CDドライブ一体型の高性能NASを導入した話の続編として、今回は従来のNASと比べた場合の音の違いを紹介しよう。
結論から言うと、その差は予想以上に大きく、今回の選択は大成功であった。詳しい仕様は前回紹介した通りで、ベースとなるシャーシはドイツのhush製、静音パソコンで有名な東京の
オリオスペックが設計したカスタマイズ仕様のサイレントNASである。
私が発注した仕様は80GB+160GB(計240GB)のSSDを積むモデルで、搭載するSSDはいずれもインテルのX25-M。高速動作と安定性の高さで定評のあるMLC方式の2.5インチドライブだ。
今後、いま以上に低価格化が進んだ場合は、さらに大容量のドライブと入れ替えることも視野に入れているが、他にもNASは複数所有しているので、当面は240GBで十分だと思う。
音の比較は、バッファロー製の2種類のNAS(LS-WH2.0TGL/R1、LS-WSX500L/R1)と、QNAPのTS-119、今回のhushの4機種の間で行った。DSはKLIMAX DSとMAJIK DSの2機種を組み合わせている。hush以外はすべてHDDタイプで、リッピングソフトはEACまたはiTunes、hushの場合は内蔵のdbpowerampを使用した。
また、HDDタイプのNASに読み込む場合の光学ドライブはパイオニアのDVR-X162J、hushは当然ながら内蔵のスロットインドライブ(DVR-TS08)を使う。つまり、NASの違いだけでなく、光学ドライブとリッピングソフトも異なるということだ。
参考として、条件を揃えるため、HDDタイプのNAS(LS-WH2.0TGL/R1)からhushにコピーしたデータの比較も行っている。
HDDタイプの3機種については、微妙な差は認められるものの、基本的な音の傾向はかなり似通っている。広大で見通しの良い音場、オープンで深く伸びたローエンドなど、これまでKLIMAX DSとの組み合わせで聴き慣れたサウンドだ。
3機種のなかではコンパクトタイプのLS-WSX500L/R1がMAJIK DSとの組み合わせでも低重心の音調を再現し、ポテンシャルの高さをうかがわせた一方、LS-WH2.0TGL/R1とMAJIK DSの組み合わせは音の粒立ちが若干後退する印象を受けた。ただし、このNASは組み合わせているLANケーブルが15m以上と長く、外来ノイズの影響を受けている可能性もある。ファンの動作音がうるさいので試聴室ではなく隣室に設置しているため、どうしてもケーブルが長くなってしまうのだ。ケーブルは短い方がいいとすれば、このNASの使い方は再検討した方がいいかもしれない。
SSDを内蔵するhushの音は、他のどの機種と比べても一音一音の発音がクリアで、アタックの立ち上がりが複数の楽器間でピタリと揃っている。チェンバロやギターと弦楽器のアンサンブルや、息の速さを聴き取りやすいフルートなどでその差が鮮明に聴き取れるが、ピアノの独奏曲を聴いても粒の揃い方にははっきりとした違いが現れていた。
それぞれの楽器の音像が立体的で、前後方向の奥行き感を鮮明に描写することも、hushのメリットの一つだ。この差は、リッピング環境が共通のデータをSSDとHDDで聴き比べただけでも聴き取ることができるので、ストレージの構造に由来する、かなり本質的な変化なのかもしれない。
空間再現の精度など、予想以上に大きな差が出た背景には、セッティングの違いが関わっている可能性もある。写真のようにhushはDSと同じラックに設置しているので、振動対策の面でかなり有利なのだ。
hushはリッピング時以外はまったくの無音なので、このようなセッティングができるが、従来のNASの場合は、たとえLS-WSX500L/R1やTS-119のようなファンレス構造の機種であっても、HDDの動作音と振動が存在するので、同じような置き方はできない。S/Nの優れた環境では、ごく僅かな動作音が出ているだけでも再生音に微妙な変化を引き起こしている可能性があるし、オーディオラックに設置する場合はLANケーブルもDSと同じ長さに短縮できるので、外来ノイズの影響を受けにくいというメリットもありそうだ。
一体型のNASはパソコンの起動が不要で、思い立ったときにすぐリッピングできるため、使い勝手は格段に向上する。また、これはリッピングソフトの違いによるものだが、hushに内蔵しているdbpowerampは曲情報とカバーアートのデータ取得能力が高く、両者を正確に入手できる確率が高い。特にクラシックの海外盤では新譜も含めてかなりの高確率でデータを入手することができるようだ。
ただしdbpowerampでは、iTunesを含む他のリッピングソフトとは異なるデータベースを使っているのか、一部の国内盤では入手できない例もある。曲情報を取得できなかった場合はリッピングを中止してディスクをいったん排出する。もう一度挿入すると自動的に数字でアルバム名を割り当てるので、後で編集する必要がある。この仕組みは他のドライブ一体型NASと同様だ。
使い勝手の面では、Oliveなどストレージと再生機能を一体化した製品の方がさらに上を行くわけだが、ストレージの拡張性、複数のプレーヤーによるデータの共有などを視野に入れると、DSとドライブ一体型高機能NASの組み合わせには大きなメリットがある。それがSSDで実現できるなら音質面でのアドバンテージも非常に大きい。DSユーザーにとって、この事実は無視できないものだと思う。