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SS「ドーリア星域会戦のIF」

宇宙歴797年、帝国歴488年5月18日、ドーリア星域会戦開始に先立ち、同盟軍第13艦隊旗艦ヒューベリオンの艦橋では、艦隊司令官ヤン・ウェンリー提督が、麾下の全軍に向けて演説を始めていた。
「司令官のヤン・ウェンリーです。皆、そのまま聞いて欲しい。間もなく、戦いが始まる。碌でもない戦いだが、それだけに勝たなくては意味がない。勝つための算段はしてあるから、無理をせずに、気楽にやって欲しい。掛かっているのはたかだか国家の存亡だ。個人の自由と権利に比べれば大した価値のあるものじゃない。それでは皆、そろそろ始めるとしようか」
それを聞いた兵士達から、一斉に歓喜の声が上がった。

兵士A:「さっすが、ヤン提督。はなせるぅ~~!!」
兵士B:「いやぁ~ホント、マジで俺、13艦隊でラッキー♪」
兵士C:「本音言うとさぁ、やっぱ、死にたくないし、祖国の為に命かけろとか言われちゃったら、どーしよーかと思ってたんだ」
兵士D:「だよなー、司令官が『個人の自由と権利』を尊重してくれる人でほんとによかったよ」
兵士E:「そーだよなー、たかだか『国家の存亡』の為に戦うなんてバカバカしいよなー」
兵士F:「じゃ、私も司令官のお言葉に甘えさせて頂いて、帰ったら友達と温泉にでも行こうっと」
兵士G:「俺も久しぶりに家族サービスだな」
兵士H:「俺は彼女と久々のデート♪」
艦長:「あ、それなら私も、『個人の自由と権利』で抜けさせて頂くことに・・・」

こうして、第13艦隊の将兵は、次々と戦場を離脱していき、ヤンが気づいた時には、既に戦場には戦闘可能な兵力は残っていなかった。
救国軍事会議のクーデターに賛同した第11艦隊は、戦わずして勝利し、同盟の内戦は、更に昏迷の度合いを深めていくのだった・・・

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コメント一覧

S.K Eメール 2009年09月13日(日)13時22分 編集・削除

>兵士A:「さっすが、ヤン提督。はなせるぅ~~!!」
>兵士B:「いやぁ~ホント、マジで俺、13艦隊でラッキー♪」
>兵士C:「本音言うとさぁ、やっぱ、死にたくないし、祖国の為に命かけろとか言われちゃったら、どーしよーかと思ってたんだ」
>兵士D:「だよなー、司令官が『個人の自由と権利』を尊重してくれる人でほんとによかったよ」
>兵士E:「そーだよなー、たかだか『国家の存亡』の為に戦うなんてバカバカしいよなー」
>兵士F:「じゃ、私も司令官のお言葉に甘えさせて頂いて、帰ったら友達と温泉にでも行こうっと」
>兵士G:「俺も久しぶりに家族サービスだな」
>兵士H:「俺は彼女と久々のデート♪」
>艦長:「あ、それなら私も、『個人の自由と権利』で抜けさせて頂くことに・・・」

そこまで口を噤んでいたとある兵士が言葉を発した。
「それで貴官らは個人で『救国軍事会議の軍国主義下』で『自由を満喫する算段』がある訳だ、いや実に羨ましい。気にするな、別に報告はせんよ?小官は『大量脱落者の出た艦隊』で『信頼に値する有能な指揮官』を何とか勝たせてその上での『多少マシな自由』を味わって
過ごす算段で忙しいのでね」

その兵士が去った後、兵士達は無言で顔を見合わせ、やがて粛々と持ち場に帰った。

Jeri Eメール URL 2009年09月14日(月)16時53分 編集・削除

同日同時刻、同盟軍第11艦隊旗艦レオニダスの艦橋では、第13艦隊との決戦を前に、司令官ルグランジュ提督の演説が、全艦隊へ向け流されていた。

「全将兵に告ぐ! 救国軍事革命の成否、祖国の興廃はかかってこの一戦にある。各員は全身全霊を挙げて自己の責任を全うし、もって祖国への献身を果たせ。この世で最も尊ぶべきは献身と犠牲である。憎むべきは臆病と利己心である。全員の祖国愛と勇気に期待するや切である!」

兵士A:「えぇぇっーーーー?! 魔術師と戦えってぇ~~?」
兵士B:「冗談だろーー?」
兵士C:「ってか、俺、別に救国軍事革命に賛同した覚えないんですが・・・」
兵士D:「俺もたまたまここに配属されただけだしぃ~・・・」
兵士E:「俺なんか13艦隊に弟いるし」
兵士F:「俺も13艦隊に友人が・・・」

