池田信夫 blog

Part 2

2011年7月24日、アナログ放送の終了する予定の日まで、あと1年になった。総務省は「地デジ最終年総合対策」を発表したが、ちょっと待ってほしい。「地デジコールセンター」の1000人のオペレーターの給料は、どこから出るのか。「経済困窮世帯」に配布される270万台のチューナーの財源も税金だが、これは「周波数移行にともなう補償は行なわない」と定めた電波法に違反するのではないか。

アナログ携帯電話がデジタルに移行したときも、第2世代が第3世代に移行したときも、携帯電話会社は1円の税金ももらっていない。すべて彼らがコストを負担したのだ。当たり前だ。それによる利潤も彼らが100%とるのだから、経費もすべて負担するのが資本主義というものである。ところが『新・電波利権』にも書いたように、放送業界は「アナアナ変換」の1800億円をはじめとして、政府に累計3000億円以上の補助金をもらう一方で、利潤はすべて自分のものにする。

ASCII.jpにも書いたことだが、「来年7月までに100%地デジ化が完了する」などという総務省の宣伝は嘘であり、少なくとも500万世帯が取り残されるだろう。特に関東地方では、UHFアンテナの普及率は50%以下なので、チューナーだけ配っても地デジは映らない。このままでは来年の今ごろ、大パニックになることは必至である。

かといって、アナログ放送停止の延期を求める提言には賛成できない。日本の電波はきわめて逼迫しており、UHF帯のアナログ局を立ち退かせて300MHz空けることは緊急の課題だからである。UHF帯が開放されれば携帯端末の帯域は倍増し、新しい産業が創出される。700MHzやVHF帯をオークションにかければ、1兆円以上の国庫収入が上がる。しかしホワイトスペースを開放しないのなら、停波する意味はない。電波開放がアナログ停波の絶対条件である。これは何度でも強調しておきたい。

きのうの原口総務相の会見では「アナログ放送が止まったら災害報道はどうするのか」という質問に原口氏が答に詰まる場面もあったようだが、これは心配ない。地デジは放送衛星で同時放送しており、災害のときはB-CASのスクランブルをはずすことになっているからだ。逆にいうと、このBS放送にスクランブルをかけなければ、地デジは最初から必要なかったのだ。

・・・といった話をきのうマル激トーク・オン・ディマンド(今夜放送開始)でしたら、業界人の神保哲生氏でさえ「え?スクランブルってどういうこと?」と驚いていた。宮台真司氏は「こういうひどい状態を追及すべきメディアがそれを隠す側になっているから、鍵の入った箱に鍵がかかっているようなもの」とうまい比喩で語っていた。この「不思議の国」への鍵をあけるのは、テレビと新聞以外のメディアしかない。それはまだまだ遠い道だが・・・

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コメント一覧

  1. 1.

    通信手段のインターネットが使えないと困る事は多そうですが、単なる娯楽のテレビが見られなくても困る事は無さそうです。

  2. 2.
    • worldcomw
    • 2010年07月24日 07:30

    関東地方の集合住宅で改修率が低いのは、送信所の移転状況を(生暖かく)見ていたからでしょう。結局アナログ停波に間に合わなかったわけですが、もし私が零細賃貸のオーナーなら、スカイツリーから送信されるまでは適当にごまかして二重投資を避けようとするでしょうね。
    放送局は被害者ヅラをしていますが、自らの意思決定の遅さで混乱に拍車をかけています。

    ただ、実際にはパニックにはならないんじゃないでしょうか。もちろんテレビや新聞は大騒ぎするでしょうし特定の団体も煽るでしょうが、普段からテレビ漬けで無くなって困るような人は、ちゃんと申請して対応するでしょう。

    災害報道とスクランブルの話はよくわかりません。スクランブルが不条理なのはわかりますが、スクランブル無しにするとデコード遅延が減るんでしょうか。地デジもスクランブル無しに出来ますよね。
    緊急放送識別子の話もありますね。既に実装済みなんでしょうか。遅延の少ない低レベルの階層に入るんでしょうか。
    全てが泥縄式で、監督官庁が存在する意味が無いように思います。

  3. 3.
    • koala447
    • 2010年07月24日 08:01

    災害放送時の地デジのスクランブルについて、実際地震が起きた際にB-CASを引っこ抜いてテストしてくれた方がいます。

    http://takoheya.at.webry.info/200508/article_17.html (2005年8月 NHKはスクランブル自体は解除されている)
    http://takoheya.at.webry.info/200611/article_15.html (2006年11月 前年と状況変わらず)
    http://takoheya.at.webry.info/201002/article_16.html (2010年2月 NHKすら映らなくなった(画像右下))

    民放は災害放送時にスクランブルを解除するというお約束は無いそうなので頼りはNHKになりますが、直近の事例ではNHKもB-CAS無しでは映らなくなっているようです。

  4. 4.
    • アンチ巨人、アンチナベツネ
    • 2010年07月24日 12:41

    本当に電波利権の実態に池田先生が触れてくださるたびに、怒りを禁じえません。しかし、他の多くの論者、政治家はなぜ語られないのですか。或いは携帯業者のトップは?経済的な問題のみならず、ひきこもりや、自殺の増加だって電波の寡占、価値観の多様化がなされないことが大きな原因でしょう。みんな、わかっているのに。どれだけ曲がったことが嫌いな人でも、ヤクザがバスの順番に割り込んだら注意しにくいですよね。誰もテレビ局の実態に見て見ぬふりをするのは、そういうことなんでしょうか。どうしたら、少しでも改まるのでしょう。また諸外国ではどうなっているのでしょう。電波利権は読みましたが、新電波利権は、電子図書なので、まだ読んでおりません。

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