる。何かがいる。自分を見ている。自分に対して怒りを感じている。
ざからは周囲を見渡す。どこだ、どこにいる。
ゾクリ、ゾクリと、ざからはそれを探るたびに身体の震えが高まる。こんな感覚は初めてだ。
そしてざからはそれを見つけた。
それは細身の男。かつてあの男と出会った時を思い出す。あの男も華奢な男だった。その横には小さな女の子と狐が倒れている。
似ている。あの時と。あの男も小さな少女と一匹の獣を連れていた。
まるであの時の再現。
両者の視線が交差する。
ゾクッ!!!!
今まで以上に自分を射抜く気配が高まった。男の目が怒りに震えているかのような気がした。
自分以上の獣。そう思わせるには十分だった。
その目が語る。
『お前を許さない』と。
男の背中に翼が生える。力が高まる。
それは恐怖と共に『赤バラ』と呼ばれた者。星を壊し、数千、数万の敵を一瞬にして葬り去る魔神。
清廉にして気高き星の守護者にして、最強にして至高のヴァンパイアの王。
その者の名はローズレッド・ストラウス。
ざからが脳裏に刻む男の名であった。
あとがき
皆様、ご意見ありがとうございます。
何とか皆様のご意見を参考にさせていただき、ローズレッド・ストラウスと言う人物を書くように心がけます。
色々と至らぬところもあるかもしれませんが、ご指導のほどよろしくお願いします。
さて、次回はいよいよ赤バラ無双始まりますw
これがやりたかった。
フェイトとアルフがかませ犬になってすいません。直接この二人とストラウスを戦わせる事が出来ないなら、DBみたく、悟空が仲間が苦戦した相手に圧勝する風に描けばいいや的なノリで描きました。
次回は無双です。残念ながら、単純な戦闘力では現在のざからでもストラウスには勝てません。
まあ勝てたら、マジで地球終了なんで(汗
なのはと久遠、ついでにユーノの話は次回以降にでも書きますので。
では次回もお楽しみに!