【第93話 矜持にかけて】
ウルヴァシー事件の報告を受けた後、回想モードの突入するロイエンタール。
ここら辺の描写が、原作に忠実に台詞を挿入しつつ、OVA版の独自解釈ともいうべき画像テンコ盛り。
銀英のOVA版では、全編を通して原作の不自然な台詞や矛盾が微妙に修正されている箇所が所々存在する。
しかし、以前、動画サイトでメイキングビデオを見る機会があったのですが、主要スタッフは全員男性で、OVA化するに当たっても、原作で描ききれていない女性描写の不自然さまでフォローできなかったのを残念に思っていました。
銀英は、結局、原作小説もOVAも、良くも悪くも基本的に「男性視点のみ」で描かれている作品なんだと思って見ていました。
しかし・・・
この回のロイエンタールの内面を描いた描写は、「いったいどうしちゃったんだよ!?」と訊ねたくなるくらい、OVAスタッフの思いっきり「少女漫画的ロイエンタールの解釈」が漂います。(笑
彼のトラウマの元凶でもある「お前は生まれてくるべきでなかった」のロイパパの台詞で子供のオスカーくんに戻るロイさん。
そのオスカーくんの目前にいきなり眩しい光が射し込み、手の届かない光の中には、何故か笑い合うミッタ夫妻の姿が。
「それとも、俺には家庭を持って、平和で安楽に生きることができたのだろうか」
と述懐する大人ロイの前を、今度は、裸のエルフリーデがシーツを巻いて走り去るという訳の解らない映像が重なる。
そして、最後に「望みもしない自分に子供ができてしまったのだから、叛逆も自分が望まなくても起こるのかも」と、凄い強引な論法の台詞で締めくくる。
この演出から、Jeriが導き出した「ロイエンタールの回想シーン少女漫画的解釈」は、以下の通り。
ロイエンタールは、母親の自殺&父親からの言葉の暴力がトラウマとなり、心の一部が子供のまま成長し、AC(アダルトチルドレン)となってしまったが、彼の極度に誇り高い性格から、その他の部分が余りにも秀でて完璧な為、その精神的弱点を決して周囲に知られることなく32年間過ごして来た。
女性関係に於いては表面上、漁色を繰り返し、愛妻家であるミッタのことを「一人の女に縛られるなど気が知れない」と言っておきながら、その実は、誰よりもミッタ夫妻のような男女関係に憧れを抱いており、潔癖な理想主義の一面があった。
しかし、ACの強い自己否定から、自分にはそのような関係を築くことは、絶対に無理だと頭から決め付けてしまっていた。
つまり、彼の本当の気持ちは、一人の女と生涯愛し合うことを望んでいたのだが、それが不可能だと思い込んでしまった為、その反動で漁色という真逆の行動に走ってしまっていたのだ。
また、彼は、母親を憎んでいる反面、重度のマザコンでもあり、深層心理では母に愛されることを熱望していた。
彼の中の母親のイメージは、「自分に憎しみの目を向ける若く美しい、驕慢な貴族の女で、白く美しい手の持ち主(手フェチ?>笑)」で固定されている。
彼には、彼のことを真情から愛してくれた一個中隊程の数の女がいて、その殆どが容姿も人間も申し分なかったにも関わらず、誰とも長続きしなかった。
原因は、彼のAC故の「関係が壊れるのを恐れて自分から壊して(捨てて)しまう」という行動と、無意識に母親を求める心が作り出した彼が自ら欲する女性のストライクゾーンの狭さにあった。それまで関係した女達はほぼ例外なく向こうから身を投げ出してきたのを「据え膳」食わなかっただけという経緯での付き合いだった。
そんな彼の目の前に、突然、そのイメージにストライクな女、エルフリーデが飛び込んできた。
彼は、エルフリーデに対し、強い征服欲を掻き立てられるが、実はオスカーくん、漁色家と言われている割に、まともな恋愛経験なし。>笑
ついでに、自分の状態が世間で言うところの「一目惚れ」に近いことも、猛烈な勢いで湧き上がる感情が、恋愛感情であることもまるで自覚なし。
なんせ今までは、言い寄ってきた相手に応じるという付き合いしかしたことがなかったので、自分から相手にアプローチする方法がわからなかった。(爆
加えて、ACの「自分から関係を壊してしまう」という癖も災いして、結果、「力ずくで“もの”にする」という暴挙で出てしまう。
ロイエンタールにとって、「家庭を持って生きる」という状況を想定した時、思い浮かんだのは、裸で走り去って行くエルフだった。
ロイエンタールが、本人も自覚のないまま真に望んでいたのは、実はエルフと二人で、ミッタ夫妻のような関係を築き、家庭を創ることだったのだ!