その時、通信兵が、ヤンの演説を傍受した。

兵士A:「おい、なんかあっちの方がよさそうだぞ」
兵士B:「俺も『献身と犠牲』より『個人の自由と権利』の方がいいや」
兵士C:「うん、俺、あっちへ投降する。同じ同盟軍だし、敵前逃亡とかにはならないよな?」
兵士D:「俺も投降しようっと♪」
兵士E:「俺も」
兵士F:「俺も」

かくして、第11艦隊は、今時の若者気質を読めなかった司令官の無闇に軍国主義的演説のせいで、大量の投降者を出し、戦わずして已む無く戦線を離脱した。
こうして、第13艦隊は、ヤンの本人にも自覚のなかった名演説のおかげで、一兵も損なうことなく勝利を収めた。
ミラクル・ヤンの常勝神話に、また新たな一頁が加わった。


こっちの方がありそうですかね?>笑
それにしても、ヤンも非ヤン派も、同盟の方々って、思いっきり民主主義を履き違えてる気が・・・

S.K Eメール 2009年09月14日(月)19時13分 編集・削除

>かくして、第11艦隊は、今時の若者気質を読めなかった司令官の無闇に軍国主義的演説のせいで、大量の投降者を出し、戦わずして已む無く戦線を離脱した。
>こうして、第13艦隊は、ヤンの本人にも自覚のなかった名演説のおかげで、一兵も損なうことなく勝利を収めた。
>ミラクル・ヤンの常勝神話に、また新たな一頁が加わった。


>こっちの方がありそうですかね?>笑

ありそうかはともかく、第11艦隊が無傷で残ると、ランテマリオ会戦でヤンが同盟艦隊敗北前に到着、という同盟においしい展開が期待できるのでリンチとフォーク以外の救国軍事会議の皆様も草葉の陰でさぞ本望なのではありますまいか(笑)。

まあ実情はむしろ以下かと思うのですが。

>その時、通信兵が、ヤンの演説を傍受した。
兵士全員の顔色が変わり周囲に暗黒の瘴気が渦を巻いた。
「……手前が全員身内の要塞にいるからって頭に乗りやがって、あのボンクラ。俺の息子はなあ、ハイネセンの小学校で先公が率先して『ハイ、この子はアムリッツァでバカやって国を貧乏にした軍人の子供ですよー』って毎日泣かされて帰ってきてたんだ。クーデターのドサクサであの先公とクラスのクソ餓鬼どもを爆殺してやった時の爽快感だけでも俺は救国軍事会議に最後までつきあうぞ!」
「ああ、俺の家の電気止めやがった電力会社の担当を泣いて命乞いさせてから射殺してやれた恩もあるしな」
「俺たちが本星で『軍人だから』という理由でどんな目にあってるか、あの引きこもりどもに叶わないまでも思い知らせてやろうぜ。どうせ戦力激減の同盟軍の出征もしなかった俺たち第11艦隊に、一発逆転で名誉回復の機会は今しかないんだ。ルグランジェ提督も同じ考えだろうよ」
結果は惨憺たるものだったが、第11艦隊の拙劣な戦術を凌駕する闘志と戦意に、後にヤン・ウェンリーは「何故そこまで」と頭を抱えたという。

まあ誰しもそれぞれの事情があった、と一部例外(ジェシカ)を除いて思えるのが2巻の同盟の事情ですが。

>それにしても、ヤンも非ヤン派も、同盟の方々って、思いっきり民主主義を履き違えてる気が・・

ヤンは少なくとも2巻では訳の判らない事は言っていませんよ、「自分が大事に思う『何か』の為に生き残る算段を私はできるよ。救国軍事会議は『国の為に死ね』一択だよ?まあそれも人生かも知れないけど、今回私は『選択の多様性』の味方をするからね。自分の人生くらい自分で決められる世の中に住みたいと思わないかい?」と「自由」に伴う「自覚」を促してるだけで。
あとトリューニヒトが批難されるのは、実はユリアンが不心得だと思っています、「武力の混乱は軍人に解決してもらおう。政治家たる私はその後の混乱を収拾するのだ」という主張は間違っていません、例えどれだけ『トリューニヒトの都合』を優先させてもそれは「ルールの悪用」であって「ルール違反」ではないのですから。

まあ「同盟のその他の人たち」については「頭悪いんじゃないの?貴方がたヤンが帝国を打倒したら銀河がいきなり楽園になって綺麗な女神様から不老不死になれるリンゴがもらえると本気で考えてるでしょう」とは思っています。

