2006-09-14 17:07:26

泥水ワイン、わたしの反論

テーマ:ジュブレ・シャンベルタン
前の記事からの続き。
仕事でもたもたとしているうちに、わたしが敬愛する飲み手の方々から、鋭いコメントを
頂いてしまった。ooisotaroさんの、
「ふむふむ・・・ほほぉー、へぇー・・・」
に続いての、「コメントを差し控えます」というコメントを読んで、笑ったのはわたしだけ?

ファインズからのご丁寧な報告書を手にして、わたしは感心したかというと、まったく逆である。
正直言って「アホちゃうか」と思った。

なぜなら、最初の苦情のメールでも、「怒りの泥水ワイン」の記事の中でも、
「これはまるまる1本澱だった」という趣旨のことを伝えてある。
それなのに、ぬけぬけと「酸化のせいだ」などと書いてくるとは・・・

これらの報告書は、
「ドメーヌは模範的な方法できちんとワインを造っている」
「より自然なワインを造りたい、という目的で、最小限の亜硫酸しか使用しなかったために
 酸化が起こってしまった結果、このワインはあなたの満足のいくワインではなかった」
と書いている。

これは、報告書の体裁を取った、ドメーヌに対する擁護文である。
インポーターが、消費者と生産者のどちらを大切に思っているのか、そこから垣間見える気がする。

わたしは最初のブログでこう書いた。
「ベッタリとボトル壁に付着した澱。・・・中略・・・
 芳香を放つのはコルクだけで、グラスに注いだ泥のような濁った液体からは、腐った雑巾のような
 異臭が漂う」

このワインは澱が多かった、のではなく、ボトルの中には澱しか入っていなかったのである。
クレームのメールでも、そのことははっきりと伝えたのだが、受け取った報告書では、
その「事実」がすっぽり無視されている。

そして、報告書では、いかにもワインが造られた過程とその後の輸送・保管状況につき、
詳しくレポートされているように見えるが、要はドメーヌには責はない、という弁解が
書かれているだけで、目新しい事実などは何も述べられていない。

「お客様の満足を得られなかったワインでありましたことをお詫び申し上げます」
という表現があったのだが、これにも問題がある。
いかにもわたしの主観に責任を押しつけたような表現であり、非常に心外であり、失礼である。

わたしが満足するかどうか、という問題とすりかえるというのなら、論外だ。
そんなにこのワインが、ドメーヌのミスによる不良ワインだ、と認めたくないのだろうか。
まさに、結論先にありき、の報告書である。

繰り返すが、このワインの瓶の中には、澱しか入っていなかったのである。

「亜硫酸が少ない結果、酸化が進んで濁った」
のが事実であるなら、digiengelさんがおっしゃるように、現在残っているこのワインのすべてが、
同じように濁っていてもいいはずだし、世の多くのビオワインも濁ったものだらけになるだろう。
しかし、わたしの手元にあるもう1本の同じワインは、澱は壁に付着しているが、濁ってはいない。
これをどう説明するのだろう。

さきほど、このブログを読んで下さったワインに非常に詳しい方から、個人的にコメントを頂いた。
本人に断り無く、ここに1部を引用する。
「ボトル一本すべて澱と云うことですか、フィルター無しで瓶詰めをしていて、よそ見しながら
 作業をしているとこんなことが実際に起こり得ます。しかし普通裏ラベルを貼るときとかに
 見つけられるはずなのですが」

まさにぴのほりさんが書いておられることと同じである。

先日電話でファインズのT氏と話したときに、
「樽の底の澱の部分を瓶詰めしてしまったとわたしは考える」
とはっきり伝えた。そして、
「故意にとは思いたくないが、ブルゴーニュの生産者には日本市場を舐めている輩がいるかも
 知れない。インポーターとしては、われわれ消費者のために、十分注意して欲しい」
とも偉そうに言っておいた。

T氏は、
「このドメーヌとはクルチエを通じての取引で、これまで直接接触していないので、
 今後はドメーヌを訪問するなどして注意したい」
と返答された。その言が実行されることを期待したい。

