福岡県水巻町の遠賀中間医師会館で6月19日に開かれた第131回患者塾。うつの見分け方や、病気との闘いでうつにならないコツなどについて専門医と話し合った。
◆心の自己診断
北九州市の32歳女性 リーマンショック以降、社員が減って今は2人分の仕事をしています。このままだと心が壊れてしまいそうです。心の検診ってないんでしょうか。
夏目さん 自己チェックの一つは、仕事や家事などが「いつも通り」やれているかです。受診するかどうかの判断基準は、普段の仕事に時間がかかるようになったり、できにくくなるなどの状態が2週間ぐらい持続したらです。時々起こるけれども2~3日か4~5日で消えるような状態は受診しなくてもいいという感じです。1回うつになった方は大体1週間をめどに考えた方がいいです。
小野村さん 夏目さんはよく「眠れなくなったら危ない」と言いますが。
夏目さん うつになりかけても、うつにならない方は夜きちんと眠れています。仕事の負荷がものすごくかかって疲労しているにもかかわらず、夜だけは眠れていると、半分うつ傾向になりかけていても本当のうつにはならない方がいます。高校生や大学生ぐらいから何か悩み事があるとすぐ眠れなくなるタイプの人は、うつになりやすいと思ったほうがいいです。
◆「がん」で落ち込み
小野村さん 検査をしたらがんが見つかった男性から「がんと知っただけで気分が沈み、すべてを悪いように考えるようになりました。これがうつでしょうか」とのお尋ねが寄せられました。
夏目さん がんと知って気分が沈むのはごく自然な悲嘆反応で、必ずしもうつ病ではありません。うつ病になっていくとしたら、夜眠れなかったり、いろいろな意欲がなくなるなど他の症状を伴います。落ち込んでいるだけで、仕事が億劫(おっくう)でもなくできる場合などはうつ病ではないかもしれません。
小野村さん うつの薬も大分変わってきていますが、最近発売された「リフレックス」や「レメロン」という薬が、今までの薬と違うところや注意しなければいけない点を教えてください。
夏目さん 不眠症を伴った比較的軽いうつの方によく効いています。ただし、合わない人は昼間眠くてだるくて仕方がないと言います。合う人は夜もよく眠れ、睡眠薬などを追加しないで単独で使えます。重症のうつの人にはあまりいい効果はありません。
◆定年後……
小野村さん 団塊世代でそろそろリタイアするかというような年代でがんなどになって、手術して元気になったけれども、もう仕事もなくて「あのまま死ねば良かった」と落ち込む人が結構います。アドバイスを。
夏目さん 一番大切なのは興味を持っていることや楽しいことをいかに続けるかだと思います。趣味や楽しみを若い時から持っておくのが大切だし、仕事が好きな人は生きがいが仕事なので第二の人生の仕事を前もって探すのがいいと思います。
心の病を巡っては苦い思いがある。かつて家族が心のバランスを崩した時、自分がその病気に正面から向き合えなかったからだ。
振り返ると、相手がうつという病気だと思いたくなくて、「少し疲れているだけだ」と言い聞かせていた。でも間違いだった。どう接したらいいか分からず、病気を学ぼうともせずに単に目をそらしていただけだった。
うつは外から見ていても理解しにくい病気だ。でも、だからこそ当事者ではない人間が相手をしっかり受け止め、病気を学ぶ「勇気」が必要だ。自戒を込めて今そう思う。【佐藤敬一】
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夏目高明さん=夏目心療クリニック(福岡市、心療内科)▽伊藤重彦さん=北九州市立八幡病院(外科)▽津田文史朗さん=つだ小児科アレルギー科医院(福岡県水巻町)
▼司会・小野村健太郎さん=おのむら医院(福岡県芦屋町、内科・小児科)
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〔福岡都市圏版〕
毎日新聞 2010年7月27日 地方版