Astandなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
菅直人首相が掲げる「強い経済、強い財政、強い社会保障」への歩みを刻めるかどうか。来年度予算の編成をめぐって、菅政権の真価が問われようとしている。日本の借金財政は先進国で[記事全文]
2万3千人の観衆は、今秋のプロ野球ドラフト会議で目玉となる選手たちと、次世代を担う若手プロとの真剣勝負を満喫したことだろう。大学野球の日本代表が26日、プロの23歳以下[記事全文]
菅直人首相が掲げる「強い経済、強い財政、強い社会保障」への歩みを刻めるかどうか。来年度予算の編成をめぐって、菅政権の真価が問われようとしている。
日本の借金財政は先進国で最悪なのに、ギリシャ危機のようにはならずに済んでいる。経常収支の黒字などと並ぶその理由の一つは、日本の税負担が先進国で最も低く、消費税などの増税余地がかなりあることだ。
だが、それが説得力をもつには、日本が財政赤字を制御できる国だということを示す必要がある。金融市場や国際社会の目は厳しく、政府の具体的な行動が問われている。
そのスタートとなる概算要求基準(シーリング)をきのう菅政権が決めた。歳出額、新規国債発行額は今年度の実績以下に抑えるとし、歳出膨張の歯止めを示した点は評価できるが、問題はどう実現するかだ。
歳出額が今年度並みといっても、現状維持では済まない。人口の高齢化で、社会保障費は毎年1兆円以上増える。その分だけ、どこを削るか。
菅政権は新成長戦略の一環として、医療や介護、環境など雇用拡大を見込む分野に「1兆円を相当程度超える」特別枠を設ける。それには他の予算を圧縮する必要がある。
こうした事情から、各省庁の予算を前年度比で一律1割ずつ削減することになった。
シーリングは歳出抑制の手段として長らく使われてきた。昨年の政権交代後、鳩山政権が「硬直的」だと廃止したが、予算要望額が一気に膨らみ、かえって混乱した。その経緯をみれば、復活は現実的な判断だろう。やりようによっては、かなり大胆な予算の組み替えもできるはずだ。
菅政権は今後の予算配分の作業で、公開型の「政策コンテスト」を導入するという。人気取りのパフォーマンスで終わらないよう、政策の優先順位を決めるのにふさわしい手法を編み出すことを期待したい。
このさい、民主党が政権交代時に掲げたマニフェストの目玉政策も政策コンテストにかけてはどうか。高速道路無料化、子ども手当、農家の戸別所得補償などだ。兆円単位の歳出増が伴うこれらの政策を古い工程表通りに実現するには無理がある。
国民に事情を正直に告げ、コンテストで既存政策と比べ、優先度の高さを決めればいい。推進すべきものと断念すべきものが見えてくるはずだ。
残念ながら、シーリングの決定過程は国民に見えにくかった。自公政権では、有識者を加えた経済財政諮問会議が予算の大枠を決め、その論議の内容も公開した。今後の予算編成にもかかわるオープンな政策決定の場をつくることも菅政権の重要課題ではないか。
2万3千人の観衆は、今秋のプロ野球ドラフト会議で目玉となる選手たちと、次世代を担う若手プロとの真剣勝負を満喫したことだろう。
大学野球の日本代表が26日、プロの23歳以下選抜チームと東京ドームで対戦した。30日に日本で開幕する世界大学選手権の壮行試合としての開催だった。プロが勝ったが、東洋大の藤岡投手が好投するなど学生側も頑張った。
大学生とプロの対戦は昨秋も、セ・パ60周年を記念して行われたが、今回は「枠組み」が違った。
高校野球や大学野球のあるべき姿を示した日本学生野球憲章が全面改正され、今年4月に施行されたからだ。
原則的にプロアマの交流を禁じてきた旧憲章に対し、新憲章は日本学生野球協会の承認の下、プロ側と練習や試合、講習会などで「交流」できるとした。歴史的な方向転換である。
これは、球界全体の活性化につながる。プロの技を学生が直接学べる場は貴重だ。今後はプロ球団と大学の試合なども実現しそうだ。歓迎するべき改正だと考える。
プロアマ双方は4月から、交流上の細かいルールについて検討を続けている。「交流」の本格化はこれからだ。
ただ、距離が近づくことで、癒着のような関係に逸脱していったり、金品が行き交うようなことがあったりしては、不幸な歴史を繰り返すことになる。憲章改正までの経緯をあらためて確認しておこう。
きっかけは、プロ野球西武が高校の選手らに裏金を渡していた事実が明るみに出たことだった。それに続いて、一部の高校が、野球の才能がある生徒に奨学金などを出す特待生問題も表面化。学生野球が商業主義や勝利至上主義に、以前にも増して振り回されているのではないか、という問題意識が広がった。
それを受けて改正された新憲章は「学生野球は教育の一環」という基本理念を初めて明文化した。金品の授受も旧憲章と同じく禁じている。
ただ、旧憲章は制定から半世紀以上が過ぎ、時代にそぐわなくなっている面も少なくなかった。プロとの関係もその一つだ。そこで交流についても文言を見直すことになった。旧憲章下では特例を随時設ける形で、プロが高校生に技術指導するシンポジウムなどが開かれてきたが、プロの高度な技術を学生野球の発展にもっと生かそう、との発想から原則を変えた。
つまり新憲章が示しているのは、学生野球の目的はあくまでも教育としつつ、プロとの交流もそれに役立てようという姿勢だ。
野球は多くの国民に愛されるスポーツだ。球界の健全な発展には、新憲章の精神を、とくにプロの側が十分くみ取ることが重要だ。