Jeri Eメール URL 2009年09月16日(水)13時14分 編集・削除

>第11艦隊が無傷で残ると、ランテマリオ会戦でヤン
>が同盟艦隊敗北前に到着、という同盟においしい展
>開が

確かにw
そうなれば、同盟が滅亡することもなかったかもしれませんね。


>ヤンは少なくとも2巻では訳の判らない事は言って
>いませんよ

今、小説を貸していて手元にないんですが、ここの演説って、何巻でしたっけ?
「たかだか国家の存亡」って言っても、侵攻してくる相手は独裁国家なのですから、自分達の民主国家あってこその「個人の自由と権利」だと思うんですけど。

銀英で一番奇妙に思うのが、帝国軍も同盟軍も、艦隊に所属すると、そこの艦隊司令官の私兵みたくなってしまい、司令官が叛乱すればそれに従って末端の兵士まで自動的に叛乱し、クーデター派を支持すれば、自動的にその指揮下の将兵のほぼ全員がそれに従っているように見える点です。
各艦隊への配属って、自分の意思(ある程度の要望は出せるとして)じゃなくて、基本的に統帥本部内の人事を担当する部署が決めてるんですよね?
それとも、各艦隊司令官って、就任するとマニフェストらしきものを掲げて、兵士達はその中から自分の主義・信条に近い司令官を自分で選んで所属するみたいな民主的な方法で配置するんでしょうか?(笑
まあ、銀英の戦争は近代以前の騎馬戦なので、これを言ってはいけないのかもしれないですが。


>ユリアンが不心得
私も、ヨブさんの言ってることは間違ってないと思います。
銀英世界の価値観では、ラインハルトのように、国の最高指導者自らが最前線に出て戦争を行うのが「美」であり、トリューニヒトのように、戦争は軍人に任せて、政治家は後方で政治家の仕事をするという考えが「醜」であるとされているのがそもそも間違っているんですよね。
ヨブさんは、ルールを最大限に利用(悪用)しただけであって、確かに「ルール違反」はしていません。
むしろ、最前線に出て戦死するリスクを考えれば、国家元首として、ラインハルトの方が余程無責任であり、政治の最高責任者としてのルール違反というよりモラルが欠如しています。

S.K Eメール 2009年09月17日(木)08時31分 編集・削除

>今、小説を貸していて手元にないんですが、ここの演説って、何巻でしたっけ?
 
いや、
>>「司令官のヤン・ウェンリーです。皆、そのまま聞いて欲しい。間もなく、戦いが始まる。碌でもない戦いだが、それだけに勝たなくては意味がない。勝つための算段はしてあるから、無理をせずに、気楽にやって欲しい。掛かっているのはたかだか国家の存亡だ。個人の自由と権利に比べれば大した価値のあるものじゃない。それでは皆、そろそろ始めるとしようか」

そのままこの演説の事ですが、つまり徳間ノベルス2巻。

>「たかだか国家の存亡」って言っても、侵攻してくる相手は独裁国家なのですから、自分達の民主国家あってこその「個人の自由と権利」だと思うんですけど。

今回は「目的の為に手段を選ばなくなった軍国主義的教条主義民主主義者=救国軍事会議」なので、「国の為に死ね」のアンチテーゼとして「自分の為に生きる努力をしようよ」と言っているだけで。

>銀英で一番奇妙に思うのが、帝国軍も同盟軍も、艦隊に所属すると、そこの艦隊司令官の私兵みたくなってしまい、司令官が叛乱すればそれに従って末端の兵士まで自動的に叛乱し、クーデター派を支持すれば、自動的にその指揮下の将兵のほぼ全員がそれに従っているように見える点です。
各艦隊への配属って、自分の意思(ある程度の要望は出せるとして)じゃなくて、基本的に統帥本部内の人事を担当する部署が決めてるんですよね?
それとも、各艦隊司令官って、就任するとマニフェストらしきものを掲げて、兵士達はその中から自分の主義・信条に近い司令官を自分で選んで所属するみたいな民主的な方法で配置するんでしょうか?(笑

民衆の意向>文官>軍上層部>兵士
これは民主主義国家の軍隊の大前提、文民統制(シビリアンコントロール)の基本ですし、「軍隊とは常に上官に従うもの」でなくては近代集団戦はできません。
「『訳がわからない』なら出世してわかりやすい戦略をお前が立てろ。出来ないなら黙って突貫しろ、万人単位の兵士一人一人の出来不出来に関らず理解させてる程、士官は暇ではない」のです。
まあこれは同盟軍の話で、帝国軍は「まず皇帝ありき」な部分もあります、例えば9巻のクナップシュタイン大将、彼は僚友グリルパルツァーの唆しがなければ「私はロイエンタール元帥の部下である以前に皇帝の臣である。例え大恩ある元帥の為といえど皇帝に弓引く事はできない」と言えば拘禁は継続したでしょうがそれ以上の処罰はなかったでしょう。