それにしても、残ったワインを送り返しているのに、このワインが不良であった原因を、
インポーターはなぜきちんと指摘できないのであろうか。
酸化以外の可能性を列挙して報告してもよさそうに思うのだが。
澱が瓶詰めされた、という可能性を、インポーターは一度も指摘していない。
わたしが一番失望したのはこの点である。

ドメーヌのミスである、と認めない理由はいくつか考えられる。
1)事実を把握する能力がない
報告書には、「サントリー品質保証推進部安全性科学センター」の分析結果が載せられていた。
これでもわたしは、超1流の研究室で約7年間の研究歴がある。
ごたいそうな「○○科学センター」などという名称のご威光など、屁とも思っていない。

それより、酸化でこうなると本気で信じているとしたら、この科学センターの沽券に
かかわるのじゃないか。
ファインズには、ちゃんとしたワインの飲み手は、誰もいないのだろうか?

2)事実を把握しているが、消費者に公表したくない
ならば、よけいにたちが悪い。
こんな内容の報告書で、はいそ~ですか、と納得すると思っているとしたら、
わたしを見くびっているとしか思えない。
もうちょっと、ちゃんとこのブログを読んでいただきたいものだ。

3)会社のマニュアルに、生産者を擁護すべし、とある
事実を隠蔽してでもそうするというなら、消費者無視もはなはだしい。

ファインズは、小手先の策を弄して墓穴を掘ってしまったように思われる。
こんなうるさくて理屈っぽいブルゴーニュ飲みに引っかかったことはお気の毒ではある。

しかし、こちらとしては、謝罪されるような話ではなく、感謝されるべき立場ではないか、
と思っている。
苦情を言って補償を求めるのが目的ではない。
このブログでも、いろいろコメントをいただいてわたしも勉強になった。

いくらクルチエやインポーターが持ち上げても、たった1本のワインのおかげで、
このドメーヌの信用は、わたしの中で失墜した。
あのミシェル・グロなら、きっとこんなヘマはやらないだろう。

実は、ドルーアン・ラローズのシャペル・シャンベルタン1998でも、同じことを昨年経験している。
以来、その1本以外にも、このドメーヌにはいろいろ問題があることに気がついた。
そうやって、ドメーヌの評価は定まっていくのではないだろうか。
インポーターが、それを望むか望まないかにかかわらず。

ファインズの担当者が、直接やって来る、という話もあるので、また後日談があれば報告する。
わたしは文章を書くより、ディベートの方がはるかに得意である。
お気の毒です、担当者の方。

コメント

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1 ■痛快!

もし、フランス語の通訳がご必要なら
ひとり適任の男を知っています。
彼はヒマですので、いつでもお役に立てるかと。

2 ■せっかくのお申し出ですが

余計にトラブりそうな気がするので、その方の通訳はご遠慮申し上げます(笑)。

3 ■いや、素晴らしい。

非常に勉強になりました。
日本は馬鹿にされてるかもしれないという意見は非常に貴重だと思います。
多分、やられてますよ。野性の勘ですが。
消費者がへらへら笑ってる日本人はだめなんですね。
こうやってクレームをちゃんと言う日本人を同じ、日本人がうるさい人がいるもんだねー。っと言って笑ったりしますが、最悪の出来事です。
お前が馬鹿にされとるんや!って大声で耳元で叫びたい。

これからもガツンと言ってやって下さい。
そして共通の敵は誰かをわからせてやってください。

ところで、みなさんなぜきちんとした文章書けるのでしょうか?

僕は大体酔っ払って書いてるので、後で読むとああーって思います。

2002パカレ、白もやばいんですね・・・
頑張れ!パカレ!

ところで皆さんは2006ヌーボー買うのでしょか?
僕は全部見送りましたが・・・

4 ■すごいです!