しかし、彼は出会ったその日に、自分から関係修復不可能な行為で、その可能性を潰してしまう。
一方、仇をとりに来て、逆に強姦されてしまったエルフの方は、憎いはずの男の邸に、なぜかいついてしまい、ロイエンタールの「力強さとしなやかさの完璧な均衡」「典雅さと猛々しさの優れたな調和」を持つ「美術館の彫像郡の美を越える」美形ぶりに「持ち主の意思に反して」目が吸い寄せられてしまう・・・という作中随一のツンデレキャラぶりを発揮する。
かくて、二人は本当は両思いなのに、最後の最後まで気持ちがすれ違い、ヴァルハラで再会するまで互いの本当の思いに気づくことはなかった。
う~~む・・・
この甘々話、『ボニータ』か『花ゆめ』あたりで短期連載できそう。(笑
あ、あとロイの叛逆事件開始からずっと思っていて、この回のミッタの「ロイエンターーール!!」という心の叫びのシーンを見て更に疑問に思ったのが、通信手段が何時の間にか無くなっちゃってること。
ハイネセンとフェザーンって、超高速通信で会話可能だったんじゃ?
以前、レンネンとオベさんも映像が乱れてたとは言え、話してたし。
「あ、もしもし、ミッターマイヤー? 俺だけど。あのさー、ウルヴァシーで起こったこと、俺関係ないから」
「おお、ロイエンタールか。それを聞いて安心した。今、カイザーを探すのにワーレン艦隊を行かせたところだ。見つかったら知らせるから」
「頼むよ、こっちも何が何だかわからなくてさー、今、グリルパルツァーを調査に行かせたんだ」
「そうか、カイザーが戻ったら、そのことを報告してくれ。俺も一緒に行ってやるから。オーベルシュタインやラングなんぞ気にしなくて大丈夫だぞ」
「わかった。卿に任せる」
てな会話を、音声だけでもいいからしてたら、あんな大事件は起きなかったはず。
その前に、行幸に出立する前のラインハルトとロイエンタールが対話して、無用な誤解を解くことだって可能だったはず。
なぜ、あの時に限って通信手段がないことになってしまったんだろう?
ま、まさか、どっちかが着拒・・・(笑
【第94話 叛逆は英雄の特権】
ミッタが、ロイ討伐命令を受諾。
ラングの罪状が明らかに。
うーーーーん。元々理由なんて無茶苦茶な叛逆だったけど、これで益々叛逆する理由なんてなくなっちゃったよーーー!!!
ロイさん、本気でラインハルトを倒して、自分が皇帝になろうと望んでたわけでもなさそうだし。しかも、負けることを想定したような措置を随分やってるし。
そうなると、この叛逆は、500万人将兵を道ずれにした、ロイの壮大なスケールの自殺行動だったことになる。
最大の勘違いは、ロイが、オベさんが自分を粛清したがっていると思い込んでいたこと。ロイだけでなく、ローエングラム陣営の皆さん、オベさんがお嫌いみたいだし、ラインハルトも「好いたことは一度も無い」と言うほどの嫌われぶりが、何か不自然。
帝国軍の中で、最も共和主義的で、開明的な思想の持ち主は、間違いなくオベさんでしょう。それを誰一人理解できない組織って、本当に400億もの人間を治めていけるのか、疑問です。
その点では、ラングの「ロイエンタールを亡きものにした後、オベとミッタを粛清してしまえば、残る軍首脳は軍服を着た木偶人形。ヒルダは無力、マリンドルフ伯は、誠実なだけの無能者」という評価は、概ね正しい。
オベさんは、同性の同僚からは好かれないタイプみたいですが、義眼で目に表情がないことからの先入観や偏見も多分に入っているように思えるんですが。だとしたら、一種の障害者差別ですね。
帝国軍は男だけの職場で、女性と言えば、中身男のヒルダしかいないので確認しようがないですが、私は、オベさんは絶対に女性の同僚や部下には好かれるタイプだと思うんですが。有能だし、指示は的確だし、私情を挟まないし、公正だし。
自分の職務をきっちり遂行すれば、公平に評価もしてくれそうだし、彼は絶対に職場の女性に人気はともかく、支持される人だと思うよ。
ついでに言えば、結婚相手として考えた場合も悪くないと思う。(恋人としては×だけど)ロイエンタールなんかよりずっと平穏な生活おくれそうだし。
オベさんは、同盟に生まれていた方が、自分の理解者に恵まれたかも。
【第95話 双璧相撃つ!】
ついに艦隊同士で対峙し、最後の通信を行うミッタとロイ。
ロイさん、またまた迷台詞連発。
「俺は、今まで何の為に自分が生まれてきたのかわからなかった」
「俺は、カイザーと戦う為に生まれてきた」
暴言吐いていいですか?
