「はやぶさ」とそれまでの探査機との大きな違いは、「毎日が本番の軌道制御」 ということだ。ハレー彗星に向かった「さきがけ」「すいせい」、火星に向かった「のぞみ」などは、目的地に着くまでは、何度か行う軌道修正以外はエンジンを動かすことなく、運動の法則に従って飛行する。だからトラブルさえ起こらなければ途中の運用で行う作業は比較的単純だ。電波を受信して、探査機がどんな状態にあるかというテレメトリ・データを受信し、トラブルが起きていないことを確認し、その他到着までに行わねばならない機器の動作確認などの作業を淡々と実施すればいい。
しかし「はやぶさ」は目的地イトカワに着くはるか手前、2003年の打ち上げ当初からイオンエンジンを噴射し続けてきた。イオンエンジンを噴射し続けるということは、日々軌道が変わっていくということだ。イオンエンジンの状態に常に気を配り、予定の軌道にきちんと乗っているかを計測し、計測の結果に基づいてこれからのイオンエンジンの出力と噴射方向を算出し、コマンドを「はやぶさ」に送信する――作業量は従来の探査機と比較にならないほど多かった。
それだけではない。前人未踏の小惑星へのタッチダウンの時は、刻々と変化する状況に対して、その場でコマンドを作成して、どんどん送信していく必要があった。通信が途切れた2005年の年末には、運用に使うソフトウエアを大急ぎで組み替えねばならない事態も発生した。さらに帰還運用では、まさに満身創痍の状態であったため、工夫に工夫を重ね新たな運用方法を考案する必要があった。
7年にも及んだ「はやぶさ」の運用をNECの技術者らは、支えきった。6月13日の劇的な帰還は、2003年5月9日の打ち上げ以来、一日も休み無く積み上げられた日々の運用の結果といえる。
今回は、「はやぶさ」の軌道計画立案の時から帰還にいたるまで、軌道系の運用を担当した松岡、運用を支えた臼田局の運用設備を担当した杉浦、そして毎日の運用の最前線を担った川田、中村の4名で、「はやぶさ」の7年に及ぶ運用を振り返った。
はやぶさ探査機本体及び地球帰還カプセル再突入