ニュースを見ても、仕事上でも、よく思うことなんですが、納得させたもん勝ち、納得しちゃったもん負け、みたいなところがあるような気がします。

広くは法律に至るまで、全てが解釈の世界で、その正当性をうまく言いくるめてしまったものが勝っちゃうようなところが感じられ、さて本当は何が正しいのかを見失っちゃうようなことがあるような気がします。

丁寧そうに見える報告書を鵜呑みにするんじゃなく、自分なりの正当性をちゃんと確認して組み立てないといけないですね。

お得意のディベートでガツンといっちまってくださいませ。 期待しております。

個人的な印象としては、皆さんが言っておられるように、これは酸化で説明できるものではないように思います。ドメーヌを擁護しているようで、ドメーヌの評判を全体的に落としてしまう結果をもたらしてしまうような報告にも聞こえます。

5 ■>MAEDAさん

こんばんは。
今回のクレームは、少なくともクルチエのところには届いているようですので、
日本にも、ちょっとはウルサイ奴がいる、くらいのことは分かったと思います。

ところで、ブログにかかわらず、論文や記事を書いているときは、わたしは必ず酔っています。
ですので、シラフの時にもっとまともな文章が書けるのか、それともまるで文章にならないのか、
自分でも分かりません。
おそらく後者だと思います(笑)。

6 ■Wakoさんこんばんは

この報告書のように、不必要なまでにドメーヌを擁護しているように思われると、
かえって不自然に思ってしまいますね。
送り返したワインは、残りも少なかったし、開栓後1週間経ってから向こうに届いているので、
わたしが開栓してからも酸化が進んでいるはずです。
だから、そこから開栓時のことを遡って評価するのは難しいのかも知れません。
しかし、分からないなら分からないと正直に言えよ、と言いたくなります。
ま、ブログで反論されるとは思っていなかったのでしょうが。
このブログの内容、もちろん向こうには伝えますが、ここに来てくださる方々には、
相当なワイン飲みがおられる、というのが分かったことが、大きな収穫ですね。

例の美人姉妹のワイン、明日届きます♪

7 ■興味深く拝見しています

griotteさん、こんにちは。
ここ数日、今回の話を興味を持ってみています。
「澱」しか入っていなかったという記述は「すごい!」と驚きましたが、世の中理解のできないことが時々起こりますから、本当のことと思っています。
ブショネはたま~に出くわしますけど、どうにも理解しがたいワインに一度だけ出会ったことがあるので、今回の話は私には現実味がものすごくありますよ。私の場合は(どうしたらこんなに焦げた香りと味になるんだ!)という代物でしたが。飲めずに捨てました。

今回の対応、私が思うにビジネス的にブルゴーニュが売り手市場でドメーヌとは問題起こしたくないというのが関係しているように想像してしまいました。実際は他にも理由があるのかもしれませんが...

8 ■金だけ返してもらえばいいのでは

wine-dokuganryuさんが言っているように、ブルゴーニュが売り手市場でドメーヌとは問題起こしたくないというのが本音でしょう。ドメーヌも「やっちゃったか!」ってなもんで、直す気はないし、サントリーがあまりにうるさく言うのならわかってるね。。。おたくとやめるよということで、終わりでしょう。サントリーも流通でたいした管理はしてないと元サントリーの人間が言ってたし。。。

9 ■ごぶさたです独眼竜さん

最近突然復活されましたね。
今回のワイン、確かに腐臭もありましたし、澱のフラクションの上に、ブショネも重なっていた、
という可能性もあるかも知れません。
要は、残ったワインを送り返しても、開栓時の状態は正確には分からない、ということでしょうか。

インポーターやクルチエが、ドメーヌと問題を起こしたくない、というのはそうかも知れませんが、
われわれシロウトには分からない世界ですね。
しかし、消費者を舐めているような商売など、いつまでも続くはずはない、と思います。
品質があまりに安定しない造り手は、わたし自身リピーターにはなりませんし。

10 ■hanzomonさんごぶさたです

せっかくこんな面白いワインに出合ったのだから、お金だけかえしてもらっておしまい、なんて
もったいないじゃないですか。
こちらにしたら、くそまずいワインに出合っただけで、金銭分の損害以外に、もちろん健康被害があったわけではありません。
わずか1本のワインですが、消費者のクレームに、ここまで対応する姿勢がある、と分かっただけで、
面白かったですね。
こちらは本気で怒っているわけでもなく、楽しんで文句つけているのですが、
向こうは仕事ですから、ちょっと申し訳ない気もします。
このクレームを受けて、サントリーが本気で造り手に文句を言うとも思えないし、
今後はだまされないようにしよう、とか
思ってくれれば、いいのかな、と思っています。

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