国税庁が1日公表した10年分の路線価は、景気とともに冷え込む不動産市況の厳しい実態を浮き彫りにした。一方、マンション販売は一部で復調気配が見られ、業界関係者からは「既に底を打った」との見方も出ている。ただし、人気は都心に近い物件に集中しており、郊外には「苦戦」している物件も目立つ。
「お客さまの購買意欲がだいぶ上がっている印象。事業者としてはうれしいことです」。都心の新名所として12年に開業予定の「東京スカイツリー」にほど近いJR錦糸町駅徒歩6分のマンション「オアシティ錦糸町」(東京都墨田区)。3~5月の3期で分譲し、146戸すべて即日完売した。開発を手掛ける伊藤忠都市開発の担当者は「異例の速さ」と驚きを隠さない。
不動産価格データを提供する「東京カンテイ」の中山登志朗上席主任研究員は「住宅ローン減税など政府の支援策の後押しで、これまで購入を検討しつつ様子を見ていた層が動き出した」と話す。不動産業界ではこうした潜在需要を「マグマ」と呼び、ミニバブルが崩壊した07年以降、かなり膨らんでいるとみている。
中山氏は「マグマが噴き出すには景気回復が必要」としたうえで「消費税の増税時期が決まれば駆け込み需要が表面化し、マンション価格が瞬間風速的に上がる可能性もある」との見方を示した。
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不動産経済研究所によると、首都圏の5月のマンション契約率は77・0%(前年同月比6・4ポイント増)。「好調ライン」とされる70%を大きく上回った。ただし、同研究所の福田秋生・取締役企画調査部長は「市況回復は東京の中心部に限った話。都下や千葉、埼玉県などは厳しい」と指摘する。
三井不動産レジデンシャルが手掛けるさいたま市や千葉県柏市の1000戸クラスの大規模物件は、9割程度が売れるまで2~3年を要した。担当者は「公園や共用施設を整備し周辺を一体開発して魅力を高めた」と努力の成果を強調する。
業界関係者は「安いだけでは売れない。そういう物件を買おうとする層の所得が今、一番下がっているから」と解説した。「東京一極集中」のマンション好況は面的な広がりが見込めず、地価全体を反転上昇に導く原動力とはなりそうにない。【加藤隆寛、松谷譲二】
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都道府県 10年分 09年分 増減率
北海道 44 47 ▼6.4(▼6.0)
青森 29 30 ▼3.3(▼6.3)
岩手 36 38 ▼5.3(▼7.3)
宮城 63 68 ▼7.4(▼6.8)
秋田 29 31 ▼6.5(▼6.1)
山形 28 30 ▼6.7(▼3.2)
福島 33 34 ▼2.9(▼2.9)
茨城 33 34 ▼2.9(▼2.9)
栃木 39 40 ▼2.5(▼2.4)
群馬 38 39 ▼2.6(▼2.5)
埼玉 109 115 ▼5.2(▼3.3)
新潟 36 37 ▼2.7(▼2.7)
長野 37 39 ▼5.1(▼2.5)
千葉 80 85 ▼5.9(▼3.4)
東京 555 626 ▼11.3(▼7.4)
神奈川 166 173 ▼4.0(▼3.9)
山梨 36 37 ▼2.7(▼2.6)
富山 32 34 ▼5.9(▼2.9)
石川 50 53 ▼5.7(▼3.6)
福井 37 39 ▼5.1(▼4.9)
岐阜 45 46 ▼2.2(▼2.1)
静岡 71 73 ▼2.7(▼1.4)
愛知 111 120 ▼7.5(▼6.3)
三重 37 38 ▼2.6(▼2.6)
滋賀 44 45 ▼2.2(▼2.2)
京都 135 143 ▼5.6(▼3.4)
大阪 174 192 ▼9.4(▼4.0)
兵庫 96 102 ▼5.9(▼1.9)
奈良 55 57 ▼3.5(▼3.4)
和歌山 46 48 ▼4.2(▼2.0)
鳥取 40 43 ▼7.0(▼4.4)
島根 44 46 ▼4.3(▼4.2)
岡山 52 54 ▼3.7(▼1.9)
広島 91 95 ▼4.2(▼2.1)
山口 38 40 ▼5.0(▼4.8)
徳島 55 59 ▼6.8(▼3.3)
香川 45 48 ▼6.3(▼4.0)
愛媛 57 59 ▼3.4(▼3.3)
高知 65 70 ▼7.1(▼5.5)
福岡 96 106 ▼9.4(▼8.6)
佐賀 40 41 ▼2.4(▼4.7)
長崎 56 58 ▼3.4(▼1.7)
熊本 46 48 ▼4.2(▼4.0)
大分 38 40 ▼5.0(▼4.8)
宮崎 37 38 ▼2.6(▼2.6)
鹿児島 61 63 ▼3.2(▼3.3)
沖縄 60 61 ▼1.6(▼3.2)
全国 126 137 ▼8.0(▼5.5)
(1平方メートル当たり、単位は千円、増減率は%、▼はマイナス、カッコ内は前年)
毎日新聞 2010年7月1日 東京夕刊