移動に使ったヘリコプターから外を眺める金賢姫元死刑囚とみられる女性=22日午後0時53分、東京都江東区、上田潤撮影
日本政府が用意した小型ジェット機で夜明けの羽田空港に降り立ち、前首相の軽井沢の別荘に滞在、ヘリで東京都心上空などを遊覧飛行――。大韓航空機爆破事件の実行犯、金賢姫(キム・ヒョンヒ)元死刑囚の来日は異例ずくめだ。巨額の費用と人員を投じながら、拉致問題解決につながる新情報は出ていない。それでも、被害者家族は金元死刑囚の言葉に胸を揺さぶられ、希望をつないだ。金元死刑囚は23日、韓国に帰国する。
「ジェット機を爆破した北朝鮮の元スパイが日本で歓待される」「信じがたいスパイ・ストーリー」。英紙インディペンデントは東京電で、こう驚きを表した。金元死刑囚の日本での処遇を、韓国の大手紙朝鮮日報は「国賓級の歓迎」と伝えた。
来日を主導した中井洽拉致問題担当相は「パフォーマンスなら(参院)選挙前にやっている」と反論する。一方で、政府関係者は「サッカーのワールドカップが終わり、来日のニュースが注目されやすいこの時期を選んだと聞いた」と打ち明ける。
金元死刑囚の来日時期は、韓国政府との交渉で一時、5月と決まりかけたが、3月に韓国哨戒艦沈没事件が発生したため、延期されていた。
韓国の情報関係者は、哨戒艦沈没事件との関係について「事件は北の仕業だ、とする韓国の立場を日本政府が早くから全面的に支持してくれたことで、訪日実現を後押しする機運が高まった」と話す。
日本政府はすでに金元死刑囚から聴取しており、今回の来日で拉致問題の進展につながる新たな証言が得られる可能性は低いとの見方が強かった。だが拉致問題は、自公連立政権下の2008年8月の日朝実務者協議以降、交渉が止まっている。ある政府関係者は「来日は、拉致被害者家族会の政府への不満が高まるのを避けるため、家族会の要望を実現させ、世論へのアピールもねらったものなのではないか」と話している。金元死刑囚には日本政府から「謝礼」が支払われるという。