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金賢姫元死刑囚:来日 早朝の長野・軽井沢騒然 羽田から厳戒の車列

 115人が死亡した大韓航空機爆破事件から23年。特別赦免を受けて以降、韓国で静かに暮らしていた北朝鮮の元工作員、金賢姫(キムヒョンヒ)元死刑囚(48)が20日、初めて来日した。今年になって、拉致被害者の横田めぐみさん(行方不明時13歳)に「会った」と公表した金元死刑囚。政府の超法規的判断で入国が許可され「新たな情報や北朝鮮の説明を覆すような情報」など拉致被害者の家族らの期待を背負い、金元死刑囚を乗せた車は長野県軽井沢町に入った。

 金賢姫元死刑囚の姿をとらえようと、チャーター機が着陸した羽田空港のVIP用ゲートには、20日未明から多くの報道陣が訪れた。二十数台の車やバイク、6、7機のヘリが、金元死刑囚の乗った車両を追い掛けた。

 金元死刑囚が乗り込んだのは、外から後部座席が見えないようグレーのカーテンがついた黒い車。この車を中心とする約10台前後の車列は、マスコミの追跡を振り切るように、関越自動車道の追い越し車線を高速で走行。左の走行車線にも、女性SPらが乗った警護車両が同じ速度で並んで走り、ガードした。

 一方、滞在先である長野県軽井沢町にある鳩山由紀夫前首相の別荘周辺は早朝から騒然とした雰囲気に包まれた。滞在先は、鳩山前首相が中井洽拉致担当相の前任の民主党拉致問題対策本部長だったことや、警備上の理由から鳩山家の別荘になったとみられる。

 出入り口の前には、午前5時前から100人近くの報道陣が到着を待ち構え、別荘の正門の前は、報道陣とカメラを手にした見物客、警察官によって車も通過できない状態となった。

 東京都内から結婚式で来ていたという会社役員の男性(74)は「町の人から『金さんが来たらしいよ』と聞いて驚いて見に来た。横田めぐみさんの両親に、たくさんいろんなことを話して元気づけてあげてほしい」と別荘を外から見守った。

 一方、近くに住む会社員、桑原靖典さん(26)は「早く静かな町に戻ってほしい」と話した。【合田月美、袴田貴行】

 ◇入国、政治判断でクリア 拉致担当相と法相「特例で」

 大韓航空機爆破事件の実行犯である北朝鮮の元工作員、金賢姫元死刑囚の来日には「入国」と「捜査」の二つの高いハードルがあるとされてきた。だが、いずれも政府の政治判断でクリアされる展開になった。

 金元死刑囚は大量殺人テロ事件の実行犯であり、出入国管理法5条が定める上陸拒否事由にあたる。そのため、中井洽拉致問題担当相が2月、千葉景子法相に特例で招致したい意向を打診。田口八重子さんに日本語教育を受けたとされる金元死刑囚の話を聞く機会を得られることは、横田めぐみさんの両親ら拉致被害者の家族にもメリットが大きいなどとして、千葉法相は上陸拒否をしない判断をした。

 もう一つの来日の障害は、87年の爆破事件当時、金元死刑囚が「蜂谷真由美」名義の偽造旅券を所持していたことから、偽造公文書行使の容疑があることだった。しかも、金元死刑囚は海外にいたため、時効は成立していない。複数の捜査幹部は「警視庁が立件の可能性を捨てているわけではない。ただ、事件から20年以上が経過している」と話す。

 こうした現状を踏まえ、中井担当相は警察庁に対し、入国後も支障がない対応を要請。警察当局もほぼ同意しており、拉致事件についての情報収集も含め、滞在中に金元死刑囚から事情を聴くことはないとみられる。

 ◇今も周囲に警護要員

 金賢姫元死刑囚は外交官の父と元教師の母との長女として1962年1月に平壌市で生まれた。平壌外国語大で日本語を学んでいた80年、工作員に抜てきされ、養成機関で訓練を受けた。「日本人化」の教育を受け、81年から拉致被害者の田口八重子さん(行方不明時22歳)と同居し、言葉や生活習慣を学んだ。日本の新聞や雑誌を読み、化粧の仕方、風呂の入り方、「瀬戸の花嫁」や映画「男はつらいよ」の主題歌なども覚えたという。

 87年、男性工作員(当時70歳)とともに日本人の親子に扮(ふん)し、バグダッド発ソウル行きの大韓航空機に時限爆弾を仕掛けた。同機はミャンマー沖で爆発、115人全員が死亡。金元死刑囚は韓国に送られた。死刑判決後「実質的な主犯は金日成(キムイルソン)・金正日(キムジョンイル)親子」として特別赦免を受けた。自伝「いま、女として」は大ベストセラーに。

 97年、自身の身辺警護についていた男性と結婚。関係者によると、現在は韓国の地方都市で、夫と小学生の1男1女とひっそりと暮らしているという。

 今年1月、日本人拉致被害者の横田めぐみさん(行方不明時13歳)に「(北朝鮮で)会った」と公表した。日本政府関係者によると「以前からその話は聞いていたが、本人が『誰かが北朝鮮で危害を加えられることになったら大変なので、伏せておく』と言った」という。「本人も希望している日本行きがなかなか実現しないので、焦っているのではないか」と推測していた。

 今春、ソウルを訪れた際の金元死刑囚は、色白で眼鏡をかけた物静かな印象だった。周囲には警護要員が待機しており、今も厳重な警戒態勢下に置かれていることをうかがわせた。【ソウル西脇真一、合田月美】

毎日新聞 2010年7月20日 東京夕刊

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