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天声人語

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2010年7月21日(水)付

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 梅雨が明けて、漬け込んだ梅を土用干しにした。ご承知のように梅は塩加減が肝心だ。多くすればかびる心配はないが、酸っぱいよりしょっぱくなる。かびず腐らせず、すれすれに抑えて作るのが、言うなれば塩梅(あんばい)の妙である▼字は異なるけれど、こちらも「絶妙の案配(あんばい)」だったと参院議長の江田五月氏が小紙で語っていた。衆参で多数派がねじれた参院選の結果のことだ。江田氏ばかりでなく、「国民の示した絶妙のバランス感覚」と評する声は多い。民意は政治を、ふさわしい緊張の中に漬け込んだようだ▼民主党は負けたが、得票を分析すれば、負けていないともいえる。逆もまたしかりで、自民党も勝ったとは喜べない。勝たせず、負かさず。そして与党から「数」という剣を取り上げた。民意の塩加減である▼これからの与党は「聞く耳」を持たねばならない。難渋は見えている。だが、重要な法案がろくな議論もなしに通るよりはいい、という人は少なくあるまい。安易な員数合わせに走るなら、さらなる失望を招こう▼自民も、意趣返しとばかり何でも反対では器が知れる。そのあたりを国民は見ている。「もっともよい復讐(ふくしゅう)の方法は自分まで同じような行為をしないことだ」。古代ローマの哲人皇帝マルクス・アウレリウスの言は、今のこの党には金言だろう▼昔の中国では、君主を助けてうまく政務をさばく者を「塩梅(えんばい)の臣」と呼んだそうだ。主権在民の今、君主に代わる仕えどころは国民となろう。かびず腐らず、ねじれの中から「塩梅の政治」は生まれないか。

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