きょうの社説 2010年7月27日

◎新幹線延伸の是非 これ以上の先送りは許されぬ
 整備新幹線の延伸をめぐり、前原誠司国土交通相が結論を来年度政府予算の概算要求後 に先送りする意向を示したのは残念と言うしかない。北陸新幹線金沢−敦賀など未着工3区間については、速やかに新規着工の是非を検討した上で、必要な区間の建設費は概算要求にしっかりと盛り込み、できることなら今年度予算の留保分を活用して年度内に着工してほしいというのが、石川、富山など沿線自治体の共通の願いだった。

 おそらく、次の「節目」は来年度予算案が決まる年末になるだろうが、沿線自治体との 信頼関係を損なわないためにも、これ以上の先送りは許されない。関係者にはあらためて議論のスピードアップを求めておきたい。

 前原国交相の結論先送り発言を受け、民主党の沿線国会議員でつくる「『整備新幹線』 を推進する議員の会」は、延伸を実現するための申し入れを実施することを決めた。与党の議連としてはいまだに頼りなさも目立つが、沿線自治体にとっての「頼みの綱」の一つであることも確かだ。関係者に繰り返し、沿線自治体の意思を伝えてもらいたい。

 延伸論議の最大のネックとなっているのは財源だろう。協議の場として設けられた国交 、財務、総務省の政務官による整備新幹線問題調整会議はこれまでに10回も開かれているものの、まだ財源に関する具体的な議論は行われていない。財源は着工の是非を判断するに当たっての最重要ポイントであり、ここに逃げずに踏み込んで、壁を乗り越えなければ、この後どれだけ会合を重ねても、何も決めることはできない。

 財源に関して、沿線自治体は事業仕分けで「国庫返納」と判定された鉄道建設・運輸施 設整備支援機構の利益剰余金1兆3500億円を活用するよう提案し、国交省もその方向で検討を始めているようだが、財務省は依然として慎重とされる。剰余金はいわゆる「埋蔵金」であり、国の借金返済などに使われては、チャンスは永遠に失われてしまう。沿線自治体と国交省、さらに議連が連携して財務省の説得に努めてほしい。

◎予算概算要求 「政治主導」を貫けるか
 2011年度政府予算は、民主党が初めて一からつくり上げる予算であり、8月末まで にまとめる概算要求は、参院選で疑問符がつけられた政権担当能力を見極める試金石となる。

 党内には昨年の衆院選マニフェストへのこだわりもみられるが、財源のめどが立たない 公約が混乱を招いたことを考えれば抜本的な見直しは避けられない。6月に新たな成長戦略をまとめたからには、全体の中で公約の優先順位が変わるのは当然である。予算編成では「強い経済」への具体的な道筋を示してもらいたい。

 政府が原案を了承した概算要求基準では、「1兆円を相当程度超える額」を成長戦略な どに充てる特別枠とし、社会保障費などを除く政策経費を、要求段階から10年度に比べて一律10%削減するよう全省庁に求めることが盛り込まれた。昨年度の予算編成で基準を設けず、歳出が大幅に膨らんだことの反省からだろう。

 だが、一律削減は財務省が主張していたもので、民主党が繰り返してきた「総予算の組 み替え」に沿えば、省庁の縦割りを超えて思い切って予算を配分し直すことが大事である。本来なら予算の骨格を策定するはずだった「国家戦略局」構想も頓挫し、政治主導で予算をつくる道のりは険しくなったと言わざるを得ない。

 特別枠も決して目新しい手法でなく、自民党政権時代はさまざまな口実をつけて省庁が 予算を奪い合う場面がみられた。特別枠の配分は「政策コンテスト」で公開して決定するというが、みせかけの政治主導にしないためにも菅直人首相の指導力は極めて重要である。

 歳出の大枠については10年度と同水準の71兆円に抑え、新規国債発行額も10年度 の44兆円以下にとどめる。1・3兆円の社会保障費の自然増も容認し、予算編成は極めて難しい作業になるだろう。

 首相の消費税引き上げ発言などで、増税に逃げ込む安易さが今から生じているとすれば 、道半ばの歳出改革は中途半端に終わる。民主党は「無駄を徹底的に削減する」という原点に戻り、今度こそ政治主導を発揮してもらいたい。