アジア班の増谷です。
今月号のクーリエの第2特集は、久しぶりの「音楽ビジネス」。これまで音楽ネタは、本誌のビジネスコラムや各国のカルチャーニュースのなかで折に触れて取り上げてきましたが、特集でやるのは、(本誌バックナンバーをあさりながら……)
じつに2008年3月号以来。なんと約2年半ぶりです!(時が過ぎるのは早いものです)
その間、海外では斬新な発想で次々と新しいサービスが生まれ、音楽業界も大きく変化しました。そして、日本では“構造改革”が遅れながらも、ようやく最近は変化の兆しもちらほらと見え始めています。そんな音楽を取り巻く環境を、私たち、音楽ファンやリスナーの視点から見つめなおしてみました。ご期待ください。
さらに、今月号は特別付録として、「iTunes Card付き」です。本誌を読んで気になる曲をどれでも1曲、≪無料≫でダウンロードできちゃいます。こちらもお楽しみください!
さて、前置きが長くなりました。今回の特集では、『ツイッター社会論』で話題のジャーナリスト、津田大介さんにインタビューをしました。(本誌9月号119ページ)
津田さんというと、とかく最近はツイッターのイメージが強いかもしれませんが、古くからの熱狂的音楽マニアで、2004年に出された著作『だれが音楽を「殺す」のか?』では、日本の音楽業界が抱える問題に舌鋒鋭く迫っています。音楽ビジネスとデジタル環境について語らせれば、津田さんの右に出る方はいないでしょう。そういうわけで、今回は津田さんに改めて、欧米とは状況がかなり異なる、日本の業界の特殊な事情について話を聞いてきました。
誌面の都合で本誌に掲載できなかったインタビューの続きを、このブログで2回に分けてお伝えします。
(@tsuda)
ジャーナリスト。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒業。音楽やネットの最新動向に詳しく、コメンテーターとしても活躍。著作に『だれが「音楽」を殺すのか?』(翔泳社刊)、『Twitter社会論』(洋泉社刊)など。
——今後、日本で伸びていきそうな音楽配信関連のサービスはありますか?
やはり、USTREAMじゃないでしょうか。「原盤権」を崩したというのはすごい(原盤権とは、音源そのものに対する権利のこと。本誌参照)。アーティストが自分たちのライブをUSTREAMでどんどん流すようになっている。これに送金機能をつけてユーザーから直接アーティストにお金が流れるようしたら、アーティスト側の新しい収入につながる。
日本の場合、米国の音楽ビジネスとなかなか比較できないのは、レンタルの問題や着うたの問題があるから。そしてもうひとつ、いちばん大きいのは、ライブの問題なんです。クーリエでも以前特集していたように(※本誌2008年3月号)、米国ではライブビジネスがものすごく伸びている。アーティストがライブで食べていける時代、逆に言えばレコードビジネスではなくライブでしか食べていけない時代になっているとも言える。でも、日本にこの流れが来るかというとそれは無理。たとえば渋谷の1000人収容できるライブハウスを満杯にしても、1回のライブでバンドには純粋な上がりとしては10万円くらいしか入らない。
——残りのお金はどこにいくんですか?
ライブハウスの場合、まず箱代が高いんです。さらにPA代や照明代など、全部とられてしまう。でもライブハウスって、基本的に飲食代でペイできているんです。チケット代にプラスして、ドリンク代もとっているでしょ。だからお客さんが入れば、基本的にドリンク代で損益分岐点は越えているというのに、それ以上のお金をとろうとする。そういう文化がデフォルトとして日本のライブハウスにはある。
かつて、日本の音楽ビジネスではCDを売る、レコードを売るというのが中心だった。だからCDを売るために、レコード会社が中心になって赤字でもアーティストにライブをやらせる。それがライブの位置づけだった。
あとは、最近フェスもすごく盛り上がっていますが、こういうフェスでも、日本人アーティストは一部を除いて出演料がものすごく安い。そういうことも含めて日本ではライブで儲からない構造になっている。
——米国ではどういう状況なんでしょうか?
米国の場合、どちらかというとライブハウスみたいなところって、バーとか飲み屋なんです。その延長として、バンドが出演する。どんなバンドでも、演奏すればギャラがもらえる。でも日本にはライブハウスがいっぱいあるけど、小さいところはだいたい「ノルマ制」。出演バンドにチケットをあらかじめ一定枚数買い取らせることで、ライブハウスが損をしない仕組みになっている。
これだけ不況とか言っているけど、20~30年前に比べて、都内のライブハウスの数は倍くらいに増えているんです。場所を提供する側がつぶれにくいという構造があり、そのツケをアーティスト側が払わされてきた。かつてはレコード会社がアーティストのライブを金銭的に支援していたからそれでもよかった。でも、いまはレコード会社にもそんな力はない。
だから日本のそういう状況でアーティストがいざライブって食っていこうって言ったってムリなんです。1回のライブで客を1000人集めても10~20万円くらいしか稼げない。バンドメンバーで割ったら、たとえば1人5万円とかです。もちろんそこにいたるまでに何度もスタジオに入ってリハーサルをするわけだし。本当に飲み代に消えるって話ですよ。
もっとも、最近はそういう状況も少しずつ変わってきていて、「ライブのできるカフェ」で演奏するアーティストが増えています。カフェに演奏できるスペースが併設されているんです。そこでたとえば50人客を集めれば、お客さんのチャージ代で5~6万円くらいはアーティスト側に入る。そうするとギター1本もって、弾き語りをしながら全国を回ったほうがよっぽど食べていけるという話になる。お店としても客が増えるというメリットがありますし。
ネットと音楽というところに話を戻すと、さっきの「USTREAMで送金」という話は、ライブそのもので稼ぐのは厳しいというアーティストでも、じつは食べていけるということなんです。そのライブをネットで見て感動したユーザーから送金を受け取れるなら、じつはライブハウスで頑張ってやるよりも、利益率が高くなる。だって、送金された分は100%アーティストの収入になる、なんてことも可能なわけですから。そういうアーティストとファンのマッチングの形がこれから変わっていくかなという期待はしています。
>この続きは、8月2日(月)に当ブログに掲載します。ご期待ください。
激変する音楽ビジネスに迫ったクーリエ2008年3月号
クーリエ最新号(2010年9月号)の音楽特集
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