「そんなくだらんことで、生まれてくるな!!」
こういうガキンチョな「戦う理由」が「かっこいい」という価値観の時代だったんですねぇ。
ロイさん達のいる宇宙歴の時代じゃなくて、銀英が執筆された80年代は。
でも、たった20数年後の今となっては、こんな理由で殺し合うのは、愚の骨頂、現代の日本では誰もかっこいいなんて思ってくれないアホになってしまった。
まだ、ロイがラインハルトと一対一で取っ組み合いでもやりたいというなら解るんですがね。
「カイザーと戦う」の実態は、互いに数百万人道ずれにして、宇宙空間で艦隊戦をする殺し合いなわけですから。
ロイエンタールが生まれてきた意義があるとすれば、戦後、執政者として、天性の才幹を発揮して、帝国の安定と発展に勤め、400億国民を幸福にすることに他ならないのではないか。それは、カイザーと戦うなどどいう無為なことに比べようもない価値がある。
また、彼を長年のトラウマから救ってくれたであろう、彼の息子と、その子を産んでくれた女性に感謝し、彼等を守り幸せにすることこそが、人間として、男として、かっこいい姿ではないのか。
どれほど才能とセンスがあろうが、命の尊さを理解できない為政者に統治されたい国民はいない。
【第96話 剣に生き・・・】
ついに第二次ランテマリオ会戦開始。
このあたりの描写、何度見ても艦隊戦というより騎馬戦だよなぁ・・・
銀英でこれを言ってしまうと、お話し自体が成り立たないので、スルーするしかないけど。
しかし、末端の兵隊達は、一応「君側の奸」を除くという大義名分を教えられていて、それに従ったことになっているけど、ロイエンタールの幕僚達がよくついてきたもんだ。
グリルパルツァーの裏切りはともかく、体張って止めようとする将官が何人かいてもよさそうなものだけど。
S.K Eメール 2009年08月31日(月)22時12分 編集・削除
過去に遡って再度お邪魔いたします。
>【第93話 矜持にかけて】
>ま、まさか、どっちかが着拒・・・(笑
勿論真っ先にロイエンタールが電源落としたでしょう(笑)。
真面目な話、ロイエンタールとしては「『生まれた』というだけで両親から否定されて『どうせ生まれてきたのなら』と開き直って今日まで過ごし『やってもいない事で二度も疑われてたまるか』と性根を据えようという今この時に、無二の親友に『誤解だ、考え直せ』などと言われてみろ、決心がぐらつくだろうが、いやマジで」という心境だったと思っております。
>【第94話 叛逆は英雄の特権】
>ラング
いや彼明らかに(後の)七元帥ナメてます。
多分ラングの夢想が叶ったとしても、ケスラーやアイゼナッハ、メックリンガーには充分な査察能力、ミュラーとワーレンには皇妃たちの補佐・翼賛能力がありますし、何を言うにも多分ビッテンフェルトの野生の勘で撲殺されたんじゃないでしょうか。
>オーベルシュタイン
あの人は嫌われてないと多分誰より本人が困ると思いますよ。
何故ならゴールデンバウム王朝のアンチテーゼたるローエングラム王朝とは、「無私にして公正たる君主の、人間であるが故に時として犯すやむを得ない誤謬」を「それをやって一文の得にもならないが権限はある、取り入る隙の欠片もない無私の側近」が正すという物で、軍務尚書閣下はその「正しい事を言って公以外の何者にも得をさせない側近」であろうと努めていたと思いますので。
だから、「聞かれたから何だ」な相手のフェルナーに独り言の様に『双璧の争覇戦』におけるミッターマイヤーの為人をこっそり賞賛したり、好かれて一文の得にもならない老犬が「私の犬に見えるか」だったら甲斐甲斐しく飼育してたりして押し殺している『私』を発散しているんでしょう。
>【第95話 双璧相撃つ!】
>「俺は、カイザーと戦う為に生まれてきた」
いや、あれ明らかに言い訳ですから。
「理不尽に否定されて生まれてきて、今また理不尽に疑われるのは嫌だ」と部下のいる前で正直に言ったら士気が下がるじゃないですか、ただでさえ「無私の氷の男」
オーベルシュタインが「私利の為に皇帝の権威を恣にしている」なんて爆笑されて当たり前の旗印で決起しているのに。
【第96話 剣に生き・・・】
>しかし、末端の兵隊達は、一応「君側の奸」を除くという大義名分を教えられていて、それに従ったことになっているけど、ロイエンタールの幕僚達がよくついてきたもんだ。
>グリルパルツァーの裏切りはともかく、体張って止めようとする将官が何人かいてもよさそうなものだけど。
まあ間違いなくロイエンタールはいい上官だったでしょうから「誰しもが好きではないオーベルシュタインを粛清する」くらいなら「つきあってやってもいいやという『義理』」は抱いてもらえたでしょうし、ベルゲングリューンはちゃんとまずロイエンタールに「冷静に対処しましょう」と言っていたではないですか、「後は皇帝さえ歩み寄ってくれれば」という所まで。